“IPコラボ”ってなんなんだ? 『ワンピース フィルムレッド』×「Ado」のコラボは何が凄かったのか? コラボ企画を実践してきたプロと共に、その方程式を徹底議論してみた

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 ふだんスマートフォンでゲームをプレイしている人であれば、そのゲームとは直接関係のないアニメや漫画の人気キャラクターがゲーム内に登場するコラボを、目にしたことがあるだろう。特にスマホゲームでは、いろいろなゲームが人気タイトルとコラボしたことを告知するニュースやCMが、毎日のように流れている。

 スマホゲームだけでなく、コンシューマゲームなどでもこうした「IPコラボ」は、今や当たり前のように行われている。さらにゲームだけではない。パチンコ・パチスロから食品のパッケージ、さらには鉄道などの公共交通や企業、自治体まで、現在ではさまざまな形での「IPコラボ」が多く見られる。なかにはアニメどうし、漫画どうしで作品の枠を超えるIPコラボの例もある。

 改めて説明するまでもないかもしれないが、IP(Intellectual Property)とは著作物やデザインなど「知的財産」の意味で、コンテンツ業界では小説や漫画、アニメやゲームなど多彩なジャンルにまたがって展開される作品の全体像を包括する言葉として使用されている。人気キャラクターが本来の展開ではない作品や商品に登場すれば、それは基本的にどれも「IPコラボ」だと言えるだろう。

 今や膨大な数となったIPコラボだけに、最近ではただコラボしただけではインパクトが薄くなっている。そこでよりお互いの世界観に踏み込んだ形のIPコラボや、逆に絶対にあり得ないような組み合わせで意外性を狙うIPコラボなど、さまざまなパターンが生まれている。

 そんななか、スマホゲーム『ポーカーチェイス』では、2022年9月29日から10月31日の約1カ月間にわたって、『カイジ』シリーズや『アカギ』といった福本伸行作品とのコラボを行っている。このコラボを企画したのが、「VTuberを起用したインフルエンサーマーケティング」に特化したマーケッターであると同時に、自身も『ポーカーチェイス』の制作に関わっているTheSwampman株式会社の横田雄士氏だ。

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 横田氏には以前、『ポーカーチェイス』と大手VTuberグループ「にじさんじ」とのコラボ企画についてお話を伺っている。

 そこで今回は、IPコラボを仕掛ける側のマーケッターである横田氏に、ゲームとのIPコラボが今なぜこれほど増えているのか、そして「良いIPコラボ」とはいったいどういったものであるのかを聞いてみた。

 「そのテーマであれば」と横田氏からの推薦を受けて、今回の取材に参加していただいたのが、株式会社MOTTOの代表取締役である佐藤基(さとうもとい)氏だ。2011年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社した佐藤氏は、マーケティング部門の責任者としてスマホゲームの黎明期から、『逆転オセロニア』など100タイトル以上のマーケティングを担当。現在は独立して、モバイルゲームのマーケティング戦略立案とその実行を支援している。

 スマホゲームのIPコラボを知り尽くしている佐藤氏だけに、今回の取材ではIPコラボの背景にある考え方やその手法について、これまでにない視点でお話を伺うことができた。

 『ポーカーチェイス』と福本伸行作品のコラボはもちろんのこと、2022年のNo.1大ヒットとなった映画『ONE PIECE FILM RED』におけるアーティストコラボまで、幅広い話題が語られているので、ぜひ注目してほしい。

聞き手/TAITAI
文/伊藤誠之介


IPコラボには、お互いの人気を交換する「消費型」と、お互いに人気を大きくしていく「共創型」がある

――今回、直接的には『ポーカーチェイス』と福本伸行作品とのコラボの話をしたいんです。でもそれだけじゃなくて、IPを活用したプロモーションとかIPコラボがそもそもどういうもので、どういう考え方でやるものなのかをプロの視点から語る、あるいはプロの視点から明らかにする、みたいな内容がいいだろうなと思っています。それで横田さんにご相談させていただいたところ、「その内容なら、基さんを呼べば絶対に面白いから」と言われて。それで佐藤さんにも声をかけさせていただいたという経緯なんです。

佐藤氏:
 了解しました。そういう主旨だと伺っていたので、IPコラボをふだんどういう考え方でやっているのかみたいなところをですね、ちょっと図にしてみたんです。

――わざわざ図解してくださったんですか!?

佐藤氏:
 もともと自分なりに考えていたものを、今回せっかくなので図にまとめてみたんですけど。
 図の説明よりも先に、「IPコラボの目的は何か」みたいなところからお話しすると、ゲームビジネスは2つの視点からIPコラボをしていることが多いんです。

 1つ目は、人気のあるIPとコラボすることによって、新しいユーザをゲームに連れていきたいという話です。要はゲームの中に、すでに人気のあるコンテンツが新しく入ってくることによって、それをやりたいと思ってくれる方が新たにゲームにいらっしゃるというパターン。新しいユーザが増えたらいいという視点ですね。

 あともう1つ、これもコラボの観点ではすごく大きいのが「売上を上げたい」っていう話があります。アプリゲームなら「ガチャを回してほしい」、コンソールとかだと「DLCを買ってほしい」みたいな。

 この両方を重視してIPコラボをやっているケースももちろんあるんですけど、IPだとかコラボのやり方によっては、どちらかの比重が大きくなる、みたいなこともけっこう多いんですよ。特にアプリゲームの世界において、たくさんのIPコラボが行われている中で、この2つの目的のうちどちらに比重を置くことが多いかというと、じつは「売上が上がる」ことを第一優先にしているケースが多いんです。これがまず前提としてあります。

――「売上が上がるIP」というのは、どういったものなんですか?

佐藤氏:
 それが記事になると、若干トゲがありそうですけど(笑)。みなさんもなんとなく想像できるとおり、IPによって人気の性質が違うんですよ。

 すなわち「このIPならお金を使ってもいい」というユーザがすごく多いIPなのかどうか。それに対して「現状ではそこまでお金を使いたくない。でも見に行きたい」というIPもけっこうあって。それによってIPコラボの目的および効果が変わってくるというのが、まずは本当に大前提としてあります。これは世の中で一般的に言われていることなんですね。

 その中でですね、IPコラボをより上手くいかせたいっていう視点でまとめてみたのが、今回のこの資料なんです。

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佐藤氏:
 じつはIPコラボには、さっきの話を前提としながらも、それとはまたパターンの違う考え方が2つあると思っています。1つは「消費型」、もう1つは「共創型」と呼んでいるものです。

 世の中の比率で言うと、結果的にIPコラボの8割ぐらいは消費型になっていると思います。消費型っていうのはすごくシンプルで、要は「お互いの人気を交換しましょう」という考え方でコラボをやると。

 IPコラボをする場合は当たり前ですけど、IP側にとってもメリットがなければいけないので、そのメリットも含めて「お互いのユーザを交換しましょう」みたいな感じですね。IP側で言えば、そのIPがそもそも持っている価値とか人気、魅力っていうのをそのままゲームに持ってくることによって、IPファンのユーザをゲームに連れて来てもらう。それと同時に、ゲームに元々いるユーザにそのIPとのコラボレーションを楽しんでもらうことによって、IP側にユーザないし人気をお戻しする。こういう考え方ですね。

――ある種、ゲームがメディアの役割を果たすわけですね。

佐藤氏:
 そうです。これが上手く成立すればWIN-WINになり、ゲーム側はアクティブユーザや売上の増加につながるし、IP側にも同様の恩恵があります。

 この「消費型」でメチャクチャWIN-WINな事例は、ゲームがすごく人気で、IPも今すごく旬で人気、というパータンです。直近の代表的な例でいうと、2020年春に『モンスターストライク』『鬼滅の刃』がコラボしたんですが、これは『鬼滅』原作コミックの連載が完結目前という、大ブレイク前夜というかほぼブレイクしていた時期ですね。

 この時の『鬼滅』はゲームとコラボするのがほぼ初めてで、『モンスト』もアプリゲームの中ではトップタイトルです。そうなると、『モンスト』としては売上もユーザ数も非常に効果が大きかったですし、『鬼滅』側にも効果が大きかったと思います。これがいちばん美しいタイプなんですね。

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(画像は『モンスターストライク』×『鬼滅の刃』コラボ公式サイトより)

――一方でIPコラボをしているタイトルは、『モンスト』のようにトップタイトルだけではないですよね。

佐藤氏:
 そういう場合のIP側のメリットが何になるかというと、やっぱりロイヤリティなんですよね。

 ユーザがほしいというよりは、ロイヤリティがほしいという形でWIN-WINが成立する。これが「消費型」の典型で、IP側が旬じゃないとか、ゲーム側がそこまで大きくないといった場合は、どうしても効果は限定的になってしまいます。

 それでももちろん、どちらかに効果が得られる場合はあると思います。ゲーム側は売り上げが出るし、IP側はその売上を元にしてロイヤリティが入ってくる。とはいえ、「コラボしてみたけど、そんなにインパクトはなかったよね」みたいなケースも起き得るのが、この「消費型」です。

 そうした時に、また違う考え方で上手くIPコラボをさせようっていうのが、僕が「共創型」と呼んでいるものなんです。

――「共創型」というのは、「消費型」とはどう違うのですか?

佐藤氏:
 共創型は一緒に組むことによって、それぞれを大きくしちゃおう、という発想で取り組むものです。より具体的には、ゲームとコラボレーションすることによって、IP自体を拡張したり、IPの新しい価値を生み出し、その結果として、IPの人気が高まり、ゲーム側に効果が戻ってくるという考え方です。

 すごく象徴的な例をいくつか挙げてみると『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』『ONE PIECE トレジャークルーズ』のコラボ(2015年)があります。

 これはけっこう事件だったんです。なにしろ『ONE PIECE』と『ドラゴンボール』がコラボするって話ですから(笑)。つまり、そんなものは『ONE PIECE』の世界線にも『ドラゴンボール』の世界線にもないわけですよ。だから、このために新しいコンテンツ、もしくは新しい物語というものを作って一緒にやる。たしか「“最凶”フリーザ &“最恐”ドフラミンゴの侵略キャンペーン」だったかな。これがすごく盛り上がった。

 またぜんぜん違う視点で例を挙げると、2020年に『フォートナイト』米津玄師さんがコラボして、ゲーム内でバーチャルライブをやりましたっていう事例がありましたよね。これも『フォートナイト』からすれば、ぜんぜん違う価値を米津さんと生み出すことによって、米津さんのファンが『フォートナイト』にやってくるのはもとより、「それはめっちゃ面白いから、ちょっと見てみたい」という、『フォートナイト』内部のファンを活性化させるという効果がありました。

――たしかに「消費」というよりは「共創」という言葉が合いますね。

佐藤氏:
 はたまた、今回の話に少し近づけると、『雀魂』「にじさんじ」と一緒に番組を作っているんですが、『雀魂』と「にじさんじ」を使って麻雀番組を作っているという観点で言えば、それこそ『フォートナイト』の事例のように新しいコンテンツ、新しい価値を作っているとも言えると思います。

 これと同じような例としては、2020年から毎年開催されている「にじさんじ甲子園」という企画があります。これは「にじさんじ」が『eBASEBALLパワフルプロ野球』の大会をやっているだけではあるんですが、それ自体が新たな面白さのコンテンツになっていて、にじさんじのキャストも新たな側面で人気が出るし、『パワプロ』の新たな楽しみ方、もしくは魅力というものも引き出される形になっている。

 最後に、これはゲームの話じゃないんですが、直近の話題として映画『ONE PIECE FILM RED』がとんでもない大ヒットになっています。その理由を考えた時に、じつはAdoさんっていう今すごく旬なアーティストと一緒に、ウタという『ONE PIECE』の新たなキャラクターを作っているとも言える。これってコラボだと思うんですね。

 そのコラボによって新たな魅力が生まれた結果、『ONE PIECE』のファンも見に来るし、Adoさんのファンも見に来る。さらにこの映画がスゴイのは、Adoさんだけではなく、さらに中田ヤスタカさんというコラボレーションまで加わっていて、「さらにコンボしてます」みたいなことになっている。

――そういう意味で『FILM RED』はかなり興味深いですよね。

佐藤氏:
 そしてさらにスゴイのは、この映画で共創した『ONE PIECE』の新しい価値を、今度は「消費型」として『ONE PIECE FILM RED』×『ONE PIECE トレジャークルーズ』とか、『ONE PIECE FILM RED』×『ONE PIECE バウンティラッシュ』とかいった形でコラボしている。このコラボ自体は「消費型」なんだけど、大元の『FILM RED』での共創から考えたら、すごいコンボになっているっていう。その結果として2022年8月は、『ONE PIECE』のゲームが過去一番と言えるぐらい盛り上がったんですよ。

 たくさん事例を挙げちゃいましたが、このようにゲームとIPが一緒に、何か新しいコンテンツや価値というものを共創するタイプのコラボというのが、世の中には有り得るんです。それは「どっちも今、旬じゃなきゃいけない」っていうわけでは決してなくて、むしろ旬じゃないからこそ、新たな価値を一緒に作るという視点もある。そうすることによって、本来得られるはずだったIPコラボの価値よりも大きなものが生まれるかもしれない。この考え方を僕は「共創」と呼んでいまして。

 ゲームビジネス側からすれば、共創型は当然手間がかかるんですが、これによって新たな価値が生まれれば、それはゲーム側の独占コンテンツになるという側面もあるので、そういうふうにアプローチされるケースも増えてきていると思うんですよね。

 それでつながりとしては、今回の『ポーカーチェイス』×福本伸行作品のコラボというのも、じつはそういう「共創型」の視点を持ってやっているんじゃないかと思ったので、ちょっとこういうまとめ方をしてみました。

横田氏:
 さすがやなぁ。

――素晴らしい分析ですね。

誕生から30年近く経過した『エヴァンゲリオン』が、今なお売上が上がる理由とは

――先ほど「IPによって人気の性質があります」というお話があったじゃないですか。人気はあるんだけど売上に貢献するもの、しないものがあると。その代表的な事例みたいなものって、たとえばどういうものになるのでしょうか。

佐藤氏:
 これもいくつか視点があって。直近だとちょっと変わっているかもしれませんが、ちょっと前まで「すごく強いよね」と言われていたIPは、『エヴァンゲリオン』だったり『Fate』だったり『Re:ゼロから始める異世界生活』だったり。そういった作品が「売上の上がりやすい」IPコラボであると言われていました。

 その証拠に、この3作品とコラボしているゲームって、めちゃくちゃ多いんですよ。この中だと『Fate』は相手を選んでコラボしていますが、『エヴァンゲリオン』コラボは非常に多いんですね。

 じゃあ「なぜ『エヴァンゲリオン』は売上が上がるの?」っていうのは、いくつも要素があるし「そこは矛盾するよ」って話もあると思うんですけど、いくつか要素を挙げてみるとですね、まずは当然「人気の母数が大きい」というのがあります。

 で、人気の母数だけじゃなくて、グッズだったり、そもそもコンテンツだったりにお金を払うユーザが比較的多い。ゲームコラボに限らず、たとえばお菓子になる、みたいな形で『エヴァンゲリオン』が商品展開されることも比較的多いというのが、その証拠になるかなと。

 なので、グッズを買うユーザが多いものは、やっぱりゲームコラボでも売上が高くなりやすいと思います。

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(画像は『エヴァンゲリオン』×『ライフアフター』コラボイベントニュースより)

――「なぜ『エヴァンゲリオン』は、グッズにお金を払う人が多いんだろう?」という分析はありますか?

佐藤氏:
 それはもちろん作品自体の人気もあると思うんですけど、じつは僕は、別の観点でも考えたことがあって。

 そこで思い至ったのが「展開が終わっている」、もしくは「展開があまりアクティブではない」っていうIPも、そこにハマりやすいという点で。そういうIPには根強いファンがいて、その作品にもっとお金を使いたいんだけど、IP展開が少ないからお金を使う場所が限定されているんです。それはファン心理だとか、ファンの性質にも依るんですけど、そういうIPは比較的、コラボでお金を使いやすい。

 その結果、「ゲームとコラボしてくれるなんてめちゃくちゃ嬉しい」「これでIPが動き出して、しかもお金が払える」みたいな感じでお金が動くみたいなことがあると思っています。

――やっぱりコアなファンがグッズを買うのに近い感覚で、ゲームコラボのガチャとかにお金を払いに来るっていうことなんですか?

 たとえば『リゼロ』とかだと、まさに今が旬で、こういう人たちがこういうふうに買うんだろうっていう行動原理は見えやすいと思うんです。でも、『エヴァ』のコラボにお金を払う層というのが、個人的にはちょっと見えにくいんです。メジャー過ぎるゆえに、逆にぼんやりしてるというんでしょうか。若いのかそうじゃないのか、どういうニーズの消費なのか? そのへんって説明するとどういうふうになるんでしょうか。

横田氏:
 『エヴァ』の場合、すごくチープな言葉で言うと「ファン層が広すぎ」ですよね。それは世代的な意味もそうだし、男の子ばかりが好きなわけでもないし、みたいなのがまずあるかなと思っていて。

 しかも消費の仕方もけっこう違うじゃないですか。庵野秀明監督の作品として作品そのものを見ている人もいれば、キャラクターを見てる人もいるし、正確にはロボットではないけれども、まぁロボット物みたいな括りで見ている人もいるし。そういうふうに消費の態度がぜんぜん違うコンテンツかなと思っていて。だから、キャラクターに対して消費したい人は当然グッズを買う。

 だけど庵野さんの作品として見ている人は、「エヴァグッズほしいか?」って聞かれると「お、おぉ」みたいな感じの人もいると思いますけど、じゃあ「初号機のフィギュアがほしいか?」って言われたら「それはほしいかも」みたいな。あるいは、キャラクターが好きな人は「綾波レイのフィギュアはほしい」ってなるわけですよね。ファン層ごとにというか、ファンの向き合い方によってそこがかなり変わりそうだなというのは思いますね。

佐藤氏:
 今の話で気づいたのが、キャラクターに人気があるもののほうが、たぶんウケやすいってことだとも思いました。

 物語にすごくファンがついているものと、キャラクターにファンがついているもの。もちろん、どちらも人気があるものも多いと思うんですけど、その中でもキャラクターとか、ロボットみたいなものにファンがついているもののほうが比較的、グッズに対してお金を払う人が多くなると思うんです。そうすると、そちらのほうがゲームにおいても、より売上を作りやすいなとは思いましたね。

――これは私のなんとなくの感覚なんですけど、フィギュアとかグッズってやっぱり、ファンじゃないと買わない感じがするんですよね。商品の性質にも依りますけど、特にフィギュアとかであれば、購買層はやっぱり濃いファンでしょうと。

 それに対してもう少しカジュアルな人は、フィギュアまではなかなか買わないものの、でもたとえば映画は見に行くし、おみやげとしてのグッズは買うよね、みたいなのが層がさらに外側にある。

 それを踏まえて、僕がよく思うのは、コラボって必ずしもIPのファンじゃなくても、ガチャを回すことが多い気がするんですよ。

佐藤氏:
 ああ、なるほど。

――自分がたとえば『モンスト』を遊んでいて、『エヴァ』とのコラボキャラで強いのが出てきましたと。初号機の能力がすごく強いとなると、ファンじゃないんだけど手に入れて「初号機、ちょー強ぇ」みたいな乗っかり方は、かなりあるんじゃないかなと思うんです。

 この場合は『エヴァ』ファンを『モンスト』に連れてきているわけじゃなくて、『モンスト』ファンでも知っている強いコラボキャラとして受け入れやすい、だからほしくなるという心理ですよね。「『エヴァ』のファンなのか?」と聞かれるとそうでもないんだけど、『モンスト』のコラボキャラとしてならお金を払うという。この心理というか、現象って何と呼べばいいのか。マーケッターの中で定義されているものなんですかね?

佐藤氏:
 それは絶対にあると思います。なぜならばそうした消費の行動は実際に起こっているので。ただそれは「そのキャラのファンではないんだけど、知っているというのが前提としてある」ことが大きいんだと思います。『エヴァ』自体はなんとなく知っている、とかいった感じで。

横田氏:
 ゲームだと、やっぱり単純に性能が良いか悪いか、っていうのが絶対にありますから。性能で選んでずっと使っていた結果、コラボ元の作品も好きになるというのは、自分の実体験としてもありますね。

――「スーパーロボット大戦」なんかが、まさにそうですよね。あとは単純に、『エヴァ』コラボって箔がありますよね。「ガチャでエヴァが引けたーっ!」って言ったら、シンプルに嬉しいし「よくやった!」ってなりますし。

佐藤氏:
 そういうふうに「共感性が強い」というのもあるかもしれないですね。そういう共感性が生まれるのは「みんな知っている」からなので。みんな『エヴァ』を知っているし、その価値というか、エヴァ初号機が強いことをみんな知っているから安心して課金できる、っていうのもありそうですね。

――逆に、お金を払いづらい事例っていうのは何かあるんですか? すごい人気IPとコラボしたんだけど、売上がぜんぜん上がらなかったとか。

佐藤氏:
 あると思いますけど、具体的にどの作品だったかと言われると……言いにくい(苦笑)。

横田氏:
 世の中的に強そうなIPとコラボしているんだけど、表面的な売上だけを見るとそんなに上がっていないケースって、すごくたくさんあると思います。ただそれに関しては、ゲームコラボだったらそもそも、ある程度まではゲーム自体の地力に依存しちゃう。

 かつ、コンテンツとゲームの掛け算の仕方というか、そのコラボを行う文脈だったり、実際にゲームの中に実装されている内容や見せ方だったりも、当然影響してくる。そのへんがすごくミスマッチだったり、あるいは雑だったりすると、それはあんまり売上が上がらないというか「誰もほしくないじゃん」ってなっちゃいますよね。要は「ファンすらほしくない」みたいな現象が起きると、それはいちばん失敗するパターンでしょうね。

佐藤氏:
 これは記事に書けるかどうか分からないんですけど、あくまで想像なのですが、もしかしたら……と思うのはミッキーマウスですね。『モンスト』×ミッキーマウスというコラボは、自分が把握している限りでは一回しかやってないんですが、それはつまり、もしかしたら今まで話していた観点において、コラボ効果としては限定的だった可能性があるのかなと。

 ミッキーマウスは今さら言うまでもなく、ものすごく知られているIPですけども、さっき話が出たような形で「ミッキーが強い」というのをイメージしにくいだとか、あるいはミッキーが強いことに「価値を感じにくい」とか、そういう面があるのかも、とは思いますね。

 その一方で、ちょっと矛盾したことを言っちゃうんですけど、『ドラえもん』と『モンスト』のコラボはもう5回も6回もやっているんです。

 ただ、これはもしかしたら違う力学があるのかもしれません。というのも、『ドラえもん』とコラボするタイミングは必ず映画の公開タイミングっていうのが、ほぼパターン化されているので。あるいはそういうメディアとしての役割があるので、じつはロイヤリティがすごく安いんです、みたいな可能性もあるのかもしれない。

 だから一概には言えないんですけど。ドラえもんとミッキーマウスって、なんとなく近い印象もあるじゃないですか。でも『ドラえもん』とのコラボは何回もやって、ミッキーとのコラボは1回しかないというのは、もしかしたらミッキーとのコラボは効果がそんなに大きくなかったという可能性もあるかなとは思います。

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(画像は『モンスターストライク』×『ドラえもん のび太の新恐竜』コラボ公式サイトより)

雑なコラボは単なる「足し算」だが、丁寧なコラボは「掛け算」になっている

――今日のテーマのひとつとして、「雑なコラボ」と「雑じゃないコラボ」って何が違うの? というのを具体的に明らかにできるといいのかなと思っていて。

 おっしゃるとおり、やっぱり文脈があるとすごく納得できて「キター!」って思えるけど、その一方では「なんでそれを掛け合わせるの?」「なんで今それなの?」というものもあって。そのあたりって感覚としてはなんとなく分かるんだけど、言語化まではまだされていないと思うんです。

横田氏:
 そうですね。文脈もそうだし、その上で結果的に「調和しているかどうか」っていうことが、すごく大事なのではという気がしていて。

 それこそさっき、『FILM RED』とAdoさんの掛け算の話が出ましたけど、この話については僕、しゃべろうと思ったら2時間ぐらいできるんですよ。ガチAdoファンなので(笑)。

 それこそ『FILM RED』の公開当初って、すごい賛否両論だったんですよ。「Adoさんの歌はすごく良かったけど、『ONE PIECE』の映画としてはどうなんだろう」みたいな評価もあったんだけど、興行収入で見たら、とんでもないことになっているじゃないですか。

 僕自身も、いわゆる「今イケてる旬なアーティストと『ONE PIECE』がコラボしたぜ」っていうだけだと、「んー」って思っちゃうタイプなんですけど、でも実際に観に行ったら、すげぇ良かったんですよ。何が良かったかというと、ただ「人気者を使いましたよ」ではなくて、ウタというキャラクターの落とし込み方として、Adoさんである必然性をすごく感じたんですね。これは僕の主観ではあるんですけど。

――どういった必然性を感じたんでしょうか。

横田氏:
 歌姫みたいな設定で出てくるので、当然歌は上手くなきゃいけないし、実際に映画の中でもいろんな歌を歌うんですけど、じつは僕は先に、音楽のほうだけを聴いていたんです。「ウタの歌」ってCDが先に出ていたので、僕は先に純粋に音楽として楽しんでいて。

 それで映画のほうはわりと最近(※取材日は9月7日)、家族みんなで観に行ったんですよ。そうすると、今までは「歌」として聴いていた楽曲の、歌詞の意味性みたいなものが映画を観たことによって分かってきて。「なるほど、だからこういう歌詞だったのか!」っていう。

 逆に言うと、『ONE PIECE』とAdoさんがそこまでめちゃくちゃ融合していて。ただ「人気者を使いました」「それっぽい歌を歌いました」ではなくて、歌詞の内容とか楽曲のイメージとか、すべてにおいてめちゃくちゃ調和していて、しかもその説得力としてAdoさんの歌唱力、パフォーマンスがあるんです。あの歌唱力で、すごく調和した内容の楽曲をぶつけられた時に、僕はめちゃくちゃ感動したんですよ。

――なるほど。

横田氏:
 確かに、今までの痛快・活劇・感動みたいな映画の『ONE PIECE』とは、ちょっと軸がズレてるかもしれないです。でも音楽に対して、劇中でめちゃくちゃ意味を持たせていたことが本当に凄くて。楽曲の雰囲気やイメージもそうだし、歌詞の内容もそうだし、それが映像ともマッチしているので、「これはどういう順番で作ったんだろう?」「どういう段取りでこの映画ができ上がるんだろう?」みたいなことをすごく考えさせられるぐらい、すさまじい調和の仕方をしていて……そんな映画だったんですよ。

 つまり、ただの足し算じゃなかったんです。結果的にすごく調和・融合していて、それによって出てきているアウトプット自体も、少なくとも僕にとってはすごく感動というか、衝撃を受けた作品だったんです。

 僕の中では『ONE PIECE』って、子供の頃からずっと、今もなお毎週読んでいる作品ではあるんですけど、正直を言うと、何よりもいちばん好きな作品というわけでも無かったんです。でも『FILM RED』を観に行った瞬間から、『ONE PIECE』への愛着がすごく湧いて。実際に一昨日ぐらいから『トレジャークルーズ』をやってるんですよ。「ウタがほしいなぁ」とか思いながら。まんまと乗せられてる(笑)。38歳のおじさんがまんまとやられてますよ、というそんな話です(笑)。

――今の話を整理すると、雑なコラボが「足し算」だとすると、丁寧なコラボは「掛け算」になっているんだと思うんです。

佐藤氏:
 なるほど、いい表現ですね。

――人気プラス人気の足し算で効果が出るのは、当たり前というか分かりやすいですけど、それが掛け算になった瞬間に、爆発的なエネルギーを持ち得る可能性が生まれる。ただ一方では足し算にすらならずに、むしろ割り算になってしまうケースもあると。

横田氏:
 今の『FILM RED』とAdoさんの話なんて、まさに共創型の分かりやすい事例だと思うんです。『ONE PIECE』側への寄与としては、僕が実際に劇場まで足を運んだっていう事実もそうだし、そこから派生してゲームまで始めてしまった、みたいな現象もそうなんですけど。一方ではAdoさんの側にも、ものすごい影響を与えているわけですよ。

 何が起きたかって言うと、『FILM RED』の主題歌の「新時代」は、Apple Musicのグローバルチャートで1位を獲っているんです。日本で歌唱している歌い手が今、全世界から注目されているっていうシチュエーションが、一撃でできている。

 これって「『ONE PIECE』とコラボしたからだよね」って言ってしまえばそうなんだけれど。でも、ただ『ONE PIECE』とコラボしただけではこうならないですよね。それだったら今までの『ONE PIECE』映画で主題歌を歌っている人はみんなグローバルで1位になるはずだけど、そんなことはなくて。

佐藤氏:
 だから『ONE PIECE』側だけじゃなくて、Adoさんの側にも掛け算が発生している。

横田氏:
 ということですよね。そうなっている理由というのは、僕がさっき話したような調和と、そこから出てきているアウトプットのクオリティであって。そこが伴っていなかったら、こうなるわけがない。特にAdoさん側への影響は、恐らく出にくいと思うんです。

佐藤氏:
 だから一言で言っちゃうと、必然性みたいなものがすごく重要なんだろうな、と思いました。

 『ONE PIECE』という作品の中にAdoさんが登場してきたことは、必然性があったと思うんですよ。今の人気の旬だったり、ウタというキャラクター性を表現する上でのキャスティングという意味だったりで。

横田氏:
 そうですね。

佐藤氏:
 でも一方で、たぶんAdoさん側にとっては必然性だけじゃない何かがあったはずで。『ONE PIECE』とコラボすることによって、Adoさんだけではおそらく叶えられなかった何かがあったと思うんです。それは必然性ではないですよね。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』『電撃オンライン』などで、クリエイターインタビューや業界分析記事を担当。また、アニメに関する著作も。現在は電ファミニコゲーマーで企画記事を執筆中。
Twitter:@ito_seinosuke
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