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聞けば聞くほど納得しかない……。世界最大のIT企業・テンセント、ゲーム業界制覇への道筋──日本でのヒットこそが、世界的ヒットへの試金石になる!?

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20社以上のゲーム開発スタジオ、グループ全体で10万人以上の社員

──正直、ここまでのお話を聞いていてとても驚いています。というのも、現代はゲームの開発費って年々高騰していて、だから業界トップのゲーム企業も「全世界でヒットするような超大作を一本作る」といった、かなりリスクの高い開発を行っているわけです。

 それに対して、テンセントはあくまで地域ごとにどのようなゲームが支持されるかを調査し、それに基づいて地域ごとに求められるゲームを開発すると。
言われてみれば、たしかに理想的な作り方ですけど、それにかかるコストを考えると、とても選択肢には上がってこないというか……。そんなことをしようとするのはテンセントぐらいでしょうし、だけど世界最大手のゲーム企業なら実際にできそうに思える。

レオ氏:
 そうですね。皆さんがご存知かわからないですけど、テンセントが全世界に持っている開発スタジオは20社以上あるんです。

──20社。

レオ氏:
 具体的な数までは把握していないのですが、社内スタジオにはTimi、LIGHTSPEED、Morefun、Aurora、そしてNExTと5つのスタジオがあって、中には数千人のスタッフが所属するスタジオもあります。またテンセントグループ自体には10万人以上(2022年9月時点、ゲーム以外の事業含む)の社員がいて、それぞれ企業への投資、マーケティング調査なども行います。

 どの地域でどんなゲームが遊ばれているかを分析し、各国のスタジオ、運営チームと連携の上、この地域でこのタイトルを開発しようとそれぞれ割り振っていく。
 おそらくテンセントで扱っていないゲームジャンルは存在しないのではないでしょうか。

世界最大のIT企業・テンセント、ゲーム業界制覇への道筋──日本でのヒットこそが、世界的ヒットへの試金石になる!?_007

──(唖然)。

レオ氏:
 「グローバル」というと、ありふれた言葉ですが、我々にとってグローバルが意味するところは世界各国は無論、各国内の各地域も含んでいます。具体的には世界20ヶ国以上に拠点がありますが、アメリカでは、ニューヨークやロサンゼルスなど5拠点に、それぞれ開発、運営、マーケティングの部署があります。

 また投資先も複数あり、Riot Games、Ubisoft、Supercell【※】などが有名ですが、そのほかにも小規模ながら開発を分業してもらうスタジオが多くあります。既に開発が進んでいるタイトルも複数あるので、今後段階的に発表することになると思います。

※ Supercell
『クラッシュ・オブ・クラン』『ヘイ・デイ』などで知られるフィンランドのゲーム開発スタジオ

──テンセントの強みは、世界各拠点を介したマーケティング力と開発力なんですね。では具体的に前者、マーケティングの分析はどのようにされているのでしょうか。

レオ氏:
 テンセントのマーケティングの特長は、「数据中台(データミドルプラットフォーム)」を重要視しているところでしょうか。
 これは、プラットフォームを介して収集したビッグデータをフロントオフィス【※1】とバックオフィス【※2】の間、つまりミドルオフィスに集約し、これを分析、可視化することで業務に活用するという概念なんです。

※1 フロントオフィス
企業において営業や窓口、マーケティング、サポートなど、顧客に直接対応する部門のこと。

※2 バックオフィス
企業において経理や会計、人事、経営企画など間接的な業務を行う部門のこと。

──ビッグデータの活用はアメリカでも「GAFA」【※】のようなテックジャイアントも進めていますが、ミドルプラットフォームという概念は中国特有ですね。

※ GAFA:米国の主要なIT企業であるGoogle、Amazon、Facebook(Meta)、Appleの総称

レオ氏:
テンセントはこのミドルプラットフォームを使った戦略をいち早く進めてきました。たとえば、テンセントにはMAUが合わせて13億人(9/30 2022時点)の「WeChat(微信)」と「Weixin」いうアプリがあり、必然的に膨大なデータが集まります。
 そこでこのデータを分析する専門の部署(ミドルオフィス)を用意して、どの地域の人間が、どのようなものを好み、どのような習慣を持つかまで分析する独自のノウハウを蓄えたんです。もちろん当たり前のことですが大前提として、データ収集は各地の法令に基づいて行っています。

 テンセントの『Honor of Kings(王者栄耀)』は月々1億人以上のユーザーが遊んでいますが、ここで得たデータもやはりミドルオフィスを介してゲームの改善に役立てています。その他、ユーザーに直接アンケートを行ってデータを集めるチームや、世界各国のローカルな傾向を調査するチームもいて、これらミドルオフィスが集めたデータからレポートを作り、それを本社で共有することで次の事業に役立てます。

──つまりビッグデータを調査・分析する部署が「ミドル」として大きな権限を持ち、独立していると。確かにそこまでする大企業は国際的にも少ないでしょう。ちなみにデータの収集と分析は別の部署がされているんですか?

レオ氏:
 データを集めても、それをどう活かすかが重要なポイントとなってきます。もちろんミドルオフィスの中でもチームは分かれています。基本的に、分析チーム、戦略チーム、その他様々なチームが存在していて、随時連携しています。

──なるほど。テンセントは、昔からマーケティングにしっかりお金とリソースを投じているんですね。

レオ氏:
 私もテンセント歴は長くないのですが、テンセントの最初の成功は「QQ」【※】とか「WeChat」と「Weixin」のようなソーシャルコミュニティーツールで、テンセントのゲームはこれらのツール上で展開されてきた歴史がありますからね。

 これは何もテンセントだけではなくて、LINEさんも「LINE」と連携した「LINE GAME」として『LINE:ディズニー ツムツム』のようなゲームをリリースされていますよね。なので中国最大のソーシャルコミュニティを持つテンセントがプッシュすれば、必然的に広いユーザ層へのリーチを実現することができます。そんな歴史から現在に至ります。

※ QQ:テンセントQQ。テンセントの提供するメッセンジャーアプリで、ブログやSNS機能なども有する

──お話を聞くと、やはりテンセントはパブリッシャーというよりプラットフォーマーなんですよね。今でも任天堂やSIEもプラットフォームを築いてますけど、テンセントの場合、流通やハードではなくソーシャルネットワークで中国国内にプラットフォームを築いてきた。だけどそこから、どうグローバルに展開していくのかが不思議でした。その答えが圧倒的なマーケティング能力と、それに基づく投資と開発だったと。

レオ氏:
マーケティングもそうですが、結局のところテンセント最大の強みは人材でしょうね。
 もちろん中国国内では既に築き上げたプラットフォームがありますが、その間にも海外に拠点を作り、そこに最優の人材を配置・採用して、マーケティングから開発まで同時に世界で幅広く展開することができた企業は、私が知る限りテンセントだけです。

 他の企業であれば、どうしても一箇所に機能や権限が集中してしまい、グローバル全体での展開があまり進まないという例もありますから。たとえば海外の大手ゲーム企業が日本でゲームを展開しても、日本には一人も社員がいなくて、代わりに海外に日本語が話せるスタッフがいるだけ、とか。

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──お話を聞いていると、改めてレオさんが日本でテンセントに登用されているのも納得できます。

レオ氏:
 私の場合、多分コミュニケーション能力を買ってもらえたんだと思っています。ただ言葉が話せるだけではなく、人生の半分は中国、もう半分は日本、さらに様々な国に出張した経験から、日本あるいは中国でだけ働いた人よりも「日本の企業はこう考えますよ」「中国の企業ならこう考えますよ」と各国の感性の違いを理解できます。

 『NIKKE』がまさにそうでしたが、現代のゲーム開発は複数の国が参加することも珍しくなく、そうなると必ず何か方向性の違いでトラブルになってしまう。そこで、双方の言い分を理解できる自分がその間に立ち入って、議論を建設的な方向に導ける……という点が、自分の強みなのかなと。

──今まさに、このインタビューがその日中の理解のギャップを紐解くような内容ですからね。ところで実際にレオさんが経験した中で、特に過熱したトラブルなどございますか?またそれをどう対処しましたか?

レオ氏:
 いくらでもありますよ(笑)。ただ経験上、特に気をつけたいのは版元と開発の関係性ですね。

 特に日本であれば原作の世界観を尊重することが当たり前なので、キャラクターの台詞からマネタイズやビジネスの設計まで、版元は厳しくチェックします。そのため、開発側の最初の要望は3割も通らない。
 一方、開発が海外だと「こだわりすぎではないか」と思う人も出てくるし、単純にスケジュールの都合もあるので、自分が開発側に「原作の魅力を伝えれば作品の魅力に繋がるし、ビジネスでも成功するからWin-Winだよ」と伝えて、代わりにどうしても開発上難しいところは版元と交渉する、ということがよくありました。

ゲーム文化を作るのは、その地域が持つゲームの歴史

──おそらくレオさん本人への信頼というのもあるでしょうね。もう一つ気になった点として、「国ごとに流行るジャンルが異なる」という話がありましたが、なぜ地域ごとに流行るゲームジャンルは異なるのでしょうか。

レオ氏:
 私の考えですが、おそらく地域ごとの歴史が、流行ジャンルの差異を作っているのではないかと思っています。
 たとえば中国では、過去20年にわたって中心的だったのは、コンソールではなくPCゲームでした。具体的には『Warcraft』のようなRTS、あるいは『World of Warcraft』のようなMMORPGが遊ばれてきたんですね。そして現在は、これらのジャンルが複合した『League of Legends』のようなMOBAが遊ばれています。
 つまり、今の40代のユーザーが若い頃に遊んでいたジャンルのゲームが、今も大きくは変わらず遊ばれているわけです。

──考えてみればその通りです。日本も同じくJRPGを遊んでいた経験が反映されているのでしょうか。

レオ氏:
 中国でもよく「日本はどんな市場か」と聞かれるんですが、その時に「日本は一番ユニークな市場です」と答えています。

 アプリの売上ランキングを見ても顕著ですよね、地域ごとに差はあるんですが、それでも中国、アメリカ、ヨーロッパでSupercellのタイトルが売上上位を占めている時に、日本だけ『パズドラ』『モンスト』『FGO』がずっと上位にいたりする。
 ただそれは仰るように、日本は元々ファミコンやプレイステーションのようなコンソールハードが40年以上もゲームの中心にあって、世界最大のゲーム先進国だったわけです。その中で『ファイナルファンタジー』『ドラゴンクエスト』のようなJRPGが特に親しまれていて、おそらくそこでストーリーや世界観を重視する遊び方をユーザーが身につけた。
 それが現在でもソーシャルゲームのような作品に継承され、現在のユニークな市場を形成しているのではないか、と思っています。

──他の地域はどうでしょうか?

レオ氏:
 たとえば、近年市場として大きく成長している東南アジアであれば、そもそもPCやコンソールでゲームを遊ぶ経験もなく、スマートフォンで初めてゲームに触れた若い世代が中心です。
 またスマートフォンの中でもあまり性能は高く無いものが多いので、ゴリゴリの3Dゲームより、あえて画質を落としたカジュアルゲームが中心になります。またオンライン環境もまだまだ完全ではないので、リアルタイムの対戦ゲームをリリースするのも難しいですね。

世界最大のIT企業・テンセント、ゲーム業界制覇への道筋──日本でのヒットこそが、世界的ヒットへの試金石になる!?_009

──よく「この国はこういうジャンルが流行る」という話は噂レベルでよく聞きますが、歴史や社会を考慮した上でここまでロジカルな話を聞かせていただけるのは大変ありがたいです。やはりこうしたお話はテンセントで培われた情報や分析に基づくわけですよね。

レオ氏:
 そうですね。テンセントではゲームをリリースする際に、このゲームを何故この地域で出すべきなのかという「根拠」を必ず求められます。そのベースになっているのが先程から述べている市場調査やユーザー調査であり、これらを根拠として初めてゲームをリリースできるわけです。

 その上で確信するのは、やはり地域によって「面白い」とされるゲームは全く異なることです。つまり日本であればストーリーを読むだとか、戦略を考えるだとか、頭を使うゲームこそ「面白い」とされる。
 一方で東南アジアではボタンを押すだけでミッションをどんどんクリアしていくゲームが「面白い」もので、逆に日本で流行るゲームは「疲れる」と評価される。
 そうした地域の違いを理解した上で、日本ではこんな機能を入れる、東南アジアではこの機能は入れない……といったカルチャライズ・ローカライズは必須になります。

──先ほど、「日本のゲーム文化は成熟したものである」というお話を聞いてふと考えたのですが、おそらくゲーム文化の成熟度って、日本、中国、東南アジアの間で大体20年ほどの差があるわけじゃないですか。
 そうすると、中国や東南アジアでは今後ゲーム文化が成熟していく中で新しいジャンルが受け入れられるのか、逆に日本で新しいジャンルが根付く余地があるのか疑問に思ったのですが、いかがでしょうか。

レオ氏:
 当然、中国や東南アジア市場も変化していくでしょうし、日本市場もその例外ではないでしょう。とりわけ現代ではゲームの流通は一変しました。元々ゲームを遊ぶにはゲームハードを持っている必要があり、仮にハードを購入してソフトを輸入したとしても、今度は言語の壁が立ちはだかった。

 しかし現在ではインターネットで世界中の人間が同じ作品、同じ文化を共有していますから、こうした地域差もまた変わっていくと思います。たとえば、日本ではコンソールゲームが強かったことでFPSはあまり流行りませんでした。
 しかしスマートフォンで『荒野行動』が流行ったことで、今ほとんどの若い日本人のユーザーはFPSの遊び方、ルールを知っている状態です。そうなると今後、日本でアメリカや中国で流行るFPSが根付く可能性も十分にある。逆に日本で産まれたJRPGが、今では世界的に受け入れられるようになっていますよね。その国のユーザーが実際にそのゲームを遊び、ルールを学習すれば、トレンドは一変します。

──市場が分断されるというより、統合されていくわけですよね。それがインターネットのリアルタイム性によるものだと。特にゲームの場合は「ルール」を理解さえすれば、すぐそのリアルタイム性の恩恵を受けられる。

レオ氏:
 ゲームに限らずコンテンツはどれも同じ状況になっていますよね。映画でもNetflixで全世界同時公開され、アメリカ、日本、中国で同時視聴され、話題を共有する。

──今は「あえてローカライズしすぎない」というのもトレンドにありますよね。たとえば映画を日本で公開する時に、日本人にわかりやすいよう邦題をつけると「ダサい」と批判されたり、その逆も然り。
 そうなると最初にお話されていたローカライズ、カルチャライズの必要性も徐々に失われていくのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

レオ氏:
 テンセント全体として、確かにグローバル規模で同時リリース、そして成功する未来を見据えていますし、それは私も考えています。先程述べたお話にもありましたが、歴史的にも人間は学習していくに連れ、世界的に同じようなルールや文化を共有してきましたよね。

 それはコンテンツも同じで、今はまだ地域ごとの差異があれど、インターネットの力でローカライズ、パブリッシング、サービス運営を共有化することが可能になり、世界的に同じようなコンテンツを共有する時代は到来するでしょう。そしてテンセントが世界各地に拠点を作るのも、こうして世界で共通のコンテンツを楽しむ環境を作るためですし、『NIKKE』や『Tower of Fantasy(幻塔)』はその一歩になったと思います。

世界最大のIT企業・テンセント、ゲーム業界制覇への道筋──日本でのヒットこそが、世界的ヒットへの試金石になる!?_010

 ただ言い換えれば、いくら同じコンテンツといえども各国での文化や言語の違いに対応する必要は残り続けるでしょうし、世界的なヒットとなるコンテンツを生み出すのも結局地域ごとの特色だと思います。
 なのでいかに世界的にコンテンツのトレンドを共有することになったとしても、企業側としてむしろ地域ごとに根差したマーケティングやローカライズ、開発は必然性を増すでしょうし、同時にそれらを統一する体制も併せ持っているのがテンセント最大の強みであると思います。

──ここまで日本でのマーケティング、パブリッシングを中心にお聞かせ頂きましたが、逆にテンセントが日本に出資し、日本から世界にコンテンツを発信することもあるわけですね。

レオ氏:
 繰り返しになりますが、日本は世界全体でも特にユニークな市場ですからね。テンセントがこれまで日本市場に積極的に進出しなかったのは、日本を軽視していたわけでなく、慎重にやりたかったからなんです。

 なので日本市場でコンテンツを売るのであれば、日本人の好みを理解し、日本の企業やクリエイターと連携し、次の『ウマ娘』や『FGO』に匹敵するようなコンテンツを作る気概が必要です。
 だからこそ日本の企業、人材の強みを引き出して、グローバルに売り出すタイトルを作ることもやるべきだろうと思います。本社もこの考えには同意してくれていますから、今から1年、2年後にはそうした計画も発表できるでしょう。

──そうした成果が『NIKKE』や『Tower of Fantasy(幻塔)』、あるいは他の中国産ソーシャルゲームなわけですね。

レオ氏:
 世界でも、日本はゲーム先進国であることはよく知られていますから、正直、日本でヒットするゲームを作れる自信が開発者側になかったのもあるでしょうね。
 ただ『荒野行動』や『アズールレーン』の成功を経て、海外企業が作った日本的なゲームでも日本のユーザーが楽しんでくれているというのは、開発者側にとって大きな自信になったと思います。「だったら、こういうゲームを作ればもっと成功するんじゃないか?」と少しずつ試行錯誤して、もっと面白いゲームを目指すというのが最近の開発者側の心情でしょうね。

テンセントが築く今後

──実際、今の中国発ゲームは「中国だから」という理由で敬遠されることはほとんどなくなっていますし、そもそも「中国のゲームだ」と言われなければわからない程のクオリティになってますよね。
 ただ率直に言って、いまの日本は経済成長も停滞していますし、これから世界で日本の存在感は失われていくんじゃないか……みたいな悲観論もあります。一方、テンセントとしてはあえて日本市場や日本の開発に投資を続けているわけですが、その理由はどこにあるのでしょうか。

レオ氏:
 もちろん私が日本担当だというのもありますが、そもそも日本はアメリカ、ヨーロッパ、中国と並ぶ重要市場として見ています。日本が重要というのは市場規模もそうですが、何より日本で作られた作品が世界で成功するクリエイティブの土壌もそうです。
 たとえばゲーム領域の原作ではないですが『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』のような漫画・アニメは毎年次々と出て世界でヒットしています。これだけ世界中に影響を及ぼす力があるのは、アメリカやヨーロッパに劣らないと思います。

 だからこそグローバルな開発スタジオとしても、日本のユーザーに受け入れられるなら、それは世界でも通用するという自信になりますし、だからこそ日本に向けたタイトルを作るモチベーションになりますね。
 一方で、日本の人材の力を借りつつ、中国の開発力と連携して、まだ日本で流行っていないジャンルを成功させたい気持ちもあります。

──今の展開は過去10年続けた投資の末にあるわけですね。先ほど「グローバルのゲーム企業でもここまで展開するのは難しい」という話もしましたけど、GoogleやAmazonのようなテンセント並の資金を持つであろうテックジャイアントも、結局はゲーム業界への進出に挫折したわけじゃないですか。

レオ氏:
 その点でいうと、そもそもテンセントがいまの規模まで成長する過程において、ゲームでの売上がとても大きかった……つまり、テンセント自身がゲームと一緒に成長してきた、という事実も大きいでしょうね。逆に、一度成功してしまった状態からゲームを扱うのはなかなか難しいかもしれない。
 現在テンセントの売上の3割程度はゲームが占めているのですが、過去にはもっと高い割合の時もありました。これはゲームの売上が減っているわけでなく、中国最大の電子決済となったWeixin PayなどのFinTech、さらに企業向けのビジネスツールやクラウドの成長もありますね。

※ FinTech
金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語。キャッシュレス決済や仮想通貨など、金融サービスと情報技術が結びついた動きを指す。

──これだけゲーム事業にリソースを回していながら、テンセントにとってはFinTechやクラウドを含めた事業のひとつにすぎない、と……。本当に本日お聞きした話はどれも衝撃的で、貴重なお話ばかりでした。ありがとうございました。

レオ氏:
 ありがとうございました。

世界最大のIT企業・テンセント、ゲーム業界制覇への道筋──日本でのヒットこそが、世界的ヒットへの試金石になる!?_011

 世界最大のIT企業、テンセント。その日本担当者であるレオ氏の口から、まるで洪水のように出てきた話はいずれも衝撃的で、取材を終える頃には筆者の脳が完全にオーバーフローしてしまっていたことを、正直に告白しておきたい。

 なぜ、テンセントは今更になってグローバル向けのブランドを展開するのか? という疑問に対し、「中国ゲーム規制を見据えたリスクヘッジではないか」と月並みな憶測を持っていた自分を、大いに恥じた。
 冷静に考えて、そもそも人口13億人、ゲームユーザーだけで6億人いる中国をほぼテンセント一社で掌握している事実を鑑みれば、「なぜ今中国を出るのか?」ではなく「なぜ今まで世界に表立って出なかったのか?」を疑問視するべきだったのだ。

 世界各地に点在する20社以上のゲーム開発スタジオ、グループ全体で10万人以上の社員。レオ氏が話す言葉にまるで疑うことができなかったのは、事実データとして表される今テンセントの売上と実績(その中にはRiot Games、Supercell、Epic Gamesなど世界中のゲーム企業への投資も含む)もさることながら、それがテンセント全体の売上の中で3割にも満たないという、中国テックジャイアントの、文字通りの「巨体」にある。

 無論、インタビューでも語られたようにGoogleやAmazonらテックジャイアントによるゲーム事業の挑戦(そして失敗)は珍しいことではない。だがテンセントのような中国IT企業が持つ「ミドルオフィス」の先進的な運用と、実際にゲーム事業と連動した成功例、その上で世界の地域ごとに個別にゲームを展開する驚愕のマーケティング能力と開発能力を鑑みれば、明らかにそのポテンシャルは現在のゲーム業界における各プラットフォーマーを凌駕しうる……というより、彼らと真逆の試みを既に始めているのだ。

 冒頭に述べたようなテンセントの秘密主義的な側面も、あえて隠していたというより、馬化騰の「(結果があるのだから)語るべくもない」という自信ゆえであり、グローバル展開する上で対外的な発信を行うのも、「中国では覇者であるが、世界ではまだ未熟」という冷静な自重ゆえであろう。

 実際のところ、テンセントの壮大な計画がどこまで成功するかはまだわからない。しかし、世界最大のゲーム企業と知られながら依然国際的には「眠れる獅子」であったテンセントの大望の、その一部をお伝えすることはできたのではないかと思う。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
放浪する著述家かつゲーマー。noteで新時代のゲーム批評「ゲームゼミ」を連載、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー出演、雑誌『SWITCH』連載や企画、書籍は『好きなものを「推す」だけ。』出版など。好きなゲームは「何らかの事象に抗うゲーム」と、「誰かの意思決定を尊重するゲーム」です。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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