看板作家としてのプレッシャー
――当時の話をもう少しお伺いしてもいいでしょうか。和月先生がそんなふうにゲームやアニメでアンテナの引っかかった作品を貪欲に取り入れながら試行錯誤していた時期って、まさに『るろ剣』の人気が大きく膨れあがっていく時期でもありましたよね。一体、どういう気分で創作をされていたのかな……と。
和月氏:
それこそ目の前でやってる漫画を精一杯やるだけだったんで、周りのことは関係ないんです……そうだったんですけど、やっぱり「ジャンプ」がトップから落ちたときの看板――まあ「ジャンプ暗黒時代の看板」ということで、「チョロい、チョロい」言う声は耳に入ってくるんですよ。そこはキツいな……というのはありましたね。
――ああ、やっぱり聞かれていたんですね。まあ、漫画オタクみたいな人は、そういう言い方をよくしますよね。
和月氏:
でも、それって申し訳ないけど、さすがに俺だけの責任ではないんだけどな……と思います(笑)。
一同:
(笑)
――まあ、冨樫先生や鳥山先生に言えばいいことであって、和月先生からしたら筋違いですよね。
和月氏:
そうそう(笑)。というか、まずはジャンプ編集部に言ってください。漫画の責任は漫画家が負いますけど、雑誌の責任は編集部が負うものですから。
でもね、やっぱり振り返ってみたら、とんでもないところにいたんだな、と思います。結局、『剣心』は少年漫画の王道ではないんです。本来だったら、いわゆる「看板」を背負うような作品ではないのは確かなんですよ。
――作者としても、そういう認識はあったんですね。
和月氏:
だって、『幽白』の流れの中にあるというのは、『ドラゴンボール』という王道を行く看板作品があって、その裏返し的な役割になることで、それこそが、『剣心』の本来の立ち位置だったはずなんですよ。ところが、それが表の看板になってしまったんですね。
そもそも、ジャンプの漫画家を「陰」と「陽」で分けると、俺は「陰」の側なんですよ。
――「陰」の側……ですか?
和月氏:
例えば、一緒に仕事をしていても、『ONE PIECE』の尾田先生なんかは、やっぱり「陽」の側にいたわけですよ。漫画の話になると、『ドラゴンボール』が大好き、『キン肉マン』も大好き。彼はそういう「ジャンプ」の「王道」がそもそも大好きなんです。――ところが、俺はときたら、『幽白』大好き、『ジョジョの奇妙な冒険』大好き、で完全に「陰」の側にいるという……。
――しかも、アメコミ大好きという(笑)。まあ、実は僕もその2作やアメコミは大好きなんですが。
和月氏:
ええ、同じにおいを感じてます(笑)。いや、もう我々は根本からして違う性質の人間なんです。知り合いの作家さんにも大体好きな作品を聞いてるんですけど、その「陰」と「陽」の差は、どうしようもなくあるんです。
――なるほど……でも、ちょっと思うんですけど、確かにその後に描かれた『武装錬金』や『エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』【※】なんかは「陰」の漫画という分類が当てはまる気もしますが、むしろ『るろ剣』については「陽」の側のイメージが結構ある気がしませんか……。
和月氏:
そうですかね?
――もちろん、キャラクターを深く掘り下げていくと「陰」なんですけど、むしろ少年漫画の明るい健康さのようなものは作品に溢れているように思うんです。
和月氏:
……そうですかね。ただ、そうなら当時の俺が無理くり「陽」に持っていっているんですよ。
あの当時の状況の中で、頑張って、頑張って、その結果としてそうなった面はあるかもしれないです。
――そこは思いがけず「看板」を背負った20代の和月さんが、やはり当時の「ジャンプ」の状況を担おうとあがいていたんでしょうか。今回、漫画の単行本のコメントを読み返して、後半に行くにつれて、和月さんが少年漫画の表看板を背負い込もうとする姿が見えてきた気がしたんです。
和月氏:
うーん、その辺は自分でもよく分からないです。
ただ……そうですね。あるとき「あの時期『るろ剣』がなければ、ジャンプはもっと復活が遅くなったっていた」と、編集部の人が言ってくれたことがあるんです。そのときに――「ああ、嬉しいな、ありがたいな」と思いました。「俺がこの作品を連載していた意味は、あったのかもしれない」と。漫画家をやっていて良かった、と思えた瞬間でした。
まあ、でも背負っていたなんて言ったら、さすがに驕りです。当時の俺は、もうただただ夢中で、必死に描いていただけなんですから。
――でも、その後の和月先生を見ていると、とにかく「少年漫画」へのこだわりは強いですよね。次作の『GUN BLAZE WEST』【※】の連載時にも、主人公のキャラクターから何から王道的な「少年漫画」らしさにこだわられていましたし。
和月氏:
まあ、やっぱり『剣心』は俺の考える「少年漫画」っぽい作品ではなかったのは確かなんです。だから、それに挑戦してみたのですが……。
――そして、その後も『武装錬金』で「最後の少年漫画!」と打ち出されていて、やはり『るろ剣』のあの設定でプロの世界に攻め込んだ人が、こうも少年漫画であることにこだわるか……と思ってしまって。
和月氏:
いや、俺はやっぱり少年漫画が好きなんですよ。
俺は、元々は「陰」の人間ではあるんだけど、それでもやっぱり最後には「陽」を選びたい。ド直球に「夢と希望」は描けないかもしれないけど、それでも「夢と希望」を見ていたい――そういう想いが、確かに俺の根底にあるんですよ。
だから、俺がいつまでも少年漫画をやってるのは一種の「憧れ」なんでしょうね(笑)。それは、やっぱり俺自身が王道の少年漫画を描ける人間じゃないからですよ。自分が本当の王道を描けない側だと分かってるからこそ、憧れてるんです。
『武装錬金』のヒロインは“王道”だった!?
――そういう意味では、結果的にかもしれませんが、『武装錬金』というのはかなりファンキーな少年漫画になっていたというか(笑)。いやもう、個人的には大好きなんですけど。
和月氏:
まあ、ハンパないですよね。いい具合に壊れてますよねえ。
――あれはやっぱり「最後の少年漫画」ということで、自分なりの少年漫画をやりきった結果なんでしょうか?
和月氏:
ええ、自分の思う少年漫画を描こうとしたんですが……気づいたら、あんなことになってました(笑)。
当時は年齢的にも、おそらく自分が少年漫画を描ける最後の時期だと思っていて、とにかく「自分が思う少年漫画はこうだ!」というのを詰め込んだんです。そこで、少年漫画の主人公とヒロインが、ボーイミーツガールするところから始まっていくジュブナイルを描いていったんですが、なぜかパピヨン【※】という敵が“爆誕”して……。
一同:
(笑)
――あの、津村斗貴子さんも、王道のヒロインなんでしょうか……?
和月氏:
そりゃもう、俺の中では彼女は王道のヒロインですよ(笑)。
――いや、斗貴子さんは少年漫画のヒロインでも、一番好きなキャラの一人なくらいなんですが……それはちょっと(笑)。
和月氏:
うーん……(苦笑)。まあ、でもそんな感じで、自分の中にある少年漫画の憧れをできるだけ形にしようと、やってみたんです。そうしたら結局、「ジャンプ」の中で読者平均年齢が通常の最大値よりも上になってしまって、「オイ!」という感じになってしまったんですけど……。
――とはいえ、あの作品はインターネットで今も根強くファンが数多くいる、大人気の漫画です。一つにはアニメのOP曲の『真赤な誓い』【※】がオタクのアンセムになったのも大きいと思うんですが。
和月氏:
あの歌は、少年漫画の本当に源流の部分を捉えていますよね。いい歌です。
元々は、TVアニメ化のときに、自分の漫画のテーマソングになるような楽曲が欲しいなと思ったんですよ。自分の中でも、「これがもしかしたら、自分の作品がアニメ化される最後のチャンスかもしれない」と思っていたから、ド直球の少年漫画の主題歌への憧れを言ってみたんです。監督さんに「『武装錬金』と叫ばなくてもいいんで、少年漫画らしい主題歌が欲しい」と――そうしたら、あの曲が上がってきたんです。
――あの、福山芳樹さんのチョイスは監督さんですか。歌詞は奥さんですよね。
和月氏:
本当にド直球で来たんで、ビックリしましたね。
――しかも、あの歌詞って『武装錬金』を本当に理解している人間が書いていますよね。「どんな敵でも味方でもかまわない その手を放すもんか」とか「何でもいいから誰も泣かない世界が欲しい」とか、冷静に考えると意味不明な言葉が並んでるんですけど(笑)、でも『武装錬金』の”思想”を間違いなく正しく掴んでいると思うんです。
和月氏:
まさにテーマに直結した言葉が並んでいるんですよね。
でも、あれは他の少年漫画の楽曲になったとしても通じてしまうんですよ。少年漫画のコアを本当によく捉えた歌詞なんだと俺は思ってます。実際、俺もネット上のMADなんかで、他のアニメに使われてるのを見て「違和感ねーなー」とか思ってますから(笑)。
――ははは(笑)。でも、「敵も味方もねえんだ!」みたいなところは、実は『武装錬金』以外の和月さんの作品にも頻出しますよね。
和月氏:
俺が「敵を倒してヤッター」という展開が、どうも苦手なんでしょうね。
そこは俺の作家性なのかもしれないです。基本的に「善」であれ「悪」であれ、「信念を貫くこと」や、いろんな戦いの中で「より高みを目指すこと」が好きなんですよ。だから、善悪をこっちで決めて倒してしまうのは、どうも違う気がしてしまうんです。なんとなくそういうのが好きなのかな、とも思いますが(笑)。
でもね、やっぱり王道とは何かをほじくっていっても、「敵を倒してヤッター」で読者は納得いかないはずだ……とも信じてます。むしろ、敵と味方は、しばしば「鏡映し」だったりもするんです。だからこそ俺は、剣心が志々雄に勝ったからといって、こっちが正しいことにはならないというのを、作中で強調するんです。
――ちなみに、和月先生はご自分の作家性はどういう部分にあると思っていらっしゃるんですか?
和月氏:
それが……全然分からないんです。他の漫画家さんのことなら、かなり分析できるんですけどね(笑)。
自分については、どういうわけか分からない。きっと、それが分かっていれば、俺は漫画家としてもっとヒットを飛ばせていたんだと思いますよ(苦笑)。
――なるほど(笑)。では、和月さんの中では、今話されたような自分の少年漫画観を引き継いでいるように見える作品なんかはあるんですか。
和月氏:
いやあ、あまり思い当たらないんです。もちろん、『NARUTO -ナルト-』の岸本先生は、「ジャンプ」の和風を引き継ぐつもりで作ってくれたと聞いて、凄く嬉しかったですけどね。実際、『NARUTO -ナルト- 』の1話と『剣心』の最終回って……。【※】
――「入れ替わり」ですよね、まさに。
和月氏:
そうなんですよ。
――ジャンプ漫画ということでは、アラサーの主人公が、動乱期が終わったあとの世界を守っていく作品として、『銀魂』【※】なんかもありますが。
和月氏:
いやいや、あれはもう空知先生の天才的なギャグのセンスがあってこそですから。むしろ俺には到底、描けない(笑)。確かに、そういう意味では直系の後継漫画はないのかもしれないですね。
『るろ剣』北海道編への意気込み
――それでは、そろそろ時間なのですが、漫画家としての今の和月さんは「最後の少年漫画」を描かれて、さらに「ジャンプSQ.」で『エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』のような作品も描かれて、そして今、どういう作品を描こうとされているのかを聞いてみたいです。
ジャンプSQ.編集部:
こちらの記事はいつ発表するのでしょうか? 実は11月4日発売のジャンプSQ.12月号で、『るろ剣』の番外編の読み切りを掲載するんです。
――え!?
ジャンプSQ.編集部:
12月に出る1月号と前後編になっている、『‐るろうに剣心・異聞‐ 明日郎 前科アリ』という作品なんですけど、そのあとに来年4月くらいから『るろ剣』の「北海道編」をスタートします。一応、この話は12月2日までは伏せておく予定ですが。【※】
※今回の和月氏のインタビューは2016年11月に行われた。
――とすると、このインタビューが掲載される時期は、もう既にその話が広まったあとですね。しかし、なんでまた今頃になって『るろ剣』を……。
和月氏:
いや、実はここに来て、『剣心』を見つめ直す機会が立て続けにありまして。
特に映画が大きなキッカケで……正直、あんなふうに受け入れられて3部作まで作られるなんて、俺は全く思ってなかったんです。映画の企画が動き出した当時の本音を言うと、「赤字にならなければいいな」でしたから。ところが、あんなふうに昔のファンも今の人もみんな楽しんでくれていて、驚いたんですよ。
――実際、知り合いの小学生の娘が『るろ剣』の大ファンだったりしますからね。まだまだ現役で大人気の作品ですよね。
和月氏:
俺の友達の漫画家さんの子供にもいます(笑)。映画のお陰でお爺さんやお婆さんの世代が見てくれたり、お父さんが子供を連れて行ったりするかたちで、これまでになかった広がりも生まれたんです。
――ただ、『るろ剣』という作品は、ここまで取材をさせていただいて、やはり和月先生にとって、その後の漫画家人生に大きく影響した作品に見えるんです。そもそも時代劇自体、『るろ剣』以降描いてないですよね。
和月氏:
時代劇を描くって言ったら「もう一回『剣心』を描いてください」と言われるだろうと思ってましたから(笑)。
――だからこそ、「なぜ今?」と思ってしまうんです。やっぱり、ずっと続編なんてイヤだと思っていたんじゃないかな、と思ってしまうのですが……。
和月氏:
いや、続編がイヤだというのではなくて……俺にとって、ずっと『剣心』は「壁」だったんですよ。
――「壁」……ですか?
和月氏:
俺は『剣心』のおかげで、漫画家を続けていく上で、最高に素敵な「城壁」を手に入れたんです。どんなことがあっても、俺が漫画家としてやっていくことを守ってくれる壁を。
でも、その反面で俺は、その壁を出ることが本当に難しくなっちゃったんです。何よりも、漫画家として『剣心』以上のものを描けるかどうかという期待は、常に俺の周囲にあった。もちろん、みんなが楽しんでくれるのは嬉しいんですけど、やっぱりこう中々……大変だったんですね。
でもね、そこは10年も経って、みんなが映画や宝塚を楽しんでくれてるのを見て、「もういいじゃないか」と思うようになったのもあります。
――うーん、とはいえ『るろ剣』のラストって、最後は医者に飛天御剣流も使えなくなると告げられた剣心が、薫に「お疲れ様」と肩を叩かれて終わっていくわけですよね。ある意味で、全てをやりきった結末だったのかなと思っていたのですが?
和月氏:
いや、それは違うんです。当時、俺の中ではあの続きとして、今回描く「北海道編」の草案はあったんです。でも、あの頃の俺には少年漫画として『剣心』を終わらせる結末が見えなかったんです。
というのも、やっぱり『剣心』は「贖罪」の物語なんですよ。このまま続けてしまうと、剣心はあれだけ人を殺してきた以上は死ぬしかない、いや死なないとしても少なくとも幸せにはなれないだろう――そういう想いがどこかにあって、ここが少年漫画として終わっていけるギリギリのタイミングだろうと考えたんです。
――そうだったんですか……燃え尽きたイメージだったんですが。
和月氏:
それは匂わせただけで、描くのは避けたんですよ。
実際、あの続きをバトル漫画として描くとしたら、剣心は『あしたのジョー』になってしまうしかない。だって、もう飛天御剣流は撃てなくなっていくのに、「不殺」の誓いを守りながら戦い続けるわけでしょう。そしたら、やっぱり剣心は戦いの中で死んでいくしかないんです。だから、薫に「“とりあえず”、お疲れ様」と言わせて、終えたんです。
――薫の「とりあえず」にはそういう意味合いがあったんですね。
和月氏:
そして、あの言葉を口にした薫は、剣心がそうなっていくのを分かってるんですよ。全て分かった上で、だから彼女は「とりあえず」と言ったんです。
あのときに俺が考えていた剣心の最期は、ある意味では男として理想的な、格好いい結末かもしれないですよ。実際、俺も『あしたのジョー』は大好きですしね。だけど少なくとも、『剣心』はそうじゃないよ、と当時の俺は思ったんです。
――その考えが変わったのは、なぜでしょうか。
和月氏:
20代の頃って、生真面目だから考えも凝り固まっていて、思い込みも激しいじゃないですか。でも、年を取ると、だんだんいい加減になってくるんですよ。すると、視野が広がるんです(笑)。
それで40歳を超えた俺が、俯瞰してもう一度『剣心』を見たときに、「本当にこのラストしかないのか?」と思ったんです。
あの“とりあえず”の「お疲れ様」を、本当の「お疲れ様」に出来ないかは、その後も考え続けていたんですよ。でも、「その先」を描くには、自分の中にあった『剣心』のラストのイメージを超えるような、ある意味で剣心が幸せになれる終わり方が必要になる。それがずっと見えずにいたんですね……。
でも、幸せなことに色々と映画や宝塚に関わらせていただいたりする中で、1年半くらい頭の片隅で考えていたら、ここに来て道筋が見えたんです。
――なるほど。
和月氏:
で、俺の年齢はいま40歳半ばなんです。なんとか10年後くらいならギリギリ漫画の仕事をしているイメージはある。でも、もうその先は分からないですよ。体力の限界だって来るはずです。俺の中にはまだまだアイデアはある。でも、きっともう全てを描くことなんて出来ないのもわかっている。
だったら頭の中にある色々な漫画の中で、俺が漫画家であれるウチに描きたいものは何だと思って――それが『剣心』の北海道編だったんです。
――どういう話になるのでしょうか。
和月氏:
ヒントは宝塚『剣心』にありですよ、とだけ言っておきます。
剣心の最後に
――では、そろそろ本格的に終わりなのですが、最後に和月さんなりの新作の意気込みを聞かせていただければ。
和月氏:
まあ、なんとか楽しんでもらえれば(笑)。
でも、成長したキャラは成長したなりの魅力を出して、新しいキャラには新しいキャラの魅力をしっかり描くことですね。そして、少年漫画はエンターテイメントというのをしっかり踏まえて、面白くしていきたいですね。
――今回も「ジャンプSQ.」ですが、やはり「少年漫画」なんですね。
和月氏:
うん、大人になっても少年漫画は読めますから。たぶん、少年漫画は「少年が読むから少年漫画」ではなくて、「”少年の気持ち”が好きな人が読むから少年漫画」になりだしてると思うんです。実際、「20歳過ぎたから、もう青年漫画を読もう」と思う人がいる時代ではないでしょう。
そういう意味合いで、俺は全然オッケーなんじゃないかなと思ってますよ。そういう風に考えていかないと、少年漫画は滅びてしまうとさえ思ってますから。
――ありがとうございます。あと、今後のゲーム業界に望むことなどあれば……。
和月氏:
「サムスピ」また出ないかなぁ……?
一同:
(笑)
――いやあ、出て欲しいですね(笑)。それに今日の話を聞いて、鎌池さんの取材でも感じたことですが、やはり当時のSNKのチームは日本のサブカルチャーのキャラクター表現の深い部分で、革命を起こしていたんじゃないかという思いを強くしました。もしよければ、SNKの取材が出来たりしたときにはぜひ一緒に対談とか……。
和月氏:
えー!? いやあ、SNKの人に会うのは怖いよ〜(笑)。
一同:
(笑)
(了)
取材の準備中、社内で「今度、和月伸宏氏にインタビューする」という話をすると、実に多くの人から「うらやましい!」という言葉をかけられた。思いがけない人から、何人も「実は大ファンなんです」と打ち明けられたりもした。そんな会話をしながら――累計発行部数が5900万部を超える作品を持つ“国民的作家”に対して、あまりに失礼な感想かもしれないが――こんなにも氏には多くのファンがいるのかと、驚きを覚えたものである。
今回のインタビューは、和月伸宏氏の仕事場を兼ねる自宅の一室で行われた。仕事着であろう紫色の作務衣姿で登場した和月氏は、まさに“職人”といった風貌。そして、少年漫画の激しい戦場で生き抜く中で感じてきたことを、とても率直に我々に語ってくれた。
そこで語られた言葉を思い返して、あらためてわかるのは、やはり和月氏の人生に『るろうに剣心』が与えた影響である。氏は、取材の中で「自分は少年漫画の王道は描けない」と言い切った。そんな自覚を持つ彼が、「週刊少年ジャンプ」の表看板を背負い、孤独に戦いを続けていた重圧は想像するに余りある。
だが、この記事からわかることは、もう一つある。それは、当時の和月氏に90年代のゲーム業界が与えた「勇気」だ。
90年代の半ば、そんな状況下で新しい表現を模索していた和月氏が、SNKのゲームたちから「もっと発想をぶっ飛ばしていいんだ!」と気づいて、既存のキャラクター像を打破した“志々雄真実”などの魅力ある登場人物を次々に生み出していったこと――それは、やはり分野を超えてクリエイターの創造が響き合う最良の事例だったと言えるのではないか?
と同時に電ファミとしても、やはり当時のSNKが他分野のサブカルチャーに与えた影響は、より深く追いかけねばならない……と思った次第である。
『るろうに剣心』の北海道編は2017年の春から「ジャンプSQ.」で連載が始まるという。18年の歳月を経て、和月氏はどんな「お疲れ様」の言葉を剣心にかけるのだろうか。巨大な「壁」に立ち向かっていく和月氏の、その挑戦を楽しみに待ちたい。
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(情報元:コミックナタリー)