「あの頃のRPGを、今の技術で」というコンセプトのもと、「JRPGの復権」を掲げて『ブレイブリーデフォルト』がニンテンドー3DSに登場してから、早くも10周年を迎える。
2022年1月27日に配信がスタートした『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』(以下、『ブリリアントライツ』)は、「ブレイブリー」シリーズの10周年を記念するタイトル。オリジナルのキャラクターに加えて、過去の「ブレイブリー」シリーズの人気キャラクターが続々と登場する『ブリリアントライツ』は、まさに10周年にふさわしいオールスター作品と言える。
とはいえ『ブリリアントライツ』は、「ブレイブリー」シリーズが、ひいては過去のJRPGが主戦場としてきたコンシューマ機ではなく、iOS/Android用のスマホ向けタイトルである。しかも基本プレイ無料という形態ながら、キャラクターガチャの存在しないシングルプレイ中心のRPGとなっている。
コンシューマで人気を博したシリーズのアニバーサリータイトル、それもやり込み度の高いシングルプレイRPGを今、スマホで送り出す背景には、いったいどのような意図があるのだろうか。
しかもスマホ向けRPGでは近年の定番となっているキャラガチャを、あえて廃すると謳っているのはなぜなのか。今回のインタビューではそうした疑問を、『ブリリアントライツ』のプロデューサーである小松陽平氏に、ストレートに投げかけてみた。
そこで明らかになったのは、スマホゲームに対するユーザーの意識や、ゲーマーの世代交代によるゲームへの向き合い方が、今ではかなり変化してきているという事実だ。だが一方で、「ブレイブリー」シリーズが登場してから10年の時を経たことで、JRPG自体を新鮮な感覚で受けとめる世代も登場してきている。
『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』が、スマホで目指す「古き良きRPG」とはいったいどのようなものなのか。開発スタッフの言葉から、それを確認してみたい。
※編集部注:インタビューは『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』配信前の2022年1月中旬に実施しています。そのため、配信前の情報に終始した内容となります。
「ブレイブリー」ファンに向けて作る一方で、新しく触れる人たちも意識している
──『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』の企画は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか?
小松氏:
本作の企画が最初に立ち上がったのは、『ブレイブリーデフォルトII』【※1】がまだ開発中で、その情報が世に出る前の時期でした。今後「ブレイブリー」シリーズをどうしていこうかというミーティングを、浅野智也さん【※3】や髙橋真志さん【※4】を交えて行ったんです。
『フェアリーズエフェクト』は、ファン層の拡大とシリーズの維持を担うことができたのが、いちばんの成功でした。なので、特にファン層の拡大というところは、引き続きスマホ側で担っていきたいと。シリーズを拡大していく上で、次のスマホタイトルをどう展開していこうか、と話し合ったのが立ち上げの経緯ですね。
ゲームの仕組みや、どうアプローチをしていくかについては、浅野さんや髙橋さんというより、我々のほうで独自に考えて提案していく形になりました。シリーズ1作目の10周年も近く、ファンに向けた作品を作ろうと現在のようなコンセプトに固まっていったんです。
※2 『ブレイブリーデフォルト フェアリーズエフェクト』
2017年3月に配信されたiOS/Android向けタイトル。2017年6月、250万ダウンロード突破が発表。2020年8月にサービス終了となっている。
※3 浅野智也
「ブレイブリー」シリーズの生みの親。シリーズ1作目となる『ブレイブリーデフォルト フライングフェアリー』にてプロデューサーを務める。そのほか、PS2用ソフト『鋼の錬金術師』シリーズや『光の四戦士 ファイナルファンタジー外伝』、『オクトパストラベラー』などをプロデュースしている。
※4 髙橋真志
『ブレイブリーデフォルト フライングフェアリー』でアシスタントプロデューサーを担当。以降、「ブレイブリー」シリーズの開発に携わっている。『オクトパストラベラー』『ブレイブリーデフォルトII』ではプロデューサーを務めている。
──『ブリリアントライツ』が他のスマホゲームと差別化を意識しているのは、どういった部分ですか?
小松氏:
本作に関して言うと、まず最初に「ブレイブリー」シリーズ10周年記念企画というお題目がありました。そこで、シリーズ10周年を彩る上でファンに向けてどういうものが喜ばれるのかなという視点で、ゲームの仕組みやコンセプトを考えていったところが大きいですね。
『フェアリーズエフェクト』を運営していて一番感じたのは、「ブレイブリー」シリーズファンの方も当然遊んでくれたんですけど、それと同等かそれ以上に、『フェアリーズエフェクト』で初めて「ブレイブリー」を知ったという方たちが、盛り上がりを見せてくれたんですね。そこでの手応えや得られたものは、非常に大きかったと思っています。
なので『ブリリアントライツ』でも、シリーズのファンに向けてという大きなコンセプトはあるのですが、その一方で新たに「ブレイブリー」シリーズに触れる方もきっと多いだろうと。そこをかなり意識しました。
──『フェアリーズエフェクト』と、それまでの「ブレイブリー」ファンとで年齢層的な違いはあったのですか?
小松氏:
年齢層で言うとそれほど大きな差はなかったと思います。ただ、ふだんあまりJRPGを遊ばないような方々が『フェアリーズエフェクト』で新しく入ってきてくれたのが大きかったですね。
──「ブレイブリー」を知らないお客さんが、なぜ『フェアリーズエフェクト』に興味を持って、遊ぶようになったのですか?
小松氏:
まずスマホ市場で展開したことが大きかったのと、『フェアリーズエフェクト』では「ブレイブリー」の世界観を表現しつつ、ゲームシステム面では、マルチ要素が非常に強かったんです。他のシリーズ作品とは異なるユニークなバトルシステムを他のプレイヤーとコミュニケーションを取りながら攻略したり、ソーシャル要素がすごく強かったので、もともとスマホゲームリテラシーの高い方たちが“「ブレイブリー」は知らないけど遊んでみよう”と興味を持っていただけたのだと思っています。
──なるほど。一方で『ブリリアントライツ』は、バトルシステムがコンシューマに回帰していますよね。このタイミングでそうしたスタイルを選択したのは、どのような理由でしょうか?
小松氏:
先ほどお話しした「新しいユーザー層を取り込みたい」というコンセプトは、いわばサブのミッションとして掲げているものでした。メインのミッションとしては、もともとの「ブレイブリー」シリーズのファンに対するアプローチなんです。なので、原点回帰的な原作体験であったり、オールスターというところを掲げています。
優先順位としてはまず、シリーズのファンにしっかりと受け入れられないといけない。そういった方たちに「ブレイブリーらしさが出ていて良いね」と好評を得ていないと、新しい人にも届かないと考えています。
でも「ブレイブリー」のゲームシステムって、シリーズファンのような特定層にしか響かない遊びなのかというと、そうではなくて。昔ながらの受容性の高い遊びで構成されているので、操作性をスマホに最適化して今風に合わせているところはあるのですが、可能性としては十分に広がりを見せることができると思っています。
中長期を見据えて運営を行うことで、キャラクターガチャがなくてもマネタイズしていく
──『ブリリアントライツ』では「キャラクターを消耗品にしない」ということを謳っていますよね。より具体的に言うと「キャラクターガチャはやりません」と。なぜそうしようと思ったのですか?
小松氏:
理由としては、ユーザー満足度を意識した結果です。「ブレイブリー」シリーズはファンに向けて作ってきたという背景があるので、こういう仕組みを導入させていただきました。
「オールスターが登場する」と謳っている以上、ファンとしては当然、懐かしのあのキャラに会いたいと思っているはずです。
『ブレイブリーデフォルトII』の初報が出た時に、好評だった反面、「前作の主人公だったティズやアニエスにはもう会えないんだ」といった声も大きかったんですね。『ブリリアントライツ』はそういった声に応える役割もあるので。オールスター登場で、久しぶりに再会した思い出のキャラと一緒に冒険したいというのはファンの当然の心理ですから、そこに純粋に応えるために、こういう仕組みを選びました。
──マネタイズの面で言うと、これまでのゲームとはどう違うのでしょうか? 武器などはランダムの要素があるようですが、それ以外の課金要素は?
小松氏:
一般的かもしれないですが、キャラクターの育成アイテムやスタミナ回復といった、いわゆる時短系の消費アイテムの販売を予定しています。
武器は、基本的にはガチャで提供するという形にはしているんですけど、無償で武器を入手できる手段も豊富に用意しています。
マネタイズ面に関しては、「ユーザーフレンドリーなのはいいんだけど、本当に大丈夫なの?」といった心配の声もいただいているのですが、我々としては中長期に運営していく前提で考えているので、マネタイズに関しても同様に考えています。
──ちなみに「キャラガチャなし」という方針は、会社の承認を得る際に難航したりとか、そういったことはなかったのですか?
小松氏:
それはなかったですけど、チーム内で話し合いをする時に「本当にそれでマネタイズは大丈夫なのか?」と、けっこう議論しましたね。決してすんなりいったわけではなくて、開発初期にビジネス面も含めて練った部分ではあります。
──最終的にはどういうところが決め手となって「これでいこう」となったのですか?
小松氏:
慎重に話し合いを続けて、中長期で運営していく際の具体的なゲームサイクルが見えてきた段階で、徐々にみんな納得して「これでいこう」という形に落とし込めたんです。
開発チームに、古くからソーシャルゲームの開発に携わっていたメンバーが揃っていたこともあって、ゲームサイクルやロジックがちゃんと見えてきたところで、みんなが納得してくれました。勢いで押し通したというわけではなくて、ロジックや数字の予測で納得感が得られたからこそ、今回のマネタイズ方式が採用できたんです。
──先ほどのお話では、『フェアリーズエフェクト』がマルチプレイを重視した結果、新しいユーザーを獲得できたとのことでした。今回の『ブリリアントライツ』はシングルプレイが中心ですよね。なぜ今回はシングルプレイがメインに?
小松氏:
「原作体験を再現する上で、それがいちばん適切だったから」というところに尽きてはしまうんですけど……。
ソーシャルゲームとして考えた時の利点として、これは『フェアリーズエフェクト』の良かったところでもあり、悪かったところでもあるんですけど、MMOとはいかないまでも、MOぐらいソーシャル性の高いゲームだったんです。
そうするとファンのコミュニケーションが活発になる反面、相対評価というか、後から入ってきたプレイヤーにとっては、周りから置いてきぼりになる感覚を如実に感じるんですね。前作はマルチプレイありきのバトルだったので。それに対して今回はソロ中心のゲーム。周りを気にせずに自分のペースで楽しんでいただけると思います。
──ちなみにプレイ時間というか、1日あたりこれぐらいの時間を使って遊んでほしい、というのはどうイメージされているのでしょうか?
小松氏:
プレイヤーの皆さんの熱量に依るところはあるんですけど、今回はスタミナ制を導入しているので一応、天井みたいなところがあります。1日の回復上限のようなものですね。ただ、その天井もけっこう高く設定しているので、やろうと思えばガッツリ進められますが……。
平均的なところで言うと、たぶん2〜3時間で1章を終えることは可能なんじゃないかと思っています。
──ということは、メインのストーリーはわりとガッと遊べば終わって、あとはキャラの育成とかを楽しんでほしいという、そういう設計ですか?
小松氏:
そうですね。ただ、メインストーリーもけっこう育成ありきで設計していて、2章、3章以降はしっかり育成しないと勝ち抜けない難易度になっています。序章や1章であれば、2〜3時間と理解していただければと。それ以降は育成も込みだと、もっとプレイ時間は伸びていくと思います。
──メインストーリー以外に、キャラごとのシナリオもあるのですか?
小松氏:
メインストーリーとイベントのほかに、キャラクターストーリーをアップデートで順次追加していきます。今回はオールスターでパラレルな世界展開になってくるので、本来は会うはずのないキャラクター同士が出会って会話するというのも、『ブリリアントライツ』でしか描けない部分なんです。そこが強く描かれるのが、キャラクターストーリーですね。
「ブレイブリー」らしさとは、ターン制コマンドバトルのJRPGらしさである
──僕の中では「ブレイブリー」シリーズって、キャラクター人気が高いイメージがあるんです。『ブリリアントライツ』ではキャラクターを立てたり、キャラクターへの思い入れを引き立てるような部分は、どのように考えられているのですか?
小松氏:
おっしゃるとおり、「ブレイブリー」シリーズは1作目の時からキャラクター人気投票アンケートとか、いろいろとメディアさんでやっていただいているのもあって、キャラクターの魅力が強いゲームだと思います。
さらに言うと主人公側だけじゃなくて、敵キャラのほうにも意外とファンがいたりする。そういった面でのエピソードを期待しているユーザーさんは多いんじゃないかと思います。
──敵キャラの人気が高いのは物語の面からですか?
小松氏:
キャラクターそれぞれにエピソードが強いんですけど、特に1作目の『フライングフェアリー』の時は、敵キャラクターのデザインをゲストアーティストさんに作ってもらったというのもあって、かなり個性的な外見のキャラが多い。そういうところから、個々の敵キャラにもファンが多いという土壌ができているのかなと思います。
──『ブリリアントライツ』に関しては、「ブレイブリーらしさ」であるとか「コンシューマライクな体験」といったキーワードが繰り返し出てきていますよね。でも現在、スマホならではの表現に最適化されたゲームが市場にたくさんある一方で、コンシューマライクな体験を謳ったスマホゲームをなぜ今送り出すんだろうと、不思議に思うところもあって。
小松氏:
そこは先ほども申し上げたとおり、『ブリリアントライツ』はマーケットに合わせるといった考え方をあまり持っていません。なので、「こういうものが最近求められてるよね?」「こういうのが流行ってるよね?」という考えでは作っていないんですよ。
今回はあくまで「ブレイブリー」というIPの次の作品という立ち位置から発信しているので、最近のトレンドというのとはまた違うのかなと思います。
──なるほど。そうであれば、開発側として「これはいいよね」「面白いよね」と自信を持って送り出せる箇所は、具体的にどういったところなんでしょう?
小松氏:
「ブレイブリー」の良さは、シリーズを通して「古き良きJRPG体験」を表現することを、強く意識しているところだと思うんです。そこは『ブリリアントライツ』でも、忠実に再現できているのかなと思います。
「古き良きJRPG体験」と言っても、その捉え方はこれまで「ブレイブリー」シリーズを作ってきた浅野さんや髙橋さんとは少しずつ異なると思います。僕の場合は、「ターン制コマンドバトル」や「ジョブ」といったところがいちばん大きいと考えていて。
そして「ブレイブリー」ならではの魅力としては、「ブレイブ&デフォルト」【※】システムによるターンの前借りによって生まれる爽快感だと思っています。
JRPGのターン制コマンドバトルって、テンポ感があまり良くないみたいなイメージがあると思うんです。でも、そこを「ブレイブ」で解決して、テンポ感の良いバトルを実現できているところが、「ブレイブリー」ならではの魅力だと感じています。ターン制コマンドバトルだけどテンポ感が良いというのは、『ブリリアントライツ』でも同じように再現できている部分ですね。
──「ブレイブリー」シリーズの生みの親である浅野智也さんから、「ここは守ってくれ」みたいなことを、何か具体的に言われているのですか?
小松氏:
そこはほぼないですね。
──そうなってくると、いよいよ「ブレイブリー」らしさって何だろうな? と思うんです。
小松氏:
「ブレイブリーらしさって何だろう?」というのは、自分も本作の立ち上げ時に再考したことがあるんです。『ブレイブリーデフォルト』らしさを普通に考えると、まずはゲームシステムやジョブシステムの楽しさだと思いますし、世界観、アート、音楽、そして物語の面では「従わない勇気」のようにずっと引き継いでいる「ブレイブリーらしさ」があります。 また、主人公や味方キャラはもちろん、敵キャラもすごく魅力的なキャラが多いというのも「ブレイブリーらしさ」かもしれません。
「ブレイブリーらしさってなんだろう?」という問いかけのさらに手前にあるのは、『フライングフェアリー』の企画当時、浅野さんや髙橋さんたちがこだわった「JRPGの面白さってなんだろう?」という点だと思います。自分たちがプレイヤーとして影響を受けたあの頃のRPGは何が楽しかったんだろう?と考えた時に、「ジョブシステムって楽しかったよね」とか、キャラごとに特徴があって、それを駆使してパーティで役割分担しながら強い敵に挑んでいく、みたいなところが面白かったかなと思うんです。
今回は「ジョブシステム」は入っていないんですけども、その代わりにシーズに登場したキャラクターたちがプレイアブルとしてたくさん登場することで、ジョブシステムの代わりのようなものになっています。ジョブじゃないんだけれども、キャラクターごとにしっかりと特徴があって、そのキャラクターをどう駆使するか考えることで格上の強敵にも挑める。そうやって自分で考えたパーティでクリアした時に大きな喜びが得られるとか、達成感、爽快感が得られるというのは、非常に面白いなと思うところですね。
あとは『ブリリアントライツ』もそうなんですけど、「ブレイブリー」をやると、他のゲームに比べて敵が強いなって、すごく思うんですよね。「初見殺し」とか言われることもあるぐらいには、やっぱり敵が強いんです。
「ボスじゃない普通のザコ敵であっても、しっかり考えないと全滅することもある」というのは、JRPGの良さなのかなと思うんです。そういったところは『ブリリアントライツ』でも、体験いただけると思います。
──なるほど。ターン制コマンドバトルという、スクエニというかJRPGの歴史の延長線上に、「ブレイブリー」らしさがあるというわけですね。
小松氏:
なので僕らとしても、そこに対して責任を持たなきゃいけない、という想いはありますね。そこに対して裏切りがないように、良いものを作り続けなきゃいけない。そうでなければ、IPとして継続していけないと思っていますので。