ガッツリと時間をかけて遊ぶスマホゲームを「仲間と一緒に楽しむ」スタイルが生まれている
──先ほどのお話にあった、「じっくり考えて戦う遊び方」というのは、それこそ昔のフィーチャーフォンやスマホのゲームでは、むしろ否定されてきたスタイルですよね。ところがここ数年、それがむしろアリになっている。スマホゲームに長く携わられてきた小松さんから見て、スマホゲームを遊ぶお客さんの遊び方の変化だとか、スマホゲームに対する扱いの変化で、けっこう変わってきたなと感じることはありますか?
小松氏:
そもそもソーシャルゲームのユーザーにとって選択肢がたくさんあるなかで、ガッツリと時間をかけて楽しむタイプのゲームだけじゃなくて、一方ではまったく時間を食わない放置タイプのゲームも受け入れられていますし、そういう意味では二極化しているのかなと思っています。
なぜそう変わってきているのかというと、いろんな要因があるのかなとは思うんですけど。ひとつには、ユーザーが求めている水準が高くなっている点。求められるものに対してどんどんブラッシュアップしていった結果、こうなったのかなと。
──スマホゲームって、昔は日常生活の「隙間」で遊ぶというのをけっこう言っていたと思うんですけど、今は隙間で遊ぶというよりも、30分とか1時間とか、ガッツリ向き合うような遊び方になってきていますよね。それはRPGだけじゃなくて、ちょっと前は「スマホでFPSなんか遊ばないよ」という話があったと思うんですけど、それが今は思いっきり遊ばれている。
なぜそうなったのかというと、特に若い子たちの「自分の持っているデバイスでいちばん楽しい体験をしたい」というシンプルな動機なのかなと感じていて。そのためには「スマホだから遊びづらい」とかはもう、別に関係ないんだろうなと。昔だったらコンシューマはこうで、モバイルならこうで、みたいな遊び分けをしていたんだけど、今はそれもなくなって。とにかく自分が持っているいちばん身近なデバイスで、いちばん楽しいことをしたいんだと。
小松氏:
ハードウェアの進化が、それを牽引した部分もあるでしょうね。
あとはコミュニティのあり方の変化みたいなところもありますよね。前作の『フェアリーズエフェクト』の時に本当にビックリしたのは、「自分の好きなゲームで遊ぶ」というのがプレイヤーの目的ではなくて、「好きなゲームで遊んで、さらにその仲間を見つけて一緒に楽しみたい」までが目的になっているのを感じたんですよ。「仲間と一緒に楽しむ」という部分の比重がけっこう大きいんだなぁと、最近は特に思います。
──それは興味深いですね。
小松氏:
自分の好きなタイトルや、IPや世界観を共有できる仲間がいないかな? とTwitterとかで探して、たまたま同じゲームに興味を持った人たち、「ブレイブリー」に興味を持った人たちで一緒になったら、やっぱりお互いに話が合うとか、毎日プレイするからそういう話で一緒に盛り上がれる、といった楽しみ方が増えているとすごく感じますね。
──僕自身、オンラインゲームの黎明期にプレイヤーとして立ち会ったタイプの人間なんですが、MMORPGって一度ディープに遊べば強固なコミュニティができるじゃないですか。いったん強固なコミュニティができると、そのコミュニティ単位でいろんなゲームを遊んでいくんですよね。
小松氏:
まるでキャラバンのようですね(笑)。
──「今度『リネージュ2』ってのが出るらしいぞ」とか、「『FFXIV』が出たらこのメンツでトップを取ろうぜ」とか。でもそれって、人間の根源的な「遊び」への動機だと思うんです。ただ昔はそれが、ハイエンドなパソコンを持っていて、コミュニケーションツールを使いこなすことのできる人たちの遊びだったわけですけど。
小松氏:
昔は一部の人のものだったわけですよね。
──でも今はそれがLINEでグループを作るとか、Twitterでリストを作るとか、すごく手軽にできるようになって。その一方で、昔のギルドみたいに本格的なコミュニティも、Discordとかでできるし。そんなふうにゲームを遊ぶ仲間というものにいろんなグラデーションができたな、と感じています。
僕ら40代ぐらいの人間だと「オフラインの友達」「オンラインの友達」みたいなのがありますが、今の若い子に話を聞くと、そういうのがないんですよね。リアルの友達とオンラインの友達との切り分けがなくて。
小松氏:
ゲームで出会って結婚されたりというのも、普通にありますからね。
実際『フェアリーズエフェクト』でもありましたね。
──そういうことに対して、もはや違和感を覚えることもない。
小松氏:
そういう状況なので、『ブリリアントライツ』の発表をした時も、過去作のコミュニティが盛り上がっていたんです。「また同じ「ブレイブリー」の世界で会えるね」といった会話が交わされていて。今回はシングルプレイRPGではあるんですけれども、フレンド機能とかチームもあるので「またつながろうね」と話し合ったりしているんですよ。
「ブレイブリー」という世界観の枠の中で、キャラクターや世界観、音楽についての会話が成立する仲間とまた会える、というところが今回は非常に良いのかなと。
──送り手の側も、そうした反応を意識されているのですか?
小松氏:
コンシューマだと、次のナンバリングを出すまでに準備も含めて時間がたくさんかかるので、その間を埋めるじゃないですけれども、スマホのスピンオフである『ブリリアントライツ』でファンの居場所、会話できる場所をずっと作りたいですね。「ブレイブリー」は作品ごとに主人公が変わるんですけど、「それぞれのキャラクターが好きな人たちの居場所をどこかに作りたいと思っていた」って、浅野さんも言ってました。
──コミュニティに関して、チャット機能のお話があったと思うんですが、今はSNSが発達しているので、「ゲームの内部にそうした機能を用意する必要があるのかな?」とも思うのですが、そこはどうなんでしょう。
小松氏:
もちろん情報のやり取りは、やっぱりSNSがメインになってくるのかなと思います。チャットとかギルドみたいな要素って、正直に言うと『ブリリアントライツ』にはまったく必要ないんですね。ただ、これまでにお話ししたようにスマホゲーム内でのコミュニティ形成という実績があるので、その良い点を今回も引き継ぐという意味で、そういった要素を残しているんです。
その機能に関してはけっこう作り込んでいます。仕組みとしてはスタンプ機能であるとか、かなりLINEライクにチャットできるように仕様を考えていて。なので、きっと活用してくれるだろうと期待しています。
ゲームシステムをさらにブラッシュアップすることで、スマホゲームに適した爽快感を生み出していく
──「ブレイブリー」を作っていて、これまでのソーシャルゲームと比べてここがラクだなぁと思った点、あるいはここが大変だなぁと思った点はどういった部分ですか?
小松氏:
ラクだなと思うのは、受容性の高い、広く受け入れられてきたゲームシステムですね。自分自身も実体験としても幼少期から多く経験しているものですから、そこに関しては作りやすいというか、もともと知っている部分、アイデアの出やすい部分なので、良いなと思っています。
一方で難しいなと思うのは、やっぱり「ブレイブ&デフォルト」のシステムですね。ターン制コマンドRPGでターンを前借りして最大4回まで連続して動けるというのは、けっこうぶっ壊れたシステムだと思いますよ。なので、ここのバランス作りというのが非常に大変だなと。
もちろん原作も遊んできたので、それはわかってはいたんですけど。とはいえ、これをスマホで再現して、運用型なので終わりなく作っていかなきゃいけないというのは、大変ですね。
たとえば「このキャラって、ブレイブしてこの技を4発使うだけで敵を倒せちゃうよね」みたいなこともあるんです。だけど、「ブレイブリー」はその爽快感こそが大事だったりするので。
そこの爽快感は残しつつ、ハードルとして難しいバトルじゃないと、戦っていて楽しくないですから、そこをどう作っていくか。ゲームを運用してアップデートしていくことを加味すると、非常に扱うのが難しいシステムだなという印象が強いですね。
──もう少し詳しく伺えますか?
小松氏:
本作ではキャラクターの扱いが原作とは違って、固定のアビリティを3つ持った状態をずっと提供し続ける形になるんです。その中でキャラクターを順次追加していくわけですけど、キャラクターのバリエーションを作る上ではちょっと物足りないなと感じたんですね。
なので今回、『オクトパストラベラー』であったような「シールド値」や「ブレイク」という要素をブレイブ&デフォルトにさらにプラスしています。
──シールド値を導入することで何が変わったのですか?
小松氏:
たとえば、メインストーリーで登場するザコ戦では、特にシールド値を意識せず、フルブレイブである程度育てれば、簡単に撃破できるように作っているんですね。それは爽快感を残すために、あえてそうしているんですけど。
一方で、エンドコンテンツみたいなものも用意しているんですけど、原作に近い手応えのあるバトルを再現していて、そこでシールド値が生きてくるんです。ブレイブする、つまりぶっ放すというのを、ちゃんと適切なポイントで行うようにしたかったんです。
『オクトパストラベラー』みたいに、「ブレイクした瞬間にブレイブしてぶっ放す」という形にしたいなと思っていて。そうすると味方キャラの役割にしても、シールド値を削るような役割が増えるわけですよね。そこでキャラクターのバリエーションを増やすこともできる。
爽快感も残るし、シールドをブレイクするという戦略性も残るし、キャラクターのバリエーションも作れる。それはそういう戦略性を作る、遊びを作れるというのが、体験としてすごくいいなと思ったんです。
──そういった仕様的なアイデアは、浅野さんたちとディスカッションがあったのですか? それとも小松さんのほうで落とし込んだのですか?
小松氏:
そこはわりと初期の頃に、ディレクターの古川(慶二氏)と相談して作っていったところですね。
「ファンが喜ぶなら」という浅野プロデューサーの言葉を、自分たちも継続している
──話がいったん「ブレイブリー」から離れてしまうのですが。そもそも小松さんはどういった経緯でスクエニに入社して、なぜ今「ブレイブリー」に関わっておられるのでしょうか? たとえば、RPGはお好きだったんですか?
小松氏:
僕はスクエニに入社する前、今から10年ぐらい前にゲーム業界に入ってきた時からソーシャルゲームの開発に関わらせていただいていていました。もともとソーシャルゲーム畑で、ディレクターであったり、企画職として動いてきたんですけど。
スクエニに入社したのが5年ぐらい前なんですが、最初の配属から『フェアリーズエフェクト』に関わるようになり、現在に至ります。
個人的な趣味嗜好で言うと、僕がJRPGにいちばん最初に触れたのは『ファイナルファンタジーIV』だと思うんですけど、その頃から『FF』やJRPGは好きで遊んできました。もっと言うと、普通にディープな光の戦士(『FFXIV』プレイヤー)だったので(笑)。そういう意味ではMMORPGが好きな人間ではありますね。
──ちなみに、スクエニに入社する前はどちらに?
小松氏:
これもちょっと運命的だったりするんですけど、シリコンスタジオというところにおりまして。そこは「ブレイブリー」の開発も行っておりまして、僕はその開発のプロジェクトにいたわけではないんですけど、働いているすぐ横にそのプロジェクトがあったので、もともと身近な存在ではありましたね。
──スマートフォンで『フェアリーズエフェクト』や『ブリリアントライツ』を作るにあたって、「ブレイブリー」シリーズの生みの親である浅野智也さんから受け継いだものは、何かありますか?
小松氏:
浅野さんとは『フェアリーズエフェクト』に関わるようになって以来、月1回のミーティングで必ず顔を合わせて話している関係です。浅野さんは良い意味で、こちらに任せてくれる方なので、けっこう好きなようにやらせていただいているんですよね。
ただ、『フェアリーズエフェクト』を運営しながらいろんな外部のIPとコラボしていく時に、世界観に関わるものなので浅野さんに監修をお願いするんですけど、その時に浅野さんは必ず「ファンが喜ぶなら」とおっしゃるんです。
既存のファンを大切にしつつ拡大していくというのは、浅野さんのその言葉を受けて、自分たちも継続しているところではありますね。
新しいファンに本作を届けることで、来たるべき20周年につなげていきたい
──『ブリリアントライツ』で、小松さんが理想的だと考えるのは、どんなところですか?
小松氏:
我々が引き続きこのシリーズで担うのは「ファンを喜ばせる」ということですけど、理想的なところで言うと先ほども言ったように、「ファンを喜ばせることがユーザーの拡大につながっていく」と思っているんです。そのためにも、新しいファン層に本作を届けたいですね。
「ブレイブリー」としては、新しい若いファンが増えていってくれると、すごく嬉しいなと思います。そしてその若い人たちが30代とかになった頃には、またシリーズの20周年につなげていければいいなと。
──そういった新しい若いファンに刺さるファンタジーとは、どういうものだと思いますか?
小松氏:
それに対する明確な答えは……まだないですね(笑)。ただ、見せ方とかもけっこう大事になってくるのかなとは思います。
あとは、SNS世代であることは今後も変わらないと思うので、横のつながりを大事にしたいですね。「この人がやっているから私もやろう」というのが、今はゲームを始める上ですごく大きな動機になると思うので。
まぁ、おじさんがヘタに迎合するとすごく冷めた感じになったりするかもしれませんが(笑)、そこの仕組みをよくよく考えてやっていかないといけないでしょうね。
──本格ファンタジーみたいなものをド直球にやりすぎると、それこそおじさんたちしか反応しなくなるので(笑)、そういったものが持っていたエッセンスを抽出した形で、若い子たちに届けられたらと思うんです。「ブレイブリー」は現状でもそれに成功していると思うのですが、どういったポイントがあるのでしょうか。絵柄とかですか?
小松氏:
絵に関しては正直、シリーズに合っている方を選択しているので……。ただ、若い子も狙いたいし既存ファンも狙いたいしってなると、ひとつしか選択肢がない時に、そのふたつを同時には選べないですよね。
ひとりのキャラクターに2枚の絵柄を用意できるわけではないので。そこがブレちゃうのは良くないと思いますし。最初にお話ししたように、メインはやっぱり既存ファンへのアプローチなので。基本的な作りとして、「コンセプトどおりにやっています」というところはブレないですね。
──『ブレイブリーデフォルト』の1作目が出た頃は、もっと懐古的だと思ったんです。でも今は「古き良き」というところに、そこまで強くは振ってはいないのかな? とも思うのですが?
小松氏:
「古き良き」というのは、思い出補正が発生してしまうんです。自分たちもそうなんですけど、「当時体験したときよりももっと面白かった」と思ってしまうんですね。なので、いま届けるゲームではそこに新しさを加えていかないといけないと、常々意識しているらしくて。
「ブレイブリー」は、もともとのIPやシステム自体が普遍的なものなので、流行り廃りのものではないんですけど、そこに新しい要素を加えていくことが大事だと思います。
クローズドベータテストのバージョンは、難易度の調整がかなり難しくなっていたのですが、それでも若い人たちの反応が良かったので、嬉しかったです。
──難易度の高いゲームって、最初は「こんなのクリアできねえよ」みたいに言われたりもしますけど、それって文句ではあるんだけど、同時にそれも含めて体験であって。少なくともそれは、何の難しさもなくスッと通り抜けることができるものよりも、プレイヤーの感情はずっと動くわけじゃないですか。
小松氏:
おっしゃる通りだと思います。「ブレイブリー」もよく難しいと言われているんですけど、それを何人かの人がクリアして、その様子を動画にアップしたりすると、その攻略を模倣してまた新たにクリアする人が出てくるという。それも一連の流れになっているので。
ゲームって今はゲーム内だけで完結しているものではなくて、そういう体験も全部含めて、ゲーム体験だと思うんです。「ブレイブリー」はおそらくそういうところをくすぐってくれる。そういう意味で「古き良き」ゲームなんだと思っています。
今回の『ブリリアントライツ』も難しいとは思うんですけど、そこも楽しんでいただきたい難しさではありますね。
これまでもお話ししてきたように、『ブリリアントライツ』はシリーズのファンをかなり意識した作品ですが、その一方でシリーズを未経験の方でも楽しめるようになっています。
シリーズを担当してきたシナリオライターの網代恵一さんを迎えて、「ブレイブリー」シリーズの魅力を10年まるまるというわけではないんですけど、追体験できるようなストーリーになっていますので。未経験の方でも『ブリリアントライツ』を機に、「ブレイブリー」シリーズの魅力がいろんな人に伝われば良いなと思っておりますので、ぜひ遊んでください。
──ありがとうございました。(了)
インタビューの中でも話題になっていたように、『ブレイブリーデフォルト』が登場した2012年前後は、日本のゲームメーカーが海外市場を強く意識するようになり、アクション性の薄いターン制コマンドバトルのRPGがあまり作られなくなっていた時期だ。
その後の10年で、日本のクリエイターが生み出したコマンドバトルのRPGが海外でも高く評価されたり、インディーゲームでいわゆる「JRPG」(※日本のクリエイター以外が制作したものも含む)が多くリリースされたりと、その状況は変わってきている。そうした流れを変えた上で、「ブレイブリー」シリーズもまた確かな役割を果たしたと言える。
一方でこの10年は、スマホゲームの位置づけが大きく変化してきた時期でもある。かつてのスマホゲームのイメージと言えば、アクションパズルのように短時間で遊べるものが中心で、長いストーリーなどはむしろ不要なものとされてきた。だが今では、コンシューマと同等以上のテキスト量や、攻略しがいのあるスマホRPGが多数リリースされて、高い人気を集めている状況だ。
そう考えると『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』は、まさにこの10年間のゲームを巡る状況を象徴するようなタイトルだと言えるだろう。ターン制コマンドバトルならではの面白さが凝縮された本格的なJRPGをスマートフォンで楽しめる本作に対して、10年前の状況を知らない若いプレイヤーたちは、いったいどのように反応するのだろうか。もしかするとその反応から、これからゲームが向かっていく「次の10年」の様相が見えてくるのかもしれない。