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Quantic Dreamは「インディーゲーム開発者の天国」みたいなパブリッシングをしていた。ストーリー制作に困ったら『デトロイト』を手掛けたデヴィッド・ケイジに相談できる…ってマジ!? 共同CEO・ギョーム氏に訊く、「Spotlight by Quantic Dream」の心意気【TGS2023】

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 Quantic Dream(クアンティック・ドリーム)といえば『Detroit: Become Human』『Heavy Rain』など、雄弁なストーリーと独自のギミックを携えたオリジナル作品が印象的だ。

 2022年にはNetEase Gamesの傘下に入ることを発表し、2023年にはインディーゲームをサポートするパブリッシングブランド「Spotlight by Quantic Dream」を設立。さらに、2021年には『スター・ウォーズ』を原作とする同社初のIP作品『Star Wars Eclipse』を発表し、現在は同作の開発に取り組んでいる。

 高品質なオリジナル作品に注力していたQuantic Dreamは、どのような考えでインディーゲームのパブリッシングや『スター・ウォーズ』原作の新作に取り組んでいるのだろうか。

 このたび、Quantic Dreamの共同CEOであるギョーム・ド・フォンドミエール氏にインタビューをする機会を得た電ファミ編集部は、その点について率直に伺ってみた。そこでわかったのは、「Spotlight by Quantic Dream」は“インディーゲーム開発者にとっての天国”のような環境になっているということだ。

Quantic Dream共同CEOギョーム・ド・フォンドミエール氏インタビュー【TGS2033】_001

 本稿では個人ゲーム開発者を献身的にサポートする「Spotlight by Quantic Dream」の取り組みやゲームに対する理念、『Star Wars Eclipse』の開発経緯などをお届けする。

聞き手/実存りつこ
文/りつこ


「ユニークなゲーム」を世界に届けるため、パブリッシング事業を始めた

──「Spotlight by Quantic Dream」としてインディーゲームのパブリッシング事業を始めた経緯や意図をお聞かせください。

ギョーム氏
 最初に私たちがパブリッシングをすると決めた際には、手始めに自社で開発した『Detroit: Become Human』や『Heavy Rain』、『Beyond: Two Souls』の販売を行ったんです。すると、さまざまな開発コミュニティから150作品ほどの問い合わせを頂きました。

 多くの開発者から「パブリッシングをして欲しい」という依頼を頂いたことは興味深いのですが、せっかく自分たちでパブリッシングをするならば、やはりユニークなゲームを取り扱いたいと思いました。

 そうして、我々が最初にパブリッシングするゲームとしてサインしたのが『Under The Waves(アンダー・ザ・ ウェーブス)』です。

──デベロッパーから依頼されるかたちでインディーゲームのパブリッシングが始まったんですね。

ギョーム氏
 そうですね。最初に同作品を見たときには、非常に深みのある物語や人間の感情を揺さぶるような要素を魅力的に感じました。

 隔離された一人きりの環境で生きていく人間が、どのように過去と向き合い、悲しみを乗り越えるのか、というストーリーは、特に面白いと思いました。同時に、海洋保護というメッセージを届けられる点も魅力的に感じたポイントです。

 ただ、デベロッパーはこれまでに、壮大なスケールのメッセージを扱った作品を制作したことがなかったんです。なので我々は「デベロッパーが提示したいメッセージ」を実現するためのお手伝いをさせて頂きました。

 制作におけるサポートをさせて頂いたことは良い意味でチャレンジングで、良い企画になるだろうなという予感がしましたね。

 

──同じく「Spotlight by Quantic Dream」の作品である『Dustborn™(ダストボーン)』はまた違った雰囲気の作品であるように思います。

ギョーム氏
 リアリティのある海洋の探索を描いた『アンダー・ザ・ ウェーブス』とは対極にあるのですが、『ダストボーン』もユニークで魅力的な作品です。

 『ダストボーン』は一目みた時にコミック調のグラフィックに一目ぼれをして、さらに「言葉を武器にして戦う」というユニークなゲームプレイを知ってさらに惚れ込みました。

 我々がお手伝いをすることで、より良い作品に出来るんじゃないかと思い、パブリッシングを担当することとなりました。

Quantic Dream共同CEOギョーム・ド・フォンドミエール氏インタビュー【TGS2033】_006

ギョーム氏
 また、「Spotlight by Quantic Dream」3本目の作品となる『Lysfanga : The Time Shift Warrior™』はフランスのゲームアワードで賞を受賞しており、なんと学生のチームが卒業制作として開発している作品なんです。

 『Lysfanga』は基本的にはハック&スラッシュ(ハクスラ)型のゲームです。そうしたハクスラゲームはこれまでにもたくさんありましたが、このゲームには「分身を使う」というユニークなシステムがあります。このシステムならば、これまでにない新しい遊び方を提供できるかもしれないと感じました。

──公開されているゲーム画面を見ると、卒業制作とは思えないクオリティですね。

ギョーム氏
 現在の開発チームは学校に所属していて、5人くらいのインキュベーションチームとして開発しています。

 引き続き我々が開発をサポートすることで、作品のビジュアルやゲームプレイはさらに研ぎ澄まされていくものになると考えています。開発チームは学生ながらフルスケールの作品を目指していて、最終的には15時間ほどのゲームプレイを楽しめる作品になりそうです。

──「Spotlight by Quantic Dream」の作品を拝見すると、どことなく「Quantic Dreamらしさ」を感じます。パブリッシュする作品のチョイスやサポートにあたって、Quantic Dreamの美意識みたいなものが反映されているのでしょうか。

ギョーム氏
 自社でゲームを開発する際にも、サードパーティーのデベロッパーを探す時にも、我々は作品がユニークさ(独自性)を持っていることを、そして「自分たちが実際に遊んでみたい」と思うことを大きな判断基準としています。

 一方で、世の中には既存のゲームとほとんど何も変わらないゲームや、流行りのゲームと似たりよったりのゲームもたくさん存在します。そのこと自体はある程度仕方のないことだと思いますが、Quantic Dreamとしては、あくまでも「他にはない、ユニークな体験を提供する」ということを重視しています。なぜなら、ユニークで独自性のあるゲーム体験こそが、国境を越えて多くのプレイヤーに届くものだと信じているからです。

 くわえて、そうしてユニークなゲームを提供していくことは、結果的に「我々のためだけでなく、ユーザーのためにもなる」とも考えています。それは価値のあることであり、ビデオゲーム業界全体のレベル底上げするという意味でも、重要な考え方だと思っています。

──なるほど、それは素晴らしい考えですね。Quantic Dreamが求める「ユニークなゲーム体験」を、自社開発とはまた別の形で届けていく、というスタンスなのですね。

ギョーム氏
 おっしゃるとおりです。ですから、我々としては「Spotlight by Quantic Dream」でパブリッシングをする作品は、自社で開発してきた作品とはまったく異なる方向性の作品でも良いと思っているんです。
 むしろ、「開発者が表現したい、ユニークな作品を作る」ことをサポートすることが「Spotlight by Quantic Dream」におけるテーマのひとつです。


ストーリー制作で困ったら、『デトロイト』のデヴィッド・ケイジに相談できる……!? 超豪華な開発サポート体制

──その点に合わせてお聞きしたいのですが、パブリッシング事業において、Quantic Dreamはどのような役割を担っているのでしょうか。作品によっては開発そのものに携わることもあったりするのでしょうか?

ギョーム氏
 「Spotlight by Quantic Dream」においては、ゲームの開発自体はあくまでもデベロッパーが担当します。いっぽうで、全体的なゲーム開発の進捗に関しては開発者と歩みを揃えながらチェックしています。
 その過程で開発者が大きな課題にぶつかってしまったり、何か助けが必要となったら、すぐさま手を差し伸べてサポートするかたちを取っています。

 たとえば、開発者がモーションキャプチャーを使いたい場合はQuantic Dreamが専用の設備を提供し、音声収録をしたい場合は弊社のスタジオを貸し出したりしています。また、アートワークやプログラミングで人手が必要であればQuantic Dreamがお付き合いをしている外部の会社さんを紹介したりと、開発に必要なリソースを補助できるような体制を整えています。

 さらには、ストーリーを制作する際に助けが必要であれば、『Detroit: Become Human』を手掛けた弊社のデヴィッド・ケイジに相談し手伝ってもらうこともできます。そういったオープンなコミュニケーションをとりながら「いつでもおいで」というスタンスでパブリッシングを行っています。

──すごく豪華な体制です……!。Quantic Dreamが持つ設備やリソースをお借りして、ひとまわり大きなスケールで開発をすることができる、というわけですね。

ギョーム氏
 そうですね。ただ、我々が行うのはあくまでも開発のサポートです。Quantic Dreamが開発を乗っ取ってしまうような介入の仕方は決してしないようにしています。

──お話を伺っていると、インディーゲーム開発者にとってはまさしく夢のような環境であるように思います。

ギョーム氏
 数々のデベロッパーとお付き合いをさせて頂く中で、我々としてはあくまでもフェアな取引をしていきたいと思っています。

 たとえばゲームのIP自体は開発者の元に保留されますから、開発者は本当に「自分たちの作品」としてゲームを制作できます。そして我々としては資金的な援助はもちろんのこと、前述のサポート以外にもQA(品質保証)やローカライズなどを開発者の代わりに担当します。

 かつて我々がプレイステーションと一緒に仕事をしたときには、彼らがこのような形で手厚くサポートをしてくれました。それが非常に理想に近いかたちだと思っているので、私たちは現在のスタイルでパブリッシングをしています。

──なるほど。「Spotlight by Quantic Dream」では、今度はQuantic Dreamさんがかつてのプレイステーションさんのような役割を担っているんですね。

ギョーム氏
 おっしゃる通りで、プレイステーションがやってきてくれたことを、今度は私たちがやっているという側面はもちろんあります。

 一方で、パブリッシャーがデベロッパーに対して酷い条件を提示したり、一方的な関係性を築こうとしたりといった怖い話がまだ存在するのも事実です。我々はそうならないように、お互いを支えあうために、非常に近い距離感でサポートをしていくかたちでパブリッシングに取り組んでいます。

「Quantic DreamでIP作品を作るなら『スター・ウォーズ』くらいだよ」と冗談で話していたらホントに話が来た!

──最後に、現在開発中の新作『Star Wars Eclipse』について質問をさせてください。Quantic Dreamは、いままでかなり独創性の高い作品を出すイメージでしたが、ここでなぜ原作のある作品を作ることにしたのでしょうか。

ギョーム氏
 理由はシンプルで、ルーカスフィルム・ゲームズが我々と仕事をしたいと考えていて、我々もルーカスフィルム・ゲームズと仕事がしたい、ということです。

 そして、一番の理由はQuantic Dreamのスタッフは皆『スター・ウォーズ』のファンだということですね。

一同
 (笑)。

ギョーム氏
 これまでも有名なIPから「Quantic Dreamにゲーム化して欲しい」というお話を頂いていましたが、基本的にどんなIPでも我々の答えは「ノー」でした。
 
 以前からデヴィッド・ケイジと「IP作品を作るなら『スター・ウォーズ』くらいだよ」と冗談交じりで話していたんです。そうしたら、本当に話が来てしまいました(笑)。ですから、ルーカスフィルムさんから電話が来た時、「この機会に飛びつくしかない」と思いました。

 今はまだあまり多くは語れないのですが、『Star Wars Eclipse』はもちろんQuantic Dreamらしさ、そして独自性を担保しながら、そのうえで舞台が『スター・ウォーズ』の世界となる予定です。

 本作ではストーリーはもちろん、登場するキャラクターの設計も非常に重視して制作しています。そして、「ユーザーが物語の道筋を選ぶ」システムをどのように提供するのか、ということを最も重んじて開発を進めています。

──まさしく相思相愛の結果だったのですね(笑)。『Star Wars Eclipse』が遊べる日を楽しみにしています。本日はありがとうございました!(了)


 お話を実際に伺うと、一見突然に思えた「Spotlight by Quantic Dream」や『Star Wars Eclipse』にも、『Detroit: Become Human』や『Heavy Rain』を手掛けてきたノウハウや美学が垣間見える。

 Quantic Dreamの作品が好きな読者は、今後発表される『Star Wars Eclipse』の続報や、「Spotlight by Quantic Dream」からリリースされるユニークな作品をチェックしよう。

編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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