“開発を終わらせる”哲学から生まれるゲーム制作。17年にも及ぶ「軌跡」シリーズを振り返りながら日本ファルコムが「何を大事にしているのか」を近藤社長に聞く

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 日本ファルコムといえば、日本のパソコンゲームの黎明期である1980年代前半から、40年以上にわたってゲームを作り続けてきた老舗であり、とりわけ『ドラゴンスレイヤー』『ザナドゥ』『ソーサリアン』といったRPGには定評がある。

 21世紀に入るまで、PCを中心としたゲーム作りを続けてきた日本ファルコムだが、2000年代中盤からはPSPやPS3といったプレイステーションフォーマットに主力を移すこととになった。その際の原動力となったのが、2004年の『英雄伝説 空(そら)の軌跡FC』から始まるRPG“「軌跡」シリーズ”だ。

英雄伝説 空の軌跡FC(画像はゲーム | Falcomより)

 「軌跡」シリーズは、『英雄伝説』シリーズでも名作との評価が高い「ガガーブトリロジー」のテイストを受け継ぎ、魅力的なキャラクターが密度の濃いシナリオで活躍を繰り広げる作品だ。現在までに10作以上を数えており、アクションRPGの『イース』シリーズとともに、現在の日本ファルコムを代表するタイトルになっている。とくに、プレイステーションで初めて日本ファルコムの存在を知った、比較的若い年齢のゲーマーにとっては、非常に印象深いシリーズだろう。

 この2021年9月30日には、「軌跡」シリーズ最新章の開幕となる『黎(くろ)の軌跡』が、プレイステーション4で発売される。さらに2021年には、前作の『創の軌跡』がNintendo Switchでもリリースされたほか、『閃の軌跡』4部作をSwitchで通してプレイすることが可能になるなど、「軌跡」シリーズはよりいっそう大きな広がりを見せている。

(画像は製品情報 | 英雄伝説 黎の軌跡 – Falcomより)

 そこで今回は、日本ファルコム株式会社代表取締役社長の近藤季洋氏にお話を伺った。近藤氏は社長として経営の指揮を執るだけでなく、ゲーム開発者の顔も持っており、とくに「軌跡」シリーズ第1作の『空の軌跡』ではシナリオをみずから執筆するなど、「軌跡」シリーズを語るにはもっともふさわしい人物だ。

近藤季洋(こんどう としひろ)氏

 過去作の思い出はもちろんのこと、新作である『創の軌跡』や『黎の軌跡』の開発秘話、そして「軌跡」シリーズと日本ファルコムの今後についてなど、さまざまな話題が語られている。「軌跡」シリーズのファンはもちろんのこと、日本のRPGに関心のある人には、非常に興味深い内容となっているはずだ。

 <「軌跡」シリーズ一覧> 
2004年 英雄伝説 空(そら)の軌跡 FC
2006年 英雄伝説 空の軌跡 SC
2007年 英雄伝説 空(そら)の軌跡 the 3rd
2010年 英雄伝説 零(ぜろ)の軌跡
2011年 英雄伝説 碧(あお)の軌跡
2013年 英雄伝説 閃(せん)の軌跡
2014年 英雄伝説 閃の軌跡II
2017年 英雄伝説 閃の軌跡III
2018年 英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA-
2020年 英雄伝説 創(はじまり)の軌跡
2021年 英雄伝説 黎(くろ)の軌跡

<シリーズ独立作品>
2012年 那由多(なゆた)の軌跡
※年号はオリジナルプラットフォームでの発売時のもの。

※取材に際し、写真撮影時以外はマスク着用、座席間隔の確保等、感染症対策を徹底したうえで実施しています。

聞き手/TAITAI
文/伊藤誠之介
撮影/佐々木秀二


「軌跡」シリーズを遊んで入社してきた若手スタッフに開発を任せた『創の軌跡』

──「軌跡」シリーズに特化した、シリーズ全般についての話を近藤社長におうかがいしたく、今回はそういった趣旨でインタビューをお願いしました。まず最新作についてうかがいたいのですが、9月30日に発売される『黎の軌跡』の開発に、近藤社長はどのぐらい関わっておられるのですか? 以前のインタビューで「『創の軌跡』の開発は若手に任せていた」というお話があったので、『黎の軌跡』はどうなのかな? と。

近藤氏:
今回はわりと監修役に徹していますね。以前の作品のように、シナリオを直接書くといったこともなくて。もちろんシナリオを全部チェックして、フィードバックを戻したりはしましたが。

 そういう意味では、いちばん関わっているのは完成直前(インタビューは8月に実施)のいまかもしれない(笑)。最後のほうのまとめ役ですね。もともと僕が開発に関わり始めたきっかけは、開発の最終段階でまとまらないとか、行き詰まったチームを助けていくという役割だったので。今回も、最終的にゲームをまとめるときに、「ここはこうしよう」、「これは変更したほうがいいんじゃない?」といったことを話し合って。ディレクターとはまた違うんですけど、開発を終わらせるためのディレクションというか。そういう形で今回の『黎の軌跡』にも、ある程度関わっています。

──その場合、最終的な部分を決めるのは近藤社長なんですか? それとも開発チームが決めるのを促す役割なんですか?

近藤氏:
 決めるのを促す役割ですね。以前は僕が決めていましたけど、「軌跡」シリーズは開発期間が長いし、とくに『黎の軌跡』は初作ということでさらに長めに取ってあったので、ずっとつきっきりでやれたわけではないですから。なので、要所要所で関わるという形になっていますね。

──そうやって監修するときには、何をポイントにされているのですか?

近藤氏:
 立場が立場ですから、まずは発売日に間に合うように、ということですね。会長の加藤(正幸氏)もよく言うのですが「ちゃんと終わらせなさい」と。そこは憎まれ役でもあるんです。でも「ただし、手は抜かない」という言葉も一緒につくんです。

──そういう中で「これは大事で、これは大事ではない」という取捨選択が突きつけられると思うんです。それを選んでいく過程が、まさにディレクションというか、コンテンツの肝じゃないですか。「軌跡」シリーズを作っていくにあたって、取捨選択をする際に何を大事にしているのだろう、と。

近藤氏:
 突きつけられる問題によると思うんですけど。「軌跡」シリーズの場合はキャラクターとストーリーの比重が高いものですし、ユーザーさんが「軌跡」に求めているのもそこなので、シナリオの表現をいちばん大事にします。これが逆に『イース』だと、アクションゲームとしてのおもしろさが大事なので。

イースⅠ・Ⅱ完全版(画像はゲーム | Falcomより)

 たとえばシナリオとステージの構成が違っていても、それがゲームとしておもしろいのであれば「シナリオを変えよう」という判断になりますし。「軌跡」のほうは人物やシナリオが大事なので、ステージやダンジョンのほうを「これは諦めようね」という判断になります。

 やっぱりタイトルとか、そのときに直面する問題によって、さじ加減は変わってくると思います。

──開発に携わるメンバーは、どんどんと世代が代わっているのですか?

近藤氏:
 じつは「軌跡」シリーズ第1弾の『空の軌跡 FC』を開発したメンバーは、いまもそのまま所属していまして。たぶん全員残っているんじゃないかな。

──それはスゴイですね!

近藤氏:
 もちろん、それに加えて新しいメンバーも増えていて。「『空の軌跡』を遊びました」、「『零の軌跡』を遊びました」という20代、30代の人間もいて。おもに携帯ゲーム機で遊んでいたメンバーですね。『創の軌跡』はそうした若手が中心になっていて、開発のリーダーは30代の人間なんです。

 『創の軌跡』のシナリオは若手のシナリオライターが考えたので、キャラクターのやり取りなんかはいつもと違った印象を受けられたんじゃないかと思います。シリーズを続けていくとなるとやっぱり、ずっと同じメンバーで同じことをやっていたらダメだなと思いますよね。

(画像は英雄伝説 創の軌跡 ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

──昔からいらっしゃるメンバーは、ずっと「軌跡」シリーズの開発に携わっているのですか? それともいったん別のチームに移って、また戻ってきたりということも?

近藤氏:
 ファルコムって、昔はチームがはっきり分かれていて、チーム間の行き来がほとんどなかったんです。でも社長が僕になってからはわりと動的になっていて。まずコアメンバーが先にプロジェクトを立ち上げて、ある程度進んだら人を動かして、役割を決めていくので。ずっと「軌跡」シリーズをやっているような人もいるんですけど、時期によって人員のリソースはどんどん代わっていきます

 だから最初は4、5人でスタートして、終わる間際には30人、40人という体制になっています。60人ぐらいでやっている小さい会社なので、開発は40〜50人ぐらいなんですけど。

──開発のスタート時にはどのような人たちが?

近藤氏:
 「軌跡」であれば、まずシナリオが最初に決まりますのでシナリオの人間と、それからゲームシステムを考える人間。これは企画職の場合もありますし、ウチはプログラマーが企画を兼ねる場合もあるので、そのときどきによって違うんですけど。あとはデザイナーですね。キャラクターと世界観、それぞれの担当がだいたいひとりずつはつくので。

 そういう形で各分野の担当者がひとりずつ入って、最初は原型を作るところから始めていって。そこからプロトタイプ的な物を作るときになると増員して。形ができてデータを作るタイミングになると、そこからどんどん増えていくんですけど。

 ただ、会社全体の状況にも左右されるので。『イース』のほうが先に出る場合は、そちらのほうに人員が集まっているので、「もうちょっと待って」という形で進めたりもしますね。

──長く続いているタイトルだと、開発側にも世代交代があると思っていて。そのときに「このシリーズのコアは何なのか」みたいなことを改めて議論するなど、そこから若い世代がその世代なりの解釈で、新シリーズを作っていったりすると思うんですけど、「軌跡」の場合はどうなんでしょう?

近藤氏:
 それを目指したのが『創の軌跡』だったんですね。『閃の軌跡』が完結した後に、「軌跡」チームが『創の軌跡』と『黎の軌跡』の二手に分かれたんです。

──そうなんですね。

近藤氏:
 『空の軌跡』からずっと関わってきた人間が『黎の軌跡』を立ち上げて。それと並行して立ち上がった『創の軌跡』のほうに若手を寄せて立ち上げたんです。

 『創の軌跡』はやり込み要素が充実していたんですけど、あのへんは若手が決めて自分たちで実装していったものです。舞台が『閃の軌跡』と同じで、比較的短期間で制作するというプロジェクトでもあったので、そこまで革新的に変わってはいないですけど。でもがんばって、僕たち昔からのメンバーではやりきれないところまで持っていったと思います。

──やっぱり若手だと視点が違うな、と思ったところはあるんですか?

近藤氏:
 本当は、いまの半分以下の物量を想定していたんですよ。でも作っているうちにどんどん膨らんでいって。僕らも『空の軌跡』を作っているときに、なかなか完成しなくて「半分で出せ」と言われたというエピソードがあるんです。それこそ『イース』や『イースII』のように。でも『創の軌跡』のチームは最後までやりきったので、スゴイなと思います。

 それから「軌跡」もやっぱり、初代から関わっている人間としてはなんとなく「こうしなさい」というものがあるんです。でも『創の軌跡』から登場してきた新キャラクターであるとか、アルファベットの「C」という名前の人物は、それに反発して出てきたアイデアなんです。だから出てきたときに「えっ、これどうするの?」と思いながらも、僕なんかは「そういうやり方もあるんだ」と目からウロコが落ちた気分でしたね。

「C」(画像はThe Miserable Sinners | 英雄伝説 創の軌跡 (はじまりのきせき) – Falcomより)

──ちなみに「こうしなさい」というのは、具体的には?

近藤氏:
 具体的に「こうしなさい」と言っているわけではないんです。でもあるじゃないですか、「こうしてほしくないな」とかいうのが(笑)。もうちょっとお行儀良くあってほしいとか。そのへんの年齢差によるギャップというのはありますよね。たとえば、「軌跡」シリーズは人が命を落とすということに対して、ものすごく慎重なんです。でも若手はけっこうズバッ! とやっちゃう。それは「ちょっと待って」と言いそうになるんですけど。

 あとはシナリオのセリフ回しですね。『創の軌跡』では、10代の女の子がけっこうえげつないことをケロッと言うシーンがあるんです。そういうことを僕らはやってこなかったんですが、昨今のタイトルを見て育った人たちだとか、日本のラノベが好きで入ってきた外国人のスタッフなんかは、そういうセリフ回しがパッと出てきて。実際に見てみると、僕らではやらないけど、ちゃんとおもしろいなと思えるものにしてくれているんです。そういうところは『創の軌跡』の開発中に、いろいろと実感したところがあるので、これはこれでやって良かったなと思っていますね。

みずからシナリオを手がけた『空の軌跡』で、『英雄伝説』らしいセリフの細やかさを受け継いだ

──「軌跡」シリーズが誕生して、もう17年になります。

近藤氏:
 開発を始めたときからだと、20年ぐらい経ちますね。自分がまだ20代後半ぐらいでしたから。

──シリーズ第1作の『空の軌跡 FC』のときには、近藤社長はどういう関わり方だったのですか?

近藤氏:
 僕は入社後、しばらくはずっとネットワーク関連の仕事をしていて、そこからシナリオの作業に1〜2年関わらせてもらって。『空の軌跡』に関わるようになったのは、その後にスケジュール管理的な仕事……実際にプロジェクトマネージャーという名前がついたのはもっと後なんですけど、その触りみたいなものをやるようになったころですね。

 『英雄伝説V 海の檻歌』のメインプログラマーだった先輩が、「新しい『英雄伝説』をやる」ということで企画書を出したら、会長の加藤から「一緒にやれ」と言われて。そのときに「シナリオを担当してほしい」と先輩から言われたのがきっかけですね。

英雄伝説V 海の檻歌(画像はゲーム | Falcomより)

──『空の軌跡』というのはいろいろな意味で、それまでの日本ファルコムの流れがガラッと変わった、特異点のような作品ですよね。とくにPCで出た後にプレイステーション・ポータブルでブレイクして、それで一気に知名度を上げたと思うのですが。

近藤氏:
 じつは『空の軌跡』がPCで出たときは、前年の2003年に発売した『イースVI -ナピシュテムの匣-』のほうが売上は上だったんです。それでいて『空の軌跡』の開発期間は『イースVI』よりも長いので、僕の前の山崎伸治社長「『英雄伝説』より『イース』を作ってほしい」と言われたぐらいですから(笑)。でも当時の自分としては、『英雄伝説』で『イース』に勝ちたいと思っていたので。

イースVI -ナピシュテムの匣-(画像はゲーム | Falcomより)

──『空の軌跡』のときは、これまでのゲームとは手応えや雰囲気が違ったのでしょうか?

近藤氏:
 『空の軌跡』の前に、『英雄伝説』の3、4、5作目が『ガガーブトリロジー』として続いていて。それが完結したので、その延長上のものをやるのか、ガラッと変えて新しいシリーズをやるのかという選択肢があったんです。

 そのときに、先輩たちや同期の人間たちと話して、「せっかくだから自分たちにしかできないものをやりたい」と。ただ、僕の同期は「ガガーブトリロジー」が大好きで、その影響を受けて入社してきた人間が多かったこともあり、「ガガーブトリロジーの良いところは受け継ぎたいよね」という話をしたんです。新しいことをやりたいという想いと、前作へのリスペクト。そのふたつが入り混じって生まれたのが『空の軌跡』ですね。

 僕自身もファルコムのタイトルが大好きだったので、まったくファルコムじゃないものを作りたいとは思わなかったんです。ただ、自分たちがやるからには、過去作と同じことはたぶん無理だろうと。それで先輩たちを超えるのは難しい。であれば、ファルコムっぽいけれどファルコムがまだやったことのない世界観をやろうと。それでスチームパンク的なものを前面に押し出した世界観で、自分たちなりのものをやっていこうよと始まったのが『空の軌跡』なんです。

──「ファルコムっぽい」というのをもう少し詳しく言語化すると、どういうことですか?

近藤氏:
 「ファルコムっぽい」というか、より正確には「『英雄伝説』っぽい」と言っていたんですけど。僕らも話したんですよ、「どうすれば『英雄伝説』っぽくなるか」について。

 当時は『ファイナルファンタジーVII』みたいに、ガッツリとしたスチームパンクを前面に押し出した、クールな見せ方をしていくものが流行っていたんですけど。

(画像はFINAL FANTASY VII ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

でも「ガガーブトリロジー」は「田舎のおふくろさん」というか(笑)。おせっかいなんですよ、妙に。「その心地よさってあるよね」という話を、『空の軌跡』のときはしたんです。妙におせっかいだし、人があまり死なないし、なんとなく諭されているというか。そういった雰囲気みたいなものは、「ガガーブトリロジー」から失いたくないものだよね、と。それが『空の軌跡』の礎のひとつだと思います。

 それからもうひとつ「ここは絶対に受け継ごう」と言っていたのは、NPC全員に名前をつけて、ゲームの進行に合わせてフラグごとにセリフを変えていくところ。当時『英雄伝説』を好きだった人間は、まずそこが好きだったんです。ひとりひとりの住人たちにエピソードがあって、メインストーリーだけを味わっても十分にゲームを楽しめるんだけど、ちょっと脇道に逸れたときに、この世界にいる人たちの人間模様が見えるというか。生きた世界を旅しているんだなという感慨をプレイヤーに与えてくれる細やかさが、「ガガーブトリロジー」にはあって。当時のRPGでそこまでやられている作品は、なかなかなかったと思うんです。そこは『空の軌跡』にもちゃんと持っていきたい。「そのふたつをまずちゃんとやろう」と、スタッフの人たちと話した思い出があります。
  
──そこに関しては、以前の取材で伺った、近藤さんがファルコムに入社したきっかけと重なる部分でもありますよね?

近藤氏:
 はい。僕は大学生のときに『英雄伝説III 白き魔女』のシナリオを、全部タイピングして書き写したことがあるんです(笑)。それでなんとなく身についていたこともあって、先輩に聞かれた際もスラスラ出てきたんですけど。

英雄伝説III 白き魔女(画像はゲーム | Falcomより)

──そのへんのセリフが変化していく細やかさだったり、あとは、これも近藤さんのインタビューでよく出てくる言葉なんですけど、「やっぱり触り心地が大事だよね」という。たとえばマップを移動することひとつを取っても、やっぱり快適であるべき、みたいな話があったり。

近藤氏:
 僕たちは誰ひとりとしてスゴイ才能の持ち主ではないので、当たり前のことしかできないんです。ならせめて、当たり前のことをちゃんとやろうよと。社内では会話メッセージのことを「一般メッセージ」と呼んでいるんですけど、一般メッセージをちゃんとやるというのは、クリエイターであれば技術的には誰でもできることなんです。ただ、それをやろうとするかどうかだと思うんですよ。1章に200人ぐらい出てくるNPC全員に名前をつけて、フラグごとに細かくセリフを決めて、ということを。

 そういう、自分たちでもできることを探っていった結果として、そういうものをやっていくということがあった気がします。

──そういった細かいセリフの変化と、マップを快適に移動する気持ち良さが噛み合っているからこそ、プレイヤーはあちこち探索しようという気になるんですよね。

近藤氏:
 そうですね。街の中にNPCを置く配置に関しても、いまはだいぶ変わってきましたけど、『空の軌跡』当時はかなり気を遣っていましたね。メインシナリオで街の通りを何回往復するだろうということから逆算して、こういうキャラを配置しようとか、こういうことを言わせようとか、そういうことを考えていましたね。

──マップであれば大通りがいちばん行き来することが多いわけじゃないですか。たとえばそのときには、どんな会話を用意するのですか?

近藤氏:
 大通りにいるNPCにはみんな話しかけるので、メインストーリーに絡む話題を言わせることが多いんですよ。事件に関係する当事者の話はメインストーリーを見ていればわかるんですけど、当事者ではない人たちから見た話題、たとえば一般の人たちがどう考えて、それに対してどう向き合っていくのか。道端にいる人に話しかけたら、メインストーリーの見方がさらにもうワンランク深く感じるようなメッセージを言わせようというのが、そもそもの原点なんです。

 逆に、メインストーリーから外れた場所に行く人は、自分から「何かないかな?」と求めて本筋を外れるプレイヤーなので。そういう人たちにはちょっとしたご褒美的なものを配置する。誰も行かないような裏路地のいちばん奥にNPCが立っていたら、やっぱりその人に話しかけたくなるわけです。そのときに何が返ってくるかということを、ちゃんとやろうよとか。そういうことを徹底して、細かく詰めていくだけなんですよね。

 そのへんは8ビット機でゲームを遊んでいたころのワクワク感と何ら変わることがなくて。あの時代のRPGで、たまたま壁を突き抜けた先に闇商人がいたりしたら、やっぱりワクワクするじゃないですか(笑)。そういう感覚をいまもちゃんとやりたいね、ということなんだと思います。

──そのへんはまったく変わらないものなんですか? それとも、そこを現代的にする工夫があったりするんですか?

近藤氏:
 僕としてはそこもあまり変わらないでいてほしいな、という想いがあって。逆に省力化されて、忘れ去られていきそうなところでもありますから。いまは日本のゲームからは消えちゃって、逆に海外のインディゲームでそこが再認識されている気がして。
  
 昔の『FF』壁をすり抜けて進んでいったりするシステムが、大好きだったんですよ(笑)。そういうものっていまは、3Dになって世界観がリアルになったことで、表現しにくくなっている部分があるんですけど、ああいうものがなくなってしまうと、すごく寂しい気がします。逆に、ああいうものをいまの形でやるにはどうしたらいいのか、考えたりしていますね。

PSPの『零の軌跡』で20代、『閃の軌跡』で10代のファンがドッと増えた

──「軌跡」シリーズをいまのユーザーさんにどうオススメすればいいのか、というのを考えたときに、これまでのお話を聞いて思ったのは「変わらない良さ」ですよね。「老舗のお饅頭って美味しいよ」みたいな。

 とはいえ、「軌跡」シリーズって本当に長く続いていて。もちろんいちばん最初の『空の軌跡 FC』から遊ぶのが理想ではあるんだけど、いまはハード環境的にもやや難しい。そんな現在の状況の中で、近藤社長としては新しい人にどうやって「軌跡」シリーズに入ってきてほしいと考えているのでしょうか?

近藤氏:
 そうですね。「軌跡」シリーズは17年続いているタイトルですけど、その中に明確な区切りがあって。その区切りでユーザーさんはけっこう入れ替わっている気がするんですよ。

 PCで発売された『空の軌跡』は、いまだに評価がいちばん高いんですけど、支持してくれているのは30代以降の人たちなんですね。そこからPSPの『零の軌跡』に移ったときに、ユーザーの年齢層が10歳ぐらい下がったんです。当時の20代前半ぐらい。そのつぎの『閃の軌跡』のときには、今度は10代の人たちがガッと入ってきて。

閃の軌跡(画像はゲーム | Falcomより)

 それまでのファルコムは10代をどうやって取りこむかが課題だったんです。『閃の軌跡』は学園物だったし、コンソールに来てしばらく腰を据えてやってきたことで存在を認知してもらえたというのも、たぶんあったと思うんですけど。そういうこともあって、10代後半がけっこうな割合で増えたんです。

 だから言ってしまえば、タイトルが変わるところは大きな区切りではありますし、それとともにハードウェアも変わってきていて、それに合わせたものをなるべく僕らも開発してきているので、そういったところで入ってきていただければと思います。
  
──なるほど。タイトルが変わったタイミングやハードが変わったタイミングなら、新しい人も「軌跡」シリーズにスッと入っていけると。

近藤氏:
 そういった意味ではNintendo Switch版の『閃の軌跡』であるとか、それから私たちがいま作っている『黎の軌跡』は、ちょうどいいかもしれないですね。さすがに『閃の軌跡IV』から始めるのはたいへんだと思うんですけど(笑)、そこは最初の『閃の軌跡I』から始めていただいて。あとは『零の軌跡』から始めていただくとか、そういったタイミングですね。

 最初はわからない単語なんかも出てくるんですけど、やっていただいたお客さんから「そこまで気にはならない」と言ってくださることも多いので。実際に、『閃の軌跡』から始めてそこからさかのぼって『空の軌跡』を遊んだという方もけっこういらっしゃいますし。

──区切りのタイミングでユーザー層の世代が変わったというのは、狙っていたところなんですか?

近藤氏:
 ある程度は狙っていたところでもありますね。たとえば、最初から携帯ゲーム機で出した『零の軌跡』は、それまでの『空の軌跡』から比べると、主人公たちのデザインや服装ひとつを取っても、わりと当時のトレンドを意識していて。

零の軌跡(画像はゲーム | Falcomより)

 でも最初に社内で発表したときは、「『空の軌跡』とぜんぜん違うじゃん!」と、けっこう反発されたんですよ。「同じ世界観のさらに小さい地域に舞台が移ったのに、なんで先進的な服装になってるの?」という反発と、販売からは単純に「『空の軌跡』が売れていたのに、なんでそのイメージを捨てちゃったの?」という反発ですね。あとは「戦術オーブメント」という魔法を発動する機械があるんですが、『空の軌跡』では懐中時計がモチーフだったのに、『零の軌跡』からは携帯電話になっちゃったので(笑)、それもけっこう怒られたんですけど。

 でもPSPのユーザーは当時のコンソールでも若いユーザーが多かったのと、あとは僕ら自身もずっとPCで地味目にやってきたので、「コンシューマっぽいことをやってみたい」という憧れがあったんです(笑)。そこを言い訳にしたというか。

 じつは開発規模的にも、クロスベル編は本来『零の軌跡』のみの短編として終わらせるつもりだったんです。だからひとつの街で終わらせようと。それは本当に、開発リソースの都合から発生した話で。広大なマップ、広大な国を用意するのは大変なので、規模を抑えてやろうとしたんだけど、でも結局大きくなっちゃうんですよね(笑)。

──『閃の軌跡』で10代のユーザーが入ってきたというお話でしたけど、それまで10代が入ってこなかった理由はどういうところで、それを解決するために、具体的にはどういうことをやられたのですか?

近藤氏:
 単純に、学園物にしたというのはひとつの仕掛けでしたよね。やっぱり。

 自分たちの作ったものに対して、良くできてはいるんだけど、なかなか手に取ってもらいにくいという認識があって。とくに『空の軌跡』に関しては、昔のRPGが好きな人たちには「絵柄とか世界観がすごく好きだ」と言ってもらえるんですけど、若い人たちから見るとちょっと古いのかな、というのがあって。

 それに反発するような形で『零の軌跡』を作ったら、社内で「うまくいくのか?」と言われたんですけど、結果として『零の軌跡』とその続きの『碧の軌跡』は良かった。そういった体験を踏まえて、さらにもうワンステップ進めるには何をしたらいいかと考えたときに、やっぱり10代の若者たちに向けて作りたいね、と。

碧の軌跡(画像はゲーム | Falcomより)

 『閃の軌跡』の帝国編というのは、最初は軍人でやるつもりだったんです。ただ、RPGの主人公として軍人は動きにくいというのと、いま言ったようなことで、士官学校の生徒たちという形にしたのが、ひとつの決断でしたね。

──でも学園もののプレイヤーって、じつは学生ではないという話もあって。人数的には「こういう学生時代を送りたかった」という20代がメインなことも多いらしいんです。そういう意味では、学園物でちゃんと10代にウケているというのも、それはそれでスゴイ話だなと思うんですよ。

近藤氏:
 なるほど……なんででしょうね。『閃の軌跡』の1作目が出た当時はライトノベルが流行っていて。それも異世界転生物が流行る直前なので、学園物+ファンタジーみたいなものがわりと主流だったころで。そこからウチのスタッフが影響を受けていたというのもあるとは思うんですが。

 あとは10代の人たちが、それまでは「軌跡」シリーズのことを知らなかったんじゃないでしょうか。それが携帯ゲーム機で出たことで、ちょっとずつ知られるようになって、10代にまで広がったのがちょうど『閃の軌跡』のタイミングだったというのもあると思うんです。

──その広がりというのは、コミカライズで広げるなどのプロモーション・マーケティングの仕掛けがあったのですか? それともあくまでゲームで広がっていったんですか?

近藤氏:
 ゲームで広がっていったと思います。ウチってコミックと合わせて仕掛けるとか、アニメと合わせて仕掛けるといったことが、わりとやりにくい作り方をしてしまっているので。ゲームが出るまで全容がわからないとか、そもそも本当に発売日に出るの? みたいな(笑)。

 じつはウチの長男が、友人から「軌跡」シリーズを薦められたという話があって。あとは、電車の中で高校生が「軌跡」シリーズの話をしているだとか。それまではなかったんですが、急にそういうことを見かけるようになったのが『閃の軌跡』のタイミングだったと思います。

 それと、こちらが意図した仕掛けではないんですが、『零の軌跡』で「軌跡」シリーズを知った方たちが、スマホゲームとのコラボだとか、いろいろな提案をくださったんです。メディアとのタイアップが始まったのも、『閃の軌跡』だったと思います。『零』『碧』よりも『閃の軌跡』のほうがビジュアル的なフックが強かったぶん、そうしたタイアップもしやすかったのかもしれません。

(画像は英雄伝説 閃の軌跡I:改 -Thors Military Academy 1204- ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

 そういう意味では『零』、『碧』は海外の展開も一歩遅れてしまって。北米版が出たのは『閃の軌跡』よりもかなり後になってしまったんですよね。最初が携帯ゲーム機だったので、北米での展開が難しかったというのもあるんですけど。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
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