「売れるまで何度もアップデートをし続ける」という戦い方
喜多山氏:
以前、會津さんのお話を聞いてすごいなと思ったことがありまして、「利益が出るまでしつこく何度でもアップデートし続ける」という戦い方をされてるじゃないですか。
會津氏:
はい。
喜多山氏:
あれ、当時の私からしたら衝撃的で……「ありえんなぁ」と。
會津氏:
えぇ、マジですか?(笑)
喜多山氏:
普通だったらゲームを発売して、初回の本数が出て、そこから1か月ぐらいのリピートを見て、もう継続してもダメなものというのは明らかに数字が伸びないので、そこで諦めるじゃないですか。
會津氏:
諦めますね、普通は。
喜多山氏:
利益が出てたら、まだもうちょっと「なんかやってみよう」となるかもしれないですけど、出てなかったら、そこで「もう損切りして次に行こう」となるのが普通だと思うんですよ。
會津氏:
まあ、普通の経営者なら……。
喜多山氏:
はい。そこを、それでもしつこくアップデートをかけて、何回でも利益出るまで張り続けるって、これは普通の会社ならできないな、と思うんですよね。
會津氏:
えっと、単純にバカだからだと思うんですけど(笑)
一同:
(笑)
會津氏:
どういうことかというと、どんなゲームでもすべからく現場の人間って魂込めて作ってるんですよ。「受託病」の時はどうかは知りませんよ、だけど、間違いなく自社パブで出してる時はそうなんですよ。
「お前の作ったゲーム利益出ぇへんから損切りするわ」って言われたら作った人間は悲しいじゃないですか。「ほんなら、もう仕方ないから彼らが喜ぶまで売ったろ」という、ただそれだけなんですよ。
要するに、自分たちで作ったゲームは売れませんでした。誰も遊んでくれませんでした。はい、おしまい。だと社員のモチベーションも続かないので、ほんならもうリクープするまで売るよ、アップデートするから付き合ってくれと言って、アップデートして売るぞってスタイルなんです。
これには二つ意味があって、一つは「せっかく作ったコンテンツを無駄にしたくない」という意味。もう一つは「お前ら売れるまで頑張れよ」と、自分らが自信を持って作ったのであれば、プロモーション期間としてアップデート期間を設けるから、さらに快適なゲームにして、さらに色んな人に遊んでもらえるようにしてよっていう、最後まで作品に責任を持ちなさい、という意味があるんですよね。
喜多山氏:
なるほど。
會津氏:
はい、なので、それをやって最終的にリクープできなくて利益が出なかったら会社潰れるだけなので、頑張ってやるっていう。
喜多山氏:
今のところ、全部リクープしてるってことですかね?
會津氏:
潰れてないですからね、一応(笑)
喜多山氏:
それがすごいなと思っていて。だって結局、広告宣伝費は発売後にかけなかったとしても、アップデートには開発費が絶対かかるじゃないですか。
會津氏:
かかりますね。
喜多山氏:
その分、赤字の状態なのにさらに開発費が積み上がっていくわけですよね。
會津氏:
そうです、そうです。
喜多山氏:
で、それに対して売上本数が伸びていかなかったら全然追いつかずに、いつまで経っても赤字が減らないわけじゃないですか。むしろ、下手したら膨らむ可能性だってあるわけで。
會津氏:
膨らみますね。
喜多山氏:
それをどうやって回収まで持っていくの?っていうのが本当に謎なんですよ。
會津氏:
そうですか?(笑)
TAITAI:
アップデートをしていると、そんなにお客さんってついてきてくれるんですか?
會津氏:
少なくとも『ドラゴン・マークト・フォー・デス』ってタイトルは、1年間アップデートしたんですよ。1年アップデートがおわったタイミングでは、リクープ手前ぐらいだったんですよね。ただ、1年間アップデートしたことによってエンドコンテンツがすごく充実したっていうことと、前は評判が悪かったんですけど、だいぶ評判がいいタイトルになりました。
実は、『ドラゴン・マークト・フォー・デス』はアップデートが終わった後の売り上げの方がアップデートが終了するまでより多いんですよ。
喜多山氏:
なるほど、結果、リピートの方が多くなってるってことなんですね。
會津氏:
そういうことです。
誰も好きじゃないゲームではなく、誰か一人が「大好き」と言えるゲームを
喜多山氏:
これ、お聞きしていいかどうか分からないんですけど、アップデートをかけていくのが普通になると、発売初日に買わないっていう買い控えは起きないんですか?
會津氏:
そこはですね、うちのゲームって結構シナリオ重視のゲームが多いんですよ。なので自分で最初にプレイしたいっていう人は発売初日で買わないとネタバレがバンバン飛んでくることになるんです。
アクションゲームなのにシナリオがしっかりし過ぎちゃってるので、うちのすごいファンの方は「それでもやっぱり初回に買おう」という形になると思いますね。
喜多山氏:
なるほど、いいバランスになってるんですね。
會津氏:
そうですね、なぜか知らないけどうちのディレクターは皆、シナリオをいっぱい書くんですよ。ローカライズに出すと10万文字ぐらいあったりするんで(笑)
喜多山氏:
2Dアクションなのにわざわざ10万文字もやるってどうなんですか。ローカライズしやすいはずなのに(笑)
會津氏:
えぇ(笑)
會津氏:
うちの場合だと、もう本当にディレクターの意見で作るという形になっているので、ディレクター以外の人間が全員不満を持っていたとしても、ディレクターが「俺だけはこのゲーム大好き!」というゲームにならないといけないと思ってるんです。
喜多山氏:
そうですね、ディレクターにはちゃんと、無視する権利を持たせておかないと難しいですね。
會津氏:
そうしないと誰も好きじゃないゲームができあがっちゃうので。
喜多山氏:
そうなんですよね。
會津氏:
少なくとも、ディレクターひとりが「大好きこのゲーム!」ってなっていれば、そのディレクターと同じ趣向の人間は好きなはずなので。よっぽど、そいつが偏固な奴じゃない限りはですけど。
喜多山氏:
結構、皆で作りたがる人いるじゃないですか。
ただ皆で作りたがってるものの企画を見ると、やっぱり作品として丸くなって、結局だれも喜んでないゲームになっちゃうんですよね。
會津氏:
そうですね、それはありますね。なのでディレクターと、あと各セクションのトップの人間ですよね。背景だったりキャラクターだったりとか、あとUIであったりとか、サウンドであったりとかって、それぞれの自分の表現する文野で一番上の人間はエゴをどんどん出して、「自分だけはこのゲーム好き」っていうゲームを作らないと、誰にも愛されないゲームができあがります。
喜多山氏:
本当にそうです。おっしゃる通りだと思います。
RPGに興味あり?これからのインティで開拓していきたいジャンル
喜多山氏:
もうちょっと掘っていきたいジャンルだったりとか、攻めていきたい路線はインティさんとしてはあるんでしょうか?
會津氏:
基本的にはもちろん、アクションゲームのほうが売れるんじゃないかなと思うんですけど、たとえば『ドラゴン・マークト・フォー・デス』を出した時も、ただのRPGにするんじゃなくて、2D横スクロールアクションの形をしたRPGにしてるんですよね。
そういうような形で、「横スクロールアクションゲーム的な見た目だけどRPGにしますよ」とか、カードゲームみたいなものにしても「横から見れる見た目のアクションゲームでカードを使いますよ」みたいなのだったら多分できると思っていて。
そういう話だと、やっぱりRPGかな。その、RPG要素を持ったゲームっていうか。そういう成長要素とかロールプレイ要素があるものを出したいなと思ってますね。
……思ってますけど作ってはいませんよ、今は何も(笑)
喜多山氏:
やりたいな、という(笑)
會津氏:
えぇ、「あれやったかー!」って何年か後に言ってるかもしれませんけど。
喜多山氏:
人が増えて社内のライン数が増えると、社内のタイトル同士で同じジャンルのものは必然的に食い合いが始まってくると思うんですよ。なので、どっちにしても違うジャンルに分散していく必要性が自然に出てくるんじゃないのかな、と思うんですけど。
會津氏:
そうですね。
喜多山氏:
それが、さっきのRPGの話とかにも繋がっていくのでしょうか。
會津氏:
そうですね、リズムゲームの『ガンヴォルト レコーズ 電子軌録律』(※)も出しましたね。
※『GUNVOLT RECORDS 電子軌録律(サイクロニクル)』
『ガンヴォルト』シリーズに登場する歌姫モルフォ、RoRo、ルクシアが歌う楽曲をリズムゲームとして遊べるタイトル。全35曲が楽しめる。
インティ・クリエイツでは、社長は損な役回りだと思われている?
喜多山氏:
後継者問題についてはどのようにお考えですか。
會津氏:
後継者問題ですか?
喜多山氏:
問題、というのはおかしいですね。事業承継といった方がいいですね。
會津氏:
事業承継ですか、まあ……でも、誰か社長やりたいっていう人が来たら「お願いします」って言いますよ。
喜多山氏:
いま、社内に候補はいらっしゃらないんですか?
會津氏:
えっと、これね……。
本来ならよくないんですけど、自分が頑張りすぎちゃってると思うんですよ。
喜多山氏:
會津さんが?
會津氏:
ええ。
喜多山氏:
ああ!いやもう絶対真似できないと思いますよ。このあと聞こうと思ってましたけど。
會津氏:
皆さん、そういう風に言ってきますよね。だから、うちの会社で社長って損な役周りだと絶対思われてるはずなんですよね。うちの会社では。
喜多山氏:
誰もなりたがってないと。ああはなりたくないと。
會津氏:
まあ、でしょうね(笑)
喜多山氏:
この後聞こうと思ってたんですけど、イベントとかめちゃめちゃ出まくってるじゃないですか。海外の出張とか、めちゃめちゃ多いですよね。
會津氏:
まあそうですね、一番大きな理由はなにかというと、うちは開発会社じゃないですか。ということは、実は開発以外のパブリッシュの業務って基本的にはできないんですよ。2人か3人のパブリッシュの経験のある人間だけで回さなきゃいけない状態になってるんです。
さらに海外も1人のプロデューサーが全部見っていう形で。もう、その4人ぐらいで全部パブリッシュの業務をやってるわけですよ。
まあ、なんでそうなっているかというと、受託業にまだ未練があるので(笑)
喜多山氏:
あ、まだ未練はあったんですか(笑)
會津氏:
なので、いつ何時でも受託100%に戻っていいように、そこを強化しない方向性で動いてるわけです。
TAITAI:
宣伝しといてください、受託くださいって(笑)
會津氏:
受託ください!!!
會津氏:
なので、例えば「イベントあります」、「店頭体験会あります」って言ったらもう行くしかないんですよ。ほかに行ける人間いないわけですから(笑)
TAITAI:
ちなみに受託に未練があるってのはなんでですか?
會津氏:
そりゃあ、もう……受託はいいですよ。
マスター納品すればおしまいですから(笑)
TAITAI:
それは、パブリッシャーからいろいろ言われて大変なのでは?
會津氏:
パブリッシャーからいろいろ言われて大変ですけど、自社でやる場合はお客さんから直接いろいろ言われますからね。言われる先が違うだけですから。お客さんは何万人もいます、でもパブリッシャーの担当は一人しかいませんから(笑)
喜多山氏:
そっちの方がマシですか?
會津氏:
マシっていうか……(笑)
分かりやすい。一元化されてて分かりやすいじゃないですか。
喜多山氏:
なるほど。
會津氏:
やっぱり受託をやめて自社パブ一本にするっていうのは非常に大変だと思いますね。なので、そうしようと思ってる経営者の方がいらっしゃるんだったら、ぜひ50-50でいけるように頑張っていただいて、うちみたいにならないように(笑)