自分の足で仮想世界を歩くことができるウォークスルーVR(あるいはフリーロームVR)。まだまだ数は少ないが、『ZERO LATENCY VR』や『MORTAL BLiTZ FOR WALKING ATTRACTION』など、いくつかのアトラクションが日本に上陸している。
米軍と露軍っぽい銃をキッチリ用意でFPSマニアがニヤリ? ジョイポリスの常設VR「ZERO LATENCY VR」でマルチプレイ戦闘を体験【ドワンゴVR部】
そんな中、2017年7月にメイド・イン・ジャパンのVRアトラクション『Magic-Reality: Corridor』が発表された。プレイヤーは奈落の住人“亡者”たちに追われながら、地獄へと変化していく回廊をなす術もなく逃げ惑うことになる。
本作で興味深いのは、ウォークスルーVRに、リアルタイムで自分と背景を合成するクロマキーと、お化け屋敷を組み合わせたことだ。しかも日本人が作ったというのだから、実に気になるアトラクションだと言えよう。
そこで我々は、『Magic-Reality: Corridor』の取材を決行することにした。VRレビューといえば普段はドワンゴVR部の面々によるレポートを掲載しているが、今回は趣向を変えて、ロシアからやって来た美女コスプレイヤー・ナスチャん(@nastyan_cos)と共に、ひと夏の恐怖体験をお届けしよう。可愛い女の子がきゃーきゃーと楽しむ姿に癒やされてほしい。
聞き手/春山優花里@haruYasy.、クリモトコウダイ
文/春山優花里@haruYasy.
めっちゃ恐い! VRお化け屋敷ならではの演出とは
まずはバックパックPCを背負い、HTC viveと位置情報をトラッキングする“ランタン”を手に持ってグリーンバックで統一された体験スペースに移動したところで、VRお化け屋敷がスタートする。
何年も前から人の手が加えられていないような荒れた部屋、実際に感じているわけではないのにジメジメとした空気感――まさにお化け屋敷と聞いてイメージするものがVRで表現されている。この雰囲気はホラー好きにはたまらないだろう。これからどんな仕掛けで怖がらせてくれるのかとワクワクする。
手にしたランタンは位置情報をトラッキングするための装置であり、VR世界の中で自由にできる灯りでもある。頼りない灯りではあるが、これがまたホラーらしくていい。ランタンに照らされる洋館の寂れた通路は、それだけでも恐怖を煽ってくる。
体験という面では、“お化け屋敷”と称されているだけあって、足元に表示された“魔法陣”を模したルート表示に従って進むことになる。
武器で戦ったり、何かしらのギミックを解くといったゲーム的要素はないが、これはマイナス要素ではなく、むしろ世界に浸るという体験にフォーカスしていると言える。
とはいえ、異形のクリーチャーが飛び出してくるビックリ系のほか、壁の模様が変化していき大量のイナゴに襲われるじわじわ系など、人間の心理の隙を突くように緩急を意識したギミックの数々に、VRならではの没入感も相まって凄まじく怖い。
ホラーが苦手な人は心の準備をしっかりしておく必要があるだろう。場合によってはオムツを用意しておくといいかもしれない。
ナスチャんのリアクション、可愛すぎィ!
ここからは、日本のアニメや漫画、ゲームといったオタクコンテンツにハマり、銀行職員というステータスを捨ててまでロシアからやってきた美女コスプレイヤー・ナスチャん氏(@nastyan_cos)に登場してもらおう。
バックパックPCを背負い、VRヘッドセットを装着。ランタンを手にして「いくぞー!」とやる気十分。さっそく体験してもらった。
洋館の中で何かが起こるたびに悲鳴をあげ、進むのを躊躇して立ち止まってしまうこともあったが、かろうじて見える口元には笑みがこぼれ、なんだかんだ楽しそうである。
扉がひとりでに閉まったり、宙吊りになった死体なのか食糧なのかよくわからない何かが動いたりと、数々のギミックに一進一退のナスチャん。
「こわ〜い!」としゃがみこんでしまったり、母国語がちらっと飛び出したりもしていたが、なんとか無事にゴールへ。
体験した直後、興奮さめやらぬという感じのナスチャん氏に完走した感想を聞いてみた。
「こわかったぁ〜!」ナスチャんインタビュー
体験してみてどうでした?
こわかったぁ~! 私、何も武器を持ってないから、自分のこと守れないから、クリーチャーが出てきたときにもう「もぉ~!」ってなっちゃって。すごい怖かったけど、めちゃ楽しかった!
映像のクオリティはどうでしたか?
超うまーい! ほんとに! ベッドとかの形もしっかりしてる。あとライティング(光の使い方)も上手かった!雷の音みたいなのもすごい迫力があって、びっくりした。
音や光などの演出への感想が出てくるのはコスプレイヤーならではかも。このVRの世界はナスチャんさんの目にどう写りました?
ん~、ホラー映画とかゲームの中にいるみたいだった! 私は『サイレントヒル』【※】がすごく好きなんだけど、それにちょっと雰囲気が似てた。
※サイレントヒル
1999年にコナミ(当時)から発売されたホラーゲームのこと。アメリカの北東部にある架空の田舎の観光地「サイレントヒル」が舞台のホラーアドベンチャー。現在に至るまで続編や関連タイトルが多数発売されており、シリーズ全世界累計販売本数は2013年時点で840万本を記録している。後に実写映画化もされた。
それって映画の方ですか? それともゲームの方ですか?
どっちかというとゲーム。「わー!」ってくる、怖いクリーチャーが最初のゲームに出てきたヤツに雰囲気が近かった。
実際に体験してみて一番印象に残っているギミックはなんでしょう
虫! 部屋にいっぱいの虫! もう目の前にいっぱい出てきて、いっぱい。
それは想像するだけでも気持ち悪い(笑)。今後、この「Magic-Reality: Corridor」を体験する人に何かアドバイスはありますか?
ホラーが好きな人にはおすすめだけど、怖いのが苦手な人は気をつけた方がいいね。怖がり屋さんは心臓が止まっちゃうかも?
男同士でもパートナーを強く意識してしまう(?)
筆者はナスチャんの体験を見た後にプレイしたが、まんまとギミックに乗せられてしまった。そのどれもが“お化け屋敷”と聞いて期待するものでありながら、それを超えるクオリティであるのだから驚きだ。
壁や廊下の質感もさることながら、登場するクリーチャーの造形も素晴らしく、本当に“怪しげな洋館”にやってきたかのようなリアリティを感じられたのは、ビジュアル面での作り込みだけでなく、音や光といった演出にも力を入れていることの証明だろう。
開発を手がけるTYFFON社の代表・深澤研氏によれば、開発はCGデザイナー2人、エンジニアも含めると8人という少数精鋭のチームで、約1年前にスタートしたという。たったそれだけの時間と人員で、本格的なウォークスルー型VRコンテンツを作り上げたのだから驚きだ。
個人的に強く印象に残っているのは、終盤の小部屋。壁の模様だと思っていたものが変化していき、部屋の中に大量のイナゴ(バッタ)が増殖していくギミック。今思い出してもおぞましく、いい歳した男が「これガチでアカンやつぅー! きゃー! いーやー! ひぃー!」(音源ママ)と悲鳴をあげてしまったほど強烈だった。
しかも、そんな小部屋の仕掛けにはしっかりと文脈がある。直前にドッキリ系のギミックがあって気が急いているプレイヤーに静寂を与えて困惑させ、じわじわと変化していく様子に気づかせるのだ。
深澤氏いわく「違和感と驚き、空間のコントラストを意識しつつ、バランスよくギミックを配置することを心がけた」という、その狙いすましたような演出もプレイヤーを魅了するエッセンスとなっている。
ちなみに『Magic-Reality: Corridor』では、2人同時に体験できるというのも特徴だ。カップルや友人同士で手を繋いで(抵抗がある人のためにリングも用意されている)、恐怖の館を探検することができる。
お化け屋敷がデートスポットとして人気を集めている理由のひとつに、“吊り橋効果”が挙げられることも多い。視覚をシャットアウトされているわけではないが、VRヘッドセットによる視界は独特な違和感があり、VRならではの没入感と相まって、(男同士だったが)パートナーに意識が向くようになっていた。
これが仲の良い友人や恋人がパートナーであれば、よりエキサイティングな体験となっただろう。
体験を終えて〜“体験の共有”が魅力
『Magic-Reality: Corridor』の体験後、筆者に対してナスチャんはすぐさま「見てて面白かったよ」、「あそこめっちゃ怖かったでしょう?」と積極的に感想を交換してきた。これは、映画を見たあとに喫茶店で感想を語り合ったり、ディズニーランドやUSJを訪れてアトラクションを一緒に楽しんだりするのと同じことだと思う。
こういった“コミュニケーション”や“体験の共有”もVRコンテンツの魅力の一つだと言えよう。
その点で言えば、本作が選んだVR×お化け屋敷のようなウォークスルー型コンテンツは、目の付け所が非常にいいのではないだろうか。
体験そのものも楽しいが、体験後のコミュニケーションも楽しめる――そういう仕掛けが今後の常設型VRアトラクションのキーなのかもしれない。
なお、『Magic-Reality: Corridor』は2017年10月にオープン予定のアトラクション施設「ティフォニウム」で、今回の倍以上のボリュームにパワーアップした完全版がローンチする予定だ。
この完全版では、今回体験したものよりも大幅にボリュームアップし、目に見えるビジュアル面でのクオリティアップがはかられるという。風を発生させる装置や振動設備なども導入されるほか、シナリオ分岐も用意して2度3度と楽しめるようになるというから楽しみだ。
完全版は1年ほどの期間で展開を予定しているそうなので、興味がある方はぜひ10月からの完全版でチャレンジしてみてほしい。
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