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いまスマホゲームは、かつての「週刊漫画」になっている──現代の最先端テキストメディア「スマホゲームのシナリオ」は、どう作られている? 大手のシナリオディレクターに聞く

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「人気キャラ」を作り出す戦略。キャラを商品として成立させるには

──なんだか夢を壊してしまうような質問かもしれないのですが、その「キャラを重視したゲーム」を作るにあたって、「このキャラは人気が出そう」という予測は、やはり事前にある程度必要になってくると思います。そういった「人気が出そうなキャラ」の作り方や戦略などはあったりするのでしょうか?

鎌田氏:
 もちろん過去作や傾向を踏まえて検討します。

 また、具体的な戦略と言えるのかは分からないのですが……「最もメインストーリーが盛り上がるタイミングで、人気が出そうな or 人気が出ているキャラを実装する」などは割と一般的な手法と言えるのではないでしょうか。

水野氏:
 他にもいくつか方法がある中で、「過去にヒットしたキャラを分析する」ことは比較的オーソドックスなキャラ作りの手法と言えるかもしれません。

 その過去のヒットキャラの分析結果を、自分たちの企画やゲームの世界観に落とし込んだ上で「人気が出そうなキャラ」を作り上げていくことはありますね。

 そして、ちょうど鎌田さんがおっしゃってくれたことですが、やはりメインストーリーで活躍したキャラはヒットにつながります。「キャラの人気」に関しては、リリース前やリリース後も含めて、かなり大局的に目算をつけていくようなところはありますね。

──その「キャラ作り」の部門は、具体的にどこのチームが担っているものなのでしょう?

水野氏:
 プロジェクトごとによるので一般的な例になりますが、他社IPであれば、権利を持たれている協業会社の方が担当することが多いです。逆に、自社IPであればプロデューサーやディレクターの意向を反映しながら作っていくことが多いですね。

鎌田氏:
 最近は、そこの「キャラ作り」によりシナリオ職が食い込んできている感触はありますよね。
 一昔前のように「先行してキャラがあってシナリオを作る」ものではなく、もうプロデューサーやディレクターと一緒に作っていくのが当たり前になってきていると思います。

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──そこの「スマホゲームのキャラの作り方」はもう少し詳しくお聞きしてみたいです。
たとえば『FGO』や『ヘブンバーンズレッド』(以下、ヘブバン)などの特殊な例では奈須きのこさんや麻枝准さんのような作家性の強い方がひとりトップに立ち、そこから大本になるキャラや世界観が生まれてくると思います。
 一方で、そうした属人性によらず、チーム主体で作る場合はどのような作り方になるのでしょうか。

水野氏:
 そこはプロデューサーやディレクターのスタイルに寄るところがあります。クリエイターの支援に注力される方もいれば、ある種の作家性を持って自分のアイデアをガンガン盛り込む方もいます。その傾向も、今のスマホゲームはプロジェクトごとに全く変わってきますね。

 ただ、『FGO』や『ヘブバン』のような著名なクリエイターの方をトップに立てる属人性の高い作り方は、かなり難易度は高いと考えています。完全な新規IPの場合は、いかにクリエイターの方と開発現場が一体になれるかが本当に重要です。

 やはり媒体が違えば勝手も違いますし、特にスマホゲームの場合は著名な方にとっても初挑戦になることが多く、開発現場と共に試行錯誤を繰り返すことになります。その結果、本来のクオリティをお互いに出し切れない結果に繋がるリスクも一定あります。もちろん相乗効果によりメリットに繋がるケースもたくさんあります。

 ただ、スマホゲームの開発や運営は「長期的な連携」が必要になってきますし、そこに対するリスクヘッジとしての「属人性によらず、社内チームで最適解を模索する」作り方はひとつの選択として十分にあると思います。

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▲『ヘブンバーンズレッド』
©WFS Developed by WRIGHT FLYER STUDIOS ©VISUAL ARTS/Key
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▲『Fate/Grand Order』
©TYPE-MOON / FGO PROJECT

──ただ一方で、完全なチームでの制作になってしまうと、クリエイターの作家性による独自の面白さを生み出すのが難しくなったり、最終的な決定を下すトップがいないが故の難しさが生まれてくるとも思うんです。今のスマホゲームの現場でそのジレンマとどう戦っているのか、ぜひお聞きしてみたいです。

水野氏:
 そこはまさにサイバーエージェントの方とお互いに話してみたかったところなんです!(笑)

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鎌田氏:
 確かに、そこはまだ我々も答えが出ていないところなんですよね……(笑)。

 私個人としては、やはり作家性も大事だと思います。同じコンテンツ内でも、やはりライターが変わればシナリオの色も変わって面白いです。そして、誰かから言われたものをそのまま書くことよりも、裁量を任されたほうがクリエイターとしても楽しいと思いますし。

水野氏:
 私も、「ルールを守った上での作家性」は必要だと考えています。まず大きなコンテンツを扱う以上、そのIPが守らなければいけないルールがあったり、ユーザーのみなさんが求めているものにはしっかり応えるべきです。その枠組みを用意した上で、そこからどう料理していくのかは、それぞれの担当ライターに任せてあげたいですね。

 やはり同じプロットであったとしても、セリフひとつとってもそのライターの個性が出ます。だからこそ、ルールを守った上で作家性を活かしてもらいたいです。ただ、逆にそこでIPを破綻させてしまうようなものしか書けない方は、あまりスマホゲームには向いていないのかもしれません。

鎌田氏:
 そうですね。「ユーザーさんが求めるものであり、チームメンバーみんなが納得できるもの」をしっかりと理解した上で、どれだけ自分の作家性を出せるのか……というところまで含めて、スマホゲームのシナリオライターに求められるテクニックだと思います。

──やはり、ある程度のIPのルールは守りつつも、多少なりともクリエイティブや作家性を出してもらわなければ面白くはならないのでしょうか? 逆に、そういうことでもないのでしょうか

水野氏:
 作家性がなかったとしても、「商品として成立するもの」は作れてしまうと思います。スキルさえあれば、多くの方に「面白い」と感じていただけるものは作れる……とは思うのですが、その上にオンリーワンの作家性を込められるかは、ライター次第ですね。

 その作家性を上手く引き出せるかどうかも、私たちシナリオディレクターの役割ではあります。たとえば、「今回のシナリオやキャラはチームの誰が一番マッチしているだろう」と、どのライターに任せるのかを決めることも重要になってきます。

 「このキャラはこのライターが好きそう」「このライターはこのキャラに引っかかってくれそう」といった部分を見極めながら、仕事を振っていきますね。

──チームでのシナリオ制作の場合、「このキャラだったらこのライターさん担当」といった切り分け方をしているということでしょうか?

鎌田氏:
 そこもある程度プロジェクトによるとは思いますが、これまで自分が担当してきたコンテンツでは、「まず最初にキャラの傾向などは決めずにまんべんなく書いていき、その中で得意なキャラを見つけていく」パターンが多かったと思います。
 このやり方の場合、最終的にはどんなキャラもオールラウンダーで書けるようなライターになってくれることが多いですね。

──「このキャラはこのライター担当!」という役割分担が最初に決まることは、意外となかったりするんですね。

水野氏:
 最初から担当キャラを決めてしまうというより、さまざまなキャラを書いていく中で最終的に本人たちに合うキャラを見つけてもらう、というパターンが多いですね。ただ、最初からそのキャラに一目惚れしちゃっている場合はお任せしたりするんですが……(笑)。

 そのケースは一旦置いておきつつ、最初はまずそのプロジェクト内での幅を広げるためにもいろいろなキャラをまんべんなく書いてみて、その中で筆が乗ったり、そのライターさんの価値観とシンクロするようなキャラを模索していくような形ですね。その辺りは、やはり徐々に正解を見つけていくところです。

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▲『ドルフィンウェーブ』
©Marvelous Inc. ©HONEY PARADE GAMES Inc.

──いちプレイヤー側としての感覚なのですが、そのゲームのコンセプトとキャラがしっかりマッチしていると魅力的だと感じることが多いです。たとえば、『ドルフィンウェーブ』【※】は「セクシーな水上バトル」というコンセプトやビジュアルに登場キャラがマッチしているから面白いと感じています。
 その「コンセプトとキャラ」も、プロデューサーやディレクターと一緒に作り上げていくことが多いのでしょうか?

水野氏:
 そこもやはりプロデューサーやディレクターと一緒に考えることが多いですね。そして、そのコンセプトに合わせたシナリオを作るために「面白さの概念を統一」することがあります。そのためにはまず、「そのIPの面白さがどこにあるのか」という認識をすり合わせます。

 「このIPの面白さ」に対する認識がライターごとに違った場合、出力されるシナリオもバラバラになってしまいます。「私はこれが面白いと思います」「僕は面白くないと思います」といった認識の違いによる争いが発生してしまう前に、「このタイトルではこういう場面を描写するのが大事」「このタイトルはこのテーマが大切」という認識をしっかりと共有した上でものづくりをするのが重要です。

 より端的に言えば、そのIPの「面白さの言語化」が大事ですね。

鎌田氏:
 そこの認識をライター全員で共有するのは、やはり重要だと思います。

※「ドルフィンウェーブ」
2022年10月よりサービスが開始されたRPG。「爽快ジェットバトル」というジャンル名通り、水上で繰り広げられるバトルを楽しむゲーム。セクシーな登場キャラたちも魅力。

今、このスマホゲームがすごい

──「多い」とは言い切れないませんが、スマホゲームの中には「最優先のゲームの合間に遊ぶ、2番目のゲーム」としてデザインされたタイトルがあると思います。「手軽に遊ぶことが許されている」と言いますか。シナリオがあるものだと、『プリンセスコネクト!Re:Dive』『ブルアカ』がそのジャンルに含まれる気がします。
 先ほど「タップ数を研究する」というお話も出ていましたが、ああいった「合間に遊ぶスマホゲーム」はある程度企画段階から決められているものなのでしょうか?

鎌田氏:
 ゲームのコンセプトから「セカンドゲーム」的なポジションを狙うのはもちろんあると思います。ある程度放置で遊べたり、合間に遊んでもらうことを想定した上で立ち上げる企画は、増えてきたと感じています。

──やはりそういったコンセプトのゲームは、シナリオのボリューム的にも「手軽さ」「読みやすさ」などを意識されたりするのでしょうか?

水野氏:
 ある程度私の推測になってしまうのですが……やはりそこは意識されるのではないでしょうか。

 たとえば、コンセプトは「手軽に触れる」ことをウリにしているのに、肝心のシナリオが大ボリュームかつすごいタップ数を要求するものになってしまえば、それは結果的にプレイヤーのストレスに繋がりますよね。

 直近でそこを上手くやっているタイトルとして挙げたいのが、『メメントモリ』【※】ですね。あれこそ本当に短いテキストやフレーバーで独自の雰囲気を作り出しつつ、ビジュアルなどもしっかりと統一感がある。完全新規IPで立ち上げたのにも関わらず「プレイヤーが求める隙間」に入ったタイトルだと思います。

※「メメントモリ」
2022年10月よりサービスが開始しているスマホ及びPC向けタイトル。その水彩画のようなビジュアルと独自の世界観が評価を受けている。「美しいのにパズルみたいに簡単」をキャッチコピーにしている通り、その手軽さもウリとなっている。

鎌田氏:
 確かに、『メメントモリ』が出た時は周囲のみんなも驚いていましたね。
 誰もが受け入れられる世界観というより、ある種の「尖った世界観」であるにも関わらず、敷居の低さとキャッチーさを両立されているなと。

水野氏:
 とても「雰囲気作り」が上手いタイトルなんですよね。割と主流になりつつある「萌え」的なビジュアルというより、ゲームブックや少し前のファンタジーRPGのような想像の余白があるビジュアルや体験です。そこに合わせた音楽などの要素もしっかりとハマっていますし、今の市場的に「ちょうど足りていなかったもの」を摂取できるコンテンツとしてヒットしているのではないか……と感じています。

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▲『メメントモリ』
© Bank of Innovation, Inc.

水野氏:
 シナリオで話題になった例では、やはり『ヘブバン』は我々シナリオライターとしては意識せざるを得ないタイトルです。「最上の、切なさを。」というキャッチコピーの通り、このコンテンツじゃないと味わえない感情を明確にコンセプトとして打ち出し体現しているのが強みですよね。

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 『FGO』であれば自分が英雄と共に世界を救う体験ができたり、『ブルアカ』であればいろいろな生徒たちとの絆だったり、『ヘブバン』は切なさだったり……そういった「このコンテンツだからこそ味わえる感情」が明確なタイトルはすごく強い印象があります。

──言われてみれば、そうかもしれません。
 それぞれに「味わえる感情」の明確なコンセプトが定まっていますね。

鎌田氏:
 そのコンセプトを想定されるユーザーの層とどうマッチさせるかも重要になってきますよね。

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──逆におふたりに、「ここ最近でやられた!と思ったスマホゲーム」を聞いてみたいです。

水野氏:
 今パッと浮かんだものは、『勝利の女神:NIKKE』【※】ですね。いわゆるセクシーさをウリにしているゲームだと思って遊んでみたら、シナリオや世界観も重厚ですし、何よりゲーム部分もちゃんと作り込まれていました。

 正直「あ、大変失礼しました……」と思わされたタイトルですね(笑)。

鎌田氏:
 確かに、『勝利の女神:NIKKE』はすごいですよね。
 あのコンセプトに対して、とても重厚に作り上げられた世界観が出てくるという。

水野氏:
 最初のプロモーションの段階で「重厚な世界観」を一番のウリにしてしまうとちょっとハードルが高そうに見えて触らなかった方も多かったかもしれませんが……『勝利の女神:NIKKE』はあのセクシー要素がある種の「キャッチーさ」に繋がっているのだと思います。

 最初はセクシー要素を求めたり、ちょっとネタ的に触ろうと思った方たちも、あのシナリオや世界観に撃ち抜かれていった……というパターンが結構ありそうですよね。そういった点も含めてすごいゲームだと思います。

※「勝利の女神:NIKKE」
韓国のSHIFT UPが開発するスマートフォンゲーム。「背中で魅せるガンガールRPG」をキャッチコピーにしているように、女性キャラのセクシーな後ろ姿がウリのひとつ。想像に反して重厚な世界観やシナリオも魅力。

──『勝利の女神:NIKKE』は日本が得意としていた分野をかなり狙い撃ちで作ってきたような感触がありますね。

水野氏:
 国外の他タイトルだとそれこそ『ブルアカ』は翻訳もすごくしっかりしていますし、あの「日本へのカルチャライズ」のクオリティが高いからこそ多くの方に遊ばれているのだと思います。

鎌田氏:
 それぞれのキャラデザインもそうですよね。『勝利の女神:NIKKE』も『ブルアカ』も、ある種日本が得意としていたキャラのビジュアルを完全に作り出せています。

 また、そのローカライズの精度も含めてここ最近で一気に「日本でもしっかり当てにきている」タイトルが増えてきている印象があります。

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▲『勝利の女神:NIKKE』
©Proxima Beta Pte. Limited ©SHIFT UP CORP.

──そこの「繊細なシナリオ表現」や「キャラデザイン」の分野はまだまだ日本に優位性があるところだと思っていたのですが、その辺りもかなりキャッチアップされてきていますよね。先ほど少し話題にも上がりましたが、HoYoverseの『原神』や『崩壊:スターレイル』もそこはかなり強い印象があります。

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▲『原神』
Copyright © COGNOSPHERE.

水野氏:
 中国の開発現場では、さまざまな専門分野を学んだ方がゲーム開発に参加されることが多く、それに比例する形でシナリオも若干ハード目でアカデミックな内容になる傾向にあると、現場に携わられてる方から聞いたことがあります。

 重厚な世界観が魅力の『アークナイツ』はその例のひとつとして挙げられます。もちろん『アークナイツ』のシナリオも面白いので、そんな現場だからこそのシナリオの魅力も十分にあると思います。

 ところが、『原神』や『崩壊:スターレイル』のようにより幅広いプレイヤーの方が楽しみやすいシナリオのゲームが、この数年の間に次々と出てきていることに個人的に驚いています。シナリオだけでなくゲームとしての触りやすさなども含め、その進化のスピードにいちクリエイターとしてはすごく刺激がありますね。

鎌田氏:
 国外タイトルのローカライズのレベルに関しては、特にここ数年一気に上がってきた印象があります。

水野氏:
 『ガーディアンテイルズ』【※】も「日本の文脈」を理解したローカライズやカルチャライズをされているのがすごいんですよね。日本のゲームやアニメの小ネタを、しっかりと意味を汲み取った上で翻訳されています。

 いち日本ユーザーから見て、本当に素晴らしい仕事をされていると思います。

※「ガーディアンテイルズ」
2021年にKong StudiosとYostarの共同により日本語版がリリースされたアクションRPG。「懐かしくも新しいドット絵アクション」をウリにしている通り、繊細なドット絵のビジュアルが評価されている。日本のゲーム、マンガ、アニメなどの小ネタがやたらと盛り込まれていることも話題(?)になっていたり。

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▲『ガーディアンテイルズ』
© Kong Studios, Inc. © Yostar, Inc.
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▲『アークナイツ』
©2017 Hypergryph Co., Ltd. ©2018 Yostar, Inc.

ぶっちゃけ、スマホゲームのテキストって何がすごい?

──今回のメインテーマとしておふたりに聞いてみたかったことが、「スマホゲームは、いまテキストメディアとしての最前線にあるのではないか?」ということです。
 個人的に、以前はADVやラノベで「テキスト」に触れていたところが、今はスマホゲームに移ってきているのではないかと感じていまして。
 それゆえ、「スマホゲームで触れたテキストや物語から、作家やゲームクリエイターを目指す人も多くなってくるのではないか」と個人的に感じています。おふたりから見た今の「テキストメディアとしてのスマホゲーム」についてお聞きしてもよいでしょうか。

水野氏:
 うーん、中々難しいのですが……スマホゲームでガッツリとテキストを扱うにあたって、私がまず先に考えたのは「今のスマホゲームを遊ぶ若い方が“テキストに触れる場所”はなんだろう?」ということでした。

 もちろんLINEやTwitterなどのSNSで、テキスト自体には触れると思います。ですが、「長文の物語」に触れる機会は確かに減っているのではないかと考えました。そして先ほど『ヘブバン』や『FGO』を例に挙げた通り、やはり長文の物語を読むことによって突き動かされるのは「人の感情」です。

 つまり、「感情を揺さぶられる物語」を手軽に体験できるのがスマホゲームの強みだと考えました。それがテキストだけではなく、ビジュアルや音楽も含めた上で手軽に体験できるのは、スマホゲームならではの強みですよね。

 そしてこれは先ほど挙げた「キャラを重視する」という話にも繋がってくるのですが、現実のTwitterで誰をフォローするのかというと、やはり「発信が面白い人」をフォローしますよね。その発信者がどんな話をするか楽しみだからこそ、ユーザーは投稿を心待ちにしてくれます。

 スマホゲームのキャラもある種それに近く、継続的なリリースが続くからこそ「自分の好きなキャラの続きの話を見たい」「このキャラの活躍をもっと見たい」といったような、リアルの時間と連動してそのキャラの変化や成長を追いかける楽しさは、スマホゲームだからこそ生み出せているものだと思います。

 今のスマホゲームにおいてキャラが大事にされていたり、そこに価値を求められているのは「運営型タイトルだからこそ、他コンテンツのキャラよりも一緒に過ごす期間が長い」ところに紐づいてくるのではないか……とは感じていますね。

──テキストで言うと、中国や韓国では日本で言うところの「小説家になろう」や「カクヨム」のような小説投稿サイトがすごく流行っていると聞いたことがあるんです。
 ただ一方、日本ではそこまで爆発的に小説投稿サイトが現在の主流となっている印象はなくて、国内におけるそこのポジジョンが「スマホゲーム」なのではないかと感じています。

水野氏:
 スマホゲームはストーリーの最新話が配信されたタイミングで、ユーザーの方が「共通の話題」として挙げやすいところがあるのかもしれないですね。

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 もちろん国内でも小説投稿サイトは利用されていますが、読者それぞれのペースで読んでいるため、同じタイミングだからこそ味わえる「感動の共有」がしづらい点はある気がします。

 スマホゲームの場合、新たなストーリーやガチャの実装に合わせて「このキャラ引いた?」「このストーリー読んだ?」といったようなプレイヤー同士の共通の話題が生まれやすいです。そんな「共感」や「共通体験」が求められているからこそ、スマホゲームは今の時代にマッチしているのかもしれません。

鎌田氏:
 スマホゲームはかつての「週刊漫画」のような存在になってきているところはありますよね。実際の学校やSNS上などで、「今月のイベントシナリオ読んだ?」といったリアルタイムの共通の話題が生まれて、ある種コミュニケーションツールとしての役割を持っているような印象はあります。

──実際、学生時代の私の周囲ではスマホゲームがかなり大きい「共通体験」として君臨していたと思います。それこそ世代的に『白猫プロジェクト』『グランブルーファンタジー』『FGO』辺りがかなり流行っていて、「このキャラ来たけど、ピックアップ引いた!?」などの話題で友人と盛り上がっていました。
 やはりスマホゲームは、「基本無料だから始めやすい」のだと思います。コンシューマーゲームは学生の懐事情的に何本も買えませんし、みんな同じタイトルを買うわけではない。そこで「共通体験」がバラけたりするのですが、スマホゲームは無料で始められる敷居の低さがあるから、みんなと感想を共有しやすかった……という感覚はありましたね。

鎌田氏:
 あぁ、やっぱりそうなんですね。
 生の現場の感想が……(笑)。

水野氏:
 なるほど。スマホゲーム以前でいう『モンスターハンター』『ポケットモンスター』を持ち寄って遊んだ感覚に近いんですね。

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▲『白猫プロジェクト』
©COLOPL, Inc.

──実のところ、今のスマホゲームに触れている方ってどんな層だったりするのでしょう?

水野氏:
 10代の若い方々が中心に触れている……というわけでもなく、20代から30代の方も多く遊ばれています。課金要素まで含めると、社会的にも安定している30代~40代の方が多いのではないでしょうか。タイトルにもよりますがユーザーの幅は広いと思います。

 ですが、若年層の方にとってやはりスマホゲームの「無料で遊べる、読める」という点はすごく大きいと思います。その上で、新しいコンテンツがどんどん供給されて、ずっと楽しめる。学生時代にスマホゲームが存在していなかった私からすると、ちょっと想像できないところはありますね。学生時代にスマホゲームが存在していたら、ちゃんと学校に行っていたのかどうか……(笑)。

一同:
 (笑)。

鎌田氏:
 しかもそれが、共通の話題になっている。
 ゲーム自体のクオリティもどんどん上がっていますし、さらに無料で始められるため、とにかく「とっつきやすい」ことは間違いないですよね。

水野氏:
 もちろん今も週刊漫画は数多く存在していますが、スマホゲームはそこに近い娯楽のひとつになっているのではないかと思います。週刊誌や月刊誌のように、定期的に更新されるストーリーを追いかけていく感覚ですよね。

──ところが、今の若い世代にとって、漫画ってけっこう高いものらしいんです。昔は安価な娯楽でしたが、無料で見られる・遊べるコンテンツが大量に存在する今、漫画はすでに高価な娯楽になってしまっている。しかも、ものによっては10分〜20分で1冊を読み終えてしまう。
 そういった意味で、学生のお財布事情からすると、「コストパフォーマンスが悪い」とも言われているそうです。【※】

※実際、筆者(ジスロマック)の学生時代、「1冊約500円」という漫画単行本の価格はなかなかバカにできない値段だった。10冊買えば5000円となり、貴重なお年玉もおおかた吹き飛んでしまう。そんな学生の寂しい懐事情からすると、無料で面白い物語を味わえるスマホゲームはとても大きい存在だった。さらに言えば、筆者の場合「長いテキストや物語を読む」という習慣を獲得したのがスマホゲームのシナリオでもあった。そこで活字を読むことへの耐性がつき、小説などもっと長い文章も読めるようになっていったのである。

水野氏:
そうか、そういう背景もありますよね……。

 これはスマホに限った話ではなく、ゲームだからこその体験として「自分の成長を、数値化し実感できる」ことがあると思っています。そもそも人生の中で、「自分の成長を可視化して把握する」のは中々難しいことですよね。そんな中で、ゲームの「仲間が増えたり、レベルアップにより自分の成長が可視化される」というポジティブな成長体験は、すごく大切だと思います。

 そして、それを気楽に体験できるのがスマホゲームです。特に今の若い方などは、SNSの「フォロワー数」などを気にされていたりもしますよね。そういった「数値の達成感」に慣れ親しんでいるのであれば、スマホゲームの「自分が主人公になり、レベルを上げながら物語を楽しむ」という体験は、とても受け入れやすいものになっているのかもしれません。

 普段の生活では味わえない感情や、成長に伴う喜びを提供できているのであれば、すごく嬉しいですね。

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──以前、今の10代~20代の普遍的な成功体験が、実は「ポケモンを捕まえたこと」なのではないか……という話を聞いたことがあります。つまり、「勉強を頑張って良い点を取った」「部活を頑張ってレギュラーになった」という成功体験を味わっているのは実は少数派で、今はもうゲームで成功体験を味わうのが主流かもしれないということです。しかも、成功体験であると同時に「母数の多い共通体験」でもある。
 その「ゲームの成功体験」は多くの人に共通で根ざしているもので、スマホゲームは現代のその位置に入り込んでいるものなのだとも思います。

鎌田氏:
 確かに、その成功体験を無料で得られるのがスマホゲームですよね。
 ゲーム的な達成感に加え、感動的だったり心を動かされるものがセットでついてくる……さらにそれを、手軽に楽しむこともできる。これは間違いなくスマホゲームの強みだと思います。

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水野氏:
 極論、「ストーリーを読むと石がもらえる」こともひとつの成功体験ですよね(笑)。
 そこに繋がるのかはわからないのですが、以前「10代の方はスマホゲームに課金するのも、かなり慎重に課金する」とお聞きしたことがあります。

──その言説は確かだと思います。実際、「お正月は確定ガチャが来るので、そのお正月だけ課金する」といったことを私はしていました。学生なりに、お金の切りどころを見極めながら遊ぶような感じでした……(笑)。

鎌田氏:
 もうお年玉の使いどころがスマホゲームだったりするんですね(笑)。

水野氏:
 「正月は福袋来るから!」みたいな(笑)。

──「いま課金すれば、必ずリターンが来るからここで引く!」といった、金銭に限界がある学生なりの戦略がありました。「その確定ガチャで何を引いたか」などで友達と盛り上がることもありましたし、やはりそこも「共通体験」に繋がってくるのはスマホゲームの強みですよね。

水野氏:
 共通体験は大人になった時にすごく良い思い出になりますよね。フレンドと協力できるゲームであれば、その体験はなおさらだと思います。

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 それだけ思い出に残りやすいものの中で、ユーザーの方に言葉を届けるのがシナリオライターの役割です。多くのタイトルの中から自分たちが携わったものが思い出として覚えておいてもらえたら、とても嬉しいですね。

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▲『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』
© SEGA / © Colorful Palette Inc. / © Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

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転生したらスポンジだった件
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