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あのコンビニ夜勤アルバイトのホラーゲーム『夜勤事件』を作った開発「Chilla’s Art」に制作話を聞いた。『呪怨』が好きな兄弟が日本の小説に影響を受けて開発

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 今年2月に発売され、おもに実況界隈で人気を席巻したホラーゲーム『The Convenience Store | 夜勤事件』。コンビニの夜勤アルバイトという異色のシチュエーションをはじめ、暗闇に浮かぶコンビニの幻想的なネオンやローポリゴンで表現される不気味なキャラクター、自動ドアなど実際のコンビニにもある仕掛けを活かした心霊の演出は、上質なホラー体験を提供してくれている。わずか310円という低価格帯で入手可能というのも人気の理由のひとつだ。

 VTuberなど各種のゲーム実況では、コンビニバイトになりきってプレイするプレイヤーがいる。身近な存在であるコンビニの仕事を擬似体験できる点も魅力のひとつに挙げられる。どのようにコンビニ店員をロールプレイしているのか、実際にプレイしてみるだけではなく、誰かのプレイ動画を見るというのも楽しいという、非常にゲーム実況向けの作品になっている。

 また実際にプレイしてみると、本作の背景に隠されたストーリーの奥深さにも驚かされる。コンビニに出勤するまでに通過する不気味な住宅街に謎が隠されているのではないかと探索してみたり、本作に隠された真相について深く考察するプレイヤーは後を絶たない。

 このゲームを開発したのは、アメリカ育ちの日本人兄弟インディーゲームクリエイター「Chilla’s Art(チラズアート)」だ。日本を舞台にした一人称視点の短編ホラーを得意としており、2019年9月に発売した『Okaeri』から、約1ヶ月から2ヶ月ごとのペースで『Stigmatized Property | 事故物件』『Inunaki Tunnel | 犬鳴トンネル』など数多くの作品を精力的にリリースしている。

 もともとファンが多いChilla’s Artだったが、2月に発売した『The Convenience Store | 夜勤事件』でさらにブレイクしたといえるだろう。今回はそんなChilla’s Artに『The Convenience Store | 夜勤事件』開発の経緯について聞いてみた。

取材・文/福山幸司
編集/ishigenn


あのコンビニ夜勤アルバイトのホラーゲーム『夜勤事件』を作った開発「Chilla’s Art」に制作話を聞いた。『呪怨』が好きな兄弟が日本の小説に影響を受けて開発_001

――取材を受けていただき、ありがとうございます。多くのプレイヤーの皆さんは「Chilla’s Artさんって何者なんだろう?」という疑問を持っているかと思います。

Chilla’s Art:
 何者なんですかね(笑)。ただゲームを作るのが好きな兄弟です。

――言える範囲になると思いますが、Chilla’s Artさんはどういう方々で、どういう経緯でゲーム開発をしているのか教えていただけないでしょうか。「Chilla’s Art」の由来なども。

Chilla’s Art:
 普通の田舎の実家で和風ホラーゲームを作っています。「何でもいいから何か作らないと人生つまらないよな」と思い、なんだかんだゲームとホラー映画に関わってきた人生だったので、何を作るか考えている時に自然とホラーゲームを作りたいと思うようになってました。僕らは両方ともパソコンはもとから得意な方だったので、すべて独学でやってます。

 あと、育ちがアメリカと言う事もあり、英語が理解できるのでYouTubeやGoogleなどで学べています。とはいえ、最近ではゲームエンジンを教えている日本人の方々が増えているので、どのような日本の独立開発者さんが出てくるのが楽しみです。Chilla’s Artの名前に関しては深い意味はないです。ただ「チンチラ」という動物が好きで、ビデオゲームという形のいわゆる「アート」を作っていきたいという意味です。

――ありがとうございます。『夜勤事件』の発想のきっかけを教えてください。

Chilla’s Art:
 きっかけは天野アタルさんの『コンビニで夜勤バイトを始めまして。』と言う小説を読んだことです。コンビニだけでこんなにもアイデアが出てくるんだなあと感動し、 僕らもコンビニを設定として何か作りたいと思いました。

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天野アタル著『コンビニで夜勤バイトを始めまして。』。コンビニの夜勤に応募した青年が、心霊現象に遭遇するホラー小説。
(画像は「コンビニで夜勤バイトを始めまして。 天野アタル:文芸書 | KADOKAWA」より)

Chilla’s Art:
 できるだけゲーム内でのイベントからイベントへの待ち時間を少なめにしようと頑張りました。 そうするとプレイ時間が短くなったり、 テンポが早過ぎたりして調節が難しかったです。 でもやはり作品を時間内に完成させることが一番つらかったですね。

――ゲームに登場するコンビニや、印象的なキャラクターにモデルはあるのでしょうか。

Chilla’s Art:
 コンビニは近くのコンビニをモデルにしました。キャラクターはただの著作権フリー画像たちで、モデルはないですね。僕らにコンビニバイトの経験はないのですが、付き合っている彼女が働いていたことがあって、その経験を参考にさせてもらいました。

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――『夜勤事件』は、家からコンビニまで出勤するときの住宅街が幻想的で美しいですね。やろうと思えばコンビニだけ作ってリリースすることもできたと思うんですが、そうしなかった理由はありますか。

Chilla’s Art:
 実は初期の段階のころには、ゲーム全体が4日ではなく1日のゲームを想像していました。本当はコンビニにたどり着く前にいろいろとデザインを入れていたのですが、時間の問題から最終的にゲームを数日に分けて、コンビニへフォーカスを寄せることにしました。

――ホラーゲームの魅力とは何だと思いますか。好きなホラー映画などあれば教えていただけると。

Chilla’s Art:
 ホラーゲームの一番の魅力は雰囲気だと思います。ホラーゲームはゲームプレイというよりも感情を優先しやすいので、「何も起きていないのに、何かが怖い」「何かが来るかもしれない」「何かがおかしい」などの感情が湧いてくるような体験を生み出せるのが一番の魅力だと考えます。

 小さいころからホラー映画が好きだったのがホラーのジャンルを好きになった理由で、自然とホラーゲームもかなり好きになってました。初めて見て感動したホラー映画は『呪怨』です。特に好きな作品は『ウィッチ』『インシディアス』『パラノーマル・アクティビティ』などです。

――海外のホラー映画が多いですが、Chilla’s Artさんは日本を舞台にしたホラーゲームにこだわっていますね。

Chilla’s Art:
 もちろん『リング』『新耳袋』『学校の怪談』『回路』などの国産ホラー映画や短編ホラー映画集も大好きですが、どちらかというと好きなのは、やはり「海外のホラー映画」と答えてしまいます。ですが好きな映画とは別に、和風ホラーゲームを作り続ける本当の理由は僕らが日本人であるから。僕らのアイデンティティをゲーム制作に活かしたいと思ったのがきっかけです。

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――昨年から1~2ヶ月という、とても短いスパンでゲームをリリースしていて、多作ですね。これについて秘訣はあるのでしょうか。

Chilla’s Art:
 一度、10ヶ月以上をついやして作ったゲームがあって、作り終えたときに 「俺らには長いゲームを作るのはほんと向いてないな」と思い、短い作品を作ることに決めました。秘訣というより、だだ常に僕らに合ったやり方を探しているだけです!

――最後に、ゲーム実況者、vTuberなど数多くの人が遊んでいますが、それについての感想をいただければ。

Chilla’s Art:
 もちろん、すごく嬉しいです! 皆さんの動画に本当に支えられていると思います。とても感謝してます。次の作品、『Onryo | 怨霊』では雰囲気や感情だけでなくゲーム的にも面白くなっていると思うので 、PCをお持ちでホラーが好きって方は是非この作品からでも遊んでみてほしいです。チラズアートでは1本1本学びながら制作しています。これからもどんどん新しい作品を作っていくので皆さんにはお世話になります!

――新作『Onryo | 怨霊』も楽しみにしています! ありがとうございました。

ライター
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福山幸司
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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