キアナ、芽衣、ブローニャ……「いつもの3人」が作られた時の話
──ここからは、「崩壊」シリーズのキャラクターについてもお聞きできればと思います。シリーズ内には、「雷電芽衣」や「ブローニャ」などの、各作品をまたいで登場する「並行同位体」がいわばスターシステム的に存在していると思うのですが、そもそもこの「並行同位体」というシステムはなぜ存在しているのでしょうか?
崩壊チーム:
このシステム自体は、昔から考えていたんです。
つまり、シリーズの立ち上げ当初から「崩壊」シリーズが大きなIPになることを構想していましたし、そのIP同士が作品を超えて繋がるものであることも決めていました。そのシリーズ内での繋がりを表現するために最も適切だったものが、「並行同位体」だったんです。
それにはふたつの理由があって……ひとつ目は、同位体のキャラを通じて、その作品の相対的な独立性を保つことができるからです。たとえば『崩壊3rd』では「雷電芽衣」として登場していても、『崩壊:スターレイル』では「黄泉」として登場している。これは、両作の明確な違いですよね。
ふたつ目には、同位体というシステムを通じて、IPのコアユーザーに「ひとつのキャラには、その世界ごとに別々の可能性が含まれている」ことを見せられるからです。
──同じ「芽衣」でも、『崩壊3rd』と『崩壊:スターレイル』では全く違う人生を歩んでいますよね。
崩壊チーム:
まさにそうです!
たとえ同じキャラクターでも、別の選択をすれば、全く別の人生になるかもしれません。私たちの生活の中でも、過去のある地点で全く違う選択をすれば、全く違う人になるのかもしれない……そんな可能性を描くには、ひとりのキャラクターではなく、「同位体」が適切だと考えたんです。
──ちなみに、やはり開発チームのみなさんも「雷電芽衣」や「ブローニャ」などには、並々ならぬ思い入れがあるのでしょうか。どの作品を見ていても、みなさんの愛を感じます。
崩壊チーム:
その質問に関しては、まず最初に「YES」と答えさせてください!
一同:
(笑)。
崩壊チーム:
もちろん、創作者としては、自分たちが描いてきたすべてのキャラに対して、深い愛情を持っています。
たとえば「芽衣」や「ブローニャ」は私たちと長く付きあってきたキャラですから、私たちも彼女らに深い理解を持っています。だからこそ、より多くの側面を掘り出すこともできたし、より多くの同位体を作り上げることができました。
そして、キアナの描写も変わらず頑張っています……!
──シリーズ内でも、キアナ、芽衣、ブローニャの3人は特に中心的なキャラクターとなっていますよね。この「キアナ、芽衣、ブローニャ」の3人が初めて作られた時のことをお聞きできないでしょうか?
崩壊チーム:
やはり、その3人が作られたのはかなり初期の……つまり、『崩壊学園』の頃ですね。その頃は、まだシリーズもコンパクトでした。
そして、その3人を作るうえで大切にしたのは、「まだ3人とも成長しつつある乙女」であることです。まだ成長途中の3人には、可能性が満ち溢れている。だから、未来にもさまざまな可能性があり、プレイヤーと一緒にいろいろな経験をする中で、段階的な成長を遂げていくことができる。
そんな風に作り上げたからこそ、『崩壊3rd』や『崩壊:スターレイル』でも、同位体としてのキャラクターの可能性を実現することができました。長く続いていくシリーズですから、特に中心的な存在となるキャラクターは、その空白性と純粋さを保つことを大切にしていますね。
──長く続くことを想定していたからこそ、キャラの可能性を大切にしていたんですね。ちなみに、同じシリーズ内の「芽衣」でも、『崩壊3rd』と『崩壊:スターレイル』では設定も違えばビジュアルも違う存在として描かれています。この作品ごとの描き分けは、どのように意識されているのでしょうか?
崩壊チーム:
元の作品と比べて、新たな作品に登場する時に「どんな新しい点があるのか」を考えるようにしています。たとえば、「黄泉」がわかりやすい例ですね。
黄泉は、『崩壊:スターレイル』の宇宙という舞台に合わせるために、キャラクターデザインに「ブラックホール」の要素を大きく取り入れています。
こういったシリーズ内での差別化を行う際は、まず「このキャラの人生には、どのような新しい可能性があるのか」を考え、その新しい可能性をビジュアルの面でどのように表現していくのかを大切にしています。そのふたつを合わせ、合理的に設定を作り上げていきます。
崩壊チーム:
違う同位体になれば、やはり世界の背景も変わってきます。
ですが、そのキャラクターの核心……最も深いところにある「心」は同じものなんです。私たちは、ビジュアルとストーリーの両面で、プレイヤーにこれは新しいキャラクターだと十分に感じてもらいたいと考えています。しかし、物語が完全に終わった後には、やはり本質的に同じ存在だと感じてもらえたらうれしいですね。
──「世界が変わっても、根の部分は変わってないんだ」と感じられるように作っていたんですね。
「今までで最も生み出すのが難しかったキャラ」とは
──シリーズ内には、「エリシア」のような、設定やバックストーリーも膨大なキャラクターが何人も登場しています。率直にお聞きしてしまうのですが、「これまでで最も生み出すのが難しかったキャラクター」がいれば、ぜひお聞きしてみたいです。
崩壊チーム:
最も生み出すのが難しいキャラは……「いま生み出そうとしているキャラクター」ですね。キャラクターを生み出す時には、強い不確定性が存在しています。だから、プレイヤーさんたちがこのキャラを受け入れてくれるのか、満足してくれるのか……という不安もあります。
だから、実際の仕事上という意味では、「いま作っているキャラ」が最も難しいです(笑)。
そして、過去のキャラクターを例に挙げると、「最も難しい」とまでは言えないものの、一般的に言えば、人生経験が長く、人間関係が複雑で、考える問題が重いキャラクターほど、描くのが難しい傾向があります。
──それはどういった意味なのでしょう?
崩壊チーム:
これらのキャラクターの経験や境遇は、しばしば普通の人とは大きく異なります。しかし、シナリオの執筆となると、多くの場面で彼らを「普通の人」の一面に戻さなければならず、その微妙な違いを表現するのは非常に難しく、一字一句を丁寧に書き上げる必要があります。
たとえば、ケビンのセリフでは、常に「十分な重みがあるか」を考えなければなりません。フカも同様に、彼女の一挙手一投足がその長きにわたる守護者としての経験から逸脱してはなりません。そうでなければ、違和感が生じてしまいます。
『崩壊:スターレイル』では、黄泉のように一言一句を十分に優しく表現する必要があったり、景元のようにすべてのセリフにおいて十分に緻密な計算を感じさせる必要がある例もあります。
これらのキャラクターを例に挙げれば、すべてのキャラクターのセリフを書く際に、ひとつひとつの対話を何度も慎重に吟味する必要があることが伝わるのではないでしょうか。ただ、これは「最も難しいキャラクター」というよりも、「キャラクターを描く上で最も難しいこと」と言った方が正しいかもしれません。
崩壊チーム:
他に、「専門的な知識を持っているキャラ」は描くのが難しいですね。
たとえば、『崩壊3rd』の「スウ」がわかりやすい例です。スウを書く時は、まさに専門用語の辞書を持ち、私たち自身も勉強しながらセリフを書いていました(笑)。
その専門性にふさわしいセリフが必要ですから、私たち制作者も授業を受けながら、キャラクターを描いていきます。これは……すごく難しかったですね……。
──たしかに、スウは専門的な知識を要求されるキャラですよね(笑)。ちなみに、キャラを書いている最中に「これはすごくいいキャラクターになったぞ」と、手応えを感じる瞬間などはございますでしょうか?
崩壊チーム:
どちらかというと、特定のキャラよりかはストーリーを書いている時に「これはいいストーリーになった!」と手ごたえを感じることが多いですね。そして、そんな瞬間に「この物語は完成した」と感じます。
たとえば、「永遠なる薪炎」や「古の楽園」を作っている時は、制作チーム内でシナリオの原稿を見せた時に、チーム内のメンバーがとても感動して、このシナリオを形にすることにワクワクしてくれたんです。あれは、ライターとしても素晴らしい体験でした……。
そして、私たちシナリオチームは、「物語の創作者」というより、「物語の記録者」という立場だと考えています。つまり、私たちがストーリーを生み出しているというよりかは、それぞれのキャラクターが織りなした物語をあくまで記録しているのだと捉えているんです。
だから、そんな「キャラクターが、私たちに物語を伝えてくれる時」が、一番楽しかったりしますね。
──少し流れとは逸れてしまうのですが、『崩壊3rd』や『崩壊:スターレイル』は、男性キャラも女性キャラも、どちらも魅力的に描かれていると感じます。この、「男性キャラの魅力、女性キャラの魅力」はどのように描いているのでしょうか?
崩壊チーム:
実は、性別によってキャラの描写を区別したことはあまりないんです。
どちらかというと、そのキャラが「自分の意志を貫いているのか」を重視していて、自分の初心を忘れずに、そのキャラにとってやりたいことをやっているのか……といったことを大切にしています。
ただ、『崩壊3rd』の場合は「乙女の成長」をテーマとしていますから、やはりストーリー中でも女性の活躍が中心となっています。そんな中で、「彼女たちが物語において、どのような成長を遂げたのか」という描写を重んじていました。だから、逆に『崩壊3rd』の男性キャラは、すでに成長したキャラが多いんですよね。
──たしかに、『崩壊3rd』の男性キャラは最初から大人として登場しているケースが多いですね。
崩壊チーム:
それこそ、ヴェルトもメインストーリーでは成長を描ききった状態で出していますから。
つまり、性別というのは、あくまでそのキャラクターの「人生を構築するコアのひとつ」なのだと考えています。