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『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)

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Twitterスペースをお聞きの方へ:
本コンテンツはリアルタイムの興奮をみなさんと共有するため、声優さんにもあえて脚本を事前にお渡しせず、皆さんとおなじ画面を直接読んでいただいております。
そのため、つっかえや読み間違え等が発生することがあります。
ご不便をおかけしますが、コンテンツの性質としてご承知いただければ幸いです。

 僕らは進み出した。
 レイズルさんの先導で。
 南じゃなく、北へ。

 そちらは、僕らが来た方……
 『黒の軍勢』の牢獄がある
 はずの方角だ。

 どういうことだ?

 僕らを救いたい、だって……?

「ヴァルメイヤを差し置いて、
 人が人を救うとは……
 ごう慢が過ぎるのでは
 ないですか、レイズル」

「ん~、言葉通りなんだけどな。
 
 俺は掛け値なしに、
 お前らを助けたいと思ってる。
 何なら、所属する組織の意志に
 逆らってでも、な。
 
 終わらせたいのさ。
 こんな、救いも希望もない
 『巡礼』を」

「うさんくさい。
 
 というか。
 まだ疑ってる。
 
 本物のレイズルなの、あんた。
 
 もしそうなら、
 あの死体は何」

「そうじゃ、
 ワシゃまだ納得しとらんぞ……」

「あー、それもそうか。
 
 これこれ」

──レイズルさんの手の中で、
 何かがピカピカ光った。

 直後、虚空から何かが
 ボトン! と雪に落ちてきた。
 ゴニヤとビョルカさんが
 小さく悲鳴をあげる。

 ああ、全部同じだ。
 昨日の晩と同じだ。

「……死体だ。
 レイズルの。
 しかも傷ひとつない。
 
 なにこれ」

「E級ギ・クロニクル、
 『無人の眼球』です!
 
 効果は『異世界における
 自分』
を召喚すること。
 
 ただし、召喚できるのは
 既に落命(らくめい)した死体に限られる、
 とゆー……」

「ゴミだろ?
 死を装う他に使い道もねえ、
 カスみてえな道具さ。
 
 魔術ってのは万能じゃない。
 度外れた奇妙な現象を起こす
 『ギ・クロニクル』も同じ。
 一部の例外を除いては、な。
 
 納得したかよ?」

「……この死体、
 うでがないわ……」

「喚(よ)び出せる死体の
 コンディションも
 選べないんですよねえ。
 
 だからレイズル氏は『毎回』
 自力でグチャグチャにしてた
 わけですけども。
 まーこの人ってばヘタレで。
 自分の死体もまともに
 見れない殴れない!
 
 結局いつもマチマチな
 仕上がりだったわけです!」

「なるほどのう……
 
 ムウ? それじゃと、
 『5回』というのは結局、
 同じようなことを
 何度もやって、
 レイ坊以外はそれを忘れて……
 なんてことを繰り返しとった、
 ということか?」

「あ~その辺は全部説明すっから
 まずは移動!
 移動優先で頼むぜ、ご一行!
 
 なんせこっちは
 寒さに弱いんだ。
 お前らと違って」

「別に私たちも、
 あなたと比べて特段強くは
 ありません。今はただ、
 『護符』のおかげで……
 
 ……え。
 そういえばこれは、
 『雪渡りの護符』ではないと
 言っていましたか……?」

「あとだ、あと!
 さあ進め、頑張れー!」

「……ゴニヤ、大丈夫かの?」

「ええ。ふしぎと、
 いままででいちばん、
 からだがかるいの」

「グッドです!
 では進みましょう!
 道中の退屈は、
 わが軽妙なトークとジョークで
 和らげてさしあげますよ!」

『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)_033

 ……

 それからも、僕らは歩いた。
 自信はないけれど、

 僕らは逃げて来た道を
 正確に辿っているようだった。

 行軍(こうぐん)のスピードは、
 なぜかやたらと早い。

 それでも。
 レイズルさんが「ここだ」と
 足を止めたのは、
 日がかなり傾いたころだった。

『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)_034

「お疲れだ、みんな。
 ま、一番疲れてんのは
 俺だけどな!
 お前らは別に、このくらいじゃ
 疲れないだろ?」

「あなたもプロでしょうに。
 おのおの方の気疲れも
 それなりと見ましたよ。
 なにせあなたが説明を
 もったいつけたままだから!
 
 フレイグ氏、大丈夫です?
 相当イラついてません?
 わたしのかわいさで
 和らげますね? うっふん!」

 この調子で道中延々と
 ピーチクパーチクやられ、
 僕の我慢は限界寸前である。

 まあ……たぶんだけど……
 悪いやつじゃないんだろう。
 この「アオイトリ」は。

 だから、本心をいえば、
 『祈祷者(きとうしゃ)の護符』も、
 そんなに邪悪なアイテムって
 感じはしないんだ。
 気のせいかもしれないけど。

「ふふ。いいですネ~、
 モノローグ即堕ちツンデレ。
 なんてのはおいといて。
 
 あなたを一番見てきたわたしが
 保証しますよ。
 
 あなたならきっと、
 この先の試練にも耐えられる。
 
 さて、着きましたね。
 わたしはアカに鍵でもかけて、
 しばし良い小鳥をしときます!」

 心を読むな……それに、
 ナゾの言い逃げもやめろって。

 レイズルさんが示してるのは、
 雪原の中にぽっかりと開いた
 洞窟の入り口だ。

 迷いなく、入っていく。

 僕らはそれぞれ、警戒したり、
 しり込みしながらも、
 結局はついていった。

『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)_035

「自然の洞窟じゃないのう。
 人の手で穿(うが)たれたもの、
 それも、相当に古いものじゃ。
 
 降りていくのか……
 どこへ連れてく気なんじゃ」

「ゴニヤは、わくわくするわ!」

「ゴニヤ、じっとしていて。
 危険かもしれません」

「墓のにおいだ……」

 穴の中には、地下へと降りる
 深い階段があった。

 暗い回廊(かいろう)を、
 青白い魔術の(あか)りが照らす。

 どことなく
 『奈落』を思わせる、不吉さ。
 ここに『真実』があるという、
 有無を言わせぬ迫力がある。

 ただし、目を背けたくなる
 ような、嫌な『真実』が。

 僕らはただ、降りていった。

「ようこそ、『起点(きてん)』へ」

『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)_036

 そう呼ばれたのは、
 すごく広い空間だった。

 大きな天井の魔術灯(まじゅつとう)に
 照らされてなお、
 果てが見えない、
 地下のドーム。

 そこを埋め尽くしていたのは、

 無数の、墓標(ぼひょう)だ──

「……何ですか、ここは」

「だから『起点』さ。
 『巡礼』のな。
 んーそうだな。
 『お前ら』にとっての、
 『ふりだし』と言ってもいい。
 
 お前らの旅はここから始まり、
 失敗するたびに、
 ここに戻ってきてるのさ」

「デタラメを言わないで下さい!
 こんな場所、知りません!
 そもそもその、我らが脱出を
 5回も繰り返しているとかも、
 納得していないのです!
 
 一体何を企んでいるのです!
 まさかあなたが『黒の軍勢』と
 通じ、『村』を滅ぼした、
 諸悪の根源では
 ないでしょうね!?」

「あ~、それな。
 
 じゃあ言うわ。
 
 デタラメなんだ、全部」

「……は?
 
 今あなたが言ったことが、
 ですか?
 それとも、謎を解いてみせる
 というあなたの言い分が?」

「違う違う。
 俺は今後いっさい誠実。
 『死体の乙女』にも誓える。
 そこは信じてくれ。
 
 デタラメなのは、
 お前らの知識。
 
 『村』とか、
 『黒の軍勢』とか、
 牢屋とか、
 
 実在しねーのさ。
 
 全部、俺がお前らに吹き込んだ
 作り話なんだよ」

 ……?

 ちょっと、
 ついていけなかった。

 僕だけじゃない。
 みんな、きょとんとして、
 互いに顔を見合わせてるだけ。

「言ってみれば、
 ここが『村』さ。
 お前らが生まれ、
 お前らが還る場所……
 
 ただ、それじゃ色々と
 都合が悪いから、
 生まれたばかりのお前らには、
 一通りのウソが吹き込まれる」

「『死体の乙女』を崇める
 カルトな『村』の住人で、
 異端狩りにあって全滅。
 敵の正体は『黒の軍勢』で、
 しかも『聖域』と繋がってる。
 だから、南へ逃げる。
 でも『狼』が紛れた。
 互いを疑いながら、
 脱出を成功させろ。
 
 これが『巡礼』の筋立てさ。
 覚えがあるだろ?」

「……いや、だからさ。
 それは、本当のことでしょ?
 嘘をつくとか、
 そんな余地がある話じゃ……」

「まあ、そうなるよな……
 もう召喚からだいぶ時間が
 経ってるし、
 記憶も固定化されてるか。
 
 とりあえず、フレイグ。
 そこの墓標、見てみろよ」

 言われるがままに見て──

 思わず、キレそうになった。

 だって、こんな、

 こんな、ふざけたことが──

「何だったのです、フレイグ!
 もったいぶっていないで、
 早く見せ──
 
 え?
 
 私、の、名前?」

「そうだよ。
 これはビョルカ、お前さんの、
 153回目の『巡礼』失敗と、
 死を弔った墓標さ。
 
 つうか、これ全部な。
 
 お前らの墓なんだよ」

「──ふざけるなよ!?
 そんな、そんなバカな、
 僕らはこうして生きてる!
 墓なんて立てられる筋合いは!
 それに、は? 何だって!?
 153回目!?
 何だそりゃ、『5回』って
 言ってただろ!?」

「いっぺんに聞かないでくれよ!
 つーかその『5回』だって、
 何だと思ってたんだ?
 もしや、時間が戻ってるとか、
 『リセット』されてるとか、
 都合よく考えてたか?
 
 死んでるんだよ。お前らは。
 キッチリ、馬鹿正直に、
 何度も何度もな」

「そのたび、
 何度も何度も喚び出されて、
 同じウソを吹き込まれて、
 『巡礼』に出される。
 
 何百年だか続いてきた、
 クソみたいな手続き。
 見守る方も結構キツくてな。
 歴代『監視者』は、最後には
 罪の意識に苛(さいな)まれちまう。
 
 それが積もり積もった結果が
 この巨大な墓所さ」

「俺も
 直近の『5回』の巡礼に、
 『祈祷者(きとうしゃ)の護符』でもって
 介入したのさ。
 
 ちったあ分かったか?
 
 間違いなく、お前ら5人は、
 何百年間、何千回の巡礼を
 繰り返してきた、
 囚われ人なんだよ」

 ……なんだ、それは。

 それじゃ、まるで、僕らが……

「……ムウ、確かに、
 これも……この墓標も、か。
 
 ウソは言っとらんようじゃの、
 レイ坊。
 
 つまるところ……
 ワシらは、死者か?
 
 魔術かなにかで蘇らされた、
 大昔の死びと、
 なんてところか」

「……なんで、冷静。
 
 ウルヴルは、
 死ぬのが怖いって……」

「……そうじゃの。
 じゃが、本当は、
 これを知るのが怖かったの
 かもしれん。
 
 もう死んどるなら、
 怖いもんも怖くないわい。
 
 それよりなにより、
 我が『本性』は、
 この謎を解きほぐすことを
 求めとるようでの……
 
 ゴニヤは、大丈夫か。
 落ち着いとるようじゃが」

「……ええ。だいじょうぶだわ。
 なんだかぜんぶ、
 しっくりくるの。
 
 でも、じぶんたちが、
 ただの死んだひと、というのも
 ちがう気がするわ。
 
 レイズルが言うのは、
 喚ぶとか、召喚とか。
 魔術のことばでしょう……?
 
 『よみがえらせる』とは
 いわないのよ、けっして」

「ゴニヤは賢いなあ。
 きっと『もとの世界』じゃ、
 高貴で聡明なお姫様
 あたりだったんだろうな。
 
 そうだな。
 『死者』ってのは半分アタリ。
 だけど本当のところは、
 
 お前らは、
 人間ですらない」

「お前らは……さしづめ、
 『異世界の亡霊』とでも
 呼ぶべき存在。
 
 とある手段によって、
 この世界に呼び出された、
 本来この世界には存在しない
 人物なんだよ」

 ……今度こそ、話は、
 僕らの理解を超えた。

 だから、誰もが黙った。

 それを見計らったように、

 しゃべり出したのは、
 『アオイトリ』だった。

『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)_037

「魔術というのは、
 万能でも、夢の力でも
 ありません。
 
 単なる、知識と技術の体系。
 人の知恵が世界の神秘を
 ひとつひとつ解明し、
 技として積み上げた物のうち、
 様々な事情からあまり広く
 知られていない体系が、
 そのように呼ばれているに
 過ぎません」

「だから本来、魔術では、
 大したことは起こせません。
 ヘルドラの工学や化学が
 もう少し進めば実現できる、
 その程度のものです。
 
 でもね。
 それでは足りなかった」

「もっともっと高度な性能で、
 もっともっとイカレた目的を、
 絶対に絶対に、
 果たさねばならない。
 
 そんな機会が、
 大昔にあったんです。
 
 使える技術は
 魔術しかなかったほどの、
 大昔に」

「とてつもない時間が、
 とてつもない労力が、
 とてつもない才能が、
 とてつもない人命が、
 
 その目的のために
 費やされて、
 
 その、奇跡ともいえるような、
 魔術の一品(いっぴん)は作り出され、
 
 『クロニクル』
 名付けられたといいます」

「しかし。
 『クロニクル』完成のために
 多くが犠牲とされた結果、
 そこにはあまたの悲劇と、
 山のような試作品・失敗作が
 残された。
 
 大半はガラクタでしたが、
 中には存在そのものが
 この世界を脅かすような、
 危険な試作品・失敗作も
 あったといいます」

「永い永い年月の果て、
 それらは離散(りさん)・埋没し、
 失われましたが、
 
 時折、なぜか、
 『奈落』の底から
 発掘されたりもするんですよ。
 
 その当代における総称が、
 『ギ・クロニクル』なんです」

「われらが『祈祷者(きとうしゃ)の護符』も
 そのひとつ。
 とある境界騎士団の調査中に
 発見され、回収された、
 『ギ・クロニクル』です。
 
 あ、ちなみにわたしはなぜか
 『護符』に憑りついてました。
 事情は一切覚えてないです!
 なんせ大昔の話だもんで!」

「ただ『護符』の使い方だけは
 覚えてたので、
 『聖いk』……ごほん、
 レイズル氏の組織に
 協力してるわけです。
 
 『祈祷者(プレイヤー)たちの
  祈りを束ね、所有者の心を
  動かす』
この力で!
 
 いえその、すっげー使いどころ
 少ないのは承知してます。
 無能ですハイ!」

「うん、まあ、そろそろいいや。
 ありがとよアオイトリ。
 
 まとめると……
 
 この世には『ギ・クロニクル』
 っつう厄介なガラクタがあり、
 ほっとくと世界を滅ぼし
 かねないから、
 回収し保管する必要が
 あるってわけだ。
 
 ここまではいいか?」

 ……何の話なんだ。

 正直、付いていくのが
 やっとだ。

 とはいえ、
 『ギ・クロニクル』が
 大昔のすごい魔法の道具だって
 ことと、レイズルさんがそれの
 管理人だってことは、
 理解できたから、うなずいた。
 他のみんなも、そんな感じだ。

 それが僕らに、
 どうつながるのか。

「……オッケーだ。
 
 まあ、後は単純な話でな。
 
 俺らの部署で、
 トップクラスに危険とされる
 『ギ・クロニクル』がある。
 
 『戦乙女(いくさおとめ)の冠』ってやつでな」

──聞いた瞬間、
 とてつもなく嫌な予感がした。

 冠?
 冠といって、思いつくのは──

『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)_038

 でも、振り返らなかった。
 理性で耐えた。

 そうしなければ、
 全てが終わる気がした。

『冠』の機能は、
 
 『既に滅びた異世界の
  怨念・妄念(もうねん)を呼び集め、
  怪物の形にして召喚する』

 
 ……ってもんでな。
 
 ざっくり言えば、
 とんでもない怨霊とか、
 邪神みたいな存在を、
 バンバン喚び出せるやつさ」

「本来は、その喚び出した怪物を
 操って、超強力な武器にする
 モンだったようだが……
 
 運悪く、憑(つ)いてる精霊が、
 ちとイカレちまっててな。
 
 自分が神だと信じ込んでて、
 見境なく力を使いやがるんだ」

「コイツを野放しにしたら?
 怪物を見境なく喚び出して、
 自分の信者に仕立て上げ、
 軍団を作っちまう。
 
 そんで適当なところで、
 『聖なる戦(いくさ)』とかいって、
 誰彼構わず襲い掛かるんだ。
 
 世界が滅びるまで続く戦争の
 呼び水なのさ、コイツは」

「たび重なる封印の試みは
 ことごとく失敗し、
 監視者たちは手を変えた。
 抑え込むんじゃなく、
 あえて力を浪費させることで
 暴走を防ごうとした。
 
 そのプロセスを、
 俺らは『巡礼』って
 呼んで、長いこと続けてる。
 
 もう何百年も、な」

「……待って、
 
 待って下さいレイズル、
 
 その話は、
 
 その話を繋げると、」

「……
 
 もう、さすがに分かったろ。
 ビョルカ。
 
 その怪物ってのは、
 
 お前らのことだ」

「設計者の趣味か知らんが、
 『冠』はどっかの世界の
 とある伝説に基づいて
 動いてる。
 
 『死体選びの戦乙女』
 
 戦場で死んだ戦士の死体を
 選定し、世界最後の大戦へと
 駆り立てる、怖い女神の伝説。
 
 どっかで聞いた話だろ?
 
 ちなみに伝説には
 裏があってな、」

「『死体選びの戦乙女』は
 冬の夜、死者や怪物をつれて
 死者の王の狩りに
 同行するんだそうな。
 目にする者全てを狩り尽くす、
 恐ろしい死の猟団さ。
 呼び名は色々ある。
 ワイルドハント。
 ヘルロスィング。
 そして……『オスコレイア』

『戦乙女』が怨霊を
 選りすぐって作り上げた、
 殺戮の怪物ども。
 
 それが、お前らの正体だ。
 
 あ~、もう説明も飽きたろ?
 俺は飽きた。
 で次なんだけどよ、」

「待ちなさい!
 
 信仰を汚(けが)す、でたらめの数々、
 聞き流すのも限界です!
 
 あなたの言(げん)で、嘘でないのは
 たったひとつだけ!
 あなたは我らとは違う!
 我らの同胞ではなかった!
 
 教敵(きょうてき)に対し、巫女として、
 罰を加えることを命じます!
 
 フレイグ!
 
 フレイグ?」

 動けない

 動けないです ビョルカさん

 でたらめ? 嘘?

 どっちのことですか

 僕らが考えて 見て
 理解をした『5回分』
 それにぴったり当てはまるのは
 真実は
 どっちですか

「……ゴニヤたちの、
 しょうたいが……」

「オスコ……レイア……」

「……!? 皆さんっ!
 どうしたのです!
 あのような妄言(もうげん)、耳を貸す
 必要などありません!
 耳を塞ぎなさい!
 フレイグ! 何をしてるの!?
 早く、早くあの男を──」

「……落ち着け、ビョルカ、
 考えがまとまらない……」

「考える必要などありません!!
 
 ヴァルメイヤのために!!
 
 我らの敵を倒すのです!!」

──命じられた

 なら

 しかたない

 突き動かされるように

 僕はビョルカさんの前に立つ

「……
 お前さんは、もうちょっと
 話せると思ってたんだがな。
 
 ヨーズとか、ウルヴル爺さん
 あたりは、分かってくれてる
 みたいだぜ?」

「ヨーズ……ウルじい……?
 だいじょうぶなの?」

「……つまるところ、
 『狼なぞおらん』という
 小僧の説すら真ではなく、
 
 ワシら全員、最初から『狼』
 じゃった、ということか。
 
 そして『狼』とは要するに、
 オスコレイアのことじゃ、と。
 
 聞いてみれば、
 納得しかないわい」

「……
 そうだね。
 
 考えてみれば、
 『5回』で私ら、
 凍越祭(とうえつさい)をなぞりすぎてた。
 
 『狼』が何なのか、
 たぶん心の底では分かってた。
 
 だから、ホントなんだろ。
 腹は立つけど」

 分かっている

 『鍵』を回せば分かるんだ
 自分の本質が
 死と破壊と冬の嵐だと

 なぜ自分がオスコレイアか
 理屈だって通った

 それでも

 受け入れられないものはある

「しょーがねえ。
 追加説明な。
 
 お前らが飯も食わずに雪山で
 平気で寝泊まりできて、
 大ケガしても死なねえのは、
 『護符』の効果じゃなく、
 オスコレイアだからだ。
 
 3日で消えちまうのも
 オスコレイアだからだ。
 真冬のみ降臨する魔物──
 寿命なのさ。お前らのな」

 受け入れられないものはある

「あ、自分の人生の記憶は
 何なんだって?
 ただの洗脳だよ!
 召喚したてのお前らは、
 『戦乙女』が許す範囲なら
 何言われても信じちまう。
 
 それを利用して、お前らが
 うまく殺し合うような
 過去と思想を吹き込むのさ。
 
 お前らの信仰は。歴代の
 監視者の嘘の集大成ってわけ」

 受け入れられないものは ある

「心当たりはあるはずだ。
 なぜヨーズは、得体の知れない
 高度な銃を持ってる?
 なぜゴニヤは、辺境らしくねえ
 上品なしゃべり方だ?
 なぜ『村』の名前が
 いっこうに出てこない?
 
 お前らの『設定』は穴だらけ。
 なのに疑問にも思わないのは、
 洗脳が効いてる証拠なのさ」

 受け入れられないもの とは

「ま、あまり気に病むなよ。
 お前らは怪物だが、
 恐ろしく『人間臭い』怪物だ。
 
 死を恐れ、
 嘘八百を信じ、
 神にすがって団結し、
 偉業を成すかと思えば、
 言葉一つで獣に戻り、
 全部殺してぶち壊す。
 
 どうしようもなく『人間』だ。
 
 問題は結局、そこにある」

「『冠』を支配する精霊は、
 神として、
 自らのありがたい導きで
 『巡礼者』の魂を
 完璧に磨き切るため、
 この試練を続けてるんだと
 思い込んでる。
 
 でも、その『完璧』って何だ?
 
 決まってねえ。一切」

「『冠』の精霊は、
 この『巡礼』でお前らが
 ヴァルメイヤ信仰に根差した
 何かとんでもなく超人的な
 偉業を成すことを期待してる。
 
 仲間を殺し、
 死を受け入れ、
 一切を疑わないって信仰に
 完璧に沿った超人、偉業。
 
 無理に決まってる。
 『人間らしさ』が無えからだ」

「思い出してもみろよ。
 どんなに疑念を押さえつけ、
 最善を尽くしても、
 1日目の『犠』か、
 2日目にクマだらけの地帯を
 通過するまでには、
 お前らは平静を失って、
 言っちゃいけねえ言葉を
 ぶつけ合う。
 それが『鍵』を回し、
 人が死に、疑念はあふれ、
 『儀』が乱用されて、
 お前らは終わる」

「そんなお前らに、
 ヴァルメイヤの納得する形で
 『巡礼』を終わらせることは
 可能か?
 
 答えは、限りなくノー、だ。
 
 この墓標の群れが、証拠だ。
 
 億年繰り返せば分からんが、
 残念ながらこの世界は
 そう長く持たねえだろう。
 
 つまり。
 『巡礼』にゴールは、ない」

 いくら絶望を
 山と積まれても

 受け入れられない もの

 それは

「改めて、まとめるぜ。
 
 『村』『狼』『儀』
 これらの筋書きを真に受けて、
 お前らは共食いを繰り返す。
 
 お前らの人間らしさのゆえ、
 試練の終わりは決して訪れず、
 ヘルドラの平和は保たれる。
 
 これが『巡礼』の真実だ。
 
 まだ分からねえのか、
 フレイグ、ビョルカ──」

『おまえは いらない』

──受け入れられないのは

 ビョルカさんへの侮辱だ

 のしかかる
 首をひねりあげる
 圧倒的な力だ

 この男を殺すことはたやすい

 どうやったら
 どうやったら
 そうやったら

 ビョルカさんの誇りを
 回復できる

「へっ、昨日とは逆の構図だな。
 いいぜ、殺せよ!
 お前らにはその権利がある!
 お前らに自覚がなかろうが、
 何千回と殺された魂が
 それで報われると思うなら
 やりゃあいい!
 さあ、やれ!!」

 頭の中が真っ赤になる

 望み通りにしてやろう

 思い切り殴ろうと
 振り上げた拳が

 誰かに引き留められた

「おまえの怒り、
 わかるぞ、フレイグ!
 
 じゃが! ここは抑えろ!
 落ち着いて考えてみい!
 どう見ても、ひっかけじゃ!」

 止めるな

「フレイグ!
 ゴニヤにはむずかしい、
 わからないことばかりよ!
 でも、わかることもあるわ!
 レイズルはひねくれてるけど、
 いみもなく怒らせるような
 ことは言わないって!」

 手を離せ

「罠! それか試されてる!
 分かるだろ、あんたなら……!
 
 あんたがキレて、
 ビョルカもちっとは救われた!
 
 だから……見ろよ!
 いるだろ、ここに!!」

──何を言ってるんだ?

「──フレイグ、フレイグ!
 
 私が間違っていました!
 
 まだ信じられないことはある!
 分からないことも!
 でも……私は!
 私は、あやまちを犯した!
 
 あなたの優しさに付け込んで、
 レイズルに剣を向けさせ、
 自分の後ろめたさを
 隠そうとしたんです……!」

「だから! あなたは、
 この拳を
 振り下ろしてはだめ!
 
 お願いです!
 どうか、止まって……!!」
  ……

 俺は、

「……チッ、やんねえのかよ!
 残念だな!
 お前らに殺されたなら、
 俺の罪悪感は消え失せ、
 組織から遺族年金も出るうえ、
 お前らだってある意味、
 現状維持ができたのになあ!」

 ……俺は、

 僕は、

 みんなの剣であり、盾……

「……茶番はやめろ。
 
 言ったよな。
 僕らを救いたいって。
 
 正体を分からせて、
 思想を捨てさせて、
 わざと怒らせたうえで、
 怒りすら手放させた。
 
 それでもみんな、残った。
 
 ぜんぶ、計画通りなんだろ。
 
 教えてくれ。
 
 救いって、何だ」

「……
 
 『巡礼』を、
 強制的に終わらせる。
 
 『戦乙女の冠』とお前らの
 全ての魔術的繋がりを断ち、
 アオイトリの協力で
 『冠』を破壊する。
 それが、お前らを救うため、
 俺が立てた計画だ。
 
 もう、ほとんどの手続きを
 お前らは終えてる。
 残るはあとたった一手……」

「……それで、長年続いた
 『巡礼』は金輪際、終わる。
 
 お前らは二度と苦しまない。
 憎み合い、殺し合うことなく、
 消えることができる。
 
 これが救いと思えるかは。
 お前ら次第。だがな」

 ……

 やっぱり、か。

 苦しみの終わり。
 穏やかな消滅。
 無。
 そういう意味での『救い』

 でも、
 全てを捨ててきたから分かる。

 それがもう、
 一番いいんだと。

「私は、それがいい。
 色々納得。
 せいせいした。
 めんどくさく、なくなった。
 
 一番いい。
 いま消えるのが」

「そうじゃな。
 ワシも案外、
 悪くないと思えとる。
 
 どうせ明後日には消えるなら、
 このまま皆と静かに消えるのも
 悪くない、とな。
 
 ゴニヤは、不憫じゃが……」

「……まあ、ウルじいったら!
 こんなときまで、
 ゴニヤのせいにしてはダメよ!
 
 ゴニヤだって、わかったわ。
 ここで止めないと、
 別のゴニヤたちがうまれて、
 くるしみつづけるのでしょう。
 
 ここで終わるのが、
 いちばんだわ」

「みんな……
 
 ……ビョルカさん、は、」

「仕方ない、でしょう。
 
 それしか手がないのなら……」

 ……

 大丈夫、なのか。

 ここまでのやり方を見れば、
 どうせ最後の一手も、
 最悪なやつに決まってる。

 守れるのか。

 ……守るんだよ。
 決めただろ、フレイグ……!

「……異議はないようじゃ。
 
 レイ坊。いや、レイズル。
 教えてくれい。
 
 最後の一手とやらを」

「……分かった。
 
 最後の一手は、
 『戦乙女の冠』の所持者を
 『犠』とすること。
 
 たったそれだけだ。
 
 分かるよな?」

「……
 
 は……?
 
 おい、
 
 それ、は、」

「『戦乙女の冠』の憑依精霊・
 仮称イクサオトメは、
 オスコレイアたちの召喚後、
 最もお気に入りの一体に
 『冠』本体を所持させる。
 
 そして、そいつを中枢(ちゅうすう)として、
 他のオスコレイアに
 思想と支配を広げていく。
 
 つまり、分かるだろ。
 
 『敵はお前らの中にいる』

 ふざけんなよ

 『敵はお前らの中にいる』とか
 全部ウソなんじゃ
 なかったのかよ

 ふざけんなよ……!

 『冠』らしきものを所持した、
 僕らの思想と支配の中心だと、

 そんなの……
 ひとりしかいないだろ……!!

「ふざけちゃねえさ。
 ハッキリ言うぞ!
 
 『儀』の通り、
 『真の敵』を自分独りで考え、
 誰か1人を指させ!
 自分が『真の敵』と思うなら
 どうにか自分を指さすんだ!
 そして全員一致にて、
 『真の敵』を『犠』にしろ!
 
 それが救いのための、
 最後にして唯一の一手だ!」

「おい! 精霊!
 アオイトリ!!
 こんなのないだろ!
 デタラメなんだろ、なあ!!」

「……」

すみません、黙っていて。

デタラメでは、ないんです……

「……一応、聞くけど。
 『犠』にするって、
 殺すってことでいい?」

「他に何があんだ」

「レイ坊、きさま、
 自分が何を言っとるか
 分かっとるのか……」

「当たり前だろ。
 どうせみんな消えるんだ、
 先に1人消えてもらったって
 大して変わらねえって!」

「ワシらは信仰も、神も、
 何もかも失ったあとじゃぞ!!
 
 そこで行う『儀』なんぞ、
 
 たった一つ残された、
 同胞という繋がりも捨てて、
 ただ一人に罪をかぶせて
 はじき出す、
 おぞましい行いに他ならん!」

「それそれ。
 まだ抜けてねえな。
 『信仰があれば許される』
 『同胞なら罪は問わない』
 あとはあれか、
 『強いられた罪は罪じゃない』
 あたりも追加すっか?
 
 そういう逃げ道、全部捨てろ!
 もう一回だけ言うぞ!
 これしか道はねえんだよ!!」

「ああ、そうこうしてりゃ
 時間切れだ!
 今夜のうちにやらねえと、
 お前らを支配する信仰の鎖は
 破断不能になる!
 
 腹くくれ、お前ら!
 
 アオイトリ!
 最終儀式を開始する!」

『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)_039

 号令とともに、
 辺りが奇妙な光であふれた。

 青白い、神聖ささえ感じさせる
 光に満ちた空間。

 かろうじて、分かるのは、

 計り知れない魔術的なことが
 とてつもない規模で
 起きようとしていることと、

 話はもう、
 取り返しがつかないところまで
 進んでしまったのだ、
 ということ。

『ヴァルメイヤ』
  異郷の神の名をかたる、
  死と狂気の中核よ!
  猟兵(りょうへい)どもの反乱を、
  今ここに見届けろ!
 
 死と罪と、絆にかけて──」

 聞いたことのない祈り。
 それに合わせ、
 光が僕らに絡みつき、
 繋いでゆく。

 何かとてつもない、
 魔術的なことが起きるのだと
 否応(いやおう)なく訴えてくる。

 なぜだ。
 なぜ、こんな仕打ちを
 受けなきゃならない。

「……たぶん、レイズルは……
 ことばどおりじゃなくて、
 何かおもいがあって、
 言ってるとおもうの……
 
 だけど……でも……
 
 何を言われたって、これは……」

「……私、むり。
 
 ただ消えるだけの救済。
 そのために、最後の、
 同胞の、心のつながりまで
 捨てろって言われても、
 
 それなら……
 永遠に、
 殺し合い続けたって……」

「ムウ……」

「それは、だめですよ……」

「おねがいですから!
 
 何も言わないでくださいッ、
 ビョルカさん!!」

「……いいのです、フレイグ」

 手を、握られた。

 氷のように冷たい、震える手。

 声も、震えていた。

「ここまで間違い続けた、
 愚かな私への罰なのです、
 きっと。
 
 ならば、
 『救い』がいかなる形で
 訪れるかに関わらず、
 
 甘んじて受けるのが、
 つぐないというもの、
 
 指させば、いいのでしょう?
 
 『冠』とやらを所持する、
 すべての諸悪の根源を、」

「おい! ご歓談(かんだん)も結構だが、
 マジでもう時間がないぜ!」

 冷たい手が、離れる。

 ビョルカさんは、
 もはや肩で息をしている。

 顔がみるみる、青ざめていく。

 そして、
 震える手を持ち上げて、

──頭を、抱えた。

「どうして わたしが こんな」

「……おいおいおい、」

「ただ 善(よ)く生きたかった
 
 おのが役目を全うして
 皆さんに尽くして
 ただ
 皆さんの真ん中にいたかった
 
 皆さんから指さされて
 ひとり消えるのだと思うと
 
 悲しすぎて
 手が 動かせない」

「なにが いけないのですか
 
 わからない
 
 ああ ああ ああ
 
 わかった
 わからないことが
 いけないのですね
 
 こんなにも愚かな
 愚かな
 『私など、
      いらない』
──」

 その瞬間、
 空間に殺人的な光が溢れた。

 真っ白で熱を伴った光に
 僕らは思わず悲鳴を上げる──
 これは──
 ビョルカさんを中心に
 渦巻いてる──!?

「──鍵の生成、だと!?
 
 おいっアオイトリ!
 どうなってる!?
 仮称イクサオトメの憑依体は
 オスコレイア化できないって
 話だったろうが!?」

「想定外ですぅ!
 まさか自力で『鍵』を
 作ろうとするなんて……!
 
 憑依体がオスコレイア化して
 暴走すれば、何が起こるか
 分かりません!
 というかほぼ百パー
 大惨事が起きますよ!?」

「……くっそ、仕方ねえ!
 アオイトリ、
 祈祷の力を集めろ!
 100万点くらいありゃ、
 奇跡でどうにか、
 アレを抑え込めんだろ!!」

「そっ、そんなムチャかつ
 行き当たりばったりなァ!?」

「のう、レイズルや。
 
 ワシの考え、聞いてくれんか?」

「なんだよ爺さん!
 よく知らねえことに
 余計な口出しは──」

『死ぬから許せ』

──今度は何だ!?

 急に光が消し飛んで、
 まがまがしい風が巻き起こる!
 その中心は……
 ウルヴル……いや、
 明らかに、雰囲気が違う!

「ふん、
 ようやく『鍵』を回したか。
 これで少しはまともに動ける」

「……何しに出てきやがった、
 ヴェズルング……!」

「な、なんて……?
 ヴェズ?
 
 ウル、じいじゃ、ないの?」

 「如何(いか)にも、我はウルヴル。
 ただ、
 我がオスコレイア態の知性は、
 少しばかり人智を超越するゆえ
 人格の同期が完全ではない。
 
 それでも確かに、この策は、
 ウルヴルの意志と発想から
 生まれた。
 
 我はそれを可能としよう。
 ヘルドラより遥かに進んだ
 魔術知識によって」

「フン、しかし、
 まさかウルヴルが、
 このような奇策に出るとはな。
 
 死の奇跡で為すことが、
 生でなく死とは……!
 
 クク……ハハハ!
 
 見せてみよ、
 祈祷者(プレイヤー)ども!
 
 この血濡れた美しき奇跡を、
 最悪にして、唯一の解を、
 貴様らが受け入れるか否か!!」

 言ってウルヴルは、
 胸に手を当てた。

 あっ、という間もなく、

 その手は己が胸へと潜り込み、

 次の瞬間、

 心臓を、掴み出していた。

 青白く光る、
 オスコレイアの心臓を。

「──うる、じい、
 
 なに、してるの、」

「……なに、ゴニヤ、
 簡単なことじゃ。
 
 要するにレイ坊は、
 ヴァルメイヤの嫌う
 あらゆることをやって、
 ヴァルメイヤを騙(かた)る精霊を
 ぶちのめす魂胆じゃ。
 
 決め手の一つがだめなら、
 他の決め手で補えばええ。
 
 我らが──ワシら自らが、
 自死の禁忌を侵すとか、の!」

 言葉とともに、
 握りつぶされる心臓。

 響き渡る、ゴニヤの悲鳴。

 ぞっとするような、
 黒い光が一瞬あふれて、

 すぐに消えて、

 残ったのは、

 青白く、光輝く槍、
 いや、長大な剣──

 『ワシの短い寿命と力を
 すべて使い 武具に変えた
 
 これに触れ ワシにならえば
 皆も同じくなれるよう
 整えとる
 
 皆よ
 
 ビョルカを指さすなら
 我らの命をもってなそう
 
 ともに生きられんならば
 せめて ともに消えよう
 
 ひとりには させん

 さらばじゃ』

「……
 
 ウルじい、
 
 ウルじい……
 
 さよう、なら。
 
 『理を捨てよ』
 
 うっ、」

 振り返ったゴニヤは、

 涙まみれの、笑顔で、

 左手は、ウルヴルに触れて、

 右手には、心臓があって、

「かなしいのは、しかたない。
 紛(まが)いものでも
 いきものだから、
 
 それでも、確かに、うれしい。
 
 よかったね、ウルじい。
 さいごに死を、のりこえた。
 
 わたしも──ゴニヤも、のる。
 この策、『理』しかないのに、
 とてもとても、愛おしいから。
 
 ごきげんよう!」

──握りつぶした。

 黒い閃光が消えたのち、

 ゴニヤもまた、
 一振りの、剣となった。

「……
 
 ビョルカ。
 
 みえてる?」

 はっとして、振り向いた。

 ビョルカさんは……
 ビョルカさんらしき光の塊は、
 膝を折り、うずくまっている
 ように見えた。

 レイズルさんが必死に、
 なにか呪文みたいなものを
 唱えている。
 ひどいことが起きるのを、
 止めようとしてるようだ。

 言葉が届いているかは、
 分からない。

「みえてるはず。
 聞いてるはず。
 あんた、根性あるし。
 今でもきっと、
 気持ちに負けないよう
 踏ん張ってるだろ。
 
 『あなたの想いは醜い』
 
 ウルヴル。ゴニヤ。
 してやられたよ。
 思いつかなかった、
 こんな抜け穴。
 
 フレイグ」

 やめてくれ。

 やめてくれよ。

 ヨーズまで、そんな、
 心臓を、掴み出して、

 もしかしたら、
 僕は、ヨーズのことが、

「よそうよ。
 未来はもう選べない。
 選べるのは、ましな最後だけ。
 
 このまま、あたしらは──
 私らは、一緒に消えました。
 それでいいじゃん。
 私好み。
 
 でも、しんがりの大役は、
 あんたに任せた。
 
 『館(やかた)で』……じゃないな。
 『またね』……でもない。
 
 じゃ」

 ……

 三本目の、剣が生まれた。

「フレイグ氏、フレイグ氏。
 
 やはり、難しいです?
 
 あなたにとって、
 最大の禁忌に挑むのは」

 ……

 難しいか、だって?

 難しいさ、そりゃあ。

 でも、やめてどうなる。

 みんなの決意は無駄になる。
 ビョルカさんは怪物になる。
 そして、『冠』とやらの力で、
 世界をめちゃめちゃにする。

 そんなところだろ?

「……ええ。もしやめれば、
 あなたの心配通りのことが
 起きるでしょうね。
 
 ただ、正直に言いますと、
 
 その時、あなた方が、
 世界を滅ぼす軍勢として、
 再び召喚されることは
 あるかもしれません。
 
 それがあなたの幸せなら、
 
 あなたには、選ぶ権利がある」

「──てめっ、アオイトリ!
 裏切る気か!?」

「……あー。
 ありゃ無視していいですよ。
 しょせんあなたを利用する者。
 
 祈祷を、人の願いを
 司るものとして、
 わたしは公正にやりますので」

「もうひとつ、大事なこと。
 
 あなたが『4本目』になれば、
 あなたの意識は消えてしまう。
 狙いはわたしがつけますが、
 『指(ゆび)さす』という最後の意志は
 祈祷者(プレイヤー)各位に
 委ねられます。
 
 かれらの祈りを乗せて、
 『冠』の呪縛ごとビョルカ氏を
 『指さす』わけです」

「それが叶うかは、
 実のところ……不明です。
 
 悲しみと喪失(そうしつ)のみを残す
 『救済』を、
 祈祷者(プレイヤー)各位は
 受け入れないかもしれません。
 
 そのような賭けを
 望まないならば、
 
 あなたは3本の剣を折って、
 彼女を見守ることもできます」

 ……

 そうか。

 よく分かったよ。

 口でうまく言えるか
 自信がないから、

 このやり方で、伝えよう。

 アオイトリ。

 ここまで、ありがとう。

 お前、いいやつだよ。

 そんなにおしゃべりなのに、
 僕らの醜態を6回も見守って、
 気休めやおためごかしは、
 結局一度も言わなかった。

 正直、レイズルさんはもう、
 信じる気がしないけど。

 お前なら、信じるよ。
 きっと最後までやりとげて
 くれるって。

 そして、
 祈祷者(プレイヤー)とかいう
 みんな。
 見てるか。

 僕らは生きた。
 あんたらが、それを見た。

 礼を言う。

 それだけで、
 ここまでで、

 僕らの存在は、報われた。

『ギ・クロニクル』第六夜(End A「夜明け」)_040

 最後まで 見ててくれ

 この 僕の心臓を

 これが 僕の 答えだ──

【接続が失われました】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【再試行…失敗】
 【再試行…失敗】
 【再試行…失敗】
 【再試行…失敗】
 【再試行…失敗】

 【簡易接続試行…成功】

 祈祷者(プレイヤー)各位!

 接続が乱れています!
 映像が、途切れてっ!

 テキストのみで恐縮ですが、
 要件のみ!

 4本の剣は、
 わたしが保持・操作中です!
 座標計測、魔力調整は完了!
 さらに、
 4本のうち3本の意志は、
 残る1本に集約するかたちで
 強固に固定されています!

 のこる1本の意志を、
 あなた方の世界へと
 同期します!

 残り時間は、ごくわずか!

 いきますよ!!

【ルート分岐】

『ギ・クロニクル』では、キャラクターの生死や通るルートも全てユーザー投票にて決定。アンケートはTwitter スペースで実施されている「リアルタイム実況」の進行に合わせて、電ファミニコゲーマーのTwitterで実施されます。アンケートツイートがない場合は、少々お待ちください。

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