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日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー。ターニングポイントだった「エデン条約編」、“バニーアスナ”インパクト、多すぎる未実装キャラへの期待──『ブルーアーカイブ』4年の軌跡を振り返る

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プロジェクト始動時から「美少女ゲームで、日本市場でヒット」が目標だった

──『ブルアカ』の日本での盛り上がりについては、統括PDとしてどのように観測されているのでしょうか。

キム・ヨンハ氏:
本当に夢のようです。『ブルアカ』を日本でリリースした当初、開発陣が抱いていた目標としては「二次創作が作られたりコスプレしてくれる人がいたらいいな」とか「フィギュアをはじめグッズを出せたらうれしいな」とかそういうレベルだったんです。

「コミケのジャンル名を獲得できるゲームにしたい」という願いもありましたが、それは野望というか夢の領域でした。それが2年連続でコミケでもっとも多くのブースを出すジャンルになった。これは奇跡だと思います。

こうして4周年まで成長し続けることができたのは、もちろん開発や運営など多くの人が力をあわせてくれた結果でもありますが、なにより先生方からの応援があったからこそだと常に心に刻んでいます。

──キャラクターやストーリーに対するSNSでの反響やプレイスタイルなど、日本ユーザーならではの傾向や特色がありましたら教えてください。

キム・ヨンハ氏:
一番の特徴は、やはり二次創作の活発さとそのクオリティの高さだと思います。

生放送で発表されたばかりの新キャラクターのイラストが、放送が終わる前に投稿されるほどで、あの短い時間でキャラクターの細かいところまでキャッチしてストーリーを推理している先生方の愛情と能力に驚かされます。

──二次創作といっていいのかわかりませんが、じつはヨンハさんご自身もネットミーム的に親しまれているんです。……この件についてはご存じでしょうか?

キム・ヨンハ氏:
はい、私に関するミームもよく知っています(笑)。

私はもともと内向的な性格なので、最初は少し恥ずかしかったのですが「先生方が楽しんでくれるならいいんじゃないか!」と思い、私も清渓川の写真を撮ってアップしました。今は光栄に思っています。

先生方の創造性とセンスにはいつも感心させられます。私だけでなく開発チームの仲間も、先生方の二次創作やミームを楽しんでいます。このような楽しい交流が『ブルアカ』の世界をより豊かでおもしろいものにしているとも考えています。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──サービス開始当初に「まず日本でヒットすること」を目指していたと、他メディアの記事で拝見したのですが、その理由についてあらためて教えていただけないでしょうか。

キム・ヨンハ氏:
はい。私がネクソンゲームズに入社した当初、当時の代表とどんなゲームを展開していくかじっくりと話し合った結果です。

そのときに考えていたゲームの構想が、美少女キャラクターたちと交流していくゲームでした。そうなると、私たちが最も影響を受け、ジャンルに対する理解度が高い市場でもある日本で成功すれば、他の市場でも通用するのではないかと

ですから、まずは日本でリリースをして、そこで受けた反響や評価を基準に、その後のサービスを続けていく。そして日本での成功を目標とすること。それが代表と私の意見が一致した点でした。

──つまり、日本市場と美少女ゲームというのは最初からセットとしてお考えだったんですね。

キム・ヨンハ氏:
おっしゃる通りです。

日本市場で十分に愛されるようなクオリティというのは、私たちが目指すべき目標でしたし、今までいっしょに仕事をしてきたスタッフたちとなら、それを作れるという信頼や自信もありました。

だからまずは日本で勝負をしてみようと思ってスタートしたんです。

初恋二次元キャラは『マクロス』のリン・ミンメイ。ヨンハさんは青髪ヒロインがお好き?

──ここからヨンハさんのゲームクリエイターとしてのルーツに迫っていければと思います。ゲームやアニメなど、いわゆる「オタク」文化に出会ったきっかけはどういったものなのでしょうか?

キム・ヨンハ氏:
小学生のころ、たまたま出会った『超時空要塞マクロス』の小説版がきっかけだったと思います。私の子どもの名前もその作品のヒロインである「リン・ミンメイ」にインスパイアされるほど感銘を受けました

──第一子に「リン」、第二子に「メイ」と命名されたのはファンの間ではよく聞くエピソードですよね。ゲームについてはどんな作品をプレイされたのでしょう。

キム・ヨンハ氏:
ゲームに関しては「PCエンジン」から「PlayStation」へ進みましたね。『ファイナルファンタジー』や『ときめきメモリアル』を遊びたかったんです。

パソコン通信の時代だったので、PCオンラインサービスのアニメ同好会やゲーム機同好会を中心に活動していました。大学受験を控えていた高等学校3年生のときですら、勉強した思い出よりも、ゲームセンターで友達と『天地を喰らうII 赤壁の戦い』や『サムライスピリッツ』で遊んだ記憶があります。

──どっぷりハマっていますね。

キム・ヨンハ氏:
スポーツゲームはちょっと苦手で、それ以外のジャンルは全部好きです。雑食性です。影響を受けた作品を挙げるとしたら、JRPGの中でも初期の『イース』シリーズと『ファイナルファンタジー』シリーズですね。

アニメは『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を挙げたいと思います。青春時代に感じた新鮮な感動に勝るものはありませんからね。

──『愛・おぼえていますか』もそうだったのですが、ミンメイはヒロインっぽく見えるようで、主人公の輝と結ばれないのが個人的に衝撃だったんです。あのあたり、ヨンハさんがご覧になられたときはどう思いましたか?

キム・ヨンハ氏:
私はそこが良いと感じました。アイドルが結ばれてしまうのはダメですからね(笑)

それだけじゃなく、その後にOVAで『超時空要塞マクロス Flash Back 2012』という作品が出たんですが、そこで彼らは結ばれない状態でそれぞれの時間を過ごしたことが描かれるんです。

そういう想像の余地を与えたことも含めて、劇場版とOVAのふたつが好きな作品になっています。

──ちなみに、ここ最近でハマった作品はありますか?

キム・ヨンハ氏:
昨年公開された作品の中で個人的に良かったものを挙げるとしたら、ゲームは『メタファー:リファンタジオ』、アニメは『ルックバック』と『負けヒロインが多すぎる!』を挙げたいと思います。

──『負けヒロインが多すぎる!』をご覧になったんですね。ヨンハさんは、どの子がお好きですか?

キム・ヨンハ氏:
八奈見杏菜です。彼女の物語は、試練に直面し、これまで積み上げてきた愛(恋、想い)が崩れてしまうところから始まります。

そういった試練に直面した人が、これまでの積み重ねが崩れるような状況のなかでも、成長する姿を見せてくれる。毎回つぎはどんな姿を見せるのか期待しながら楽しめました。

──なるほど。これまで好きになったキャラクターに順位をつけるとしたら、1位はミンメイになるのでしょうか?

キム・ヨンハ氏:
あまり順位をつけることはしないので難しい質問ですね……。青春時代はミンメイが最高でしたし、2番目、3番目の嫁……現代の表現でいうところの推しは作りませんでした

もちろん興味をもったキャラクターはたくさんいましたが、好きという感情からはひとつ線を引いていたんだと思います。

──おお(思わず拍手)。漢らしいですね。

キム・ヨンハ氏:
今の最推しは誰かと聞かれれば、アロナだと答えています。彼女に関しては、性格や見た目というより、これまでこのキャラクターと積み重ねてきた思い出があるから、そういう気持ちになったんだと思います。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──制作者として一緒の時間を過ごしたからこそですね。

キム・ヨンハ氏:
はい。アロナの見た目や性格をどうするのか。どの声優さんに担当してもらうのか。そして、アロナのボイスを収録するレコーディングに初めて立ち会った瞬間など、すべて記憶に残っています。

その後も「アロナちゃんねる」のような映像を通して見せる姿や、韓国国内で実施している展開なども含め、長年いっしょに過ごしてきたことで、情が移ったというか、繋がりを強く感じるようになりました。そんなきっかけもあって、彼女が今の最推しです。

──ちょっと思ったんですが、ここまでに出てきたミンメイ、杏菜、アロナ。アロナは少し違う意味合いもあるかもしれないのですが「想いが成就しない」といった要素が共通していると思うんです。もしかして「青髪」や「負けヒロイン」が属性としてツボだったりしませんか?

キム・ヨンハ氏:
とても鋭い質問ですね(笑)。それぞれ好きな理由はあるので偶然だと思うのですが……不思議です。

──偶然かもしれませんが……。たとえば『ブルアカ』でいうとユウカやアオイはどうでしょう?

キム・ヨンハ氏:
たしかにユウカのグッズはたくさん持っていますが、そう言われてみるとそんな気もしてきます(笑)。あのふたりを「負けヒロイン」とは言えないですけどね

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

Yostar社は『ブルアカ』というIPを一緒に育てていくパートナー

──ヨンハさんがゲーム開発者を目指すようになったきっかけについて教えていただけないでしょうか。

キム・ヨンハ氏:
最初から「ゲーム開発者になろう!」という確固たる目標があったわけではないんです。ただゲームが大好きで、関連する活動をするうちに、いつの間にかこの道を進んでいた……というのが正直なところです。

──関連する活動というのは?

キム・ヨンハ氏:
もともと幼少期からパソコンに親しんでいたこともあり、自然な流れで大学ではコンピュータ工学を専攻するようになりました。そこで、友達とマンガの部活を作ったり、ゲーム雑誌にゲームの攻略記事を書くアルバイトをしたりしていたんです。

そうこうしているうちに大学院を卒業するころには、研究を続けるのではなく、ゲーム開発の道に自然に進んでいました。

──ふむふむ。『ブルアカ』開発のプロジェクトに参加したのはどのような経緯があったのでしょう。

キム・ヨンハ氏:
『ブルアカ』チームに参加した経緯としては、現代表のパク・ヨンヒョンさん【※】の存在が決定的でした。

※パク・ヨンヒョン……ネクソンゲームズの代表取締役。『リネージュII』『TERA』など数多くの作品を手掛ける。

代表が、当時プレイしていたあるゲームを見て韓国の開発会社でもサブカルチャーゲーム(美少女、萌えなどオタク文化の要素を題材としたゲーム)市場で充分競争力があるタイトルを作れると判断し、実際に開発を行うとなった際に、私を迎え入れてくださいました。

当時、代表に「男性キャラクターが出なくても大丈夫ですか?」と質問した記憶があるのですが「もちろん大丈夫です!」と答えていただき、ここでならこのジャンルのゲームをちゃんと作れる! という確信を持つことができました(笑)。

──代表とヨンハさんの間には強い信頼関係が築かれているんですね。

キム・ヨンハ氏:
代表は日本でも成功したMMORPGを開発した韓国ゲーム業界の伝説的な開発者であると同時に、20年以上コミックマーケットに通う根っからの「オタク」でもあります。

だからこそ信頼できましたし、ネクソンゲームズに入社して、前作を一緒に開発していたスタッフと、ネクソンゲームズの優秀な開発者を集めてスタジオを立ち上げたのが経緯です。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──日本でのパブリッシャーとしてYostar社を選んだきっかけというのはなにかあったのでしょうか?

キム・ヨンハ氏:
『ブルアカ』は日本での展開を最優先に考えていたので、日本でのサービス展開やこのジャンルに理解度が高いポジションにあるのはどこか、さまざまなパブリッシャーの長所と短所をふまえ代表含め社内でいろいろと話し合いました。

なかでもYostar社は当時から『アズールレーン』を展開しており、ユーザーから好評を得ていたパブリッシャーとして、とても良い印象を持っていたんです。知人に紹介してもらい、何度か話をするうちに、Yostarさんのこのジャンルへの理解度や愛、そして実績をもとにお願いすることになりました。

今では単なるパブリッシャーではなく、『ブルアカ』というIPを一緒に育てていくパートナーだと考えています。

──『ブルアカ』はグッズ展開や動画、音声コンテンツなどゲーム外展開にも力を入れているイメージが強いのですが、Yostar社とどのようなやりとりをされているのかぜひ教えていただけないでしょうか。

キム・ヨンハ氏:
日本市場や先生方への深い理解に基づき、運営や事業全般にわたって貴重なフィードバックや提案をしてくれています。

今おっしゃったYouTubeコンテンツや、ASMR、さまざまなグッズ制作、コミック連載などのメディアミックス企画に至るまで、Yostarさんの企画力と推進力が『ブルアカ』の日本展開における大きな原動力になっていると思います。

もちろん、これらの外部展開がゲームの設定やキャラクター性を損なわないように、しっかり連携をとりながら緊密に協力しています。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、
DLsiteの「ボイス・ASMR・音楽」累計ランキングTOP3を『ブルアカ』が独占。なお、TOP10の中に6作品ランクインしている。

──実際に連携するうえで苦労したことはありますか?

キム・ヨンハ氏:
先ほどの話の後日談のようになりますが、私たちがサービスを開始するタイミングで、新型コロナウイルスによるパンデミックが起きていました。

当初のご挨拶や視察は対面で行うことができたのですが、いざ契約を結んだり、サービス開始の準備をしたりするとなったときに、すべてオンライン上(対面)での進行になってしまったんです。

当時はこれで大丈夫だろうかと心配もしていましたが、幸いにも無事リリースできましたし、リリース後のアップデートも進めていくことができました。

──時勢的にそういう大変さが……。

キム・ヨンハ氏:
結局、対面でお会いできたのはサービスを開始してから1年ほど経過してからでした。ようやく実現した対面でのミーティングでは「ようやく会えましたね」などと話をした記憶があります。

二次創作はコンテンツにいい循環をもたらしてくれるものだと考えている

──ヨンハさんといえば、コミケに参加されている様子がSNSで報告されていますよね。精力的にコミケに参加されているのにはなにか理由があるのでしょうか?

キム・ヨンハ氏:
『ブルアカ』を愛好してくださる先生方と同じ目線でコミュニケーションをとり、その創作への熱意を直(じか)に感じたいからです。これはオフラインイベントと同じですね。

コミケは、単に同人誌が頒布されるだけの場所ではなく、作品やジャンルへの愛情が生み出したひとつの大きなお祭りのような空間だと思っています。そのお祭りに参加したいという気持ちもあります。ある種の帰巣本能とも言えます。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──コミケの現地の雰囲気はどうでしたか?

キム・ヨンハ氏:
コミケの会場はいつも人だかりと熱気でいっぱいです。

私もそうですが、みなそれぞれが自分の目指すサークルに向かい、慌ただしく動き回っていて忙しそうです。そんななか、たまに気づいてくれて挨拶してくれる先生もいて、声をかけていただいたときは本当にうれしいです

いっしょに写真を撮ったり、ちょっとお話をしたりすることもありますが、他の方々の迷惑にならないように気をつけています。先生方の温かいもてなしにいつも元気をもらっています。

──差し支えなければ、印象に残っている戦利品を教えていただけますか

キム・ヨンハ氏:
最近参加したコミックマーケットで特に記憶に残っているのは、みつみ美里(みさと)先生、 甘露樹(あまづゆ たつき)先生のブースです。

私は『 Pia♥キャロットへようこそ!! 』と『ToHeart2』時代から先生のファンだったのですが、尊敬する先生方が『ブルアカ』のキャラクターを描いてくださったことには感激しました!

あとは、 新刊セットとアロナが描かれたTシャツをそれぞれふたつずつ購入し、1セットは代表への贈り物として渡しました(笑)。

──ヨンハさん自身が二次創作に向き合う際に大事にされていることや、作品のPDとしてこういう活動だと嬉しいといったお話があればお聞かせいただけますか。

キム・ヨンハ氏:
大前提として、IPビジネスの観点からは二次創作がグレーゾーンの領域であることはもちろん承知しています

そのうえで、私個人としては昔から韓国での二次創作イベントにも参加してきましたし、ファンのみなさんの愛情による創作活動が、コンテンツにいい循環をもたらしてくれるものだと感じています。

──二次創作はコンテンツにとっていい影響をもたらしてくれると。

キム・ヨンハ氏:
制作者としても、特定のキャラクターがファンのみなさんのなかでどのように受け入れられ、どのように解釈されているのかを確認できる場でもあり、 非常に参考になっています。

それによって私たちがキャラクターの性格やシナリオ上の役割を大きく変えることはありませんが、『ブルアカ』というコンテンツを楽しんでいただくなかの重要な一部であると考え、深く感謝しています

──二次創作に関しては、どうしても目に余る活動をしている人も出てきてしまうのが難しいところですよね。

キム・ヨンハ氏:
公式が手がけたものと、非公式の二次創作の間には明確な違いがあり、それぞれ楽しみかたについては線引きが必要だと考えています。

ビジネスの観点から、注意喚起やなんらかの処置をせざるを得ないケースがある点については、ご理解いただきたいです。

ただ、それらは私たち開発や運営が議論や対応を進めていくことですので、純粋に作品を楽しんでくださっている多くの先生方には引き続き二次創作を楽しんでいただきたいです。私自身もできるだけ二次創作イベントには顔を出して挨拶したいと思っています。

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編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident
ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

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