「俺より強い奴に会いに行く」とでも言わんばかりに、中国から自前のレバーレスコントローラーを持参して日本にやってきた。彼の名前は李振宇(リ ジェンユー)。
李さんは『原神』や『崩壊:スターレイル』でお馴染みのHoYoverseの最新作、『ゼンレスゾーンゼロ』のプロデューサー兼ディレクターを務めている。どうやら彼が『ストリートファイター』シリーズの大ファンだそうで、今回の対談を行うことになった。
そして参戦してくださったのが、シリーズ最新作『ストリートファイター6』ディレクターの中山貴之さんと、プロデューサーの松本脩平さん。現役で『スト6』をゴリゴリにやりこんでいる李さんは、このおふたりと「ゲームデザイン」について語り合ってみたかったとのこと。
……ただ、ここでみなさん大体同じことを思っているはず。
アクションゲームの『ゼンレスゾーンゼロ』。
対戦格闘ゲームの『ストリートファイター6』。
全然ゲームジャンル違くない?
実際、私も最初にお話を聞いた時は「えっ、ジャンルが違うのでは……?」と思った。しかし李さんは、どうやら『ゼンゼロ』と『スト6』には、「ある共通点」があると考えているらしい。
そしていざ対談が終わってみると、意外にも「そういうことか」と納得がいった。
全く違うようで、実は近いかもしれないふたつのジャンル。予想外の盛り上がりを見せ、「ゲームの手触りの作り方」と「ゲームの面白さをどう届けるのか」について、熱く語り合う内容となりました。
『ゼンレスゾーンゼロ』を楽しみにしているアクションゲーマー・HoYoverseファンの方、そして『ストリートファイター6』をプレイされている格闘ゲーマーの方も、ぜひ最後までご覧ください。
ちなみに、今回の対談の開始前に、実際に李さんと中山さん・松本さんによる『スト6』の対戦プレイと、『ゼンゼロ』の体験プレイが行われました。終始楽しそうにプレイされていて、何より!!
※記事内で使用している『ゼンレスゾーンゼロ』のゲーム内画像は、開発中のものです。正式なリリース版とは、一部異なる場合がございます。
開発陣と『スト6』で遊んでみて、いかがですか?
──念願の『スト6』開発陣との対戦が叶ってみて、いかがでしたか?
李振宇氏(以下、李氏):
緊張と興奮と、嬉しい気持ちが混ざりあっているような感覚ですね……!
松本脩平氏(以下、松本氏):
こちらこそ、とても嬉しかったです。
カプコン以外の方とこうやって対戦する機会も中々ないですし、昔から『ストリートファイター』シリーズに触れてくれている上に、同じゲームクリエイターの李さんと対戦できたのは、すごく光栄でした。あとは……単純に、楽しかったですね(笑)。
また対戦しましょう!
李氏:
ぜひユーザーコードを交換して、今後も対戦したいです!
中山貴之氏(以下、中山氏):
ちなみに、日本時間の18時半以降にしてもらえると助かりますね。
松本もそれまでは仕事をしていると思うので(笑)。
李氏:
おふたりと一緒に遊ぶためなら、私は徹夜でも構いません!
一同:
(笑)。
──逆に、中山さんは『ゼンゼロ』をプレイされてみていかがでしたか?
中山氏:
まず、すごく触り心地がよかったし、アニメーションも凝っているなぁと。演出やUIも作り込まれているし、エフェクトもカッコいいし……完成度の高いゲームだと感じました。
ただ、自分は今日が初プレイだったので、あまりカッコよく動かせなかったんですけど……(笑)。
松本氏:
いやいや、普通に上手かったと思うけど?
中山氏:
あ、そう?
じゃあ……俺、『ゼンゼロ』上手いです(笑)。
一同:
(笑)。
中山氏:
早くもう一度プレイしたいですね。
回避がもうちょっと上手くなったら、もう少しカッコよく戦えると思うんだけど……。
李氏:
もう、中山さんだったらすぐに上達されると思いますよ!
『ゼンゼロ』の根本にあるのは、実はビジュアルやキャラクターじゃない
──今回、李さんは『ストリートファイター』シリーズの大ファンだということで、対談を行う形となりました。その上で『ゼンゼロ』と『スト6』に共通点を感じているとのことでしたが、実際におふたりとお会いされてみて、李さんからなにか話したいことなどはありますでしょうか?
李氏:
はい。『ゼンゼロ』と『スト6』は、「多くのユーザーにゲームの面白さを知ってもらうための仕組み」を重視しているという点で、個人的に共通点を感じていました。この話題について、おふたりと話し合ってみたいと考えていました。
まず、「ゲームデザインの考え方」について、お話してみたいと思っています。
実は『ゼンゼロ』を制作する時、最初に考えたことは「ゲーム慣れしている人からそうでない人にまで、誰にでも楽しめるアクションゲームを作りたい」ということでした。もちろんビジュアルやキャラクターにもこだわっていますが、今作の根本にあるのは「誰でも楽しめるアクション」というゲームデザイン寄りの考え方なんです。
そして、アクションゲームの『ゼンゼロ』と、対戦格闘ゲームの『スト6』は、ジャンルそのものは全く違ったジャンルのゲームです。ただ、この「アクションと対戦格闘」というジャンルは、実のところ共通する考えで作られているのではないかと感じています。
中山氏:
たしかに、それはあるかもしれないですね。
それこそ「対戦格闘ゲーム」は、言ってしまうとアクションゲームの中のカテゴリーのひとつですよね。そもそもアクションゲームの原理や原点は、「ボタンを押したらリアクションが起きて、それがゲーム画面の中で反映され、いろいろなものを解決したりする」ところにあると思います。
つまり、対戦格闘ゲームとアクションゲームの違いは、そのアクションの原理の中で1対1での戦いが行われるのか、それとも1対多なのか……というだけの違いだと思います。だから、ある意味「面白さの根底」は一緒なのかもしれないですね。
李氏:
私自身、個人的に「格闘ゲームとアクションゲームの類似点はどこなのか」と考えていたことがあります。
そこで、『スト6』の「ドライブインパクト」【※1】の発生フレーム数について、大まかに計算してみたことがありました。あれはおそらく30フレームくらいで発生していると思うのですが、この「30フレーム」という時間は、「一般的なプレイヤーが集中力を保てる時間」なのではないかと考えました。
そしてこの事実に気づいた時、ドライブインパクトが「プレイヤーの集中力を分散させない反応速度」をすごく考えてくれているシステムだと理解しました。
ちなみに、『ゼンゼロ』における「極限支援」【※2】というシステムも、発動時のエフェクトやフレーム数などで「プレイヤーが反応しやすい速度」を意識しました。
中山氏:
なんと、いきなりすごく濃い話ですね(笑)。
──実際、ドライブインパクトのフレーム数にはどういった意図が込められているのでしょうか?
中山氏:
李さんのおっしゃる通り、ドライブインパクトの発生フレーム数は30くらい……正確には、「26フレーム」なんですよね。この数字は、人間が「見てから反応できるギリギリのフレーム数」なんです。
このギリギリの時間を開発チームの間で何回もテストし、最終的には「どれだけ上手い人でもミスってしまうと返せない」くらいのフレーム数を狙いました。そして、そこに対する「ドライブパリィ」などの、「ドライブインパクトを返せる手段」は複数用意しました。その間で生まれる駆け引きや読み合いをフレーム単位で調整していました。
実際に『ゼンゼロ』を触って感じたのですが、おそらくあの光って回避する技もそのくらいのフレーム数で作られていますよね?
李氏:
そう、まさにそれが「極限支援」ですね! それに近い「防御手段」のシステムとして、「極限回避」【※3】なども用意しています。
松本氏:
たしかに、あの黄色い光のやつは分かりやすかったよね(笑)。
中山氏:
実際に敵の予兆があり、「あ、ヤバい!来るぞ!」と思ってから押すまでの時間が、考えられていると思いました。特にトリガーを押し込んだ時の気持ち良さもありますし、そこが遊びとして面白いなと。
李氏:
さきほど中山さんがおっしゃってくださった通り、『スト6』は1対1のゲームで、『ゼンゼロ』は1対多のゲームです。それこそ「ドライブインパクト」に対する「ドライブパリィ」などの、実際の対戦中に気を配らなければならない要素がたくさんありますよね。
私たちも『ゼンゼロ』を制作する中で、バトルシステムに「プレイヤーに気を配ってもらえる要素」をたくさん用意するようにしていました。
『スト6』と『ゼンゼロ』のチームって、どうやってゲームを作ってる?
──『スト6』と『ゼンゼロ』において「ゲームの手触り」を作り込む時、チーム内ではどういった作り方をされているのでしょうか? チーム内で話し合いながら作り上げるのか、それとも中山さんや李さんのようにディレクターがひとりで作り上げていくのでしょうか?
中山氏:
『スト6』の場合、「バトル班」というバトルを制作するチームがあるんです。
基本的には、そのバトル班と協議しながら作り上げていきます。
だから逆に、自分の方から「この攻撃の発生はこのくらいにして」とお願いすることは、ほとんどないんです。どちらかというと、「対戦の中でどういう体験をお客さんにしてもらいたいか」ということをお願いすることが多いですね。
たとえば「ドライブシステム」の場合、「この仕様に対して、どういうシステムを乗っけたらお客さんに受けて入れてもらうだろう」ということを僕(ディレクター)側で定義して、バトル班は「それを再現するならこういう仕組みだよね」と応えてくれるような作り方をしています。
さきほど話題に出た「ドライブインパクト」と「ドライブパリィ」なんかは、わかりやすい例ですね。前者の「ドライブインパクト」は、対戦格闘ゲームを初めて触る方に向けて、「押しとけばなんとかなる攻撃」をひとつ作りたかったんです。一方の「ドライブパリィ」も、「押しとけばなんとかなる防御」を用意するイメージでした。
だから最初は、本当に開発チーム内でも「なんとかなる攻撃」と「なんとかなる防御」と呼んでいたくらいのシステムでした(笑)。
中山氏:
格闘ゲームって、基本的には「攻撃」「防御」「投げ」の3すくみがあるじゃないですか。「ドライブシステム」はそこの3すくみの中でもうひとつ枠を広げることで、その選択肢の駆け引きをお客さんに楽しんでもらおうと考えていました。
そういった「このシステムでどんな楽しみ方してほしいか」を形作っていくところまでが自分の仕事で、そこからの細かい部分はバトル班と協議しながら作り上げていきます。
そこの「協議と検証」を、開発初期の2年くらいはずっと繰り返していました。その中でボツになってしまったシステムもあるし、当初とは形を変えたシステムもあります。『スト6』は、こういった作り方をしていますね。
李氏:
チームで議論を重ねながら手触りを作っていくのは、『ゼンゼロ』のチームと同じですね!
ただ、こちらの制作過程とは少し違っていて……私が『ゼンゼロ』を制作する初期の段階で考えたのは、「どうすればプレイヤーに爽快感のある体験を味わってもらえるか」ということでした。
実は当初、今作に「極限支援」や「極限回避」といったシステムは存在していなかったんです。ですが、「どうすれば回避や交代でプレイヤーに爽快感を感じてもらえるか」といったことを考える中で、このシステムを作り上げていきました。
そして私はどちらかというと、「プレイヤーの反応」を観察するようにしています。そのゲームを遊ぶ中で、どういう反応があるのか。どんなテンションで遊んでいるのか……それを観察しつつ、システムを作り上げていきます。
たとえば、「極限支援」と「極限回避」の存在しない開発初期の『ゼンゼロ』では、テストプレイ中のプレイヤーのテンションは、高くもなく低くもなく、ずっと同じテンションで遊んでいました。
このままでは良くないと判断し、「では、そこに対してどんなシステムを導入すれば、プレイヤーのテンションを高く保てるのだろう?」と考えたことが、このふたつのシステムの制作に繋がっています。
李氏:
そのため、私自身はゲーム制作においては「発散型」……なにか目的を決めるより、実際にプレイする中で起きた問題に対処しながら完成形を目指していくスタイルだと思うのですが、『スト6』の開発チームはどちらかというと明確な「目標」を設定した上で、その目標に向かっていくスタイルですよね。
そのスタイルも、いいゲームに繋がりやすい制作方法ですよね……!
──「目標に向かっていく」という点で言えば、『スト6』の制作におけるプロデューサーとしての松本さんの意向などについても、お聞きしてみたいです。具体的に、『スト6』はどういった目標を立てた上で制作されたのでしょうか?
松本氏:
『スト6』の目標としては、まず「『ストリートファイターⅤ』から『スト6』にどう移行させたいのか」を考えていましたね。
そして同時に、「新規タイトル」としても受け入れてもらいたい。そこから、こんなユーザー層を新しく取りたい、そして既存のユーザーさんにも楽しんでもらいたい……などを考え、新たな操作タイプや「ワールドツアー」【※4】を追加しました。
そこに加えて、いまのユーザーさんの傾向として、「オンラインでコミュニケーションをすること」に重きを置いている方が多い事も感じていました。それが「バトルハブ」【※5】の制作に繋がっています。
そして、「プロデューサー」の立場としては、TwitchやYouTubeで行われる配信のサムネイルを『スト6』で独占したいと考えていました(笑)。
そこから逆算して、ゲーム内に「映像映えする要素」「見ていて楽しい要素」を作り上げていきました。ぼんやりとした「発売された時にこうなっていてほしい」というイメージを共有して、ゲーム開発側でシステムやモードとして落とし込んでもらうような役割分担を行っていました。
中山氏:
『スト6』のプロデューサーとディレクターの関係って、ちょっと特殊なんですよ(笑)。
自分もどちらかというとプロデューサー的な視点で作るタイプというか……「どうやったらお客さんが喜んでくれるか」というところから逆算してシステムやモードを考えることが多いんです。だから、別に示し合わせたわけじゃないんですが、開発段階から自分と松本は言っていることや考えていることがほぼ一緒でした。
松本氏:
そうそう、ほとんど意見が一緒でしたね(笑)。
中山氏:
『スト6』で一番最初に作った企画書もすごく分厚くて、たしか80ページくらいはあったと思うんです。その企画書でも「こういうことだよね」という話をふたりでしながら、作り上げていきました。
中山さんと松本さんが『スト6』の開発に参加した意外な経緯
──ちなみに、松本さんはどういった流れで『スト6』の開発に参加されたのでしょうか?
松本氏:
元々僕はカプコンではなく、別の会社で営業をしていたんです。
そこから転職をして、まずカプコンの人事部に入りました。そこでは開発側と営業管理側の間を繋ぐ「開発人事」という仕事をしていました。
そして、そこから今後ゲーム業界でキャリアを続けていくにあたって、「ゲーム開発自体のことをもうちょっと知っておかないとな」と考えました。だから、周囲に「ゲームの開発に携わる仕事をさせてほしい」とは言っていたんです。
その時たまたま声をかけてくれたのが、『ストリートファイター』のプロジェクトを担当されている方でした。ただ、「やってみない?」とは言われていたものの、具体的に何を作るのかは説明してもらえなくて(笑)。
まず、「一度チームの雰囲気を見てみてよ」と言われていました。
たしかそれが、『ストⅤ』の発売前の時かな?
中山氏:
そうだったね!
松本氏:
チームに行ってみたら、たしか中山さんもいたんですよね。
そこから実際に異動することになったのが、『ストⅤ』が発売してからすぐ……2016年の8月くらいだったと思います。あの時は「アシスタントプロデューサーをやってくれ」と言われて入りました。与えられていたミッションも「3年か5年くらいアシスタントをやって、なにかひとつでもタイトルを持てるように」というものでした。
でも、実際には色々あり、1年くらいでアシスタントからメインプロデューサーを務めることになりました……(笑)。
正確には、『ストⅤ』のシーズン3から5までのプロデューサーを担当しました。それと同時並行で、『スト6』のプロデューサーも兼任していましたね。
──ゲームの開発経験がなかったところからプロデューサーまで担当してしまうのは、かなり異例なケースですよね?
松本氏:
カプコン社内だと「営業管理職から開発職に行った」パターンは初めてらしいんです。
社内の偉い方々に人事の入れ替えシステムを考えてもらった事もあり、プロデューサーを担当する時には「そこまでしてもらえるなら」という点で気合いが入りました。あとは、元々自分自身が『ストリートファイター』が好きだったのもあって、気合いの入り方が違ったのかもしれないです。
──中山さんが『スト6』でディレクターを務めることになった経緯も、改めてお聞きできればと思います。
中山氏:
まず、自分は2001年にカプコンに入社しました。元々はアーケードの対戦格闘ゲームが好きで……それを作りたくてカプコンに入ったのですが、まさにその入社した年に「もうアーケードでは対戦格闘ゲームは作りません」と言われてしまったんです。
理由としては対戦格闘ゲームが多く出すぎた事と「アーケードゲーム機よりも、コンシューマ機のスペックの方が上がっているから」ということでした。
ちなみに、ちょうどその宣言が出るくらいに作られていたのが『CAPCOM VS. SNK 2 MILLIONAIRE FIGHTING 2001』です。
それが、「ゲームセンターの筐体と家庭用が同時に出る」という形での販売だったんですよね。アーケードでまず出て、それから家庭用に移植されるという流れが昔から続いていたのですが、とうとう「同時に出る」という時代になってしまいました。
結果として、社内でも「もう時代は家庭用ゲームだ。対戦格闘ゲームを作る時ではない」という判断になりました。
──対戦格闘ゲームが作りたかったのに、実際に入社されてからは全く携われなかったんですね。
中山氏:
まさに、最初の6~7年は「対戦格闘ゲームを作りたかったのに、対戦格闘ゲームが作れない」という状況でした。一度だけアーケードゲームを作るチャンスもあったのですが、ゲーム業界ではよくある「ペンディング」(保留)という状態になってしまいましたね(苦笑)。
そんな状況だったこともあり、「別の会社に行って、違う仕事をしよう」と思い、一度カプコンを辞めました。そこから数年経ち、東京ゲームショウで当時の先輩にお会いし、「またウチで対戦格闘ゲームを作るらしいから戻ってこいよ」と言われ、再びカプコンに戻ってきたような形です。
李氏:
中山さんと松本さんにはそういった経歴があったんですね……!
率直ですが、「本当にここまでにたくさんの困難を乗り越えてきたんだ」と感じました。特に、中山さんの「一度会社を辞めた」というお話は、衝撃的だったというか……『ストリートファイター』というゲームの魅力を多くの人に届けるために、これほどの努力やドラマがあったことに、すごく感動しました!