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日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー。ターニングポイントだった「エデン条約編」、“バニーアスナ”インパクト、多すぎる未実装キャラへの期待──『ブルーアーカイブ』4年の軌跡を振り返る

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サブカルチャーゲームの需要が増える中で目指すべきはニッチなニーズに応えること

──『ブルアカ』のようなサブカルチャーゲーム市場についての現状や今後の成長については、どのように分析されていますか?

キム・ヨンハ氏:
基本的には日本の国内国外含め、市場が大きくなるという現在の流れは続いていくと思っています。

とくに、日本国外の市場は最近急速に大きくなっている傾向にあり、このトレンドが急に崩れてしまうことはないでしょう。これは「Netflix」のような配信サービスが活性化したことで、アニメを視聴する層が非常に多く形成されたからだと考えています。

これまで興味を持たなかった層が流入する傾向も見られるので、当分の間はこの市場のファンが継続的に増えるのではないかと予想しています。サブカルチャーゲームというのは、結局のところ、ニッチなニーズに応えていくジャンルになっていくのではないかと考えています。

──「ニッチなニーズ」というのは?

キム・ヨンハ氏:
たとえば、男性向けのゲームと女性向けのゲームという大まかな区切りがあって、そこからさらに男性向けなら細かなニーズに分かれる部分があると思うんです。

ファンタジーやSFといったジャンルもそうですし、あるいはさらに絞って、特定のフェティシズムもニーズにあたると思います。

そして、『ブルアカ』なら「学園もの」というジャンルの中で評価を受けていますから、これからのサブカルチャー市場は、そういった細分化されたニーズに対応し、期待以上のものを提供できるかが重要になると考えています。

──ふむふむ。

キム・ヨンハ氏:
少しデリケートな話になってしまうのですが、現代社会ではストレスが徐々に高まっており、ひとり暮らしの世帯も増加傾向にあります。

そうした状況の中でも、人々は愛情を注ぐ対象が必要だと思っています。その意味で、二次元でさまざまな体験ができるサブカルチャーゲームに対するニーズは、今後も減ることはなく、市場の成長へと繋がるのではないかと慎重に予想しています。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──2000年代の日本では、ゲームやアニメなどのサブカルコンテンツが一般的ではなく、2010年代以降に「推し」文化の普及とともに一般化していった印象があるのですが、韓国ではどうなのでしょう?

キム・ヨンハ氏:
韓国も似たような感じですね。実際に国際的にもそうなのか調べてみたところ、「Netflix」で日本のアニメを直近の一年で見た人は全世界のNetflixユーザーの70%以上だと聞きました

コロナ禍を経て割合が増えたと思うのですが、その人たちはもともとアニメを見ていた人たちではないと思います。

だから、私の周りでも全世代で、 こうしたアニメを含むオタクコンテンツが少し一般的になってきており、違和感なく受け入れられる傾向があるように感じています。

──『ブルアカ』はオタクの心をつかむというか、喜ばせるのがうまいタイトルな印象があるんですが、なにか意識されていることはありますか?

キム・ヨンハ氏:
オタクを喜ばせることを考えたり、ターゲットにするというより、開発する側自身が楽しめるコンテンツかどうかというのが重要だと思っています。

自分が「好き」と言えるものを、同じ感性のスタッフといっしょに作り上げることで、同じものが好きな人たちに広まっていく。結局のところ『ブルアカ』がここまでこられたのは、そうした部分に共感してくれたユーザーが多かったからではないかと思います。

ニーズに応えることは大事ですが、そのためにはそれを好きだという気持ちがないとできません。ですから、市場を見て必要なものを付け足すのではなく、作り手が自信を持って楽しめるコンテンツを作っていくことが大事だと考えています。

──スタッフのみなさんの「好き」がユーザーに刺さったということですね。

キム・ヨンハ氏:
関連して覚えていることがひとつあって、最初に『ブルアカ』のコンセプトを決めるとき、日本で成功しているゲームや要素を分析して、どういう構成で世界観を作るか話をしていたんです。

そしたら、当時シナリオライターを務めていた方が「学園ものにすれば、制服をたくさん出せますよ。ヨンハさん、制服好きですよね?」と聞いてきたんです(笑)。私自身、すごくいいと思いましたし、そのまま話を進めて制作していきました。

こんな感じで、私自身を含めスタッフ全員の「好き」をかけ合わせて生まれたのが、今の『ブルアカ』なんです。

『プロジェクトRX』は『ブルアカ』スタッフ&新規スタッフで開発進行中

──現在リリース中の『ブルアカ』と並行して、ヨンハさんが統括する完全新作タイトル『プロジェクトRX』が発表されましたが、本プロジェクトについてなにかお話いただけることはありますか?

キム・ヨンハ氏:
そうですね……新規プロジェクトでは制服をたくさん登場させることはできないと思います(笑)。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──あら(笑)。

キム・ヨンハ氏:
『ブルアカ』は学園もので、生徒を指揮する先生という目線や立場を体験する世界なわけですが、新作はそれとは異なる世界観で『ブルアカ』とは違う新しい体験を提供したいと考えています。

具体的にどういうポジションでキャラクターたちと関係を結ぶのか、どういう目線にしたら親しみやすいのか、そういう部分を悩みながら開発している段階ですね。

先ほどもお伝えしたようにスタッフの「好き」をかけ合わせて作っていくという点は新プロジェクトでも変わりませんから、『ブルアカ』とは違う「好き」を目指して真剣に開発をしています。多くの方に気に入っていただける作品を目指して開発中ですので期待してもらえるとうれしいです。

──差し支えなければ、どのような経緯で立ち上がったプロジェクトなのかなどお聞きできますか?

キム・ヨンハ氏:
そうですね、発案自体は2023年ごろでした。その時点で『ブルアカ』は成長段階にあるIPでしたから、このタイミングでスピンオフを作成するのではなく、異なるニーズを満たせる作品にしようと決めました。

そこから『ブルアカ』の開発含め体制をどうするか検討を始めたときに、韓国・グローバル版のディレクターを務めていたチャ・ミンソさんが声をあげてくれました。現在、彼にPDを担当してもらっています。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──アートディレクターとして、YutokaMizuさんも参加されているそうですね。

キム・ヨンハ氏:
おっしゃる通り、ミカをデザインしていた方です。

チャ・ミンソさんもYutokaMizuさんも、『ブルアカ』で重要な役割を担っていた方ですので、『ブルアカ』のこともよく知っていますし、それとは異なるニーズが求められることもよく理解しています。

開発スタッフについては、『ブルアカ』のスタッフも一部参加しつつ、新規スタッフも迎え入れて構成されており、プロジェクトが進行しているという状況ですね。

4周年を迎えた今、『ブルアカ』のこれからをどう考えているのか

──2025年2月に『ブルアカ』はサービス開始から4周年を迎えたわけですが、あらためて現在の心境を教えていただけますか。

キム・ヨンハ氏:
私は12年前まではMMORPGを開発していました。韓国でゲームを開発する場合、それ以外の選択肢はほとんどなかったんです。その後、本格的なスマホ時代に突入し、個性的なテイストを活かせるキャラクターゲームを作る機会が生まれました。

じつは、これまで私が手がけてきた作品は、ここまでよい雰囲気で長期間のサービスを継続させることができなくて、それをとても残念に思っていたんです。

それもあって、『ブルアカ』を開発する際には「前作よりも長く愛されるゲームを出せたらいいな」という思いで準備や運営を続けてきました。そんな『ブルアカ』が4周年を迎えて、当初考えていた以上に多くの人に愛される作品になったのは本当にうれしいですね。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──4年という期間の重みを知っているだけに。

キム・ヨンハ氏:
そうですね。4年間サービスを続けることは簡単なことではありません。

「市場で愛されるように」「長くサービスが継続できるように」と、開発当時から構想していた計画がうまく受け入れられた部分はありつつも、予想を遥かに超えて、多くの先生方に愛されていると感じています

すごくうれしい反面、今後どのようにサービスを展開していくかについては悩ましいところです。

──悩みというのは具体的にどのような?

キム・ヨンハ氏:
4年もサービスを続けているので、そろそろ新しい変化が必要だとは思いつつも、これまで愛されてきた部分は変えてはいけない部分です。

そのバランスを保ちながらどのように先生方の期待に応えていくか……これは開発スタッフみんなにとっての課題だと思っています。

──変えるべきところ、変えてはいけないところという点について、それぞれどういうものだとお考えでしょうか。

キム・ヨンハ氏:
まず、ストーリーについては「最終編」という大きな区切りを迎えたので、それ以降の物語をお見せすることになります。

当然、新しい生徒たちもたくさん登場しますので、彼女たちの活躍をお見せすることになりますが、これまで愛されてきた生徒たちについても、引き続き何らかの形でお見せする必要があると考えています。

──未実装の生徒に登場してほしいし、すでに登場している生徒の新衣装も見てみたいし……たしかに悩ましいところです。

キム・ヨンハ氏:
また、ゲームプレイ体験に関しても、利便性は改善する余地がありますし、新鮮味のある体験も提供したいと考えています。そうした部分のバランスについては悩んでいるところです。

──変えるべきところ、変えてはいけないところのバランスについては検討中と。

キム・ヨンハ氏:
少し内部的なお話になりますが、「Serenade Promenade」から4周年イベント「Code: Box」の実装に向けては、アン・ギョンソプPDやキム・グクギADをはじめとする新しいリーダーたちが、既存のスタッフからのバトンをうまく引き継いで準備を進めてくれました

新たな体制で、イベントストーリーはもちろん、演出やギミックなど、『ブルアカ』の新しい可能性を示したことは、開発チームとしては大きな意味があったと思います。

キム・ヨンハ統括PDの「覚悟」。『ブルアカ』をよりよい作品にし、新作では新しい体験を提供する

──最後に、今後の展望についておうかがいさせてください。5年目の『ブルアカ』のここに注目してほしい! という要素があれば教えてください。

キム・ヨンハ氏:
これまでと変わらずメインストーリーに力を入れています。

まだ具体的な内容をお伝えするのは難しいのですが、先生方に新たな感動と楽しさをお届けできるよう、「エデン条約編」や「最終編」のような『ブルアカ』の新たなターニングポイントを作ることを目指しています

ですので、これから展開されるストーリーと新しい生徒たちの活躍にぜひご期待いただければと思います。

──いちユーザーとして『ブルアカ』の表情差分の多さにはいつも驚かされています。新しい生徒たちの表情差分も楽しみにしています!

キム・ヨンハ氏:
表情差分について気づいてくださり、ありがとうございます。もともとは、シナリオの中でのさまざまなシチュエーションにおいて、生徒たちの繊細な変化をどう表現すればいいかという、悩みの末に生まれたものなんです。

そして、これまで登場したキャラクターはもちろん、現在準備中のキャラクターも同じように悩みながら作っています。これからも期待に応えられるようにたくさんの差分をお見せできるように開発を進めていきたいと思います。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──さらに未来を見据えて、今後『ブルアカ』をどのようなコンテンツにしたいとお考えですか?

キム・ヨンハ氏:
まず、短期的な目標としては、より新しく、より充実した『ブルアカ』を先生にお届けすることですね。

そのために、MXスタジオでは開発スタッフを増員し、より質の高いコンテンツをお届けできる開発環境を構築すべく努力しています。毎年、より発展した姿をお見せしたいと考えています。

また、技術的特異点が近いうちに到来するのではないかと、個人的には考えています。もしそうなったら、ゲームの遊びかたが再定義されるかもしれませんが、『ブルアカ』が持つ固有の感性やよさを、時代にあった最適な方法で体験してもらえるようがんばりたいですね。

──ヨンハさん個人としての目標があったら教えてください。

キム・ヨンハ氏:
「オタク」として、そしてゲーム開発者として、私が個人的にこの業界で成し遂げたいと思っていたことは『ブルアカ』を通してすでにたくさん経験させていただきました。

しかし、一度成功すること以上に「成功し続けること」や「過去の成果を超えること」は難しいことです。そして、それをなすためには仲間たちとの協力、組織的な力が不可欠だと思います。

ですから、今は私個人の成功よりも、私が率いるIO本部とMXスタジオという組織を、世界一のサブカルチャーゲーム開発集団に成長させることを目指しています。先生方に信頼していただける、常に期待されるような開発組織になりたいと考えています。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──いちファンとしても楽しみにしています! 最後に、日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。

キム・ヨンハ氏:
運営型ゲームというサービスは、庭園を手入れするようなもので、常に愛情を注いで手入れしないと、すぐに荒廃してしまうものです。

1年、2年続けるのも難しいのに、5年、10年続けるというのは、開発者にとっては過酷なことかもしれませんが、それでも続けていかなければならないと思っています

──確かに「過酷」だと思います。

キム・ヨンハ氏:
私自身も「いちオタク」として、原作者がいなくなったり、開発チームの熱意が冷めたりして、好きだった世界が徐々に光を失っていくのを何度も見てきました。ですから、そんな経験を先生方にはさせたくありません。

少なくとも私がこの場にいる限り、先生方の声に常に耳を傾け、全力で『ブルアカ』という世界をより美しく磨いていくことをお約束します

今後とも『ブルアカ』をどうぞよろしくお願いいたします。4年という長い間、本当にありがとうございました。

──ありがとうございます。ヨンハさんが日本のメディアでお話いただける機会は非常に珍しいので、日本の先生たちもすごく喜んでいると思います。

キム・ヨンハ氏:
じつをいうと、私も電ファミニコゲーマーで業界の先輩方のインタビューを読んで、そこからヒントをいただいたこともあります。ですから、私もインタビューをしてもらえたことはとても光栄に思っています。

読者のみなさんが楽しんでくれるような内容をお話できたかは心配ですが、少しでも楽しんで読んでいただけたらうれしいです。

『ブルアカ』のことは当然ですが、新作を通してまた何か新しい体験を提供できたらいいなと。ふたつのプロジェクトを両立できるよう、「覚悟」をもって挑んでいきたいと思います

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、

──「覚悟」ですか……それはまさにサクラコ様のように?

キム・ヨンハ氏:
もちろんです。あ、でも私がハイレグになるわけじゃないですからね

──(笑)。

キム・ヨンハ氏:
ただ、どんな姿になろうとも、みなさんが喜んでくれるならそれでいい。それくらいの「覚悟」で臨んでいきたいと思います

これからも、みなさんに楽しんでいただけるようにがんばりますので、よろしくお願いします。

日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、


自分語りになってしまい恐縮だが、『ブルーアーカイブ』を筆者が初めてプレイしたのは、2020年8月に開催されたCBT(クローズドβテスト)だった、

その際のプレイレポートは弊誌にて掲載されているのだが、記事内で「アロナがカワイイ」「制服姿の生徒たちがカワイイ」「コロコロ変わる表情がカワイイ」「3Dチビキャラがカワイイ」「メモリアルロビーがカワイイ」と、ゲームメディアの人間としてあるまじき語彙力のなさで本作の魅力を紹介していた。

もちろんリリース初日からプレイしていたのだが、現在ほどハマっていた記憶がない。そんななか、いちユーザーとして『ブルアカ』の人気に火が付いたと感じていたのが、インタビューでも話題にあがったメインストーリー「エデン条約編」であった

『ブルアカ』にとって「エデン条約編」がどのような影響を及ぼしたのか──。今回のインタビューに臨むにあたって、一番聞いてみたかったのがこの話題だった。どうだろう? 同じような想いの先生たちが少しでもいてくれたらうれしい限りだ。

また、取材後、このインタビュー原稿を編集していく中で、どうしてもキム・ヨンハ氏にお聞きしたいことが生まれた。

インタビュー内でも話題にあがったが、『ブルアカ』にはすでに実装されたキャラクターも未実装のキャラクターも合わせて、魅力的な生徒で溢れている。なかには、ミカやサオリ、リオなど、シナリオ上で先生と対立した生徒も登場するわけだが……実装される際の納得感がしっかりあるように、個人的には思っている。

罪を償う……という表現が正しいかわからないが、シナリオ上で彼女たちは悩み、苦しみ、未来を向く。そこに先生として手を差し伸べる。勝手にこの流れを「禊(みそぎ)」と呼んでいるのだが、『ブルアカ』には生徒を実装する際になにかしらこだわりがあるように思えてならなかったのだ。

そこで、不躾ながら、本インタビュー記事の監修をお願いする際に、キム・ヨンハ氏にひとつ追加で質問をさせていただいた。

Q.ミカ、サオリ、リオなど、シナリオ上で先生と対立していた生徒たちを実装する際に、意識されている点があれば教えていただけないでしょうか。

そして、ありがたいことに、キム・ヨンハ氏から回答をいただけた。それがこちらだ。

A.生徒たちには無限の可能性があるため、適切なきっかけさえあれば、どの生徒でも救いに至ることができるという信念を持っています。

ああ、ありがとうございます。偉大なるキム・ヨンハ統括PD。

叶うのであれば、ニヤニヤ教授、シュロ、FOX小隊などの生徒たちを、先生としてはやく導いてあげたい。

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編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident
ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

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