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【やる夫と徹底検証】ゲームの「ボス」という言葉の起源とは――『ポートピア』『ツインビー』『悪魔城ドラキュラ』…ジャンルごとに「ボス」の歴史を辿ってみた

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「ボス」の起源1:AVGの場合

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ここまでで、『ギャラクシアン』の敵旗艦に「ギャルボス」という名称が後づけされるまでの流れはわかったと思う。そして『パック&パル』の登場前後、つまり1982年から1983年は、家庭用ゲーム機の世界ではファミコンの登場という重大事件があった一方、アーケードゲームやパソコンゲームの世界でも、それぞれ後々に多大な影響を及ぼした変革がいくつも起きている。次は、それらの中で「ボス」に関わる事柄を追ってみよう。
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パソコンゲームで「ボス」っていうと、『ポートピア』じゃないかお。
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そのとおりだ。堀井雄二氏作の『ポートピア連続殺人事件』【※】といえば、パソコン用が1983年夏に登場した、日本における推理もののアドベンチャーゲームのさきがけのひとつだな。
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※ポートピア連続殺人事件……堀井雄二の手がけたアドベンチャーゲーム。1983年にエニックス(当時)よりコマンド入力式のPC版が発売され、1985年にはコマンド選択式となったファミコン版が発売された。主人公の刑事は、相棒のヤスとともに神戸で起きたある殺人事件の解決に奔走する。画像はファミコン版のパッケージ。
(画像はAmazonより)
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「ボス」がプレイヤーで、画面に出てくる「ヤス」がその部下だったお。
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このように、ボスともうひとりのキャラクターが互いをあだ名で呼びあう設定は、1970年代から80年代中盤を代表する刑事ドラマ、『太陽にほえろ!』にならったものと考えられるだろ。堀井氏はこの後、パソコンゲーム雑誌「ログイン」と組んで制作した『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』【※】でも、同様の設定を踏襲した。
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※北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ……1984年にアスキー(当時)からPC用に発売されたアドベンチャーゲーム。『ポートピア連続殺人事件』、『軽井沢誘拐案内』と同じく、堀井雄二が手がけている。晴海埠頭で起きた殺人事件に端を発し、網走、摩周湖、屈斜路湖など北海道を舞台に、警部となって部下を連れ、事件の謎を解く。のちにファミコンに移植された際、イラストが荒井清和のものに変更され、ストーリーも若干変わっている。
(画像はプロジェクトEGGより)
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『ポートピア』での設定が、けっこうウケがよかったってことなんかお。
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しかし『オホーツク』が発売された1984年末には、パソコンゲームの流行がアドベンチャーゲームからRPGへと移り変わり始めていた。さらに1987年に『太陽にほえろ!』シリーズが終了したこともあってか、これらの堀井氏の作品のファミコンへの移植を除くと、プレイヤーが「ボス」と呼ばれるアドベンチャーゲームは、目立たないものとなっていった。
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探偵が主人公だと「ボス」の出る幕なさそうだし、しかたのないところかお。それでも、『ポートピア』はファミコン最初のアドベンチャーゲームだったわけだし、印象に残ってる人はわりといそうだお。

「ボス」の起源2:STGの巨大メカの場合

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一方アーケードゲームでは、1982年末にセガの『ズーム909』【※1】が、1983年1月にはナムコの『ゼビウス』【※2】が登場している。これらに登場する敵の母艦や要塞は、迫力を感じさせる大きさで、しかもただの書割ではなく背景から独立して動くことにより、プレイヤーに強い印象を残しただろ。家庭用ゲーム機やパソコンのほとんどは、1983年前半の段階では、このような表現はハードウェアの性能上そもそも不可能か、あるいはかなりの簡略化が必要だった。
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※2 ゼビウス……1983年にナムコ(当時)から発表されたアーケード用の縦スクロールのシューティング。発売当時のキャッチコピーは「プレイするたびに謎が深まる! 〜ゼビウスの全容が明らかになるのはいつか〜」。過去にない鮮やかでグラフィカルな背景、陰影が強く硬質でミステリアスなキャラクター群、言語まで入念に作られたゲーム内世界の設定、そして「隠れキャラクター」など、当時になかったプレイヤーの想像力を刺激する断片が散りばめられていたため、裏技や真偽不明のうわさ話が飛び交い、プレイヤーたちを熱狂させた。
(画像はバンダイナムコエンターテインメント公式サイトより)

※1 ズーム909
1982年にセガから登場したアーケード用の擬似3Dシューティング。画面奥方向に移動しながら、前方から飛来する敵を撃墜する。1985年にSG-1000に移植されたバージョンでは、ゲームが進むと見下ろし型の2Dシューティング面も登場した。

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アーケードゲームならではの、贅沢なハードウェアの威力ってわけだお。
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この後、ゲームセンターに出回るビデオゲーム、とくにシューティングゲームでは、SF的な舞台設定と巨大メカの組み合わせが定番の題材になった。しかしこのような巨大メカは、少なくとも公式には、「マザーシップ」、「機動要塞」など、大仰な名称で紹介されることがほとんどだった。
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うーん。エイリアンとか忍者とかが敵ならともかく、メカを「ボス」って呼ぶのは違和感があったんかお。
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巨大ロボットアニメの歴史に名を残す『マジンガーZ』【※】には、「ボスボロット」が登場するが、あれはあくまで「ボス」という名前の登場人物が扱うメカというところからの命名だからな。少なくとも、ただ「ボス」と呼ぶだけでは、メカらしい重厚さを表現するには物足りないという雰囲気があったと言えそうだ。

※マジンガーZ
永井豪による乗り込み型ロボットがモチーフのマンガ作品およびアニメ。マンガ、テレビアニメともに1972年にスタートし、前者は翌年まで掲載、後者は74年まで放映された。悪の科学者 Dr.ヘルから地球を守るため、主人公の兜甲児は祖父の遺したスーパーロボット・マジンガーZに乗り込み、悪と戦う。人型ロボットに人間が乗り込んで操縦するタイプの「巨大ロボットアニメ」を確立したとされる作品であり、また亜鉛合金をふんだんに使った玩具「超合金」を大ヒットさせて、アニメ・玩具業界に多大な影響を及ぼした。2018年1月には新作映画の公開が決定している。

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もっとメカメカしさがほしいってとこかお。
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そんな中で、1985年春に登場したコナミの『ツインビー』【※】では、複数の雑誌記事で巨大メカを「ボス」と紹介しており、公式資料にも「ボス」と記載されていたとみられる。ビデオゲームの歴史を扱う展覧会「あそぶ!ゲーム展-ステージ2」で展示された、この作品の音楽制作時の資料にも、「ボスBGM1」、「ボスBGM2」などという記述があった。
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※ツインビー……1985年にコナミ(当時)からアーケード用としてリリースされた、ふたり同時プレイが可能な縦スクロールシューティング。ステージ中に浮かぶ雲の背後に隠れているベルを射撃で見つけ出し、連続してショットを当てるとベルの色が変化。ベルに触れて取得したときの色に応じた機能が獲得できる。各ステージの最後には、固有名詞を持った異なるボスが登場した。画像は同作の、音楽制作時の資料。
(画像:「あそぶ!ゲーム展-ステージ2」にて筆者撮影)
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『ツインビー』っつーと、メカメカしさよりは、コミカルな雰囲気が前面に出てるシューティングゲームってイメージだお。
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もっとも巨大メカに限っては、わりとメカっぽいデザインと言えそうだがな。ともあれ『ツインビー』の作品全体の雰囲気が、メカでもあえて「ボス」という言葉を使うことにつながった可能性は、十分考えられるだろ。
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シューティングゲームの巨大な敵を、「ボス」って呼ぶ突破口を開いたってところかお。
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さて、この『ツインビー』のすぐあとに、シューティングゲームの中でもとくに人気の高いシリーズとして知られる『グラディウス』【※】の第1作が、ゲームセンターに登場している。その紹介記事を見ていくと、ビデオゲーム雑誌「Beep」の1985年7月号に「第2シーンのボス」との一節がある。シリアスな設定のシューティングゲームの巨大メカに「ボス」という言葉が使われた例としては、比較的早いものだと考えられる。

※グラディウス
1985年にコナミ(当時)からアーケードでリリースされた、右方向へ進む横スクロールシューティング。自機ビックバイパーの対空と対地のミサイルを使い分け、敵編隊を撃破してパワーアップアイテムを入手。アイテム取得ごとに切り替わる任意の能力をパワーアップボタンで決定し、能力を駆使して敵軍を撃破していく。各ステージの最後には、各面独特の敵や攻撃とともに大型母艦のビッグコアが待ち受ける(終盤のステージを除く)。ファミコンはじめさまざまな機種への移植作や続編が登場している。

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それも、公式資料で「ボス」って出てたんかお?
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いや、どうやらそうではないらしい。他誌をいくつか確認してみたが、「ボス」との記述は見当たらない。「Beep」での表現は、おそらくは『ツインビー』の影響もあって、記者の好みで使われたもののようだ。ほぼ1年後、1986年4月にはファミコン用『グラディウス』が発売されているが、その各誌の紹介記事を見ても、「ボス」との表現が広がっているとは言いがたい。
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「ビッグコア」【※】みたいなメカメカしいヤツに「ボス」を使うのは、まだ当たり前じゃなかったわけだお。

※ビッグコア
『グラディウス』の自機ビックバイパーとともにゲームのシンボルたる敵大型母艦。アーケード版では画面の1/9ほどを占める。中央に見える青いコアが弱点。

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一方で、1986年1月にはファミコン用『ツインビー』が発売され、その説明書には得点表のところにしっかり「ボス」との記載がある。また同年春にゲームセンターに登場したセガの『ファンタジーゾーン』【※】では、ゲーム筐体に添えられたルール説明に「ボス」と書かれていた。この作品の音楽の収録を売りにして、1987年2月に発売されたアルバム『セガ・ゲーム・ミュージック VOL.2』にも、「ボス」という曲名がある。
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ファンタジーゾーン(セガ・1986)
(画像はセガ・アーケードゲームヒストリーより)

※ファンタジーゾーン
1986年にセガがアーケードでリリースした、横スクロールシューティング。その名のとおりパステルタッチでカラフルに描かれた世界を、丸い愛らしい自機で左右どちらの方向へも好きに移動でき、敵を倒したときに現れるコインを集めてSHOPと書かれた風船に触れると残機増などの買い物ができるシステムなどが特徴だった。各ステージに散らばる前線基地を10個破壊するとボスが登場。これを倒すとつぎのステージへ移行した。マークIIIなどセガハードをはじめ、ファミコンやPCエンジンなど他プラットフォームにも移植され、人気を博した。

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『ファンタジーゾーン』も、『ツインビー』みたいにコミカルな感じのシューティングゲームだお。
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シリアスな設定のシューティングゲームでは、1986年7月にゲームセンターに登場した『グラディウス』シリーズ第2弾の『沙羅曼蛇』【※1】について、複数の雑誌記事に「ボス」と書かれており、公式の資料でも「ボス」と記載されていた可能性がある。また同時期にセガがゲームセンター向けに発売した『ガルディア』【※2】では、画面上に「BOSS」との表示が出るようになっている。

※1 沙羅曼蛇
1986年にコナミ(当時)からリリースされたアーケード用のスクロールシューティングゲーム。ふたり同時プレイが可能で、『グラディウス』の続編にあたり、1Pの自機はビックバイパーとなっている(2Pはロードブリティッシュ)。最大の特徴は横に始まり、1ステージごとに縦、横、縦……とスクロールする方向が変わること。1987年に発売されたスケルトンカセットのファミコン版などでは、ステージ構成などが大きく変更されている。

※2 ガルディア
1986年にセガからリリースされた縦スクロールシューティングゲーム。開発はのちにバンプレストの母体のひとつとなるコアランド。鮮やかな背景に、弾を撒き散らしながら飛来する敵機を撃墜するなど、全体に『ゼビウス』の影響が見て取れる。だがなぜか『ゼビウス』ではソルに相当する隠しキャラが、R2-D2やダース・ベイダー、そしてジェイソンもどき。対空対地のショットを使い分け、敵を撃破して手に入れたアイテムでパワーアップ。このパワーアップが目に見えて派手かつ強力だった。

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ファミコン用の『グラディウス』のすぐ後だけど、急に話が変わってきた感じだお。
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さらに後の話になるが、1987年5月には、アーケード版『グラディウス』の音楽を収録した『オリジナル・サウンド・オブ・グラディウス アーケード版』が、また翌月には『ダライアス』【※】の音楽を収録した『ダライアス タイトー・ゲーム・ミュージック VOL.2』が発売された。これらの音楽アルバムはそれぞれ「ボス」が曲名に含まれていて、巨大メカを公式に「ボス」と呼ぶ流れは、ここまでに定まっていたと言える。

※ダライアス
1987年にタイトーから発売されたアーケード用横スクロールシューティング。モニターを横に3つ並べた専用の筐体の使用、ゲームが進むとルートが分岐し、プレイヤーの選択ルートによって難度が変化するシステムなど、シューティングゲームには珍しいアイデアがプレイヤーを惹き付け、長らく続くシリーズになった。ボスに相当する巨大戦艦は、シーラカンス、イソギンチャク、ピラニア、シュモクザメなど水棲生物をモチーフにしている。コンシューマーにもたびたび移植されているが、1画面に収まるように構成をアレンジされているものが多い。

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「小ボス」って言葉が説明書に出てきた『メトロイド』の発売も1986年の夏だったし、そのあたりから、SFっぽい設定のゲームの強敵はだいたい、公式に「ボス」って言ってもおかしくなくなってきたわけだお。

「ボス」の起源3:RPGの場合

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1986年は、前回も触れたように、ファミコンでRPGや、その影響を強く受けたゲームが本格的に注目を集め始めた年だった。その中で、『ゼルダの伝説』、『ハイドライド・スペシャル』【※】、『ドラゴンクエスト』の説明書を見てみると、倒すべき悪の首魁をそれぞれ「大魔王」、「悪魔」、「竜王」としており、「ボス」と説明した箇所はいずれにも見当たらない。

※ハイドライド・スペシャル
1984年にT&Eソフトが発売したPC-8801用のRPG『ハイドライド』は、RPGとアクションゲームの両方の要素を取り入れた「アクティブロールプレイングゲーム」と銘打たれていた。これを1986年にファミコン用としてアレンジ移植したのが『ハイドライド・スペシャル』。

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SFっぽい設定のゲームとおんなじで、重々しい感じを出すには「ボス」って言葉じゃ足りなかったわけかお。
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しかし一方で、『ゼルダの伝説』の説明書には、次の一節がある。

「迷宮の敵の中には、ボスがいるタイプのものがいる。この場合、ボスをやっつければ、部屋の敵は消える」

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つまり、重々しさは関係なしに、敵のリーダー格を「ボス」って呼ぶことはありだったわけだお。
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そして『メトロイド』の発売の翌月、1986年9月には、コナミが『悪魔城ドラキュラ』【※】をファミコンのディスクシステム用に発売した。その説明書では、要所を締める強敵だけでなく、魔王ドラキュラも「ボス」と紹介されている。

※悪魔城ドラキュラ
1986年にコナミ(当時)より発売されたファミコンディスクシステム用ソフト『悪魔城ドラキュラ』とそのシリーズ。主人公ヴァンパイアハンターがドラキュラを倒すため、悪魔城内に潜入。アイテムを駆使し、罠をかいくぐり探索を進める。その設定からアートや楽曲などのゴシックホラーテイストが強い独特の雰囲気となっており、欧米でも『Catslevania』という名前で人気を博し、現在もシリーズ作の発売が続く。

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つっても、『悪魔城ドラキュラ』はRPGとはちょっと違うんじゃないかお。
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もちろんそうだ。しかしそのゴシックホラー調のシリアスな設定は、この後ファミコンに続々と登場したRPGと比べても、重厚さにおいて引けを取らないものであったのは間違いないだろ。そんな『悪魔城ドラキュラ』で公式に魔王を「ボス」と呼んだということは、RPGやその周辺のファンタジーの分野にも決して少なくない影響があったと考えられる。
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確かに、それは言えてそうだお。

1986年には出そろった各ジャンルの「ボス」

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つまり1986年の秋ごろまでには、ビデオゲームの巨大な・重厚な強敵について、SFでもファンタジーでも、公式に「ボス」と呼んだ実績がおおむね出そろったというわけだ。
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なーるほど。それにしても今回、『ツインビー』とか『沙羅曼蛇』とか『悪魔城ドラキュラ』とか、コナミのゲームの話が目立ってる感じだお。コナミの皆さんは何かボスに思い入れでもあったんかお?
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おいおい……。正直なところ、コナミ社内で流行っていたなどと裏付けられるほどの証拠はない。まあ、仮にそうだとして、コナミで流行っていた言葉が「ボス」の代わりに「ドン」だったら、いまで言う「ラスボス」も「ラスドン」になっていた可能性はあるかもしれないな。
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『メタルギア』の「ビッグ・ボス」【※】も、「ビッグ・ドン」だったかもしれないお。

※ビッグ・ボス
「メタルギア ソリッド」シリーズに登場するキーパーソン、ネイキッド・スネークが持つ称号。シリーズにはさまざまな「スネーク」が登場するが、ネイキッドは『メタルギア ソリッド3』や『メタルギア ソリッド V』などで主人公を務めている。

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それはさすがに違和感ありすぎだろ、常識的に考えて。ともあれ、今回はここまでとしよう。

【追記】
今回の記事の「ドン」の表現が広まったきっかけについて、電ファミ連載陣である岩崎啓眞氏からいただいたご指摘に基づき、映画『ゴッドファーザー』についての記述を追加いたしました。あらためて御礼を申し上げます。(2017年9月27日追記)

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コンピューター文化史研究家。2013年よりブログにて「やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史」を連載。約2年で本編を完結後は、不定期に番外編を掲載。日本の文化・社会とコンピューターやビデオゲームとが、どのように関係してきたのかに関心を深めている。当たり前と感じていることに疑問を持つのは難しいと思う今日このごろ。
Twitter @Kenzoo6601

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