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これまで語られたことのなかった、ソニックが青い“もうひとつの理由”とは? 『ソニックスーパースターズ』インタビューで飛び出した逸話の数々【TGS2023】

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 9月21日から4日間にわたり、東京ゲームショウ2023(以下、TGS)が開催され、セガ/アトラスブースでは10月17日に発売を控える『ソニックスーパースターズ』の試遊も可能となっていた。

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 シリーズ最新作となる本作は、ソニックならではのアクションはそのままにグラフィックやシステムが大きく進化した “クラシックソニック” だ。

 TGS会場ではメディア向けに開発者インタビューが実施され、ソニックチームの代表を務める飯塚隆氏と、デベロップメント・プロデューサーを務めるアーゼストの大島直人氏に話をうかがう機会をいただいた。大島氏はソニックのキャラクターデザインを担当された、いわば“ソニックの生みの親”である。

 本稿では、おふたりの制作現場での関わり方からソニックの変遷について、また、ソニックの “スピード感” を感じるレベルデザインなど、TGS会場で語られたインタビューの様子をお届けしよう。

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左から大島直人氏、飯塚隆氏

聞き手/豊田恵吾
文/柳本マリエ


「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の誕生にいたるまで

──今回、大島さんが同席されているということで、『ソニックスーパースターズ』に関する話はもちろんなのですが、改めてソニックというキャラクターが生まれた経緯について、まずはお話を聞かせていただきたいと思います。

大島氏:
 簡潔にお話しするのは難しいのですが、私はデザイナーとしてセガに入社して、絵を描いたりドットを打つ部署に配属されたんです。でも僕がやりたかったのは、ゲームを考える「ゲームデザイン」だったんですね。

飯塚氏:
 セガはゲームをデザインすることを「企画」、絵を描いたりドットを打つことを「デザイン」と呼んでいるんですけど、海外では企画職のことを「デザイナー」と呼んだりします。大島さんは勘違いされて、ゲームを考える企画職をやりたかったのにドットを打つデザイン職に入ってしまったんです。

──なるほど。大島さんはアート的なことよりもゼロからイチを生み出す企画がしたかった、と。

大島氏:
 はい。企画をやりたいと思いながら3年くらい我慢してデザインをしていました。ようやく企画をやらせてもらえることになったので、チームを作ったんです。当初はキャラも遊びもソニックとはまったく違うものだったのですが、のちにそれが『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』となりました。

 表向きには、「キャラクターデザイン=大島」となってますが、じつはマップも作ってますし、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のほぼすべてのボスは私がゲームデザインしています。

──ええ? そうだったんですね!

飯塚氏:
 ほかには、ループもピンボールも大島さんから生まれたものですね。

──それは驚きです。ちなみに、「ソニックは任天堂、マリオに対抗するために生み出されたキャラクター」と言われていますが、もしかしてこれも事実とは異なるのでしょうか?

大島氏:
 任天堂さんに対抗するためというよりも、当時の社長に「キャラクターとして気に入ってもらえた」という経緯があります。僕は広告業界から転職してセガに入社したんですね。プレゼンテーションが得意だったということもあり、ソニックのぬいぐるみやステーショナリーグッズの見本を事前に作ったうえで社長にプレゼンをしたんです。つまり、ゲームだけではなく「こんな展開もできます」と

 その結果、「こんなプレゼン見たことない」と評価していただき、「これをセガのマスコットキャラクターにしよう」となり、社長に気に入ってもらったことからソニックが飛躍していったんです。

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──有名な話として「ソニックが青いのはセガのロゴが青いから」と言われていますが……。

大島氏:
 それもあるのですが、その年のファッション業界のトレンドカラー、キーカラーがブルーだったんです。ちょうどアースカラー、エコロジーが取り立たされていた時代だったので、「いつまでも空が美しいブルーでありますように」という願いなども込められています。

 あとは、ブルーには「Cool(クール)」というイメージもありますよね。ただ、当時はクールのイメージは「かっこいい」ではなかったんですけども……。

飯塚氏:
 当時、日本ではクールは「すましている」とか「冷静」とか、日本人が誤解して使っていた英単語だったんです。

大島氏:
 ですので、日本で「かっこいい=クール」としたのは、ソニックが初めてだと思います。

──それはセガを象徴するマスコットキャラクターとしてソニックを、と決まったあとのお話なのでしょうか。

大島氏:
 そうです。あと、キャラクターに関していうと、ソニックってじっとしてられないとか、すぐ行動するキャラクターなわけです。考える前に行動するというのは、日本人にはあまりない発想なのですが、これは日本人から見た「アメリカ人のイメージ」なんですね。

──なるほど。日本人から見たアメリカ的なキャラクターだからこそ、欧米で人気を博したわけですね。

飯塚氏:
 もともと欧米向きのキャラとして作られた、というのが大きかったと思います。

大島氏:
 セガの中からも「こういうキャラがいいんじゃないか」とさまざまなキャラクターの提案があったんですね。どのキャラにしようか悩んでいるときに、ちょうどニューヨークに遊びに行くタイミングがあって。候補キャラクターのイラストを貼り付けたパネルを用意して、セントラルパークで道行く人々に「どのキャラクターがいいですか?」と人気投票をしたんです。そのときにいちばんだったのがソニックだったんですね【※】。その結果を受けて「このキャラでいこう」と。

※編集部注:ちなみに、この人気投票で2位だったキャラクターはひげのおじさんで、ソニックの宿敵「エッグマン」の原型となっている。

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2016年に開催された“ソニック25周年 アニバーサリーパーティー”にてお披露目されたソニックの初期デザイン案

──ハリネズミという発想はどこから出てきたのですか?

大島氏:
 完成形がどういったゲームになるかはわからない中、耳で物を持って投げるアクションを備えたウサギをデザインしたところ、“転がってスピードをつけて攻撃できるキャラクターにしよう” となったんですね。そのときに、ハリネズミにはトゲがあるので「ボール状になったら無敵」だと思ったんです。背中にトゲがあることで速く走っているようにも見えますし、ゲームとの相性がいいと思いました。でもハリネズミのことをよく知らずにソニックを作ってしまったので本物を見たときはびっくりしました(笑)。

──デザインに関していうと、当時はコンピューター上でデザインするのではなく、すべて手描きで作られていったわけですね。

大島氏:
 すべて手書きです。また、開発の初期はソニックではなく、さきほどお話したウサギのキャラクターを動かしていました。

飯塚氏:
 『ソニックスーパースターズ:デジタルデラックス』エディションの中には、ソニック誕生前に大島さんがプロトタイプとして仮で作ったキャラクター「ラビット」のスキンが入っています。

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──「おお! あれが来た!」と往年のセガファンがざわついているスキンですね(笑)。

ソニックチームの代表が現場の “いち要員” として携わる

──大島さんがセガを退社されてからおふたりが一緒に仕事をするのは何年ぶりになるのでしょうか?

飯塚氏:
 数えてみたら25年ぶりでした。大島さんと組むのは『ソニックアドベンチャー』以来だと思います。

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大島氏:
 25年ぶりとは思えない感覚でした。一緒に仕事をするパートナーには相性があると思うんです。飯塚さんは意見を出し合うたびにプラスに働くので、困ったらすぐ相談していました。

飯塚氏:
 『ソニックスーパースターズ』はほぼ僕と大島さんで内容を決めています。僕や大島さんは現場に入りにくいポジションになってしまったのですが、今回は現場のいち要員のように携わっています。

──ソニックチームの代表である飯塚さんが現場のいち要員として動いていたら、若い世代は学ぶことが多そうですね。

飯塚氏:
 リングの置き方ひとつにしても「こうやって置いたほうがいいよ」と指導しています(笑)。

──ええっ、まさか飯塚さんがリングの置き方まで指導していたとは。

飯塚氏:
 クラシックソニックについては、レベルデザインに携わっていた人員がもう僕しか残っていないんです。ですので、若い世代にノウハウを伝えていくためにも現場に入れたことはよかったと思っています。

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──そのノウハウについておうかがいしたいのですが、レベルデザインにおいてソニックに欠かせない部分や意識されている部分はどのようなところなのでしょうか?

飯塚氏:
 そうですね、たとえばソニックはスピードが速くて気持ちいいですよね。でも、じつはまっすぐな道をただ高速で走っていても “スピード感” は感じにくいんです。

──たしかにずっと同じスピードでただ走っていても速さは感じにくいかもしれませんね。ということは「速さを感じさせるレベルデザイン」があるということでしょうか?

飯塚氏:
 はい。それが “緩急” です。じつはソニックってずっと高速で走っているわけではないんです。ギミックによってメリハリがあり、それぞれ速さが異なります。

──なるほど。その緩急があるからこそ本当に速いときのスピード感を感じられる、と。

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飯塚氏:
 あとはそのスピードを壁などで阻害してしまわないように、「どうやって繋げていくか」を考えていきます。そういったノウハウを指導させていただき、後半はチームのみんなも理解してくれていろいろなアイディアを出してくれました。

 ステージやギミックはどんどん新しいものに挑戦したいので「サイバーステーション」では “くらげになる” というアイディアも実装しています。

クラシックソニックをドットではなく3Dでアップデートしたい

──ソニックは時代とともに、デザインやカラーが変化しています。大島さんはそういったソニックのデザインの変遷をどのように感じていらっしゃったのでしょうか?

大島氏:
 私は新しいことに興味があるタイプでして、ソニックを作ったあとは信頼できるメンバーにキャラクターデザインをお願いしていたんです。だからテイルスもナックルズもエミーもデザイナーが異なっているんですね。セガには優秀な人がたくさんいるのでまったく不安はありませんでした。

──4人マルチプレイによってソニック、テイルス、ナックルズ、エミーの4キャラが揃いますが、プレイアブルキャラクターはどのように決まったのでしょうか?

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飯塚氏:
 テイルスとナックルズはこれまでもソニックと一緒に戦ってきたのですが、エミーについてはソニックに助けられるNPCでした。そのため「エミーをプレイしたい」という声が長年あったんです。今回はそういった声に応えることができました。
 エミーは攻撃判定の広いハンマーアクションや2段ジャンプができるので初心者の方におすすめです。

──2017年に『ソニックマニア』でクラシックソニックの新機軸を打ち出し、2022年の『ソニックフロンティア』でモダンソニックの最先端を提示されたわけですよね。そして『ソニックスーパースターズ』では、3Dで描くクラシックソニックを送り出すことになります。改めて本作の立ち位置や企画の立ち上がりについてお聞かせください。

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飯塚氏:
 クラシックソニックをドットではなく3Dでアップデートしたいと思ったんですね。『ソニックマニア』が支持いただけた要因のひとつは、Christian Whitehead【※】というマニアが作ったことが評価に繋がっていると思っています。

 そこで、今回の『ソニックスーパースターズ』はソニックの生みの親である大島さんにお願いしたいと思いました。雑談レベルで話したらOKをいただけたことがきっかけです。

※Christian Whitehead
大のソニック好きでソニック作品を勝手にリメイクしたことで知られるゲームプログラマー。『ソニックマニア』で開発に携わる。

──大島さんがセガを退社されたあとも親交が続いていたのですね。

大島氏:
 はい。アメリカに行くときは飯塚さんに声をかけて現地でお食事をしたり。

飯塚氏:
 僕も日本に帰るときは大島さんに声をかけていました(笑)。

──大島さんは、飯塚さんから「いっしょにクラシックソニックを作ろう」とお話があったときどう思われたのですか?

大島氏:
 「これでファンの方々に恩返しができる」と思いました。というのも、SNSでソニックファンの方々からいまだにメッセージをいただいておりまして、みなさまに感謝の気持ちを伝えたいとずっと思っていたんです。

──大島さんの復活はファンにとってこれ以上ないサプライズだったと思います。先ほど一緒に仕事をするのは25年ぶりとおっしゃっていましたが、まず最初にどのようなすり合わせがあったのでしょうか? たとえば意見が分かれてしまうことなどはあったのでしょうか?

飯塚氏:
 それで言うと、大島さんから「完全新作だからプレイヤーの挙動から一新してもいいのではないか」という意見がありました。ただ僕としては「昔のソニックを遊んでくださっていた方が違和感なく3Dで遊んでもらえるようにしたい」という気持ちが強く、そこのギャップを統一するところから始めました。

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大島氏:
 私が変なことをしようとすると「やめてください」って言われるんです(笑)。

飯塚氏:
 大島さんからアイデアがたくさん出てくるんですよ。「それやりすぎじゃない!?」と止めることもありました(笑)。

──たとえばどういうことがあったのですか?

大島氏:
 ゲームをスタートさせたときのプロローグの演出は、じつは選んだキャラクターによって違うんです。冒険の始まり方はキャラクターごとに違うのでそうしたのですが、プロローグは1回しか出てこないので、見逃したらもう流れないんですよね。

──気づかない人はずっと気づかない部分なのにめちゃくちゃ工数がかかることをやってらっしゃるんですね(笑)。その部分はもっとアピールしたほうがいいと思います(笑)。

飯塚氏:
 ほら、やりすきでしょ(笑)。

ソニックブランド低迷から現在にいたるまで

──gamescomやSummer Game Festにも出展されていましたが、海外での反響はいかがでしたか?

飯塚氏:
 みなさんたいへん喜んでくださって、欧米では「クラシックソニックだ! ありがとう!」という第一声から取材が始まるんです。

──(笑)。海外のメディアからはどういった切り口での質問があるのでしょうか?

飯塚氏:
 海外は難易度を気にする方が多い印象です。歯ごたえがあるかどうか、とか。
 とくにgamescomやSummer Game Festでは最初の2ステージしか出せなかったので難易度が低めだったこともあり、そういった質問が多かったのかもしれません。

──TGSも大盛況ですよね。フューチャー賞の受賞もおめでとうございます。『ソニックフロンティア』も日本ゲーム大賞2023の「年間作品部門」優秀賞を受賞されていましたし、映画のヒットも含め、近年「ソニック熱」が高まっていると感じています。

飯塚氏:
 私がアメリカに赴任したのは約8年前なんですけど、当時はソニックブランドが低迷していました。ソニックチームはいまやっと一枚岩になり、これまで仕込んでいたものが形となりはじめ、近年の結果に繋がっていると感じています。

──それでは最後に発売を楽しみにしている読者に向けてメッセージをお願いします。

大島氏:
 ソニックを応援してくださったみなさまのおかげで僕も再び開発に携わることができました。ありとあらゆるプラットフォームから発売されるのでぜひ遊んでみてください。Nintendo Switchでも60FPSで動くので、ぬるぬると遊ぶことができます。

 昔からのファンの方にはキャラクターを懐かしんでいただけると思いますし、初めて遊ぶ方にはぜひソニックのスピードを味わってほしい。思いっきり走ってみてください。

飯塚氏:
 『ソニックスーパースターズ』は10月17日に発売を予定しています。マルチプレイも可能になったので、ご家族やお友だちと一緒に遊んでみてください。僕のおすすめは、価格以上の内容となっているデジタルデラックスエディションです。

 また、別タイトルとなりますが『ソニックフロンティア』の無料大型アップデート第3弾「超・完全決戦」が9月29日から配信されます。テイルス、ナックルズ、エミーがプレイアブルとなる新シナリオをお楽しみください。

──ソニックファンの方はぜひ10月17日までに『ソニックフロンティア』の新シナリオをクリアしていただいて、そのまま『ソニックスーパースターズ』も遊んでいただきたいですね。(了)

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 インタビューを通して印象的だったのは、おふたりの制作現場への関わり方だ。まさか飯塚氏が自ら「リングの置き方」まで指導していたとは思わないだろう。
 また、ソニックのスピード感を感じるレベルデザインも興味深い。たしかに緩急があることで、より速さが際立つ。そういったひとつひとつのメリハリがソニックの爽快感に繋がっているのだろう。

 『ソニックスーパースターズ』は10月17日にNintendo Switch、PS4、PS5、Xbox One、Xbox Series X|S、PC(Steam、Epic Games Store)にて発売を予定している。 

副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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