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『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)

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Twitterスペースをお聞きの方へ:
本コンテンツはリアルタイムの興奮をみなさんと共有するため、声優さんにもあえて脚本を事前にお渡しせず、皆さんとおなじ画面を直接読んでいただいております。
そのため、つっかえや読み間違え等が発生することがあります。
ご不便をおかけしますが、コンテンツの性質としてご承知いただければ幸いです。

第四の分岐

選択肢:誰も『犠』としない
が選択されました!

断罪(b)に分岐します。

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_051
『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_052

「……日没。
 ヴァルメイヤの刻限です。
 
 皆さん、よろしいですね?」

「僕は大丈夫です」

「別にいい。
 最初から決まってるし。
 答えも。たぶん、結果も」

「……」

「静かに、ヨーズ。
 それでは、参りますよ。
 
 『ヴァルメイヤよ、
  ご照覧あれ!』

 
 血と肉と骨にかけて──
 
   みっつ!
 
     ふたつ!
 
       ひとつ!」
 ……

 実のところ、

 ビョルカさんとヨーズが
 『誰も犠としない』
 選ぶのは、読めてた。

 一方、
 読めなかったゴニヤだけど、

 ヨーズを指さしてる。

 明らかに、
 怒りと怯えの混じった目で。

「……どういうこと」

「……!」

「ゴニヤ……!」

「やめなさい、ヨーズ。
 本来『ヴァリン・ホルン』
 『理由』の表明など
 必要ないのですよ。
 
 必要なのは、結果だけです」

 結果……
 そうだ、結果だけだ。

 僕ひとりぶんの指名が
 決定づけた、
 結果だけなんだ……

「……とはいえ、結果は……
 
 ヨーズを指さした者は
 1人だけ。
 
 誰も犠としない、という選択を
 覆すものでは
 ありませんでした。
 
 フレイグ、いいですね?」

「はい……僕からも、
 特に言いたいことはないです」

「ヨーズも、ゴニヤも。
 いいですね?」

「もちろん」

「………………っ………………」

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_053

 【誰も犠とされなかった】

 【2日目の日没を迎えた】

 【生存】
 フレイグ、ヨーズ、ゴニヤ、ビョルカ

 【死亡】
 ウルヴル、レイズル

疑心

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_054

 そういうわけで、夜だ。

 ビョルカさんはまた、
 ゴニヤと話をしようとしたけど
 今日ははっきりと拒まれてた。

 ジジイの死からずっと
 ゴニヤは何かおかしい。

 まあ、おかしいと言えば、
 もうひとりおかしいのが
 いるんだけど……

「……何」

「こっちのセリフなんだけど。
 はやく寝れば?」

「ぜんぜん眠くない。
 
 ここの夜は長すぎる」

「それは同意だけど……
 
 僕といるの、嫌だろ」

「……
 別に」

「……いや、まあその。
 
 遠回しをやめると、
 僕のほうが若干ヤなんですが。
 いつ罵詈雑言と暴力が
 飛んでくるか分かんないって
 けっこうなストレスですよ?」

「別に」

 あ、すでにキレてらっしゃる?
 了解黙りまーす。

 ……

 …………

 あの、ホントになんで
 どこにもいかないの、
 この危険人物。

「 
    嫌とかじゃ、ないけど」

「……はい?」

「あんたと。いるのが」

 ほんとに困るんだよな……
 会話が成立しないのが一番……

 あっ、そうか。もうすぐ
 脱出できそうだからかな?

「えーと……まあ、がんばろう?
 明日が正念場ってやつだ。
 人里に辿り着いて、
 『黒の軍勢』を振り切ろう!」

「……」

「えーとえーと……あっ、
 今日のクマのやつ?
 あれ見事だったよね。
 流石ヨーズっていうか。
 僕だけだったら、血まみれでも
 止められなかったと思う、
 あんなバケモノ……」

「……」

 どうしろってんだよ。

「あー……の、あー……
 
 ……なんていうか、
 羨ましいよ。
 この旅で、よくわかった。
 ビョルカさんも、
 ヨーズの猟の腕前には
 一目置いてるし……」

「干からびろ。
 蟯虫(ぎょうちゅう)」

 誰が尻の穴にひそむ寄生虫だ。
 ああっしまった!?

 その言葉を吐き捨てたのち、
 ヨーズはまっすぐな足取りで
 去って行ってしまった。

 どこでヨーズの機嫌を
 損ねてしまったんだろう?

 ……まあ、これでようやく
 落ち着いた……か?

 とはいえ、眠れない状況には
 変わりはない。
 誰かと話をしようかな。
 もちろんヨーズ以外で。

 ……ゴニヤはどうだろう。
 ビョルカさんが話して、
 それで落ち着いてたらいいけど
 ビョルカさんに話しにくい
 こととかがあれば、
 僕が聞いてあげられるかも
 しれないし。

 よし、行ってみよう。

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_055

「……おかしいな……」

 結構探してるのに、
 ゴニヤが見つからない。

 『護符』の範囲は広い。
 ある意味、隠れるために
 バラけてるんだから、
 見つからなくたって当然だ。

 だけど、今日ゴニヤは
 日中いきなり、わけもわからず
 逃げ出してる……

 不安になって、ビョルカさんと
 相談しようと思った。

 でも、こっちもいくら探しても
 会うことができない。

 ……おかしいな。
 こんなに会えないもんか。

 また、雪は深くなりつつある。
 万一、2人が遭難してたら……

「……おーい!!
 ゴニヤー!
 ビョルカさーん!!」

「うるさい。
 蟯虫(ぎょうちゅう)」

「なんだおまえ!?
 言っとくけどそのスタイル
 フツーに好感度激低だからな!
 つーかなんで出てきた!
 呼んでないんですけどー!」

「傷つく。さすがに」

「アンタ散々僕を傷つけて……
 いや、それより!
 ゴニヤとビョルカさん
 見なかった!?」

「見た」

「見たのかよ!
 いや、見たならいいんだけど!
 え、2人ともどこいんの?」

「2人で話してた。
 だいぶハズレのほうで。
 
 ゴニヤは……
 ウルヴルが死んだのは、
 ビョルカと私のせいだと
 思ってる」

「っ……!
 
 それは……確かに、
 指名の結果だけ見たら……
 
 でもそれ言ったら僕もだし、
 そもそもジジイも変だったろ。
 らしくないっていうか……」

「私らは、そう思えるけど。
 ゴニヤは小さい。無理。
 
 まあ、でも。
 ヤケになる感じでもない。
 もはや拗ねてるだけ。
 
 時が解決する。たぶん」

「……なら、いいのかな。
 
 なんか、嫌になるな。
 自分の無力さに」

「珍しいこと言う。
 
 昔は『超無敵戦士トールマン』
 とかいって
 うんこ刺した木の棒振り回して
 暴れ回ってたのに」

「そうだった!!!
 いつの昔だよ!!!
 忘れろよ!!!今すぐ!!!」

「……
 
 あんたは、あれ。
 
 使われないのが、いいやつ」

「え?
 ……ああ、『村』のね。
 剣も盾も、
 使われないのが一番って考え」

「そう。
 ……誰も……
 
 というか……
 
 私は、思ってない。
 フレイグが役立たずとか。
 
 夜は私が見る。
 適材適所。
 
 雪が深くなる。
 早く寝て」

「……あ、うん、
 
 
 おやすみ……」

 ヨーズがあそこまで、
 一方的に喋るのは珍しい。
 そういうときはいつも、
 有無を言わせない迫力がある。

 ヨーズと別れたあと、
 僕は少し離れたところで
 改めてベッドロールを敷いた。

 ヨーズがうまくやってくれると
 いいけど。

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_056

 ……雪が深くなってきたな。

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_057
『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_058

 やはり、この場所は、
 何かがおかしい。

 あんなに不安で、
 あんなに緊張していたのに、
 深夜になると勝手に
 眠ってしまうのは、異常だ。

 あるいは『護符』のせいか?
 眠ってしまう代償に、
 夜も安全に過ごせる……

 そんな隠し効果とか、
 副作用があるのかもしれない。

 ……安全、だと?

 それすら、勘違いだった。

 何かの間違いだ。
 それか罠だ。
 誰かが敷いた、
 途方もない悪意の策略だ。

 でなきゃ、

 こんなこと、あってたまるか。

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_059

 【ゴニヤ死亡】

 【3日目の夜明けを迎えた】

 【生存】
 フレイグ、ヨーズ、ビョルカ

 【死亡】
 ウルヴル、ゴニヤ、レイズル

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_060

 小さな子供は宝だ。
 希望そのものだ。

 『村』の外を僕は知らない……
 けど、多分どこでも同じはず。

 だから、
 子供が殺されるような事態は、
 悪夢的だし、絶望的だし、
 絶対に許してはいけないはず。

 なのに今、
 子供の無残な死体を、
 3人の大人が囲んでいる。

「これは……
 
 こんな……
 
 どうして、できるッ……!」

 涙。悲しみの叫び。
 不条理を責める言葉。
 あらゆるものを押し殺して、
 ビョルカさんは立ち尽くす。

「……」

 一方で、ヨーズはただ、
 無表情に突っ立っている──
 ように見えるけど、

 真っ直ぐに死を見つめる視線、
 握りしめたままの拳、
 すべて、ヨーズの猛烈な感情を
 表してるように見えた。

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_061

 ……ふざけんなよ。

 冗談じゃないんだよ。

 こんなに悲痛な
 怒りに満ちた場なのに、

 『狼』はこの中にいる、
 ってことだ。

「……私が埋葬します。
 2人はどうか、見張りを。
 
 血の臭いが獣を集めると
 いけませんから。
 
 その後は、進みましょう」

「悲しみに身を任せ、
 何もかも放り出したい
 気持ちですが、
 もう我らには、
 時間が残されていません。
 
 日没ごろ、
 『ヴァリン・ホルンの儀』
 行います。
 
 終わらせましょう。全てを」

 ……僕とヨーズは、
 黙ってうなずいた。

 これから何時間か続く、
 重苦しい沈黙の行軍。

 それをいっぱいに使って、
 考えるんだ。
 僕が願い得る、最善を。

 そうすべきだったはずだ。

 なのに。

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_062

「私を疑ってるでしょ」

 血の気が凍る気分だった。

 正午の休憩を過ぎて、
 行軍を再開した直後、
 僕が転んで雪に埋まった、
 その直後のことだ。

 転倒じたいは何度もあって、
 そのたび自力で抜け出した。
 なのに今回に限って、
 ヨーズが近寄ってきて
 手を差し出して──
 その時に、ささやかれた。

「おまえ、それ、共謀の禁忌──」

「黙って聞け。
 ビョルカは休んでる。
 小声なら起こさない」

 進行方向を見る。
 高い尾根の向こう。
 ビョルカさんの人影が、
 岩陰に腰かけてるのが見える。

 ……目を閉じてる。
 よほど疲れてるんだろう。

「……禁忌。
 『死体の乙女』を信じる道。
 『村』での過酷な暮らしを
 生き抜くための知恵。
 そう習うよね。
 
 気付いてるはず。
 結局それは、
 巫女が生き残るための知恵」

「……ああ、そうだったよ。
 
 禁忌にはふれるな。
 同胞には決して手を上げるな。
 仕方ない場合は『儀』に頼れ。
 心を『死体の乙女』に預けて、
 堅く結束しろ。
 
 『死体の乙女』を代弁する
 巫女様方は、うまくすれば
 絶対傷つかないしくみだ。
 
 考えれば誰でも分かる……」

 でも、だからなんだよ……!

 巫女様方は、色んな儀式や、
 さまざまな薬餌の知識、
 減った人数の『産み直し』
 あらゆる責を負ってる!

 『村』を産み育てる役だ……
 一番大事にされるべきだ……!

「……だから、言ってる。
 
 この状況でも絶対、
 あんたはビョルカを疑わない。
 
 で、私。
 『儀』で選ばれる。
 あんたとビョルカに。
 殺される。
 
 どうする?
 
 あれがビョルカに化けた
 『狼』だったら」

『ギ・クロニクル』第二夜(End 08「捕食」)_063

 今度こそ、血が凍った。

 ヨーズは僕の心の中を、
 正しく言い当てていた。

 僕が考えていたのは、
 『狼』はヨーズか、
 それとも自分の正体にすら
 気付いていない僕かの2択。

 ビョルカさんが『狼』だとか、
 思うわけがなかった。

 では、ありえないのか?

「あり、えない……」

「そう。言うしかない。
 そう思いたいだけだから。
 
 私が『狼』なら、
 ビョルカを殺して皮をかぶる。
 全員いいなりにできるから」

「……なん、なんだよ、
 なんなんだよ、ヨーズも、
 ウルヴルのジジイも……!
 
 『狼』が誰に化ければ得とか、
 そんなのどうして思いつく!?」

「おかしいんだよ!
 この場所は、この旅は全部!
 
 なんでみんなそんな、卑しい、
 おぞましい考え方が
 すぐにでもできるんだ!?
 
 『理』『乙女』に預けて、
 傷と痛みで魂を磨く……!
 そうやって生きて来たハズだ、
 なのに……!」

「そう。『村』ではね。
 
 もう、『村』はない。
 
 ……残念だけど。
 巫女ももういないよ。
 フレイグ。
 
 だから切り替えた。
 私も。ウルヴルも。
 
 遅かれ早かれだ。
 生きるには」

「僕は違う……!
 巫女の剣となり盾となって
 死ぬのが僕の役割だ……!」

「だから……
 
 言ってる。
 その役割は終わったって!
 
 思い出せ。
 勇士の、剣と盾の本質。
 
 みんなの前で、
 血と骨と肉を浴びる役だろ」

「汚れろ。考えろ。
 最悪の中から。命を選び取れ。
 
 あんたならできる」

「……
 
 しゃべりすぎ。疲れた。
 
 以上」

「待てよ!
 
 ヨーズ……
 なんで、僕なんかに、
 そんな……」

「……
 
 はあ。
 
 同じ、汚れ役。
 むしろそっちが格上。
 働けよ。と思った。
 
 とでも思っとけば」

 ……最後は不機嫌そうに
 鼻を鳴らし、ヨーズは結局僕を
 助け起こさずに去っていった。

 石でも呑んだ気分だ。

 普段あれだけ
 言葉をケチるヨーズが、
 今日あれだけ
 言葉を尽くして、
 僕の考えを変えようとした。
 事実としては、そうなる。

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