『サクラノ詩』のエンディングを見た時に、自分の人生を肯定された気持ちになった
──ここまでのお話を伺っていると、今回の新ブランドが立ち上がったのには、島田さんのバックボーンが非常に大きいように思います。島田さんがいちばん最初にプレイされた美少女ゲームは、どの作品だったのですか?
島田氏:
学生時代に友達と一緒に旅行に行った時に、その友達がパソコンを持ってきていて、そこにインストールされていたゲームが、『はじめてのおいしゃさん』だったんですよ(笑)。
ただ、そこでガッツリ遊んだというよりは、その時は「こういうゲームもあるんだな」って。
それと、たまたまその時に一緒に持ってきていたのが、『ひぐらしのなく頃に』のコミックだったんですね。それを読んでこれも面白いなと思って。
どうやら、まったく傾向は違うがゲームの大きなカテゴリーとしては、『はじいしゃ』も『ひぐらし』も同じらしいと。
そこから『ひぐらし』とか、いろんなゲームを遊び始めて。だから最初はエロよりは、いわゆるお話が面白いと言われるゲームをやっていったんです。
──ある意味、コンシューマにも移植されているような“萌えゲー”と呼ばれる作品ですよね。
島田氏:
最初は「エロゲーって、エロはいらなくないか?」という考え方だったんですよ。それがある段階にまでいくと、「“エロゲー”なんだからエロは必要でしょ」というふうに変わっていくわけですね。
それでちゃんとエロも描いているゲームも、いろいろやるようになっていって。それが今日にまで至っているわけです。
──ただ、世代的な話で言うと、いわゆる美少女ノベルゲームの盛り上がりがピークだった時期というのは、島田さんがプレイされるようになった頃よりも、少し前だと思うんです。
島田氏:
まさにおっしゃるとおりで。2004~06年ぐらいやそれ以前も含めて、あのあたりの面白い美少女ゲームが出ていたというタイミングを、僕はリアルタイムには生きられなかった人間なんです。
リアルタイム感って、すごく大事だと思っていて。
当時の盛り上がりを経験してきた人たちは往々にして、「オレたちはあの時代を生きてきたぞ」みたいな感じがするじゃないですか。『ガンダム』をリアルタイムに見てきた人たちが、『ガンダム』を語る若者たちにもの申す、みたいな(笑)。
そういう意味で僕はやっぱり、リアルタイムを生きられなかったし、そのあたりの時期の美少女ゲームを後追いでやっていった人間なので、それ自体は悔しいなと思うところがあったりします。
でも逆に言うと、2000年代後半から現在も続いている、今のリアルタイムをしっかり見てきたという自負もあります。世間では「昔のほうが面白かった」と言う人もいるんだけど、僕としては「いや、そんなことはないよ」と。
この2、3年を見渡しても素晴らしいゲームはいっぱい出ていますから。直近でいうと、たとえばOVERDRIVEさんの『MUSICUS!』だとか、Qruppoさんの『ぬきたし』(『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳(わたし)はどうすりゃいいですか?』)とか。
それ以外にもいろんなゲーム作品が、それも大きなブランドさんだけじゃなくて、小規模なブランドさんに至るまで、本当に面白い作品が出ているので。そういうリアルタイムに生きられているのは、僕としては嬉しいなと思っています。
──島田さんがノベルゲームや美少女ゲームに対して、ここまで入れ込むきっかけとなったタイトルはあるんですか?
島田氏:
先ほど申し上げた流れで言うとまず、『はじいしゃ』や『ひぐらしのなく頃に』との出会いがありつつ、自分にとって決定的だったのは『CROSS†CHANNEL』っていう、田中ロミオさんがシナリオを書かれたFlyingShineさんの作品で。これをやった時にもう、人生が決定づけられました。
──ちなみに、コンシューマの移植版ではなくて、PC版ですか?
島田氏:
PC版ですね。
本当に『CROSS†CHANNEL』はもう筆舌に尽くしがたいというか。ゲーム全体をプレイし終わった時のあの感覚は、忘れられないですね。
──『CROSS†CHANNEL』以降にも、そういった作品との出会いはありましたか?
島田氏:
色々な素晴らしい作品に出会ってきましたが、今回の企画の関連でいうと、2015年の『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-』という、SCA-自さん、枕さんが作られたゲームは衝撃的でした。
全部で6章、すごく長い時間プレイして、最後にエンドロールが流れて、一枚絵が出てきて終わるんですけど。それをやった後に、「自分は美少女ゲームを続けてきて良かった」みたいな、そういう幸福感、自分の人生を肯定された感じがすごくあったんです。
なにしろその足で、『サクラノ詩』をもう1本買いに行きましたからね。
すでに買って、さっきまでプレイしていたにも関わらず(笑)。「ありがとう」みたいな気持ちが込み上げてきて、いてもたってもいられなくなるわけですよ。
この感謝の気持ちをどうすればいいんだ、と思って、もう1本買いに行って。おかげで手元には、未開封のパッケージが1個あるわけですけど(笑)。
だから、遊び続けているあいだに「やってて良かった」と思える作品に出会えているというのが、今までノベルゲームを続けてきていることの1つの理由だと、自分では思います。
ノベルゲーム固有の面白さは、自分自身で物語を進めた先に得られる“読後感”にある
──最近はあまり語られなくなりましたけど、ノベルゲームって漫画やアニメと比べて何が面白いのか? みたいな話って、今の世代の人はどういうふうに考えているのかな、と思うんです。
島田氏:
基本的には10年前だろうと20年前だろうと、ノベルゲームの面白さって、あまり変わらない普遍性を持っていると思っていて。
ノベルゲームにはテキストがあり、イラストがあり、音楽があり、それらが一緒くたに物語を構成していくなかで、そこに対する没入感が生まれるというか。
あとは物語を自分で進めていく行為ですね。それは選択肢を選ぶということだけじゃなくて、クリックする動作も含めて、自分で物語を展開させていくところの面白さがあるんだろうなと。
で、この2つはあくまで過程であって。ノベルゲーム固有の面白さって、そういった没入感や物語体験をした後に、エンディングを見た後にやって来る「読後感」なんじゃないかと、個人的には思っています。それを今の若い世代の人たちが、どのように感じているのかは分からないですけど。
──その「読後感」は、たとえばアニメのTVシリーズを最後まで見終わった感動とは、何が違うと思われますか?
島田氏:
それぞれに違った面白さや魅力がある前提ですが、「観て楽しむ」アニメと違ってゲームは自分で進めなきゃいけないんですね。もちろんオートモードでやる人もいると思うんですけど。
自分で物語を能動的に動かしているというのが、体験として絶対的に違うのかなと。
ノベルゲームでは物語の進行に対して、プレイヤーにある種の裁量みたいなものが任せられていて。だからこそ、自分で読み進めていった先に得られる読後感は、映画やアニメといった「観る」作品とはまた違うのかなっていう気がしています。
──島田さんにあえてお聞きしますが、今のノベルゲームの「最先端」は、どのようなものですか?
島田氏:
2月にTOKYOTOONというブランドさんが、『マルコと銀河竜 ~MARCO & GALAXY DRAGON~』というゲームをリリースされましたが、カートゥーンのアニメーションを取り入れつつ膨大なCG量で展開していくのはすごく新しいと思いました。
それ以外にも、『ネコぱら』や『きまぐれテンプテーション』で使われている「E-mote」とか、いろんなブランドさんがいろんな演出にチャレンジされていて。
「最先端」がどのようなものか? と言われても、本当にいろんなやり方があるように思える、という感じですね。
ただノベルゲームの基本はやっぱり、立ち絵があってビジュアルがあって、自分で物語を進めていくという、その形式だと思うので。すべての演出はそこからどう派生していくか、ということだと思います。
──以前、ビジュアルアーツの馬場隆博社長にお話を伺った時の言葉で印象的だったのは、“萌えゲー”になぜ感動するかというと、女の子と触れあうパートが10時間とか20時間とかあって、そこでずっと触れあっていた女の子が酷い目に遭う。だから感情移入するんだと。
「Kanon」や「CLANNAD」「Angel Beats!」など…「泣きゲー」からアニメ原作まで、美少女IPを仕掛け続けた28年! ビジュアルアーツのユニークなブランド戦略と経営思想を馬場隆博社長に聞いてみた
“萌えゲー”が大人気になった理由として、やっぱりそういった「発明」みたいなものがあったと思うんです。だとすると、今のノベルゲームでそういう発明だとか、これが今までの手応えとは違うという「最先端」は何だろうと。
島田氏:
共通ルートの中で彼女たちと過ごす時間の積み重ねが、個別に分岐されたルートでより鮮明に感情移入を起こすというのは、おっしゃるとおりだと思います。
一方で、たとえば、ぱれっとさんの『9-nine-』というゲームは、パッケージを1章、2章、3章、4章と別にして、それぞれが完結したストーリーとして、各ヒロインのお話を描いているんです。
今までであればワンパッケージの中に分岐があって、ヒロインごとのお話に進んでいくというものだったんですけど、それをパッケージごとに分けて、この巻ではこのヒロインのお話が展開されますよという形です。最近はそういったリリースの形態をとられているブランドさんもいらっしゃいますね。
20時間から30時間、或いは50時間以上といったプレイ時間を必要とするフルプライス作品だけでなく、10時間以内で終了するような作品も増えている印象です。
どちらもそれぞれの魅力があると思います。
──やっぱり今の傾向として、ちょっと短めのところに、演出なり表現なりをギュッと詰め込んだテンポ感みたいなところがあるのかなと。アニメも今、テンポが速くなってきているので。
島田氏:
そうですね。でもたとえば、OVERDRIVEさんの『MUSICUS!』では、キャラのセリフが画面のいちばん上からいちばん下までずっと続いている描写が多いんですが、短いセリフの応酬で作り出すテンポ感とはかけ離れているのに、それが読んでいて圧倒的に心地良いんです。
時代の流行や傾向とは違うのかもしれませんが、恐ろしいほどおもしろかった。
この作品は、『SWAN SONG』や『キラ☆キラ』などを書かれている瀬戸口廉也さんがシナリオを手掛けられているのですけど、クリエイターが持つ独自の色で、流行や傾向とは全く別軸のおもしろさを実現している例もいっぱいあると思います。
──ちなみに今回の2作品に関しては、ボリュームはどのぐらいなんですか?
島田氏:
ライトノベルでいうと、それぞれの作品で2か3冊分ぐらいの分量です。
プレイヤーの皆さんの読む速度によって異なりますが、両作品ともにプレイ時間の目安としては5時間~10時間くらいになると思います。
『ATRI』の方が『徒花異譚』よりテキスト量が少し多い形ですね。
このタイミングでノベルゲームに触れた人が味わえる“今のリアルタイム”を作っていきたい
島田氏:
あと、最近の潮流であるとすれば、物語やヒロインとの関係をものすごく丁寧に描く作品が増えているかもしれないですね。ヒロインと付き合うまで、ではなく、付き合ってから恋人として過ごす時間もしっかり描写したり。
それから昔と今とでは、主人公像がけっこう違うかもしれないです。2000年代前半の作品では前髪が長く目が隠れている主人公が多かったと思うのですが、顔やボイスと共に自分の個性を出していく主人公がある時から増えたんじゃないでしょうか。
──お話を伺うと、島田さんご自身としては、スタンダードなノベルゲームの形式に対する思い入れが強いように感じました。
島田氏:
僕もなにぶん、どちらかというと古いほうに寄ってる人間なので(笑)。ことさら今の時代の新しい何かというのを意識していないんです。
今回ブランドを立ち上げるにあたっては、アニプレックスというアニメ会社として取り組むのだから、作品の中にアニメをいっぱい入れたりとか、そういう動的演出を予算をかけて入れていくのがいいのでは? と迷った時期もあるんです。
もちろん、それが面白さを演出しているゲームもいっぱいあるんですけど、でも僕は必ずしもそれで美少女ゲームやノベルゲームを好きになったわけではなくて。
あくまでノベルゲームの一般的なあの文体で描かれる物語が、やっぱり好きなんだというところから、自分でも作っていこうというふうになったので。
──ノベルゲームで、もっと広く言うとアドベンチャーゲームで得られる感動って、小説や映画やアニメにはない感覚で。それをある世代以降の人たちはみんな、何かの作品で味わってきていると思うんです。
それは僕らの世代だともっと古いので、『Ever 17』とかになるし、もっと若い人だと『シュタインズゲート』とかになるし。
島田氏:
それぞれの世代にとってのリアルタイムがありますよね。
ANIPLEX.EXEという新ブランドを設立することを通じて、僕らが作っている作品だけではなく、他にもいろんな面白い作品があって、これからもいろんなブランドさんが面白い作品を作っていくんだというのを、改めて知ってほしいなと。
それによって、今までノベルゲームに触れてこなかった人たちが、面白さに触れてもらうきっかけになってくれれば、これほど望ましいことはないと思います。
もっと言うと、今の美少女ゲーム/ノベルゲームユーザーの人たちには、「自分たちは2010年代のノベルゲームを知っているぞ」と高らかに誇れるようになってほしいし、新たにノベルゲームに触れた人たちには、これから2020年以降のリアルタイムを体験していってほしいです。
多くのブランドさんや作品が現在進行形で作っているリアルタイムに、今回の2作品も加わると良いなと思っています。
──先ほど名前の挙がった田中ロミオさんもそうですし、それこそ虚淵玄さんのように、美少女ゲームのシナリオで活躍されていたライターさんが、ライトノベルやアニメ脚本の世界で活躍される例も増えていますよね。
島田氏:
そうですね。活躍の場を広げられるということは本当に素晴らしいことだと思います。
個人的な想いとしては、今、美少女ゲームを手がけているクリエイターさんのなかにも面白いものを作られている方々が大勢いるので、そういう人たちにしっかりフォーカスしていきたいと思っています。
──そういった意味で今回は、フロントウイングさんやケロQ/枕さんといった、2000年代後半から2010年代にかけてすごくがんばられていたメーカーさんに対して、意識的に声をかけられたのかな、とも思ったのですが。
島田氏:
特段、意識したわけではないですが、この時代にしっかり面白いものを作られているメーカーさんが大勢いらっしゃる中で、今回のいちばん最初の企画でお声がけしたのが、システム協力のシルキーズプラスさんも含めた、4社さんだったという形です。
──では今回の4社以外にも、今後一緒にやってきたいメーカーさんがあると。
島田氏:
今回、第1弾として2作品を発表して、これで終了というわけにはもちろんしたくないので。今後も色々なブランドさんとぜひ一緒にやっていきたいと思っています。(了)
1990年代後半から2000年代前半にかけて、『To Heart』『AIR』『Fate/stay night』などの美少女ゲームが大ヒットして、大きな注目を集めた。
『CLANNAD』『ひぐらしのなく頃に』といった一般レーティングの作品も含めて、これらの美少女ゲームやノベルゲームはアニメ化やコミック化を通じて、ゲームの枠を超えてオタクカルチャー全般へとその影響が広がっていく。
こうしたゲームを手がけたクリエイターの多くは、アニメやライトノベルなど、美少女ゲーム以外の世界へと活躍の場を移すようになった。
それと同時に、PCゲームの流通形態が多様化したこともあり、美少女ゲームへの注目度は2000年代後半以降、低下していく。
だが、そうした状況の中でも美少女ゲームファンの心を捉える作品は生まれ続けていたし、その流れは今も続いているというのが、「ANIPLEX.EXE」のプロデューサーである島田氏の主張だ。
日本でも今やPCゲーム販売の主流となったSteamを利用して、オンライン流通により最新のノベルゲームとそれを生み出すクリエイターを、世界に向けて紹介する。これまで美少女ゲーム業界の才能をアニメに起用してきたアニプレックスが自ら、今改めてノベルゲームの世界を盛り上げようとしている点も、今回のプロジェクトで注目に値するところだ。
そしてその背景にあるのが、自身も美少女ゲームの絶大なファンである島田氏自身が、ノベルゲームの世界に「今のリアルタイム」の機運を生み出そうとする情熱である。今回のインタビューでも分かるとおり、プロデューサー自身が“エロゲー好き”なのだから、クリエイターの選択や作品作りにおいて、これほど信頼できることはないだろう。
2020年代のリアルタイムを切り開くノベルゲームとは、いったいどのようなものなのか、作品のリリースが楽しみだ。
【この記事を面白い!と思った方へ】
電ファミニコゲーマーでは独立に伴い、読者様からのご支援を募集しております。もしこの記事を気に入っていただき、「お金を払ってもいい」と思われましたら、ご支援いただけますと幸いです。ファンクラブ(世界征服大作戦)には興味がないけど、電ファミを応援したい(記事をもっと作ってほしい)と思っている方もぜひ。
頂いた支援金は電ファミの運営のために使用させていただきます。※クレジットカード / 銀行口座に対応
※クレジットカードにのみ対応
【あわせて読みたい】
「Kanon」や「CLANNAD」「Angel Beats!」など…「泣きゲー」からアニメ原作まで、美少女IPを仕掛け続けた28年! ビジュアルアーツのユニークなブランド戦略と経営思想を馬場隆博社長に聞いてみた美少女ゲーム業界参入当初はシナリオライターとプログラマーとしてゲーム制作の最前線にいた馬場氏だったが、1992年から美少女ゲーム会社としては初の試みとなるフランチャイズ制を敷くことで経営に専念。
独自で斬新な経営アイデアで美少女ゲーム業界をリードしてきた馬場社長だからこそ見えている美少女ゲームの30年というものがあるはず。美少女ゲーム隆盛の平成年間をどのように駆け抜け、そして今後の展望をどのように考えているのか。