ゲームの面白さを決めるコアから変えた新作の挑戦
──いまのゲームの作りかたの話から、あらためて新作『FIGHTING EX LAYER』の話をさせてください。原田さんは『FIGHTING EX LAYER』をご覧になって、まず何を感じましたか?
原田氏:
原点に帰っていますよね。アリカさんて、戦争に喩えるなら、持っている武器も補給ラインも拠点も決して大きなわけではない。そこが戦おうとしているので、逆に「ゲームの面白さをどう伝えていけるか」に賭けているなと感じます。
西谷氏:
実際、ここまでこれたのは奇跡ですよ。最初はプロトタイプを作ったりしながら、「Unreal Engine【※】を練習しようかな」という思いもあって、4月にエイプリルフールネタとして発表したんです。そのときももちろん発売したいという気持ちはありましたけど、実際は「できるの?」という感覚だったんです。
そこからいろいろなご協力がありまして、原田さんにも個人的にご協力いただいて、そういう細かいことが積み重なってようやく現在に到るので、「ここまでよくできたな」という感じです。原田さんの言うとおり、ウチの規模でコレだけのものを作り、ウチだけでパブリッシングして出すのは本来は難しいんですよ。
原田氏:
逆にいい時代になったということもありませんか? たとえば、昔はこういう絵って各会社のパワーのあるプログラマーがスクラッチで組んだ描画プログラムを組んでいたわけですが、Unreal Engineを使うことでかなり開発労力を減らせているとことはありますよね。
西谷氏:
ありますね。
原田氏:
しかし、あらためてオリジナルタイトルの格ゲーで勝負しようというのもすごいですよね。
西谷氏:
本当にすごいですよ。自社でパブリッシングなんてものすごい久しぶりですね。
原田氏:
アークシステムワークスさんの『BLAZBLUE』【※】とかもビックリしましたけどね。
西谷氏:
でもそれはもう相当前の話ですよね。
原田氏:
相当前ですけど、それでも当時は「完全オリジナルものの2D格闘で完全新作は、当面出て来ないんだろうなあ」と言っていましたよ。そうしたら、完全オリジナルIPが登場して、いまではちゃんとIPになっている。
──じつは新作ゲーム『FIGHTING EX LAYER』を発売に踏み切るまでの過程を三原一郎さん【※】にも伺っていますが、決して楽観視しているわけではないとのこと。厳しいことを解っていながら、「それでもやる」という判断をされたのは、なぜなんでしょう?
※三原一郎
アリカ副社長。開発者としてタイトー、カプコン、スクウェアを経たのち、西谷氏とともにアリカを設立。広報的な活動から開発のコントロール、対外的なネゴシエイトに到るまで、幅広く活躍する人物。
西谷氏:
三原にも「格闘ゲームを作りたい」とはちょこちょこ言っていたんですよ。私も社長としての立場もあるので、なかなか表立っては言えません。ですがエイプリルフールのときから急に三原のテンションが上がり始めて。どちらかと言うと彼のほうが「やるんだ」という感じだったので、それに乗った感じでしたね。
原田氏:
勝算があるからやっているわけですよね?
西谷氏:
最初に手応えを感じたのはエイプリルフールですね。
あのときは当日に告知したので会場に誰も来ないと思ったんですが、30人くらいが来られて、そのうち3分の2くらいは海外の方だったんですよ。YouTubeでも放映したところ、けっこう観ていただけました。
詳しい数字までは知らないんですが、同時視聴者数が3万ほどあったとのことで、いっしょに解説してくれてたゲーマーのかずのこさんが「たいへんな数です!」と言ってくださいました。
原田氏:
その3万人は全員スカロマニア【※】のファンですよ。
一同
(笑)。
西谷氏:
そこで手応えをまず感じました。つぎはEVO【※】のときですね。いまも原田さんがスカロマニアの話をしていますが、僕らからするとスカロマニアって「おふざけ枠」というかイロモノだと思っていたんですよ。
でも海外に行ってスカロマニアが居ない状態の試遊台を置いたら、来る人来る人から「スカロマニアは出ないのか?」と聞かれて、本当に人気があるんだなと。
原田氏:
彼らも超シリアスなキャラだとは思ってませんよ?
でもヒーローっぽいじゃないですか。EVOのときの反応で面白かったのは、普通は映像が始まって20秒から30秒くらいで盛り上がりの最高潮がくるんですけど、このときはスカロマニアが出たときに急にMAXになったじゃないですか(笑)。
西谷氏:
あれはすごかったですね。あれでスカロマニアの人気を実感しましたし、ふたつ目の手応えになりましたね。
──原田さんが気になっていた“勝算”は、「いまあるゲームより面白くできる要素はなんなのか」というところでしょうか。
原田氏:
ええ。失礼な言いかたですが「ここからどうすんですか?」というようなことを訊ねたときに、三原さんから「外側の仕組みを考えてる」と返ってきて。それは「同じキャラでも違う動きができるようなものだ」と聞いたときに、「いまの感覚に合っているのかな」と思って。
格闘ゲームって「フィジカル的に鍛えるべきなのは自分だけ」というすごくシビアなゲームで、フィジカルを鍛えたり経験を溜め込んだりしたうえで、結果をすべて自分で背負わなければいけない。でもこの新作のシステムだったら、ほかにも上を目指す方法がいろいろあるような気がして。「腕立て伏せばかりするんじゃなくて、お前にはテニスラケットという武器もあるぞ」みたいな。
西谷氏:
まさにそうです。
──ゲームの面白さを決めるコアそのものを、新作ではいじっているということですよね。続けてそれら新システムの詳細が伺えればと思います。
1ラウンド目と最後のラウンドで状況が変わる!? 面白さの核は“強氣システム”
──まずはゲーム画面の下に表示されている青や黄色のアイコンについて。既存の格闘ゲームのゲージとは異なるもののようですが、もう少し詳細にご解説いただいてもいいでしょうか?
西谷氏:
これらは「強氣(ごうき)システム」というものです。青いのは大きな違いは出ませんが、メインは黄色で、プレイ前にこれらを選び、「システムを載せ替えてしまおう」というコンセプトのシステムなんです。
たとえば「ハーデス」という強氣を選ぶと、キャラクターにスーパーアーマー【※】が付きます。どのキャラでもスーパーアーマーが付くわけですね。これは強いですよ。
※スーパーアーマー
相手の攻撃を受けても、のけぞりなどのリアクションを取らずに闘える状態のこと。のけぞりの隙は大きいため、それがない分有利になる。ただし、体力は通常どおりに削られる。
原田氏:
常に発動しているんですか?
西谷氏:
発動条件があって、例えば「10回ダウンしたら発動しますよ」というものなどです。だから相手の強氣に発動してもらいたくなければ、ダウンさせないような技で攻める必要があるかもしれませんね。
そして1回発動してしまうと、決着がつくまでラウンドを跨いでも発動したままになります。つまり1ラウンド目と最後のラウンドでは状況が全然同じではなくなるわけです。
──カードゲームの発想に近いですね。
西谷氏:
そんな感じで思ってもらっていいですね。そういう話を聞いた三原が、急に「それ、売れますよね?」とやる気になったんです(笑)。
一同:
(笑)。
──確かにこのシステムなら、フィジカルな鍛錬以外にも勝利への道筋がありそうですね。
西谷氏:
もともとアイデアはあったのですが、地道な努力を壊すことになるため、嫌がる人もいると思っていたんですよ。僕も5年前までは「ダメかな」って。でもいまならいいかなと思えるようになってきて。
原田氏:
その感覚は解る気がします。なんとなく「いまっぽいんだろうな」となぜか思ったんですよ。そういう時流みたいなものってありますよね。
──それはランダムにマッチングするオンラインが前提だからというのもあるんでしょうか。カードゲームで偏ったデッキでも勝ったり負けたりが一定の確率で起きるという。
西谷氏:
それもありますね。
原田氏:
マッチング次第ではこっちがかなり有利になったりするんですよね。昔のカードゲームなら、テーブルに集まった人たちがすべてだから、負ける人は負け続けちゃうけど、確かにいまはオンラインが前提だから相性次第で勝てると。
西谷氏:
入れるかどうかは別ですが、たとえば1ラウンドが終わった時点で、強氣の1個か2個を入れ替えられるなどのアイデアはまだあって。
単純に相性だけで決まってしまうのもどうかとは思うので、多少はカウンターになる要素も入れていく感じです。
原田氏:
ほかにたとえば「ゴースト」の強氣だとどうなるんですか?
西谷氏:
このゲームにはダッシュがあるんですが、「ゴースト」はダッシュしたときにキャラクターが見えなくなるというものです。当たり判定はあるけど、完全に見えなくなります。投げキャラでも消えるので……。
原田氏:
知らないうちに目の前に寄って来るんですね!
西谷氏:
そうです。攻撃をガードしたり受けたり、もしくは自分が攻撃を出すと姿を現します。
──まったく見えなくなるというのは強力ですね……。一方の青い色の強氣にはどういった効果があるんですか?
原田氏:
青いのはパッシブスキルみたいな感じですか?
西谷氏:
青いのはステータスが変化しますね。だから黄色いものほど劇的には変わりません。これには面白いものと面白くないものがあると思います。例えば多少攻撃力が上がっても面白くないですよね。そういうのはやりたくないですよね。
──細かい話になりますが、手持ちの強氣を相手に「見せるか、見せないか」というのも重要になりそうですよね。
西谷氏:
そうですね。それも考えているところです。たとえば本来5個が隠れているけど、ラウンドが進むにつれて見えるところが増えていくとか。
原田氏:
格ゲーとして新しい発見があるかもしれませんね。
西谷氏:
対戦するときは、もちろんキャラの相性も考えないといけないんですが、進めるうちにシステムが本体のようになってくるんですよね。キャラによってはシステムそのものとの相性もありますが。
──カードゲームの、対戦の外で考える面白さと、対戦で考える面白さのメリハリを、格ゲーに持ってくるのはすごいと思います。
西谷氏:
そうなんです。ストイックな方法で巧くなろうとしても限界がありますよね。それで格ゲーから離れていってしまった人に参加してほしいんですよ。でも現状は複雑でわかりにくいので、どこまでわかりやすくできるかという腐心をしています。
それから「ラウンドを跨いでも強氣は発動したまま」と言いましたが、これにはゲームの流れを変えたいという意味もあるんです。格闘ゲームはゲージの持ち越しなどの要素はありますが、基本的にはラウンドが変わっても同じことをするだけ。
それを後にいけば行くほどゲーム性が変わっていくようにしたいんですよね。「相手にスーパーアーマーが付いたから、攻めかたを変えないといけない」とか。
──強氣の積み重ねかたによっては、一発逆転のチャンスもあると。……強氣は個別で販売したりしないんですか?
西谷氏:
それで三原と揉めているんです。三原は開発費を確保したいので売りたい。けれど私は売りものにしたくない(笑)。
原田氏:
(笑)。いまの画面で見ると、『グラディウス』【※】の装備みたいじゃないですか。「『グラディウス』の装備を細かい単位で売る」って聞いたら、西谷さんがどんな極悪人かと思われますよ(笑)。
そこまで行ったら、画面に500円玉を並べたらいいんじゃないですか? 「ここぞ!」ってときにミスしたら、「うわー、500円無駄にしたコイツぅ!」って(笑)。凄い焦燥感との戦いが……。
一同:
(笑)。
西谷氏:
それからお金の問題以外にも、「じつは大会のときに困らないか?」という話もありまして。大きな大会になると自分のマシンでプレイするわけじゃないし、いちいちユーザーIDを入力する訳にもいかない。だから「大会モードを作って強氣をぜんぶ使えるようにしない?」など、いろいろアイデアを出しているところですね。
──大会の問題はありそうですね。ともあれ「強氣」は見せかた次第でちょっと買いたくなる要素の気がします。
西谷氏:
「『鉄拳7』【※】があのボリュームであの価格とか勘弁してくれ」と、三原がいつも言っていますよ(笑)。
※鉄拳7
2015年にバンダイナムコゲームス(当時)よりリリースされ、稼動開始した3D対戦型格闘ゲーム。「鉄拳」シリーズのナンバリングタイトル第7作。本作では自分と同程度の腕前のプレイヤーと対戦できるマッチング機能が実装され、アーケード格闘ゲームでは初めてとなる店舗間でのオンライン対戦が実現した。ちなみにメーカー希望小売価格はコンソール版で8200円+税。
原田氏:
ううむ……。見せかたで言えば、UI【※】という意味だけじゃなく、格ゲーとしての見えかたもですね。「普通の格ゲーの複雑バージョンでしょ?」と思われないような見られかたを、発売前に作り出せるといいかもしれないですね。
※UI
ユーザーインターフェースの略称。人間が機械を扱う際に必要な情報を表示したり、コントロールするするための方法やデザインのこと。ゲームでいう「プレイ画面」や「操作性」にあたる言葉。
西谷氏:
それは三原とも言っています。ただ嫌なのは、強氣が単純にカードのようなものだと思われてしまうと、拒否感を持つ人がいると思うんですよ。かと言ってよくわからないモヤモヤしたものにしても、万が一お金を払うかもしれないものがそんな感じだったら、買いたくないし。
ビジネスプランを考えると、本当はそういうシステムがほしいし、出てきたアイデアがそれに合致しそうだからと進めたんですが、本当にプレイヤーの皆さんが気持ちよくお金を払ってくれるのかというところと、対戦ゲームとしての公平性を考えて……。いまは「とりあえずβテストが終わってから考えよう」という段階ですね。
──そこまで手探りで進めているプロジェクトって、いまのコンシューマーではそうないですよね。
西谷氏:
めずらしいですよね。海外のゲームだとそういうものも多いんですけどね。
──Steamのアーリーアクセスとかもそうといえばそうですが、あれはもうちょっと雑なやりかたというか……。
原田氏:
とにかく早く触れたい人が先行投資して遊びに来て、デバッグも協力してくれるという側面はありますね。
西谷氏:
そんなことやっていいんですか?
原田氏:
わりとPCの世界では以前からありますよ。
──コミュニケーションも含めたイベントに近いですよね。
原田氏:
「早く触れたい!」という人が集まるわけですからそれなりの覚悟もありますし。私もそういう部類です。
西谷氏:
βテストでできるかどうかは判りませんが、イベントは考えています。トレーニングモードで各キャラのMAXのコンボを見つけた人はスタッフロールに入れるなど、企画は検討しています。
原田氏:
発動する強氣によってはコンボが大変なことになることもあり得ますよね。
西谷氏:
そういった情報は調整のデータにもなるし、動画になれば宣伝にもなりますよね。
──強氣のような、格闘ゲームのシステムを根本から変える発想をされたのは、西谷さんはいまの状況に閉塞感を感じていたりしているということですか?
西谷氏:
そこまでは思っていませんよ。これはアイデアのひとつであって、格ゲー自体は「まだまだいけるんじゃないか」と思ってます。それこそアーク(システムワークス)さんなどは本当にいろいろと出されてますし。よくあのペースでリリースできるなと思いますよ。
原田氏:
ゲームによってはゲージが大変なことになってますよね(笑)。でもこのゲームもバランス取りは大変そうですねえ……。
西谷氏:
そこはまあ……任せてください。三原は「無理です」って言っているんですが(笑)。
──バランス調整には、「EX」シリーズや『ファイティングレイヤー』などの経験も活きてきそうですね。
原田氏:
そうそう、西谷さんが作った『ファイティングレイヤー』というタイトルで、スーパーイリュージョンというボタンを3つ押すと何でも避けるという技があったんです。そのおかげで『ファイティングレイヤー』は、格闘ゲーム史上初めて「理論上、絶対ハメ【※】がないゲーム」になったんですよ。
※ハメ
相手をガードに追い込むなどしてから、一方的に攻撃を続ける状況のこと。一旦「ハメ」に持ち込まれると、ほぼ抜け出すことはできない。
西谷氏:
お! よく知ってますね。それが裏のキャッチコピーでしたよ。
原田氏:
マニアックですが、あれはなんというか逆転の発想で、すごい発明ですよね。とにかくスーパーイリュージョンですべて解決する。
西谷氏:
今回もいちおう「イリュージョン」という名前で登場させますよ。
原田氏:
それはいいですね。あと『ファイティングレイヤー』って、格ゲーで初めてCPU戦が高いレベルで面白いゲームでしたよね。
西谷氏:
動物が出てきたり(笑)。
原田氏:
それだけじゃないですよ。技を当てたときの感じがアクションゲームのようだったり、CPUのアルゴリズムのパターンを探して攻略する必要があったり。正直、人間に乱入されると「いまCPUと闘ってんだよ!」とムカつくくらい(笑)。ああいう要素は入らないんですか?
西谷氏:
難しいですね。なんとかフォローしたいところですが。
原田氏:
『ファイティングレイヤー』のCPU戦が面白かったので、「鉄拳」でもアザゼルとかナンシーみたいな巨大なキャラを出してCPU戦を面白くしてようと頑張ったこともあります。ただ、『ファイティングレイヤー』をやったことない人も多いから、我々のアイデアかと思える勢いで見せている(笑)。
──そればかりじゃないですか(笑)。ともあれ西谷さんの実績ある調整によって、強氣が先行入力などに匹敵する格ゲーの新しい軸になる可能性を感じます。
なぜいま「新作格闘ゲーム」を作るのか
──そういえば先だって原田さんから西谷さんへ個人的にアドバイスがあったと伺いましたが、具体的にどんなアドバイスが?
西谷氏:
先ほどスカロマニアの話が出ましたが、こちらは海外でどういうキャラが受けるのかも知りませんし、さらにやっちゃいけないこともあるでしょう。そこまでウチは詳しくないので、個人的に話をお聞きしてデザインの方向性を決めたりしました。
あとはEVOについて。もちろん行きたかったんですけど、ウチは入り口がありません。そういうところもご協力いただいてめちゃくちゃ助かりました。
原田氏:
西谷さんが格ゲーを作ったあと、日本でも欧米でもコミュニティが生まれてくるんですが、そのあいだ、ちょうどその格ゲーの最前線にはいらっしゃらなかったんですよね。だから、逆に僕がEVOのことをご案内した感じですね。
西谷氏:
本当に助かりました。そういうところがひとつでも欠けていたら、βリリースまでたどり着いていませんからね。
──最初に相談したタイミングはいつごろだったんですか?
西谷氏:
いつだったかな? 「キャラクターの相談をしたいよね」という話だったので……エイプリルフール前には相談していた気がします。自社リリースは10年ぶりで何も判らないから、何をやっちゃダメなのかを聞いて、それからミーティングをしましたね。
原田氏:
細かく話したのはエイプリルフールが終わってからでしたね。
西谷氏:
キャラクターアドバイスはそうでしたね。あとは世界観のアドバイスなど、「鉄拳」が先に気づいたものを共有してくださって助かっています。スカロマニアをEVOでチョイスしたのは間違いなく協力していただいたおかげです。
原田氏:
西谷さんは五反田(アリカ所在地)に閉じこもってらっしゃったんで、「いま世界のマーケットはこうなっています」というところから説明するんです(笑)。だからそこで「ところでスカロマニア人気はすごいですよ」って。
西谷氏:
これは何度も言いますが、「スカロマニアが受ける」ということは実際にEVOに行くまで信じられませんでしたから。「スカロマニアの版権を使ったゲームを作りたい」というオファーがあったりはしたんですけどね。
原田氏:
僕は「えっ、自社のキャラなのにそこ知らないんですか!?」くらいの感じでしたよ。
西谷氏:
三原も信じていなくて、「あれ……原田さん、騙そうとしてるんじゃない?」、「寝首を搔こうとしてるんじゃない?」って疑っていました(笑)。
一同:
(笑)。
原田氏:
それすごいストーリーですね。『ストII』に感銘を受けたヤツが、20年後に成長して恩を仇で返しにやってくるって(笑)。
西谷氏:
「原田さんがそう言っている」というので三原に海外人気の調査をしてもらったら、スカロマニアがぶっちぎりで1位なんですよ。「スカロらしいっすわ……」と報告があって。
原田氏:
それであの会場の大歓声ですよ。
西谷氏:
スカロが受けなかったら「やっぱ騙された」ってことになってましたね(笑)。
原田氏:
……でもいま思うと、騙したほうが面白かったですね(笑)。
──(笑)。「西谷さんが格闘ゲームを作っている」と聞いた原田さんは最初どんな反応だったんですか?
西谷氏:
んー……「どうすんですか?」って感じだったかな。「作るのはいいけど……」みたいな感じのニュアンスはありましたね。
お互いに、ポジティブな感じではなかったと思いますよ。こちらも「漕ぎ出すけれど、これからどうしよう……」という内容でしたので。
原田氏:
昔と時代が変わったので、持つべき武器が変わってるじゃないですか。「天才クリエイターを囲ってれば勝ち」という時代から、技術、資金力、いまやマーケティング力とか。戦争のやりかたが変わっちゃった。
そうやってどんどん変遷していくなか、いまの格ゲーという成熟した世界で、「アリカさんが持っている武器ってなんなんだろう?」いうところを、まず考え始めたんですよ。
でも詳しく聞いてみたら、こういう革新的なことをやろうということだったので、期待しているんです。でも、収拾付けるのが大変そうだなという(笑)。
西谷氏:
付かない付かない(笑)。でも、たとえば時間をおいて強氣を供給するというアイデアもあるんですよ。そうなると「うわ、今月はダラン最強だ」みたいにやらかしても、「来月は違う」というゲームになれる。「そういう形もありかな」とも思っているんですよね。
原田氏:
なるほど、そのほうが長く遊べるかなあ……。
西谷氏:
まあ作るのは大変ですよ。三原も開発費、運営費がないってブーブー言っていますし(笑)。そのへんどうなるかはわかりませんが、いちおうアイデアとして持っています。
──でもそういう船を漕ぎ出すって、社長の立場で考えるとリスクが大きくありませんか?
西谷氏:
大きいですね。
──いまならイケるというお話もありましたが、なぜいまこのタイミングでのリリースなんでしょうか。
西谷氏:
簡単に言うと「やりたいから」です。「いましかないかな」と。
あと、格闘ゲームを作りたいという気持ちはずっとあって、アイデアがインプットされ続けてるうちに「できそうだ!」と、つい最近思えたんですよね。
原田氏:
開発費もそれなりにかかっていますよね?
西谷氏:
「このままだと、このゲームが出ても、売れなきゃアリカは倒産しますよ」と三原に言われていますね(笑)。
一同:
(笑)。
西谷氏:
本当に背水の陣で望んでいますからね。売れるようにがんばるしかないという状況ですね。
でも自分たちでやるから、好き放題できて楽しいです!(笑)
──パブリッシュしている強みというのもあるんですね。
西谷氏:
これまでいろいろなところと連携しながらやっていたことを、ウチの持ち出しでパブリッシャーとなってやっていると、「何も言われないって、こんなに自由なことなんだ!」とすごくひさびさに気付きましたね。
原田氏:
私でさえ、そんなに何もかも自由になりませんからね。海外マーケサイドの意見が強かったりしますし。世の中の人は僕が1から100まで全部決めてると思っていますが、昔とはそこも全然違いますから。
西谷氏:
(笑)。このところ受注の仕事が多かったんですが、このタイトルをやり始めてから、社内の人間のモチベーションが全然違うんですよ。
原田氏:
いやー違うでしょうね、それは!
西谷氏:
直接見たわけではありませんが、涙を流して喜んだ社員も居たらしいですよ。「自分たちにもこんなことができたんだ、よかった」って。
──いい話ですね……。社外だと……たとえば海外のメディアの反応はどうなんでしょう?
西谷氏:
直接はEVOなどでしか見たことがありませんが、『FIGHTING EX LAYER』っていう名前を今日発表してからYouTubeのコメント欄を見たところ、やっぱり反響が大きいなと思いますね。想像以上です。
原田氏:
格闘ゲームにはいろいろな変遷があるということを、海外のライターさんとかもよく知ってるんですよね。そこへ「いま格闘ゲーム界はどうなってると感じるか?」と聞いてみると、「『ドラゴンボールファイターズ』【※1】やe-sports【※2】の流れもあってすごく活気づいてるように見える」と返ります。
※1 『ドラゴンボールファイターズ』
バンダイナムコエンターテインメントより2018年2月にPlayStation4とXbox Oneで発売予定の対戦格闘ゲーム。2D格闘ゲームの基本的なルールを下地に、『MARVEL VS. CAPCOM 3』と同じアシスト・随時交替制を採用している。
少なくとも欧米ではそういう回答が本当に多い。そこでキーワードとして出てくるのが「西谷さんが戻ってきた」という言葉なんですね。ずっとやっていたのに引退したボクサーみたいな言いかたでアレですけど(笑)。
海外からすると、西谷さんという人は伝説を作り、五反田に身を潜めてるぐらいに思われていたんでしょうね。だからこうやって戻ってくると「西谷 is back!」という言葉になるんだなと思いました。
※2 e-sports
“electronic sports”の略称。対戦型ゲームを競技として扱う際の名称で、格闘ゲーム、MOBA、FPSなどジャンルは問わない。主な人気タイトルに『League of Legends』や『Overwatch』が挙げられる。1997年には初のプロフェッショナルリーグ「Championship Gaming Series」が設置された。アメリカや韓国で特に競技者人口が多く、高額な賞金のかけられた世界的な規模の大会もある。日本ではプロゲーマーの梅原大吾氏などの存在で知られる。
西谷氏:
でも、以前に原田さんも仰っていた気がしますが、自分のところの格闘ゲームだけが盛り上がっていてもダメなんですよね。「鉄拳」さんもそうだし、『ストV』さんもそうだし、アークシステムワークスさんの格闘ゲームも盛り上がらないといけない。
原田氏:
いや、まさにそうなんです。格闘ゲームには暗黒の10年【※】があったじゃないですか。インターネットのインフラも格闘ゲームができるほどじゃない、でもアーケードは欧米からも姿を消していた。
じつは統計的に分析しても、あの時期に格闘ゲームってかなりのタイトルが消えたり、続編が出なくなったりしたんですね。「ストリートファイター」でさえも10年出ないというブランクがあったし……。そんな時期だったので、そのジャンルでひとりで生きるというのは、儲かりはしますけど盛り上がりは全然ないと実感したんです。
※暗黒の10年
1990年代後半から『ストリートファイターIV』が登場する2008年ごろまでを指す。「ストリートファイター」シリーズもリリースされず、ほかのタイトル群も次第にフェードアウトしていった期間。
──「鉄拳」は人気シリーズとして続いていたのに、格闘ゲームというジャンルはなぜか終わった扱いになっていましたね。
原田氏:
そうですね。「鉄拳」の場合、別に流行りに左右されていないので売れなかったってことがないんです。「鉄拳」は発売すると、毎タイトル単体で300万から500万を売っているわけですよ。日本産タイトルでここまで安定して世界市場に供給できていたタイトルは数えるほどだった。
でも、「格闘ゲームってないよね」、「終わりだよね」、「廃れたよね」とジャンル自体は言われ続けていましたからね。
いくら孤軍奮闘しても、他社さんを含め、やっぱりいろいろなところが盛り上がっていないとそう言われてしまう。だからこそいま、格ゲーを作るという選択をしているところがあると、ちょっとうれしいんです。
──そういう意味で言うと、『FIGHTING EX LAYER』の、簡単にコマンドが入力できる“プログレッシブ”操作は、かつて格闘ゲームをやっていた層を復活させるつつ、新しい層を取り込もうとする戦略なのでしょうか。
西谷氏:
それもありますが、ストイックなプレイのしかただけじゃなくても参加できるようにしたかったんですよね。
僕も50歳になりましたが、真空波動拳コマンド【※】などキツいものがありますよ(笑)。そういう人を少しでもフォローできたらいいなという思いはありました。簡単に操作できるとは言っても性能は変わらないので、慣れさえすれば、“プログレッシブ”のほうがおすすめですけどね。
──従来のようなコマンド入力でプレイする“クラシック”モードでプレイする意味はないわけですか?
西谷氏:
人によってやりやすいかどうかは変わると思いますが、ゲーム性の理屈上はないですね。ちなみに最初の企画段階では反対派が結構いましたよ。でも、最終的には「慣れるとウメハラ君【※】でも絶対戻れない」って(笑)。ごく一部の例外として、プログレッシブが不利になることもありました。ですが普通に戦っているんだったら、プログレッシブのほうが断然いいですね。
原田氏:
具体的にどう変わるんですか?
西谷氏:
波動拳コマンドだったら「ニュートラルから前P」【※】に変わります。一回転コマンドは「上P」です。これは凄いですよ。真空波動拳なら「後ろ前P」とか。そうすることで、駆け引きや強氣選びに集中してほしいんです。
※「ニュートラルから前P」
スティックに何も入力していない状態(ニュートラル)に続いて、→+パンチボタンを押す、ということ(1P側)。プログレッシブ操作では、波動拳コマンドの「↓↘→+P」が「→+P」となる。
──反応速度が要求される場面でも、ほぼワンボタンで必殺技が出せるというのはすごく有利ですよね。
西谷氏:
簡単なコマンドで、迎撃系の必殺技も正確に出せると実感しています。縦の入力は慣れないとやや難しいですが、それでも私はプログレッシブを強くおすすめしたいですね。
パッドしか用意できない環境の人にとっても、すごくやりやすいですよ。じつはEVOに行ったとき、パッド操作の人がすごく多かったことに、びっくりしたんです。
原田氏:
あれはもう10年くらい前から広まり始めて、7〜8年前にはスティックとパッドのシェアが実質逆転していたんです。いまはスティックの人は少数派ですよ。
西谷氏:
えっ! ウソでしょ?
──格ゲーのみならず、FPSでもパッド派が増えていますね。
西谷氏:
ええええええ!
原田氏:
僕はPCゲーマーだったんで、FPSもやっていたから操作はマウス以外あり得なかったんですが、もはやマウス派は超マイノリティですからね。
「原田さんまだマウスでしかできないんですか?」って言われていますよ。みんなパッドなので、パッドの時代に即した簡素なコマンドというのはいいかもしれないですね。
西谷氏:
すんなりは入れるよね。ちなみにEVOで試遊台を出したときは99%の方がクラシックを選んでいました。まあ、試遊台でちょっとしか触らないからコマンドを覚えるのも嫌だったりするんでしょうけど。
原田氏:
でもそれだけ簡単な入力になると……モバイルとかでもいけるようなゲーム性になりますね。
西谷氏:
はい。いいところに気づきましたね(笑)。
じつは細かいところをモバイル寄りにするなどして、そうするアイデアもあったんですよ。結果「プレイステーション4で行こう」となったので、いろいろ改修しましたが。すごいですね。よく気づきましたね。
──簡単なコマンドを採用したということは、西谷さんが考える“格ゲーの面白さ”には、フィジカルな練習などの基礎的な部分は含まれないのですか?
西谷氏:
フィジカルな鍛錬を否定しませんし、それが重要になるゲームもあったほうがいいとは思うんですよ。ですが今回は、「そういうところが面倒くさい」と思うなら省いて、コマンドも簡単で出るのが早くて、強氣のほうで「俺は強氣のエキスパートだ」と言う人がいてもいいんじゃないかと思うんです。たとえば「俺の強氣だったらウメハラ君にも勝てるぜ」みたいな。
あとは、プログレッシブではほぼ不可能だけど、クラシックだったらしっかり練習すればできるというコンボもあるようなので、そこは個人個人の選択ですね。
──そこは従来の格ゲープレイヤーにもメリットがあるし、間口も広く開けていると。強氣もプログレッシブも、これまで段々とハードルが高くなっていたジャンルを一度フラットに戻す試みなんですね。
プレイヤーが言語化できていない気持ちのフィードバックが気持ちよさにつながる
──お話を伺っていると、今回の新作はこれまでの格闘ゲームの延長というよりも、「格闘ゲームを再構築しようとしている」という感じがしますね。
西谷氏:
そうですね。イメージとしては「もっとハチャメチャ感があってもいいんじゃないかな」とアクションゲーム寄りに考えています。でもどこまでやるかですね。強氣システムも複雑にするとついてこれない方もいると思うので、これは今後の調整の課題です。
ですので、強氣の発動条件もすごく考えているんですよ。先ほど説明したスーパーアーマーが付く「ハーデス」の発動条件は10回ダウンすることなんですが、なるべくゲームが変わって、なおかつあまり嫌味を感じないものなどを考えるんですよね。
──具体的には?
西谷氏:
最初に強氣のアイデアを考えたときに、「これはやめよう」というルールを作ったんです。
まずは「ゲーム時間が長引くようなもの」。例としては長時間待つものや防御力・体力を増やすもの。これは絶対ではないですがなるべくやめようと。
あと「敵の強氣を直接使えなくするようなもの」。これは面白いんですが……やるとしても2年後とかかな?
あとは、たとえば相手のパンチボタンを無効にするような「極端にネガティブなもの」。それと「効果がしょぼいもの」とか「時間制限があったりそのラウンド限定のもの」。だいたいそんな感じですかね。
──そういう判断をするとき、西谷さんはバランスと気持ちよさをどういう風に配分しているんですか?
西谷氏:
私にも1プレイヤーとしての顔もあり、企画マンとしての顔もあり、社長としての顔もあるので難しいんですが……どちらかと言うと、気持ちよさを重視して三原に怒られるほうですね(笑)。
「それ、おかしいですよね?」と言われても、「大丈夫、宇宙で最強の調整を“後で”行うから」と言い返しています(笑)。やっぱり丸いものはなるべく作りたくない。「トゲトゲして尖っているけど、全体としては面白い」というようなものを、なるべく目指したいという気持ちです。
──ビデオゲームはボタンを押したときの気持ちよさについて、一流の人ほどいろいろとこだわりますよね。
西谷氏:
ボタンを押したときの力が10だとして、それが50とか100になって返ってきたら、ゲーム性とは関係なく面白いって話ですよね。
原田氏:
プレイヤーは「攻撃が当たったときに、相手の体力が減って気持ちいい」くらいしか読み取るところがないかもしれませんが、細かく画面を揺らしたり、けっこういろいろとやっているんです。
──そういう演出の話で、少し余談になるかもしれませんが、『EX』の時代で「キャラが錐揉み回転して吹っ飛ぶ演出を、西谷さんが当たった角度を計算して作っていた」と三原さんに伺って、「物理演算のない時代にそれをやるのは難しいのでは?」と思ったんですよ。単にプレイしているだけだと見過ごすけど、かなり工夫した表現ですよね。
西谷氏:
カプコンで最後に作ったのが『X-MEN Children of The Atom』【※】というタイトルですが、あのときは物理演算ぽいことをしたかったんです。
殴る力、ベクトル、重さなどを考慮したものをやりたかったので、粗い形ですが、重さや方向を設定して仕組みとしてはできるようにしているんです。物理演算はいまだに使っていませんから。
※X-MEN Children of The Atom
1994年にカプコンが開発し、日本、アメリカ、ヨーロッパなど世界的に発売されたアーケードゲーム。マーベルの人気コミックス『X-MEN』を原作に、2D対戦型格闘ゲームとして制作された。アメリカン・コミックスが原作とあって、日本以上にアメリカでヒットした作品。
──『ストII』のガードしたときのずり下がりなどを手動で調整したというエピソードもありますよね。
西谷氏:
あのカードのずり下がりも、最初は加減速を計算して決めていたんです。でもそれだと気持ちよくならなかった。ですので方眼紙にドットを打ち、最初はぐっと大きく下がって、あとでギュッと距離が縮まるようなイメージを試して、何回か実験をしてからあの形になりました。
──手作業で感覚を表現したと。それが『EX』だとどうなるんですか?
西谷氏:
『EX』は計算で飛ばしています。でも、計算でアクションさせたときのヌルっと動く感じが嫌だったので、ガードして出だしの数フレームだけ強制的に止めているんですよね。
ヌルっと動くだけなのを下がり具合を調整して、「ガッ、ヌルッ」という感じにわざとしているんです。今回もその感じで作っていて、さらにダッシュから滑ってくる動きの加算もしています。
──そうした「気持ちいい、悪い」を判断できる方は、社内で西谷さん以外にもいるんですか?
西谷氏:
そりゃいますよ。たとえば相手を殴ると画面に振動が入るんですが、これは三原がとてもこだわったところで。
原田氏:
前は入っていませんでしたが、そういえば入ってますね。
西谷氏:
いや、その演出は入れるべきだとは思っていたんですが、工数的に無理だったから後回しになったんです。
技の調整が終わってない段階で振動を入れても……という思いもありました。揺れをどう表現するかを検討し、やっと調整が一段落したので、じゃあ入れましょうとなりました。
──「気持ちいい」と「気持ち悪い」の境界線はどこにあるんでしょう?
西谷氏:
難しいことを言いますね(笑)。極めて感覚的なことなんだよなあ……なんて言ったらいいんだろう……。
原田氏:
さっきからじつはヒントは出ていますよね。僕は「すべてはフィードバックだ」と言っているんですよ。ボタンを押して技が出るとか、振動コントローラーの振動とか。画面から来るものと、サウンドから来るものってすごく大きいですよね。
──すべてフィードバック。
原田氏:
たとえば回し蹴りのミドルキックと、突くようなミドルキックって違いますよね。突くようなミドルキックの場合、当たった瞬間にヒットエフェクトが出るよりは、相手につま先がめり込んでから少し遅れてエフェクトが出て、音も遅れてやってきたほうがいいし、重い音のほうがいい。
ですが回し蹴りはなるべく早くエフェクトを出してほしいし、音もバチーンという乾いたもののほうがいい。体力の減りかたも「ニュッ」じゃなくて当たったときに「パカン!」と減るほうがいい。
そういう、プレイヤーが「こういうものだろう」と思っているけど言語化できていない気持ちを、音とUIとアニメーションとエフェクトの組み合わせで表現してフィードバックを与えるかどうかが根源的な面白さだと思うんです。
西谷氏:
確かにそうですね。
原田氏:
もちろん対戦ゲームとしての面白さはほかにもありますけどね。
──そうした感覚的な部分は、これまでの開発の経験の中で積み上げていったものですか?
西谷氏:
「手触りが悪い」とか、「なんか気持ちが悪い」というのは誰でも気がつくと思うんですよ。まずはそこを気持ちよくなるようにしますよね。
あとは原田さんが仰ったように、いろんな「気持ちいい」とか「カッコイイ」があるのでもちろんそうなるようにします。
ですが「なぜかわからないけど偶然できてしまった面白さ」というものもあるんです。それが発明だったり発見だったりすることもあるんですよ。もちろんなるべく狙ってやろうとするんですけど、偶然できてしまったりするんですよね。
アレン【※1】で「うりゃー!コンボ」と呼ばれるものがあるんです。「うりゃー!キック」という技を絡めたコンボなんですけど、相手の体力がめちゃめちゃ減りますし、音ゲーのような気持ちよさがある。そういうのが偶然できてしまうこともある。
『EX』からいるガルダ【※2】も、身体から刃が出て相手に刺さるときに「ズビビビ!」ってヒットしますよね。あれも原始的な気持ちよさがあります。
原田氏:
あの「ズビビビ!」って計算されたものではなく、都合でああなったんですか!?
西谷氏:
違いますよ!(笑)。最初は普通に1ヒットでした。でも「なんか気持ちよくないなあ」となって、手間はかかるんですが多段ヒットにしたら、なんか気持ちがよかったんです。
デザイナーからするとやっぱ絵が変だし、プログラマーも当たり判定が変だからと嫌がっていましたが、なんか「エンターテインメントしてやろう」、「楽しませよう」という気持ちでああなったんですよね。
原田氏:
そういう間違って生まれる気持ちよさはいっぱいありますよ。「鉄拳」の「ビシューン!」って吹っ飛ぶマッハパンチ系のやられシリーズなんて、僕のパラメータ設定ミスですからね。
西谷氏:
え、そうなんですか?
原田氏:
間違った吹っ飛びパラメータと間違ったエフェクトを入れたんです。……マッハパンチって、やられた側がなぜか煙を吹いてるんですよ。
一同:
(笑)。
原田氏:
「なんだこれ!?」ってなったんですけど逆にいいかもという話になって、ほかのキャラにも入れました。それで気持ちよくなっているので、やっているうちに気持ちよくなるものも、中にはあるんじゃないかと。
──すべては気持ちいいかどうかで最後は決まるんですね。
『FIGHTING EX LAYER』には西谷氏の30年が詰まっている
原田氏:
『FIGHTING EX LAYER』は絵も妙に味が出ていますよね。
西谷氏:
今回はビジュアルや演出は三原が全監修していますね。
──そこはデザイナーの領域ではないんですか?
西谷氏:
デザイナーさんはデザインが完璧なので、「ゲームとしてこっちのほうがいいよね?」という部分でも、なかなかデザインを変えてくれないんですよね。
なので三原に監修をさせた結果、デザイナーさんと三原の殴り合いになりました(笑)。ただ、その作りかたにデザイナーさんが触発されてくださったので、ゲームとして伸びたんじゃないかと思っています。
原田さんがいるからあえて言いますが、それも「鉄拳」のおかげですね。
原田氏:
(笑)。
西谷氏:
いや本当に。そのうえで僕からは三原に「ゲームのロードとレスポンスを絶対に早くしてくれ」と指示し、ソフトの仕組みも考慮して三原に判断させたので、「鉄拳」に比べたら待ち時間が少ないんですよ。でもけっきょく綺麗にしようとしたら少し伸びましたね……。
原田氏:
最後伸びてくるんですよね……。
──ロードの短さを重視する格闘ゲーマーは多いですね。
西谷氏:
話を聞いてると「鉄拳」はあれだけのクオリティでリリースしながら、よくあのロード時間で収まってるなと。いまトレーニングモードは、キャラを替えるだけなら2秒を切るようになりましたが、その代わりに「鉄拳」ほどの細かい演出や美しさはいまのところ諦めています。
それでも「鉄拳」に追いつけ追い越せという気持ちで、スタッフにもやってもらっいてるので、いい絵ができてきても、やってることもボリュームも容量も違うのに「「鉄拳」に負けてるだろ」みたいな無茶を三原が言っているんですよ。
原田氏:
うちは格ゲーのくせに総量40ギガありましたからね……。まあプリレンダリングCGもありますが。
西谷氏:
……でもホント、ウチががんばれた理由のひとつは「鉄拳」があったからですよ。
デザイナーさんにも当然限界があるし、人手も足りないのに三原は「うん、でも「鉄拳」がコレやから」って(笑)。「去年出た「鉄拳」がこのクオリティで、俺らのゲームは来年出るんやで?」って。
──三原さん……。
西谷氏:
でもそれって真理ですよね。プレイヤーからしたら僕らがどんな苦労をしてるかなんて知ったこっちゃない。いま世の中にあるものと見比べてしまうので。この前も、「ギース【※1】とか「FF」とか見た?」、「ノクティス【※2】の剣が消えるエフェクトとか、うちでも出来ひんの?」とか三原がデザイナーさんを苦しめていました。
原田氏:
環境や状況が違うので比較するのは酷ですね。
西谷氏:
ホントそう(笑)。でも、目標があるから前に進めます。
原田氏:
それは感じますね。シェーダーやライティング、それからシャドーとか、すごい速さで絵がよくなっていますから。
西谷氏:
その部分はデザインチームが残業してでも頑張ってくれているので、本当に助かっていますね。
──『FIGHTING EX LAYER』は、見える部分の陰に、そうした逆境を覆そうとする気概や西谷さんが培われてきたロジカルな部分が備わっている訳ですね。今後も興味深いです。
西谷氏:
そうですね、まずはやってみていただかないと。
原田氏:
でも最近のプレイヤーのリテラシーはすごく高いので、強氣システムに期待してくださる可能性はありますよ。
西谷氏:
少なくとも僕らは面白いと思ってやっているので、それがどれくらいの人に刺さるか、調整して宣伝したいと思います。
──では、そろそろお時間ということで、原田さんから西谷さんへのエールと、西谷さんからプレイヤーに向けてのメッセージがいただければと思います。
原田氏:
僕が西谷さんにエールなんておこがましいですが(笑)。「このジャンルを確立された西谷さんが戻ってくる」ということでお手伝いをさせてもらいましたが、若い人も歳を取った人も、格ゲーが好きな人は西谷さんのチャレンジに触れたほうがいいと思います。全員βをダウンロードしていっしょに遊んでみましょう。
西谷氏:
お願いしたいのはやっぱりβ版ですね。僕らからしたらβ版というのはいろいろ節目になるんです。ゲームの中身についても忌憚のない意見を聞かせてほしいですし、三原も商売に関わることを見ますので……。みんなが参加してくれて意見を言ってくださると、アリカとしてもすごくプラスになるので、ぜひお願いします。
原田氏:
西谷さんは、自分でこのジャンルを作った人でありながら、プレイヤーとしてだったり外注で請け負ったりする形で格闘ゲームに関わり続け、長い時間が経ってほかの人が広げていったジャンルを一度眺めてから、もう一度格闘ゲームを再定義しようとしているのがすごいと思うんです。だから、この行方は格ゲーに携わったみんなで見極める必要があるんですよ。
それと、多くの人が誤解してるのは、格闘ゲームは複雑化したんじゃないということ。西谷さんが生み出したときからじつは自由度が高く、ある意味すでに完成された複雑さを持ち合わせていた。じゃあ何が時間とともに変わったのか。じつはコミュニティが成熟したんです。そこに西谷さんが「いまならこうする」というものを持ってきた。面白いですよね。
──ゼロから格闘ゲームを生み出した人が、いままたゼロから格闘ゲームを作ったらどうなるか、というのは楽しみですね。
西谷氏:
『ストリートファイター』から『ストII』に移るときに、いろいろと取捨選択をしていますが、同じようなことが格闘ゲーム界全体で起きているんですよね。
ほかの方が作ったゲームもそうですし、今回のものも、もともとは『EX』が題材ですが、「もっとこうしたらよかったよな」とか「いまなら強氣システムがいけるんじゃないか」という部分を煮詰めてもう一度新しく作ってみたくなったんです。それも、今回突然思いついたわけではなく、もともとずっとうっすら構想があったんですよ。それが「いまならできるだろう」と。
──西谷さんの30年が詰まっているわけですね。
西谷氏:
そうですね。でも正直、「これしかできなかった」という部分もありますそんなにリソースは突っ込めませんし、キャラクターの物量も作れないことも判っていたので。逆に言うとシステムはプログラマーと企画担当さえ苦労すれば量産できて、それでゲームの質が大きく変えられるのでコスパがいいという側面もあるんですよ。
面白いかどうかは別にして、「とても変わった見せかたができるんじゃないか」って。
──「ポケモン」の田尻さんも、「面白さを作るというときにリソースを上乗せするという話になりがちだが、そうじゃない」と言っていましたね。
「ゼビウス」がなければ「ポケモン」は生まれなかった!?———遠藤雅伸、田尻智、杉森建がその魅力を鼎談。ゲームの歴史を紐解く連載シリーズ「ゲームの企画書」第一回
西谷氏:
物量を大きくしちゃうとそれだけで面白く感じちゃうんです。でも、うちもそんなに大きな会社じゃないので、そういうやりかたはできない。その意味で、今回の強氣システムは上手くやれたと思います。
──そういうところをスッと煮詰められるのが原田さんの言う“レジェンダリーな世代”のすごさというかなんというか……。
原田氏:
制限されたほうが工夫が出てくる可能性があるってことですよね。
西谷氏:
昔は工夫するしかなかったんですよ(笑)。(了)
格闘ゲームというのは原田氏の言うとおり、非常にシビアなジャンルだ。プレイヤーたちが切磋琢磨することでいつしか高い競技性を持つようになり、e-sportsとしての新たな可能性を切り拓いた一方で、格闘ゲームを熱心にプレイしない層には極めて高いハードルとなっている部分がある。
どんな分野でも、トッププレイヤーの評価を高めるためには、ライト層の裾野を広げることが必要だが、『FIGHTING EX LAYER』はライト層に課せられがちなハードルを取り払いつつ、トッププレイヤーには研究の余地を与えているものだと感じた。そして何よりも、目玉に据えられた「強氣システム」はシンプルに「楽しそう」だ。
西谷氏は「ちゃんとしていなかった部分」を『ファイナルファイト』で妥協せずに整理し、格闘ゲームの前例がないなかで「気持ちよさ」、「楽しさ」を追い求めて『ストII』を生んだと言ったが、話を伺えば伺うほど、氏の功績のすごさに驚き、あらためて原田氏のいう「天才」ぶりを感じる取材となった。その叡智や姿勢は、『FIGHTING EX LAYER』にも当然受け継がれているだろう。
バランスだけではなく、ボタンを押したときの「気持ちよさ」や「楽しさ」が重視された『ストII』は、結果的に驚異的な大ヒットを記録した。そこから数々の格闘ゲームが誕生し、それらは互いに影響を受けながら格闘ゲームというジャンルの新たな可能性を切り拓いてきた。
ベルトスクロールアクションの経験を元にして生まれた『ストII』が新たなジャンルを確立したように、「プログレッシブ」モードと「強氣システム」という革新的な要素を盛り込んだ『FIGHTING EX LAYER』も、もしかすると格闘ゲームを大きく進歩させる一作になるのかもしれない。
『FIGHTING EX LAYER』は本日12月12日にβテストが開始される予定だ。格闘ゲームの創始者である西谷氏がアリカの社運をかけて作ったこのタイトルがどのような格闘ゲームとなっているのか。ジャンルが生まれ変わるほどの驚きが味わえるのかもしれないと思うと、格ゲープレイヤーのひとりとして、ゲームを愛するひとりとして、いまから楽しみでならない。
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