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コロナ禍でゲーム業界はどう変化した?巣ごもり需要で売上アップってホント? ゲーム会社の社長3人に聞いてみた

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開発の「ライブ感」を維持するために、リモートで雑談しながら作業する時間を設けた

──さっきの松山さんの話を踏まえて、松田さんや南治さんは何かありますか?

南治氏:
 さっき言ったように、ウチは比較的上手くいったほうだと思うんですけど、それでも引っかかっているところはありました。

 とくに、「新人の教育」「ツールの導入コスト」が問題としてすごく大きいですね。対面なら「右のこのボタンを押して」と簡単に教えられるのが、リモートだとなかなか面倒くさいし、何かを新しく導入するというのがとにかく難しくなって

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 それで、ウチは「入って2年目までの人は通勤、それ以降の人は自分で選びなさい」というルールにしました。
 2年目までにしたのは、1年目だけだと結局教える人がいなくて、偉い人が行かなきゃいけなくなっちゃうからですね。だから2年目の人は、1年目の人をちゃんと教えなさいと。教えるほうも、新人が会社にいると分かっていれば、行けば教えられるのでラクなんですよね。

 新人からいきなりリモートは大変だったなぁというのがあったので、そういうルールを決めた感じです。松田さんのところは、リモートはどうされているんですか?

松田氏:
 ウチも松山さんのところとちょっと近いところがありますね。ウチは台湾に支社があって、そこが3年目ぐらいなんです。もしこのコロナ禍がもう1年早かったら、台湾のチームが独立して動けるレベルになかったので、かなりヤバかったんじゃないかと思いますね。でも、奇跡的になんとかなるレベルに育っていたので、まぁ良かったかなというところがあって。

 もうひとつ、コロナ禍のなかで自分がゲームを作っていて、すごく強烈に感じたことがあって。これは僕の持論なんですけど、ディレクターとかプロデューサーって、ライブ型が得意な人レコーディング型が得意な人がいると思うんですね。

──ライブ型とレコーディング型ですか。

松田氏:
 それで言うと、僕は完全にライブ型の人間なんですよ。プロジェクトを新規で立ち上げるとき、ウチの会社の場合はなによりも速度を優先するんです。
 だから細かいところが決まっていなかったり、書類ができていなかったりしても、とりあえず走らせてみて。速攻でビルドしてモックアップを作って、それで実際に触ってみて、ボタンを押した瞬間の手応えやフィードバックとかも含めて、「これがもともと自分たちが作りたかったものなのかどうか」を早め早めに確かめていく

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 このライブ感や速度感がトイディアの作り方であり、他の会社と競合するための武器と言えるものだったと思っているんです。でも、リモートワークになったら、このやり方ができなくなってしまって。コロナが始まってから最初の半年は、南治さんがおっしゃったようにシステム作りや新しいソフトウェアの導入とかも含めて、すごく苦しんだところでしたね。

──実際に触ってみて、みたいな部分はやっぱりオフラインのほうが圧倒的に情報量は多いですもんね。

松田氏:
 そうなんです。とはいえ、レコーディング型に切り替えようと思っても、すごく丁寧な仕様書を作って「あとは作業だけをやればいい」みたいなレベルには達せていなくて。
 そうすると、自分たちが出したいゲームの速度感が失われてしまうので、それはやめましょうと。ウチがウチらしくあるためには、やっぱりリアルでライブ感をもってやるしかない。ということで、今も週に1回から2回は会社に集まりましょうとなっていますね。

 毎週水曜日は「自分たちが社内でチェックする」と決めているんですが、その前日には必ずビデオもオンで、マイクもオンで、独り言もブツブツ言いながら、リモートで作業する4時間を設定したんです。
 その作業時間は必ず、独り言でもいいし、誰かに向けてのメッセージでも構わないから、雑談コミュニケーションも込みでやる。これの効果は、けっこうデカかったですね。

──Zoomとかのビデオ会議って、どうしても1対1になりがちじゃないですか。聴いている人が30人いても、しゃべる人は1人か2人になってしまうので。そのへんってどうしているんですか?

松山氏:
 Zoomとかだと10人参加していようが20人参加していようが、しゃべってるのはいいとこ2、3人だとよく言われるし、それはそのとおりなんですけど、これってじつはリアルな会議でも同じことが起きていて。ほとんどの人間が聴いているだけで、10人の会議でもしゃべってるのは2、3人なんですよ。

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 居酒屋での飲み会を想像してもらうと分かりやすいと思うんですけど、20人でやっている飲み会でも、実際は4グループぐらいに分かれているんですよ。それで2時間飲んでいても、自分たちのテーブルのメンバーとは話をしているけど、他のテーブルで何を話していたかは分からないじゃないですか。

 Zoomとかでオンライン飲み会を始めて気づいたんですけど、参加している20人全員が同じ話を聞いているんですよ(笑)。これは逆に、リアルな飲み会では起こり得ない。
 それでいうと「みんな同じ情報を共有できている」というのは、ある意味良いことではあるかなとは思いますね。結局しゃべるヤツはしゃべるし、しゃべらないヤツはしゃべらないんですよ。

 ウチでリモートをやっていたときは、毎週金曜日は「オンライン飲みトーク」を開催していました。もともと毎月、スタッフと飲みに行くというのを定期的にやっていたんですけど、リアルでできなくなったから、せめてオンラインでやるぞと。オレが毎週金曜日のこの時間に部屋を立ち上げるから、ここに入ってこいと。
 「誰ひとり来なかったら、オレがひとりで飲んで潰れることになるから、放っておくなよ、オレを」という話をしたら(笑)、必ず誰かは来てくれましたね。なかには勇気を持って飛び込んできた新人もいて。「これを機会に、社長と話そうと思って来ました」って言うから、「じゃあそいつ中心に話をしようぜ」って話をしたり、というのをやりましたね。

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松田氏:
 新人からしたら、逆にチャンスじゃないですか。そんなアピールポイント、なかなかないですよね。

南治氏:
 ウチもオンライン飲み会は2、3回やりましたけど、その後はさっぱりですね。さっき話に出たように、ちょっと多く集まるとぜんぜん話さない人が出てしまうし、それはそれで良くない気がして、結局止めちゃったんです。
 「ブレイクアウトセッション」でしたっけ? 最近Zoomで部屋を分けて作れて、ランダムで割り振れる機能がついたんですよね。それでまたやり直したら面白いのかな、という気はしてますね。

松田氏:
 ランダムは面白そうですね。飲み会の席替えみたいな感じで。

「コロナ以後」の社員採用や新人教育は、どのように行えばよいのか

松山氏:
 ちなみにウチは、コロナ以後で採用が上手くいってます。

 あるゲームディベロッパーから「松山さん、採用はどうしてます?」と聞かれて、「ウチはバリバリやってるよ」と。普通に講演もやってるし、面接もやってるし、採用も決めてるしという話をしたら、「オンラインでやるしかないし、それは分かるんですけど、最終面接ってどうしてます?」と。
 「オンラインだよ、それは」「えっ!? 会ったこともない人間に内定を出せます?」って言われて。実際に内定出してるし、なんなら海外のスタッフの採用もオンライン面接でビザの手続きまでやって、日本に来てようやく「はじめまして」だけど、それでやってるよと答えたら、「Zoomとかだと顔しか分からないし、そいつが背が高いのか低いのかも分かんないじゃないですか!」って。背が高かったら何なの? 仕事のクオリティが高いの? 低いの?

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 じつは、大手企業でもコロナになってから最終面接でストップしていたところが多いらしくて。だからけっこうみんなまだね、「直接会わないとダメでしょ」みたいな感覚が残っているんですよね。
 ウチは採用関係を全部、即座にオンラインに切り替えたんですけど、25年やってきて過去いちばん上手くいってますね。

南治氏:
 採用の話だと、ウチは今年そんなに上手くいってなかったんですよ。「なかった」というのは、ここに来てわりと応募が増えてきているので。
 ウチは今までドブ板活動じゃないですけど、専門学校さんや大学さんを回らせてもらって講演をして、そこで作品を見させてもらって。「君はここをもうちょっと直してから応募しなさい」とか、いろいろ指導をがんばって、それでまた来た子と話して、という感じでウチに応募してもらっていました。そうやって精度を上げていって、はい面接、みたいな感じで。

 でも、コロナ後はそれがまったくできなくなって。講演なんかはもちろんオンラインなんですけど、オンラインでポートフォリオを見せてくれる方がほとんどいないんですよ。だから、今までとはかなり作戦を変えないといけなかったのが、大変でしたね。

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 ただ一方で、オンライン面接はずっと続けていて。サイバーさんのところもそうでしたけど、ゲーム業界でオンライン面接は比較的多い方だと思ます。ただ、今までは遠い人だけでしたね。地方の人に面接のためだけに来てもらうのも申し訳ないので。でも、今はもう全部オンラインですね。面接官のほうもオンラインになって。

松田氏:
 新しい子たちが採用されて入ってきたときには、先ほどおっしゃっていた2年間ルールで、フェイス・トゥ・フェイスでしっかりと教えてもらえるということですか?

南治氏:
 そうですね。「会社に来てください、先輩が教えます。自分たちもたまに来ます」っていう。

松山氏:
 ウチは専門学校のHALさんのインターン生を毎年預かっていて、その関係で聞いた話なんですけど、今年はざっくり8割ぐらいの学生がインターンシップに参加できていないんですよ。
 コロナの影響で、大手のゲーム企業が出社率を引き下げているじゃないですか。だからインターン生を預かっても、指導担当がいなくて。それで、「あなたはここね」と企業側の受け入れが決まっていたんだけど、軒並みキャンセルに。そこから自分で行動して受け入れてくれる企業を探した学生もいるらしいんですけど、そういうのは少ないそうで。結局、今年は80パーセントぐらいの学生が、インターンシップにも行けないまんま、学校にただいる状態だと言ってました。

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南治氏:
 大変ですね、そういう数字で聞かされると。

松田氏:
 学生の側からしたら、そういう埒外(らちがい)の努力というか、自分の情熱とパッションで走りきったときに、受け止めてくれる会社がちゃんとあると心強いですよね。サイバーさんの場合は、ちゃんと受け止めてくれる気がするんですけど。

松山氏:
 実際、ウチはインターンのために出社していますからね。けど、さすがに人がいないところに「来てください」というのはできないのも事実だし。それはもう、それぞれの会社さんの状況次第なのかなと。

仕事上の問題に気づく「違和感」を、リモートワークの状況下でどうやって感じ取るか

──さっき「ムダ話や雑談ってめちゃくちゃ大事だよね」という話でみんな一致した一方で、「面談はオンラインでもいいじゃん」という話もあって。じゃあ結局、コミュニケーションには何が大事で、何が大事じゃないのかということを、もうちょっと深く掘れると思うんです。

 オンラインで代替できないものって、もうちょっとほかに具体例があれば聞いてみたいなと思うんですけど、何か思い当たるものってありますか?

南治氏:
 それで言うと、オンラインだと「人がプレイしている様子」は分かりにくいですね。オフィスにいた時は、プログラマーが「できた」と言ったら、そこに行ってゲームを操作して、あーだこーだ言うわけですよ。プログラマー側としても、人が操作しているのを画面で見て、フィードバックを受けたりというのがあると思うんです。
 今はビルドが自動的に配られはするんですけど、それをみんなが家でやって「よいしょ」って上げたりするので。アーティストが細かく動画を上げたりはしますけど、でも人が実際にプレイするのを見て、「ここはたしかに分かりにくかった」とか確認するのは、分かりにくいのかなと。

松田氏:
 僕は、上手くいかないときには何か違和感を感じ取って、それを目の前にいる問題の当事者にぶつけるんです。でも、その違和感を感じ取るには、やっぱり観察するしかなくて。観察の中で自分の経験と照らし合わせて「こういう問題だろう」と見つけ出していく。
 それが「勘」と呼ばれるものだと僕は思うんですけど、リモートワークだとその観察する時間が物理的に短いんですよね。

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南治氏:
 そうですね。

松田氏:
 ウチの場合だけかもしれないですが、リモートだと「効率化したい、個の作業に戻りたい」という力が強まっている気がするんです。だから、引き留める理由がなければ、ムダな話はせずに、ふぁーっと終わっていこうとするんですよ。
 なんだけど、問題を今すぐ解決しなくちゃいけないディレクターなどの立場だと、観察して問題はどこにあるのかという違和感を収集していく必要があるんです。その物理的な時間が、オンラインではなかなか確保しきれないというか。だから、現場で起こった問題がけっこう放置されがちだなとは思っていて。

──これは元スクウェア・エニックス社長の和田洋一さんが言っていたことですけど、オンライン化でいろんなコミュニケーションの在り方が変わると。たとえば、社長室に誰か部下を呼びつけて「どうなってるんだ」という話をするとして、これって呼ばれた側はものすごく怖いし、危機感を覚えるわけじゃないですか。社長というか上長側の「どうなってるんだ」という必死感も含めて、身に染みてそれを体感する。だけど、これをオンラインでやったら「おそらくその効果は消え失せるだろう」と。

 こんなふうに、同じ30分のやり取りでも、オンラインとオフラインで絶対的な差が生まれる。そういうものがもっといろんなレイヤーや場所で起きているんだろうな、という話を先日していたんです。何かそういうものってありますか?

松山氏:
 そういうのもあると思うんですけど、もうちょっと現場的な話をすると、人間の視界って、じつはものすごくいろんな情報をキャッチしているんですね。

 極論を言うと、毎日会社に来るじゃないですか。会社に来て、いつもそこに座っているはずの人間が3日休んでいると、心配するんですよ。でもこれって、オンラインだとバレにくいんですよ。分かんないんです。
 で、4日目に出社してきた時に「大丈夫? どうしたの?」「じつは家族の看病で」「そんなことになってたの!」っていう、これが人間特有の心配じゃないですか。お互いがお互いを気にかけて、心配してあげる/心配してもらう。これがすごく大事なことだし。もっと言うと「顔色悪いな」とか「最近顔が赤いよ」とか……それはオレか(笑)。そういうのはオンラインだと「髪切った?」というのすら、イマイチ分かんなかったりするので。

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 あとは、最近はもういろんなハラスメントがありますけど、リモートでテレビ会議をやっていると、カメラをOFFってる女子が多いわけじゃないですか。

南治氏:
 あぁ、はい。

松山氏:
 そういう時に「お前、点けろ!」っていう人もいるじゃないですか。……私は言わないですよ、話を聞いていてくれさえすれば、それでいいんですけど。あとは、外で私がやり取りしている漫画家さんとかの多くが、そういうのを嫌うんですよ。絵で仕事をしている人は自分の顔でどうこう言われたくないので、基本的にOFFなので、私は気にしないんですけど。
 でも、ウチの中間管理職のメンバーの何人かは「カメラ、出せ」とか言うわけですよ。けど、それは強制するものではないじゃないですか。ましてや女子ですから。これは他所の会社でも聞きましたけど、絶対ONにしないんですよ。なぜなら朝から晩までずっとパジャマだから(笑)。

 仕事はしてるんですよ。仕事はしてるし、歯も磨くんですけど、着替えるのがとにかく面倒くさいらしくって。それで一瞬カメラに映った時に、周りの人間から「それはシャツ?」ってツッコミが入っても「シャツです」と言い張ったらしいんですけど、明らかにパジャマだったっていう(笑)。

南治氏:
 ウチはカメラのON/OFFは強制しないですけど、「クライアントさんとのミーティングはカメラをONにしようね」というのは言ってます。やっぱり表情で伝わりやすいとか、そういうところもあるので、そこで線を引いた感じですね。

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松田氏:
 大事なのはやっぱり、信頼関係ベースがどのぐらいあるかだと思うんですよね。やっぱり一緒に働いた経験が何年かあったりとか、プロジェクトを1本、困難を一緒に乗り切った経験があるメンバーなんて、なんでもいいと思うんですよ。カメラがOFFでもいいと思うんですけど。いちばん苦労しなきゃいけないし、私も苦労しているのが、これから入ってくる社員さんとか、入ってきたばかりの社員さんとかで。

南治氏:
 本当にそうですね。

松田氏:
 2社もぜんぜん違うと思いますけど、それぞれの文化だったりとか、企業のカルチャーというものを理解してもらった上で、才能を発揮してもらわないともったいないと思っているので。それができていない人間に関しては、どういうふうにしていくのがいいのかみたいなことは、すごく悩みますね。

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南治氏:
 悩みますよねぇ。

松田氏:
 だからウチの場合には、カメラもONにします。表情から読み取ってほしいものがあるし。超能力者の話じゃないですけど、五感の情報のうち何か1個が遮られたら戦えない、とかあるじゃないですか(笑)。だから視覚情報もやっぱり、相手にこちらを理解してもらうためのヒントになるかもと思うと、信頼関係のまだない人とこれから作っていこうという場合には、全部カメラもONだし、みたいな感じにはしますね。

松山氏:
 乙女座(バルゴ)のシャカと戦った時のフェニックス一輝の話ですね。一個ずつ感覚を封じられていったヤツ。

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(画像はキャラクター詳細|MUSEUM|聖闘士星矢より)

松田氏:
 新人はそれをやられたら死にますね(笑)。

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