数あるシミュレーションゲームのなかでも世界中で圧倒的な人気を誇る『ファーミングシミュレーター』シリーズの最新作が11月22日(月)に発売される。「リアルな農業ライフ」をテーマに農場経営の奥深い楽しさを提供し続けてきた同シリーズは、メーカー各社との協力関係により、実在の農機が多数登場することでも有名だ。
今作『ファーミングシミュレーター 22』では、ついに「四季の変化」までもが導入され、これまで以上に現実に近い農業体験が味わえると話題を集めている。そのほかにも新たな作物や生産システム、技術面での進化など、数えきれないほどの豊富な要素を迎え拡張を遂げた今作の注目ポイントは以前にも紹介してきた。
そこで弊誌ではこのたび、開発元であるスイス・GIANTS Software社の共同CEOにしてクリエィティブディレクターを兼務するトーマス・フレイ氏(以下、トーマス氏)へメールインタビューを行う機会を得た。立ち上げ初期から一貫してシリーズに携わってきたトーマス氏は、自身も農場に生まれ育ち、幼い頃からビデオゲームへ関心を抱いていたという。
いまや同国の大統領さえもが展示会のブースを訪れるほどの企業の代表として、また、10年以上の歴史を持つシリーズの監修を務める立場として、トーマス氏は現在の『ファーミングシミュレーター』をどのように捉えているのだろうか。最新作の魅力からMod制作やマルチプレイに沸くファンコミュニティの反響、日本国内への展開に寄せる期待まで幅広く伺った。
Today our CEO Christian Ammann welcomed the federal president of Switzerland Guy Parmelin on our Farming Simulator booth at the OLMA trade fair in St. Gallen.
— GIANTS Software (@GIANTSSoftware) October 7, 2021
We were honored by his visit! pic.twitter.com/3B1AOlbwQk
自由でオープンな社風が生む『ファーミングシミュレーター』らしさとは
──まずはトーマスさんの経歴と、『ファーミングシミュレーター 22』で担当されている業務について、具体的に教えてください。
トーマス氏:
私は農場育ちで多くの方と同様、子どもの頃からビデオゲームに興味を持っていました。大学ではゲームデザインを学び、後にGIANTS Softwareの共同経営者となりました。
2008年の入社以降はシリーズすべてのタイトルに関わってきましたが、現在はクリエイティブディレクターとして作中の機具や装置の監修を担当しています。また、『ファーミングシミュレーター』というブランドに関するビジュアル面の管理も手がけていますね。
──GIANTS Softwareはスイスとドイツを拠点としていますが、どのような特徴を持った会社なのでしょうか。チーム編成や制作の哲学、ゲームを作るうえでの考え方など、他のメーカーとは異なる点があればお教えください。
トーマス氏:
GIANTS Softwareは、オープンマインドな職場環境です。誰もが自由にアイデアを発案して各自の分野に責任を持つ体制が整っており、そうした土壌は創造的な課題の解決にも役立っていると言えるでしょう。私たちが開発した独自のエンジンも作品への最適なアプローチを可能にし、外部の状況へそれほど依存せずに済んでいます。
──『ファーミングシミュレーター』は10年以上続く、歴史あるタイトルです。いずれの作品も大人から子どもまでが楽しめる内容となっていますが、シリーズにおいて「絶対にはずせない『ファーミングシミュレーター』らしさ」とはどのような部分ですか。
トーマス氏:
『ファーミングシミュレーター』の軸となる要素は数多くあります。もっとも重要なものをいくつか挙げるならば、「自由」、「創造性」、「くつろぎ」、「家族向けのエンターテインメント」、「実在する機具や装置」、「Modサポート」といったところですかね。『ファーミングシミュレーター』シリーズはPCだけでなくコンソール向けのModも充実していますが、それらの制作を行うファンの皆さんに対しても私たちが実際に使用する開発ツールを提供しています。
メーカーとの深い協力関係がもたらす最新の農業技術
──農業の再現度が恐ろしく高いゲームですが、農業部分を外部の方が監修するなど、専門家の意見や知見を反映しているのでしょうか。もし外部の専門家を使われている場合、どのような方に協力を依頼されているのかお教えください。
トーマス氏:
社員のなかには私のように家族が農業を営んでいて、そうした知識と経験を持つスタッフが在籍しています。社内だけでなく作中に登場するすべてのメーカー(農機や車両、その他のブランドなどを含む)とも密接に協力をし、3Dモデルの再現のみならず現実の世界でどのように動作するのかという点にも細心の注意を払っています。
たとえば、「Precision Farming」というプロジェクトがあります。John Deere社が2020年に開始し、EIT Food(食糧運動を推進する欧州の主要な団体)が資金を提供した、持続可能な農業の知識を向上させるための計画です。こちらは現在第2段階に入っており、2022年の春には無料のDLCとして『ファーミングシミュレーター 22』に組み込まれる予定です。
現代の農業技術に関する知識の普及を目的とした本プロジェクトには、複数の大学も参加しています。『ファーミングシミュレーター 22』では、光センサーを利用したバーチャルファームの持続可能性を高めるための高度な精密農業技術も実装されます。
※「Precision Farming」は『ファーミングシミュレーター 19』でも無料のDLCとして配信されている。
──『ファーミングシミュレーター』は世界で人気を博していますが、特に人気のある地域や国はどこでしょう。ドイツではイベントで展示されるなど人気が高いと聞いたことがあります。
トーマス氏:
仰るとおりドイツをはじめフランスやポーランドなどでも非常に広く親しまれているほか、アメリカやブラジルといった地域でも急速に普及しています。私たちは多言語対応を強みとしていますが、『ファーミングシミュレーター 22』は日本語にもローカライズされているので、より多くの日本のプレイヤーの皆さんに興味を持っていただけるのではないかと思っています。
プレイヤーに多彩な選択肢を与え、リアルさとエンタメ性を両立
──日本では少し前に『天穂のサクナヒメ』という稲作が体験できるゲームが人気を博しました。農林水産省のサイトが攻略の参考になるほど、実際の稲作を研究し尽くしてゲームに落とし込んだのがその理由です。現実的な志向が受け入れられる土壌がありますので、開発者の立場から『ファーミングシミュレーター 22』の「リアルさ」についてご説明ください。
トーマス氏:
シミュレーションゲームにとって、「リアルさ」は重要な要素です。『ファーミングシミュレーター 22』では季節サイクルと作物カレンダーの導入により、現実に即した特定の時期に作物の種まきや収穫を行う必要が生まれました。この機能はオフにもできますが、農場運営のハードルが一部では引き上げられているとも言えます。また、機械を摩耗させる石を取り除くなどの地道な作業も追加されます。
一方で私たちが常に念頭に置いているのは、『ファーミングシミュレーター』がエンターテインメント作品であるという点です。リアルさとアクセシビリティのバランスを取らなければなりません。収穫を迎えるまで何ヵ月もリアルタイムで待つのは面白くないですからね。
さらに、作中では可能な限り多くのオプションを用意しています。プレイヤーは雑草と格闘するかどうか、あるいはトラクターが走行中に作物を破壊するかといった設定を自由に決めることが可能です。ほぼすべての要素に選択肢が与えられており、リアルな設定の数々を好みに応じて調整できる仕様となっています。
──日本の農業にご興味はありますか。また、日本の農業の特徴をどのように捉えていますか。
トーマス氏:
職業柄、世界の農業については常に関心を向けています。また、各メーカーとの日々の仕事を通じて地域ごとの特徴も学んできました。農機の性能は地質学的な理由から国によって異なります。そうした意味では、ISEKIを初めて今回ゲームに登場させることができて光栄です。地形的な違いから、同社のトラクターはアメリカのものに比べ小型のサイズとなっています。
Modやマルチプレイへ沸くファンコミュニティの反響に思うこと
──『ファーミングシミュレーター』2008〜2011までの3作はPCでの展開だったということもあり、Modカルチャーとしても多くの人気を集めたタイトルです。このようなユーザーの反響をどうご覧になられていますか。
トーマス氏:
Modを楽しんでくださっているのは非常に嬉しいことです。ファンコミュニティとは早い段階から交流を続けており、彼らの情熱が今日まで私たちを支えてきました。フォーラムから派生し年々拡大するコミュニティへの感謝の印として、ModHubやModコンテストなどにも取り組んでいます。
また冒頭でも触れたようにエディターツールやエクスポート機能などを提供し、ファンメイドのコンテンツ制作をサポートしてきました。『ファーミングシミュレーター 19』では何千ものModが生まれましたが、今作ではそれを上回る数の登場を期待しています! 本当に楽しみですし、コンソール向けとしては希少なModの存在も誇りに思っています。
──『ファーミングシミュレーター 15』からはマルチプレイモードが本格的に実装されました。プレイヤー同士で分業して農作業を行ったり、ときにはトラクターでレースを行うなど、遊ぶ者のアイデア次第で楽しさが無限に拡張されるものとなっています。
マルチプレイでの盛り上がりで想定外だった点はありますでしょうか。また、「マルチプレイでこういう遊び方をしてみてほしい」というオススメはありますか。
トーマス氏:
私たちのファンコミュニティは素晴らしいことに、何年にもわたり独創的な遊び方のアイデアを考え続けてくれています。もっとも驚いたのは、ユーザーたちがRPGのように交流するロールプレイ方式です。また、相手のプレイヤーを圧倒するような対戦方式も見られました。
正直なところ当初のマルチプレイのイメージは、ユーザー同士が協力して助け合う「Co-op」のようなものを想定していました。『ファーミングシミュレーター 22』ではそのような協力プレイも可能ですが、「生産チェーン」と関連する新しい建物の実装により、自分の工場に他のプレイヤーを招き入れるといった新たな楽しみ方が生まれると考えています。
──近年、日本ではRTA文化が盛り上がりを見せています。『ファーミングシミュレーター 22』でRTAを行うなら、どういうチャレンジをしてほしいですか。
トーマス氏:
RTAは、私たちの想像していたアプローチではありません(笑)。本シリーズの優れた点はオープンワールドかつ無限の選択肢が用意されているところです。たとえば畑で収穫したり、新しい生産チェーンを使ってアイテムを生み出したりするようなユニークな課題を簡単に考え出すことができます。そうしたプレイの方法とは異なりますが、ゼロから始めて「チョコレートの販売を成し遂げるまでのタイムを競う」といったチャレンジはRTAでも可能ではないでしょうか。
日本展開への期待と国内のプレイヤーに向けて
──『ファーミングシミュレーター 22』では、日本国内での販売元がバンダイナムコエンターテインメントへ変更となりました。同社とタッグを組むことでどのような化学反応が起こると期待されますか。
トーマス氏:
日本語のスキルを持たないスイスのデベロッパー兼パブリッシャーとして、共同でパブリッングを行う日本のパートナーを求めていました。業界屈指の企業との提携を大変嬉しく思うとともに、バンダイナムコエンターテインメントの日本市場へのサポートを大変気に入っています。
「東京ゲームショウ2021オンライン」にも出展した同社は『ファーミングシミュレーター』ブランドの認知度を向上させてくれると確信しており、日本でのプレイヤー数が大きく増加することを期待しています。
──日本のゲーマーの皆さんへ、『ファーミングシミュレーター 22』の魅力をお伝えください。
トーマス氏:
今作はこれまでのシリーズのなかで、もっとも大きな進化を遂げたタイトルだと考えています。ポジティブな意見をいただいている一部のメカニズムを整理して、多くの要素の追加や改良を施しました。季節ごとのサイクルでは、冬には雪が降る可能性もあるダイナミックな天候の変化とともに、カレンダーに沿った特定の時期に作物の種まきと収穫を行う必要があります。
創作の自由度は限りなく高いと言えるでしょう。好みのままに農場や土地の配置を編集できる「建築モード」をはじめ、農業から畜産、林業まで幅広い分野での作業も楽しめます。
そして、生産工程を管理するマネジメント的な側面も拡張されました。牛乳を販売するだけではなく、その牛乳からチーズを作ることで、より多くの収入が得られるようになるのです。そうした過程はすべて実在の機具や装置を使って行われます。
プラットフォームの垣根を超えたクロスプレイにも対応しているので、仲間や友人と一緒にプレイして楽しい時間を過ごしてください。
──ありがとうございました。(了)
文化(カルチャー)の語源が「耕す」を意味する「Cultivate」から来ているのはよく知られた話だが、今回のインタビューはまさにそのことを実感させられる内容だった。『ファーミングシミュレーター』シリーズがここまで広く愛されるようになった背景には、プレイヤーの多様な楽しみ方を受容する豊かな土壌がある。
そうした土づくりを支えてきたのは、「ユーザーを楽しませたい」という開発陣の長年にわたる想いだ。少し前に今作の注目ポイントを記事化した身としては、「なぜこんなにも多くの要素が必要なのか」と不思議に感じたりもしたのだが、トーマス氏の明晰で好奇心に富んだ語り口にはその答えの一端が含まれていた。
盛況なModシーンに関する話は特に興味深く、トーマス氏自身も開発側の想定しない新たな遊び方の登場を心待ちにしているように見える。オープンな社風に乗せて運ぶ『ファーミングシミュレーター 22』の種が、ファンコミュニティのなかで育まれ収穫を迎える日を楽しみにしたい。
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