アイレムソフトウェアエンジニアリングは、1998年より毎年非常に凝ったエイプリルフール企画を発表しており、企業系サイトがエイプリルフールを仕掛ける先駆けだと言われている。アイレムソフトウェアエンジニアリングに所属していた九条一馬氏は、『R-TYPE DELTA』『R-TYPE FINAL』『R-TYPE TACTICS』シリーズ、『絶体絶命都市』シリーズなどを手掛けたあと、2011年に同社を退社し、仲間たちとともに株式会社グランゼーラ【※】を設立。
「エイプリルフールにおもしろいことをする」という精神は、アイレムソフトウェアエンジニアリング時代から変わっておらずグランゼーラに継承され、2019年4月1日には『R-TYPE FINAL 2』を発表。『R-TYPE』シリーズを締めくくった『R-TYPE FINAL』の続編の発表は、往年のゲーマーたちを中心に大いに話題となった。
グランゼーラはエイプリルフールに全力を注ぐゲームメーカーであると周知されていたことから、当初、この発表は嘘だと思われていた。ニュースに沸いた方々も、それを理解したうえで盛り上がっていたのだ。エイプリルフールのニュースはその日だけのものだとわかっているからこそ、1日だけの夢に酔いしれ、その酔いは翌日には醒めると誰もが理解していた。
しかし、そんなゲーマーたちの想いをグランゼーラはいい意味で裏切ることになる。『R-TYPE FINAL 2』の発表はエイプリルフールネタではなく、公式に制作が開始したのだとグランゼーラがアナウンスを行ったのだ。メディアさえも混乱したこの発表は、連動して開始されたKickStarterでのクラウドファンディングによって「ネタではなかったのか」と認識されるに至る。結果、このクラウドファンディングには『R-TYPE』シリーズの最新作を求める支援者が殺到。2019年6月12日に最終日を迎え、目標額4500万円を大幅に上回る総支援額1億95万4925円、224%の達成率を記録し、大成功をおさめることになった。
その後、計3回のクラウドファンディングが行われ、2021年4月29日に『R-TYPE FINAL 2』は発売を迎えた。1万人以上の“『R-TYPE』復活の願い”を集めた本作。開発陣はその声にどのような想いで応えたのか。また、クラウドファンディングを3回行うことになったのは、どのような理由からなのか。リードゲームデザイナーを務めた九条一馬氏と、広報の西村麻由美氏に話を伺った。
ゲーム機がネットにつながり、プレイを生配信できる環境がある、という着想から生まれた『R-TYPE FINAL 2』
──本日はよろしくお願いします。『R-TYPE FINAL 2』の話をうかがう前に九条さんの経歴についてお聞かせください。九条さんはゲーム業界に入った当初はどういったゲームを作っていたのですか?
九条氏:
アイレムがまだ大阪にあった頃に『海底大戦争』や、その後ナスカという会社に移り『メタルスラッグ』などのアーケードゲームを作っていました。フリーランス時代に、アイレムソフトウェアエンジニアリングから家庭用ゲームを作らせてもらえると声をかけていただき、それまで住んでいた大阪から金沢に引っ越すことにしたんです。ずっと家庭用ゲームを作りたいと思っていたので、それが実現するならと、金沢にやってきました。
──その中で『R-TYPE FINAL』も開発されたのですね。
九条氏:
そうです。アイレムソフトウェアエンジニアリングに入ったときにちょうどプレイステーションで新しい『R-TYPE』を作ろうとしていて。上司からディレクターをしてくれと言われたのですが、入社直後で社内の様子もよくわからなかったので、ディレクターは遠慮しつつも企画書作成やレベルデザイン、スケジュール管理、取説の原稿作成業務などをやらせてもらいました。それが『R-TYPE DELTA』。『R-TYPE FINAL』のひとつ前のゲームですね。企画書には“R-TYPE 4”というタイトルをつけていました。それまでドット絵が好評を博していた『R-TYPE』をポリゴンで作るということで、なかなか緊張感がある仕事でしたが、上司や仲間と試行錯誤しながら形にしていきました。
ただ、結果として大阪にいたときと同じくシューティングゲームを作ることになり、「家庭用ゲームらしいものを作りたい」とより強く思うようになっていたんですね。そういった考えから『R-TYPE DELTA』のつぎに企画・開発したのが『絶体絶命都市』という地震災害をテーマにしたアクションアドベンチャーゲームでした。
じつは『絶体絶命都市』を開発しているあいだも、お客様からは『R-TYPE』の新作を望むメールをいただいたんです。社内で「新しい『R-TYPE』を進めてくれないか」と話していたのですが、社内に引き受けてくれる人がおらず……。ですので、『絶体絶命都市』の開発が終わってすぐ、私のほうで『R-TYPE FINAL』の制作をスタートさせることになって。『R-TYPE FINAL』発売後は、二度と『R-TYPE』もサイドスクロールのシューティングゲームも作ることはないだろうなと思っていました。タイトルにあるとおり、本当に「FINAL」って感じで。
実際、そのあとに制作したのは『R-TYPE TATICS』と続編である『R-TYPE TACTICS II』というシミュレーションゲーム。当時は『R-TYPE』の世界観をシミュレーションゲームというジャンルで広げ、展開していくことを考えていたんです。登場人物を据えて、ノベル展開やコミック展開も行おうと思っていました。
私の中では、シューティングゲームの『R-TYPE』は、一度2003年で終わっていたのだと思います。ほかの方がやってくれるのなら応援したと思いますが、自分がその後にシューティングゲームを作るとは思ってもいませんでした。
──それが『R-TYPE FINAL 2』開発につながったのはどうしてなのでしょう。
九条氏:
つながったというよりは、あまりに時間が経ちすぎていて、むしろ『R-TYPE FINAL』とはつながっていないのかなと(笑) 。
お話したように、私は『R-TYPE』からもっとも遠いところにいたのだと思います。アクションアドベンチャーゲーム制作時に「いまのゲーム機、いまのインフラで『R-TYPE』を作ったらどうなるかな?」と考えることがあったのですが、そのときの仕事からの逃避行動による妄想だったと思っていて。スタッフと「いま『R-TYPE』を作ったらどんなものができるかな?」、「いま新しい『R-TYPE』を出したら誰が遊んでくれるのかな?」などと話していても、あまり現実的には考えていませんでした。 ただ、頭の中では「何かできないか? 新鮮味が出せそうな気がするけども……」と、ずっと引っかかっていたんです。
──「なにかできるんじゃないか?」と思ったのはどういったことが気づきになったのでしょう?
九条氏:
明確な機能のアイデアやビジュアル案があったのかどうかははっきり覚えていませんが、もっと漠然と「作ってみたい」、「いま作ったらいいかも!」という考えになっていって。家庭用ならではのシューティングゲームに限界を感じ、否定的になっていた自分の中に、ゲーム機がネットにつながり、プレイを生配信できる環境がある、という認識が強くなっていき「やるならいまだな」と考えが変化したんですね。
──2019年のエイプリルフールのツイートがきっかけとなり、『R-TYPE FINAL 2』のプロジェクトが本格的に動き出したわけですが、クラウドファンディングをやってみようと思ったのはどうしてでしょう。
九条氏:
さきほど話したとおり、ほかのゲーム開発が忙しい中での現実逃避みたいなところがあったのかもしれないんですけど、話を進めたり、ためらったり、また少し進めたり、躊躇したり、開発中であっても何だかすっきりしない状況が続いていて。そんな中で以前エイプリルフール用のネタとして作った『R-TYPE FINAL 2』の画像をTwitterで見かけて何気なくRTしてみたところ、すごい反応があって。
『R-TYPE』に関心を持ってくれて、反応してくれて、応援メッセージを送ってくれることにびっくりするとともに、「この声に応えたい」と思ったんですね。そのときに、新しい『R-TYPE』を遊びたいと思ってくれる人が実際にどれくらいいるんだろうか? その人たちの存在が目に見える形になれば、プロジェクトを推し進めやすくなると考えました。また、私たちは弱小企業でもありますので、クラウドファンディングで支援を呼びかけてみてはどうかと思いました。
──実際にクラウドファンディングを実施されて、想定と違うこともあったのでしょうか。
九条氏:
いちばんは、想定していた以上の方が支援をしてくださったことです。サイドスクロールのシューティングゲームに、これだけ多くの方からご支援をいただけるとは思っていませんでした。
プロジェクトを進める上で想定通りにいかなかったのは、支援をいただいた方へ開発途中の定期報告を行うのが思っていたよりもうまくいかなかったことですね。開発の工程があまりに地味で、画面に変化がないような仕事もたくさんあるので、その点は報告の仕方に工夫が必要でした。また、情報を出すことがネタバレとなってしまい、おもしろさを削いでしまわないかなど、気にし始めると出せる情報が限られてしまった時期があり、そういった点はとても反省しています。
──地元金沢でもクラウドファンディングは新しい試みとしてとらえられたようですね。
九条氏:
そうですね。地元の新聞社さんはクラウドファンディングをする会社が金沢にあることに驚き、支援者の数や支援いただいた規模にかなり驚いておられました。「そんな会社が地元にあるのか?」と珍しがられて取材に来られたり。
──第1回目のクラウドファンディング成功のあと、2回目、3回目となる追加支援募集を実施されていましたが、それはどうしてなのでしょう。
九条氏:
その理由は「『R-TYPE』の新作が出ることをいま知った」という声をたくさんいただいたからです。
西村氏:
2019年に東京ゲームショーに出展したときもそういった声を聞きました。
──あとから知ったファンがいたわけですね。
九条氏:
僕たちの宣伝力が弱かったのか、1回目のクラウドファンディングの告知が行き届かなかったみたいで、1回目終了のツイッターの告知を見て「初めて知った」という問い合わせをいただいて。「もう終わっちゃったし、どうしようかな」と悩んいたんです。1回目の募集期間は2週間だったんですけど、2週間というのはクラウドファンディングの期間としては短いらしいんですよ。
西村氏:
2ヵ月くらいが基本、というのをあとから知って。
九条氏:
私たちもそこをよくわかっていなくて、9月の東京ゲームショー出展時にも「もうやらないの?」という問い合わせをいただいたので、10月に2回目をやりました。
──なるほど。そういう事情があったのですね。
九条氏:
2回目と3回目のクラウドファンディングでは、決済方法をPayPALのみにしたんですけど、それに対して「キックスターターの手数料を浮かしたいからじゃないか?」という声をネットで見かけました(笑)。
これについて説明すると、私も2回目を実施する直前に知ったのですが、キックスターターでは1回やった内容で2回目、3回目の募集ができないようでした。2回目をやろうと思いキックスターターに申し込んだら「同じ案件ではできません」と言われてしまって。解決するために、急遽PayPALで支払えるようにしたんです。
2回目の実施がキックスターターで行えないことを知り、キックスターターとPayPALでお申込みをいただく方への情報発信を一本化するために支援者さん用の専用サイトを12月に立ち上げました。
──そういう事情があったんですね。3回目はどうだったのでしょう?
九条氏:
2回目のクラウドファンディングのときに「もうこれで募集については十分にやれたかな」と思っていたんです。
でも、2020年9月にマイクロソフトさんのXbox Series X|Sでの発売タイトル紹介の動画で『R-TYPE FINAL 2』を取り上げていただいたら、それをご覧になった方から「『R-TYPE FINAL2』のことをいま知った。サウンドトラックが手に入るようにしてほしい」という声があがり、社内のクラウドファンディングを担当している部門に「(3回目)どうにかならないの」と(笑) 。
──また(笑) 。
九条氏:
それが3回目のクラウドファンディング実施の理由です。結果、2回目と3回目にそれぞれ1000人ずつ支援者様が増えて……。
──最終的に支援者は11,146人になりましたね。
九条氏:
1回目で約9000人だったのが、2回目、3回目でそれぞれ1000名ずつ増えました。3回目は実施はしたもののそれほど増えないだろうと思っていたんですけど、新たに1000名にご支援いただいて、うれしかったですね。
──「いま知った」、「もう一回やって」という声があり、支援までしてくれたのですね。ファンの熱意もすごいですが、その声に迅速に応えたのが見事だったなと思います。
九条氏:
迅速というほどかっこいい感じではありません。会社の規模も大きくないので何をやるにもバタバタするんですけど、規模が小さいので決定自体は速いです(笑)。
──総達成額1億円超え、総支援者1万人超えとなりましたが、お金が集まるほどプレッシャーも感じたのでは?
九条氏:
お金もですけど、支援者様の人数ですよね。ご支援いただいた1万人に見合うだけのものを提供しないというのもありますし、一人一人が望んでおられるものも異なるだろうからどういうR-TYPEにすると最適化できるだろうかというプレッシャーもありました。
答えがどうしても出せなかったところは、『R-TYPE FINAL 2』を手に取ってくださった方々に満足いただけるよう、発売後も必要に応じていろいろと追加などができればと思っています。
──2Dの横シューティングゲームがこんなに注目されるとは思っていなかったわけですよね。
九条氏:
そうですね。いまの時代に横シューにこれだけ期待していただけるというか、おもしろがっていただけるっていうのはびっくりしましたね。ほかの会社さんも「まだまだ横シューやれる!」と思ったんじゃないでしょうか(笑)。
──一方で、発売後に発送の不手際など、支援者からの指摘も見受けられましたが……。
西村氏:
デジタルリワードの一部のプラットフォームに関してはマスターアップがギリギリになってしまったために、対象のプラットフォームをご支援いただいている方にはご案内が遅れてしまいました。 また、追加DLCに関しましてもプラットフォームの足並みが揃わなかったことが原因で、支援者様に案内が遅れ、不快な思いをさせてしまったことをお詫び申し上げます。
九条氏:
土壇場で開発のミスから、マスターアップがギリギリになったため、調整がしやすいと思っていたダウンロード版や追加DLCのご提供でミスが出てしまいました。本当に申し訳ないです。