世界観のリセットはeスポーツを見据えたもの?
──いよいよ『ビルドダイバーズ』の話題に移らせて頂きます。同作が発表された頃から、『ビルド』シリーズと表現されるようになりましたよね。
小川氏:
そうですね。最初の『ビルドファイターズ』のヒットからおかげさまで、ずっとガンプラの売り上げが良好なんです。
※約13分間の『ガンダムビルドダイバーズ』プロローグ映像
そこでホビー部さんから「シリーズ化したい」とお話があり、『ビルド』シリーズの新作として『ビルドダイバーズ』を立ち上げました。
──「ガンプラバトル」のある世界という基本の部分は同じですが、過去作と地続きではなく、一旦リセットして再構築したようなイメージを受けました。
小川氏:
『ビルドファイターズトライ』を作っていたとき、もし次のシリーズがあった場合は、何かしら変えないといけないと思っていました。
というのも、既に『ビルドファイターズ』は旧作のガンダムシリーズと同じような立ち位置になりつつあって、その存在が大き過ぎるがゆえに、「こうあるべき」という思考が生まれてしまったんです。
非常に熱心なファンが付いてくださったので、このまま『ビルド』シリーズの新作を作ると、「ガンダム」への新しい窓口ではなく、これまでのファンに向けたものになってしまうという危険性があったんですよ。
これは監督を含めた他のスタッフからも同じ意見が出ており、『ビルドダイバーズ』であえてリセットを試みました。
──そういった意図があったんですね。そして『ビルドダイバーズ』でもっとも興味深いのは、舞台がオンラインゲームという設定であることだったのですが、そこはどのようにして作られていったんでしょうか。
小川氏:
オンラインゲームの要素は、綿田慎也監督から提案がありました。やっぱりそういった根本の部分から変えないと、『ビルドファイターズ』に引っ張られてしまうと。
また、これは『ビルド』シリーズの功罪なんですが、結局アニメを見せることによって、視聴者が最終的にどこに行きつくかっていうと、「俺たちもガンプラバトルやりたい」ってところなんですよ。
ところが前作の設定だと、多分どう頑張っても我々が生きているうちには実現不可能だなって。それこそ誰かが異世界から粒子を持ってこないと(笑)。
冒頭でお話した通り、我々は「ガンプラバトル」の実現を目指していますので、今回の『ビルドダイバーズ』は実現性も考慮して設定を考えました。
──実際に拝見しましたが、オンラインゲームあるあるが満載で正直驚きました。
小川氏:
シナリオにはシリーズ構成の木村(暢)さんの他に、前作の黒田(洋介)さんにも入ってもらっているんですが、実際にオンラインゲームをやっていた時の経験とかを話し合いました。
それで本当にありそうなオンラインゲームを設定したんですが……視聴者から「このオンラインゲームの運営ひどくないか」【※】って言われまして(笑)。
──あはは(笑)。最近はそうでもないと思うんですが、一昔前は「運営がひどい」オンラインゲームが沢山ありましたからね。
小川氏:
そこまで再現するつもりはなかったんですが、そこもある意味オンラインゲームあるあるだなと(苦笑)
──あるあると言えば、7話でアヤメが「SDガンダム使いだけどいい?」って言っていたじゃないですか。このセリフがずっと気になっていまして……。特定のクラスやジョブが不遇なことって、オンラインゲームではあるあるだと思うんですが、設定上SDガンダムは不遇なんでしょうか?
小川氏:
えっとですね……(笑)。そもそもSDガンダムって、普通のガンプラとサイズ感が違うじゃないですか。
だから通常のガンプラと本気で戦うとなった場合、リーチは短いし、技は初見殺しみたいな技ばっかりだしと、明らかに不利なんです。
それに加え、ガンダムが40年放送されてきた中で、SDガンダムってある特定の層だけ支持率が異様に高いじゃないですか。
薄井氏:
(自分を指しながら)ここです、ここ(笑)。まさに僕はSDガンダムの世代です。
小川氏:
その層はですね、なんというか……良くも悪くも熱狂的なんですよ。だから好んでSDガンダムを使っているダイバーは、もしかしたらフォースを組んでもらえることが少ないのかもしれません。好きすぎるほど不遇になってしまうというか……。
薄井氏:
『ガンダムブレイカー3』にもSDガンダム【※】が出てくるんですが、それは僕が個人的に出したくて出したんです(笑)。ただプレイアブルにしなかったのには理由がありまして、それは先ほど小川さんが言われたようにリーチや技の問題ですね。
もし『ガンダムブレイカー』の世界でSDガンダムをプレイアブル化したら、せっかくのSDガンダムの面白さが薄まってしまうんですよね。とはいえ何とか実現したいと考えてはいますが…
小川氏:
サイズ感も含めて通常のガンプラとバランスを取るのが難しいですからね。それにSDガンダムはファンタジー要素が多いじゃないですか。それをゲームの設定上でやってしまうと、色々数値がおかしくなると思うんです。
アニメでもケレン味で誤魔化せる部分はあるけど、突き詰めると難しい。作中ではいきなり三体に分身していましたけど、「あれってなんなんだろう?」とか色々問題が出てくるんですよ。
「GBN」はオンラインゲームなのでデータって言えるからいいんですけど……そういう意味では、最初の『ビルドファイターズ』のときはうまく逃げていたと思います(笑)。
薄井氏:
まぁ冷静に考えて、自分のフォースにSDガンダムがいたら「うそ!?」ってなるかもしれません。
小川氏:
ガチ勢ならやはり難しいと思います。オンラインゲームで戦いに行くとき、メンバーにマスコットキャラがひとりでもいたら困るじゃないですか(笑)。そういう意味も含めて、あの台詞なんだと。
──なるほど、合点がいきました(笑)。それでもリクはフォースに迎えたわけですから、彼は純粋にゲームを楽しんでいるんでしょうね。
また設定で面白いと思ったのが、ガンプラをスキャンする仕様と、ゲーム内で手に入れたパーツが実物として手に入るあの謎システムなんですが。
小川氏:
オンラインゲームが舞台ということは、極論ガンプラは必要ないわけじゃないですか。でもそれだとガンプラの意味がありませんし、我々が目指しているテーマからブレてしまうんです。
ゲーム内で手に入れたパーツが、実物となって手に入るのも、データで完結させず、実際にあるものを大切にしているからこそ生まれた設定なんです。
薄井氏:
そういえば『ビルドダイバーズ』って、前作よりもガンプラを作るシーンが多いですよね。
小川氏:
設定的にゲームの中がメインになってしまうので、制作過程が強調されているように見えるかもしれないですね。
──どうやら「ガンプラバトル・ネクサスオンライン」には家庭用版もあるようなので、自宅で作ってすぐにゲームで試すということも世界観的にはできそうですしね。
薄井氏:
ありましたね。急に出てきたので驚きました。
小川氏:
あれは人によっては、廃人コースまっしぐらですね(笑)。
──帰ってこなくなりそうです……でも子どもたちは2時間って決めてやっているんですよね。
小川氏:
お子さんにも見てほしいアニメなので、そういう決まりは作っておこうと(笑)。
薄井氏:
2時間はかなり寛大だと思います。
小川氏:
彼らは中学生になったから2時間なんです。小学生だったら1時間かなって。
──キャラクターといえば、ロンメルなどのキャラクタービジュアルは今までにはない世界観ですが、そちらにも何か意図があるんでしょうか。
小川氏:
ガンダムファンだけでなく、アニメやゲームが好きな人にも見てもらえればと思って、敷居を下げるためにファンタジー要素を取り入れたんです。
また、オンラインゲームが舞台であるがゆえに、リアル世界の描写がないキャラクターも多いので、その辺を想像して楽しんでもらうのもいいかなと思っています。
──そういう意味では、『ビルドダイバーズ』のキャラクターたちは幅があっていいですよね。女性や新たな層が入るきっかけになるんじゃないでしょうか。
小川氏:
そうですね。特にロンメル【※】は人気なようで、うちの作品広報は女性ですが、ロンメルがお気に入りで1/1のぬいぐるみを出したいとずっと言っています(笑)
そういうキャラクターの可愛さなどからでもいいので、『ビルドダイバーズ』を入口として、ガンダムやガンプラに入ってもらえたら嬉しいですね。ロンメルはお台場にも出没しているし、録り下ろしのボイスも流れているので。
──ロンメルといったキャラクターがきっかけで、アニメのように女性ユーザーが増えれば最高ですよね。
小川氏:
そこは密かに狙っているというか、女性の方にも入って頂きたいと思っているんです。
薄井氏:
さらに『Newガンダムブレイカー』だとガンプラ好きって憧れの的なんですよ。すごく優しい世界ですよね(笑)。
小川氏:
冒頭で薄井さんが言われていたように、我々は未来像を描いているんです。だから出来ればもっと女性層が増え、男性も女性もガンプラファイターは憧れの的であってほしい。
自分も薄井さんも既に引退しているかもしれないですけど、2〜30年後に、その頃ガンプラをやっている子がすごくモテていたら、それはそれでいいかなって思っています。
──まさしく未来像であり理想像ですね。お話を伺っていると、『ビルド』シリーズの裏には様々な思いがあり、それゆえに沢山の配慮があるように思えます。
また『ビルドファイターズ』の頃は自由にやれたとのことだったんですが、それゆえに自由度は下がってしまったのではないでしょうか。
小川氏:
自由度が低いと言うよりも、頭を使う機会が増えましたね。今回は期待値がこれまで以上に高いですし、各関係者からの要望も多いので(笑)。
また様々なところから商業的には正しい大人な要望を頂きますが、商品を売りたいオーラが出すぎるとただのPVになってしまうので、そのバランスは本当に気を付けています。
──そこのバランス取りは非常に難しそうですね。そういえば「すーぱーふみな」みたいなガンプラもそのうち登場するんでしょうか。
小川氏:
「すーぱーふみな」【※】のような姿のアバターだったらありなんですけど、キャラクターのプラモデルをスキャンしているプレイヤーはちょっと……(笑)。
薄井氏:
すーぱーふみなは変化球でしたよね。
小川氏:
あれは『ビルドファイターズトライ』の設定だからできたんですけど、『ビルドダイバーズ』だと女性キャラのモビルスーツのプラモデルを使っていることになるんですよ。
実際に戦ったりフォースを組んだりすることを考えると、描きづらいところがありますよね……(苦笑)。
薄井氏:
そこまで来ると、ガンダムじゃなくても良くなりそうですね(笑)。
「ガンプラバトル・ネクサスオンライン」実現に向けて
──お話を伺っていると、作中のような「ガンプラバトル」の域はまだまだ先ですが、そこに向けた準備が一歩一歩進んでいるように思えます。
『ビルドダイバーズ』の舞台がゲームになったことにより、『ビルド』シリーズと『ブレイカー』シリーズの設定がある程度統一されたようなイメージを持ったんですが、これは意図的なんでしょうか。
薄井氏:
ある程度は意図的ですね。制作段階で「こういう世界観はどうですか?」、「これをアニメに取り入れてみたらどうですか?」というお話をさせてもらっていましたが、むしろゲーム側で「こうなるんじゃないか」と話し合うことのほうが多かったですね。
『Newガンダムブレイカー』も『ビルドダイバーズ』のように仮想空間でバトルするんですが、実はアバターもあるっていう設定なんですよ。ただ感覚としては『ビルドダイバーズ』の世界のどこかの学校ぐらいの規模感で、なるべく近しいものを作ったつもりです。
その結果、いい具合にゲームとアニメで設定や雰囲気が近づいてきたと思います。でも、あそこまでオンラインゲームっぽくなるとは予想外でしたね(笑)。
小川氏:
『ビルドダイバーズ』の放送により、視聴者の方々も「このゲーム早く出してほしい!」となっていまして。
薄井氏:
我々としても、ゲームクリエイターとして「ガンプラバトル・ネクサスオンライン」のようなゲームでガンプラを使ってバトルするのがゴールだと思っています。もちろんそこにはeスポーツ的な展開も含まれています。
小川氏:
自分のガンプラがスキャンされて、そのガンプラを自分で操って対戦できる。
それがeスポーツとして世界中で行われれば一番盛り上がるし、これからのエンタメの形として続く可能性が高いじゃないですか。だから……(薄井氏の方を見ながら)作ってください(笑)。
薄井氏:
頑張ります(笑)。
小川氏:
でも意外と5年後とかに来るかもしれませんよね。我々としても、今後もいろんな形でガンダムやガンプラとゲームを繋いで、新しいコンテンツを提供していきたいと思っています。
入口はどこからでもいいので、より多くの方にガンダムに触れて貰えれば嬉しいなと。
──ガンダムもガンプラもゲームも、今後が非常に楽しみです。
小川氏:
ガンプラは、ガンダムがこれだけ長い間続けることができた理由のひとつでもあるので、『ビルドダイバーズ』はこれから先、ガンプラやガンダムの新しい何かを増やすための第一歩だと思うんです。
皆さんへの楽しい仕掛けになればいいなと思っています。アニメも引き続き見守ってください。
薄井氏:
「ガンプラバトル・ネクサスオンライン」が実現したときには、僕たちはいないかもしれませんが、そういった未来に向け準備を進めていきたいと思っています。
──本日はありがとうございました。(了)
(2018年5月24日収録)
『ガンダム』とは、誰も乗り越えることのできない高い塔のようで、すぐに触れることのできるような身近な存在だと思っていた。作中では新たな粒子や合金が生まれ、それを発展させていきながら戦いの歴史が築かれていく。
しかし結局のところ、モビルスーツにせよコロニーにせよ、新しいものは人の手でしか生み出せない。それは現実も変わらないのだ。
今回の話で、永遠に続くかと思えた『ガンダム』の裏側には、作り手たちの新たなものを生み出し続ける絶え間ない努力の影が見えた。そして、それがなるべく表に見えないよう、ここまで作り上げてきたことが分かるものだった。
ガンプラとアニメとゲーム、そして『ガンダム』とeスポーツという新たな融合は、どのような化学反応を起こすのか?
今注目度の高いeスポーツで、『機動武闘伝Gガンダム』よろしく、世界各国の代表選手が集まるガンダムの大会……。そんな大会が開催されたら見たいに決まっている。
誰も死なない、ガンダムの頂点を争う戦い。その幕開けがどうか生きているうちにあることを祈り、楽しみに待ちたい。
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