『ファイナルファンタジー』のように広大なマップを歩き、『ペルソナ』や『スーパーマリオRPG』のようにスタイリッシュに戦い、『クロノトリガー』のように時間を旅する……
そんな懐かしの名作JRPGの要素をこれでもかと詰め込んだ“コロンビア産のJRPG”、それが『Cris Tales』だ。
『Cris Tales』では、少女「クリスベル」が冒険する物語が描かれる。クリスベルは時を操作することができ、その能力を用いながらフィールドを探索したり戦闘を行うこととなる。
街などのフィールドを探索するパートでは、「過去」、「現在」、「未来」の3つの時間軸をひとつの画面で見ることができるという、じつに独特な画面構成となっている。
モダンでポップなビジュアルながら、ゲーム全体を包む雰囲気は、まさしく1990年代に隆盛を極めたJRPGをほうふつとさせる。このようなゲームが日本から14,335 km離れた南米・コロンビアで生まれたというのだから驚きだ。
日本の裏側に住む彼らにとって、JRPGとはいったいどんな存在に映っていたのだろうか?
今回、電ファミ編集部はそんな『Cris Tales』の開発者であるデレク・ニール(Derek Neal)氏にメールインタビューを行う機会を得たので、率直な質問をぶつけてみた。
──『Cris Tales』とはひとことで言えばどんなゲームになりますか。
デレク・ニール氏(以下、デレク氏):
ひとつの画面で全て同時に、過去・現在そして未来を見るだけでなく、操作することができるゲームです。それに加えて、大好きなJRPGへの愛情を盛り込んだゲームでもあります。
──「過去、現在、未来がひとつの画面に表現されている」とは珍しいシステムですよね。どうしてこのような仕組みになったのでしょうか。
デレク氏:
過去が画面左、現在が真ん中、未来が画面右というUIは、このゲームの「時を操作する」というコンセプトをどのように表現するか、それを試行錯誤した結果生まれたものです。
開発過程ではいろいろな見せ方を試しましたが、どの時間を見ているのかがわかりにくかったり、画面上の情報が多すぎたりとなかなか難産となったシステムでした。
──ほかにも『Cris Tales』で力を入れた部分を教えてください。
デレク氏:
戦闘システムは基本的にターン制ですが、ここでも時間操作の要素を加えることで、少し複雑で面白いバトルができるよう工夫しました。
クリスベルは敵を過去や未来に送ることで、敵の状態やスキルなどに影響を与えることができるほか、時間操作をパーティーの他の仲間たちの攻撃と合わせることでコンボを狙うこともできます。
それに加えて、プレイヤーの攻撃はタイミングによって強化することもでき、敵キャラからの攻撃も同様に防御することができます。
──『Cris Tales』はJRPGに影響を受けているそうですが、具体的にはどのようなゲームに影響を受けているのでしょうか。
デレク氏:
いちばん大きなベースは『ファイナルファンタジー』ですが、時間操作の要素はもちろん『クロノ・トリガー』ですね。戦闘システムについては『ペルソナ』シリーズや、『ブレイブリーデフォルト』、『スーパーマリオRPG』。
そして主人公クリスベルのキャラクター造形は、『ヴァルキリープロファイル』のレナスのような強い女性に大きな影響を受けています。
──JRPGのどういうところが好きですか。JRPGというジャンルのどういった部分が魅力だと思いますか。
デレク氏:
ひとことで言うなら、「壮大さ」ですね。
ゲーム内の世界全てを巻き込むストーリー、そしてその中で時間とともに成長するキャラクターたちは、JRPGが持つ大きな魅力だと思います。何時間もプレイしていくうちにキャラクターたちに親しみが生まれ、そのキャラクターに起こることがまるで自分の経験かのように思えてしまいます。
──「JRPGらしさ」をどのようにお考えでしょうか。たとえば、昔のJRPGと今のJRPGはどこが違うと思いますか。
デレク氏:
昔のJRPGには、今ではあまり見られなくなった「純粋さ」があると思います。昔のJRPGは、常に手取り足取り教えてくれていたわけではありません。
ですが、そのぶんだけ冒険の壮大さのようなものが際立っていたと思うのです。キャラクターに感情移入しやすいのも、そういったスタイルのおかげかもしれません。
いまどきのゲームに登場するキャラクターは3Dで美しく表現されており、まるで宇宙船に住んでいるかのようにあらゆる角度から見ることができます。それはそれでいいのですが、逆に私たちが想像力を働かせる隙間がないということでもあると思います。
──JRPGのほかにデレクさんが好きなゲームはなんでしょうか?
デレク氏:
『ストリートファイター』シリーズが大好きです。
じつは私は若いころ、格ゲープレイヤーとしてかなり打ち込んでいた時期がありまして。EVOの大会で2位になったこともあり、スーパーバトルオペラ/闘劇ではアメリカ代表のうちのひとりでした。
──デレクさんは日本にいらっしゃったことはありますか。もしあれば、その時の思い出を教えてください。
デレク氏:
はい!東京都内だけですが、日本には何回か行ったことがあります。そこで日本のカレーが世界一の食べ物だということを知りました(笑)。
──Dreams Uncorporatedはコロンビアのゲームスタジオとのことですが、ゲームに「コロンビアらしさ」が反映されている部分はありますか。コロンビアの文化、政治、美術などに影響された部分があれば詳しく教えていただきたいです。
デレク氏:
ゲーム内のあらゆる部分に、コロンビアにちなんだテーマやスタイルが取り入れらています。キャラクターたちが着ている服や建造物もそうですし、ファンタジックなマップもコロンビアに実在する場所をモデルにしています。
たとえば、「ナリムの教会」はラス・ラハス教会を元に作られていますし、虹の川(キャノ・クリスタレス)や塩から作り上げられた教会(シパキラの大聖堂)も、コロンビアには本当にあるんです。
──『Cris Tales』を開発したDreams Uncorporated、SYCKはどのような会社なのでしょうか。どのような経緯で作られた会社なのか、どのような人が集まっているかなどを教えてほしいです。
デレク氏:
SYCKは、我々の友人同士からなる小さいグループで、『Cris Tales』のクリエイティブ面を担当しています。Dreams Uncorporatedでは主にシステム面の開発を担当していますね。みな、RPGへの愛で繋がっています。
──コロンビア、もしくは南米ではどのようにゲームが受け取られていますか。また、日本のゲームはどれくらい知られているのでしょうか。
デレク氏:
意外と世界の他の国々と変わりはありません。日本文化のファンはどこにでもいますね。
──デレクさんのところのほかには、コロンビアにはどのようなゲームデベロッパーがいるのでしょうか。
デレク氏:
ほかには『ARK: Survival Evolved』の開発に関わったEfecto Studioや『EKKO』などで知られるMad Bricksなどが有名かと思いますが、ほとんどのデベロッパーは小規模ですね。コロンビアでもゲーム開発は急成長していますが、まだまだ成長途中です。
──『Cris Tales』はどのようなプレイヤーにプレイしてほしい作品ですか。
デレク氏:
我々が若いころに感じたJRPGへの興奮を、新世代のゲーマーのみなさんにも同じように味わっていただければと期待しています。
若い世代の方々のRPGに対する愛の芽生えに一役買うことができたら私たちは、とても嬉しいです。(了)
かつて一世を風靡したものの、「一本道のストーリー展開」や「自由度の低さ」といった要素を揶揄して使われることもあった「JRPG」という言葉。
日本国内ではそのような用法でさえ目にする機会も減った一方で、海外では逆にその勢いが増してきている。
コロンビアの『Cris Tales』のみならず、フランスの『Edge Of Eternity』や台湾の『Jack Move』など、いまインディーゲーム界隈では「JRPG」と冠した“海外産のJRPG”がぞくぞくと現れてきているのだ。
その背景にあるものは、まさしく本稿でデレク氏が語ったように、彼ら海外のファンたちがかつて体験したJRPGの興奮を、今度は自分たちで表現しようとしている、ということにほかならないだろう。
次の若い世代にJRPGというジャンルの面白さを伝えるのは、日本の我々ではなくデレク氏のような人々になるのかもしれない。