Saber Interactiveの開発した『World War Z』が4月16日に発売された。『Left 4 Dead』のゲームデザインを雛形にした4人協力プレイのゾンビシューターということで、ひさしぶりにフレンドと楽しくゾンビを抹殺している方もいるかもしれない。本作には世界各地の実在する都市を舞台にしたステージが存在しており、最後のチャプター3こそまだ未実装なものの、日本の「東京」もキャンペーンの最終エピソードとして登場する。
※3月に公開された東京トレイラー。
『Hitman』シリーズに登場する怪し気な日本文化や『System Shock 2』の看板など、いわゆる海外のデベロッパーから見た「洋ゲーの日本」といえば勘違いだらけのイメージが強いが、本作の東京はなかなかに再現度が高い。
たしかに上記のトレイラーで寺院らしき建物が住宅街に紛れ込んでいたり、道路に記された「止まれ」が反転文字で「まれ止」となっていたり、「止まれ」の標識が付いた電柱に道路信号が備えられたり、そもそもどこにでも武器が落ちてたりと、ゲーム的な部分を無視しても若干の違和感はある。
町中に貼られている多くのポスターも「日本よ、これが日本だ」と言わんばかりに、濃い洋ゲー流の日本テイストを浴びせてくる。日本人から見ると、こういった”勘違い日本”に抗いがたい魅力があるのはなぜなのだろうか。
ポスターに並ぶのは「勝利」、「忍者の剣」、「カタ・ニアランナー」、「広島の鐘が流行と戦う/よう呼びかけている」といったメッセージで、一応はすべて意味が通っているが、どこかシュールだ。
しかしそういった細かい部分を除くと、めずらしくこれだけのグラフィックレベルの作品としては日本っぽい町並みの作り込みで、特にチャプター1の日本色には感じ入るものがある。近年はインターネットの発達により、現地でも遠い異国の情報が手軽に手に入るようになっている。ストリートビューによるバーチャル旅行もあるため、本作のようにかなりそれっぽい町並みを作り出すことが出来るようになったのかもしれない。
しかしそのせいなのか、実在する日本の社名や商品名がそのまま登場している例もある。それが以下のスクリーンショットだ。1枚目に写っている自動販売機は、広島県呉市に実在する焼きあご入りの万能調味料「だし道楽」のもの。2枚目は東京の様子を描いた優れたアートワークだが、日本人には見慣れた東芝の太陽光発電やつぼ八などが写し出されている。
なお日本マップの導入は、リードレベルデザイナーのアトリナー・コルカ氏が日本に在住した経験を持つことから希望したことが、4Gamerの取材で明らかとなっている。原作小説の『World War Z』でも状況が語られる日本。贔屓目ながら東京マップはほかの都市と比べてもある種の情熱を持って作られているように感じられるところで、コルカ氏の熱が入れ込まれていたのかもしれない。
またマップ以外では、ゲームには4つの国から4人の主人公が登場する。9.11テロで仲間を失い激しいトラウマを背負った消防士、暴力の無意味さを思い知ったロシア黒社会の元用心棒であるロシア正教会の神父などのほか、パンデミック後に仁義に目覚めアメリカから人々を助けるために日本に戻ったヤクザも登場する。彼らひとりひとりのバックグラウンドは趣向を凝らしたムービーなどで徐々に明らかになっていく。
さて、ここまで東京マップの魅力を伝えてきたが、そもそも協力型ゾンビTPSとしての『World War Z』の出来はどうなのだろうか。ゾンビに目を向けると、本作では『Left 4 Dead』に登場するような能力を持った「特殊ゾンビ」要素は控え目。ゾンビ一匹一匹もとても弱く、脳みそではなく胴体に弾丸を数発ブチ込んでやればそれでおしまいだ。
だが、やはりこのゲームの主役は間違いなくゾンビだ。映画版『World War Z』でも特徴である波のように流れ込んでくるゾンビの大群が本作の魅力となっている。大量になだれ込み、群れをなし壁を登って追いかけてくるゾンビの群れは、それを見るだけで満足できるものになっている。一匹一匹は弱いが、これだけの数になるとC-4爆薬ですら群れの一部を吹き飛ばすだけとなる。
アニメーションも素晴らしく、弾丸が当たった部位は吹き飛び、走っていれば転げ、ダメージによっては這ってまで追いかけてくる。弱点である頭に当てれば派手に血を吹き出しながら倒れる。倒れたり死んだふりをしているゾンビには、専用のモーションでトドメを刺すことになる。本作ではゾンビの大群を描くために作られたゲームエンジンを使用している。大量のゾンビが走り回る姿をゆっくりと鑑賞するデモモードが欲しいところだ。
マップのAIの出来や特殊感染者のバラエティの少なさなど若干の不満はあるものの、『Left 4 Dead』スタイルの協力型ゾンビシューターに、兵科とおびただしい数のゾンビというスパイスを加えた楽しいゲームプレイを実現した『World War Z』。キャラクターアップデートを除けばリプレイアビリティはあまり高く無いように思えるが、PC版は3880円と低価格、協力モードだけでなくゾンビを含めた対戦モードもあるため、人がいる限り料金分以上は楽しめるゲームとなるだろう。
生粋の勘違い日本ファンには物足りないかもしれないが、楽しむには十分と言えるほどの物量を備えている
ライター/古嶋誉幸