役作りはカレーのように。台本を読み終えてひと晩おいたことで、エイメスへの解釈が腑に落ちた
──ちなみに、役作りは最初から順調だったのでしょうか。それとも、エイメスというキャラ像を掴むまでには悩みや試行錯誤があったのですか?
佐藤さん:
正直、本編に入るまでは、役の全体像が見えずに手探りの状態でした。でも、本編の台本をいただいてすべて読み終えたときに、すごく腑に落ちたんです。
そこからは、もう迷いなく演じられた感覚があります。実際、本編に関してはリテイクも少なく、かなりスムーズに進みました。
──台本を渡されてからは、どのように役作りを進めていったんでしょう。
佐藤さん:
台本をいただいて、その日のうちにバーっとすべて読み切りました。
ただ、エイメスには、正義感に溢れる一面もあれば、どこか儚げな部分もあり、あまりに情報量が多かったので、そこで焦って結論を出さずに「一旦、ひと晩寝かせよう」と思ったんです。
そして次の日の夜、家事を終えてからもう一度読み返してみると、「うん、こういう感じだ」と解釈が整理されていました。なんか、カレーみたいですよね。「ひと晩寝かせると美味しくなる」みたいな(笑)。
──(笑)。煮込むことで味が染み込むように、エイメスの情報が佐藤さんにひと晩かけて染みこんでいったんでしょうね。
佐藤さん:
少し話は逸れますが、過去にドラムを演奏する作品に関わった際にも似た経験がありました。その日の練習が全然うまくいかなくて、「もうダメだ、寝よう」と諦めて寝て起きたら、なぜかできるようになっていたんです。
当時のドラムの先生に「その日は難しくてできなくても、寝て起きるとなぜか出来るようになっていることは意外とあるよ」と教えていただいたこともあって。
だからエイメスに対しても、「今はわからなくても、明日の私ならわかるはず!」とあえて時間を置きました。
──そのドラムの先生の言葉、金言ですね。
佐藤さん:
あと私、ブログとかインスタとか、しっかり文章を書いたときもひと晩寝かせることがあるんですよ。
寝て起きて、自分の書いた文章を見ると「なんか私、ちょっとロマンチストかも……?」って恥ずかしくなって、直したりするんです。夜中のテンションって怖いですよね。
やっぱり、寝ることはとても大切です。この記事を読んでくださってるみなさんも、夜更かしせずにちゃんと寝てくださいね!(笑)
──間違いありません(笑)。睡眠の大切さはよくわかりましたが、一方で、ひと晩でキャラクター像を掴めるというのはすごいと思います。
佐藤さん:
もともと小さいころから本を読むのが大好きで、活字を読んだり、国語の授業を受けるのが好きでした。テストで「この登場人物は何を考えていたか答えなさい」といった読解問題があるじゃないですか? 私、あれが好きなタイプだったんです。
「こう考えてるのかな? いや、こうかな?」とか想像するのが楽しくて。もしかしたら、その経験がいまも活きているのかもしれません。
──具体的には、新しい台本を手にとったときにはどのような手順で読み進めているのでしょうか?
佐藤さん:
台本を読むとき、1回目は物語全体を俯瞰して読みます。そして2回目はキャラの視点に入り込んで読んでみるんです。
「彼女の視界はこんな感じなのかな」とか「こういうふうに思ってるのかな」とか、そのときの気持ちや情景を思い浮かべながら読んだりして。エイメスのときも、そんなふうにふたつの視点の「足し算」みたいな感じで役作りができたのかな、と思います。
──俯瞰と主観、ふたつの視点で組み立てていくんですね。ちなみに、佐藤さんの台本には、どのようなことが書き込まれているんでしょうか。
佐藤さん:
私は、台本に書き込みはあまりしない派ですね。
他の役者さんだと「ここは楽しく」「明るく」「ゆっくり」といった感情や速度のメモを書き込まれる方もいると思うのですが、私はディレクターさんから具体的な指示がない限り、そういったト書きのようなものは書きません。
基本的に書くのは、文章の切りどころですね。「ここを続けて読むと、音だけで聞いた時に意味が伝わりにくいな」と感じたら、ブレス(息継ぎ)のポイントや区切りのための斜線を引いたり、ちょんと印をつけたり。あとは専門用語のアクセントや、感情が切り替わるタイミングで波線を引くくらいですね。
──それにはなにか理由が?
佐藤さん:
文字で情報を書き込みすぎると、私(役者)の気持ちと思考が入っちゃって、それはもう純粋なエイメスだけのものじゃなくなってしまう気がして……。
だから、自分の思考にとらわれすぎないよう、余白を残して現場の感覚に委ねるようにしています。
プレイヤーに「お気楽な子」と思わせることができれば、役者としての狙い通り
──実際にマイクの前に立ったとき、彼女を演じるうえで「これだけは絶対にブレさせない」と決めていた芯のようなものはありましたか?
佐藤さん:
エイメスを演じるときに意識していたのは、「彼女には常にどこか恐怖がまとわりついている」ということです。
──恐怖ですか。それは意外な言葉です。
佐藤さん:
彼女には「漂泊者みたいになりたい」「学園のみんなの輪の中にいたい」という、彼女が見せたい理想の自分があります。でも本当は、漂泊者に会いたくてたまらない、震えるほど寂しい女の子なんです。
彼女には「漂泊者みたいになりたい私」「学園のみんなの輪の中にいる私」という、彼女が見せたい理想の自分があります。でも本当は、漂泊者に会いたくてたまらない、寂しさを抱えているふつうの女の子なんです。
デジタルゴーストとなり、誰にも認識されず、いつ終わるとも知れない時間を独りで過ごす……正直、私だったら頭がおかしくなってしまうと思います。
──その境遇を考えると、明るく振る舞うエイメスの精神力はすさまじいものがありますね。
佐藤さん:
それでも彼女が壊れなかったのは「負の感情に飲み込まれてはいけない」という強い意志があったからで、「漂泊者に誇れる私でありたい」という想いだけで、彼女は虚勢を張り続けていたんです。
だから、「かっこいい私、漂泊者に誇れる私」でいるために虚勢を張っている彼女の意地を立てつつ、「私は味方だよ」と心の中で寄り添ってあげたいと思ったんです。
最初はプレイヤーさんに「お気楽な子だな」と思わせるように振る舞うことこそが、彼女の最大の「愛」であり「悲痛さ」だと解釈して演じました。
──彼女なりの精一杯の虚勢であり、漂泊者を心配させまいとする優しさでもあるわけですね。
佐藤さん:
そうなんです。第一印象で「ノリがよくて元気な子」と思ってもらえたら、私のなかでは「よし!」という感じです(笑)。
──今のお話を聞いたうえでストーリーを振り返ってみると、元気な彼女の様子が違った見えかたになりそうです。
佐藤さん:
ぜひ、物語を全部終えた後にふと思い返してほしいです。
「あの時の元気って、もしかして……」と気づいて「はっ!」としてもらえたら。その瞬間こそが、エイメスの本質的な部分に触れてもらえた瞬間なのかなと思います。
もちろん、元気なエイメスも嘘ではありません。でも、そうじゃない部分も確実に存在します。プレイヤーのみなさんには、その両方を知ったうえで、彼女のすべてを優しく包み込んでいただけたらうれしいですね。
──ふむふむ。エイメスといえば、電子アイドル「フリート・スノーフラッフ」としても活躍していますが、どのようなイメージで収録に演じ分けされたのでしょうか。
佐藤さん:
アイドルとしての姿は、エイメスが普段みんなに「こう見せたい」と思っている「明るく元気な部分」をより濃くしたイメージです。
かといってすごく肩肘張ってるわけじゃなくて。本人は音楽を作るのが楽しくて、発表したらみんなが喜んでくれて、いつの間にかたくさんの人に届いていて……。「こんなに私の曲を愛してくれる人がいるんだ」という事実は、彼女にとって衝撃であり、救いだったと思うんです。
それまでの彼女の世界は、極端に言えば「自分と漂泊者」だけでした。でも、歌を通じて「ファン」という存在を認識した瞬間、彼女の視界は一気に広がった。「この人たちのためにがんばりたい」という想いが芽生えたんだなと感じながらお芝居をしていました。
だからこそ、物語の後半、その集大成を漂泊者に見てもらえた時は本当に感動しました。画面の中の漂泊者はキリッとしたクールな表情でしたけど、もう私は「やっと見てもらえたね、よかったね!」という親心でいっぱいの気持ちで見守っていました。
エイメスは「愛の人」。恋愛を超越した「家族愛」に近い絆を感じる、エイメスの漂泊者(主人公)への想い
──お話を聞けば聞くほど、彼女の漂泊者への想いは並々ならぬものがあって、「愛が重い」女の子のような印象を受けます。演じながら彼女のその一面についてはどう感じていましたか?
佐藤さん:
「愛が重い」という表現は間違ってないと思います。悩みや想いは、誰にも言えない環境に置かれると、思考が自分の内側へ内側へと向かっちゃいますよね。
たとえば「漂泊者に会いたい」と願っても、誰にも相談できない……そうなると、頭の中がもうそのことだけで占められてしまう。逃げ場のない想いが頭の中をグルグルと回り続けて、結果として自分の中で感情がどんどん「重く」なっていくのだと思います。
──そうして醸成された感情を抱える彼女を、佐藤さんがひと言で表すならどう表現しますか?
佐藤さん:
私のなかでエイメスは「愛の人」です。
その想いは、もちろん漂泊者に向いていて、会えない長い期間を経て、自分の中で作り上げた気持ちが、ギュギュッと凝縮されているイメージですね。
──それは中身が詰まって、さぞかし重そうですね。
佐藤さん:
ただ、それを「恋愛」と呼ぶかといえば、少し難しいところです。
私としては「恋愛に気持ちを寄せすぎるのも違う」という感覚があって……あえて言葉にするなら「家族愛」や「絆」に近いのかもしれません。
──「家族愛」ですか、なるほど。
佐藤さん:
一般的な「好き」という言葉で片付けられる関係ではなくて、限られた時間のなかで深めた、ふたりにしかわからない繋がりがあるんです。それがエイメスにとってのかけがえのない「愛」の形なんだと思います。
実際に収録の際も、漂泊者に対して「大丈夫?」「疲れてない?」って、彼の身を案じる言葉がとても多かったんです。
──なんて健気な……。
佐藤さん:
そうなんです。そういう姿を見ていると、「ねぇねぇ、私を見て」という自分をアピールするよりも、もっと純粋に「あなたのことが心配で……」という気持ちが大きいのかなって。
「ラブ」の気持ちをぶつけてくれる子たちとは少し違う、ずっとそばにいる「家族」のような距離感なのかもしれません。
「なんでこのまま終わらせてくれないんですか!」と、現場で制作陣も涙した衝撃の展開が待っている
──これまで演じてこられたなかで、とくに佐藤さんの心に残っているシーンはありますか?
佐藤さん:
本当はもう「全部が全部」と言いたいくらいすべてのシーンが大切なんですが……とくに印象深いのは、みなさんが思う「いつものエイメスではない」部分が出るシーンですね。
──「いつものエイメスではない」シーンというのは?
佐藤さん:
漂泊者が傷つけられたときに「許せない!」と激情を露わにするシーンや、絵本を読むように思い出を語るシーンなど、そういった場面を演じるとき、私は「今、エイメスはどんな目をしているんだろう?」と想像するんです。
きっと光のない、冷たくて鋭い視線をしているんじゃないか……そんなことを考えながら演じていました。
あと、エイメスは「どんな自分だったら、漂泊者に誇れるのかな?」という問いを抱えて生きているんです。その答えが見つかって、彼女の肩の荷がストンと下りる瞬間があるんですが、私はもうそこがすごく好きなんですよ。
──エイメスの「漂泊者の誇りになりたい」という切実な想い。それが報われる瞬間が、佐藤さんの推しポイントなんですね。
佐藤さん:
あとこれはネタバレになってしまうので、詳しくは言えないのですが……現場で「なんでこのまま終わらせてくれないんですか!」なんて嘆きながら収録していたシーンがあります。
──えっ。それは不穏な……。
佐藤さん:
担当ディレクターさんは収録中、時折涙を流してくださっていて、そのリアクションはきっと画面の前のプレイヤーさんの感情とリンクしているのかなと。
プレイヤーのみなさんにも、胸が熱くなるような、心に爪痕が残るような……そんな想いを届けられたら本望ですね。
──そこまで感情を揺さぶられるシーンがあるとは……。ほかに、佐藤さんが「ここは絶対に見てほしい!」というシーンがあればぜひ。
佐藤さん:
「漂泊者との最初の出会い」のムービーシーンですね。
収録時、すでに女性漂泊者役の田中美海ちゃんの声が入っていたんですが、その声を聞いた瞬間に心が救われたんです。ずっと彷徨ってて、「寂しい、怖い、誰か助けて」って思っていたときに、彼女の声が聞こえて、フッと体の力が抜けるような感覚があって……。
なので、これからプレイされる方は、彼女が抱える「どうすれば漂泊者の誇りになれるのか」という悩みを頭の片隅に置いて見守ってください。
──ストーリーを進める際には、ハンカチやティッシュを準備しておいたほうがよさそうですね。最後に、プレイヤーのみなさんへ、メッセージをお願いします。
佐藤さん:
あらためまして、エイメスを演じさせていただきました、佐藤聡美です。
今回のストーリーは非常に重厚で、心にズシンとくる部分も多いかと思います。 ですが、エイメスは常に漂泊者のことが大好きで、心配していて……「会えてうれしい」「守りたい」という純粋な気持ちを持ちあわせているキャラクターです。
この旅が「楽しい旅」になるのかは、なんとも言い難い部分ではあると思うんですけど、それらも含めてその旅を楽しんでいただければと思います。
そして、みなさんの心の片隅に「エイメス」という女の子の居場所を作っていただけたらうれしいです。そうしてもらえたら、私から彼女に「よかったね、エイメス」と言ってあげられる気がしますから。
──ありがとうございます。エイメスの居場所は、プレイヤーの心の中にきっと作られるはずです。
佐藤さん:
物語の結末については、ネタバレになるので詳しくは言えませんが、最終的にどうなるのかはぜひプレイして見届けてください。
「心の片隅に漂泊者のことが大好きなエイメスという女の子のこと」を思いながら、今後もよい旅を続けていただけると、エイメスも私も嬉しいです。
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