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「ボードゲームを大成功させたら、お金持ちになれる」というルートを作りたい──『ストII』『モンスト』で知られる岡本吉起氏がボドゲを企画・プロデュースする理由とは

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 先日、『ストリートファイターII』『モンスターストライク』で知られるゲームプロデューサーの岡本吉起氏が「CAMPFIRE」にてクラウドファンディングを開始したというニュースが飛び込んできた。

 支援のリターンとして「岡本吉起と一緒に東京・西麻布の高級日本料亭でのディナーと未発表のボードゲームをプレイする権利」「マレーシア・ジョホール州にある岡本吉起の邸宅に最大6泊7日ご招待」など、独特な特典を設けている。

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(画像は現役ゲームプロデューサー考案ボードゲーム第1弾『ドラゴン探偵団』 – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)より)

 リターンの内容にもあるように、今回のクラウドファンディングのプロジェクトは岡本氏が企画・プロデュースを手がけるボードゲームだ。氏はカプコン在籍時に世界3大ボードゲームのひとつと称される『カタン』の日本語版をプロデュースしており、ボードゲームに一家言を持っている。

 とはいえ、真っ先に疑問として浮かんでしまうのは「あれだけヒット作を飛ばしていればお金があるはずなのになんでわざわざクラファンするの?」ということ。

 そこで電ファミは今回、その疑問を岡本氏に直接うかがう機会をいただいた。いまこのタイミングでボードゲーム市場に参入する理由、クラウドファンディングを選択した理由、ひいてはゲームづくりにおいて必要な素質などゲームクリエイターの将来についても語っていただいている。

 そこには、ゲームクリエイターを育てるために「日本ゲーム文化振興財団」を立ち上げた岡本氏による、ゲーム業界への恩返しの気持ちが詰まっていた。

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岡本吉起氏

聞き手/TAITAI
文/柳本マリエ
編集/実存
カメラマン/佐々木秀二


ゲームクリエイターの第一歩を後押しするためにボドゲ市場を大きくしたい

──岡本さんはカプコン在籍時にボードゲーム『カタン』の日本語版プロデュースをされていましたが、いまこのタイミングで岡本さんご自身がボードゲームを作る狙いをおうかがいできますか?

岡本氏:
 結論からいうと、ボードゲーム市場を大きくすることで、将来のゲームクリエイターを育てたいからです。そのために自分でボードゲームを作りました。

──ボードゲーム市場を大きくすると、ゲームクリエイターが育つ……というと?

岡本氏:
 というのも、ボードゲームって“ゲームづくりの第一歩”としてぴったりなんですよ。
 僕は、ゲームを遊んだときに「余白に気がつくこと」がゲームクリエイターにとって必要な素質のひとつだと思っています。「●●のところが××だったらもっとおもしろいのに」と思えるかどうかが大事。

 なぜなら「こうしたらもっとおもしろいのに」と考えられる人なら、元のゲームと異なる、新しいゲームを作ることができるからです。だからこそ、「僕が考えたおもしろいゲーム」を発信できる人がゲームクリエイターになっていく。つまり、余白に気がつくことはゲームクリエイターの第一歩を踏み出したことになる。

 ですから、僕はこの「余白に気がつく力」を、ボードゲームで培ってもらいたいんです。

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──なぜボードゲームで遊ぶと余白に気がつく力が培われるのでしょうか? 数あるゲームのなかで、わざわざボードゲームに絞る理由はあるんですか?

岡本氏:
 たとえばAAAのコンシューマーゲームは細かいところまで設定されているので、余白がほとんど残されてないと思うんです。設定が曖昧だとユーザーも困惑してしまいますし、そもそもそういうタイトルに求められているのは「没入感」や「絶妙なバランス」みたいな、完成されたものだと思います。

 一方で、ボードゲームは余白を残しやすい。言い換えれば、「いちばんおもしろい方法で遊んだらいい」という余白が残りやすいジャンルだと思っています。
 たとえば麻雀や大富豪ってローカルルールがたくさんあるじゃないですか。それみたいに、僕のボードゲームでもローカルルールを作って遊んでもらいたいんです。

──たしかに、麻雀や大富豪はアレンジが加えられたローカルルールが豊富ですよね。一般的なルールだと思っていたものが「じつは仲間内でのローカルルールだった」ということもありますし。
 そうやってローカルルールを作って遊べるというのは、たしかにゲームデザインに「余白」がないとできませんね。

岡本氏:
 まさにその通りです。僕が作るボードゲームで「こうしたらもっとおもしろくなる」というローカルルールを作って遊んでもらいたい。虫食いの文章を埋めるように、「ここ、こうしたらもっと面白くなるのに」と思ってもらいたい。
 それがAAAのタイトルにはないボードゲーム特有の余白であり、その余白を利用する「遊び」に気がついてほしいんです。

──なるほど。たしかに、AAAゲームで勝手にローカルルールを作って遊ぶ、なんてことは思いつきもしないかもしれません。だから、ゲームクリエイターに必要な素質を鍛えるという観点では、ボードゲームが最適だと。

岡本氏:
 日本ゲーム文化振興財団を立ち上げた僕からすると、日本のゲームクリエイターをもっとたくさん育てたいという気持ちが強いんです。ボードゲーム市場を大きくすることで、ゲームクリエイターの第一歩を後押しできるのではないかと考えました。

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ボードゲームはゲームづくりに必要なコミュニケーション能力も鍛えられる

岡本氏:
 ボードゲームを作るもうひとつの理由は、コミュニケーション能力の向上を図ってほしいと思っているからです。社会に出たらとにかくコミュニケーション能力が必要になると思いますが、そこをとことん磨けるのがボードゲームなんです。最初から最後まで黙って遊ぶボードゲームってなかなかないので。

──コミュニケーション能力がゲームづくりにおいて必要だからですか?

岡本氏:
 ゲームづくりって、とにかく意思の疎通をしていかないといけないんです。そのなかでもちろん意見が合わなくなることもあるんですけど、普通にぶつけたら喧嘩になってしまう。喧嘩にならないように伝えることはすごく大事だし、コミュニケーションをせずに意思は伝わらない。

──まさにそのコミュニケーションの方法について、岡本さんにぜひお聞きしたいことがありまして。
 ゲームづくりの本当の最先端って、誰もが手探りの状態じゃないですか。だから、「今までにない新しさがほしい」とか、「〇〇に近いけど、もう少しひねりがほしい」みたいなけっこう曖昧なコミュニケーションをせざるを得ない場面が出てくると思うんです。

 でも一方で、そういう曖昧な言い方をしたときにどれだけイメージが伝わるか、そのイメージの解像度をどれだけ高く持てるか……みたいなところが、クリエイティブというものの核心でもあるように思うんです。
 こんなとき、岡本さんはどのようにコミュニケーションをしているのでしょうか?

岡本氏:
 その点でいうと、僕は「ええ感じにしてみて」と言うときがあります。この言い方も、けっこう曖昧ですけど(笑)。

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 ここにすごい不満があるのでこの不満がなくなるようにしたいけど方法が思いつかない。僕が思いついたのはこれかこれなんだけど、「自分ならどうする?」と聞く。答えはなんでもいいので、1回考えてもらいます。

 それで、出してもらったその答えがもし僕の思いついていた答えだったとしても「すごい」と言います。そこからさらに「それを踏まえて考えたらこれもない?」と、僕の答えを伝えてみたり。
 とにかく相手の思ってることを引き出さないといけないので、全力で出させる努力はします。まず僕のほうから「やりたいのはこれ」というゴールを示して、それに向かっていま自分たちができることを逆算しながら動いてもらっています。

「ボードゲームを大成功させたら、お金持ちになれる」というルートを作りたい

──岡本さんのボードゲームは第2弾や第3弾も考えているとおっしゃっていましたが、それもゲームクリエイターを育てることがコンセプトにあるんですか?

岡本氏:
 第2弾や第3弾もコンセプトは変わりません。もうひとつの狙いがあるとしたら「ボードゲームを大成功させたらお金持ちになれる」というルートを作ることです。そのためには僕が当てたほうがいい。

 ボードゲームのチームは僕以外に3人のメンバーがいるんですけど、利益はその3人で分割してもらうよう約束をしています。彼らで分けたほうが未来が明るくなるし、またボードゲームを作りたいと思うだろうし、「ボードゲームで大成功してお金持ちになった」という話も世に残る。僕はそういう流れを作りたいんです。

──お金の話が出たのでおうかがいしたいのですが、今回のボードゲームのプロジェクトはどうしてクラウドファンディングをしているのでしょうか?「岡本さんはお金があるのになぜ?」と思う人は多いと思います。

岡本氏:
 お金がほしくてクラウドファンディングをしているわけではないんです。むしろクラウドファンディングをすることによって手が取られていますから。たとえばリターンの中には僕の家に1週間泊まるものもあるんです。朝昼晩の食事を奢り、お土産も持たせ、一緒にゲームで遊んでいたら赤字なので(笑)。

 お金のためではなく、クラウドファンディングをすることで「全力で応援します」と言っていただきたい。このプロジェクトに共感してくださる人たちをちゃんと見たい。

 ボードゲームは、遊んでいただくことで発見することがあると思うんです。僕が作るボードゲームは余白をたくさん残しているので、いちばんおもしろい方法で遊んでもらいたい。そして、「その余白をどう埋めていくか」を僕に見せてほしいです。そういうメッセージを伝えたくてクラウドファンディングという方法を選択しました。僕と会うリターンを多くしているのは、プレイヤーさんの真摯な意見が聞きたいからです。

 あとは、支援という「踏み絵」を乗り越えてまでこちら側に来てくださる人たちを名簿で確認できるようにしたいというのもあります(笑)。

──(笑)。 少し違う話かもしれないですけど、「もの」が盛り上がるときは段階があると思っています。最初から大衆向けにプロモーションをしてしまうと、広く浅くしか届かないので誰にも響かない。むしろ「誰からも興味を持たれていない」という印象が残り、取り返しがつかなくなってしまう。

 一方でコアなユーザーがついていれば、たとえ商業的に失敗したとしてもあとから盛り返せると思うんです。熱量の高いファンが話題の土台となり、なにかのきっかけがあると騒ぎが起きるので、それまで気にしていなかった人たちも「なんだなんだ?」と巻き込むことができる。
 岡本さんのおっしゃる「踏み絵」を乗り越えてまで人を集める、という狙いはそういうコミュニティを作ることなのでしょうか?

岡本氏:
 僕がいかにゲームクリエイターとして名を馳せていたとしても、ボードゲームの1作目からなにかを起こせるとは思っていません。でも、10作中10作すべて外すことはない。いまはウォーミングアップをしていますが、このあと場外ホームランを狙っています。

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 クラウドファンディングで応援してくださっている方々と「どうしたらもっとおもしろくなる?」とディスカッションをして意見を取り入れてきたいと思っています。もちろんボロカス言っていただいてもかまいません。いろんな人の意見を聞きたくて、僕の時間を使うリターンを設定しました。いずれ場外ホームランを打つために、協力してくださる方々をピックアップしているという感じです。

 ちなみに2作目は、僕のマーケティング理論で作られているので自信があります。

──ちなみに余白を残しているゲームのほうが商業的にも売れるのでしょうか?

岡本氏:
 ぶっちゃけた話をしますと、商業的には余白がないほうが勝ちにいけると思います(笑)。なぜなら僕がいままで見てきた限り、余白のあるものが大ヒットしたことはないからです。
 いずれ場外ホームランは打ちたいですけど、いまはまだ僕のやりたい趣旨を優先して、余白を残しながらボードゲームを作っています。

──まさにそこもお聞きしたいところですが、岡本さんのおっしゃっている「場外ホームランを打つ」とは具体的にどういうイメージなんですか?

岡本氏:
 過去に『カタン』を日本に持ってきたときの半分くらいのヒットを狙っています。世界で大ヒットした『カタン』と比べたときに、中ヒットくらいのイメージ。ただ、余白をどれだけ残すべきか悩ましいところで……。僕の目的は「ローカルルールを作れるボードゲーム」のため、いまはガチガチにしていません。

 まず1作目で自分のスイングの修正をしたので、2作目はバットの芯を食うように──言い換えれば、自分でも「何度も遊びたい」と思えるまで作り込みました。
 実際、みんなが試作品を朝まで遊んでくれたりするんです。だからいけるんじゃないかと思っています。

「鬼ごっこ」で初めてハンディキャップというローカルルールを知る

──ちょっと話がずれるかもしれないですけど、昔はプログラマー出身のクリエイターが多かったように思います。おそらくその人たちは「プログラムを打つとものが動く」ということが原体験にあって、そこからゲーム作りに入っていく。
 でも最近はゲームクリエイターの最初の一歩目が変わってきていると感じているのですが、岡本さんはどう捉えていますか?

岡本氏:
 わざわざボードゲームでなくても、たとえばUnityで気軽にゲームを作ることができる時代になったと思います。でも、入り口は多いほうがよくないですか?

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 プログラマーが入りやすい入り口、絵描きが入りやすい入り口、プランナーが入りやすい入り口、みたいにいろんなルートがあっていいと思うんです。ボードゲームはプログラムが打てなくても、絵心がなくても、仕様書が書けなくても困ることがない。
 ダンボールを切って、トランプの裏にプリントアウトした紙を貼れば形になりますから。小学校のときに休みの宿題でボードゲームを作る子がいたと思うんですけど、あれでいい。

 ボードゲームは早く作れて早く結果が出るから、成長も早いと思うんです。スピード感でいうと携帯アプリも同じ。コンシューマーゲームは何年もかかるから、いつ自分がディレクターになれるかもわからない。
 でもボードゲームなら最初からディレクターになることができます。少なくとも3人くらいで作れば、必ずなにかのリーダーになる。そうやって、ものづくりのリーダーになる経験ってすごく大事なことだと思います。

──岡本さんはそういう経験をされてきたのでしょうか?

岡本氏:
 僕はお金がなくてテレビゲームであまり遊べなかったこともあり、子どものときからボードゲームが大好きでした。だから、僕のなかで「ルールを変える」「勝手にローカルルールを作って遊ぶ」ということが当たり前だったんです。

 たとえばモノポリーは普通に遊ぶと1時間くらいかかるんですけど、ルール次第では30分くらいに短くできる。そうやって自分なりにルールを変えて遊んでいたことで、余白にいろんなノウハウをぶち込む力が培われたと思います。

 ローカルルールってみんなが楽しく遊ぶために作られていくものだと思っていて、ボードゲームに限らず「鬼ごっこ」で考えるとわかりやすいかもしれません。たとえば小学生の低学年の子と高学年の子ではどうしても逃げる速さに差が出てしまう。
 そこで、「年下の子は捕まっても鬼にならない」というようなルールを設ける。僕は鬼ごっこで初めて、ハンディキャップというものを知りました。それこそがローカルルールであり、みんなが楽しく遊ぶためのものだと思います。

 ゴルフも、もともとハンディキャップなんてなかったのにルールが調整されて安定していきました。ゴルフのハンディキャップ精度は「実力の7掛け」なんですけど、僕はこれがすごくよくできた数字だと思っています。たとえばスコアが100と110の人がいたら、ハンディキャップは「10」ではなく「7」。この差ならば、調子がよければ勝つことができるんです。

──「みんなが楽しく遊ぶ」という点でいうと、ここ数年でローカルな遊び方のおもしろさや魅力が見直されてきているのではないかと思っています。
 たとえば昔のオンラインゲームってあまりローカルという概念がなく「世界のみんなと同じ条件で一緒に遊ぶ」みたいなものが多かった。ところが、DiscordやLINEの普及によって『Among Us』などのオンラインゲームを「仲間内で遊ぶ」ローカルマルチ的な遊び方が流行っている。
 「YouTuber界隈ならこのローカルルールで遊ぶ」みたいなアレンジを発信する人が増えたように感じますが、岡本さんはどう捉えていますか?

岡本氏:
 ローカルな遊び方自体のおもしろさは昔からあったと思います。でも、昔はそれを広く伝える術がなかった。
 そもそも局所的にだけ流行っていて、広がっていないからローカルなわけですし。さっきの麻雀の話じゃないですけど、自分が一般的だと思っていた遊び方がローカルルールだった、ということはありますからね(笑)。

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 やっぱりルールというものは、いじればいじるだけメリハリが出るからおもしろい。じわっと勝つより、勝敗が行ったり来たりして「どっちが勝つんだ」と思わせるほうが盛り上がりますから。
 オフラインで顔を合わせる形だけじゃなくて、いまはオンライン上ですべて完結できるようになったから、そういう遊び方もよりやりやすくなったというのはあるでしょうね。

センスや感覚は大人になってからではたぶん磨けない

──今回、岡本さんはプロデューサーというポジションですけども、その役割についてどうお考えですか?
 たとえば漫画は作家と編集者がいて、編集者がいることで作家の能力を伸ばすことができる。ゲームもそういう関係性があったほうがいいと思うんです。
 ゲームにおいての編集者的な役割はプロデューサーになるかと思うんですけど、作家と編集者のような純粋な関係ではなく、いろんな理由から上下関係が発生してしまうことがある。そのあたりのうまいやり方ってあるのでしょうか?

岡本氏:
 僕は、ゲーム作りにおいては「ポジションではなく職種」とよく言っています。プロデューサーという職種。チーフプランナーという職種。アシスタントディレクターという職種。だれかが偉いとかではなく「職種」だと。責任が重いから給料は高いけど、偉いとか偉くないとかではない。

──なるほど。とはいえ、そのいろいろな職種の人々から、さまざまな意見が出るじゃないですか。それをピックアップしていくのはディレクターの仕事、という認識で合っていますか?

岡本氏:
 意見のピックアップは、ディレクターの仕事ですね。じつは、今日もとあるディレクターと話をしていたんですけど、担当していたタイトルがコケてしまったんです。で、なんでコケてしまったかというと、そのディレクターはみんなの意見を採用せずに、自分の意見を通してしまっていたんですね。

 たしかに、決定権はディレクターにあります。でも、ただ決定するんじゃなくて、いい意見を選択して決定することがディレクターの役目だと思うんです。だから、今回の場合そのディレクターはいい意見を選択する力が足りなかった、ということだと思います。

──ディレクターやプロデューサーって正しい判断をするときになにを拠りどころとするべきなんでしょうか? 先天的なセンスや感覚の問題なのか、あるいはそういったセンスや感覚みたいなものって、あとから磨けるものだと思いますか?

岡本氏:
 僕の結論では、たぶん磨けないですね。持って生まれたものまではいかないですけど、少なくとも若いときに磨いておかないと、あとからは磨けない。これは僕個人の考えなんですけど、子どものときの脳への刺激の問題ではないかと思っています。

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 たとえばスペインのヒマワリ畑を見たとき、60歳の僕と10歳の僕では同じ風景を見ても感動の量は異なると思うんです。厳密に数値化することはできないけど、おそらくその感動は同じではないはず。そういうものが世の中にはたくさんあって、小説も映画も人との出会いもすべて、感受性の強い時期に刺激を受けておいたほうがいいと思っています。

 もちろんいまからでもセンスを磨くことは可能かもしれませんが、若いときのほうが圧倒的に楽ですよね。「センス悪いね」と言われた人が「センスよくなったね」と言われているのを見たり聞いたりしたことはあまりないですし……。

ファンがついた状態でホームランを打たないと人はいなくなってしまう

──今回のボードゲームはYouTubeで企画の立ち上げの動画を拝見したんですけど、コンセプトの立て方がおもしろいと思いました。少年団たちのドン・キホーテみたいな「子どものころの感覚をボードゲームにしたい」とおっしゃっていて、納得しました。
 岡本さんの企画の立て方についてもおうかがいしたいです。

岡本氏:
 僕は逆算式で、「こういう世界を作りたい」というところから必ず手前に持ってくるスタイルです。多くの人はスクラップ & ビルドの積み上げ型かもしれませんが、そうすると時間がかかってしまう。

 僕はとにかくミニマムにしたいんです。たとえばコンシューマーゲームはどうしてもプロジェクトが大きくなりがちなので、自分の考えているゲーム性をみんなに見ていただくには時間もお金もかかってしまう。さらに大ヒットさせるには、人も巻き込む必要があります。それがボードゲームならミニマムにできる。

 あとは向き不向きの問題もあって、僕は大規模なプロジェクトに向いてないと思うんです。小規模でさくっと作るゲームが自分に合っていると思っていて、「僕らみたいなデジタルゲームしか作ったことがない人でもボードゲームを作ることができる」というところをみんなに見てもらいたい。

 1作目は小学生でもじゅうぶんに楽しめるボードゲーム、2作目はネガティブな気持ちにならないボードゲームを作りました。負けるとどうしてもネガティブになりがちだと思うんですけど、ネガティブな気持ちにはいっさいさせない。みんなが「よかったね」という気持ちで終わるゲームです。

 1作目はとにかくわかりやすくしましたが、2作目は狙っています。僕の中では「カーン」と、いい感触で飛びました。でもそれがファウルになるかどうかはわかりません(笑)。

──企画を立てているのは岡本さんなんですか?

岡本氏:
 チームのボドゲマン【※】が企画を持ってくることもあります。ただ、いまのところすべてボツになってますけど(笑)。でも、企画は持ってくることが大事なので。3作目のネタも2回くらい出してきたけどボツになりました。

※ボドゲマン
2020年よりTwitterやブログでボードゲームの魅力を発信しているゲームデザイナー。YouTubeチャンネル「ボドゲマンの愛と笑いのボードゲームレシピ」での活動を機に岡本氏とボードゲームを作っている。

──岡本さんが企画をボツにするときの基準はあるのでしょうか?

岡本氏:
 1回目に遊んだときに「伸びしろがあるかどうか」です。デジタルでゲームを作っているときも同じなんですけど、「これはうまいことマップと敵を作ればおもしろくなりそう」というゲームと「これでゲームバランスを取るのは厳しい」というゲームが当然ながらある。
 ボツにするのは後者です。僕が「おもしろくなりそう」と思えないものをほかの人に調整させてよくなるとは思えない。そこでおもしろさを求めても、せいぜい内野を越えるだけ。

 3作目で綺麗なホームランを打つところって見たくないですか? 僕は、3作目でコケたあと「4作目に期待してください」とは言いづらいと思っています。2作目でファンがつかないと厳しい。
 2作目の時点で「世界一おもしろい」と言ってくれる人が何人かいて、そのうえでホームランを打たないと人はいなくなってしまう。僕がここでコケたら「やっぱりボードゲームじゃ無理なんだ」と、ほかの人も続いてこない。だから僕がホームランを打って、ボードゲームはだれでも当たって儲かると思ってもらいたいんです。

──岡本さんはアーケードもコンシューマーもスマホも大ヒットを生み出していて、ボードゲームでも当てたらゲーム界のグランドスラムを達成されますね。

岡本氏:
 じつは過去にパチンコも狙っていましたが、あきらめました。いまパチンコ業界でホームランを打っても昔の距離には追いつかないと思っていて。
 とはいえパチンコはけっこう研究したんです。研究のために昼休みに打ちに行くんですけど、あまり時間がないから出始めてもそのまま置いて帰ってきたりしていました(笑)。お店の人からしたら不思議すぎますよね。

一同:
 (笑)。

岡本氏:
 アーケードもコンシューマーもスマホもホームランを打っていると思っているので、やるならそれくらい打たないと意味がない。アプリは『モンスト』しかないのでもう1本くらい打ちたいですけど。ボードゲームは僕がホームランを打っていない市場のひとつなので、打ちたいです。

 僕はいずれゲーム業界を引退してしまうので、その後を継いでいく人たちに少しでも種を置いていきたい。ゲーム業界にできるだけ恩返しをしたいと思っています。そのためにYouTubeもやっているし、財団法人も立ち上げたし、ボードゲームも作りました。すべて同じことに向かってベクトルを引っ張っています。ボードゲームは第2弾、第3弾も予定しているので応援していただけたらうれしいです。(了)

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 取材を通して印象的だったのは、「ボードゲームをローカルルールで遊んでほしい」という岡本氏の強い思いだった。設定がガチガチに固められがちなコンシューマーゲームと違い、ボードゲームは余白を残しやすい。その余白の有無に気づいて独自のルールで遊ぶ行為こそがゲームクリエイターの第一歩であり、必要な素質だという。

 また、ボードゲームは基本的に会話をすることで成り立つゲームであるためコミュニケーション能力の向上にも繋がる。たしかに最初から最後まで黙って行うボードゲームはなかなかない。

 プログラムが打てなくても、絵心がなくても、仕様書が書けなくても困ることがないボードゲームは、ゲームクリエイターへの新たな入り口となるのだろうか。

 岡本氏が企画・プロデュースを手がけるボードゲーム『ドラゴン探偵団 三丁目の奇跡』のクラウドファンディングは、掲載時点(2023年3月15日)で476万円以上の支援金が集められており、これは目標金額の476%に相当する。本プロジェクトは3月19日(日)まで開催される予定だ。ユニークなリターンもまだ枠があるため、興味のある人はご覧いただきたい。

編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
編集部
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちでレベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著「デブからの脱却」(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
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