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『ニーア オートマタ』のアクションはなぜ手触りがいいのか。“新世代を担うアクションの旗手”田浦貴久に迫る【聞き手:ヨコオタロウ】

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 プラチナゲームズ──大阪にあるそのゲーム開発会社の特徴を一言で表現するなら、「アクションゲームで高い評価を得ている」という点が、まず真っ先に挙げられるだろう。

 同社は錚々たる名作アクションゲームを開発してきた。そしてこれまで、その評価の中心を担ってきたのは、『デビルメイクライ』『ビューティフル ジョー』『ベヨネッタ』等のディレクターを務めた神谷英樹氏であった。

 ……だが、この会社から今新たに、「新世代を担うアクションの旗手」が誕生しつつあるのをご存知だろうか?2017年、その才能はプラチナゲームズが開発を手がけた『NieR:Automata』のゲームデザイナーとして頭角を現した。

 同作は、2018年12月に世界累計出荷・ダウンロード販売本数が「350万本」を突破したビッグタイトル。そして本作はそうした売上だけでなく、その完成度が国内外で高い評価を得ている。

 レビュー集積サイト「Metacritic」ではPS4版が「88点(ユーザースコアは90点)」、そしてファミ通のクロスレビューでは満点に近い「39点」を叩き出している。
 ゲームの内容も含め、誤解を恐れずに表現するなら、「コアなゲーマーからの熱い支持を得た作品」と言えるだろう。2019年2月には、ゲーム本編にDLCや各種ゲーム内アイテムの特典などを追加した特別版『NieR:Automata Game of the YoRHa Edition』も発売された。

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Game of the “YoRHa” Edition

 本作は、鬼才・ヨコオタロウ氏による「シナリオ」が強い注目を集めた作品ではあるのだが、その一方で、その舞踏の軽やかな動きと爽快感に満ち満ちた「アクション」も高く評価された。
 本稿では、連載「新世代に訊く」第三回として、そのアクションパートを担ったプラチナゲームズの田浦貴久氏に話を伺った。

 田浦氏は、『ニーア』での経験を経て、2019年8月発売予定の『ASTRAL CHAIN(アストラルチェイン)』でディレクターを務めている。その発表前に収録された本インタビューでは、彼のアクションの細部に至るこだわりのみならず、まさに新世代のゲームディレクターの在り方に対する葛藤も語られた。
 聞き手には、『ニーア』シリーズでおなじみのヨコオタロウ氏を招き、仲の良さが伺えるくだけた雰囲気の中で、その胸のうちが明かされた。

(取材日:2017年6月5日)

聞き手/TAITAI
編集/クリモトコウダイ


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田浦貴久氏(左)とヨコオタロウ氏(右)

『ニーア』の隠れたキーパーソンに迫る

──今回はヨコオタロウさんを聞き手にお招きして、『NieR:Automata』(以下、『ニーア』)のシニアゲームデザイナーを務められた田浦貴久さんにフィーチャーした取材となります。よろしくお願いいたします!

ヨコオ氏:
 よろしくお願いします。イケメンの田浦さんが主役ということだけど……さすがに主役を張る以上、今日は脱ぐんですよね?

田浦氏:
 脱がないですよ! 変なことを言って読者の方に誤解を与えるのはやめてください(笑)。……まあ、取材ではいつもヨコオさんの見た目のインパクトに持っていかれて、僕の存在感は薄まってしまっていますけれども。

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田浦貴久氏

──(笑)。でも読者の皆さんも『ニーア』といえばヨコオさんというイメージが強いと思いますので、まずは、今作の『ニーア』での田浦さん抜擢の経緯からお伺いしていきたいなと思っています。

田浦氏:
 わかりました。そもそもの今作の『ニーア』を手がけることになった発端としては、プラチナゲームズ側の一人のプロデューサーが「スクエニさんとなんかやりたい」という話をしていたところにあるんです。

 で、そのプロデューサーと僕は、スクエニさんのIPである前作の『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』がものすごく好きだったんですよ。

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『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』
(画像はニーア ゲシュタルト | ニーア レプリカントより)

 それで、このゲームの続編をうちで作らせてもらえないかなという話が持ち上がって、僕の方で企画書を出してみたんです。「俺の考えた最強の『ニーア』続編」みたいな感じだったんですけど(笑)。

──なんと。つまり田浦さんの企画書が今回の『ニーア』の発端だったわけですね。

田浦氏:
 それで、前作のプロローグの新宿の前後を舞台に提案させてもらったんです。

──ヨコオさんは、その企画書をどういうふうに受け止められたんでしょうか?

ヨコオ氏:
 そもそも、当時の僕は本当にただただぼんやり生きていた時期で。

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ヨコオタロウ氏

 それで、スクエニの齊藤(陽介)さんと、僕のマネジメントをしている岩崎(拓矢)さんが、「ヨコオがあまりに仕事をやらなさすぎてマズいので、PS Vitaで『ニーア』のリマスターを作ろう」といって、企画を動かし始めたんですよね。

 でも、齊藤さんと岩崎さんが『ドラクエXI』のプロジェクトを始めてしまったので、結局そこに人材が持っていかれる形でその企画は頓挫しちゃったんですよ。そこにちょうどプラチナさんから今回のお話が来たんです。

 ただ、当時の僕はゲーム作りにほとほと疲れてしまっていて、もう外部の会社さんと仕事をするのをやめようと思っていたんですよね。それを、周囲の人間たちにもわりと吹聴していた状況で。

──なるほど……別件でインタビューを組んだ方がよさそうな感じの話ですね。

ヨコオ氏:
 まあ要するに、自分ひとりで仕事をするか、会社を作って内製でやるか、会社の中に入ってやるかのどれかくらいしかないだろうと思っていたんです。 でも、かの有名なプラチナゲームズさんからの話だったので、「ひょっとしたら今回は外部でも一緒にお仕事できるかも?」という、よこしまな気持ちが芽生えてきちゃって(笑)。

──やらないって吹聴していてた矢先に(笑)。

ヨコオ氏:
 やっぱり『大神』を始めとする神谷(英樹)さんのゲームが好きだったのと、あとは『メタルギア ライジング リベンジェンス』とかも手触りが良くて面白いなあと思ってたんですよ。

 僕はプラチナゲームズ自体を、アクションゲームが得意な会社で、かつ、それを売り込むのも上手い会社だなと思ってるんです。

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『大神』(画像はCAPCOM:大神 絶景版 公式サイトより)

※『メタルギア ライジング リベンジェンス』トレーラー

──売り込む?

ヨコオ氏:
 ええ。海外のパブリッシャーさんともガンガン組んでいったりしていて、アクションゲームメーカーとしての立場を築かれていましたので。

 そうした魅力もあったので、プラチナさんからの提案を受ける形で、一緒にお仕事をさせていただく運びになったんです。ただ、齊藤さんから「ヨコオさんはとにかく揉め事を起こすので、トラブルが起きそうにないか半年は様子を見たい」と言われてしまって(笑)。
 それで一旦、現場で半年試すことになったんです。「まあこれでダメならもうしょうがないな」という気持ちでしたね。

 ……それでいざ大阪にあるプラチナゲームズさんを訪れてみたら、そこに田浦さんがいらっしゃって、「あ、この人にだったら任せられるな」と感じて本格的にプロジェクトがスタートしたんです。
 おそらく田浦さんじゃなかったら、『ニーア』を最後まで作れるなとは思わなかったかもしれません。

──お話を伺っている限りでは、田浦さんってかなりのキーパーソンだとお見受けします。

ヨコオ氏:
 実際、僕と齊藤さんで「こんなにできるんだったら、もう田浦さんがディレクターをやればいいじゃん」と言ったこともありますね。でもそこは、絶対に遠慮するんですよね。

田浦氏:
 うーん、もちろんディレクター自体はやりたいし、それが夢でゲーム業界で仕事をしているんですよ。
 でも、やはりヨコオさんの作品の功績をあとから奪う形で「俺がこうアレンジした」みたいなことをするのは、単純に嫌だなと。あと、『ニーア』はヨコオさんがやるからこそ意味のあるものですし。

──逆に言うと、自分の作品をゼロイチで作りたいという思いはあるということですよね。そこらへんの今後の話は、ちょっと最後に突っ込んでお話できればと思います。

田浦氏の『ニーア』に至る経緯

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──田浦さんは『ニーア』に至るまで、どういう経歴を辿られているのでしょうか?

ヨコオ氏:
 関西のゲームの専門学校を出て、そのあとに普通に就職をしたんでしたっけ?

田浦氏:
 いや、僕は就職活動をするのがすごく遅かったんですよね。ちょっと、人類に対して憂いていた時期というものがありまして……。

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──な、なるほど?

田浦氏:
 まあなんというか……「愛する気持ちで大自然を守ろう」みたいな環境保護のスローガンとかを見ては、「僕らみたいなちっぽけな人間がそんなことできるわけねぇだろ」みたいなことを思ったりしていまして。それを言い訳に、まともに働くのが嫌だった時期があって。

一同:
 (苦笑)。

──なかなかにどうしようもない感じが漂っていますね……。

田浦氏:
 ええ(笑)。
 ただ、周りの同級生たちが大手のゲーム会社とかに就職を決めているのを見て、「ちょっとさすがにまずいな」という危機感を持ち始めて。で、夏休み明けにゲーム会社に履歴書を送ってみたら面接に呼ばれたんですよ。そしたら「もう学校とかいいから来なさい」と言われ、そのままアルバイト経由でその会社の社員になっていたんです。

ヨコオ氏:
 この人、初めて入った会社の名前を絶対に伏せるんですよね。きっといけ好かない会社だったんだろうけど。

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田浦氏:
 いやいや(笑)。すごくいい会社でしたよ。ただ、規模が大きいわけではなかったので、企画職が僕しかいない状態でして。

 外とのやり取りやら、台本の製本やら、コピー用紙を買いに行ったり……みたいなことまで全部やらなくちゃいけなくて、色々と大変でしたが、かなり勉強させてもらった時期でもあります。

──そんな、アルバイトみたいなことまで(笑)。

ヨコオ氏:
 ちなみにそうした組織の中で、どのくらいの速度と規模感で製品を作っていたんですか?

田浦氏:
 だいたい半年〜8ヵ月程度に1本のペースだったので、ものすごい速さでしたね。そのときは主にニンテンドーDS関連のソフトを作っていました。

──だいぶ速いですね(笑)。その後、プラチナゲームズさんに転職されたのは……やっぱり仕事が辛かったからとかでしょうか?

田浦氏:
 いや、以前の会社では携帯ゲーム機での開発しか経験していなくて、やっぱり据え置きのゲームハードでゲームが作りたいという気持ちから、色々あってプラチナゲームズに中途入社しました。

 関わった順番で言うと、『マッドワールド』『マックス アナーキー』、『メタルギア ライジング リベンジェンス』、『The Wonderful 101』、あと日本で発売されていませんが『ザ・レジェンド・オブ・コーラ』、そのあとに『NieR:Automata』ですね。

 最初の『マッドワールド』はいわゆる雑用仕事を主にやっていて、『マックス アナーキー』から、プレイヤーキャラクターの仕様や調整をするプランナーになりました。『メタルギア ライジング リベンジェンス』でも、敵キャラクターとのバトルやボス戦の仕様を考える仕事だったので、わりとずっとプレイヤーキャラクターのアクションまわりの仕様を担当してきていますね。

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ヨコオ氏:
 『ニーア』でもアクションに時間を割いていたと思うんですが 、それは田浦さん自身が好きだからやっているんですか?

田浦氏:
 そうですね。「この動き、気持ち悪いな」みたいなのを見つけて改善していく作業が好きなのもありますし、自分の操作が画面に反映されてかっこよく戦えるというゲーム特有の面白さに、直接関われている気分になれて、作業自体が楽しいです。

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「アクションマイスター」としての田浦氏

ヨコオ氏:
 それで言うと、今回『ニーア』を作る中での田浦さんの動きで、面白かったことがあって。ある時期、チームの体制がわりとうまく回り始めたんですけれども、その瞬間から田浦さんはメンバーを統率する仕事からふわっとフェードアウトしたんですよ。

──どういうことでしょう?

ヨコオ氏:
 具体的に言うと、開発体制として「アクション」と「RPG」の2つのパートに分かれていましたが、そのRPGのほうのパートを他の人にまるっと任せて、アクションの中に閉じこもっていっちゃったんですね。それで、打ち合わせとかも全く出なくなったんです。

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 これって、言ってしまえばちょっとわがままな行動なわけですよ。それを見たときに「この人はアクションをやることに関しては、割とわがままに振る舞うんだ」と思ったんですよね。ここが田浦さんのディレクターとしての本質なんだな、と。

──なるほど。

ヨコオ氏:
 僕の中で田浦さんって「マイスター」みたいな人だなと思っていて、本当に細かいところでこつこつカンカンと叩いていたいタイプなんですよ。そしてそれをやるための準備をたくさんやって、一度やり始めたら引きこもって叩き続けるわけです。

 だから、いわゆる「全体を見てますよ」というディレクターとはちょっとタイプが違うし、田浦さんの世代ってそういう人たちが増えているんじゃないかなあと。

田浦氏:
 まあ本当に仰る通りで、自分のやりたいことをやるために周りを固めたいんですよね。それで任せて大丈夫という状態になったら、もうノータッチでいきたいんです。

ヨコオ氏:
 僕も田浦さんにはアクションの100パーセントを任せていて、進捗も聞かなかったし、コンボの種類も今でもよく知らないくらいなんです。

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──ただ、今の話を聞いていてまず真っ先に疑問に思ったのが、『ニーア』のアクションって──触った方ならわかると思いますが──職人的なタイプが好むようなハイエンドな方向を突き詰めたものというよりも、わりと少し間口の広いものを志向したものに感じるんです。

田浦氏:
 僕個人としては、よりハイエンドに積み上げていって、難しく、高度なテクニックですごいことができるゲームも、もちろん好きなんです。

 でも、やっぱり元の『ニーア』が好きな人たちであったり、最初にスクエニさんから「アクションの敷居は低めで」というオーダーがあったりしたので、今回はかなり意識してそう作っています。

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ヨコオ氏:
 今回、田浦さんが手がけたアクションって「適当にやっていても、上手くやっているような気持ちになれる」ものなんですよね。ジャスト回避が緩い調整であるとか、なんとなくガチャガチャしていると多彩なコンボが出せるだとか。これって言うのは簡単ですれけど、意外と難度が高いことなんですよ。

──その極めつけとなるのは、攻撃や回避を自動で行う「オートモード」の存在です。これを入れる判断って、マイスター的な人だったら特にしないと思うのですが、あのオートモードがあるのは本当に素晴らしいと思うんです。

ヨコオ氏:
 「オートモード」には元ネタがあって。 『ベヨネッタ』の「ベリーイージー・オートマチック(別名オカンモード)」なんですよ。
 これはボタンひとつで勝手に複雑な操作をしてくれるもので、なおかつ自分で操作したいときにはその操作に従ってくれるので、任せたいところだけ任せられるようになっているんです。
 で、同じような感じで、全自動『ニーア』とかあったらバカバカしいから入れよう、となりまして 。

※『ベヨネッタ』の「ベリーイージー・オートマチック(別名オカンモード)」

 一応、最初に齊藤さんから「プラチナさんはアクションがハードだから、簡単に遊べるようにしてくれ」というオーダーをいただいていたので、それを思い出したというのもあります。

──まさしく「オートマタ」ですよね。

ヨコオ氏:
 そうですね (笑)!

田浦氏:
 やっぱり『ニーア』の特性上、音楽やシナリオを重要視して買う方がアクション部分でつまづいちゃうのは本意ではないと思っていたので、当初から入れること自体は僕も大賛成でしたね。

ヨコオ氏:
 でも、「全自動で避けて全自動で戦ってくれる」という、アクションゲームである意味があるのかよく分からなくなるレベルのものをぶち込んでいるわけで。ある意味、「実験」みたいな感じで入れたので、僕らもどういうリアクションが来るか、わからなかったですね。

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──編集部内では、かなり画期的で作家性すら感じるシステムだという話をしてました。というのも、「オートモード」といえば、普通だったらもっと自分の手を離れちゃっている感じがしそうなものなのに、その「どうでもいい」という感覚があまりないんですよね。
 あの、最後の最後で操作している感が残っているさじ加減は、一体どうやって作り出しているのだろうなとは思っていました。

田浦氏:
 そこはこだわった部分で、最初はこちらの操作を受け付けないくらい「勝手に避けて勝手に戦う」ものでした。ただ、そこから触りながら、自分の操作が優先されるようなシステムの部分をかなり細かく調整していったんです。

 あと、全部オートにしてしまうよりも「回避だけやってくれる」とか「攻撃だけやってくれる」みたいなものを組み合わせられるゲーム性を入れた方がいいなと判断したのも、今思うと良かったですね。

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──まさに神谷さんがそうなのですが、プラチナゲームズさんのゲームは触っていて異常に気持ちいいんですよね。いよいよそれがオートで実現したというのは、本当に革命的な話だと思っていて。

田浦氏:
 でも、多くのゲームがイベントのスキップができるじゃないですか。僕からするとあれと同じで、これまでゲーム部分をスキップするものがなかっただけだと思うんです。

 そのゲームを買う理由が、「ゲームをしたいから」、「イベントを見たいから」、なんて人それぞれですし、遊びの幅や選択肢が広がるのは単純にいいことだなと思うんです。アクションゲームだからって、アクションを楽しむ必要はないなと。

ヨコオ氏:
 まあでも、褒められて嬉しいですね。半笑いのテンションで入れたものだったのに……。

田浦氏:
 半笑いどころか、当初は作りながら大爆笑してましたよ(笑)。

アクションの“手触り”とは何か?

──ここから、アクションのこだわりについてもう少し突っ込んでお聞きします。まずお伺いしたいのは、「手触りが悪いな」となるその判断基準とは一体何で、そのときに具体的にどういうふうに直していくのか? という部分です。

田浦氏:
 なるほど。たとえば、剣を持って振る攻撃があったとするじゃないですか。そこでは、まず待機のモーションから始まって「剣を構え、振り、元に戻る」という一連の動きのアニメーションがあるわけですね。

 で、そうしたアクションには、たとえば剣を振りきったところくらいで「次の攻撃をキャンセルするためのタイミング」が埋め込まれていたりするわけです。
 「スティックを倒したら移動できる」「ジャンプボタンを押したらジャンプできる」みたいなキャンセルのトリガーが、ひとつのアクションの中にものすごく大量に組み込まれているんですよ。

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 そして、それは調整する前だと、プレイしていると何か“引っかかり”のようなものを感じるんです。その“引っかかり”のひとつひとつに対して、キャンセルできるタイミングをほんの少し早めに設定したり、あるいは遅くしたりといった調整をかけていく。
 すると、どんどんハイスピードで気持ちのいいアクションというものができあがっていくんです。

ヨコオ氏:
 特に今回の『ニーア』って、快適性を追求するために、そのキャンセルがめちゃめちゃ入っているんですよね。結果、あらゆるタイミングでやりたい動きができちゃう、ほぼ無敵みたいなアクションになっています。

田浦氏:
 まあそれが必ずしもいいわけではなくて、たとえば『モンスターハンター』は、動かせない時間がものすごく長いタイプのアクションとして成立しているわけです。結局、とにかくそのアクションの方向性がゲームに合っているかどうか、ということに尽きますね。

ヨコオ氏:
 ……そういえば。今回の『ニーア』のアクションって、「女性が踊っているイメージ」みたいな話が共有されていたじゃないですか。

田浦氏:
 ああ、僕が言い出したテーマですね。

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ヨコオ氏:
 そこって、これまでのプラチナさんのアクションとはちょっと違うなと感じていたポイントなんですよね。柔らかくて綺麗な感じの、剣舞のようなアクションというか。その辺の動きのニュアンスが、今回の『ニーア』を特徴付けているのかなぁとは思いますね。

田浦氏:
 それは「常に違うことをやることで、面白いものを生み出そう」みたいな社内の暗黙の了解からの影響が大きいですね。

 だから、ネットなどで「雷電が剣を振っているアクションに、すごい似てる」みたいなことを言われていたりしますが、「よく見比べたら全然違うのに!」と思っています。

ヨコオ氏:
 えー。それは本当によく見比べないと、わかんないんじゃない(笑)?

田浦氏:
 いやいや! あれは、目隠しした黒い恰好で白髪の人が日本刀を持っている、というところが異様に似てしまっていたせいかと……。

──モーションの担当の方とふたりで木刀を振りながら日夜研究していた、といった話もお伺いしました。

田浦氏:
 プラチナゲームズの社内に、武器がずらっと並んでいる区画があって、巨大な姿見もあるのですが、そこでやっていましたね。おっさんがふたりで可愛らしい雰囲気の決めポーズとかも再現していましたね。「うーん、もうちょっと腰捻ろうかー」みたいなことを言いながら(笑)。

──そんな感じに、「実際に自分の身体で動かして見てみる」ことは、社内の雰囲気としてあるのでしょうか?

田浦氏:
 みんな自発的にやっているので、雰囲気としてあるんだろうと思いますね。上の人がやっているから、自然と下の人も真似していく、と。

──ちなみに、具体的に2Bのモーションで参考にしたものはあるのでしょうか?

田浦氏:
 最初に例として挙げていたキャラクターは、『銃夢』のガリィですね。あのキャラクターにプラスアルファで、優雅かつ上品な感じに味付けしてほしいというのを、モーション班の人には指示していました。

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『銃夢』(画像は『銃夢(1)』(木城 ゆきと)|講談社コミックプラスより)

ヨコオ氏:
 へえー! 今初めて聞きましたよ。

カメラワークへの狂気のこだわり

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──もうひとつ、アクション関連で気になったのが「カメラワーク」です。特にボス戦におけるカメラワークは、惚れ惚れするような動きをしているなと。

田浦氏:
 今回、ひとつひとつのモーションに対して全て、カメラのパラメータの調整をしたんですよ。

 「ボスが腕を振り上げたときは、ちょっとカメラを引いて上に向ける」みたいな感じで組み込んでいったんです。それこそ本当に何回も何回も触りながら、少しでも「気持ち悪いな」と思う部分の数値を弄り倒して直していきましたね。

──えっと……そういうことは、他の作品とかでも普通に行われているのでしょうか? 「ジャンプしたら合わせて上がる」などは普通にありますが、全てというと流石に狂気のような作業のように思うのですが……。

田浦氏:
 僕が作ってきたゲームの中では今回が初めてですね。本当に根気のいる面倒くさい作業なので「もう二度とやるか!」と思いました(笑)。

ヨコオ氏:
 正気とは思えないですね……。

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──なぜ今回の『ニーア』では、そこまでしてカメラワークにこだわったのでしょう?

田浦氏:
 アクションって、やっぱりカメラワークが重要で。カメラが変な動きになったりした瞬間に、キャラが見えなくなって死んだりとか普通によくあるので、かなりプレイに直結してくる部分なんです。

 実を言うと、なんなら僕はモーションよりもむしろカメラの方にこだわるタイプだったりします。ゲーム体験としても、まだ若い頃に3Dのゲームがある程度一般的になったので、「カメラを動かせるゲーム」というのは感覚としては当たり前なんですよね。

──なるほど。

田浦氏:
 あと、個人的な好みでもありますが、カメラの動きひとつでプレイするのを辞めたゲームがいっぱいあって(笑)。そういうのをオプションで調整できないだけで、もうだいぶストレスを感じるタイプなんですよ。

──そこまでカメラにこだわりがあるんですね。むしろ、他のゲームで、カメラにこだわりを感じるものはありました?

田浦氏:
 たとえば、『ベヨネッタ』とかですかね。
 あれはそもそも「右スティックを使えない人でも気持ちよく戦える3Dのアクションゲームが作りたい」という想いが神谷さんの根底にあったゲームなんですよね。

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『ベヨネッタ』
(画像はベヨネッタ | PlatinumGames Inc. Official WebSiteより)

 だからプログラマーがめちゃめちゃ頑張って、右スティックを意識しなくても、その時々で一番アクションが見やすいカメラワークになるようになっていて。
 まあ、その『ベヨネッタ』のカメラワークはシステムとして作っているので、わりと自動で動くのですが。

──その話を聞くと、全て手動で調整をかけている『ニーア』の苦労が忍ばれます……。

ヨコオ氏:
 ベースは『ベヨネッタ』みたいにしておいて、必要なところだけ手動で上書きする仕組みにすればよかったんじゃない(笑)?

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田浦氏:
 いや……実はすでにそうなっていまして。でもいざ上書きをしていったら、いつの間にかなぜか引き返せないところまで来ちゃっていたんですよねえ……。

一同:
 (爆笑)。

対象的な『ダークソウル』と『ニーア』

──ちなみに、フロム・ソフトウェアの『ソウル』シリーズは結構やられますか? アクションとしては実は『ニーア』と好対照なタイトルだな思うんですよね。

田浦氏:
 やるどころか、最近のゲームの中では『ソウル』シリーズが一番好きですね。
 自分の操作ひとつで生きるか死ぬか決まるような、あのヒリヒリした感じがもうとにかく好きなんです。実はレベルデザインもすごく考え抜かれていて、初めてやるときには本当にドキドキしながらその世界を歩けるんですよ。“シナリオで動かされている”というより、“自分の足で動いている”と感じられる唯一のゲームだなと。

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『 DARK SOULS REMASTERED』
(画像はMovie and Images – DARK SOULS REMASTERED | ダークソウル リマスタードより)

 実際に自分が見知らぬ真っ暗な洞窟の中に立ったとき、何が起きるか分からないという気持ちで一歩一歩を恐る恐る、歩くと思うんです。そういう「入り込んだ」という気持ちにさせてくれるレベルデザインがすごいんですよ。

──なるほど。田浦さんにとって会社としてのフロム・ソフトウェアは、どのように見えているんですか?

田浦氏:
 これは文化の違いみたいなものかもしれませんが、うちの会社で、カメラ演出も入れず、背景が動くわけでもなく、ただ殴り合うようなゲームをやろうとしても……みんな不安になるんですよ。「こんなにも一見して地味で本当に受け入れてもらえるのか」と。

  それでどんどんいろんな要素が積み重なって、周りでビルが崩れていたり、「ある攻撃をくらったら演出が入ります」みたいなものをモリモリと入れていくんです。それって、明確にやりたくてやっているというより、不安から来ているという側面も少しはあるような気がします。

 それに比べてフロム・ソフトウェアさんの作品って、「付いてこないやつは付いてこなくていい」みたいな、背中で男気を語るようなかっこよさを感じますよね。だって、「真っ暗な画面で地味な動きする主人公、そして下手な人がやると一瞬で殺されるようなゲーム性」……こんなゲーム、作らせてほしいと言っても作れないですよ。

 「これで大丈夫なんだ」と強く言える人や文化がないと難しいですよね。それを綺麗にまとめ上げていて、掘れば掘るほど深みがあるゲームになっているからすごいです。

ヨコオ氏:
 キャラクター性も主張もなく、ただ統一されたパッケージの中で綺麗に世界がまとまっている感じは、僕は『ICO』『ワンダと巨像』とも近いなと思ってますね。田浦さんは、フロムさんのアクションについてはぶっちゃけどう思っているんですか?

田浦氏:
 フロムさんのアクションは、プレイヤーキャラクターを人間ができる動きの範疇から少し超えるくらいのところでとどめて、重みと爽快感を出しつつ、調整された制約やレベルの中でうまくバランスを成り立たせているので、そうやすやすと作れるものじゃないなと尊敬の思いで見ています。

ヨコオ氏:
 『ニーア』のゲーム性って、「1対1を楽しむ」というより「多対1」であったり、もっというと「空間を使った遊び」みたいなものを意識してもらっているんですよ。衝撃波をジャンプで避けながら近寄っていったりとか、そういうちょっと古いゲームでおなじみの仕組みが入っていたりね。

 それに比べると『ダークソウル』は本当に1対1を突き詰めていますよねえ。

──以前、宮崎さんに聞いたレベルデザインの話があって、「普通のFPSやオープンワールドは横のレベルデザインなんだ」と言っていたんです。それに対して、『ダークソウル』はいわば縦のレベルデザインになっていて、ダンジョンの構造が縦に入り組んでいるんですよ。
 言われてみれば、縦にレベルデザインが深い構造のゲームって、意外と少ないことに気づきまして。

田浦氏:
 それはコスト的にも良いスタイルなんですよね。横に広かったり奥に一本道的に進むタイプのゲームだと、それだけのものを作らなきゃいけない。

 たとえば『ベヨネッタ』は、一本道のステージで、そこで激しいバトルが起きたりすることの連続なので、わりと何ヵ月もかけて作った場所を10秒で通り過ぎるみたいな、豪勢な作りになっているんですよね。

 それに比べて、縦に伸ばすパターンだと、ひとつのビルを作ったらその階ごとに同じようなセットを使い回せたりするので、背景を作る単純な物量としては、次々に新しいステージを作るよりも比較的少なく済むとは思います。
 特に今後、予算を考慮しながら開発していく立場になるにつれて、そういうところは取り入れていきたい気持ちはあるのですが、だからといって簡単に成立できる所業でもないので、やはりフロムさんのすごさみたいなものを感じますね……。

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