コロナ禍の状況だからこそ、多くの人々から注目を集めるゲームもある
──さっきの松山さんや松田さんの話みたいに、これまでやってきた雑談だったり、顔を合わせることだったりを、できるだけリモートで再現するためにやっていることってありますか?
松山氏:
私は毎週金曜日に勝手に飲み会をやってましたけど、それとは別にスタッフが自発的にやり始めたのは、「人狼」とか『Project Winter』【※】とか、みんなでできる遊びですね。
松田氏:
雪山のヤツですね。
松山氏:
「人狼」ゲームでオンラインの画面から、なんとか表情を読み取ろうとするのは、めちゃめちゃ面白かったですね。リアルでやってるのとはまたちょっと違って、回線状況が悪くてガビガビの解像度の人もいるわけですよ。「こいつワザとちゃうか?」っていうね(笑)。
南治氏:
回線状況も戦略に含まれるんですね(笑)。
松山氏:
そうそう、それは面白かったですね。あと、もうひとつ面白かったのが『チックタック』【※】というアプリゲームなんですけど。
これを人から教えてもらって、感心したんですよ。せっかくだから電ファミで紹介してほしいなと思って。
4章ぐらいですぐ終わる普通のアドベンチャーゲームなんですけど、ゲームを始める時に、「プレイヤー1として始める」か「プレイヤー2として始める」かを選ぶんです。プレイヤー1とプレイヤー2はそれぞれ同じゲームを遊んでいるんだけど、表示される画面が違うんですよ。
今のご時世だから、LINE通話だろうとなんだろうと、離れた場所にいても会話はできるじゃないですか。プレイヤー1とプレイヤー2は、離れた場所にいて同じゲームをインストールしているんだけど、会話だけで情報を与えあいながら、お互いに協力してクリアしていくんです。
南治氏:
それはイイですね。
松山氏:
さらに「スゴイな!」って感心したのは、アプリ内にオンライン機能がないことなんです。
普通ウチらゲームクリエイターは、そういうゲームを作ろうぜとなったら、アプリの中にオンライン機能を入れようしますよね。だから工数が増大化するし、デバッグが終わんないんですよ。
でもこれは「今のこの世の中、通信機器はみんな持ってるでしょ」と。だからただのオフラインのゲームなんですよ。それをお互いに協力しながら、電話をつなぎっぱなしで遊ぶんです。
気をつけなきゃいけないのは、Zoomとかで「だから松田さん、こうですって!」みたいに画面を見せたらおしまいなんですよ。それは答えを見せてるのと一緒ですから。言葉だけでそれを伝えるから、難易度が上がって面白いんです。
松田氏:
なるほど、なるほど。
南治氏:
ちょっとやってみよう。
──オンライン機能はないけど、マルチプレイゲームなんですね。
松山氏:
そう。これはめちゃくちゃ頭がいいなと思って。オレらは絶対に、アプリの中にそれを入れようとするじゃん。逆転の発想だなと思って。
松田氏:
そもそもコミュニケーションツールであったスマホが最高のゲーム機になっているという順番で考えると、コミュニケーション手段はもうみんな持っているわけだから。もっと自由な発想をするべきだ、となるわけですね。いい発想だ、悔しい(笑)。
松山氏:
これだって、コロナに合わせてリリースされたわけじゃないんです。前からあったゲームなんですけど、コロナ禍になったからこそ「これ、イイよ」と広がって、自分のとこにも入ってきて。
今までスポットが当たっていなかったものに、ちゃんと光が当たるようになったのもある意味、怪我の功名というか。ひょっとしたらゲームの売り上げが一部伸びているのは、こういう部分なのかもしれないですよね。
松田氏:
それはたしかにニーズのひとつとしてあるかもしれないですね。さっきの松山さんの「人狼」のお話でもそうですけど、情報が限られている中で工夫しなきゃいけない。上手く質問を作って相手から引き出さなきゃいけない。その引き出し能力みたいなものがコミュニケーションツールとして問われたり、ゲームのジャンルとして求められたりする。
今まで発掘されていなかった需要がここで生まれてきたのは面白いし、ゲームクリエイターとしてはそこにフィットしたものをタイミング良く出せれば、もしかしたら覇権が取れるのかもしれないですね。
オンライン会議の敷居が下がったからこそ、オンラインで済ませられることが見えてきた
──いまの松山さんのお話のように、コロナ禍の状況になって、あるいはリモートになって良かったことって、おふたりは何かありますか?
南治氏:
まず言えるのは、クライアントさんとのミーティングで移動時間がゼロになったことですね。社内はともかく、クライアントさんとのミーティングに関しては「全部オンラインで良かったんだ」と。
雑談もたまにはしてましたけど、基本的には進捗の報告や仕様の話がメインだったので、オンラインで事足りたんです。やっぱり移動時間がなくなったというのは、すごく大きいですね。とはいっても、代わりに会議がガーッと入るようになっちゃってマイナスの一面もあるんですけど(笑)。
あとオンラインミーティングの敷居がすごく下がったので、細かい仕様の打ち合わせや共有を、気軽にクライアントさんとできるようになりましたね。頻繁になっちゃったのは、良くも悪くもなんですけど。
──昔は「オンライン会議をやります」って言うと、それこそ事前に予定を合わせて、みたいな感でしたけど、今は電話をかけるような感覚に変わりましたよね。5分、10分程度の短いミーティングもけっこうやるようになったし。
松田氏:
ウチで言うと、「中間層がすごく育った」というのが良かったなと。
ウチみたいに小さいスタートアップの会社だと、社長がビジョンを語って突き進んでみたいな感じで、牽引していくことが結果的に多くなりがちだと思うんです。
でも、会社を成長させていくというシークエンスで言うと、上の人間からすると「下の人間がもうちょっと育ってほしいな」とか、自分が新しいことをやるためにも、ミドル層の人間に委譲していきたいというニーズがあって。
でも、なんだかんだ言って自分が引っ張っていくほうが速いから、今までなかなか委譲するきっかけがなかったんです。それがコロナという外圧で、対応しないといけない仕事も増えたことで、強制的に「君に任せたい」というか、任せざるを得なくなったんです。最初はちょっと上手くいかない部分もありましたけど、だんだんと周りからも認められ始めて。
今までだと「社長がガンガンしゃべっているから自分は発言することはないな」とか、「社長が先回りしてケアできてれば言うこともないな」と思ってスッと引いていた人たちが、「社長が出ないんだったら自分が行ったほうが効率がいいよね、やらざるを得ないよね」というふうに立ち回ってくれるようになって。
会議の仕切りだとかミーティングの調整だとか、PM(プロジェクトマネージャー)的な側面をクリエイターが持ち始めたという意味でいうと、ウチはすごくミドル層が成長したというのを実感してますね。
松山氏:
それはスゴイね。
南治氏:
いい話ですね。
松田氏:
「最終的にケツを持つのはオレだから」という話を通しておけば、みんなもチャレンジしやすいし。
──松山さんは、何かあります?
松山氏:
ウチは毎週月曜日の朝9時から朝礼で集まってテレビ会議をつないで、1時間ぐらいみんなの前で話をしたりとか、プロジェクトの進捗報告だとかをずっと、25年やってきたわけですよ。ウチはべつに、入社した後は同期が1回も揃わないとかいうような大企業でもないんだから、週に1回ぐらいは顔をつき合わせてみんな集まろうぜ、と。けどコロナになって、それができなくなったんですね。これはウチの社内でもみんな意見がそれぞれ分かれるので、あんまり言いたくないんですけど、「……やらなくても良かったのかな、ひょっとして?」と、ちょっと思ってます(笑)。
あとは今まで定例でやっていた会議も全部潰したんですよ。その代わり、毎日起きるトラブルに瞬時に判断できるよう、私を含めた4人のメンバーが毎朝会議をする役員会を設けました。で、出欠確認や社内で起きている問題点を必ずその場で話し合って、その場で私が判断して、あとはすぐ解決に向けて行動っていう。
ルーティンで朝礼をやっていたけど、じつは必要なのはこれだけで良くて、みんなで集まることの美徳を考え直すいいきっかけになったな、というのは思っています。
けど一方でね、ウチのスタッフらしさというか、「みんなで集まれなくなってちょっと寂しいです」とか、「週に1回、社長がワケの分からないことを言うじゃないですか」という声もあって。
いつもだったら、朝礼で「『鬼滅の刃』の劇場版のあそこの演出がどうだ」みたいな話をしてたんです。「どうしてもお前らに言っときたいことがある。この作品のこっちを良しとするなら、こっちは無しだ」とか、そんな話をしちゃうんですよ、社内だから。
だから、ウチのスタッフがたぶん今いちばん必死に追いかけてるのって、私のSNSだと思うんですよ。だって、物理的に会ってないですから。なので一生懸命SNSの情報だとか、こういうふうにメディアに出た時の情報を、昔以上に追いかけてくれるようになって。「社長はこんなことを考えているんだ」というのをSNSで拾うようになったのは、現代的でいいのかな、というのと。
こんなふうに、必要なこととそうじゃないことが、ウチの社内でもちょっとずつ変化するきっかけになったなとは思ってますね。
松田氏:
松山さんは業界でも特異なほど、いろんなことをやってらっしゃいますよね。そういういろんな形で社員にビジョンを語るので、サイバーコネクトツーの社員として求められていることは何かというのを、社員はすぐに得られるじゃないですか。その情報を発信し続けるということはすごく重要だなと思います。
アフターコロナであっても「時代の流れに合ったものを作る」という意味では変わらない
──「世界中の人が同一の体験をしている」という意味で言えば、このコロナ禍ってスゴイ体験じゃないですか。下世話な話なんですけど、ウィズ・コロナ、あるいはアフター・コロナにおいて、この体験や感覚をエンタメに落とし込むにはどういう形があるんだろうか、というのはクリエイティブなものに携わる人にとってひとつのテーマになると思うんです。
たとえば『シン・ゴジラ』が、東日本大震災を想起させていたように。あれは日本人が見るとすごく感情移入できるんだけど、海外の人はなかなかピンと来ないみたいで。そういう意味でいうと、今回のコロナ禍って、世界中の人が「あぁ」と思える何かがきっとあるはずで。
コロナが収まることはまだ当分ないだろうし、コロナを体験した上で生まれるものとか起こることが、これから世界中で出てくるでしょう。それはゲーム業界でも同様に起こりうると思うんですが、今後、このコロナ禍を踏まえて、ゲーム業界やゲーム会社はどうなっていくんでしょうか。
松山氏:
コロナに限らず世の中の流れって、社会情勢も含めて、時代のうねりみたいなものがあるわけじゃないですか。『鬼滅の刃』も、コロナでみんなが不安になっているから、ああいうものが支持されているわけで。
というのは、『鬼滅の刃』がウケてるのは結局、竈門炭治郎の優しさじゃないですか。徹底的なあの人格の良さ、大人も子どもも男女も関係なく「こんな人いいよね」というあの優しさが、今ちょうどいい心地よさになっているんじゃないかと。
たぶん我々は、世の中の流れに合わせてエンタメを作っていくのは変わらないので、今はこうなんだなって思ってます。
ただ、特に家庭用ゲームだと、今企画しているものが世の中に出るのは3年後になりますから、我々はほんのちょっぴりだけ先を見据えて、「少なくともこれじゃあ通用しない」ではないものを、方向を見定めて作っていくしかないので。5年後、10年後と言われたら、まったく分かんないですけど。1年から3年後だったら「少なくともこれはもう無理だよね」というのは分かるわけですから。
『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィは最近、“見聞色の覇気”っていう、ちょっとだけ未来が見える能力を身につけ始めていますけど、ゲームクリエイターの多くが見聞色の覇気を使えるじゃないですか(笑)。
そんな先は無理ですけど、1年から3年先ぐらいまで見える能力は、みんな持っていると思うので。たぶんこれからも見聞色の覇気を使いながら、時代に合わせた「オモロい」を作っていくことになるんじゃないかなと思いますけどね。
──なるほど、わかりやすい言い方ですね(笑)。
南治氏:
自分が思ったのは、そこそこ人は動いているんですけど、外に出る人が減ってきていることですね。スマホは持ち歩けて、外でも遊べるのが良かったんですけど、家にいるんだったらスマホはもっと小さくていいし、むしろちゃんとしたゲーム機のほうがいいよね、というふうになるんじゃないかと。「外にいて、時間を潰さなきゃいけない」というシチュエーションも減ると思いますし。
スマホゲームもだいぶ調子が良かったんですけど、これを機に家庭用ゲーム機への揺り戻しががあるんじゃないかなぁと。それはそれで面白そうかなぁと思っています。このへんはちょっと、希望だったりもしますけどね。松田さんはどうですか?
松田氏:
これ、まとめ難しいよなぁ(笑)。なんて壮大な話を持ってきてくれたんだろう。
松山氏:
言いたいことを言っとけばいいんですよ、なんでも(笑)。
松田氏:
まぁでもこうしてお話しして、いろいろと自分の中で整理されてきたことはたくさんありますね。
結局、コロナの前だろうと後だろうと、世間のニーズや流行りを考慮した上で、「これは作るべき価値があるものだ」というものに人生を賭けるのがゲーム作りだと思っているので。コロナの状況になったからといって、自分の気持ちを殺してまで作るようなことは、ゲームの業界においてはないと思います。
これがたとえば外食産業みたいに、コロナによってそもそも今日の商売すら成り立たない、みたいなことになってしまうと、外部からの圧力によって信念を曲げなきゃいけないとか、そもそもこの商売をやっているアイデンティティを否定して、違うことをやらなきゃいけなくなってしまうのかもしれないですけど。
冒頭で平さんがおっしゃったみたいに、ゲームは他の業態に比べれば、比較的ですけど、コロナによってダメになったビジネスモデルではないと思います。結局、市場を見て、世界を見て、自分たちのやりたい気持ちとか想いを乗せて、ゲームを作って選んでいくということは変わらなくて。
自分の会社としてはこういうふうにしていきたい。そのための手段として、コロナ禍の世界において市場に合ったものを作るために、ウチの会社としてはこうしていきます、これが大事だと思います、というのを主張していく。それだけのことなので、手段はトライ&エラーでいいのかなと思っていて。「これじゃなきゃいけない」もないし、「これが正解」もまったくない状態でしょうし、それが生まれるかどうかはちょっと分からないので。ウチのメンバーが楽しく、信念を曲げずにゲームを作っていけるような、社内の文化だったりやり方を生み出していければいいな、と思っているだけですね。
──今日集まっていただいた方はみなさん、それぞれの会社の社長でもあるので、この記事なり音声が公開されることで、それぞれの社員のみなさんへのメッセージにもなって、お三方の役に立てればいいなというところで、この座談会を終えたいと思います。本日はお疲れさまでした。(了)
新型コロナウイルスの影響は、単に健康の問題だけではなく、我々自身の生活様式や、産業の構造自体を変えざるを得ないところまで来ている。この原稿を執筆している時点では今なお感染の収束は見えないが、たとえ大規模な感染が収束したとしても、その影響は深く、長く続いていくことだろう。ひょっとしたら今後の日本人全体の生活や意識を、大きく変えてしまうほどに。
今回の座談会は、企業のトップとしてコロナ禍に直面した人々が、それに対してどう対処したか、そして今なお試行錯誤を続けているかの記録だと言えるだろう。
その意味で、この記事が単にゲーム業界の内情を伝えるものであるだけでなく、読者のみなさんがコロナ禍の、そしてコロナ以後の世界を生きていく上で、ここから何らかの役に立つ知見や考え方のヒントを得ることができたなら、編集部としては嬉しく思います。
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