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いまスマホゲームは、かつての「週刊漫画」になっている──現代の最先端テキストメディア「スマホゲームのシナリオ」は、どう作られている? 大手のシナリオディレクターに聞く

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 学生の時、スマホゲームは、本当に「共通の話題」の中心だった。

 これは、2023年時点で20代の筆者より上の世代の方には、かなり伝わりづらい感覚かもしれない。だが、私が中学~高校の頃、本当にスマホゲームは話題の中心だった。もちろんマンガも読んでいた。もちろんアニメも見ていた。もちろん3DSやPS4で遊んだりもした。けれど、その中でも「スマホゲーム」の存在感はすごく大きかった。 

 あくまで「筆者の周囲」でしかないので、全国規模でそうとは言えないかもしれない。だけれど、少なくともそんな状況だった世界が、間違いなくそこにあったのだ。

 この記事のタイトルにも書かれている通り、今回の対談は「なぜスマホゲームは、今テキストメディアの最前線にあるのか?」というメインテーマだったりする。確かに、言われてみるまで何も考えていなかった。

 なぜ、あの時スマホゲームが話題の中心だったのだろう。
 なぜ、あの時スマホゲームをみんな遊んでいたのだろう。
 なぜ、あの時スマホゲームにあれだけ熱中していたのだろう。

 そんなテーマをお聞きするのが、『八月のシンデレラナイン』や大手IPタイトルなどを開発する株式会社アカツキゲームスの水野崇志氏。
 そして、『IDOLY PRIDE』などの人気作を多数提供するサイバーエージェントグループの鎌田岳氏。

インタビュー:「スマホゲームのシナリオ」は、どう作られている? 大手ディレクターに聞くゲームシナリオの価値_001
▲左から鎌田岳氏、水野崇志氏

 この「スマホゲーム開発のトップランナー」とも言える2社で「シナリオディレクター」という特殊な職種を務めるおふたりに、「スマホゲームのシナリオ」をガッツリお聞きしたのが今回の対談となる。

 今のスマホゲームはそもそも「シナリオとキャラの価値」が変わってきている? 具体的なタップ数から「移動中に読める」テキスト量まで、徹底的に計算し尽くされたスマホ独自のシナリオ構築術とは? そもそも、なぜスマホゲームはここまで日常生活に根付いているのか?

 さまざまな大人の事情があって意外と語られていなかった「スマホゲームのシナリオライターって何をしてるの?」という疑問が、今明かされる……かもしれない。とにかく、一度でもスマホゲームで遊んだことがあるならば、ぜひ最後まで読んでほしい。

聞き手/TAITAI川野優希ジスマロック
撮影/佐々木秀二

※この記事はゲームシナリオの魅力をもっと知ってもらいたいアカツキゲームスさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


「ゲームシナリオの価値」が変わってきている?

──今回は、アカツキゲームスとサイバーエージェントのゲーム・エンターテイメント事業部でシナリオディレクターを務めるおふたりに、「今のスマホゲームのシナリオ」について、たっぷりお聞きしようと思っています。

水野氏:
よろしくお願いします。今回はクリエイティブな創作論だけではなく、ゲームシナリオライターという職業を知ってもらうため、その役割や仕事として求められることなど、あまり語られていないビジネス的な観点でもお話しをできればと思います。

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 まず、最近のスマホゲームで言うと、今は「ゲームシナリオ」の価値がちょっと変わってきているかもしれません。

鎌田氏:
 確かにその印象はありますね。ゲームシナリオの価値が変わってきたからこそ、そもそものゲームのシナリオライターを目指す人の数が増えてきたような印象もあります。

 私も採用に関わることがあるのですが、シナリオライターの新卒採用を始めた頃は、大学や学部なども特に絞らず、広い範囲で募集していました。ですが、採用を続けていく中で、「文学部などに、ゲームシナリオを仕事にすること自体を知らない方がいるんじゃないか?」という話があがりました。そのため今は「ゲームシナリオという仕事が存在していることを知らない人」に向けたアプローチも積極的にしています。

──文学部で専業作家を目指している中で、ある程度生活を安定させるためのひとつの就職先として「ゲームシナリオライター」を選ぶ人もいるということでしょうか?

鎌田氏:
 結構いらっしゃいますね。中途でも最初は作家として働いていたけど、キャリアを変更して、ゲームシナリオに来られるような方もいます。ですが、今はもうそういった作家やシナリオライターなどの垣根は薄くなってきた印象があります。

 まず先に「テキストを書きたい」「シナリオを書きたい」といった希望があり、そこでアニメを作るのか、ゲームを作るのか、選択肢が広がっている気がします。逆に、元々アニメの脚本を志望していた人でも、「ゲームシナリオもやってみたい!」と言ってくれる方が多いですね。

──もちろん媒体によってシナリオの書き方が違うのは確かなのですが、特にゲームシナリオは一度書いたテキストに対してゲーム側の「実装」のターンが挟まるため、かなり小説やアニメとは勝手が違う現場なのではないかと考えています。それでも、「ゲームシナリオがやりたい」と考えている人が多いのでしょうか。

鎌田氏:
 昔に比べると、間違いなくそういう人が増えている印象があります。

水野氏:
 やはり、日常生活の話題の中で「ゲームの体験」そのものが浸透している印象はありますね。

 アカツキゲームスの新卒採用の場合、企画職に応募して下さった中に「将来的にシナリオを書きたい」と考えている方たちがいらっしゃいました。その方たちは過去にゲームシナリオで感動したり心を動かされた経験があるケースが多く、必然的にゲームシナリオへのモチベーションもすごく高いんです。

 そういう方を将来的にシナリオ職で活躍いただけるよう、少しずつ時間をかけて育成することはあります。

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水野氏:
 鎌田さんにお聞きしたいんですが、文学部出身の方がゲームシナリオに挑戦する時に、これまでの創作とのギャップを感じられたりするのでしょうか?

鎌田氏:
 新卒に限らず、文学部や作家志望からゲームシナリオの現場に入り、そこで苦戦される方はそこそこいらっしゃいます。特に、数年前からはスマホゲームでも3Dの表現を採用している作品が多いです。「3Dでリッチになった反面、できないことも増えた」という2Dと3Dのギャップに上手く対応できずに苦戦してしまう方は多かったりしますね。

──具体的にはどのような問題があるのでしょうか?

鎌田氏:
 たとえば、「キャラが寝ているシーンを書きたい」と考えても、実際に3Dモデルで「キャラが寝ている」という表現を見せるのは中々難しいんです。キャラが横になることで、ベッドから服が突き抜けることもあります。とはいえ、そのシーンのために、専用のベッドを作る訳にもいきません。

 これまでの2Dであれば、たとえば「目を閉じた表情差分」である程度ご理解いただけたのですが、今の3Dモデルを会話パートにも採用したゲームでは、そういった表現が難しくなっていますね。

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▲『IDOLY PRIDE』
© 2019 Project IDOLY PRIDE

──なるほど。グラフィックはリッチになったけど、そのぶんキャラを動かす工数も上がってしまったわけですね。そのように「会話パートの表現が2Dから3Dに変わった」ことで、テキスト的にはどの辺りが変わったのでしょう?

鎌田氏:
 そうですね……たとえば、いま例として挙げた「寝ているシーンが難しい」問題は、「ソファをバックから映し、寝息と共にまるでソファの背もたれの後ろで寝ている」「場面転換などの演出で寝ているシーンをカットする」という方法で解決したりします。

 これはもうコンテ制作の域に片脚を突っ込んでくるのですが、シナリオライター側でゲームの仕様をある程度理解した上で、スクリプターや3Dモデリングを担当しているチームと一緒に検討していく形になっています。

 単にゲームのシナリオを書くというより、ある程度その後の映像も想定しながら作り上げていく、アニメの脚本家的な発想が求められているところはありますね。

水野氏:
 より細かい「演出の指示」が必要になるケースが多いですね。2Dのイラストであれば、ある程度はプレイヤーの想像で補完できるので、表情差分や立ち絵の動きだけで表現することも可能でした。

 ですが、3Dモデルでそういった表現を取り入れてしまうと違和感が大きくなってしまいます。その問題に対処するために、よりシナリオ側の意図を正確に伝えたり、演出を細かく明記する必要があります。その結果として、今のスマホゲームはアニメ脚本のようなコンテづくりのスキルも求められたりしますね。

鎌田氏:
 特に、「食べ物」などのプロップ【※】を使った表現は難しいですよね。

   そもそも3Dだと「キャラがパフェを食べるシーン」だけでもかなりの労力がかかります。まずプロップとしての「パフェ」が必要になり、その次はキャラが「パフェを口に運ぶ」モーションも必要になります。

 とにかく、今の3D表現では大前提の「シーンを表現するために必要なもの」が増えていて、それに比例するような形でシナリオチームも別の部署……つまり、モデル班やスクリプターの方とコミュニケーションを交わす量も増えています。

※「プロップ」
映画や演劇で使われる小道具を指す呼び名。家具からパフェなどの食べ物まで、「プロップ」である。

──2Dの場合は「プレイヤーの想像」で補完できていたところが、3Dになったことで想像の余地がなくなってしまった。その代わりに、それを補う絵コンテづくりや演出技術が求められていると。

鎌田氏:
 そうですね。「最終的に3Dで表現されたシーン」を想像しながら書くことのできるライティング技術や、それが可能なライターが求められていると思います。

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水野氏:
 2D表現の場合は、ある程度の状況はセリフで全て説明しても違和感がなかったんです。たとえば、食事のシーンでは「こんなに料理が並んでる!いっぱい食べちゃお~!ガツガツガツ」といったキャラのセリフと立ち絵を縦に揺らすなどすれば、それだけで表現できていました。

 ところが、3Dで同じ演出をすると、「人間が棒立ちで不自然に揺れているシーン」が完成してしまうのです。想像で補完する以前に、違和感がすごいんですよね。

 プレイヤー側は「3Dなのだから、手を動かしてご飯を食べることくらい、できて当然である」という認識があります。つまり先ほどの演出は「キャラが意図的に棒立ちしている」ように見えてしまうんです。そこの差はすごく大きいですよね。

──そもそものグラフィックがリアルだからこそ、ゲーム側もしっかりリアルに描かなければ違和感が出てしまう、と。「脳内補完が働きにくい」というのは、たしかに2Dと3Dの大きな違いですね。

鎌田氏:
 そうですね。そういう意味で、今のスマホゲームのシナリオは映像脚本に近くなってきています。

水野氏:
 執筆しながら絵コンテや「最終的なゲーム画面」を想像できるかどうかで、ライターが表現できる幅も変わってきますね。スマホゲームが2Dから3D化していく中で、ライターに新たに求められるスキルはその辺りだと思います。

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▲『IDOLY PRIDE』
© 2019 Project IDOLY PRIDE

ゲームシナリオは、なぜ苦戦する人が多いのか

鎌田氏:
 ラノベ作家さんなどからゲームシナリオに入った方は、そこの「コンテを想像しながら作る」というやり方に苦戦されることが多い気がしますね。

水野氏:
 あぁ、確かに……。
 ラノベなどの書籍では使えていた「地の文」がゲームでは封印されてしまいますからね。

──そういう事例もあるんですね。自分もそういった話を聞いたことがあったんですが、これまでのおふたりの話をお聞きして、何に苦労されているのかが腑に落ちました。そもそも求められるスキルが、ガラッと変わってしまうんですね。

水野氏:
 作家などからゲームシナリオに挑戦する場合、「アセットとの兼ね合い」【※】が一番難しかったりします。小説はシーンの背景から時間帯、キャラの服装に至るまでを自由に決めることができますし、極論を言えば描写をする必要もありません。

 ですが、ゲームの場合は「夕方の背景はありません。この昼間の背景だけでシーンを書いてください」といったような、アセットの限度が必ずあります。その制約の中でシナリオを書かなければならないので、「自分が表現したいシーン」と「アセットの制限」の兼ね合いの難易度ですごく苦労している……とはお聞きしました。

※「アセット」
ゲームに使用される、素材や部品を指す言葉。先ほどのプロップと違い、世界の背景や人間のモデルなどの、より広い範囲の素材を指す。

鎌田氏:
 やはり「そもそもの“ゲームの仕様”を理解しづらい」という問題はあると思います。

 どんな媒体でもそれは同じかもしれませんが、やはりゲームにはゲームシナリオの決まりや、お作法があったりします。それを踏まえた上で書かなければならないのですが、小説からゲームに移る場合、特にそこのスイッチを切り替えるのは難しいと思います。

──以前、別の現場のシナリオライターさんから「ゲームシナリオの場合、ライター側から「こういうシーンを書きたい!」と要望を出しても、技術的に表現することが不可能なパターンが多い」ということをお聞きしました。やはりそれは、スマホゲームでも起こりうる事例なのでしょうか?

鎌田氏:
 そのパターンは多いと思います。

 テキストで書き上げた段階では良いシーンであっても、ゲーム画面に落とすと、違和感しかないような事例があったりします。つまり、「お話としては良いけど、ゲーム的に出すのは難しい」というパターンはかなりあります。

 逆に、こちら側から「ここはなんとか表現したいシーンだから、何か方法はないだろうか?」と相談することは多々あります。そこも含めて、やはり「他のチームとの密な連携」は重要になってきます。

水野氏:
 すごく大事な場面を書こうとすると、技術的にもシナリオ的にもやはりそれだけのコストを払う必要があります。かといって、運営型タイトルは継続的なコンテンツの供給が求められるので、毎回毎回特別なものを作るのはコスト的に限界もあるのです。

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 そんな「継続的なゲーム作り」の中で、どの職種がどのタイミングで頑張るのかは各セクションが仲良くやっていくためにもすごく大切なことですね。逆に言えば、それぞれのセクション同士が「ここぞ!」のシーンを作るために仲良くする必要があるというか……(笑)。

──ある種、その「やりたいシーン」を実現するためのコミュニケーション技術も求められるところがあるんですね。

水野氏:
 確かに、ゲームシナリオは結構コミュニケーションスキルを求められますね。

 まず最初にディレクター、プロデューサー、アートチームなどの方々に「やりたいこと、やれないこと」の認識をすり合わせるところから始めたり。

鎌田氏:
 最近は特に求められますね。昔は「良いシナリオを書いてくれればそれでいい」こともあったかもしれませんが、今はもう技術的にも各チームの連携が重要になってきます。

 各チーム間で発生する事故を避けるためにも、やはり事前にそのゲームの「やれること、やれないこと」を確認した上で書き始めることが大事だと思います。

水野氏:
 もちろんそれぞれのチームによる役割分担もあるのですが、やはり各チーム同士の連携や共通認識がしっかりしていると、「そのゲームでやれること」の幅は広がりますよね。

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今のスマホゲームは、「キャラの価値」が求められる

──これまでのお話を聞いているだけで、私が想像している「ゲームのシナリオライター」と、実際の現場の「スマホゲームのシナリオライター」はだいぶ違うのではないかと感じています。3Dでの表現以外にも、スマホゲームとそれ以外のゲームで大きく変わった箇所はありますか?

水野氏:
 私は以前、コンシューマーでアドベンチャーゲームを制作していたことがあったのですが……その当時と今のスマホゲームを比べると、やはり「プレイヤーを継続的に楽しませたうえで、終わりのない物語を描ける引き出しの多さ」が圧倒的に求められているスキルだと思います。登場するキャラの多さも含めて、引き出しの多さは間違いなく必要ですね。

 DLCや追加コンテンツなどのない当時のコンシューマータイトルであれば、とにかく「その1本で、いかに面白いものを作るか。いかに完結させるか」が重要でした。逆に、今のスマホゲームでは「継続的に面白いものを作る」スキルが求められています。それをひとりで実現するのは大変なことなので、チームでのシナリオ制作が増えてきたのは、ある意味必然なのではないかなと思います。

鎌田氏:
 確かに、当時のアドベンチャーと比べるとひとつのシナリオに加わるライターの人員は大きく変わっていますよね。

 そして、プレイヤーの可処分時間も限られているので、今のスマホゲームは「プレイヤーがどれくらいの時間プレイするのか、どんな時間帯でプレイするのか」をかなり研究した上で作り始めることが多いです。

水野氏:
 そうですね。「シナリオを読む時のタップ数」をある程度見越した上で作っていることもあります。そういう意味で、かなり「ターゲットを意識して作る」ことは増えたかもしれないですね。

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▲『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』
© SEGA / © Colorful Palette Inc. / © Crypton Future Media, INC. www.piapro.net
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▲『ブルーアーカイブ』
©NEXON Games Co., Ltd. & Yoster, inc.

──個人的に最近のスマホゲームで多いと感じているのが、「ストーリーパートとゲームパートがほぼ分けられている」スタイルのゲームです。『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』『ブルーアーカイブ』(以下、ブルアカ)辺りがその例ですね。
 あのスタイルのメリットとして、「お話が読みたい人は、お話だけ読める」「ゲームがやりたい人は、ゲームだけできる」という遊び方の取捨選択が可能なところがあると思うのですが、開発側としてはどう思いますか?

鎌田氏:
 そこは結構ゲームのコンセプトによるかもしれないですね。

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水野氏:
 ハッキリ言ってしまうと、スマホゲームにおいて「シナリオが邪魔に思われる」ケースは避けられないと考えています。たとえ一部の方だとしてもシナリオが邪魔に感じた結果として、ゲームのプレイ自体をやめてしまう……というのはすごくもったいないことですよね。

 その課題に対処するために、「まずゲームはゲームで遊んでもらう」「お話を読みたい時に、お話を読める」といったようにそれぞれのパートを切り分けるのは、ひとつのゲームデザインとしてはありだと思っています。

 とはいえ、最終的なゲーム体験としてどちらのスタイルが最適なのかは、プレイヤーによって異なるとは思います。やはりある程度シナリオを読み込んだ上で気持ちが盛り上がってからボス戦に挑んだ方が、いろいろな感情が生まれたりはしますよね。ですが、その「シナリオを完全に読んでから、ボスに挑んでもらう」のを全てのプレイヤーに求めるのも酷ではあると思います。

 「スマホゲームというひとつのサービスとして、どんな形がベストなのか」は業界全体で模索し続けている課題なのではないでしょうか。

──なるほど。ひとつのサービスとして最適かどうかを考えると、確かに難しいラインではありますね。
 一方、『Fate/Grand Order』(以下、FGO)などはまさに「ゲームもストーリーも両方触れてもらう」スタイルの見せ方だったと考えているのですが、そこから現在に至るまでの明確な流行の変化などはあったりするのでしょうか?

水野氏:
 まず、少し前と比べるとスマホゲームの母数自体がかなり多くなっているので、『FGO』のような「シナリオをどっぷり読んでもらう」ことを前提としたスタイルは、既に限られたIPでしか挑戦できないと考えています。というのも、まず「膨大なシナリオを読みたい人が来るゲーム」にするのが難しいからです。

 そして前提として「シナリオを読みたい人」が遊ぶからこそ、あれだけのシナリオ量が喜ばれている点はあると思います。逆に、完全な新規IPでそのスタイルのゲームと同じくらいのシナリオ量をいきなりぶつけたとしても、プレイヤー全員に読んでもらうのはかなり難しいはずです。

 そんな「全員がシナリオを読みたくて来ているわけではない」という課題に対し「プレイヤーのプレイスタイルに合わせた工夫」として、先ほど話題に上がったゲームとシナリオを切り分けるスタイルが生まれたのではないかと思います。

 逆に、最近リリースされた『崩壊:スターレイル』【※】のように、3Dのビジュアルや総合的なクオリティの高さで勝負できるゲームの場合は、コンシューマーの大作RPGのようにガッツリとインゲームとシナリオを絡めてしまうのもひとつの手だと思います。最終的にはどれほどのコストやビジュアルをシナリオのために用意できるかにかかってくる部分ですね……。

鎌田氏:
 そういった「スマホゲームのトレンド」のようなものはありますよね。

 特に、メインシナリオを最初から最後まで読んでくれるような方は中々のコアなファンでしょうし、完全な新規IPでそれほどのファンを獲得するのは相当難しいことだと思います。

※「崩壊:スターレイル」
2023年4月よりサービスが開始されているRPG。HoYoverseの展開する『崩壊』シリーズの最新作にして、ハイクオリティなグラフィックと魅力的なキャラが話題を呼んでいる。

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▲『崩壊:スターレイル』
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──そうなってくると、「ユーザーがスマホゲームのシナリオに求める価値、接し方」などについても、近年で大きく変わってきているのでしょうか?

水野氏:
 特にスマホゲームの場合、「キャラに対して求めるもの」が増えた印象があります。それこそ、さらにひとつ年代が前の『パズル&ドラゴンズ』『モンスターストライク』などでは「キャラのスキルが、いかにゲームの仕組みに寄与できるか」というシンプルなゲーム性が重要視されていました。

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 ですが、最近はコンテンツの盛り上がりにも直結する、特定のキャラへの想いやファンアートなどを発信してくれる熱量の高いファンの方々を対象としたマーケティングも重要となっています。そして、そんなファンという立場から実際の開発現場に入ってこられる方もいらっしゃるので、そもそもクリエイターに「それぞれのキャラを掘り下げる」ことが得意な人が増えてきました。

 これらのマーケティングやクリエイターの変化などを含め、総合的に「ストーリー」に付加価値が求められるようになってきているのだと思います。そして、それに比例する形で「キャラの価値」も求められている印象はありますね。

 たとえば『ウマ娘 プリティーダービー』を例に挙げれば、史実をベースにしながらも登場するウマ娘ひとりひとりのキャラがすごく個性的に作られていますよね。そして、そこから「自分はどのキャラにハマるのだろう?」とキャラを選ぶ楽しさが生まれますし、さらに発展して「そんな個性的なキャラ同士の関係性から生まれる物語」に楽しさが生まれたりもします。

 もちろんシナリオや声優さん、イラストなどの力も最終的には含まれますが、ユーザーの方はそういった「ひとりひとりのキャラにしかない価値」を求めるようになってきているのではないかな……と感じています。

鎌田氏:
 「スマホゲームの進化は、コンシューマーの進化と同じ流れ」ということは、各所で聞きますよね。そもそものハードや端末のスペックがどんどん上がっていき、ユーザーさんの目も肥えていく中で、「画面がリッチであること」はもう当たり前になってきます。

 そしてその次にゲーム性の面白さや、シナリオとキャラの完成度が求められていく。ここはコンシューマーの進化を辿っているところだと思います。まずリッチであることが大前提にあり、そこにオンリーワンの面白さや、そのゲーム独自のユニークさが求められています。最終的にはスマホゲームも「作り込まれたものがより増加する」のではないでしょうか。

 そして運営型タイトルである以上、「このシナリオやこのキャラがいるから、続きが読みたい」と、ユーザーさんが継続的にプレイしたいと思えるような形になっていく……というのは、ある種の必然なのかもしれないですね。

──たしかに、今のスマホゲームのあり方として、「キャラに寄ったもの」として進化しているのかもしれないですね。大筋のストーリーがひとつ用意されているというより、大勢のキャラに対してそれぞれの個別のシナリオが細分化されているような。
100人のキャラが最初から登場する大きなお話を読むというより、「まずそのプレイヤーが好きなキャラを何人か触ってもらう」ようなスタイルはいま流行りかもしれません。
 本当に単刀直入に言えば「誰かひとりでも引っかかってくれ!」みたいな(笑)。

鎌田氏:
 あぁ、確かにそういうスタイルとも言えますね(笑)。
 やはり大勢の方に遊んでいただくので、様々なニーズに沿ったキャラを用意するのが大切ですね。

水野氏:
 前提として、開発者にとってはすべてのキャラが平等かつとても大切な存在です。ただ「当たりキャラ」と言ってしまうと少し言い方が良くないかもしれませんが……やはり人気が出たキャラは、最終的な売り上げやそのゲーム自体の人気にも直結します。
 それもあって、「いかに魅力的なキャラを生み出すか」は、今のスマホゲームではかなり注力している部分なのではないかと思います。

鎌田氏:
 とは言っても「魅力的なキャラ」を作るのって本当に難しいことで……(苦笑)。

水野氏:
 「もう魅力的なキャラ像なんて出尽くしてるんじゃないか!?」とは言われていますよね(笑)。

一同:
 (笑)。

鎌田氏:
 多くのゲームやコンテンツが多くの魅力的なキャラを作り出しているだけに、「あのキャラに似てる!」と言われてしまうこともあります。

水野氏:
 それだけコンテンツがたくさんある中から、いかに独自性のある魅力的なキャラを作り出すか……というところは、本当に大変な仕事だと思います。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

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