2017年のまとめとして好評を得た放談記事に引き続き、2018年も電ファミに連載中の開発者の皆さん+編集長TAITAIという、ゲームに一家言ある(めんどくさい)オトナたちによる大放談を開催。
2019年の1月も終わりとなってようやくまとまりました……。なにせ話題はとっ散らかるわ、盛り上がりっぱなしだわで、その収録時間は6時間超。収録は2018年の12月22日に行っています。
その12月の上旬にロサンゼルスで催されたThe Game Awards 2018(ゲームアワード)にノミネートされた、『モンスターハンター:ワールド』、『ゴッド・オブ・ウォー』、『Marvel’s Spider-Man』、『レッド・デッド・リデンプション2』のようなAAAタイトルに始まり、各人が気になったタイトルに至るまで作品を挙げて討議。
各論が軸ではありますが、そこから展開される概論やエピソード、そして漏れ出ずる裏話はさすが開発者の皆さん。「2018年はゲームをあまり手広くプレイできなかった」という方でも、どんな年だったのかがガガッと解る話となっています。……ですがそこは電ファミ、超長文。お暇なときに少しずつ読み進めることをオススメします。
また手っ取り早く読みたい方のために、話題別のインデックスとなるリンクを以下に用意しました。ぜひお役立てください。
<タイトル別>
・オクトパストラベラー
・ゴッド・オブ・ウォー
・JUDGE EYES:死神の遺言
・Detroit: Become Human
・二ノ国II レヴァナントキングダム
・Nintendo Labo
・Marvel’s Spider-Man(スパイダーマン)
・マインクラフト、ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
・モンスターハンター:ワールド
・レッド・デッド・リデンプション 2
<ジャンル別>
・eスポーツ
・映画(レディ・プレイヤー1、カメラを止めるな!)
・スマホゲーム
・バーチャルYouTuber
・バトルロイヤル系(フォートナイト、PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS、荒野行動)
・VRゲーム(Déraciné、ASTRO BOT:RESCUE MISSION)
・MOBA
・各人の今年のベストゲーム
参加者/岩崎啓眞・島国大和・hamatsu・TAITAI
文/小山太輔、奥村キスコ
放談スタート
──今年も電ファミで連載されているゲーム開発者の皆さまにお集まりいただきました。その皆さまに2018年の1年間を俯瞰したうえで、ゲーム業界、あるいは周辺界隈で気になったことを、開発者ならではの視点でご放談いただければと思います。
ただ、2017年の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、『BotW』。2017年3月3日発売)ほど話題が集中しない気もしますので、読者の皆さんが興味のありそうなことでしたら、たとえば『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年11月9日日本公開)についてなど、ゲームにこだわらなくてもけっこうです。
お時間の許す限りよろしくお願いします。
一同:
はーい。
──お手元のリストが2018年に発売された、ある程度売れたり、話題性のあったりしたタイトルの一覧です。座談会の前半は各ゲーム語り。後半はそこから派生して大放談に……
hamatsu氏:
『モンスターハンター:ワールド』(以下、『モンハンワールド』)は1月(コンシューマは26日)発売なんですね。
既存のルールを捨てた『モンハンワールド』
岩崎啓眞(以下、岩崎)氏:
『モンハンワールド』は、思い切っていままでの『モンハン』のルールを捨てたことに驚いたんだよね。
──具体的にはどんな部分でしょう?
岩崎氏:
これまでって、オンラインゲームでキャラクターの行動を同期しようとすると、通信速度の問題で同期がラグっていたわけです。
それを解消するためには、「特定のアクションをしたキャラクターが一定時間ほかの行動をできないようにする」のがいちばん現実的な方法だったんですよ。
たとえば薬を飲んで1秒間硬直させているあいだに通信できればなんとかなった。格闘ゲームについては昔からじつはこうしてラグを解消していたんだけど、『モンハン』は始まりがナローバンドの時代だったから、そうしたゲームの仕様を変えるに変えられず、ずっと残していたんだよね。
ナローバンドの通信って、いまに比べると0.05%程度の速度しかなく、通信できる量が極端に少なかったからさ。
──通信や読み込みの時間を演出に転換していたというのは、『バイオハザード』の扉デモみたいなものですね?
岩崎氏:
ああもうそんな感じ。それが『モンハンワールド』になって、いまの通信事情に合わせた作りに変わったということに驚いた。北米で売りたくて何度も挑んでうまくいかなかったけど、そのときの問題点をすべて解消したから売れたんだろうなと思いますね。
島国大和(以下、島国)氏:
アメリカ人は硬直が嫌いですよねえ。FPSで「ダメージモーションがあって動けない」というと、みんなブチギレますからね。みんな心の底からキライです(笑)。
岩崎氏:
不思議だよね。なんであんなに硬直が嫌いなんだろう。
島国氏:
僕もわりと同じ血が流れているので大嫌いですね。敵が硬直するのは大好きですけど、俺の入力を受け付けないタイミングがあるのは許しません。
一同:
(笑)。
hamatsu氏:
アイテムを歩きながらサクサク取れるのもいいですよね。
『BotW』でも、フィールドモーションを簡略化していたように、合成も勝手にしてくれるし、「これでいいじゃん」と思いました。剥ぎ取りのような重要なところだけはさすがにプレイヤーの仕事ですが。
──究極のリアリティが、すなわち究極のゲームというわけではないと。
岩崎氏:
シミュレーターとも違うからね。
でも『モンハン』は、とくに初代など、ハンティングアクションというよりもハンターシミュレーターのようなところがあった。街に機能がほとんどなく、フィールドでモノを集めて薬を作り、あれもこれもやるという自給自足から始まった。だからいま初代『モンスターハンター』(2004年3月11日発売)で遊ぶと、ちょっとした敵を倒すのに30分くらいかかることにびっくりする(笑)。やっぱりみんなドラゴンを倒すのが好きだから、いまの形になっていったんでしょう。
島国氏:
韓国かどこかで類似ゲームが出たときに、デフォルトでいきなりドラゴンの目前にワープする機能が付いているものがあり、それはそれでみんな「これでもよかったんだー」と思ったという(笑)。
そういう素材を集めていろいろなものを作り、戦いに行って負けてまた泣きながら素材を集める、というような手間が『モンハンワールド』ではだいぶ軽減されたので、私としてはやっとホッとしたというのが正直なところです。
大問題作『RDR2』
岩崎氏:
そしてその真逆を行ったのが『レッド・デッド・リデンプション 2』(以下、『RDR2』。2018年10月26日発売)だね。
hamatsu氏:
! 今日は本当にその話をするためにやってきました(笑)。
一同:
(笑)。
──お願いします。
hamatsu氏:
ええと、2015〜6年ぐらいでオープンワールドのゲームはピークに達しつつあって、2017年の『BotW』も大きく言うとその一種だと思うんですが、そのネクストとしてさまざまなゲームが現れたわけです。……ところが『RDR2』は全然そっちとは違う方向に突き抜けちゃいましたよね。
──どういう方向でしょうか?
hamatsu氏:
『BotW』や『モンハンワールド』で思ったんですが、もはや「省略できるモーションは省略しちゃっていい」というのが、だんだん共通認識になってきていたんですよね。『Marvel’ Spider-Man』(以下、『スパイダーマン』。2018年9月7日発売)にもそういうところを感じました。
ゲームが3Dになってもう長いこと経ち、モーションもいろいろと再生できるようになったけど、「じつは要点だけでいいよ」となっていた。そんな風潮の中で、僕らが現実空間においてコンビニなどで買い物をするとき、棚にひとつひとつ並んでいるものを見て、そこから何かを選んで買うようなリアルさを『RDR2』は打ち出しているんです。
TAITAI:
ゲームの中でも、そのまま、並んでいるものをひとつひとつ見て選んで買いますよね。
hamatsu氏:
ええ、本当にやっている。ただ、ゲームの中でそれをやりたいたいかと言うと……。さらにもう少し一覧性のあるカタログもゲームに登場しますが、それも1ページ1ページめくってという。「ホントに!? こんなことまでやる?」という細かさ。
島国氏:
ゲームを誰に向けるかでさじ加減はまったく変わりますが、『BotW』でもじつはアイテムを店に並べるところはリアルを踏襲していますよね。そのぶんアイテム自体はシンボライズされている。ですが『RDR2』は、あのリアルスケールで「ここまでやるんだ?」という驚きに充ちていました。
岩崎氏:
極端なまでにディテールにこだわったゲームだね。
hamatsu氏:
その「要点だけでいいよ」という流れの中、「こ、これは……!? すごいのきちゃったな」となったわけです(笑)。
島国氏:
みんなが腑に落ちた後なのに(笑)。たぶん「オープンワールドの完成形はこれでしょう」という提案なんだと思います。振り切っている。『BotW』は、さじ加減を探っていたじゃないですか。
岩崎氏:
ゲームって最初に出てくるときは、必ずコンピューターのパワーが足りないか、それに対する知見が足りないか、そのほかもろもろの理由で必ず抽象化されたものが出てくるんですよ。抽象化されたルールでスタートして、だんだん複雑化していく。
フライトシュミレーターなんてまさにその典型で、どんどんリアリティを追求して複雑化していった。そうすると高度によって変わるエンジンの特性や空気力学を本当に計算していて、ある一定以上の高度になるとちゃんと操縦できなくなるとか、そういうところまでリアリティを追求したものになる。
でもそれはもう間口が狭すぎて、遊ぶ人が極端に少なくなるわけです。そういうことを『RDR2』はやったという感じですね。
島国氏:
世の中にあるものをどこまで細かく分解したらゲームとして成立するか、その細かさを僕はよく“ゲームの解像度”という言いかたをするんですが、『RDR2』は、いくぶんやりすぎているんですよね。先ほどの空気抵抗も、仕留めた獲物の皮を剥いでる時間なども本気で考えれば、それはリアルだけど……って。
hamatsu氏:
『シェンムー』に近いのかも。
島国氏:
ああ、同じ血の匂いを感じますね。
TAITAI:
基本的にモダンなゲームって、ある種の“面白さ”だけが抽出されて洗練されていますよね。そういうゲームがある中で、『RDR2』はレガシーなものへの近さを感じる部分がありました。
島国氏:
いま仰っていた抽出の文法を追求していくと、『ペルソナ5』のような、「街は要るところだけ作ります。あとは作りません」というものが正解となっていく。
ですが、逆にどこまでも石器を磨き続けているような戦いかたをするゲームがどこかにひとつはないと、ゲームというモノの幅が狭くなるので基本的には嬉しいことなんです。まあ、それが好きだった『RDR』で起きたので衝撃を受けたわけで。
ゲームの解像度を上げるんだったら、『アサシン クリード』や『アンチャーテッド』など、ディティールを上げながらうまい具合に抜き差しのあるゲームは存在しますから。
hamatsu氏:
そうですね。『RDR2』はそこをかなり意図的にやっているとは思うんですが、舞台がいきなり冬の雪山で、「とりあえず馬に乗れるようになったんで、ちょっと遠くまで行ってやれ」って走らせると「馬が凍死しました」と……。
一同:
(爆笑)。
岩崎氏:
その瞬間に「マジか!?」ってなるよね(笑)。雪に埋もれた岩にブチ当たったと思ったら、馬のHPが減ってやっぱり「マジか!?」って。僕もそんななりながらプレイしていたけど、ボコボコになって一度やめていた。すると、しばらくしたら僕の周りの海外のプロがプレイしてみんな同じように怒り始めて。
島国氏:
「開発の苦労をお前たちにも味わわせてやるぞ」というゲームなんじゃないかな(笑)。
岩崎氏:
ヘンな表現になるけど、あれを僕はオープンワールドの『太平洋の嵐』【※】と言っているんです。
──ど、どういうことですか?
島国氏:
喩えにしても『太平洋の嵐』のプレイヤーがまず少ないですよね(笑)。
岩崎氏:
先ほどのフライトシミュレーター同様、どのゲームでもシリーズを重ねていると、どんどんマニアックで精密なゲームになっていき、最後にクソ精密なゲームが出てくるんですよ。これはボードゲームですら起こる。
『RDR2』はまさにそれで、「スーパー精密なところまで描いてみた! どうですか! すごいでしょ!」と言われているわけだけど、僕はべつに馬のコントロールで苦労したくないんだよね……。
島国氏:
ひとつくらいああいう方向に進むシリーズがあるかなと思ったらそれが『RDR』でした。普通はみんな途中で「これはムダになるかも」と思って止めますからね。
岩崎氏:
そう。それを極限まで突っ張ったのはすごいと思う。
島国氏:
開発期間が長かったけど、そのあいだにユーザーの意見とか聞いていたのかな……。ただ、『RDR2』のように突き詰めたゲームが現れたことには意味があります。……少なくとも、「作れと言われたのが俺じゃなくてよかったな」と思います(笑)。
hamatsu氏:
個人的にはかなり好きなんですけどね。ですが、異論反論を言う人の気持ちも「そりゃそうだ」と非常に解ります。
岩崎氏:
好きな人にはハマるタイトルだね。
hamatsu氏:
好きな人にはですね。前作の『レッド・デッド・リデンプション』(2010年5月18日発売)は相当好きで続編を楽しみにしていました。だからやっぱり拘るポイントも私みたいな人間にはビシビシ刺さってくるんです。「前作をチョロっとやった」というくらいだと「あの前作から『RDR2』はなぜこうなったのか?」と思うんですが、本当に好きだと「やっぱりこうきたか!」と思うわけですね。
ただ、Rockstar Gamesが今後この方向に突き進むとしたら……とは思いますね。
岩崎氏:
Rockstar Gamesにはこの密度で、つぎはオープンワールドではなく、戦艦一隻の中で戦闘までの暮らしを日々送るとか、海戦になったら延々40分撃ち合い続けるなどの体験をさせてほしい!
島国氏:
だったら豪華客船の中に犯人がひとりいて、それを探し続けるのもいいですね。ただ客船が恐ろしく緻密で途方に暮れる(笑)。ともかくお金のあるところには、ぜひ危ない橋をいっぱい渡って、ゲームの幅を拡げていただきたいです。
『スパイダーマン』最高!
岩崎氏:
抜き差しの上手さの話で言うと、先ほども名前の挙がったオープンワールドの『スパイダーマン』があるよね。酷いウソなんだけど、アベンジャーズタワーのいちばん上から飛び降りても、「ズドーン」と音がするだけで、HPが1ミリも減らない。そういうのでいいわけだよね。
そういう意味では『スパイダーマン』と『RDR2』もちょうど真逆のゲームだ。
島国氏:
今年は僕に『スパイダーマン』を語らせると、ひとりで3時間くらいしゃべります。今年のベストゲームは『スパイダーマン』です。『RDR2』と同じようなものを作ろうとして逆方向に分かれた感じですね。
hamatsu氏:
僕も『スパイダーマン』はひととおりトロフィーを埋めるくらいはやりました。
『スパイダーマン』は面白いところや、おいしいところだけをやらせてくれますよね。すぐスパイダーウェブをシャーッ、シャーッと放てるし。
島国氏:
ホーミングもすごく利くし、移動に関してもショートカットが利き倒しているなど、すべてのことが快適。アクションゲームの中から「間合い」や「距離」の要素をすべて引っこ抜いたというシロモノ。
ホーミングがあるから狙うこともない。それでも「ゲーム性は削りません」という上手い作り。トレンドとしてはこっちへ当然行くわけですよ。
hamatsu氏:
エイミングは部分的にありますが、ものすごく省かれていますね。
島国氏:
ガジェットだけに残っていますね。おかげでガジェットが大嫌いになりましたが(笑)。
岩崎氏:
いやでも、これはすごいゲームだった。まさかこんなに面白いとは思わなかった。バトルをここまで練らなくてもゲームになっただろうに。
島国氏:
僕は一回クリアするまでガジェットをほぼ使わないプレイスタイルでした。ところが岩崎さんが、「ガジェットを使うと別ゲーになる」ってずっと言っていたので、「何がそんなに違うんだ?」と人のプレイを見たら、まったく別のゲームだったので大爆笑しました。
岩崎氏:
でしょ?(笑)
島国氏:
さらに僕のプレイを見た人たちが大爆笑していました(笑)。
でもいまのゲームって、地形のアンジュレーションやテクスチャーが増えているので、すでに情報量の多いなか、遊ぶ側としてはいちいちガジェットまで気にしたくないんですよ。ゲームがだいたいボタンのタイミングと何を選択するかだけで、周りの状況を気にしなくていいものでしたし。
岩崎氏:
でもニューヨークで戦うのなら、舞台はゴチャゴチャしているわけで、それもガジェットを重要視する理由にあったんだと思うよ。
hamatsu氏:
ひととおりやって思ったのが、このゲーム、ベースは『バットマン』のアーカムシリーズですよね。『アーカム・アサイラム』と『アーカム・シティ』という傑作が立て続けに登場し、キャラクターゲームに革命を起こした画期的なシリーズですが、でも残念ながらというか幸いなことにというか『スパイダーマン』のほうがあらゆる面においてあのシステムと相性がよかったわけですね。
島国氏:
テンポのいい『バットマン』ですね。『バットマン』2本が『スパイダーマン』の踏み台になった感がある。
hamatsu氏:
『バットマン』のときから思っていましたが、ヒーローとゲームってやっぱり相性がいい。現代劇で銃以外を使ったアクションゲームを作ろうとしたとき、バットマンやスパイダーマンって、すごくいい回答だと思ったんです。
というのも、銃が普通にあるアメリカでも、ヒーローを主人公に据えた時点で、「バットマンが人を殺すわけないでしょ」と人殺しが不可になる。そういうルールを提示してもプレイヤーを納得させられる。たぶんアメリカを舞台としたゲームとしてはいちばん銃を使わないことへの説得力のある回答なんですよね。まあ『アーカム・シティ』ではかなり銃っぽいものは使っていましたけど(笑)。
岩崎氏:
そう、それ。知り合いのKingのゲームデザイナーが言っていたのが、『バットマン』と『スパイダーマン』の違い。『バットマン』はキャラクターが持っている、「人を殺さないし、銃も使わない」というバトルの制約があったために、カウンター命のゲームになったと。『スパイダーマン』は、制約も含めてすべてアクションゲームの文法に乗せたのがすごいんだと。僕も確かにそう思いました。
──銃社会で銃が使えないことへの説得力。考えてもみませんでした。
島国氏:
それから『スパイダーマン』はスパイダーウェブがあることで、そこから距離の読み合いをなくし、ホーミングの難度というものをなくし、間合いや移動から受けるストレスをすべてなくしている。
アクションゲームって、だいたいが「敵にどう近づくか」に集約される部分がありますが、それらをなくして、それでもまだゲーム性を成立させている。結局は打ち上げるか上げないか、後ろに回るか回らないかの二択三択のゲームなんですけども、それでいてよくできているのはすごく上手い。
──そのストレスレスとゲーム性のバランスが非常にいいわけですね。
島国氏:
まあ後半はえらいことになっていましたけどね。「とりあえず敵を出しておけば、お前らたいへんだろう」みたいな(笑)。それにしても、hamatsuさんの言うとおり、キャラクターやゲーム性が向いていたんでしょう。よくできていました。
hamatsu氏:
任天堂が2017年のCEDECで言っていた、「山は三角形で人工物は四角形」という話があるんですが、これは三角形の地形は移動に伴ってだんだん全体像が見えてくるけど、四角形は急に見えるものということでした。
これに当て嵌めると、『スパイダーマン』は四角形で構成されているんですよ。都市型の人工物のゲームなんですよね。都市型と自然型のオープンワールドというものがあるとすると、『バットマン』とや『スパイダーマン』は都市型のゲーム。
──なるほど。『ジ・エルダー・スクロールズ』などが自然型のオープンワールドであるのに対して、ってことですね。
島国氏:
しかも「マンハッタン島をオープンワールドとして作ったけど、移動に制約はないですよ」というのがすごい。
岩崎氏:
レベルが足りないから移動できない、とかある中でね。
僕は『スパイダーマン』のおかげでニューヨークの地理に詳しくなりましたよ? マンハッタンをいい気持ちになって飛び回れる。
hamatsu氏:
本当にそうですね。なんとなく解るようになりますね。
島国氏:
海岸沿いの道路が二重化しているのを見たりしながら、「まったく知らないところを見られた」という、観光的な楽しさを受けましたね。
岩崎氏:
観光として楽しいよね、あのゲーム。
これも知り合いが言っていましたが、「あれはマンハッタン島としては非常に正確だけど、ひとつだけ嘘がある」と。ビルはあんなに高くないそうです。その理由は簡単で、そうじゃないとスイングで気持ちよく動けないからで。
一同:
へー。
島国氏:
移動で言えば、僕は『アサシンクリード』シリーズが道に迷って苦手なんですよ。知らない土地の地形が本当に覚えられなくて。ところが『スパイダーマン』はマークが付いているところに向かってずっと走っていけばいいので、僕の中で『ジ・エルダー・スクロールズV・スカイリム』(2011年11月11日発売)と同じポジションにいるんです。
私は西部劇が大好きなので初代の『RDR』は観光として楽しかったんですが、『RDR2』は最初からいきなり一面が白一色の雪山。これがなかなか辛くて……。
hamatsu氏:
初代『RDR』は好きな人がいっぱいいるし、観光ゲームとしてもいいゲームだったと思うんですけど、『RDR2』はいきなりそんな呑気な気持ちに試練を与えてきますよね。
話を戻すと、『バットマン』や『スパイダーマン』は、遊ぶと「映画で描かれた話の裏側でこうなっていた」というのが判るから、じつは映画好きな人ほどゲームも好きになれるといういい関係なんですよね。
さらにたとえば、スパイダーマンは映画では神出鬼没なんですが、ゲームをやっているとその理由がよく解るんですよ。スパイダーウェブで、すぐに相手の背後を取れてしまうので。
──そんなところまで。
hamatsu氏:
『バットマン』シリーズや『スパイダーマン』は、海外のゲーム中では特殊なものだと思いますが、大雑把に区分けすればキャラクターを中心に進化してきた日本のゲームのようでもあり、キャラクターゲームのひとつの究極の形だと思います。
『JUDGE EYES』の構造的勝利
岩崎氏:
キャラクターで言うなら、僕は「キムタクが如く」(『JUDGE EYES:死神の遺言』、2018年12月13日発売)を推しますね。
島国氏:
あれは体験版が面白すぎてそこで満足しちゃった。キャストの力もスゴいですよね。キムタクが面白いことをしているのを見ているだけで2時間はもつ。チョマテヨ成分が足りないと思っていたんですが、予約特典で無限にそれが聴けるおまけを付けたじゃないですか。僕はあれで満足でした。
岩崎氏:
いやいや『JUDGE EYES』は実際に面白いんですよ。
それと、このあとの展開をどうするかはともかく、遊んでいると「ここまでの『龍が如く』で苦しんでいたんだろうなあ」としみじみ思うわけです。というのも、僕は『龍が如く』をずっと遊んでいたんですが、作り手が主人公の桐生の扱いで、毎回、開発がのたうっていたのが解るんですよね。
──どういうことですか?
岩崎氏:
ゲームや物語を新たに始めるために、毎回「極道としての桐生のレベルをなんとかして下げてリセットしなきゃならない」という問題です。今回のは、そういう意味ではシリーズ化しやすい構造になっている。探偵なのでサブミッションも入れやすい。続編でキムタクが登場しないんだったら「同じ事務所に新しい誰かがやってきました」という話にもできるし、キムタクが登場するんだったら、そこに有名な女優を配置するなどして、そこから謎が膨らめばいい。
──そこまで考え抜かれていたと。
岩崎氏:
「シリーズ化したときにどうするか」というのは考えると思う。少なくとも僕は考える。
TAITAI:
『龍が如く』の主人公って、物語上で成し遂げて引っ込んでしまった人だから、外から相当大きな要因が降りかからないと出てきませんよね。一方、この『JUDGE EYES』の主人公だと、何かが起きたときもフラッと動かしやすいんでしょうね。
『GoW』と『ダークソウル』の近さと違い
hamatsu氏:
皆さん、『ゴッド・オブ・ウォー』(2018年4月20日発売)はプレイされました? 僕はプレイ途中ですが、結構やっています。
──The Game Awards【※】(以下、TGA)を獲りましたね。
※The Game Awards
前身を含めると2003年から続く、世界最大規模感を持つゲームの表彰イベントのひとつ。現行の形は2014年から。ゲーム業界人が投票する「D.I.C.E. Awards」、開発者たちによって選出される「Game Developers Choice Awards」と並んで権威があるとされる。
島国氏:
最新作はローディングやテクスチャなど、作り手としてはいろいろ感じるところがあるんですが、遊んでいると、好きだった1、2作目あたりのノリとは違和感があってなかなか進まず。オープンワールドが好きな人はいけるんじゃないかと思っているんですが。
岩崎氏:
新生『ゴッド・オブ・ウォー』と「『RDR2』がなんでああなったのか」は、リアリティに対する問題でちょっと繋がってると思っていて。
「『ゴッド・オブ・ウォー』をプレイしたときに、ゲームのリアリティとパズルのリアリティがズレている」という話を友だちとしたんですね。モデルやテクスチャにはリアリティがあるんだけど、同時に、斧を投げて凍らせてギアを回して解くような記号化されたパズルがいっぱいあるわけです。
そのせいで「トータルで見るとリアリティが低下している」と。パズルにもガイドの線があって判りやすいのはいいんだけど、そこにもリアリティのズレの問題が残る。
島国氏:
そうですね。『BotW』でも、「このパズルとこの世界の謎と、どういう関係があるんだろう?」というものはどうしてもありますからね。
『バイオハザード』(1996年3月22日発売)が初めて出たときも、館を移動するのにアイテムを探して扉に嵌めるようなギミックを解かなければならず、「アンブレラ社員が出勤で毎回これをやってたら、そりゃあ病むよね」なんて冗談を言っていました(笑)。
それらを「ゲームだから」ということで割り切るかどうかという選択がある中で、「割り切らないで頑張ろう」としているものもいろいろありますが。
岩崎氏:
頑張ろうとすると、問題点だらけになるよね。
島国氏:
『ゴッド・オブ・ウォー』も旧作の『1』や『2』は、頑張って解像度が上がれば上がるほど、パズルがパズルになり得なくなっていった。「なんでこのゲームの中で音ゲーをやってんだろう、俺は」って(笑)。
岩崎氏:
新作も、QTEの入れかたがわりと唐突なんだよね。
hamatsu氏:
いきなり来ますよね。いままではQTEの中でも結構上手くやっていたほうだと思うんですけど。
岩崎氏:
一方、『スパイダーマン』ってQTEがよくできてるんですよね。
島国氏:
それから新生『ゴッド・オブ・ウォー』は、何よりエイミングするゲームになったじゃないですか。いままでエイミングしないゲームだと思って遊んでいたのに、急に持ってこられたからファンとして困ったんですよ。「エイミングするんだったら別のゲームをするよ」という気持ちがあるので。
進化していくうえでの選択肢としてはありなんですが、まったく違うゲームになってしまったので、僕は違和感を覚えたわけです。
岩崎氏:
確かに斧でエイミングするTPSですね、これは。
hamatsu氏:
『バイオハザード4』などの系統の、ビハインドビュー的なゲームになりましたね。
岩崎氏:
『ギアーズ オブ クレイトス』だ(笑)。
TAITAI:
僕はだいぶ『ダークソウル』かなと思います。
hamatsu氏:
『ダークソウル』って、ここ数年でいちばん真似されているゲームですよね。
島国氏:
インパクトがありましたからね。
hamatsu氏:
『ダークソウル リマスタード』(2018年5月24日、Switch版は10月18日発売)が出たので、それで遊んでいたんですが、気づいたことがいろいろとあって。
まずは連射の利かないRボタンを攻撃のメインボタンにしたことですね。普通ならもっと連射しやすいボタンにするところですが、『ダークソウル』ってそこまでハイペースに連打しまくって殴り倒すゲームじゃないので「それでよし」としたんだなと。
『アサシン クリード オリジンズ』(2017年10月27日発売)もRボタンが攻撃になっていて、「『デモンズソウル』や『ダークソウル』以降、いつのまにかRボタンってアクションゲームの攻撃のメインボタンになっているな」と思ったのがひとつ。
あと、敵の攻撃一発のダメージが「ここまでしていいんだ」と思うくらい、ものすごく重いこと。おそらく『ダークソウル』以降でリミットが外れましたよね。
だから雑魚も1体だったら楽勝なのに、3体ぐらいで来られると結構危なくて。
TAITAI:
『ダークソウル』は、なぜそういうふうに以降のフォーマットになっていったんでしょうね。
hamatsu氏:
『ダークソウル』って、コンボが解体されているんですよね。1発で倒せる敵、2発で倒せる敵、3発で倒せる敵といて、1発で倒せる敵との交戦は簡単ですが、2発3発かかる敵は連続で攻撃をしていると攻撃のあいだに反撃を食らう。だから「ボタンを押す」という行為のひとつひとつに判断が要求される。なんというか、本当に基礎の算数からゲームを組み立て直している感じがあって、そこらへんが「よくできてるなあ」と思うんですよ。
『デモンズソウル』や『ダークソウル』は2010年代に(※前者は2009年発売)「よくぞこんな骨太かつ素朴と言っていいであろうゲームデザインを、確信を持って提示できたな」と思いましたね。
島国氏:
そういう攻撃の感覚って『ドラクエ』の昔からあったものじゃないですか。ですが若い子はそういうのを全然知らないんですよ。すると最初から桁の多いゲームを作ってしまいやすいんです。
hamatsu氏:
1発で倒せる敵と2発で倒せる敵ってまったく意味が変わりますよね。『ファイアーエムブレム』や『ドラゴンクエスト』のようなウォーシミュレーションやRPGなどでより顕著に見られる敵の強さの差を、アクションで相当突き詰めて提示しているのが『ダークソウル』なんだと思います。
それとキャラクターの成長も「スキルを上げる」とかではなく、「力を+1する」というのもいい。すると3発かかって倒していた敵が、ちょっと強い武器を手に入れたりレベルアップの成果だったりで、2発で倒せるようになる。
「3発が2発に」とか「2発が1発に」など、1発の差を如実に体感できるときがいちばん成長を実感するんですよね。
TAITAI:
そういう肌触りの緻密さが、ゲームのいろいろな部分を再考させ、『ダークソウル』を以降のフォーマットに押し上げたんですかね。
島国氏:
よっぽど『ダークソウル』は開発者に刺さったんでしょうね。普通は、はい2作目、はい3作目ぐらいのノリで進化していき、気持ちいい操作感を求めて『スパイダーマン』のような形になるんですよ。
なぜ皆『ダークソウル』に近づいていくのかは、考え甲斐がありますね。
なぜ『ゴッド・オブ・ウォー』はTGAを獲ったのか
──TGAでゲーム・オブ・ザ・イヤーにノミネートされたタイトルのうち、オールドスクールなスクロールアクションのインディである『Celeste』以外は、ここまでのお話で自然と触れられていますね。
ここで質問なのですが、アワードを獲ったのはなぜ『ゴッド・オブ・ウォー』だったのでしょう? どうも皆さんのお話を聞いていると、『スパイダーマン』が妥当ではと。
岩崎氏:
まず2018年のアワード候補を眺めたときに、『RDR2』には獲ってほしくない(笑)。
島国氏:
でも『RDR2』は獲ったら獲ったで、わりと「そうか」って思いますよ?
岩崎氏:
いやでもなあ。獲ってほしくないって思った理由は、さっき言ったようなことで。
hamatsu氏:
過剰に偏執的な方向に行っちゃったから。
岩崎氏:
そう。『ゴッド・オブ・ウォー』が獲ったのは極論すると消去法だと思っています。僕としては『スパイダーマン』の出来がむちゃくちゃ良くて、獲ってほしかったんだけど。
島国氏:
2018年にあれを超えるゲームはないと思っています。
hamatsu氏:
移動もよくできているし、私も『スパイダーマン』でいいんじゃないかと思ったんですが、『ゴッド・オブ・ウォー』はゲームオリジナルIPである、というところが若干後押しになった部分があったのかなとも思います。ここで『スパイダーマン』に与えてしまうことの政治性というか。
岩崎氏:
その理由で『スパイダーマン』が消えるとすると、残るのが『モンハンワールド』と『アサシンクリード オデッセイ』(2018年10月5日発売)か。
hamatsu氏:
『アサシンクリード オデッセイ』は『オリジンズ』と大きく変わりませんよね。『モンハンワールド』はひとつの到達点だと思うので獲ってもいいと思います。結果、『モンハンワールド』か『スパイダーマン』か『ゴッド・オブ・ウォー』の3つなら、どれが獲ってもいいと思っていました。
島国氏:
僕は『スパイダーマン』か『モンハンワールド』だと思っていたので、「『ゴッド・オブ・ウォー』が獲るんだ!」と驚いた。なぜなら発売日に買ったけど、違和感が強くてやめたから。でも「最後までいくと面白いんですか?」と人に聞くと、皆「面白い」と言うので悩ましいんですよね。
TAITAI:
僕も途中でやめてしまった。
──なぜですか?
TAITAI:
なぜ……と聞かれると自分でも整理していませんね。ただ、忙しくても2017年の『BotW』や2018年も『Detroit』などはとことんやったわけだし。
岩崎氏:
僕は『ゴッド・オブ・ウォー』の根底に『The Last of Us』(HDリマスターが2014年発売)があるんじゃないかと思っているんですよ。というのも、まず「『ゴッド・オブ・ウォー』をリブートする」って聞いたときに、「ずっと主人公だったクレイトスが、いまさら何をすんの?」と思ったんだよね。
島国氏:
もともと初代で話に決着がついていたものを、『II』で同じ話をもう一度やって、『III』もそんな感じだった。だから当然もう一回同じことをするのだと思っていましたよ。
岩崎氏:
そう。あの枠から出られず、「この先どうすんの?」とおそらく作り手もなっていたから、バディものにした。そこにはたぶんですが『The Last of Us』の影響があるのではないかと。
TGAについて言えば、アメリカはああいう賞だと、悲劇性などディープなドラマがあるものを好むので、『ゴッド・オブ・ウォー』は獲るだろうなと。ストーリーは本当に面白いし、技術的なクオリティも圧巻だし。
hamatsu氏:
いいとこどり感はあるんですが、すべての部分でクオリティが高いですよね。『バイオハザード4』や『ギアーズ オブ ウォー』のビハインドビューだとか、『The Last of Us』のバディだとか、それこそ『ダークソウル』以降の新しいアクションの流れなど、そういういいゲームの流れをギュッとひとつにまとめたのが『ゴッド・オブ・ウォー』かなと思います。
──ベタ褒めじゃないですか。
岩崎氏:
いや、ただ『ゴッド・オブ・ウォー』は、さっきの解像度の話もそうだけど、いろいろ弱点も見えるゲームなんです。レベルが上がっていくとそれなりに楽しく遊べるんだけど、繰り返し感も強い。たとえば道を歩いていると敵にエンカウントしてバトルになり、バトルが終わるとパズルに突入というように、ゲームの体験としては単純にサイクル化されているところがあり、さらにエイミングバトルにしたため、バトルもパターン化する。
反面、ボスがめちゃくちゃすごいんだけど、それゆえ仕掛けを知らない最初は必ず死ぬ。死なないで攻略するのがものすごく難しい。
さらにすごい技術を見せるためか、QTEにフィニッシュ技が入っていて、それはプレイしていて気持ちいいんだけど、QTEでできることというのは数が少ないのでパターン化するんだよね。
あとはアニメと操作する場面の転換がわかりにくいかな。
TAITAI:
なるほど。そう言われると、戦闘が止めてしまった理由のような気がします。まずスケールの大きな仕掛けは見たいんだけど、そこに至るまで繰り返される戦闘が物足りなかった。『ダークソウル』との比較になってしまうけど、若干オートマチック感が強いんですよ。ボタンを押してコンボがつながってフィニッシュ技が出る楽しさは解るんだけど、どこか自分のリアルのスキルとは違うというか。
── 一体感に乏しい。
TAITAI:
そうそう。『ダークソウル』はゲーム中のアクションと自分のスキルが連動しているので「操作を頑張ろう」というモチベーションが湧くんだけど、『ゴッド・オブ・ウォー』では贅沢だけど、そこが維持できなかった。
島国氏:
スキルとアクションのあいだに装備やスキルツリーが挟まっているので、自分の操作が正しいのかどうか悩むところはありましたね。
hamatsu氏:
ですが、続けていると相棒の子どもが強くなったりと、だんだん自分のバトルスタイルが作れるようになります。そのくらいまでやると面白くなってきますよ。
TAITAI:
そうなんですね。
スキルツリーの話を聞いて思い出したのは、『ゼルダ』で、もともとフックショットが途中から使えるように設定されていたとき、宮本茂さんが「こんな楽しいことは最初からやらせてよ」みたいなことを言ったという話。
「楽しいことは最初から開放してほしい」ということです。スタッフが「後から成長するから楽しいんです」と言っても、「いやいや最初からやらせて」と。そういう部分を感じました。
島国氏:
エイミングバトルって、突き詰めるとユニットを画面センターに入れてクリックするだけなわけで、これがまだマウスなら自分と直結しているんですが、アナログスティックになった瞬間に直結じゃなくなるんですよ。
つまりゲームの上手い下手とは別物で、違うところにゲームがある。……と、そういうことをスタッフの若い子に言うと納得してくれないんですけど。
TAITAI:
それはオートフォーカスみたいなのも含めてということですか?
島国氏:
そうですね。
TAITAI:
いまはもうオートフォーカスがデフォルトじゃないですか。僕はそれが物足りないんですね。もちろんプレイヤーが上手くなった気分を味わえるように見せてくれるんだけど。
島国氏:
解ります。だったら『スパイダーマン』のように簡単な操作でいい。『スパイダーマン』はあれだけホーミングするゲームですが、ダイレクトに自分の操作ですからね。
hamatsu氏:
『ゴッド・オブ・ウォー』はそのへんがちょっとどっち付かずな部分がありますね。
それでも初期の三部作には、「雑魚をどう一気に倒すか」に焦点を絞った楽しさがあったんですが、今回は雑魚にも『ダークソウル』のような難しさがあります。
岩崎氏:
そう考えると『スパイダーマン』は本当によくできている。
TAITAI:
『スパイダーマン』のボス戦はどういう扱いなんですか? 一発でクリアできるようなものなんですか?
島国氏:
わりとよく死にますね。
『スパイダーマン』がすごいのは、データ引き継ぎなどなしに、一周目で死んだところが二周目では簡単に進めるようになること。プレイヤーに成長の実感が強く残るんですよ。
岩崎氏:
『スパイダーマン』は敵の大きさと格好で強さが決まっていて、スパイダーマンと同じ大きさで棒を持ってない奴は弱い。
島国氏:
昔、ベルトアクションを作っていたとき、よく若い子に「1対1で負ける敵を出しちゃだめ。順列組み合わせで、混ざったときに難しくしないと」と説明していましたが、普通に遊んでいるだけだとそういうことに気付かないんですよね。ちゃんと分解してみないと。分解すると、「そういうふうに作るのが当たり前」と解るので。『スパイダーマン』は、そういう部分もちゃんとできている。
岩崎氏:
でも『スパイダーマン』のダウンロードコンテンツ(以下、DLC)は難度を上げすぎだと思うけどね。本編は難度の上げかたも丁寧に考えられているのに。
島国氏:
本編の不満なんてブラックキャットが可愛くないことくらいじゃないですか。でもDLCは、「もうちょっとこの楽しさを遊んでいたかったのに」というところから、いきなり地獄に突き落とされたみたいな難度ですね。
一同:
(笑)。
hamatsu氏:
『BotW』もそうですが、丁寧に作ってあるゲームってDLCでちょっとタガが外れる。
一同:
(笑)。
岩崎氏:
『BotW』は第2弾の『英傑たちの詩』とか、あまりの難しさに悶絶した(笑)。
島国氏:
どうせDLCやる人はハードコアゲーマーだと思うので、みんなタガが外れるんですよね。
岩崎氏:
『BotW』のDLCはどちらも難度がおかしくて。『試練の覇者』をやったときに、「なんだこのパズルゲームは!?」とめちゃくちゃな難しさに死にそうになったんですが、「『英傑たちの詩』はそれより一般性がありそうだから」と思ったら……。
島国氏:
封印した何かが解き放たれるんですね……。「こっから先、マニア向け」みたいな。
岩崎氏:
任天堂さんって、本質的にはスーパーマニアックなゲームを作るところですからね。
島国氏:
スーパーマニアックなものの体裁を整えて、ライト層でも遊べるようにしてますからね。『スマッシュブラザーズ』とかモロにそうですよね。「あれを普通のゲームだと思うなよ」という。
岩崎氏:
桜井さんが偉いのは、初心者でも瞬殺されないように作ってあるところなんですよ。あのルールが偉い。あれがHP制だったら1秒で殺されて子どもが泣くゲームになる。
島国氏:
ああいう対戦アクションゲームって、新しいルールが出るたびに一回リセットされて広がるじゃないですか。『ストリートファイターII』(1991年リリース)に始まり、『バーチャファイター』(1993年リリース)や『電脳戦機バーチャロン』(1995年リリース)などがそうやって広まっていった。
それらのルールともまた違った『ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ』(1999年1月21日発売)が出て、まったく違うからゼロからみんなが遊べた。間口を広げるために「一度ルールを壊す」ということをちゃんとやり、簡単そうに見えるようにした。じつは全然簡単じゃないんだけど。
hamatsu氏:
その結果、もう20年続いていますからね。
島国氏:
最新作も、いままでのキャラクターをすべて出すという超大盤振る舞いをして。
【ゲームの企画書】 どうして『スマブラ』はおもしろいのか? 最新作『スマブラSP』の制作風景からゲームデザイナー桜井政博氏の頭の中に迫る
岩崎氏:
しかしいろいろなゲームがあったけどTGAは『ゴッド・オブ・ウォー』かあ。『モンハンワールド』の方が合っているかなという気がするが、最近のゲーム・オブ・ザ・イヤーは物語性が強いものでないと獲れない印象もあるしね。
島国氏:
『モンハンワールド』は「物語は関係ない」というところがカッコイイものなので。
岩崎氏:
物語といっても、「伝説の龍がいた! やっつけろ!」くらい(笑)。
hamatsu氏:
(笑)。 消去法だったというのが、いちばんしっくりくる気がしますね。『RDR2』が別の方向に舵を切っていたら、「もしかしたら結果が変わっていたのかも」とも思いますけど。
※一部発言を修正しました。(2018年2月1日11時30分)