福本伸行作品のキャラクターが『ポーカーチェイス』の世界にやってきたところが、自分で想像できたからコラボを選んだ
――でも、「コラボイベントをやります」っていう時にはやっぱり、世界観を融合するようなシナリオだったり、イベントだったりには当然するわけじゃないですか。でもたいていは「よくあるよね」で終わってしまうのに対して、そうじゃないものはいったいどこに違いがあるんですかね?
今の『ONE PIECE』の例はちょっと規模が大きすぎると思うんですけど、『ポーカーチェイス』とかでの考え方にも、やっぱり同様のヒントがあるはずで。
なので、ここでいったん「『ポーカーチェイス』における福本伸行作品コラボ」の事例について、お話を伺ってみたいと思うんです。その中で「これならイケる」という取捨選択の内訳とか、思考の過程とかを紐解いていくことで、「もしかしたらここは『ONE PIECE』の例と共通点があるのかも」みたいなものが見えてくるのかなと。
横田氏:
『ポーカーチェイス』のコラボとしては、にじさんじコラボをすでに2回やっていて。今回の福本伸行作品とのコラボっていうのは、いわゆるマンガIPとの初コラボみたいな形なんです。普通はどんなゲームでも、VTuberとのコラボとかインフルエンサーのコラボよりも先に、そういう漫画やアニメのIPとコラボすると思うんですけど(笑)。でも僕は、今まで『ポーカーチェイス』においてやってきたマーケティングの、それこそ文脈を考えると、VTuberとのコラボっていうのがわりと自然だったから、それを選択してきたわけです。
とはいえ、そうしたコラボも無限にできるわけでもないし。じゃあ「他のIPとコラボしよう」となった時に、僕の思考回路としてはそれこそ、「ポーカーのゲームと調和する作品ってなんだろう?」というところから考えるわけですよ。
ただ、「ポーカーと調和する作品」=「ポーカーを題材にしている作品」みたいな縛りで言っちゃうと、世の中にほとんどないわけですよ。だから、そこから選んでくるのは難しい。そうなると世界観だったりキャラクターだったり、そういったものがポーカーという競技と調和するかどうかってところで、一段階下に落として考えたんです。そうやって候補をいくつか出していきました。
――その中から最終的に「このコラボにしよう」と決めていく過程はどんな感じなんでしょうか?
横田氏:
正直言って「どれをやろう」の話だと、結局今回もコラボの台本を僕自身で書いているので、「自分が台本を書きやすいもの」=「自分の好きな作品」になってしまうわけです。そうすると僕は福本伸行先生の作品がめちゃめちゃ好きなので、「福本コラボをやろう」と。
福本作品の中でポーカーを取り扱っているものっていくつかあるんですけど、でも本当に超限定的で。僕が記憶している限りだと、3つしかない。『天 天和通りの快男児』って作品で一瞬だけ、赤木しげるがポーカーについてちょっと語っているシーンがあるのと。もう1つは『銀と金』で主人公の森田鉄雄が、テキサスホールデムじゃなくて普通のドローポーカーなんですけど、ポーカーで戦うシーンがある。あとは『カイジ』でワン・ポーカー編(『賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編』)っていう、すごく特殊なルールのポーカーをやる話があって。それぐらいしかないんです。
だから『ポーカーチェイス』で扱っているテキサスホールデムっていうルールに関しては、福本作品の中ではまったく触れられていないんですよ。
――ただ、それは致命的ではないと。
横田氏:
もしも福本作品のキャラクターたちが『ポーカーチェイス』の世界に来て、テキサスホールデムをやったら……っていう想像はついたわけです。想像はついたから、あとはそれをちゃんと調和するように、台本なり見た目なりに落とし込もう、というのがあって。それで実際に作り始めたんです。
だからそのへんがすごくイメージできたから選択した、っていうのがまずあります。なので……うーん、福本作品とのコラボの話だと、じつは文脈って弱いんですよね。何かフワッと「ギャンブル」みたいなイメージ感みたいなのはあるけれども、文脈としてはじつは弱いんじゃないかなっていう気はするし。
ただ、『ポーカーチェイス』側が持っている世界観とかゲーム性みたいなところと、福本作品のキャラクターたちが持ってる世界観とかキャラクター性との調和は、すごくイメージできたので。だからやったし、やれた、っていうことだと思います。
――ちょっと脱線していいですか。たとえば記事の企画とかを考える時に、「何がイケてる企画で、何がイケてない企画か」っていう話をするんです。
「平さんはどう考えているんですか?」みたいなことをけっこう聞かれることがあるんですけど、僕の考え方をものすごくシンプルな計算式にしてみたら、こうなんです。
世間のニーズ(A)× やりたいこと(B)× 自分の強み(C)=企画力
A ニーズ
B やりたいこと・知っていること
C 組織・会社の強みBだけ=ひとりよがり
Cだけ=サムい
A+C=世間に必要
A+B+C=良い企画
自分がやりたいこと×世間の話題にニーズがあるもの、そしてそれが自分の強みに沿っているかどうか。それがアウトプット力ですよと。
横田氏:
なるほどね。
――たとえば世間のニーズはあるんだけど、自分はあまりやりたくないとか、自分はよく知らないものだったら、10×1×1なので10点です。世間のニーズは5しかないんだけど、自分がめっちゃやりたいし、自分がめっちゃ知っているものだったら、5×10×10で500点だと。
こういう計算式が、いちばんシンプルな考え方の内訳としてあるんです。
例えば、新人が「有名な人にインタビューします」っていう企画を出してきて、「キミはその人を好きなの?」って聞くと、「よく知りません」みたいな返事をすることってよくあるんです。あるいは逆に、自分がやりたいものなんだけど世間のニーズはないものだったり。やっぱりそういうものが多くて。
そこはやっぱりバランスだし、そここそが掛け算なので、世間のニーズと自分の好き、あるいは自分の強みが重なる部分を探す。まぁ、当たり前の話なんですけどね。
やりたいこと、知ってることだけをやると、それは独りよがりなものでしかなくて。上の計算式のCだけをやる、つまり自分たちの都合とか強みだけでやると、それはそれでサムい企画ですよね。
横田氏:
分かりやすい(笑)。
――世間のニーズと自分たちの強みが合致していれば、それはまぁまぁ良い企画ですよね。自分が熱量を注ぎ込めるか、っていうのはあるけど、企画としては悪くない。全部が揃ったら、それはもちろん良い企画だよねと。
それで、これはまた別件なんですけど、「このゲームは売れそうだ、というのをどう判断しているんですか?」と聞かれたことがあって。それを言葉だけだと上手く説明できない感じだったので、これも計算式にしてみたんですよ。
■ゲームのポテンシャル計算式
作品の知名度×(ジャンル市場性×ジャンル噛み合わせ)×メーカーブランド×ゲームとしての絵力×完成度(&ボーナス)×新規性&独創性×時代に合っているか(=話題性、モダンさ)×クリエイター
シンプルに掛け算にして、なんとなくパワー感が分かればいいかなっていうものですけど。
たとえば『Demon’s Souls』の1作目の時だと、知名度はぜんぜんないし、市場性も当時は『Skyrim』みたいなものが主流だったので、そんなにど真ん中なものではない。
「ジャンルの噛み合わせ」というのは、これはIP物とかをイメージしているんですけど。ちょっと感覚的な話ですけど、作品の世界観から誰もが思い浮かべるようなゲームジャンルと、実際のゲームジャンルとがキチンと噛み合っているか、みたいなことですよね。要するに、ゲームとしてパッと見た時に、面白そうかどうか。
あとは市場性と完成度が当然、ゲームの売れ行きにいちばん影響するだろうと。ちょっとこのへんは補正値に近いんですけど、完成度が高かった場合にはボーナスがあるよねって。
それから新規性というか、新しいものとして見えるかどうかというのも、わりとポイントなので。それらを全部掛け合わせたら、こうなったという。
たとえば『ELDEN RING』なんて、ほぼ全部満点に近いですよね。いまやメーカーのブランドもあるし、クリエーターの宮崎さんもブランドになっている。オープンワールド&ソウルライクというゲームジャンルも、今はまさにど真ん中です。
それで、話をそろそろ本題に戻すと、横田さんの中での内訳はどういうものがあるのかな、というのを伺いたいんです。
たとえば作品に知名度があっても、噛み合わせが悪ければ係数は0.1になって計算結果は1/10、みたいなことになるわけですよね?
横田氏:
今、平さんが提示してくれた数式って、たぶん限りなく正解に近い気はするんです。
ただ一個、「これは福本作品だから」みたいな話がちょっと前置きについちゃうんですけど、「ミーム力」みたいなものも計算式の一要素としてあるのかなと。
福本作品って、それをいじった時に面白がってくれる人たちが、少なくともインターネット上にはけっこういることが、分かりやすい作品じゃないですか。「ざわ…」みたいなのもそうだし、「圧倒的感謝」とか、やっぱりミーム力のある作品ですよね。いろんな擦られ方をしたりとか。僕はそこも見ています。
――ポテンシャルの数式で言うと、「ミーム力」は特別ボーナス的なものでしょうかね。
横田氏:
そう、特別ボーナスだと思います。とはいえ「それがあるから、福本作品とのコラボを選びました」とも言い切れないですけどね。でもやっぱり特性としてそこは無視できないし、むしろそれをどう生かすか、みたいなことを考えましたから。
それこそ「Twitter上とかでめっちゃよく見るネタだけど、元ネタがいったい何なのかはよく分からない」みたいなものって、今は無数にありますよね。それってネタそのものはミーム化されているけれど、元ネタが分からない時点で知名度は低いって話じゃないですか。
――なるほど。仮に横田さんの中の内訳を書き出してみると……こんな感じですか?
知名度 × 世界観との調和 × 文脈 × 自分の知識/熱 × ユニーク係数(ミーム力)
横田氏:
ああ、そうですね。まさにそんな感じだと思います!
IPコラボは世界観を調和させるだけでなく、意外性のある組み合わせも上手くハマれば武器になる
――「ミーム力」だと最近で言うと、『シャドウバース』×『ちいかわ』のコラボがその感覚に近いのかなと。
佐藤氏:
あぁ、あの違和感はスゴかったですね。
横田氏:
あれは狙いどころというか、感覚はめっちゃ近いですね。
――『シャドバ』×『ちいかわ』コラボを数式化しようとすると、知名度はどちらも高いけど、調和はないじゃないですか。
横田氏:
むしろぜんぜんない(笑)。文脈もない。
――その一方で企画者の熱はまずありますよね。
横田氏:
絶対にありますよね。そしてミーム力は10点満点の10ですね(笑)。
――そうやって考えると、『ポーカーチェイス』×福本作品コラボのポテンシャルは、どう計算すればいいと思います?
横田氏:
福本作品の知名度って、どう評価したらいいんでしょうね。知ってると言えば、みんな知ってる感じだけど、でも全員が読んでいるわけでもないので。
――世界観との調和っていう意味でいうと、違和感はそんなにないので。何かそこそこ調和してる、みたいな。
佐藤氏:
『ちいかわ』よりは強いですよね(笑)。
横田氏:
文脈は、薄いっちゃ薄いんだけど、ぜんぜんないわけでもないので。だから中間ぐらいの感覚じゃないかな。
――なるほど。さっきの計算式に当てはめてみると、こんな感じ?
ポーカーチェイス福本コラボ
知名度7 × 世界観との調和7 × 文脈4 × 自分の知識/熱10 × ユニーク係数(ミーム力)10 = 19600
佐藤氏:
いやぁ、面白いですね。戦闘力みたいで(笑)。
――でも調和という意味では、『シャドバ』×『ちいかわ』コラボも、なんかヘンな意味で調和しているような気もするんですよ。
とりあえず、もうちょっと類似例があると、計算式の精度が上がっていくので(笑)。たとえば『ポーカーチェイス』×にじさんじコラボはどうでしょう?
横田氏:
にじさんじさんは知名度という意味では、知る人ぞ知る存在なんですかね。でも『ちいかわ』と福本作品の間ぐらいのイメージもあるかなぁ。
世界観との調和って意味では、アウトプットを合わせに行ってますけど、パッと見の印象で言うと福本作品よりは下がると思います。
文脈に関しては、これは前回のインタビューでもお話ししたように、文脈をずっと作ってきたので、あると思うんですよ。『ポーカーチェイス』のリリース当時からにじさんじを使っていたので、コラボももちろんあるよね、みたいな空気でしたから。
ミームに関しては難しいですよね。結果としてミームを生み出したんですよ。「みんな落ち着いて、オールイン!!」っていうセリフがめっちゃ流行ったんです(笑)。でも、それぐらいの感じなんじゃないかと思うんですけど。
――こちらも当てはめていくと……
ポーカーフェイスにじさんじコラボ
知名度8 × 世界観との調和5 × 文脈9 × 自分の知識/熱10 × ユニーク係数(ミーム力)4 = 14400
って感じですかね。
横田氏:
いやこれ、生々しいですね(苦笑)
――他の事例だと、何かありますか?
横田氏:
『モンスト』×『ONE PIECE FILM RED』とか『パズドラ』×『ONE PIECE FILM RED』とか、計算するまでもないですけど全部10だな、っていうのはありますけど。
だから『モンスト』『パズドラ』あたりを基準にしちゃうと、逆に分かりにくいですよね。
佐藤氏:
とにかく強いですからね。
横田氏:
『シャドバ』×『ちいかわ』みたいな感覚のコラボって、他にあんまりないんですよね。
――初音ミク×『IDOLY PRIDE』は?
横田氏:
あぁ、あれはちょっと近いかもしれないですね。
――『IDOLY PRIDE』の公式が、「何とコラボしてほしいですか?」というアンケートをずっと採っていたそうなんです。それでずっと1位だったのが初音ミクだったと。
佐藤氏:
そうなんですね。初音ミクもコラボ実績の非常に多いIPなので。
横田氏:
それは裏を返すと、『IDOLY PRIDE』はかなり若い子がやっているのかなと思うんです。ミクさんが1位になるっていうのは、相当に若いユーザなんじゃないかと。ボリュームゾーンがローティーンまではいかないかもしれませんが、ハイティーンから二十代前半ぐらいがコア層じゃないと、ミクさんが1位にはならないと思うんですね。
佐藤氏:
この流れで言うと、「なんでコラボしてるんだろう?」という話でよく挙がる事例としては、『あんさんぶるスターズ!!』×なかやまきんに君のコラボなんです。これも『シャドバ』×『ちいかわ』コラボと近い考え方だと思っていて。
『あんスタ』×なかやまきんに君は、インゲームのコラボまでは踏み込んでいないので、コラボ感としてはちょっと弱めかもしれないですけど。でも『あんスタ』って、ヘンなコラボばっかりやるんですよ。しかもそれが、意外とユーザに受け入れられている。それがいつも不思議で、ユニークだなと思うんですけど。
――なるほど。『あんスタ』や『シャドバ』×『ちいかわ』コラボを見ていると、そこに何か別の係数が隠れているような気がしますね。「世界観と調和していなくてもOKだよね」というか。
たぶん、調和していないようでじつは調和しているんでしょうね。
横田氏:
一見ミスマッチなんだけど、一周回って逆に調和している。
佐藤氏:
『あんスタ』×なかやまきんに君も一見ミスマッチなんだけど、『あんスタ』は男性アイドル物だから、アイドル性の中に筋トレとか筋肉の要素もあるんです。そのへんがちょっとした調和を生んでいたりするみたいで。
あとはタイトル自体のキャラクター性もあるみたいで。『あんスタ』っていうのはそういう面白いことをやるタイトルなんだ、として受け入れられているみたいなんですよ。意外性のあることをやってくれるのを、ユーザーとしても楽しみにしているところがあるらしくて。
――ということは、文脈がなくても逆に意外性があれば、跳ねる感じですかね。調和か意外か、みたいな感じで。
佐藤氏:
そうですね。だから近い事例としては、いろんなゲームがエイプリルフールをすごくがんばるじゃないですか。あれは1日限定のコラボということもあって、意外性にすごく振っていますよね。
横田氏:
ただ、その意外性がサムいか、サムくないかって話は絶対的にあると思うんです。意外性だけならいろんな選択肢があるけど、「サムいとダメだよね」って話で。
――だとしたら、どういうものが“サムい”んでしょうかね?
横田氏:
それこそ、結果として調和するかしないかとか、結果的に文脈があったかどうかじゃないですか。
さっきのなかやまきんに君の話で言うと、筋肉が要素としてじつはつながっていました、とか。世界観の調和の話であれば、そもそもそういうふざけたことをやるのが好きな運営です、みたいな話だったら、結果的に調和するじゃないですか。そうじゃないところが突然チャラけても、「えっ!?」って空気になって、誰も求めていないんですけど……という話になっちゃうので。これはすごく感覚の話になるので、なんとも言えないところもありますけどね。
――たとえば、『ちいかわ』が2つ目のゲームで、またあの形でコラボしても、もうそこに同じ価値はないわけですよね。あれは一発目だからこそ、っていう話なので。「サムい」というのは、そういうことも含めてですよね?
横田氏:
そうですね。
佐藤氏:
コラボはとにかく一発目がすごく強いんです。それはこれまでの歴史でもはっきりとあったので、特に意外性があるものに関しては、一発目しか難しいですね。2回目以降は意外じゃなくなるから、なんでしょうけど。
――調和はしないものだから、意外性でしか戦えないんでしょうかね。意外性がハマった時の爆発力は大きいんだけど、使いどころはすごく限定的だっていう。
こうやって話していると、要素はだいぶ整理されたような気がします。ここまでの議論から改めて計算式を作ると、こんな感じですかね。
■IPコラボのポテンシャル計算式
作品の知名度 × 世界観との調和(or 意外性) × 文脈(or 意外性) × 自分の知識/熱 × ユニーク係数(ミーム力)
佐藤氏:
そうですね。いやぁ面白いですね、この考え方は。
「世界観の調和」や「文脈」の機微を理解できない人は、知名度の組み合わせだけでコラボしようとする
――ここまでの話を踏まえた上で、もう少し『ポーカーチェイス』×福本作品コラボの話を聞ければと思うんですけど。
横田氏:
まさにこの計算式の話で言うと、どこの変数をいじれるのかな? っていう考え方なんですよね。もちろん、この式は今できたものだから、これで想像したわけではないんですけど、自分の思考を振り返ってみると、この計算式のような考え方をしていたとは思います。
たとえば知名度って、僕らはコントロールできないじゃないですか。コラボさせてもらうコンテンツの側が、福本作品の知名度を上げることなんて、少なくとも僕にはできないし。
世界観との調和とか意外性みたいな話も、それが調和するようにとか、あるいは意外性が見えるようにとか、そういったアウトプットの努力はするけれど、まぁそれは普通にやることですよね。
文脈に関しても同じだし、自分の知識や熱に関しても、ここはある種、固定値というか、熱量があるからやってるんですって話で。
だから唯一いじれるのって、「ユニーク係数(ミーム力)」って書いてある、ここだと思うんですよ。結局、僕がどうやってこのコラボを人に知ってもらうかとか、あるいは面白そうって思ってもらうかっていう話で言うと、この「ミーム的な部分をどうやって表現するか」だと思うんですよね。
それを考えた結果として、まずひとつはそのキャスティングですね。福本作品のキャラクターがこの組み合わせで6人出てくること自体が、そもそも特異だったりするなかで、さらに声優の掛け算で、誰が何の役をやったら面白いか、ってことをまず考えたんです。それでキャスティングしていって。
その上で「この人たちがこういうことをやったら、僕自身が何も知らない人間として見た時に、少なくとも僕は面白がれる」っていう確信があったから、たとえば利根川の演説PVを作りましたと。
あのPVなんて、言ってしまえばギレン・ザビの演説じゃないですか。だけど、それをそうしたのっていうのは、やっぱり僕自身が原作の『カイジ』を見た時に、「この演説ってなんだかギレン・ザビみたいだな」って、たぶん子どもの頃からそう思っていたので。だから今回コラボをやるにあたって、キャスティングする時に「やっぱり銀河万丈さんがいいな」と思ったわけです。それで実際にやってもらった時に、もうドハマリしていて。
ここも結局、ミーム的なものをなんとかコントロールしてそれを生かそう、それを面白がってもらえる人たちに届けよう、みたいな思いでやっているかなって話ですよね。
――『ポーカーチェイス』の福本作品コラボって、インゲームでの見せ方とか展開は、どういう形になっているのですか?
横田氏:
インゲームの話でいうと、今までやっているにじさんじコラボとかと、形は特段変わらないんですよ。普通にキャラクターがガチャで入って、キャラクターにまつわる装飾品とかがあって。細かい話で言うと、『カイジ』に出てくる「沼」っていうパチンコ台を模したテーブルとかも作っていて。そのテーブルがガチャじゃなくてイベントの景品として交換できて、しかもその交換レートがバカみたいに高いとか、そういう小ネタはあるんですけど。
ただまぁ大枠で言うと、今までやってることと特に変わらないですね。そこ自体はもう『ポーカーチェイス』自体のパッケージというか、ある種のテンプレートみたいな話なので、普通にやるしかないところがあるんですけど。
だから唯一いじれる変数としては、キャスティングとセリフですね。体験価値の話で言うと、自分が設定してるキャラクターと対戦相手が設定しているキャラクターが、どういう場面でどういうことを言うのか、っていう。その部分で、声優さんの凄みとかと掛け合わされた時に、すごく良い体験が得られたので。
たとえば、鷲巣が若本規夫さんなんですけど、言うセリフがいちいち面白いんですよ。自分で考えておいてこんなことを言うのもアレですけど(笑)、いざ実際にゲームに実装してやってみたら、めっちゃ面白くて。なので、これは体験価値としてアリだなとは思いました。
――福本作品とのコラボに行き着くまでに、何か別のIPの候補はあったのですか?
横田氏:
実際にやれるかどうかを全部無視すると、たとえば『攻殻機動隊』だったり、最近の作品だと『SPY×FAMILY』だったり。そういったものを世界観として調和させられる自信があったので、候補としては頭には浮かびましたが、一番ナチュラルに感じた福本作品から始めたみたいなところもありますね。
――話の流れとしては、「あれもこれも考えたんだけど、噛み合わせがあんまり良くなかったので、結果的にこれになったんです」みたいな思考の流れみたいなものがあると分かりやすいかもしれません。
横田氏:
それで言うと、そこは迷子になっていないんですね。結局、自分が台本を書くことが最初から決まっているから、「自分が書けるかどうか基準」みたいなフィルターがかかっているんだと思うんですけど。
――「世界観が調和するかどうか」「文脈があるかどうか」っていうのは、分かっている人は当たり前に持っている感覚だと思うんです。でもこのへんの機微が分かっていない人たちは、とにかく知名度だけに目が行きがちなんだと思うんですよ。有名なものと有名なものがコラボすれば、それだけで成功するだろうっていう。
横田氏:
そうですね。
――だから企画屋とかマーケッターとしての解像度の高さっていうのは、そのあたりの内訳が見えているのか、見えていないのかって話なのかなぁって気がするんですけど、どうなんでしょう?
横田氏:
そう言われたら、そんな気がする。
佐藤氏:
そういうことなんだとは思いますね。逆に言うと「雑なコラボか、それとも丁寧なコラボなのか」っていうのも、この計算式を意識した展開をしているかどうかっていうのが、すごく大きいと思います。
――まぁ、即興で考えたこの計算式が本当に正しいのかというのは、あとでゆっくり考えたほうがいいと思うんですけど(笑)。
横田氏:
通信簿みたいな話で言うならば、この計算式ってたぶん正解な気がするんですよ。要素としては絶対にあると思うから。
佐藤氏:
そう思いますね。かつ、ゲーム側でポイントを高めることができる要素があるっていうのもミソだなと思っていて。世界観の調和とか文脈とか、自分の知識っていうのは、合わせにいくことができるものじゃないですか。
だからさっきの『ONE PIECE FILM RED』×Adoさんのコラボにしても、絶対に合わせにいっていると思うんですよ。そのあたりも重要なポイントだなと思います。そういう意味で、やっぱりIP頼みじゃダメなんだよ、っていうことなんだなって。
横田氏:
僕がさっき「IPの知名度は僕らでコントロールできないんで」と言ったのは、まさにその話ですよね。
佐藤氏:
知名度はコントロールできないけど、裏を返すと他の要素はゲーム側でコントロールできる。
――だからものすごく極端な話、さっき『ポーカーチェイス』と『攻殻機動隊』とか『SPY×FAMILY』ならコラボできるって話が出ましたけど、もし仮に「『ONE PIECE』とコラボしますか?」となっても、横田さんは……。
横田氏:
やらないでしょうね。
――そこで、「なぜ『ONE PIECE』とコラボしないのか」っていう説明は、すごく難しいと思うんですよ。
横田氏:
ここで挙がっている話で言うと、やっぱり世界観との調和とか、文脈みたいなところの点数を高めることに対して、限界があるかないかという話だと思うんですよね。
『ONE PIECE』でやった時に、「文脈」って意味合いで言ったら、いろんな形で無理やり作ろうと思えば、作れる気はするんですよ。だけど「世界観との調和」ってところでいうと、やっぱり限界があると思うんですよね。
たとえば『ONE PIECE』にギャンブラーのキャラクターが出てきたとして、そいつがキャラクターとして出てくるのは想像がつくけど、「じゃあそいつがルフィとテキサスホールデムをやる? やらないでしょう、それは」って。ルフィは絶対にルールを理解しないじゃん、みたいな(笑)。
だからそこで企画としての限界が分かっちゃいますよね、「これは無理だな」って。ヘンな話、『ONE PIECE』とかルフィというキャラクターについての知識が自分にあるからこそ、それが分かっちゃうんですよ。「そんなルフィはルフィじゃねぇ」って。
でも逆に、『攻殻機動隊』で草薙素子とかバトーとかトグサとかがテキサスホールデムをやってるというのは、原作とかアニメ作品にはそんなシーンがまったく出てこないけど、でも「あり得る」って想像できるんですよ。もともと持っているキャラクター性とぜんぜん矛盾しないなって思うので。だからそれはぜんぜんできるだろうと思うんです。
『SPY×FAMILY』もそうですね。あそこに出てくるキャラクターたちがテキサスホールデムをしているっていうのは、ビジュアルイメージ的なところも性格とかも含めて、アリだなと。「ぜんぜん台本を書ける」って感じがするんですよ。でもルフィはやんねーだろう、ゾロもやんないだろうな、みたいな(笑)。
でも、今僕が言ったような感覚を僕は普通に持っているけど、やっぱそうじゃないケースがあるから、「なんでこれとこれがコラボするの?」みたいなことが多々起きているのかなと思うんですよね。
佐藤氏:
結局、知名度だけを使おうとしてるってケースなんだと思います。雑なコラボというのは。
それが本当に一発目のコラボだったら、その話題性だけでぜんぜん成立しちゃうんだけど、もう何度も何度もやられていると、もう出がらしみたいになっちゃって、「誰も求めてないよね」ってことになっちゃうと思うんです。