目指すは「週刊少年ジャンプ」?ホロインディが目指す未来の形と、その筋道の立て方
喜多山氏:
こうしてホロインディを続けていった結果として描いている理想的な未来としては、どういうゴールを描かれているんでしょうか?
加持氏:
これは結構、どの視点で見るかで変わってくる話ですね。ホロインディだけで見るのか、ホロインディをまず事業として見るのか、もしくはゲーム事業全般で考えるのか。
ホロインディとして言えば、今チーム内で話していることとしては、5年後くらいに、マンガで言うと「週刊少年ジャンプ」みたいな存在になれるといいなとは思ってはいますね。ゲームクリエイターがここを目指したくなるみたいな形として。
喜多山氏:
登竜門でもあり、憧れの舞台でもあり、という感じですか。
加持氏:
はい。そういう風なブランドまで成長させたい、みたいな野望は持っています。
TAITAI:
ちなみに「週刊少年ジャンプ」的なものになるには、どういったものが必要という認識なんでしょうか。
加持氏:
そうですね…これは難しい質問がきましたね(笑)
TAITAI:
僕も結構、ジャンプ的なコンテンツ作りには興味があって。それこそ元編集長の鳥嶋和彦さんとかからもけっこう色んな話を聞くんですけど、なにかひとつ答えがあるとしたら、「舞台を作ってあげること」というのはあるんだろうなと思ってて。
要はジャンプに載ると、確実に何百万部っていう人たちの目に触れる。やっぱりこれは明確にチャンスじゃないですか。
ホロインディの場合だと、たとえば何かしらの審査に通って受賞したら、確実に100万人に見てもらえるような場というか、舞台というものをどう設計するかっていうのは、おそらくひとつのキーとなるように思うんです。
それで言うと、なにかそういう取り組みや、あるいはそういうことに予算をかける…なんというんでしょう、覚悟的なものがあるのかみたいなところは、どうなんでしょう。
加持氏:
いやー、コメントしづらいなあ(笑)
正直、現状としてはブランド力をただ高めていく、みたいな状況ではあるんです。ただ、過去にいろいろ意見交換した中の話で言えば、やっぱりホロインディの中でも年間のアワードみたいなものを作って、それの最優秀賞を取ったらパッケージ化を進めるとか、そういった道筋は作ってもいいのかなとは思っていますね。
TAITAI:
確かさきほど、タレントさんについては現状は自然発生的にゲーム実況配信がされているという話がありましたが、僕はこれはいい側面と、そうじゃない側面があると思ったんです。
いい側面というのは、要は商業的ではないというか、そういったユーザーメイド的なものとして、個々の裁量でやりたいことをやってもらうというのを大事にしてるんだな、というのがあるという部分ですね。
ただ一方で、やっぱりそれだとゲームを作るクリエイター側からすると、配信されるかどうか、話題になるかというのが運任せになってしまうので、なのでもうちょっと商業的にというか、企業として舞台を用意する、というのはやってもいいのかなという風にも思ったんです。
なんというか、UGCを重視するという観点と、そこでガッチリとした舞台を作ってしまうというこの話は、僕自身も言っていて若干矛盾があるようには思うので、なかなか難しそうだなとは思うんですけど、必要なんじゃないかなという感覚はあるなと。
加持氏:
なるほど。
喜多山氏:
たとえば「ホロインディ甲子園」みたいな、ホロインディのゲームをタレントさん皆がやる舞台を用意するとか、そういう感じでしょうか。
TAITAI:
ああ、そうですね。たとえば総勢30人ぐらいで、あるゲームを何らかの企画でやりますよみたいな建付けがあって、それに採択された場合、配信の総再生数でいえば何千万再生くらいされるみたいな。
そういった規模感で見られるみたいなものは、やっぱりクリエイターなどから求められないのかなというか、あったら面白いのではないかなとは思うので。
まあ、そういうのがあって欲しいな、という勝手な願望なんですけれども(笑)
加持氏:
なるほど。まだちょっとそこまでは考えられていないので(笑)
それは検討させていただきたいと思います。ただ、今の話を聞いてひとつ懸念というか、思ったことなんですけど…
加持氏:
その、ホロインディ作品をタレントさんが配信する場合、どこまで行くとステマ(ステルスマーケティング)になるのか、みたいな議論は正直あって。
カバー所属のタレントさんが自社商品の宣伝をするというケースだったら、これは自社のものなのでとくに問題ないです。ただホロインディは、カバーの子会社であるシー・シー・エム・シーからパブリッシングしているので、もしカバーのタレントさんにそういった依頼をするとなったら、普通に別会社の人に頼むっていう建付けになっちゃうんですよね。
我々としてはこう、タレントさんに有償の案件として、ピッと渡してやってもらうみたいなことをできなくはないんですけど、そういった形になってくると、告知にはPR表記は絶対つけないといけないだとか、YouTubeだと「プロモーションを含みます」をチェックしないといけないだとか、色々とありまして。
とくに海外も含まれてしまうと、1時間に一回は「これはPR配信です」と言わないとか…
喜多山氏&TAITAI:
(笑)
加持氏:
そういう制約があったりするので、可能であればカバーの別部署が、我々に許諾を取りにくるような形で企画としてあげてくれると、僕らとしてはやりやすいのかなぁと思いました、今(笑)
タレントとファンのためなら、なんでもやる精神。タレントの魅力をより引き出すには、裏方にも野生のセンスがいる
TAITAI:
すこし話が飛ぶんですけど、今こういった仕事をされている中で、どういう心持ちでこの仕事ってやっているのかとか、何があった時に一番嬉しいと感じるかとか、そういった少し個人寄りのお話も伺わせていただけますか。
加持氏:
はいはいはい。
TAITAI:
なぜこういう仕事に携わって、みたいなところから、最終的には本企画の最後の質問である「あなたの浪漫はなんですか?」というところに行きつければと思うんですけど。
加持氏:
そうですね…最近思ってることなんですけど、たぶん自分、ドMだと思うんですよ。ドMで、たぶんワーカーホリックなところはめちゃくちゃあるなとは思ってはいて。
その中で、自分がこれがあると嬉しいなと思うところでいうと、やっぱりタレントが喜ぶことと、ファンが喜ぶことを事前に設計とか企画して、いざそれをやった時の反応を見る、みたいなのが一番楽しいですかね。そこでちゃんと喜んでくれるだとか驚いてくれるだとか。
なので、そのためなら僕は、タレントの前では何でもします精神は持ってますよ。
TAITAI:
その感じって、いわゆる製作スタジオのクリエイターというよりは、メディアにたずさわる編集者的な感じでしょうか。要は作家がいて、読者がいて、そこの間を取り持つというか。そこに喜びを感じるみたいなものがある?
加持氏:
そうですね。
喜多山氏:
私の経験上の話になるんですが、会社が上場とか大きくなっていくと、だいたいシステム化が始まっていったり、マニュアル化とかが進んでいって、こう、属人性を嫌い出すんですよね。
なのでどうしてもマニュアル化したりとか、誰でもできるようにっていう形で平準化していくんですけれども、そこが果たしてエンターテインメント企業みたいなものにとって良いことなのかどうか?とは思っていて。
結果として、その会社に期待してくれているファンとかステークホルダーみたいな人たちの望んだ結果に果たしてなるのかっていうところには、けっこう大いに疑問を持ってるんですけども…
加持氏:
そうですね。僕も結構似た考えを持っていて…この場ではちょっと言いづらいですけど(笑)僕もそういった部分には疑問はありますね。
TAITAI:
それで言うと、たとえば出版業界なんかは、システム的な領域と、属人的な作家と、編集の領域っていうのが結構うまく両立しているから回ってるのかなと思うんです。
ただ喜多山さんの言うように、やっぱりゲームのような集団制作系になっていくと、予算や規模とかの関係で、どうしてもどんどんシステム寄りにならざるを得ないところがある。
なので、結果として歪みみたいなものが起きやすい印象なんですけど…でもそれで言うとホロライブのような場合は出版寄りのコンテンツの在り様なのか、それとも集団制作側の在り様なのか、どっちになるんでしょうね?僕はまだ、そこがわからなくて。
加持氏:
これは難しいですね。フェーズによって変えようとしているみたいなところも、正直あると思っています。
加持氏:
まず元々でいえば出版寄りの体制ですね。で、それをもっと仕組み化しようとか、そういう動きがあった感じではあるんですけど、最近はまたちょっと考え方が…ちょっとこれ、どこまで話していいのか(笑)
まあ色々と経験をしつつ変わりつつあるっていうのが、今の状況って感じですね。
喜多山氏&TAITAI:
(笑)
TAITAI:
最近は揺り戻しみたいな感じが出てきている?
加持氏:
そうですね。多分どっちに特化しても、僕はダメだと思ってて。これまでを見ていても、我々はそこのバランス運用が苦手だとも思っているので、多分これを交互に繰り返ししつつ会社は成長していくんだろうなとは思っていますね。
TAITAI:
たぶんカバーさんで言うと、タレントさんについている加持さんみたいな仕掛ける側の人達、出版社でいう編集者っていうところにも実はかなり重要性というか、求められる資質があって。要はセンスとか強さっていうんですかね、やっぱりそこは、作家さんとの相乗効果でヒットを生むんだと思うんです。
編集側にいる人は、要はサラリーマンなんですけど、でも、たとえ作家じゃなくてもある程度、野生化させておく必要があるというか。社員であっても、野生のセンスを持った作家さんやタレントさんに付き合えるだけの野生みのある社員というのが、ヒットのためには揃っている必要があると僕は思うんですよ。
加持氏:
なるほど。両方必要ということですね。
喜多山氏:
そうですね。
私が思うには…企業がもっと、おおらかでいいんじゃないかなっていう。
一同:
(笑)
TAITAI:
まあそうですね。広くまとめるとそういう話かもしれない。
加持氏:
そうかも。
目指すは「親会社であるカバーを超える」。加持氏が語る、将来に向けた浪漫
喜多山氏:
では、あらためて最後の質問になります。加持さんの「浪漫」を教えていただけますか。
加持氏:
浪漫かあ。
喜多山氏:
その、カバーの加持さんでも、ホロインディの加持さんとしてでも、加持さん個人としてでもいいんですけど、なにか将来に向けて、なにを浪漫として生きていらっしゃるかというのをお伺いできればと。
加持氏:
仕事の面で言うと、僕がワーカーホリックと言ったこととたぶん矛盾するんですけど、僕の個人的な浪漫としては、楽してお金を儲けたい、みたいなところはあって。
いわゆる自分は何もしなくても、お金だけがガッと、ぼんぼんぼんぼん入ってくるみたいなところは非常に興味があるというか…
喜多山氏:
それは誰しもがそう思ってます(笑)
加持氏:
そう、そうじゃないですか。だからこの子会社も、うまく何かブレイクスルーを起こせば、実は少人数でめちゃくちゃ儲けを出して、いつの間にか、カバー本体より利益高くなってんじゃない?みたいなことはあり得ると思ってて。利益で言えばですけどね。売上はけっこう大変だと思うんですけど。
利益だけで言ったらやっぱゲームってけっこう利益率もいいですし…みたいなところは常日頃から思ってます。
喜多山氏:
それをインディクリエーターさんたちと一緒に、ということですね。
加持氏:
そうですね。「いやぁ、カバー本体抜いちゃいましたけど」って言いたいです(笑)
喜多山氏:
(笑)
加持氏:
まあただ、そうして儲かって、仮に働かなくてよくなっても、なにかやりたくなっちゃうとは思うんです。僕ってよく言われるのが、仕事イコール趣味ですよね、みたいなことはよく言われるので。
喜多山氏:
ああ、そうですね。「楽して稼ぎたい」みたいな話をされる方の中で、加持さんも含めてだと思うんですけど、多いなーと思うのは、本当に楽して稼げるようになった時に、何もしなくなるのかというと多分そうじゃなくて、新しい何かをするんですよね。
加持氏:
わかります。
喜多山氏:
そのための原資として、楽して稼いだっていうところのお金を背景に新しいことをするのが、実は目的だったりするのかなって、思ったりもするんです。
加持氏:
そうですね。僕たぶん面白いことをしてないと死んじゃうと思うんですよね。なのでそれは本当にあると思います。
喜多山氏:
カバー超えの利益を出すことと、面白いことをし続けること。それが加持さんの浪漫、ということですね。
加持氏:
はい。
TAITAI:
なるほど。本日はありがとうございました。
一同:
ありがとうございました。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)のサポートという観点から始まったという、ホロインディ立ち上げの背景。VTuberゲームのパブリッシャーという独特なスタンスの源流を辿ってみると、そこにはクオリティの高いゲームを生みだすクリエイター達に、その活動を長く続けてほしいという思いがあった。
そんなホロインディを将来的には「週刊少年ジャンプ」のような夢の舞台とし、ゆくゆくは親会社であるカバーを超える利益を出すことも狙いたいと語った加持氏。ひとまず「ジャンプ」的な場所となるのが5年後くらいの目標ということで、どのようにそこへ向かうのか、今後の動向にも注目したいところだ。
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またホロインディは、2025年3月8日から3月9日にかけて幕張メッセで開催されるホロライブプロダクションの全体イベント「hololive SUPER EXPO 2025」に出展する。加持氏らが手掛けるゲームがどのようなものか気になった方は、直近で開催されるこちらのイベントで、作品をチェックしてみてはいかがだろうか。
「ゲーム人生酒場」企画者・聞き手 喜多山浪漫 作品紹介
▲喜多山浪漫原作『エトランジュ オーヴァーロード』
▲常識破壊重ね置きリバーシ『デビルリバーシ』
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(画像はSteam『ホロリバーシ』より)
「ゲーム人生酒場」シリーズ紹介