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Leaf、Key設立メンバーと振り返る「90年代美少女ゲーム界」最前線──『ときメモ』に挑んだ『ToHeart』、伝説の名曲『鳥の詩』制作秘話、時代を変えたKeyの「泣きゲー」etc……あの時代の“熱狂”に迫る

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下川氏が考える、アクアプラスとビジュアルアーツのサウンドの違い。ビジュアルアーツはトレンドを取り入れているが、アクアプラスはノスタルジーの色が濃い

──アクアプラス(Leaf)の楽曲もビジュアルアーツ(Key)の楽曲も、どちらも「泣ける楽曲」という点は共通していますが、作風の違いのようなものはある気がしています。

下川氏:
僕から見ると、Keyのサウンドは今の時代をちゃんと調べてトレンドも取り入れているように見えます。逆にうちはそういう変化はなく、ノスタルジックな曲調な気がしますね。

──その違いって何に起因するものなんでしょうか?

下川氏:
アクアプラスの全体的に統一感のあるノスタルジーは、おそらく僕の個性が出ているんだと思います。いま作っている曲に関しては、僕が全体的に監修しているので、「メロディアスだけど物語の邪魔にならない」といった要素をコントロールしようと思った時に、どうしても僕の好みに寄っていくんじゃないかなと。

Leaf、Key対談(インタビュー):『ときメモ』に挑んだ『ToHeart』『鳥の詩』制作秘話、時代を変えたKeyの泣きゲー_020

折戸氏:
ちょっと話がずれるんだけど、アクアプラスのサウンドの人たちが、外注の仕事をあまりしていないのにはなにか理由があるの? アニメの曲を作ったり、アーティストに曲を提供した話はあまり聞かないけど。

下川氏:
とくにこだわりがあるわけじゃないけど、社内の仕事もパンパンだし、相変わらずいろいろやってるのよ、ボイスの音量調整とか。

折戸氏:
あっ、それって専属の人がいるわけじゃないんだ。うちの場合も最初はサウンド担当の人間が作業してたけど、あまりにも膨大になってきて、収録関連の専属のスタッフを入れてるね。

下川氏:
僕らは手が早いわけでもないし、外部からの仕事を受けるだけの余力がない。僕の監修も入るから、1曲を作るのにかかるコストとそれで得られる報酬が釣り合わなくなってしまうのもあるかも。うちはもう、音楽も絵もストーリーも全部内部の人間で固定してるからね。

折戸氏:
なるほど。うちは真逆ですね。いろいろと外の力を使いまくり

下川氏:
主題歌も外の人にバンバン振るしね。似ているように見えて、やってることは全然違いますよね。

Leaf、Key対談(インタビュー):『ときメモ』に挑んだ『ToHeart』『鳥の詩』制作秘話、時代を変えたKeyの泣きゲー_021

──それでいうと、アクアプラスとビジュアルアーツ、それぞれが作品を作るときに大切にしているコアのようなものも違ってくるのでしょうか?

下川氏:
アクアプラスでまず大切にしているのは「魅力的なキャラクターとストーリー」ですね。ストーリーを作るときにデザイナーもタッグになって進めていて、常にイラストとストーリーはセットで作っていくようにしています。

そのうえで、それらのポテンシャルを最大限盛り上げるために、サウンドやプログラム、CGがあるといった形です。

──ビジュアルアーツ、あるいは折戸さんはどうですか?

折戸氏:
そういった視点はプロデューサーが考えるレベルで、僕はいちサウンドマンなのであまりどうこう言えることではないんですが……でも、うちもまったく同じですね。

ストーリーとイラストが一番で、それに対して挿入された音楽が付加価値となればいいなと。だから大事にしているものは一緒なんでしょうね。

下川氏:
そうそう。そこを仕切っている人間の個性が違うだけで、向いている方向は同じなんだと思います。

うちの場合はRPGの要素を入れてみたり、ゲーム的な要素が強い作品を作りたい人が多い気がしますね。Keyはどちらかというとアドベンチャーに力を入れているよね。

折戸氏:
アドベンチャーに特化しすぎて逆にちょっと不安に感じるときはあるけどね。RPGとかを作れるんだったら作りたいと思いますもん。

Leaf、Key対談(インタビュー):『ときメモ』に挑んだ『ToHeart』『鳥の詩』制作秘話、時代を変えたKeyの泣きゲー_022

──おふたりとも「シナリオとキャラクターが大切で、それを音楽で盛り上げる」という考えかたなわけですよね。あえてお聞きしたいんですが、なぜゲームというメディアで作品を作りつづけているのでしょうか? すごく乱暴ですが、アニメでも同じことができるとも言えるのではないかなと。

折戸氏:
それはやっぱり「ゲーム屋だから」ということに尽きると思いますね。我々はゲーム屋から始まったので、それが大きいと思います。

下川氏:
そうですね。「血がゲーム屋だから」という理由でしかないのかな。

自分たちの作品がアニメになるのは嬉しいです。でも、自分たちにアニメを作るノウハウもないですし、アニメは「作ってもらうもの」であって、自分たちで作るものだという認識はないですね。

あと、やはり自分たちがゲームが好きだからというのもあると思います。10代のころにゲームで感動して、ゲームに没頭したという経験や憧れがあるから、それがずっと続いているんだと思います。

7、8人の開発チームに、音楽を作るメンバーは3人。「Leaf」が美少女ゲームの音楽に力を入れた理由

──そもそも論になってしまうのですが、おふたりが美少女ゲームを作るうえで「音楽に力を入れる」ことについてなにか必然性があったんでしょうか。

下川氏:
少なくともうちの場合は「僕が音楽好きだから」というのが大きいです。それに、僕としては「物語を盛り上げる音楽の力」というのはものすごく大きいと思っているんですよね。

──たしかに。

下川氏:
これは僕の経験なのですが、若いころに結婚式場でアルバイトをしていて、式の進行にあわせて照明を変えたり音楽を流したりする仕事をしていたんです。

自分でもいろいろ曲を選ぶんですが、おもしろいことに、何度も経験していくと「この曲は来場者のみんなが泣くな」や「この場面にこの曲はいまいちかな」というのがわかってくるんです。

シーンにあわせて、流れる曲によって「感動できる、できない」というのがあるというのが、そのときの体験で身に染みているんです。

Leaf、Key対談(インタビュー):『ときメモ』に挑んだ『ToHeart』『鳥の詩』制作秘話、時代を変えたKeyの泣きゲー_023

──そのシーンが感動するかどうかは、流れる音楽によって左右されるところが大きいと。

下川氏:
その経験をもとに、とくにオープニングとエンディングの曲は、ゲーム作りでも相当意識して力を入れていました。オープニングでグッと心を掴んで、エンディングは「終わった感」に浸れるというか。

──Leafはゲーム音楽が好きなメンバーが核となって立ち上げられたブランドですよね。当時の作品は「感動的な音楽を作りたくて、シナリオは後付けで考える」ような作り方をしていたのか、それともシナリオが先にあって、そこに音楽を当てはめていったのか……。どういった作りかたをされていたのか、気になるんです。

折戸氏:
当時は、やはりゲームを作るにあたっては企画やシナリオがありきで、それに合わせた音楽を作るという形でしたね。音楽が先にあって、それに合わせたゲームを作るようなことはしていなかったと思います。

下川氏:
シナリオも音楽も、それぞれが自由に作ってたんじゃないかな。ゲームの企画が立ち上がって、「ビジュアルノベルを作ろう」となったら、サウンドチームは勝手にサウンドを作ってて。「『かまいたちの夜』とか『弟切草』のサウンドってかっこいいよな」みたいなことを話しながら。

「こういう音楽があるからストーリーをこうしてほしい」とか、反対に「こういうストーリーだからこういう音楽がほしい」といった要求はお互いになかったと思いますね。

折戸氏:
確かに。そういうのはなかった。

下川氏:
『ToHeart』ぐらいからは、シナリオと音楽が連携するケースも少し出てきましたが、それ以前の作品では、ストーリーはストーリー、グラフィックはグラフィックと、それぞれが自由に作って、それを後から組み合わせるような流れでした。

──ほうほう。それぞれが自由に作って、整合性がとれたゲームが作れるものなんですね。

下川氏:
たとえば『雫』だったら、「猟奇的で暗い雰囲気」みたいなコンセプトがあるわけじゃないですか。そのうえで、毎日オフィスで顔を突き合わせて話しながらゲームを作っているので、みんなが向いている方向性というのはだいたいわかるんですよね。

いま作っているストーリーのシーンを読んだら「こんな曲がハマるんだろうな」とか。向こうは向こうで、できあがった曲を聞いてインスパイアされることもあったと思うんですよね。同時にちょっとずつ、ちょっとずつできあがっていくわけですから。

折戸氏:
今の話を聞いていて、『雫』を作っていたとき、音楽がひと通り仕上がったあと、キャラクターのスクリプト入れの仕事をしていたことを思い出しました。

下川氏:
みんながそれぞれ複数の仕事をやっていたよね。

折戸氏:
そうそう。『Filsnown』のときなんかはマップも作っていたからね(笑)。音楽に限らず、ゲーム作りに関することならなんでもしていた気がします。

Leaf、Key対談(インタビュー):『ときメモ』に挑んだ『ToHeart』『鳥の詩』制作秘話、時代を変えたKeyの泣きゲー_024

──その当時の開発チームってどれくらいの人数だったんでしょうか?

下川氏:
『雫』のときは、7、8人くらいですね。でも曲を書く人はけっこういて、僕と折戸と石川の3人かな。

──7、8人のチームに、音楽担当が3人もいたということですか?

下川氏:
そうですね。そう考えるとだいぶ偏っていますが、それぞれが音楽の仕事だけしているわけではなくて、細かい雑用も手伝っていたので、それでも問題ないという感覚だったんです。

折戸氏:
開発室が「コ」の字の形になっていて、真ん中のパーティションをぐるっと囲むように座っていたよね。

──ちなみに『雫』のときに7、8人だったチームは、『ToHeart』のときにはどれくらいになっていたんでしょう。

下川氏:
『ToHeart』のころにはだいぶ増えていましたね。たぶん、20人くらいになっていたと思います。『痕』以降一気に人が増えて、「入りたいです」と応募してくる人も増えていました。

曲作りも、デバッグも、営業も。なんでもやってたからこそ「ゲームがどう作られているか」を学べた

──もともと自由に作っていた、それが大きく変わったのってどういうタイミングだったか覚えてらっしゃいますか?

下川氏:
それで言うと、企画会議をするようになったのが分岐点なのかな……。

『うたわれるもの』くらいまでは、3、4人で「こんな作品作ろう!」と盛り上がった企画に対して、「グラフィックはこんな感じでお願いします」「曲もお願いします」と、スタッフの距離が近い環境でゲームを作っていました。

ただ、『ToHeart2』はアクアプラスの大阪チームと東京チームの共同開発だったため、スタッフ同士、物理的な距離がある中で制作していくことになります。そこで会議をして「こんな企画をしましょう」という話をすることになったんです。

──具体的にどのあたりが変わったのでしょう?

下川氏:
やはりチームの規模でしょうね。『こみっくパーティー』のときも『うたわれるもの』のときも、現場からあがってきた「こんな作品が作りたい」という熱量に対して「いいじゃん! おもしろそう!」と乗っかって形にしていくのは変わっていません。

ただ、組織が大きくなるにつれて、事前に仕様書をまとめる工程はどうしても必要になってきましたね。

Leaf、Key対談(インタビュー):『ときメモ』に挑んだ『ToHeart』『鳥の詩』制作秘話、時代を変えたKeyの泣きゲー_025
(画像はLeaf公式サイトより)

──なるほど。現場主導で作品を作っていくのはいまでは難しいのでしょうか?

下川氏:
いまは上場企業のグループ会社ですので、「企画、予算、人員」などを事前に決める必要があります。そういう意味で、昔に比べて計画的に動くようになっているのはありますね。

折戸氏:
うちもまさにそうですね。

下川氏:
昔と比べて大変だよね?(笑)

折戸氏:
そうだね(笑)。

──組織が大きくなってきたことでの苦労はやはりあると。Leaf設立から30年ですから、変わってくる部分も大きいですよね。

下川氏:
30年か……。やばいよ(笑)。

折戸氏:
そりゃ歳を食うわけだ(笑)。

下川氏:
当時はゲームを作れて楽しいという気持ちだけで突っ走っていた気がしますね。

ただ、振り返ってみると、あの濃縮された時代から生まれたクリエイターさんたちがいまの時代を支えるような人たちになっているのも事実だと思うんです。世代ごとに大きな影響を及ぼした作品があって、それによってクリエイターが生まれる「ゾーン」のようなものがあるのかもしれません。

古代さんのおかげでゲーム音楽の楽しさを知った我々が、実際に今こうしてゲーム業界にいるわけですしね。

Leaf、Key対談(インタビュー):『ときメモ』に挑んだ『ToHeart』『鳥の詩』制作秘話、時代を変えたKeyの泣きゲー_026

──そういう意味だと、今のゲーム業界に携わっている方は、あの時代の美少女ゲームに触れている方は多いと思います。

下川氏:
たしかに、30代、40代のクリエイターと話すと、LeafやKey作品をプレイしている人が相当多いですね。

思うに、表立って「美少女ゲームが好き」と公言しにくい時代があって、たまたま僕たちのころから表に出せるようになってきて、その時代の流れにうまく乗ることができたんだと思うんです。

それこそ、虚淵さんや奈須さんや丸戸さんのようなクリエイターが出てきたのも、自由な物語が書ける美少女ゲームから「エロ要素があろうがなかろうが、いいものはいい」と声高に言えるようになる時代の流れがあったと思いますね。

──あのころの美少女ゲーム業界って、若くて経験が少なくても、行動力があれば最前線で戦うことができて、なおかつ市場規模としても一定の大きさがあるという「噛み合い」のようなものがあったとも思います。そういった熱量が乗っていることで、良い作品が生まれていったんじゃないでしょうか。

下川氏:
そうですね、わかります。僕らがゲーム作りを始めたころって、曲も作れば、デバッグもして、営業もしていました。いろいろな仕事を通して「ゲームがどうやってできるか」を知ることができた世界だったんですよ。言い換えれば、「みんながプロデューサーになれる能力を養えた」というか。

対して、今のゲームは頭から何億という金額がかかって責任も重大ですし、チームの人員も少なくても数十人規模です。「恵まれているな」と思う一方、巨大化した組織の中で、その一部分だけを担当している人がプロデューサーになることって、なかなか難しいと思うんです。

だからそういう意味では、こじんまりはしているけど、ゲームがどう作られているかを学ぶことができたという、良い時代だったのかなとも思います。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
ライター
宣伝・編集・執筆...色んな仕事をしています、川野優希です。
Twitter:@ougaan21
編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

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