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なぜ『SIREN』の人気は衰えないのだろうか? 『SIREN』20周年に生みの親である外山圭一郎氏に訊く──ストーリーに余白を残しているためプレイヤーの想像に委ねる部分が大きい。だから自分なりの解釈を共有したくなる

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宮田の愛車が燃えるシーンは陽動のアイディアを当てはめただけ

──ゲーム実況の普及によってホラーゲームの盛り上がりや受け取られ方が変わってきているかと思います。外山さんは現在の「ホラーゲーム」というジャンルをどのように捉えていらっしゃいますか?

外山氏:
 現在のホラーゲームは昔と比べものにならないくらい多様化していると思います。少なくとも2003年の『SIREN』発売時に、ゲーム実況はまったく想定していませんでした。ホラーゲームはハプニング性の高さが特徴のひとつだと思うので、ひとりでやっていると「は?」と思うことも、ゲーム実況を介すとおもしろくなるんですよね。

──『SIREN』はゲーム実況との相性は抜群だと思います。

外山氏:
 登場人物たちが強くないので常にヒリヒリしますからね(笑)。

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──視界ジャック【※】で脱出をする四方田春海のステージや1分55秒の縛りがある志村晃のステージは「早すぎた実況映え」と言えるのではないでしょうか。

※視界ジャック
他人の視界を盗み見る能力。この能力を駆使することで自分とは別の場所にいる人の視点から屍人の動きなど周囲の状況を把握することができる。

外山氏:
 春海のステージは “視界ジャックの究極” としてやりたかったことのひとつでした。最初は無理ゲーにしか見えないかもしれないけど、繰り返し失敗することで「ここで失敗したということはこうすればいける」という学びを得られる。トム・クルーズ主演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』みたいな。

 志村のステージは洋ゲーをイメージしています。ただ、難度が高すぎて初めてプレイヤーの反応を見たときは「やってしまった(難しくしすぎてしまった)」と思いましたね(苦笑)。

──難度が高いからこそ、クリアできたときの盛り上がりもひとしおだと思います。『SIREN』はストーリーを解説する解説動画も多く存在していますが、そこで全体像をつかめた人も多いのではないでしょうか。

外山氏:
 間違いなくそうだと思います。ゲーム実況やゲーム解説の文化はうれしい誤算でした。

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──『SIREN』が動画を介して広がっていくなかで、予想外のユーザーの反応はありますか?

外山氏:
 それでいうと、宮田の愛車炎上祭【※】でしょうか(笑)。あのシーンは、がばっと書いた部分でまったく狙っていませんでした。単なる陽動アイデアのひとつを当てはめただけなんです。
 最初は「炎上」と聞いて驚いたのですが、ふたを開けてみれば宮田の愛車が燃えているだけで(笑)。

※宮田の愛車炎上祭
本記事中では固有名詞の使用は控えるが、Twitterや動画配信などで行われる奇祭のこと。作中で主人公の須田恭也が屍人を陽動するために宮田司郎の愛車を燃やす。そのシーンが8月4日午後7時3分だったことから、同刻にTwitterなどでイラストを投稿したり、生配信をする人があとを絶たない。Twitterでは毎年のようにトレンド入りするため、近年では元ネタを知らない世代もこの奇祭に参加している。

『野狗子: Slitterhead』は野良犬から始まるゲーム

──『SIREN』の話から少し逸れますが、ボーカゲームスタジオが現在制作している『野狗子: Slitterhead』(以下、『野狗子』)についてもおうかがいさせてください。まず改めて企画の経緯をお聞かせいただけますでしょうか。

外山氏:
 『野狗子』は『SIREN』のコンセプトを継承しつつも、「もっと広く届けたい」と思って立ち上げました。

 『SIREN』はよくも悪くも閉ざされたコミュニティだったと思うんです。だからこそ熱量高く応援していただけていたとは思うのですが、『野狗子』はホラーでありながらも人間ドラマや超能力バトルみたいな切り口から青年誌コミックのようなとっつきやすさを目指しています。

 そういう切り口から唯一無二の体験をしていただきたいと思っています。唯一無二の体験をしてもらうことには『SIREN』の経験で自信がありますから(笑)。

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──つい先日、開発初期のバトルシーンを含む新しい映像が公開されました。開発途中の映像を出すことへの不安はありませんでしたか?

外山氏:
 普段は出さないであろう、作りかけの映像をあえて公開しています。僕も「こんな映像を出してしまったら心配されるんじゃないか」と不安な部分もありました。それでもこの映像を公開したのは、現場の生々しさを伝えたかったからです。

──現在はこの映像からかなり開発が進んでいるということでしょうか?

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外山氏:
 はい。この映像は開発初期のものが多く含まれているので、最新のものとはぜんぜん違います。不安に思った方もいらっしゃるかもしれませんが、そこは信じてください。

──なるほど。犬が出てくるところが気になりました(笑)。

外山氏:
 犬は僕の提案なんですけど、じつは野良犬から始まるゲームなんです。……これ、言っても大丈夫かな(笑)。残念ながら詳細をお伝えできるのはもう少し先になってしまいます。

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──『サイレントヒル』→『夜明けのマリコ』→『SIREN』→『GRAVITY DAZE』→『野狗子』と携わっていらっしゃいますが、先ほど『夜明けのマリコ』があってこその『SIREN』だったとおっしゃっていました。『野狗子』においても前作にあたる『GRAVITY DAZE』から得たことはあったのでしょうか?

外山氏:
 はい。『GRAVITY DAZE』ではアクションの大切さを学びました。
 『野狗子』においては、『SIREN』の群像劇と『GRAVITY DAZE』のアクションが融合されていると思います。これからいろいろご報告できることも増えていくので、ぜひ続報にご期待ください。

「“異界入り”って起源はなんだっけ?」と言われたい

──再び『SIREN』のお話となりますが、今年は20周年を記念してふたつのイベント「SIREN in NAMJATOWN 宴」、そして「異界入り万博 SIREN 20th ANNIVERSARY」が開催されます。改めてイベントについてお聞かせください。

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外山氏:
 「SIREN in NAMJATOWN 宴」は、2022年に引き続き池袋のナンジャタウンで羽生蛇蕎麦【※】などのフードやアトラクションを体験できるイベントです。

※羽生蛇蕎麦
羽生蛇村名産の、蕎麦に苺ジャムを入れる怪奇料理。麺は輪ゴムのような弾力と強いコシを持つ。

 「異界入り万博 SIREN 20th ANNIVERSARY」は、新宿ロフトプラスワンで当時の関係者が同窓会のように集まるイベントです。ここ数年ありがたいことに「異界入り」を盛り上げていただいているので、20周年の節目になにかできたらと思っていました。

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──出演者や関係者の方々とは現在も交流があるのでしょうか?

外山氏:
 はい。主人公の須田恭也役を務めた篠田光亮さんをはじめ出演者の方々とは現在も交流があるので、こういったイベントが実現しました。プロデューサーの藤澤孝史さんも参加されます。

──それは豪華ですね。間もなく20年目の異界入りが始まりますが、『SIREN』の20周年を「こう楽しんでもらいたい」というようなことだったり、この記事を読んでいる読者に向けて最後にメッセージをお願いできますでしょうか。

外山氏:
 こうして20周年を迎えられるのは、ファンのみなさま、出演者のみなさま、スタッフのみなさま、『SIREN』を楽しんでくださっているみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。発売当時はこんなに長く盛り上げていただけるとは思ってもいませんでした。

 私が望むこととしては、50年後くらいに「”異界入り”の起源ってもともとなんだっけ?」と言われることです(笑)。普通に伝統芸能としての祭事になってたらおもしろいなと。

──「異界入りってもとはゲームだったんだ」みたいな(笑)。

外山氏:
 はい(笑)。「8月3日は異界入りだね」と日本の祝日みたいな認識になったらいいですね。

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 ホラーって、ジャンルというより人間の根っこにある不安の総称ではないかと思っています。人間の、「興味と本能のせめぎ合い」みたいな。僕はそれがすごくおもしろいと思っていて、それをゲームという形で新しい世代の方々に伝えていけたらいいなと思っています。

 改めまして、『SIREN』を支えてくださっているすべてのみなさまに感謝とお礼を申し上げます。

──本日はありがとうございました。(了)

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集部
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちでレベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著「デブからの脱却」(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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