跋扈する宇宙海賊、執拗に追ってくる反乱軍、次々と遭遇するイベント…… それらを単艦で切り抜けていくSFローグライクの傑作『FTL』。
あまりの人気に数多くの追従作が登場しているが、その中でもトップクラスの評価を得た作品がPCに続き、iOS/Androidでも公開された。
『Crying Suns』だ。
2018年にクラウドファンディングで約70000ユーロ(約850万円)の資金を調達し、2019年9月にSteamで初公開されたフランス発の作品。
もはやジャンルと化しているFTL系のローグライクだが、ストーリーに力が入れられており、章仕立てになっているのが特徴だ。
そしてiOS/Android版の公開と同時に、日本語にも公式対応。
その深い世界観を言語の問題なく楽しめるのは嬉しい。
FTLライクな歯応えのある難易度も特徴だ。
プレイヤーは幾度もの敗北を重ねながら、勝利に至る最適な戦略を模索しなければならない。
ただ、今作の1章や2章は(同タイプの他のゲームと比べると)そこまで難しくはない。
難易度も選択可能で、イージーならそこそこイージーだ。
FTLのようにイージーでもベリーハードで、ハードは”達成困難な何か”だったりはしない。
バトルには慣れが必要だが、繰り返しているうちに勝ち筋が見えてくるだろう。
価格はiOS/Android共に1100円。
Steam版2570円だが、現在(2020/7/10まで)サマーセールで30%offとなっている。
今作は意味深なオープニングムービーから始まる。
映画『マトリックス』を思わせるクローン施設で目覚めた主人公に、”OMNI”と呼ばれる機械ナビゲーターが帝国再興の使命を告げる。
前述したようにプレイヤーは幾度も死を迎えることになるが、その度に記憶を引き継いだクローンが誕生するわけだ。
開始直後の主人公は毎度おなじみの記憶喪失で、以前のことを覚えていない。
プレイヤーと同じく、ゲームを通して過去と世界を知っていくことになる。
宇宙に進出した人類は、高度なAIを搭載した機械“OMNI”たちに仕事を任せ、その文明を謳歌していた。
しかしOMNIは20年前、一斉にシャットダウンする。
すべてをOMNIに任せていた人類は生活できなくなり、宇宙はヒャッハーと狂信者が支配する広大な無法地帯と化す。
主人公はシャットダウン事件の真相を探るべく、宇宙戦艦で銀河を転戦する。
ゲームは移動シーンと戦闘シーンに分かれているが、移動シーンはほぼ『FTL』のまんまである。
恒星間をワープ移動しながら、エリア(セクター)の出口へと進んでいく。
後方から敵の主力艦隊が迫ってくるため、あまりうろうろしている時間はない。
移動に使うエネルギー(ネオン)にも限りがある。
FTLと違うのは、ひとつの恒星系に複数の惑星がある、つまり一箇所に多くの訪問先があることだ。
住民の反乱、危機に陥った民間船、あやしい武器商人との取引…… 各惑星で発生するイベントの総数は300以上に及び、毎回異なるものがランダムに現れ、指揮官は多くの選択を迫られる。
また、このゲームオリジナルの要素として、惑星の探索もある。
捜索隊を派遣して武器や物資を探しに行かせるもので、士官は様々なスキルを発揮して遭遇する危機に対処していく。
ほぼ自動で進行するが、宇宙サバイバルらしさが増している良い演出だ。
もちろん敵戦艦に遭遇することもあり、多くは戦闘に突入する。
勝てれば戦利品を得られるため、戦いも任務の遂行には不可欠だ。
戦闘シーンは『FTL』とは異なる、オリジナルのものだ。
よってFTLを経験していても、有利ということはない。
自艦と敵艦の間にはヘックス(六角形のマス)で区切られたフィールドがあり、一見するとターン制のシミュレーションゲームのようにも見えるが、リアルタイム制である。
ただ、いつでも時間を止められ、止めたまま命令を出せるため、焦って操作しなくてもよい。
まずは「戦隊」と呼ばれる攻撃機を出撃させる。
戦隊は4種類あり、“ファイター”はドローンに強く、“ドローン”はフリゲートに強く、“フリゲート”はファイターに強いという三すくみになっている。
よって敵機を確認し、有利なものを出すのが基本だ。
また、“クルーザー”と呼ばれる砲撃艇があり、遠距離攻撃か敵母艦への砲撃を行える。
ただ、クルーザーは接近されると脆いため、他の機体を盾にして守らなければならない。
序盤は敵戦隊が少ないこともあって楽勝だが、敵が増えてくると一進一退になりがちだ。
機体が破壊されると「修理中」の状態となって耐久力が半減するが、それでも一定時間で再出撃できる。
これは敵も同様なので、倒しても再び出てきてキリがない。
守備部隊と母船攻撃部隊を分ける、足の速いドローンやステルス戦闘機を裏から回す、といった戦法が必要になるだろう。
戦艦の兵器の使い方はFTLに似ており、チャージできた武器を選んで射撃地点を選択する。
対戦隊用の武器も多いが、敵母艦を狙う場合、兵器ベイ・戦隊ドック・船体統合システムのどれかをターゲットにすることができ、集中攻撃を加えればその部署に故障を発生させることができる。
ただ、その効果は5秒程度のスタンと一時的な能力低下で、FTLのように動作不能にさせるわけではない。
兵器も戦略的な使い方が必要だ。
例えば、戦隊は迎撃に徹して敵艦には砲撃でダメージを与えていく、逆に兵器で敵戦隊を壊滅させて戦隊で一気に襲撃する、といった具合だ。
もちろんそのためには、探索で資源を集め、母艦の武器スロットを強化し、売買やイベントで戦い方に合った兵器を獲得しておかなければならない。
各エリアの出口には手強いボスが待ち受けており、限られた時間でどれだけ強化できるかが攻略のカギとなる。
『FTL』も相応の世界観を持っていたが、ゲーム中にはほとんど語られなかった。
一方こちらは、オープニングやイベントシーンに加え、長めのNPCとの会話もあって、詳細に作られたSFの舞台背景を楽しむことができる。
レトロさを残しつつ、惑星や宇宙が美しく描かれたグラフィックも良い。
崩壊していく敵艦をバックに会話する様子には、スペースオペラらしさを感じられるだろう。
やや難点に思えたのは、スマホやタブレットでは戦闘シーンに出てくるユニットが小さいことだ。
操作し辛かったり、表示が見辛かったりはしないのだが、迫力がない。できれば撃ち合うシーンは拡大して見たかった。
だが、気になったのはそのぐらいだろうか。
マニア向けのゲームだが、FTLの優れた追従作のひとつとして、強くおすすめできる作品だ。
Crying Suns
ストーリーと世界観を重視した宇宙戦争ローグライク
・ローグライク(FTL系)
・開発:Alt Shift(フランス)
・公開:Humble Bundle(アメリカ)
・モバイル/アジア公開:ORENDA(日本)
・iOS/Android 1100円、Steam 2570円
文/カムライターオ
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