天正3年(1575年)、織田信長・徳川家康の連合軍と武田勝頼軍が戦う「長篠の戦い」が勃発した。
歴史の授業を通じて教科書で学ぶだけではなく、日本の戦国時代をテーマにしたゲームでもたびたびモチーフとなるこの戦い。織田・徳川軍の用意した3000丁の新兵器「鉄砲」と「三段撃ち」なる戦法によって、武田の精鋭騎馬兵がことごとく討ち取られたという通説が長く語られてきた。
しかし近年では、小瀬甫庵が記した歴史書『信長記』と太田牛一の『信長公記』のさらなる比較などを経て、そもそも三段撃ちなど存在しなかったのではないかという新説が浮上している。
あるいは1900年代に生まれた「インターネット」。その起源である「ARPANET」は、核戦争が起きたとしても耐えうる通信手段としてアメリカ軍が軍事目的で開発したという話が伝えられてきた。
だが一方で、誕生に関わったロバート・テイラー氏は2001年にWiredで同説を真っ向から否定している。
そのインターネット自身が世界各地へ広まり、情報の伝達速度と取得範囲が加速度的に向上していっても、「報じる者」と「知らされる者」がいる”情報”にて発生しうる問題は存在し続けた。数年前、数日前、いやつい数秒前に起きた出来事でさえ、その経緯や歴史、起源が正しく伝わらない日々が続いている。
手段や視点は違えど、そんな情報を「どのように記し後世に残すかという挑戦」が、ゲームメディアに限らず、多くのメディア、ジャーナリストに課せられたひとつの使命である。
上記の画像のようなリアルタイムアタック(RTA)動画、あるいは解説動画のレイアウトデザインを見たことはあるだろうか。このニコニコ動画において定着し「biimシステム」と呼ばれるようになったレイアウトに我々が着目したのは、前述のような理由からだ。
「ゆっくり」のキャラクターアイコン、SofTalkによる音声トーク、アドベンチャーゲームのような枠で表示されるUI、そしてメインのテーマとは別に挟まれる小ネタの数々。同システムが使用されたRTA動画では倍速や失敗が盛り込まれ、エンターテインメント作品としてRTAの知識がなくとも多くの視聴者を楽しませている。
そして、ゆっくり霊夢を使った動画の増加とともに、このbiimシステムと呼ばれるレイアウトはひとつの傍流として定着し、多くのRTA動画で使われていくようになった。
ニコニコ動画では「biim兄貴リスペクト」と銘打たれた1万9000件以上もの動画が投稿されており、それはほかのどこにも見られない日本の独自の動画文化のひとつとして構築されている。
その実、biimシステム誕生の経緯、引いてはbiim兄貴自身を知る者は少ない。このままではbiim兄貴は長篠の戦いやインターネットの二の舞になってしまうのではないだろうか。
その出自に“汚さ”を感じつつも、我々はbiim兄貴にコンタクトを取り、その貴重な歴史の証言を賜る機会を得ることに成功した。
文、取材/Nobuhiko Nakanishi
編集、取材/ishigenn、実存
「子ども時代にクリアできなかったゲーム」から始めたRTA
※本記事ではbiim兄貴氏の発言のテイストを損なわないよう、ひらがな表記などを出来る限りほぼそのまま記載しています。
──取材を受けられるのは初めてになるんでしょうか?
biim兄貴:
そうですね。
──歴史に残る取材になるのではないかなと。
biim兄貴:
常日頃から「しゃぶれよ」と「うんこ」と「頃す」【※】しかはつげんしていませんので。
だれもよってきません。
※しゃぶれよ、うんこ、頃す
biim兄貴が投稿動画やブログでよく使うジョーク。「死ね」は「氏ね」、「殺す」は「頃す」など、あえて攻撃的な言葉を誤字することが多い。
──しかしニコニコ動画だと、リスペクトのタグが付いたものが1万9000件もありますし、RTA界隈に与えた影響は大きいのでは?
biim兄貴:
動画投稿がふえたことはめでたいです。
アメリカ人も使うようになってほしいですね!
──海外はTwitchで記録狙いの配信が多いですよね。その辺りもあとで聞かせてください。まず、RTAやゲームについて聞かせていただけますでしょうか。たとえば、初めてプレイされたゲームや、これまで遊ばれてきたものですとか。
biim兄貴:
むかしからRPGばかりやっていました。
今でもそうですねえ。
──確かに投稿されてる動画で扱ってきたゲームはRPGが多いですね。
biim兄貴:
レベルを上げると最終的にどういうバランスになるかっていうのは。
昔から気になってしらべていたりしました。
でもRTAは鍛え上げる作業とは対極で、いやーきついっす。
──時間をかけてやり込みをするのではなく、いかに不要な作業をカットするのかですもんね。たとえば子どものころの思い出深いタイトルはありますか?
biim兄貴:
『FF』【※】が好きですねえ。
昨日もやってました。
──めずらしい気がします。(スーパーファミコン後期のシリーズ作品ではなく)『FF』が好きという方。
biim兄貴:
FC~SFCあたりのRPGにかたよっているので。
PS以降はあんまりゲーム買ってないです。
──なるほど。では人生で一番ゲームをやりこんでいたのがファミコン、スーパーファミコンのころだと。
biim兄貴:
そうですね。
──ちなみに『FF』の発売は1987年ですが、リアルタイムでプレイされていたんでしょうか。
biim兄貴:
後からですね。
『FF2』【※】が出たあと『1』を知ったかんじでしょうか。
──なるほど。RTAで走られているタイトルは、このころに遊ばれていたんですね。
biim兄貴:
初期のタイトルは、
当時遊んだものがメインでした。
中期のタイトルは、
知っていても当時ふれてないものが多いです。
後期は適当に選んで、後悔しながらも投げ出さないをもっとーにしました。
──「後悔しながらも投げ出さないをもっとーに」。名言ですね。
biim兄貴:
うんこの墓標を電子の海に建てようと、
近いニコ生主たちにはいってあります。
──お腹が痛い。
biim兄貴:
たとえ時代が進んでプレイできなくなっても、
動画をみればシステムやバランスがわかるようにと。
──とてもいい話ですね。
biim兄貴:
『虹のシルクロード』【※】とか許しちゃだめです。
──当時プレイしていてクリアできなかったタイトルに挑戦しているという話を聞いたことがあるのですが、それは本当でしょうか?
biim兄貴:
本当ですが、本数は意外と少ないですね。
ざっとリストを眺めると、
『アルテリオス』【※】、『ヘラクレスの栄光』、『破邪の封印』くらいしか該当しませんねえ。
理不尽系クソRPG!
──本当だったんですね。とてもいい話だと思っていました。
biim兄貴:
ふくしゅうとけつべつ!
墓!
──パワーワードが過ぎる。
日本独自のインターネット文化
──ゲームとの出会いはある程度わかりました。では、RTAとはいつごろ出会ったのでしょうか?
biim兄貴:
RTAを知ったのはにこなまですね。
日本独自のインターネット文化動画【※】の編集中に
よく見ていました。
※日本独自のインターネット文化動画
ある映像内に登場する人物の演技、発言が注目を浴び、インターネット上で画像や音声を使ったコラージュやMADが流行、ミームとなることがある。日本の一部の界隈では、いわゆる「レスリング」シリーズや「真夏の夜の淫夢」などの成人向けビデオをモチーフにする流れが長く続いている。
──なるほど。では日本独自のインターネット文化動画のほうに先に触れていたと。
biim兄貴:
いまでも出身母体だとおもっています。
──最初はBB動画【※】をたくさん作られていましたよね。
※BB動画
背景をブルーバックにした映像のこと。ほかの映像に出演している人物を切り抜き、ときに反転や着色を加える。ニコニコ動画ではこういったBB動画を素材として共有するという概念がある。ブルーバックのため透過処理が楽で動画制作ツールを使えば簡単に組み込むことができる。
biim兄貴:
なぜあんなむだなじかんを・・・。
──ニコニコ動画との出会いや、作り始めるきっかけを教えていただけますか?
biim兄貴:
出会いは、レスリングシリーズ動画【※】をネトゲ仲間から紹介してもらったことです。
──なんと。レスリングシリーズが先だったんですね。
biim兄貴:
しかしレスリングはさわやかである反面、加工に向いているとはいいがたく、あくまではめこみがメインでしたね。
──たしかに。
biim兄貴:
しかしある日、師1号の動画【※】をみて、
こんな加工をしてみたいとおもったのです。
──おお、BB素材で顔を作られている方ですね。
biim兄貴:
そして作り方を求めているうちに、師2号に辿り着きました。
あとはつくるだけでしたね!
──この方はイエローサブリメンさん【※】でよかったでしょうか。たしかドカベンとかも作られていましたよね。
※イエローサブリメンさん
長年にわたりBB素材や合作動画などを1000本以上も作成し続けているユーザー。例のアレだけでなく、派手なメロディとともにアニメーションするアニメ版『ドカベン』のOPロゴや、「そりゃお前」とだけ呟く桑野信義のコマーシャル映像なども加工の対象としており、モチーフは多岐にわたる。
biim兄貴:
ドカベニストでもありいくつかの合作とかのいえさぶあにきです。
もちろんBBもうまいですね。
──では、この方たちに影響を受けて、BB動画を大量に作られていたと。
biim兄貴:
作品はうんこ、にこにこは便器、
ただただ垂れ流すのみの日々。
──詩的です。では、RTA動画を始められたきっかけはなんだったのでしょうか?
biim兄貴:
BB動画投稿を始めて1年たったころ、BB動画との別れがやってきました。
超クッソ激烈にさむい動画と
そこにあつまるコメ群にうちのめされました。
──「例のアレ」にもストーリー路線の動画が増えてきたころでしょうか。
biim兄貴:
日本独自のインターネット文化動画のくせに、
きたなさもくささもくだらなさも追及していない自己語り。
自分も途中からはいってきた身ですが
もうきたない日独イはなくなったんやな、って・・・。
RTAはそこからですね。
──そこでBB素材とは決別された。
biim兄貴:
激さむ動画が評価される界隈はもう終わりだぁ!
──過激だぁ……。
biimシステムの誕生
──あのbiimシステムをどう思いついたか、その誕生の瞬間についてお聞かせいただけますでしょうか。
biim兄貴:
biimシステムの特徴は、いくつかあるといわれています。
1、左上に画面、右に解説欄、下にコメ欄、左下にゆっくり
2.やってはいけなかった倍速
3.上映会
まずはじめにあるのは、ニコニコの投稿者コメントの見にくさでしたね。
──なるほど。
biim兄貴:
ちっさい!くそ!
よっておおきくしました。
──なるほど。解説欄はニコニコ動画の不自由さから来ていたと。
biim兄貴:
文字をおおきくしてみたわけですが、こんどは読みにくい。
視点を毎回したにもっていくと、がめんがみれません。
うえみたりしたみたりがクソだったので読ませました。
──そこでボイスを付けるという発想に至った。
biim兄貴:
ゲーム画面をうえ、コメ欄をしたにしたところ、左右があきました。
こまったので解説欄をいれました。
初期動画は縦読みとかでみにくいですね。
──なるほど。かなりUIの観点から考えられてますね。
biim兄貴:
解説欄はみやすさをかんがえて、
ひだりでも左右でもなくみぎがいいかと。
ゆっくり実況【※】は霊夢ってきいてたので、初期はゆっくり霊夢です。
※ゆっくり実況
2ちゃんねるにて誕生した『東方Project』のパロディ・アスキーアート「ゆっくりしていってね!!!」のキャラクターを使った実況動画のこと。合成音声であるSofTalkを使った実況が特徴。biimシステムが誕生する以前から流行した。現在では「ゆっくり実況」のみならず、キャラクターを使ってさまざまな作品や歴史などを紹介する「ゆっくり解説」シリーズなども存在し、キャラクターや合成音声、動画プラットフォームにとらわれない独自の発展を遂げている。
──そういえば、途中からキャラクターはゆっくり霊夢から妖夢に変更されましたが、理由はあるのでしょうか?
biim兄貴:
ちょうど『東方妖々夢』ノーマルのーぼむちょうせんをしていて
ようむで7乙したからですね!
それだけです・・・。
──憎い敵を動画の主役ボイスにしてしまったわけですね。
ちなみにレイアウトに関して、プロトタイプと感じられるものをいくつか過去の動画で見ました。「ファミコン探偵倶楽部1のあらすじを解説する先輩」ですとか、「マインドシーカーと化した先輩」ですとか。参考にされたタイトルはあるんでしょうか?
biim兄貴:
『狂った果実』【※】をもとにしました(てきとう。
──biimシステムで右上にタイトルが入るのは、これが元だったんですね。
biim兄貴:
むかしの人はよくかんがえておられる。
──こだわりが随所に見られるのですが、ゲームのUIはよくチェックされるんですか?
biim兄貴:
めんどうかめんどくないか、それだけですねえ。
──わかりやすいです。
biim兄貴:
FC、SFCではそこまでクソなのはすくないような。
──UIに続いて倍速についてお聞かせください。当時のRTAは、世界的に見て記録狙いのものが多かったですよね。そこで倍速を持ってきたり、ガバ【※】を盛り込んだりというのが、非常に新鮮に思えました。
※ガバ
ガバガバのこと。RTAではゲームをすばやくクリアするため、事前にチャートという攻略手順を作ることになるが、このチャートから外れ大きくタイムをロスしてしまうことを「はいガバ」、「またガバった」などと言う。ガバの原因は単純なミスから、思いつきのチャート変更などに起因。記録狙いのRTAでは当然避けるべきものだが、biim兄貴の動画ではガバという失敗をゆっくり実況とともに面白おかしく見せている。
biim兄貴:
まず倍速についてですが。
等速で見るなんて自分がかったるいから導入しました。
しかし貝獣物語RTAのパート1で使い、稼ぎだけのパート5で使ってないあたり、迷いがありました。
──どういった迷いなんでしょうか。
biim兄貴:
まずいよまずいよ・・・たたかれても文句いえねえよ・・・。
まあ視聴者は敵なのですぐおもいなおしました。
──切り替えが早すぎる。
biim兄貴:
あくまで動画はじぶんのため。
他人の目線なんてどうでもいいと。
──『貝獣物語』で倍速を初めて導入したときは、無編集版も上げるとおっしゃってましたが、そこも切り替えたのでしょうか?
biim兄貴:
いがいと苦情がなかったので無編集あげてないですね!
──なるほど。受け入れられてましたもんね。
biim兄貴:
みんな等速がいやだったんだな、って。
──当時は記録主義のRTAが全盛で、なかなか倍速でもいいでしょとは言いづらかったかと思います。
biim兄貴:
出身母体がRTAではむりでしょうねえ。
──その点、biimシステムはそれまでに無かった傍流となるなど、ある意味で革命を起こされましたよね。上映会【※】もそうですが、やはりエンタメ重視というか、見ていて面白い方向に完全に振っている。ニコニコ動画の外ではほとんどなかったんじゃないかと思います、そういうスタイルは。海外でも見ないですし。
※上映会
RTAの挑戦動画にも関わらず、そのゲームプレイ映像を逆に小さなワイプにして流し、画面中央でまったく別の映像を流すこと。単純な繰り返し作業など視聴者が見ていて飽きる可能性のあるパートを省略しており、より娯楽性を重視している。
biim兄貴:
ふしぎ。
まあ偶然ですねだいたい。
RTAってのは、こう、もっとらくじゃないといけないんだ。
──いいですね。
biim兄貴:
自分は自分に、
同じげーむは1回しか通さないめんどうだから。
チャートは練るけど区間練習はしないめんどうだから。
区間タイムははからないめんどうだから。
を課しています。
がばるのはしょうがないね。
──すべてが「めんどう」に通じているような、思想が一貫している気がします。アスリートよりも研究者寄りなんですね。
biim兄貴:
チャートをかんがえるのが好きなのであって、
同じげーむを何度もするのはきらいだと1作目できづきました。
──気づくのが速い。
biim兄貴:
まじめにチャートをねる。
れんしゅうせず本番かいし。
とうぜんがばるわらわれる。
じぶんでもできそうとおもわれる。
走者ふえる。
ふしぎ!
急速な拡大を見せる「biimシステム」
──ラクチンで楽しいRTAを示して、走者を増やそうという意図はあったのでしょうか?
biim兄貴:
別に増やそうとはおもいませんでしたねえ。
──では、結果的にそうなった?
biim兄貴:
ぐうぜん。
──でも、記録更新しなくても投稿できるというのは大きいですよね。ガバいタイムでも面白い動画として投稿できてしまう。
biim兄貴:
けっきょく動画視聴者にはガチ勢がすくないので、
わかりやすくておもしろいのが好まれたってことですね。
──実際、「biim兄貴リスペクト」【※】が増えていきましたよね。先ほど調べたのですが、タグが付いている動画は1万9000件以上あります。
※biim兄貴リスペクト
biimシステムを採用した動画のこと。投稿者たちはbiim兄貴チルドレンと呼ばれることもある。例のアレを使っていない動画や、RTAではない動画も存在するが、biim兄貴自身は「申し訳ないがリスペクトの定義を固めるのは絶対にNG」と2014年にユーザーの生放送で答えている。
biim兄貴:
粗製乱造がすぎる(直球。
──ええ……。
biim兄貴:
1000再生いってない兄貴は反省して、どうぞ。
──きびしい。
biim兄貴:
そもそも自分がゆっくり実況ではなく、わざわざRTAにしたこと。
やるならそこにきづいてほしいですねえ。
──つまり、視聴時間や面白いシーンをギュッと縮めるというところを意識していない動画が多い?
biim兄貴:
しばく。
──すいません。
biim兄貴:
RTAにはゲームへのふかい理解がひつようとなるので、
そこを勉強したうえで動画をつくるべきと。
──なるほど。
biim兄貴:
動画は墓標!
くばるチャートは攻略サイト!
それくらいのきがいがほしい。
──なるほど。システムを使うならな、しっかりとそのゲームのこといろいろ勉強して作れよ、と。
とはいえbiimシステムは大きな広がりを見せています。RTA動画だけではなく解説動画、さらにはVtuberが使っていたり【※】と、ニコニコ動画外で広まっています。これだけ広がったことに対して、なにか感じられるところはありますか?
※Vtuberが使っていたり
凄腕のゲーム実況動画で知られるVtuber猫宮ひなたが2019年1月29日に投稿した「【忍者龍剣伝】Vtuber最速です、ありがとうございます。【RTA】」のこと。動画へと自身のコメントで「biiim式の編集やってみた」と解説している。
biim兄貴:
右枠がスッカスカやんけ頃すぞ(剛速球
──切れ味がすごい。
biim兄貴:
右枠がいちばんつらい。
biimシステムはみぎわくとの戦い。
──なるほど。たしかにリスペクト動画では、右枠をうまく活用できていない例がよく見られますね。
biim兄貴:
みやすく、情報はすくなく、しかしきらさず。
ミチミチかきこむのはNG。
──たまに読む気にならないのもあります。いや、しかし、biim兄貴さんのシステムに対する本気度が、予想以上です。
biim兄貴:
こりしょうですけえ。
動画を作り込む熱意
──300本以上も凝った動画を投稿されてきましたが、その熱意はどこにあるんでしょうか。あるいは作っていて楽しい部分ですとか。
biim兄貴:
自分とのたたかいですね!
──ストイックです。
biim兄貴:
作るのはいやーきついっす。
──編集時間はどれぐらい掛けているんでしょうか?
biim兄貴:
平均で動画1分に1じかんはかかります。
──じゃあ1本20分ほどなので、20時間ぐらいはかかりますよね……。チルドレンたちが「編集が一番つらい」と言っている理由がわかりました。
biim兄貴:
じゅうべえ【※】・・・8時間・・・へんしゅう480・・・。
──ヤバすぎる。やはり素材のタイミング合わせですとか、テキストを考えるとか、BB素材を切り抜いたりとか。大変な作業はいくらでも想像できます
biim兄貴:
なにもかも時間がかかります。
一番簡単なのがRTA動画の録画なのはまちがいない。
──それを「自分との戦い」と称して挑み続けているのはすごいと思います。逆に一番楽しい瞬間はどこなんでしょうか?作っている最中ですとか、完成した瞬間ですとか、コメントで盛り上がった瞬間ですとか。
biim兄貴:
たのしいのは、脱稿してもう編集しなくてすむ瞬間ですねえ!
おもむろに次のげーむの電源をいれてましたが、
漫画家のくるしみがすこしわかったきがしました。
──なるほど。ちなみにbiim兄貴の動画はチャートも緻密ですが、作られている時間はまた別ですか?普段どういうふうに作られているんでしょうか。
biim兄貴:
電源いれたらまず普通プレイです。
1回クリアしたら、攻略サイトさがしてチャート練りですね。
まれにみる激烈なクソでは、通常プレイを途中であきらめます。
──激烈なクソ。具体的に何かありますか?
biim兄貴:
じゅうべえくえくそ、てめぇーだよてめぇー。
あと武器攻撃力をあげただけで、敵からの経験値が数分の一になった
STED【※】もクソですね!
初見プレイを投げたのは、後にも先にもこの2本だけです。
──そこまで忙しいと、なかなか動画の投稿も難しいですよね。現在は落ちついていますが、今後も投稿は続けられますか?
biim兄貴:
おしょうがつにろくがしました!
──おお!新作!
biim兄貴:
かんせいど3わりでとまってます!
おもしろへんしゅうは、心が健全でなければできないんです。
つかれてると文章がうかびません。
──期待しています。biim兄貴さんにとって、biimシステムを使った動画作りとは、なんなのでしょうか?
biim兄貴:
あたらしいゲームをプレイするのがおっくうになったおっさんの、
別角度からのゲームのたのしみかた でしょうか。
──ありがとうございます。とても楽しかったです。
biim兄貴:
ありがとうございました。
ちなみに文章の校正確認はいりませんので。
『変人偏屈列伝』の康芳夫のように。
──かしこまりました。では、掲載させていただきましたら、その旨をTwitterのDMでお送りいたします。
biim兄貴:
どうせ間違っててもだれもわかんないからへーきへーき。
よろしくおねがいします(了)
ニコニコ動画における例のアレを中心とした話からRTAにおける娯楽性まで、biim兄貴との1時間半ほどのテキストチャットにおけるインタビューはあっという間に終わりの時間を迎えた。
まるでインターネット掲示板でふざけあいながらやり取りする話の中でことらさら感じたのは、biim兄貴のあまりにも純粋に真っ向からゲーム自身と対話する姿勢だ。
ときにその出自や姿は歯に衣を着せない言葉から攻撃的に見えるかもしれないが、奥底にはゲームをしっかりとプレイして丹念に解説するという、揺るぎない「ゲーム愛」が見て取れる。
そういえば女子高生などを中心に日本でも一般的に使われるようになった「草」や「微レ存」といった言葉は、日本独自のインターネット文化を汲むものであることが知られている。
「きたない」、「くだらない」といった大衆文化から生まれるものも、やがて言語や文化、ときには芸術や歴史的な価値として定着し、後世に残っていく。多くの人々にRTAの持つ魅力を気づかせ楽しませてきたbiimシステムも、その片隅にあっていいのではないかと、思わず考え込んでしまう。
【あわせて読みたい】
『ポケモンGO』でRTA(リアル登山アタック)が流行中。剱岳や八甲田山にあるポケストップへの挑戦をRTA風の動画に仕上げるRTA(リアル登山アタック)は、ニコニコ動画においてRTA動画に革新を巻き起こしたbiim兄貴の「biimシステム」と呼ばれる映像編集を加えた山登りの映像だ。
「biimシステム」ではRTA映像にsofttalkでのゆっくり実況声などとテキスト解説を加えており、リアルタイムでゲームの画面を視聴者に見せつつ、ゲーム外の情報も並行して届けることに成功している。海外のRTAシーンでもあまり見られない手法で、日本の独自のインターネット文化とともに広まってきた。