初めてVR体験する人が楽しめる導入の工夫

初めてVRを体験してもらう場としてはどうでしたか?

ゲームへの導入までがよくできてると思いました。ゾンビの世界に旅立つ前に、サイバースペースみたいなところで説明を受けながら待ち時間をうまく潰させてくれるんですね。ゲーム本編に投げ込まれる前に銃の使い方の練習もできるので、初めての人はあそこで「これがVRか!」と感動するのではないでしょうか。

しかも写真撮影のための時間がありましたね。ヘッドセットを被った上に、銃をわざわざ持ってきてくれましたよね。

あそこ、私が公開初日に遊びに行ったときは「撮影禁止」だったんです。でも、Twitterとかで呟く用にヘッドセットを被っている写真を絶対に撮りたいですよね! だから、そのときその場にいた社員に「写真を撮る時間を入れてくれ」とお願いしておいたんですよ。ちゃんとオペレーションの改善が行われていましたね。


miroさん、めっちゃ影響を与えているじゃないですか……(笑)。

あの撮影の流れは丁寧でしたよね。スーツを着た状態で記念写真撮らせてくれるのは嬉しかったです。
プレイフィールドで待ち受ける驚きの演出とは?

導入が終わったあとに注目すべきポイントはどこでしょう?

実は「ZERO LATENCY VR」で本当に私が好きなのは、プレイフィールドそれ自体なんです。説明を受けたあとに、ドアを開けて入った瞬間の「ここがVR空間なんだ!」という驚きが良いんです。

なんにもない黒い部屋の床に、白い十字の枠線がすーっと引いてあるだけ。あれは未来感がありますよねえ。

カメラのゆがみ補正に使うわけでもないでしょうし、おそらくあの枠線は演出だと思います。ゲームが終わってヘッドセットを外した瞬間に「あ、今までVRの空間にいたんだ」という現実に引き戻される感覚が味わえて良いですよね。

(画像はプレスキットより)

めちゃめちゃセンスのいい演出ですよね。相当気合入って作られていて、かっこよかったです。
エンジニアたちがもの申す! 技術部分の改善点とは?

ではちょっと話を変えて、エンジニアの視点で、使われてる技術に関してどう思いましたか? 個人的に、実際の腕の動きがVR空間内の腕の動きと一致していたのが単純にすごいと思ったのですが……。

ああ、あれはおそらく銃の位置から推定していますね。

(画像はプレスキットより)

実は厳密なセンシング【※1】ができなくても、腕の位置ぐらいなら周囲から推測してごまかすことができるんですよね。あれはInverse Kinematics(IK)【※2】と呼ばれる技術で、VR界隈ではよく使われるものです。
※1 センシング
装置を使用して必要な情報を集めること。ここでは、実際のプレイヤーの動きの情報を収集すること。
※2 Inverse Kinematics
インバースキネマティック。CGアニメーションのモデリング機能のひとつで、例えば人体など、関節の多い動物の動きをより簡単に再現することができる。

ゲーム開始前に利き手や身長を聞かれたのはそのためですね。人間の身体って、実はそんなに無理な態勢は取れないので、頭と手の位置さえとっておけばなんとかなるんですよ。

なるほど。ちなみに、遅延については名称通り「ZERO LATENCY」【※】だったのでしょうか?
※編集部注
LATENCY(レーテンシー)とは、デバイスに対してデータ転送を要求してから、結果が反映されるまでにかかる遅延時間のこと。

うーん、ガンシューティングとしては良かったけど、Viveコン【※】に比べると反応はまだまだでしたね。

(画像はHTC Viveの公式サイトより)

トラッキング【※】が優秀なViveコンに慣れちゃうのは良くないですよね。とはいえ実際に若干トラッキングが遅いし、あまり首を積極的に動かしたくないVR感ではありました。
※トラッキング
プレイヤーの運動の軌道や速度、位置情報を検出する技術。

でも、オープンした直後に私が行ったときは、通信用の無線も音声に3秒ぐらいの遅延があってまるで会話が成立しなかったんですよ。それが今では改善されてて、普通に会話できるようになってました。

確かに音声の遅延は全くなかったですね。

ちゃんとサラウンドで、その人がいる方向から音声が聞こえてきたのはよかったですね。

でも、そもそも通信ではなく肉声でやっちゃえばいいのでは……?

いや、ヘッドフォン被っちゃうと、ゲーム音のせいで聞こえないんですよね。

うーん、それも会場を大量のスピーカーで囲むまでやればそれっぽくなるかも。

それでも銃を撃った音をどうするか、という問題が残るね。自分の手元で撃った銃の音は自分の近くでしか聞こえないですし。

もういっそ、銃それ自体にもスピーカーを積んじゃいましょう!

まあ、アーケードの『タイムクライシス4』【※】とかでやってた気がするけど……(笑)。

(画像はバンダイナムコエンターテインメント公式サイトより)

とすると、NTTのリアルタイム波面合成技術【※】あたりを使うと良いかも。
※リアルタイム波面合成技術
NTTが開発した、違う場所で起きた音を、あたかも目の前で発生している音のように再現する技術。

えーっと、少々マニアックな話になってきましたが……(笑)。他にも「自分ならこの技術を使うのに!」と思った点とかありますか?

最近出たProject Alice【※1】という技術をぜひ導入してほしいと思いましたね。これは既存のトラッキングシステムと自製の慣性モーションセンサー【※2】の組み合わせで、非常に高性能なフリーロームのトラッキングを実践するシステムです。これが本当にすごい技術なんですよ。
※1 Project Alice
中国の企業NOITOM社が開発した全身モーションキャプチャーシステム。VR空間内に複数人を同時に参加させる事ができる。コントローラーやヘッドマウントディスプレイにセンサーを取り付け、現実空間にある物を正確にVR空間に反映させることが可能。
※2 慣性モーションセンサー
位置や姿勢を測定するため、身体の各所につけるセンサーのこと。動きの速さや加速度を計測する。

今使われているのは、ZERO LATENCY社自身が開発した独自のシステムでしたよね。

そうですね。他にも、OptiTrack【※1】というシステムを作っている会社が、VRアトラクション向けのアクティブセンサー【※2】のトラッキングシステム「OptiTrack for VR」を発表していたんですが、これのデモンストレーションで、銃型コントローラーをトラッキングして自由に歩き回っているのを見たので使えそうです。ただこの技術だと若干レーテンシー(反応の遅れ)を感じるかもしれませんが。
※1 OptiTrack
2007年からOptiTrack社が提供している、赤外線LEDを搭載したカメラと三次元トラッキングソフトウェアからなる光学式モーションキャプチャシステム。高価で難しいとされていたモーションキャプチャが、コンパクトなカメラで手軽にできると話題になった。
※2 アクティブセンサー
近赤外線を感知するセンサー。自ら赤外線ビームを発射し、反射や遮ったもので物体を検出する。

やっぱり「ZERO LATENCY VR」自体の技術的なアップデートはこれからあるだろうし、別の対抗作品も出てくる可能性はありますよね。

むしろ、「ZERO LATENCY VR」みたいなフリーローム型の多人数同時体験型のアトラクションは、今後VRのアトラクションの標準になっていくのではないでしょうか。だって、家じゃ絶対に遊べないですもん(笑)。

本当にそう思います。
2000円にしては贅沢な遊び!?

(画像はプレスキットより)

最後に聞いてみたいのは、コストパフォーマンスです。これ、ジョイポリスの入場料とは別に、年パスを持っていようとプレイ料金2000円払うというシステムなんですが……ぶっちゃけどう思いました?

まあ、それは仕方ないと思いますよ。1回設備投資したらいずれ黒字が出るかもしれないけど、そもそも設備投資がそんなに安くないですしね。

メンテも必要だし、アップデートもしてるみたいだし、しかもバッテリーもどんどん劣化しますからね。

そしてVRって、アトラクションとして回転率悪すぎるんですよね。30分に1回、6人が遊ぶだけですから……。

え、これって30分も経っていたんだ。

いや、私も出てきたら、30分経っててびっくりしましたよ。遊んでると全然気づかなかったけどね。

うーん、そう考えてみると、贅沢な気もしてきました。

技術的にはまだまだと思うところはあるけど、やっぱりVRマルチプレイは圧倒的に楽しいですよ。

予約はいりますけど、ここに来ればできるっていうのはやっぱりいいですね。でっかい銃のコントローラーをVR空間に持ち込めるのは本当に最高でした。


確かに今の「ZERO LATENCY」は、遅延はトラッキング中に感じるし、ポジションの精度もイマイチだし、CGのクオリティも今一つかもしれない。けれども、本当に注目すべきは「そんな細かいところはどうでもいいんだよ!」と思ってしまう楽しさですよね。圧倒的な量のゾンビが襲ってきて、歩き回ってパカパカ撃ちまくるって、単純に楽しいですよね。

今VRマルチプレイで歩けるっていうのを国内で気軽に体験できるのは唯一これだけだからねえ。

ニコニコ超会議にも来てもらいましょうよ! 幕張メッセ1ホールとか使って。
次回はオーストラリアに弾丸出張!?

たださ、いまさら身もふたもないこと言っちゃうけど、あれってVRゲーとしては広いけど「歩けるアトラクション」としては狭かったなあとは思います。どうせなら、もっと広く歩きたいですね……。

でも、本家オーストラリアのメルボルンにある「ZERO LATENCY VR」は超広いらしいですよ。

(画像はプレスキットより)

そうなんですか?

体験時間は45分で、参加者はストーリーにあわせて2km近く歩くそうです。

えー、そりゃ広すぎだわ!

あはは(笑)、ぜひやってみたいですね。

これはもう、メルボルンまで行くしかないでしょう。次回は、全員でメルボルン出張にしましょうか!

それは流石に無理ですって!(笑)。……というわけで、その代わりに次回のレビューは、新宿・歌舞伎町に7月にオープンする「VR ZONE SHINJUKU」を予定しています。そちらの体験レポも配信していく予定ですので、ぜひお楽しみに……! (了)
