『ペルソナ3』以降のシリーズナンバリング作品で、現代を舞台にしたジュブナイルRPGを作り続けてきた、橋野桂氏。彼が率いる「スタジオ・ゼロ」はいま、RPGの“王道”であるファンタジーをはじめとする「アトラスならではの、ゼロからの作品作り」に取り組んでいる。
アトラス社内に「スタジオ・ゼロ」を創設した彼が、今回「PROJECT Re FANTASY(プロジェクト リファンタジー)」と呼ばれる現在制作中の新作で掲げているテーマは、「真なる幻想世界(=ファンタジー)への回帰」だ。
※2017年12月22日にはアトラス公式生放送が行われ、トレーラー映像も初公開された。
電ファミニコゲーマーでは、この「PROJECT Re FANTASY」のプロデュースとディレクションを手がける橋野桂氏による、連載シリーズをスタートさせている。
「ファンタジーをよく知らないからこそ、あえてそれに挑む」と言う橋野氏が、ゲーム、小説、コミックなど、日本の第一線で活躍するファンタジーの“達人”たちと語り合い、ファンタジーについての意見を交換するという企画だ。
【『ロードス島戦記』水野良×『ペルソナ5』橋野桂:対談】 ゴブリンを倒していた若者が最終的に世界を救う話は、ファンタジーならではの“純化”である【新生・王道ファンタジーを求めて①】
※1 『ロード・オブ・ザ・リング』
ピーター・ジャクソン監督が母国のニュージーランドをロケ地として、『指輪物語』を全三部作で完全映画化。外見や大きさの異なるさまざまな種族や怪物たちが入り乱れる、壮大なファンタジー世界を実写映像化することに成功している。
※2 アラン・リー
イギリスのイラストレーター。同氏の描いた『指輪物語』の挿絵は、日本版文庫本(新版)のカバーなどにも使用されている。アラン・リー氏は、同じく『指輪物語』の挿絵を手がけたジョン・ハウ氏とともに、映画『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』のコンセプト・デザインを担当している。
じつはこの2人の共著で、いろんな妖精を描いた『フェアリー』という画集があるんです。昔はサンリオ出版から出ていて、今は別の出版社から出ているんですけど。
僕はこの画集を中学生くらいの時に手に入れて、そのビジュアルセンスにすごく惹かれたんですね。
ヨーロッパのファンタジーのビジュアルというと、水彩の柔らかさを持っているイメージで、『ロードス』もどちらかというとそういうタッチの絵が多いと思うんですけど、その原点はこの『フェアリー』なんです。
あとは、後年にアラン・リーが出した『Castles』という未翻訳の画集があって。神話のお城やファンタジー世界のお城を、キャラクターも絡めて描いているんですが、これがまた素晴らしいんですよ。
アラン・リーやフラウドからさらにさかのぼると、アーサー・ラッカム【※】という画家がいて。
ラッカムは『不思議の国のアリス』や『ピーターパン』といったファンタジーをイラストにしていて。たぶんアーサー・ラッカムの系統に、アラン・リーやブライアン・フラウドがいるんだと思うんです。
──イギリスのファンタジーアートの系譜みたいな感じですか。
出渕氏:
そうですね。やっぱりファンタジーっていうとヨーロッパのものというイメージが僕の中にはあって。
一方でアメリカのファンタジーもあるんですけど、そっちは筋肉なんですね(笑)。筋肉がムキムキの人物が厚塗りで描かれていて、最後は腕力というか暴力で勝つような雰囲気の。
──フランク・フラゼッタ【※】みたいなタイプですね。
副島氏:
ちょっと露出が多い感じで。
出渕氏:
かたやイギリスやヨーロッパのアートでは、女性を描いても豊満なナイスバディにはならないんですよね。どこかすらっとして、気品があって。
副島氏:
そうですね。
出渕氏:
『ロードス島戦記』のお話を頂いた時に、これはどちらかというとヨーロッパ系だなと、自分の中で確信したんです。『ロードス』の物語を聞いて、水野君本人にも言ったんですよ。「これって『指輪』だよね」って。
さきほどお話ししたブライアン・フラウドの『ダーククリスタル』にしても、もともとはパペットで『指輪物語』を作りたかったんだけど、権利問題とかでできなかった。
じゃあ自分たちのオリジナルで『指輪』みたいなものを作ろうという意図があったみたいなんですよ。
副島氏:
じつは、出渕さんが『ダーククリスタル』をお好きだというのを聞いて、この対談の前に初めて見てみたんですけど、制作当時にどういうふうに評価されていたのか、どういう位置づけの作品だったのか、今ひとつよくわからなくて。
出渕氏:
あの映画が公開された1980年代前半に、僕らがビジュアル的にインパクトを受けたファンタジー映画が2つあって。『エクスカリバー』【※】という映画はご覧になったことがあります?
副島氏:
すみません、見たことはないです。
出渕氏:
『エクスカリバー』と『ダーククリスタル』、この2本の映画のビジュアルイメージが素晴らしくて。
ただ『ダーククリスタル』に関しては、当時『セサミストリート』のスタッフが作ったものというイメージで、観に行った人もいるのかなと思うんです。でも物語としては、決して年齢層が低いわけではなくて。
キャラクターが全部パペットで、人間が1人も出てこない映画じゃないですか。僕も最初は「えっ、人形劇なの?」と舐めてかかっていて、実際に見たらショックを受けて帰ってきたんですけど。
エルフの耳が長いのもダークエルフが褐色なのも、みんな僕のせいみたいです(笑)
副島氏:
自分なんかの世代ではもう、エルフといえばディードリット、ドワーフといえばギム、みたいなイメージなんですよ。
出渕氏:
よく言われるんですよ。エルフの耳が長いのは、お前のせいだって(笑)。
副島氏:
いろんな方から聞かれてるのかもしれないですけど、実際のところはどうなんですか?
出渕氏:
当時はそう言われて初めて「えっ、そうなの?」って。それこそ自分の中のイメージでは、エルフの耳はあれぐらい長いものだって、なぜかインプットされていたんです。
あとで気がついたというか、自分でそういうことなのかなと思ったのは、『ダーククリスタル』に出てくるキアラ(キーラ)というヒロインの女の子がいますよね。あの子の耳がけっこう長い笹耳なんですよ。
副島氏:
そうですよね。
出渕氏:
キアラはゲルフリンという種族なんですけど、ゲルフリン(Gelfling)は「elf」の前に「G」をつけただけなんですね。だから映画のスタッフとしては、あれをエルフとして描いていたと思うんです。
だから自分は、ディードリットで「新しいエルフのイメージを作ったぜ!」とかいうのはぜんぜんなくて、普通にエルフってこうだよねと思って描いただけなんですよ。
でも、耳をより長く伸ばしたのはキャラクターデザインの結城信輝君【※】かもしれないなあ。
それから『ロードス』の後半に、ダークエルフが出てくるじゃないですか。あのピロテースという女性キャラって、最初は水野君の小説には出ていなくて、アニメのほうが先なんですね。
アニメのほうがオリジナルストーリーになっていった時に、結城君が女子キャラが少なくて寂しそうな気がして。
しかも自分の描くキャラクターには、胸が大きいとかくびれがある、いわゆるナイスバディ系があんまりいないんですよ。
でも結城君はそういうのが得意というかなんというか、『ロードス』のアニメにそういう女性キャラを登場させたら彼の潤いになるかな、って。それでピロテースのラフを描いて提出して監督とか脚本家に「出しましょうよ」と進言した感じですね。
青い肌にすると夜のエルフという感じがしてダークエルフっぽくなるんでしょうけど、ちょっと悪魔っぽくなりすぎるので、褐色の肌に白っぽい髪というあの形にした感じです。
そうしたらその後、他の作品に出てくるダークエルフもみんな、あんな感じになってて(笑)。
副島氏:
ダークエルフの肌が青色っていう選択肢はもう今、ないですよね。
出渕氏:
たまにあったりはするようですけど、けっこうな確率で褐色ですよね。すいません、あれも僕のせいかもです(笑)。
──ピロテースは結果的に水野さん自身も気に入られて、小説にも登場していますよね。
出渕氏:
ピロテースという名前も、アニメの脚本を書いた渡辺麻実さん【※1】が命名したものです。でもそうやって相互にフィードバックされていくのは、悪いことじゃないと思うんですよね。
それと『ロードス』のキャラクターデザインでは、これは意図して狙ったわけではまったくないんですが……、挿絵を描いているとどうしても、自分の好きなキャラクターが自然と出てきちゃうんですよ。
あとで見直してみると、「これは『宇宙戦艦ヤマト』【※2】のキャラだよな」って(笑)。ディードリットは細身の細面で切れ長の目で、やっぱり……。
※1 渡辺麻実
『重戦機エルガイム』、『鳥人戦隊ジェットマン』などのTVシリーズや、劇場アニメ『X』のシナリオを執筆している脚本家。また、アニメ・ゲーム作品のノベライズ小説も執筆している。OVA『ロードス島戦記』では、シリーズ構成を担当。
副島氏:
森雪というか……。
出渕氏:
松本零士さんの女性キャラだよねって。特に昔の松本さんの女性キャラって、どこか妖精っぽい雰囲気があるじゃないですか。
スレインは眉毛がない三白眼で「これは真田さんになっちゃった」とか、ギムに帽子をかぶせたら沖田艦長だよねとか。本当に自分では最初、無意識にやっていたんですけど、あとから改めて見ると、もう(笑)。
『ヤマト』のキャラじゃないのもいるんですけどね。ウッドチャックは『UFO戦士ダイアポロン』【※1】のガメツ将軍だぞ、これはって(笑)。でも芦田豊雄さん【※2】つながりだからいいかって勝手に思って。
『ロードス』のアニメを作ることになった時には、挿絵には出てこないようなモブのキャラも出てくるわけですよ。
それでアニメ用にラフを描いたんですが、その時は逆に意識して『ヤマト』っぽいキャラを描いていましたね。シュルツとかドメルとかタランも描いてみたいなって(笑)。