バーチャルYouTuber(以下、VTuber)の流行により、VTuber用のアバターをエディットできるソフトがさまざまなメーカーからリリースされている。
その中でも代表的なのが、『Vカツ』と『カスタムキャスト』だ。両ソフトに共通しているのは、ともにPC向けの18禁ゲーム──いわゆるエロゲーで培われたキャラクターエディットのノウハウが活かされているところにある。
『Vカツ』は『コイカツ!』、『カスタムキャスト』は『カスタムオーダーメイド3D2』というエロゲーのキャラクターエディットがほぼそのまま利用されている。これまでエロゲーとして研ぎ澄まされてきたものが表に出た結果、広く受け入れられヒットしたのだ。
『カスタムキャスト』に至っては、リリースからたった11日で100万ダウンロード、現在は130万ダウンロードを突破している。
これらは、なぜここまで広く受け入れられたのだろうか。そしてキャラクターエディットの根源的な面白さとは何なのだろうか。
そこに迫るべく、『カスタムシリーズ』のプロデューサーであるYamato氏と、メインプログラマを務めるねい氏にインタビューを実施した。
なお、今回はエロゲーの話題をあえて掘り下げている。それは『カスタムキャスト』の根っことなる魅力や面白さの部分が『カスタムオーダーメイド3D2』の時点ですでに確立されており、そこに迫らなければ、今回のヒットと彼ら開発者がやってきた数々のこだわりの部分が見えにくくなってしまうからだ。
『カスタムキャスト』とエロゲーである『カスタムメイド3D』のイメージは切り離されているとは思うが、どうかそこはご了承のうえでご覧いただきたい。
『カスタムキャスト』ヒットの要因は“もともとエロゲー”だったから
──率直にお聞きしますが、ここまで『カスタムキャスト』が広まったのはなぜだと思いますか?
Yamato氏:
いきなり真芯から来るんですね(笑)。
──『カスタムキャスト』はVTuber界隈とVTuberを目指す方に向けたアプリであると認識しているのですが、そこだけではなく、キャラメイキングや、もともとゲームが好きな人が触って「面白い」と楽しんでいる印象があります。
それ以外にも、周りが触っているのを見て、純粋に「キャラクターのモデルが可愛い」というクオリティの高さから話題になったというのが、おそらく要因なのかなと思っているのですが、いかがでしょうか。
ねい氏:
そのとおりですよね。
Yamato氏:
いま言ってもらったままだと僕も思います(笑)。
ねい氏:
あとは、今回組んでいただいたドワンゴさんの尽力もありました。タイミングがよく、人選もよく、とすべてが相乗し、積み重なったからだと思います。
Yamato氏:
とはいえ、これはPC版で培ってきたものがあって、そこで触れていらしたお客さんが、すでにいたという前提があったうえでの話です。これがもっとも芯の部分ですね。
──じつは今回伺いたいのはそこでして、『カスタムキャスト』の根源と言いますか、本質的な面白さって、PCエロゲーの『カスタムメイド3D』シリーズで確立されていたわけじゃないですか。
Yamato氏:
ああ……そこ、話していいのか……。いやですね、過去に何度かインタビューを受けているんですが、そこの話ってじつはできていなくて。そもそも聞かれることもないんです。
──そうなんですか? でもそこに触れないと意味がないと思っていまして。事実、先ほどYamatoさんが言われたとおり、いきなり『カスタムキャスト』を作ってヒットしたのではなく、『カスタムメイド3D』シリーズの礎があってこそですよね。
Yamato氏:
ええ。まず状況としては、コアな皆さんにとっては知っているソフトと言いますか、エロゲーという名の地下で触れたことがあるという状況だったんですね。だからそもそもの面白さは、表に出てきてなかっただけですでに確立していたんですよ。
そして、その確立したものを表に持ってきたら、そこにも同じ価値観を持っている方たちがいっぱいいて、「じつは裏と表ってオーバーラップしている世界だった」という感じだと思います。
──それを踏まえてお訊ねしますが、リリースのタイミングは、どこまで狙い澄ましたものだったんでしょうか。というのも、当時はPCのみですが『Vカツ』など、すでに先行しているタイトルはあったわけで。
それを抑えて『カスタムキャスト』がここまで話題になった──つまり圧倒してシェアを取ったのには理由があると思うんです。
Yamato氏:
タイミングというのはすごく重要で、急いで作ったところはあります。
ねい氏:
仰るとおり、『カスタムキャスト』は後発のアプリなんですが、リリース当時は『Vカツ』さんも含めて、このようなツールはまだPC版しかなかったと思います。スマホ版があったとしてもベータ版であったり。
だからこそ、スマホでほかのアプリが出ないうちに、と急いで作りました。その結果、3ヵ月くらいでできちゃいましたね。
──え、発案から3ヵ月ですか?
ねい氏:
そうです。というのも、ベースといいますか、もともと『カスタムメイド3D』の技術があるわけですし。
Yamato氏:
じつは別の企画でスマートフォンを研究していたんですよ。そこが大きくて、「ドワンゴさんと一緒になってやっていこう」となったとき、すでに僕たちは開発リソースを思いっきりスマートフォンに向けており、その可能性に懸けて行こうと考えていたんですよ。
──もともと『カスタムメイド3D』シリーズで培われたものがあり、かつすでにスマホでも話が動いていたからこそ、このスピード感で出せたと。ちなみに何を研究されていたんでしょうか。
Yamato氏:
『カスタムオーダーメイド3D2』のキャラクターエディット部分をスマートフォンでも動かせるかどうかの研究ですね。
ねい氏:
そのときはゲームとして成り立たせなければいけなかったので、いろいろな事情でペンディングになっていたんですが、VTuberブームを見ていると「ゲームの形じゃなくても、もしかしたらいいんじゃね?」と思うようになり、「エディットと配信だけできればいいんじゃない? それだったら簡単に作れるよね」となったわけです。
とはいえ、まあ簡単じゃないんですけどね(笑)。ただ「早めには作れるよね」ということで、ドワンゴさんと話しているあいだに意気投合し、「じゃあやりましょう」とトントンと話が進み、その3ヵ月後にリリースした──流れとしてはそんな感じですね。
──初めて『カスタムキャスト』に触れたとき、「キャラクターメイキング、そして配信機能、以上。」みたいな感じで、すごい割り切りかただと驚いたんですが、そういう理由があったんですね。でもツールだからそれでいいと。
ねい氏:
そうですね。ですので、カテゴリーも「ゲーム」ではなく、「エンターテインメント」に入っているんです。
──リリース後、SNSやネット上で「『カスタムキャスト』でこんなの作ったよ」とすごい勢いで配信、拡散されていますよね。「それだけでも遊びとして成り立つんだ!?」とも驚いていまして。
Yamato氏:
もともと地下でそういう文化はあったんですが、それが表にまで広まったということですね。
そう言う意味で爆発的に拡散されたのは、『カスタムオーダーメイド3D2』のキャラクターエディット部分だけを切り取ってアプリケーションとして、そして「VTuber」という単語を付けて成立させたことが、いちばん大きな要因だったのかなと思いますね。
──すごいですよね。Twitterのハッシュタグですとか、もう追いきれないほどの数のものがすごい勢いで拡散されていて。
Togetter: アバター作成アプリ『 #カスタムキャスト 』で声優やアイドル、絵師が自分の嫁を作って発表。クオリティの高いFGOキャラもぞくぞく
Yamato氏:
そうそうそう。僕たちもこうやってスクロールして見ているんですが、「追いきれない!」と言いながら見ていました(笑)。
UGCとしての可能性や手軽さということ、そして見ると「すごく可愛いから自分も作ってみたい」という解りやすさがあったからこそだとは思います。
ねい氏:
成功への貢献と言う意味では、キャラクターを作ってみんなに公開して「ドヤーッ」って楽しむという行為が想像以上に一般化し、一種の文化になったというのが、かなり大きなところでした。我々もある程度は見込んでいたんですが、正直言って、ここまで増幅されて一般化するとは思っていなかったわけなんですよ。
Yamato氏:
そうそう。僕たちのもともといる美少女ゲーム業界って、そういうことがたまたま起きたりするんですよ。『Fate』がいい例ですよね。
──『Fate』も広がりかたと言う意味では、『Fate/Grand Order』になって一般大衆化したと言えるかもしれないですね。
Yamato氏:
美少女ゲーム業界というのは、低予算でもコンテンツが育つから、新しいIPを作る場所として適しているんですよ。『Fate』の場合も同人からの発展であって。そういうところはいまも昔も変わらないということです。
だからこそ、みんなこの業界に入ってくるんです。まあ美少女ゲーム業界のことを熱く語るのもなんですが、入ってきて、そこで育って、この業界からさらに大きな業界へと展開するというのが、お定まりのパターンとしてあるんですよ。
──その仕組みといいますか、どうしてそうなるのだと思われますか?
Yamato氏:
同人業界や美少女ゲーム業界は、尖ったものを最初に受け入れてくれる場所だからですね。なんてったってお客さんがかなり濃い目ですからね。
ですから、コンテンツやIPが濃いまま育っていくんですよ。そしてそれが一定の領域に達すれば“凄い何か”になり、展開するフェイズに入って行くんです。
キャラクターエディットを作り続けてきたKISS
──なるほど。ではそんな美少女ゲーム業界で、なぜ『カスタムメイド3D』のようなゲームを作ろうと思われたんでしょうか。
Yamato氏:
そもそもは1998年にKISSというブランドができたころまで遡ります。じつは、そのときからキャラクターをエディットするエロゲーを作っていたんですよ。
処女作が『カスタム隷奴』という2Dのゲームなんですが、そこからずっと2Dエディットのエロゲーを作り続けていたんです。KISSとは、そういうブランドなわけですね。
そして2010年のときに、今度は3Dにしようと思ったんですよ。
──2010年ですとブランドができてから10年以上経過しているわけですが、なぜそのタイミングで3Dに行こうとしたんでしょうか。
Yamato氏:
単純に、そのころカワイイと思えるクオリティの3Dの美少女が世の中に出てきて、カワイイ美少女を確立させるフォーマットがだいぶ見えてきた時期だったからですね。
それ以前の3Dだと、「ちょっとこれは……エロいのか?」みたいな感じだったんですよ(笑)。
──あははは(笑)。
Yamato氏:
いや、昔はいっぱいそういうものがあったんですよ! アリスJAPANさんの『白日夢』というゲームがあるんですが、もう本当に見ているほうが“白日夢”を見るようなモデルだったんですよ……昔は、昔はね。
一同:
(爆笑)。
Yamato氏:
だけどある一点を超えると、「可愛い」とか「エロい」とかを思えるようになった。その転換点が2010年。それ以前は、「本当にエロいのか? 本当に可愛いのか?」と自分の中で微妙だったんです。
──確信がなかったということですか?
Yamato氏:
確信は得づらかったですね。何年も何年も見てきているからこそだと思うんですけど、やっぱり2Dの絵って可愛いんです。「それを上回って“3Dの絵って可愛い!“と思える点ってどこだよ」という話になっちゃうんですよね、これって。
しばらくはそうやってピンと来なかったんですよ。どうしても薄い同人誌のほうが興奮できる、みたいな……変な話ですけど(笑)。
ねい氏:
まあでも、そう、うん。
Yamato氏:
あるよね? そういう本のほうがエロいよね、みたいな。
ねい氏:
「2Dのほうがね……」みたいなね(笑)。ただ、それは当時の3Dの表現がまだ貧しかったからなんです。それが2008年ぐらいになると、ニコニコ動画さんでMMDが発生して、いろいろなモデルが登場したじゃないですか。エロいのがあったり、可愛いいのがあったり、ちょっとバタ臭かいものがあったり(笑)。
そういうモデルを見て、可愛いとかエロいなどと興奮している人が少しずつ現れて、やっぱり我々はキャラクターメイキングものを作っている以上、「既存のキャラだけじゃなくて、いろいろなものを作りたいよね」というところが3Dに行ったひとつのきっかけではあります。
Yamato氏:
そして2010年ごろには、自分たちでも「これはカワイイし、エロい」と思えるようになりましたし、「これだったら絶対、僕たちのお客さんもイケるだろう」と、ここで初めて確信を得たんです。
──なるほど。その可愛く思えるフォーマットというのは、どういうものなんでしょうか。2Dのメイクの文法ってそのまま3Dに転用は……。
Yamato氏:
いやいや! 2Dの文法なんて全然使えませんよ。だから死にそうになりました。
──2010年、死にそうになったと(笑)。
Yamato氏:
もうだって……3Dの開発者がほとんどいないのに始めちゃったもんですから、文脈や文法なんて最初から破綻していたわけですよ。
「フォーマットがだいぶ見えてきた」なんて言っちゃいましたが、じつは誰も判らないところから始めたんですよ。「やろうぜ」って(笑)。
──ほぼ勢いじゃないですか(笑)。
Yamato氏:
でも、「いま僕たちが作り始めたら、おそらくすでにある3Dのキャラクターエディットゲームよりも可愛いものが作れる」という確信はあったんです。
そういう意味で2010年って絶妙なタイミングだと思っていまして、これ以上早かったら文法が確立されていないし、これ以上遅かったら周りがどんどん上に行ってついていけなくなる──という時期だったんです。
因みにその時期の見極めは、ただの勘です(笑)。
──「ここだろう」って(笑)。
Yamato氏:
「だろう」って。何にも解っていないから(笑)。
──それが見事に当たっているのが凄いですね……タイミングと言う意味では、『カスタムキャスト』でもバッチリ当てていますし。
Yamato氏:
ずっとアダルトのものを見続けているので、もうそこから来る勘でしかないんですよね。だから周囲からしてみれば、「突然、何を言っているんだ」という感じになっちゃうんですが、それゆえにいざ作り始めると、だいたいたいへんなことがいろいろと起きるんですよね。
──たとえばどんなことが起こったんでしょうか。
Yamato氏:
「おっぱいを大きくする方法が判らない」とかですね(笑)。まず3Dなので自由に好みのおっぱいを弄りたいじゃないですか。だからまずは「大きさを変えられるようにしよう」と。ところが……いったいどうやって大きくしていいのか判らなかったんです。
ボーン(骨組み)の拡縮でやっているのか、モーフでやっているのかも当時は判らなくて。そもそも立体的なおっぱいをどうしたら綺麗なまま大きくできるのか……と(笑)。
そこから1年ぐらい研究をして、2010年の終わりくらいまでには「何となくこういう風にすればいいんだな」というのは見えてきました。
──ではだいたい1年くらいかけて、おっぱいといっぱい戦っていたわけですね。
Yamato氏:
そうですそうです。ただ、これはエディット技術の話なんですよ。だからモデルの話はまた別で。
ねい氏:
まあね。
リアルでもアニメ調でもなく、目指したのはフィギュア+イラスト調の3D
──そこで伺いたいんですが、たとえば同じ3DエロゲーメーカーのILLUSION さんは、凄くリアル寄りの造形です。対してKISSさんはトゥーンといいますか、アニメチックですよね。なぜそちらに行ったのでしょうか。
『VRカノジョ』はプレイヤーが“ただのVRエロゲー”から“面白いことができるVRゲーム”にシフトさせていた――開発者×プレイヤーが示した新たな可能性とは
Yamato氏:
それはもう、自分たちのお客さんのことを考えてですね。
ねい氏:
そもそも2Dのエディットシステムでやっていたので、それしか選択肢がないというか、そこはそもそも議論もしていません。
Yamato氏:
議論なんて1ミリもない。僕たちのお客さんは2Dの絵が好きなので、いきなりリアル系を作ったら訳が判らなくなってしまう。だから議論の余地はありませんでした。
──当然そうなるとは思うのですが、とはいえ2Dの可愛さを3Dに持ってくるって凄く高度なことじゃないですか。ここからは、具体的にKISSさんならではの3Dでの表現方法について具体的に伺っていきたいんです。
ねい氏:
基本的には、最初は二次元の絵に完全に寄せようとは思っていません。では何を目指しているかというと、3D開発初期はフィギュアをもっと可愛く見せようとしていたんです。
──フィギュアですか……?
ねい氏:
フィギュアを、もう少し彩度とコントラストを高めにした感じが狙いなんですよ。だからいまトゥーンって言われましたけど、トゥーンっていうとアニメ調なんで、うちはそこを目指していないんですよ。
「フィギュアの可愛さを追求しつつ、ただしリアル調なのはやめよう」という境界みたいなところですね。その結果、ゲーム内で3Dとして見たときに、「リアルでもアニメでもないんだけど、そこに存在感している」、そういうものを目指しているんです。
──なるほど。二次元ぽいけど、絵ではなく立体物のようなものと。
ねい氏:
そうですね。だから、じつはそこまですごい技術は使っていません。リアル調でもアニメ調でもなく、3D開発初期は「フィギュア調」現在は「フィギュア+イラスト調」という微妙なところを狙い続けた結果、それがウケたんだと思います。
そしていまはマシンのパフォーマンスが当時よりも上がっていますので、今度は「もっとイラスト寄りであったり、もっとアニメ寄りにできるか」というチャレンジをしています。
──それを踏まえると、『カスタムキャスト』はどういう絵作りをされたんでしょうか。
ねい氏:
絵作りについては『カスタムオーダーメイド3D2』と同じですね。ただ、スマートフォンだと影がうまく出なかったり、当てられるライティングもひとつだけだったりしますので、あえて言うならシンプルなものを目指しました。
重たくしたくなかったんですよ。iPhone Xなどが出てきてスペックが上がったので、そこを目指して自由に作ったというのはありますが、まだまだPC版水準のスペックには至らないので、もっとシンプルにできないかと思っています。
もともと我々は、「シンプルに綺麗に見せる」という手法を昔からやってきているので、そこは得意なんですよ。
──スマートフォンは機種がたくさんあるので、アプリも「リッチにしたほうがいい」とは一概には言えませんもんね。
ねい氏:
そうですね。ただ時期的には多くの方がハイスペックなものに移行しているので、ある程度は割り切って作っています。冒頭の話に戻りますが、2、3年前にプロトタイプを作ったときは、スマホのスペックもいまより低かった。
当時、頓挫した理由のひとつがスペックだったんですよ。ですから『カスタムキャスト』のリリースは本当にタイミングがよかったですね。
──いま普及している平均的な機種のレベルを見て、「イケる」という判断をされたということですね。
Yamato氏:
そういうことです。
ねい氏:
見た目もPC版とほとんど同じで綺麗ですし、我々のこだわりもちゃんと出せることができるスペックでした。
──そのこだわりにも繋がると思うんですが、先ほどのフィギュアの話ってすごく重要な話だと思って。というのも、いまってさまざまなVTuber系のアプリがありますが、その多くはセルルック(いわゆる2Dアニメ絵のような表現こと)に終始しているじゃないですか。
ねい氏:
そうなんですよね。
──でもセルルックに終始していくと、より平面的になってしまうんじゃないかと。でもVTuberの世界って、仮想空間に描く立体の世界じゃないですか。だからフィギュア+イラスト的な思想は、とても重要なことだと思います。なぜその方向に行きついたんでしょうか。
ねい氏:
技術の問題もありましたが、リアル調に寄せるとスペックが必要になる、かといってトゥーン調にすると平面的になりすぎる、そこで目指したのがフィギュア+イラスト調だったのです。そのほかの表現手法は他社さんでも目指されていましたし…。
昔の話ですけど、当時は3Dでもバタ臭いものが多かったですし、2Dだったとしても影がキツく入ってなんだかギザギザに見えていましたし……という状況でした。「だから我々は、その中間を取ろう」とした結果が、フィギュア+イラスト的な思想に繋がって行くんです。
──そしてその立体として映える絵作りが、VRやVTuberに上手く融合したんでしょうね。
ねい氏:
そのとおりです。ですので、先ほど言ったとおり凄い技術をたくさん使っているわけではないので、VRに落とし込んだときにパフォーマンスが出るというメリットも生まれました。だからVRが動く最低環境でも滑らかに動くんですよ。
Yamato氏:
ですが、考えてそこまでできているわけではないんです。だってVRが生まれる前からやっていることですから、VRに合わせて作っていたわけではない。結局は偶然という名の必然ということですかね。
俺の嫁が“本当の嫁”になる瞬間、それはモノではなくなる
──最初の話題で『カスタムメイド3D』の時点で面白さの確立ができていた、という話がありましたが、当初ユーザーさんの反応はいかがでしたか?
Yamato氏:
やっぱり2Dから3Dへの転換を図ったので、「お客さんがついてきてくれるのかな」という不安はちょっとあったんですよ。
ところが、リリース前の時点でかなり注目度の高い商品になっていたんですね。ちょっと情報を出すたびに反応が返るものですから、「あ、これってイケるな」と。
もっとその……「なんで2Dをやめちゃうの?」みたいな声とか、「こんなのエロく見えないよ」などが届いたらちょっとやばいな」と思っていたんですが、それはなかったんです。
ねい氏:
いちおう2D路線も同時進行していましたが、みんな3Dに慣らされたみたいな(笑)。
Yamato氏:
その結果どうなったかというと、当然「やっぱり2Dがいい」という層はありますが、それ以上に「3Dもいいよね」と3Dを受け入れてくれた従来のファン層、さらに3Dになったことにより新たに入ってきた層、このふたつの層が非常に厚くなり、好意的な反応がたくさん届くようになりました。
──そこで一度、広がりがあったということですね。
Yamato氏:
ええ。ガッと広がりました。
──その広がりには当然仕上がった作品のクオリティも大切になってくると思うんです。たとえばTwitterなどを見ていると、『カスタムメイド3D』シリーズを使って既存のアニメキャラを再現した画像がタイムラインに流れてきます。
この“既存の何かを再現できる”あるいは“自分の頭の中のイメージを再現できる”という部分も、広がりや文化という意味では非常に重要なポイントで、あそこまで再現できるのは、開発の時点でそういう思想が組み込まれているのでしょうか。
Yamato氏:
いやいや、純粋にお客さんがすごいんですよ(笑)。
ねい氏:
そうですね。お客さんがほとんどプロフェッショナルなんじゃないですか。
Yamato氏:
プロフェッショナルというか、野生のプロなんですよ。とはいえ“ゲームを改造しやすい”という部分は……じつは、当初の開発概念から存在はしているんです。まあ当時の自分たちが「改造しやすいです」とは言えないので、それはもう「皆さん判ってください」くらいの感じなんですけど。
ですから、やっぱりお客さんがMODの開発などに熱中してくださったおかげで、あれだけのいろいろなバリエーションや造形美が現れたんです。
『カスタムメイド3D』シリーズはUGC向けの作品なので、我々開発者だけではなく、そこにユーザーさんの手が加わることにより、初めて完成するものなんですね。
ねい氏:
ただ、そういうことができるのは、やっぱりエロゲー会社だったからだと思います。いまはMODを公認しているゲームが数多くありますが、当時の一般的な会社が「改造してもオッケーですよー」なんて絶対に言わないと思いますからね。
Yamato氏:
ゆるい業界だからだよね。
ねい氏:
ゆるい業界で、ちっちゃい開発規模でやって自由にできるっていうのが我々のメリットですね。
──だからこそ生まれるものがある……先ほどの話に繋がりますね。
Yamato氏:
そうそう。尖ったものでも認められやすい。「好きなものだからやろう」って言える。それに対して「GO」と言える。それが美少女ゲーム業界なんです。
でも本来、「好きなものだからやろう」というのは凄く難しい話なんです。だって「いや、世の中はこうだよ。マーケティングはこうだよ」みたいな話って必ずあるじゃないですか。
でもエロゲーって、その文法を無視できるんですよ。だって作りたいからこの業界に来て、やりたいことがあるからこの業界にいるわけですからね。
──その“好き”がいまのヒットに繋がっているのは感慨深いですね。
Yamato氏:
そうですね。我々は最初からそういう方向性だったので。
──キャラクターメイクのゲームは作りたくて作ったということですね。そんなおふたりにお伺いしたいのですが、キャラクターメイキングを始めとした、キャラクター作りの楽しさの本質はどこにあると思いますか?
Yamato氏:
キャラクター作りの本質って、もうそれは“自分の好きな嫁”の表現です。いまではそこに“自分自身の表現”も加わってきていますが。ただ、これらの気持ち自体は大昔から脈々とあるものですよね。
──たとえば変身願望もそのうちのひとつですね。
Yamato氏:
そうですね。第二の自分を作るなんて、ネットにチャットが現れたころからあったものですし、『ウルティマオンライン』を始めとしたMMORPGにもそういう楽しみかたがあるわけで。
──それこそテーブルトークRPGまで遡りますよね。
Yamato氏:
そうそう。みんなキャラクターシートにキャラクターをまとめて、絵を描いていたじゃないですか。後はフィギュアを置いてそれを自分としたりとか。
だから大昔から脈々と続いていることといいますか、文法自体は存在していたんです。それがデジタルのフィギュアという形になったのが、ここ25年くらいの話。
それが「可愛くて格好いい」となったのが、ここ10年や15年くらいなのかなと思います。そうやって技術の進歩によって変わる部分はありますが、本質的な部分はずっと変わらない。
やりたいことという意味では、人間っていまも昔も変わらないのかもしれませんね。
──そんな気はしますね。そういう意味だと『カスタムキャスト』は、自分の分身、あるいは自分が理想とするような嫁、さらには我が子を作って、眺めたり、ごっこ遊びができる理想的なツールなのかもしれません。
Yamato氏:
そのとおりです。ただそうなると、必然的に“エロいことをしたい”という欲求がダイレクトに湧き上がるわけですよね。何が言いたいかというと、それがあるから作る原動力になるんです。
──あはは(笑)。
Yamato氏:
だって「そういうツールがあったときに、みんな何をやりたいか」というと……「かわいく育てて我が子のように愛する」か、「エロいことをするか」じゃないですか(笑)。
──パッションかリビドーかっていう。
Yamato氏:
そうそうそうそう! だいたいどっちか。
ねい氏:
面白いのが、「このキャラクターは凄く頑張って作った、我が子のように作ったから──こいつでエロいことはしたくない!」とユーザーさんから言われることがあるんですよ。
Yamato氏:
あまりにも可愛いというか、嫁愛が強くなり過ぎた結果ですね。たとえばラブラブはいいけど、ハードなプレイはちょっとみたいな(笑)。
──あー、はいはい(笑)。
Yamato氏:
もともとハードなプレイことを楽しもうと思ってうちのソフトを買ったのに、あまりにも愛情を注ぎ過ぎて、「こいつに酷いことができなくなっちゃった」というユーザーさんがいっぱいいるんですよ。
俺の嫁が“本当の嫁”になった瞬間ですね(笑)。でもこれってじつは凄いことで、ひとつの転換点だと思っています。
──本当に愛してしまった。
Yamato氏:
そういうことですね。
ねい氏:
エロゲーを買ったのにエロいことをしたくないっていう。
Yamato氏:
だからちょっとビックリな話なんですよ。
──推しに対してエッチしたくないっていう気持ちに似てますね。
Yamato氏:
そう、そこに繋がっちゃう。
──人間って不思議ですね。
Yamato氏:
これがどういうことかというと……モノじゃなくなっちゃったんですよね。最初はモノであったはずなのに。そこが突然のようにスイッチが入るんでしょうね。
──感情移入しすぎちゃうというか。
Yamato氏:
可愛くなりすぎちゃう。大切にしたくなっちゃう。
ねい氏:
そしてエロのある『カスタムメイド』で人間がそこまで行けるのなら、エロのないいまの『カスタムキャスト』は、大切にしたくなる気持ちの受け皿と最初からなるわけで、非常にいいツールなんじゃないかと。だからこその爆発的なヒットなのかなとも思いますね。
──アダルト要素を外した『カスタムキャスト』だからこそ、より嫁度が高まった、愛が深まったというのはあるかもしれませんね。
そこでもうひとつお聞きしたいのは、『カスタムキャスト』って手軽にVTuberになれる、配信できるツールとしてリリースされたと思うんですが、現状でどこまでその使われかたをしているのでしょうか?
Yamato氏:
ある一定の層にはすごく定着していて、放送自体も落ち着きながら推移している状態です。ですから定着という意味では、すごくしたと思っています。
ただやっぱり、配信をするまでのステップ──心のステップと言ったほうがいいですかね。そこのステップを踏んでいくには、まだまだ壁は高いですね。
というのも、キャラクターを作ることと配信することのあいだには、ものすごい開きがあるんですよ。そこの部分をまだ越えられない人たちがたくさんいるのが現実だと思っています。
──「こういうキャラクターが好きなんだ」という、ある種の性癖暴露大会みたいなことはできるんだけど、「自分がそれになりきろう」というところまではまだいっていないと。
Yamato氏:
そこがVTuberになれるかどうかの、ひとつの壁の部分ですよね。
──いまはボイスチェンジャーなどの機能も発達していますから、たとえ男性であっても女性のような声で配信ができるので、そういう壁もクリアできるようになっているものの、精神的なものはどうしようもないですからね。
Yamato氏:
たとえば「女言葉を使えない」とかですね。自分が女の子になって話そうと思った瞬間に「うおー」みたいな高い壁がありますよね。
──「美少女になりてーなーと」と思いながらも、いざ実行できる技術が目の前にあるにもかかわらず踏み切れない、というのは結構あることだと思います。
Yamato氏:
まだ心がついてこれない、みたいな感じですね。
──そういう背景があると、きっと衣装に対する要望も『カスタムメイド3D』のころとは異なると思うのですが、いかがでしょうか。
Yamato氏:
要望は本当に無数に来ていて、なかなか「こういう傾向」とは言えませんが……たとえば、ズボンのパンツものなどは、わりと「取り回しがいいものがほしい」など、「普通に生活しているときに考えるようなアイテムがほしい」という要望が多く来ます。
「取り回しのいいパンツが欲しい」なんて聞くと、「あなた毎日着るんかい!」なんて思っちゃうんですが、この傾向って凄く面白いです。自分とキャラクターが繋がっているんでしょうね。
──「仮想の姿で生活がしたい」ということなんですかね。
Yamato氏:
そういうことなんでしょうね。そこまでたどり着いた方が、一部ですがすでにいらっしゃるんです。
──それは配信ツールであるがゆえ、人に見せるのもであるがゆえの要望かもしれませんね。
Yamato氏:
そうだと思います。なんといっても毎日を過ごすわけですから。こんなGUやユニクロに求められるような要望をいただいたのは、今回の『カスタムキャスト』が初めてでした。
というのも『カスタムメイド3D』シリーズだと、どうしても「(既存IPの)何々を作って」ですとか「可愛い制服を作って」や「エッチな服を作って」ですとか、そういう要望が多かったんですよ。
ちなみに先ほど例に出した取り回しの要望は、男女問わずに多くいただきますね。
──そう考えると面白いですね。
Yamato氏:
だから『カスタムキャスト』には現実感があるんです。
──さて、お時間がそろそろ迫ってきたので最後の質問になるのですが、今後の『カスタムキャスト』の展望と抱負についてお聞かせください。
Yamato氏:
『カスタムキャスト』がローンチして早3、4ヵ月経過しましたが、今後はいまのアバターを使った楽しみかたをバージョンアップさせていきたいと思っています。具体的にはとお話をしたいところですが、こちらは2月に入りましてから楽しみにして頂ければと。
──本日はありがとうございました。(了)
『カスタムキャスト』は“スマートフォンで誰でも簡単にVTuberになれるアプリ”であるため、どうしてもVTuberの文脈で見てしまうが、その文脈はエロゲーや美少女ゲーム業界にあったのだ。
そして「美少女ゲーム業界で研ぎ澄まされてきたものが表に出た結果、広く受け入れられヒットした」、「じつは裏と表ってオーバーラップしている世界だった」というのは、かの『Fate』に通じるものであり、それはエロゲーや美少女ゲーム業界の可能性そのものである。
また、そういった美少女ゲーム業界全体の流れがあるとはいえ、『カスタムキャスト』がヒットしたのはそもそものクオリティーが高いからであり、リアルでもアニメ調でもない“フィギュア調”を狙った3D表現こそが、もっとも重要な要素だったように思える。
そしてその表現がVTuberや『VRChat』を始めとした仮想世界に向けて作られたものではなく、たまたまそことの相性がよかったという偶然は、運命的なものを感じてならない。
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