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心に残る作品と残らない作品の違いとは? インディーゲームは「世の中で起きている問題」や「国民性」が反映されるからおもしろい──IGC学生選手権で審査員を務めたSIE吉田修平氏とNHK平元慎一郎氏に聞く、若いインディーゲームクリエイターを “次世代のスター” にするために必要なこと

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「自分たちが作りたいものを作る」だけでなくビジネス的な視点まで考えられている

──安慶名さんにおうかがいしたいのですが、応募数や作品の内容を含めて、審査を終えられた率直な感想をお聞かせいただけますでしょうか。

安慶名氏:
 応募数につきましては短期間にも関わらずたくさんのご応募をいただきました。全国の学校や専門学校からもご応募いただきましたし、個人の制作者の方もたくさんいらっしゃいます。3Dなどの技術的なレベルが上がっていることはもちろん、「ゲーム業界に入ってゲームを作りたい」ひいては「どうしたらプレイヤーに楽しんでもらえるのか」というビジネス的な視点まで考えられている作品が多かったと感じました。

「IGC学生選手権」審査員の吉田修平氏と平元慎一郎氏に聞く若いインディーゲームクリエイターを次世代のスターにするために必要なこと_016

──なるほど。自分がやりたいものを作るというよりも「自分たちが作ったゲームを受け入れてもらうにはどうすればいいか」みたいなことですか?

安慶名氏:
 はい。「自分たちが作りたいものを作る」という強い意思のもとゲームが作られているのかと思いきや、客観的な視点も生まれつつあると感じました。そこが私たちにとって新鮮でした。

──二次審査ではプレゼン会がありましたが、印象に残っているエピソードはありますか?

吉田氏:
 私は、審査にプレゼンが含まれていたことはすごくよかったと思っています。ゲームに限らず、社会人になると「自分が伝えたいことをほかの人に伝える」ってすごく大事じゃないですか。その練習の場にもなることが企画として素晴らしいと思いました。

 実際にプレゼンを見ると、基本的なプレゼンスキルが足りていないところも見受けられました。でもそれは講評することでこれからの活動に活かせると思います。 

──学生さんたちはめちゃくちゃ緊張したと思います。「ソニーのあの吉田さんがいる」って(笑)。

吉田氏:
 プレゼン会については私はリモートでの参加だったため緊張感を肌で感じることができなかったのですが、現場の雰囲気はどうだったんですかね?

平元氏:
 現場の学生さんはめちゃくちゃ緊張されていました。「人」を書いて飲んでる子がいたりとか(笑)。

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吉田氏:
 それはフレッシュでいいですね(笑)。そういえば最初のチームだったかな? パワーポイントをプレゼンテーションモードにせずに、そのまま進めていたチームがあったんです。そのとき「言ったほうがいいかな?」「だれかが指摘するかな?」と思ったいたんですけど、そのまま進んでしまいました。

安慶名氏:
 もしかしたら「なぜわざわざプレゼン会をするの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ゲームの出展会の楽しみのひとつは作り手の方と直接話ができることだと思うんです。

 今回のプレゼン会は作ったゲームを見ていただく前だったんですけど、作り手の学生さんと触れ合っていただくことで、彼らがどういうものを作っているかを審査員の方々に聞いていただける場となったのはよかったと思っています。

吉田氏:
 今度は表彰式でお会いする機会があるので、それも楽しみですね。

──吉田さんはリモートでプレゼン会に参加されていたとのことですが、平元さんは直接のご参加だったんですか?

平元氏:
 はい、現場で直接プレゼンを聞かせていただきました。僕はいま33歳なんですけど、自分が学生だったころを思い出しましたね。それこそ大学のゼミや就職活動でもプレゼンをしましたし、よく考えたらいまも番組の企画を通すときに上司にプレゼンをしています。プレゼンは人によってパワーポイントでまとめる人もいれば口張りでする人もいて、いろいろな方法があると思います。学生さんにプレゼンの経験が少ないことは当然なので、ほほえましくもありました。

 「ゲームゲノム」を作っていて強烈に思うんですけど、僕は作品の向こうに透けるクリエイターの思想やメッセージをあぶり出したいんです。作品に込めた思いって、工夫しないとなかなか伝わらなかったりするので、そういう伝え方の部分は場数が足りない学生さんだと「もったいない」と思う瞬間もあったりして。

 プレゼンがコンテストに組み込まれるならばそこもがんばりどころなので、僕ら大人が直接質問をすることで学生の方々の伝えたいことをあぶり出せたらいいなと。それが審査員の役割でもあると思っています。

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──学生選手権ではどのような賞が用意されているのでしょうか?

安慶名氏:
 「最優秀賞」がひとつ、「優秀賞」が3つ、そして吉田さんと平元さんおふたりに選んでいただく「審査員特別賞」がひとつなので、全部で5つの賞があります。

──最優秀賞はすんなりと決まった感じですか?

安慶名氏:
 すんなりでしたね。

吉田氏:
 ほぼ全員が同じでした。

──その1本が突出していたということですか?

安慶名氏:
 プレゼン会での印象であったり、学生さんに込めた期待値であったり、そういうところの得点がまず非常に高かったです。加えてゲームがよくできていたので、その両軸から得点がどんどん上がっていきました。

吉田氏:
 私は仕事柄ほぼ毎週のように新しいインディーゲームに触れているのですが、たとえば今回の最優秀賞のゲームがそこに入っていたら社内で話題になるようなレベルでした。

──すごいですね。吉田さんがそうおっしゃるなら相当だと思うので。

吉田氏:
 審査員みんな楽しそうにしてましたよね。

安慶名氏:
 プレゼン会のときも画面の向こうから、ずっと吉田さんの笑顔が見えていました(笑)。

──(笑)。審査員特別賞はどのような基準で選ばれたのでしょうか?

安慶名氏:
 審査員特別賞は、吉田さんと平元さんおふたりでひとつのタイトルを決めていただきました。

吉田氏:
 それぞれ「これがよかった」という意見を出し合って、その中から絞り込んでいった形です。

──平元さんにおうかがいしたいのですが、審査にあたり吉田さんとディスカッションされてみていかがでしたか?

平元氏:
 基準がすごく難しかったです。商品として見たほうがいいのか、クリエイターの将来性を見たほうがいいのか、遊びの観点から見たほうがいいのか、迷いました。僕以外の審査員の方々はゲーム業界の第一線でご活躍されている方なので「商品としての目線」みたいなところはすごく勉強になりましたね。

 吉田さんと賞を決めるときは、言葉にできないギラギラしたものだったり、発見や驚きを大事にしましょうとお話しました。

欧米ではインディーゲームがクリエイティブであることが完全に認知されている

──3月に吉田さんが英国アカデミー賞ゲーム部門のフェローシップ賞を受賞されたときの様子を見たときに、インディーゲームの海外の盛り上がりを感じました。実際の反響はいかがでしたか?

吉田氏:
 私のTwitterのフォロワーさんの9割くらいが海外の方だからではないかな、と思います。海外で長く仕事をしていたためメディアや番組にも出させていただいていたので、親近感を持ってくださっているのかもしれません。
 国内でもめずらしく家族から反応がありました(笑)。普段は賞をいただいてもスルーされるんですけど、今回は娘からお祝いのメッセージが来たりして。

──(笑)。Twitterのトレンドにも入っていましたから。

吉田氏:
 そうなんですね(笑)。ありがとうございます。

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──個人的な存在感と企業活動でインディーゲームの創造性と革新性を育て、発展に尽くしてきたと評されており、海外のインディーゲームに対しての熱量の高さを改めて感じました。

吉田氏:
 インディーゲームはいまどんどんクオリティーが上がってきていて、世界のどこにいてもUnityやUnreal Engineをダウンロードすればゲームを作ることができます。最近はAIツールを使ってよりクオリティーの高いコンテンツを作れるようになったので大手に対して「戦う武器」が増えています。

 たとえば大手でゲームを作るとなるとハリウッド映画並みの規模になってくるため、そうなると母数の多いジャンルやテーマを選ばざるを得なくなる。それが個人や少人数ならば、だれかの承認がなくとも自分たちが作りたいものを作れるから新しいアイデアやテーマを見つけやすい。そういう環境が整ったことで、今後もこの流れは続くと思います。

 日本だと大きなゲーム大賞でインディーゲームが大賞になることはなかなかないと思いますが、欧米ではインディーゲームが大賞になることも多いです。もちろん今年は『エルデンリング』が席捲していましたけど、英国アカデミー賞では『Vampire Survivors』が評価されていました。昨年も『Inscription』が「Game Developers Conference」のベストゲームを受賞していたりして、欧米ではインディーゲームが個性的でクリエイティブであることが完全に認知されています。

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『Vampire Survivors』(画像はSteam:Vampire Survivorsより)

認知されているゲームクリエイターが世代を問わず何十年もの間あまり変わっていない

吉田氏:
 平元さんは仮に「ゲームゲノム2」だったり、あるいは違う番組でもいいですが、ゲームをテーマにした番組を今後考えるとしたら、どういうことに興味がありますか?

 これまですごいクリエイターや作品を取り上げていたので、どんどん先細ってしまうのではないかと。

平元氏:
 じつは局内からもそうした指摘を様々受けていて……。

吉田氏:
 おやじが言いそうなことを言ってしまいました(笑)。

平元氏:
 違います、違います(笑)。吉田さんですらそう思われるので、ゲームに詳しくないであろう上層部からの指摘も理解しています。でも僕はネタがなくなることはないと思っているんです。理由はふたつあって……。

 ひとつは、これからもゲームはずっと作り続けられて、おもしろいゲームが出てくる確信があるからです。まだ紹介できていない作品もありますし、過去作だけでもまだまだある。

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 もうひとつは先ほども話に出た作品に込められたメッセージ、それらの受け取り方や伝え方にも無限の可能性があるからです。

 クリエイターはプレイ体験としてどんなメッセージを込めたのか、そしてプレイヤーはそのメッセージをどう受け取ったのか。そこは重なってもいいし、乖離があってもいいと思っています。僕たちプレイヤーがどんなふうに心を動かされたのかを番組にしていきたい。

 そういう視点で見ていくとメッセージは作品のなかに無限にあると思っています。「ゲームゲノム」はそれをひとつずつ丁寧に紐解いて、それを歴史的に積み上げていくことが僕の目標です。

吉田氏:
 すごくいいですね!

──「ゲームゲノム」は上田文人さんの『ワンダと巨像』や『人喰いの大鷲トリコ』も取り上げられたり、さきほどの『TOKYO JUNGLE』だったり、ゲーマーから見たときに「わかっている感」がありますよね。

吉田氏:
 そうですね。欲を言えば、日本はもっと若い世代のスターが出てきてほしい。

平元氏:
 わかります……。

吉田氏:
 たとえば最近PS VR2でも出た『Before Your Eyes』というゲームがあるんですけど、このゲームは2時間くらいのボリュームで「まばたきをすることでストーリーが進む」という変わったゲームなんです。これがめちゃくちゃよくて、思わず最後に涙が出るようなゲームでした。

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(画像はSteam:Before Your Eyesより)

 『Before Your Eyes』はもともと学生のプロジェクトで、3人の友人たちが作っているんです。2022年の英国アカデミー賞のゲームアワードを受賞していて、まさに次世代のスターだなと。日本でも若いスターがどんどん出てきてほしいです。

 「ゲームゲノム」で紹介していただいた『TOKYO JUNGLE』も、もともと学生からスタートした企画ですから。

平元氏:
 そうですよね。『TOKYO JUNGLE』でディレクターを務めた片岡(陽平)さんはいまも新作のチームリーダー的なポジションにいらっしゃいますが、番組では「いろいろ守らなきゃいけないことが出てきて大人になった」とおっしゃってましたが、取材実感としては「まだまだキバを研いでるな」と(笑)。

──(笑)。それでは最後に実行委員を務める安慶名さんからメッセージをいただけますでしょうか。

安慶名氏:
 「学生時代にしかできないこと」や「学生ならではの感性」ってあると思うんです。学生さんならではの体験や視点から。世の中に対して自分たちのゲームを表現していただきたい。今回の「学生選手権」はそういう願いを込めて開催しました。

 4月30日は「学生選手権」の授賞式とインディーゲームの展示・即売会を行う「IGC 2023」が開催されます。少しでもご興味があればぜひ会場に足を運んでいただけますと幸いです。

──本日はどうもありがとうございました。(了)

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 いちプレイヤーとしてゲームを遊ぶとき、それが大手のタイトルであろうがインディーのタイトルであろうがあまり関係ない。なぜなら多くの人は「おもしろいゲーム」を探しているからである。「State of Play」でもインディーゲームが注目の新作として当たり前に紹介される時代になった。

 おもしろいゲーム、すなわち心に残るゲームはメッセージ性があると平元氏は語る。インディーゲームが個性豊かな理由は、作り手のメッセージを込めやすいからだ。制作が小規模であるほどしがらみがないため、新しいアイデアやテーマを見つけやすい。

 インドの若いチームがムンバイを舞台にした『グランド・セフト・オート』のようなゲームを作っているように、インディーゲームは世界の人が知らない文化をゲームというメディアを通じて発信することができる。それこそが吉田氏や安慶名氏が目指しているところであり、インディーゲームのおもしろさだろう。

 「学生選手権」の最優秀賞は満場一致で決まったという。いったいどんな作品なのか、そこにどんなメッセージが込められているのか。授賞式は4月30日となっている。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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