コンポジット端子──よく見る3色のあの端子!
3色のチューリップ
「さいた さいた チューリップの花が」で始まる唱歌「チューリップ」は、曲中で「あか しろ きいろ」と並ぶ。みなさんのテレビの3色端子はどの順番で並んでいるだろう?
なにも3色にちなんだシャレで「チューリップ」を持ち出したわけではない。切り込みのあるリング状の金属板にぐるりと囲まれた、一本のピン。これから話すAV出力ケーブルの端子は、この形象から「チューリップ」と呼ばれているのだ。このチューリップ状の端子には、さまざまな呼びかたがある。形状からピンプラグやピンジャックと呼ぶ人もいるし、機能面からコンポジット端子とも呼ばれる。
だが、ここではこの形状の原型を作ったメーカーにあやかってRCA端子と呼んでおこう。ひと昔前は一般家庭でもっともよく使われていた端子だ。
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もしも遊びたいレトロゲームハードの出力ケーブルの端子がRCA端子で、しかも赤・白・黄色が3本揃ったチューリップカラーならラッキーだ。
GoogleだろうがAmazonだろうがなんでもいい、適当な検索窓に「RCA」「HDMI変換」とでも打ち込めば、すぐにRCA端子をHDMIに変換できるコンバータが4000~6000円程度の価格で見つかるはずだ。
コンバータの使いかたは複雑なものでもなく、ざっと説明書を読むのが早いし適切。届いたその日に最新のモニターでレトロゲームを遊べるようになるだろう。ただし、間違ってHDMIをRCA端子に変換する逆パターン【※】を誤発注しないように。
※HDMIをRCA端子に変換する逆パターン
なぜいまもっとも普遍的なHDMIをRCA端子に戻すアイテムがあるのかといえば、たとえば映像は4Kテレビで見たいけど、音声はお気に入りのステレオから流したい……というときに、HDMIのように映像も音声もひとつにまとまった端子は不便だからだ。
ちなみに、そうしたステレオ周辺機器事情に配慮して、近年はHDMIを受けて再度音声だけ出力する機能を持つテレビもあれば、HDMIから音声信号だけ取り出して様々な端子から出力できるようにする機器(スプリッタやコンバータと呼ばれる)もある。
というわけで、レトロゲームハードをRCA端末で最新モニターに繋ぐガイドはここまで。
ここから先はRCA端子とは何か? という話をしていこう。
この3色のケーブルの正体は?
RCA端子はピンの部分から信号を流すのだが、3色の端子それぞれで流す信号の内容が異なる。
黄色は映像信号だ。赤と白はステレオ音声信号で、赤は向かって右の音声用、白は向かって左の音声用となっている(一部例外あり)。
テレビ入力側は”左から”右・左(赤・白)と並んでいることが多い。左側に右音声があるので混乱することもあるだろうが、テレビ側の入力端子の内側(絶縁部)に対応する色が塗ってあるので、そのとおりに接続しよう。
実のところ、赤と白のRCA端子はHDMIより昔の規格、いわゆるアナログ信号の規格ではよく使われるものだ。というのもアナログでは、基本的に線1本につき、映像信号や右音声など、ひとつの信号しか送れない。
そして音声出力に関しては、ほとんどの場合でRCA端子が使われている。
しかし、黄色のピンはここでしか登場しない特別なものだ。この黄色の端子は、それが伝える信号の名前から、コンポジット端子と呼ばれる。
コンポジット端子の解説の前に、ここで少しだけモニターに映像が映る仕組みについて説明しておこう。知っておくとなお深く端子の理解ができるからだ。
モニターは、光る細かな粒をぎっしりと敷き詰めた横線を、縦方向に一列ずつ並べて作られている。この横線を走査線という。
※海外のYoutuber The Slow Mo Guys による映像。モニターをハイスピードカメラで撮ることで、走査線が上から順に光って映像を表示する様子を見せてくれている
この走査線の数は画質に関わる要素のひとつだ。細かなバリエーションは山ほどあるが、現在、世界的にはおもに480本、720本、1080本、2160本の走査線が並んだテレビが主流だ。ちなみに、昔のアナログテレビは走査線が480本だった。その約4倍の2160本あるモニターは4Kモニターと呼ばれている。また、定義上は650本以上の走査線があるモニターならHD(High definition=ハイデフ=高精細)と名乗っていいことになっているが、慣習的に720本ならHD、1080本はフルHDと呼ばれることが多いようだ【※】。
※メーカーにより呼称は異なり、HDの代わりにNHKエンジニアリングサービスの商標であるハイビジョン(Hi-Vision)を使う場合もある。
ゲームハードは、モニターの仕組みに合うように信号を出力する。具体的には映像を横に細かなセクションに区切り、さらに映像の要素を色(RGB)と輝度(Y)【※】に分解・信号化してモニターに送信しているのだ。
信号を受けたモニターはこれを処理し、最上部から順番に、高速に走査線を光らせ、下端部まで行くとまた上端から書き換えていく。これが人間の目には映像として映るのだ。※輝度は“人間の目が感じる明るさ”を意味している。普通に“明るさ”と表現するときは、光がどれだけ出るか、あるいは遠くに届くかを表す。
「輝度は英語でLuminanceだから、輝度(Y)ではなく輝度(L)じゃないのか?」と思われるかもしれないが、表示に使われている(Y)はどこから来たのかといえば、映像表現には欠かせないCIE(国際照明委員会)表色系という、色と光の混合比で色を表すシステムの縦軸(Y軸)から来ている。
上記の図は、上にいくほど色が明るく見えないだろうか? このシステムの非常に面白いところは、(Y)は緑色の濃さもかねているところだ。人間の目の色や明るさを感じる仕組みを利用しているのだが、複雑になるのでここでは説明を割愛。ちなみに横軸(X軸)は赤色の濃さを示している。理屈上は、赤と緑が薄くなると、青が濃くなる。
以上から、色の明るさ(Y)の信号だけあれば最低限の映像にはなる。白(明るい)~黒(暗い)のグラデーションで構成されたモノクロ映像だ。
これから、このモノクロ映像にRGBの信号を加えてカラー映像にしたいのだが、(Y)、(R)、(G)、(B)と4つの信号を送るために機材すべてに4つの信号経路を用意するのはなかなかたいへんな話だ。そこでこのたいへんさを少しでも和らげるために、RGBの信号そのものではなく、それぞれの色の濃さの差=「色差」が実際には使われる。
・赤(R)の濃さから、青と緑の濃さの“平均”を引いた信号はR-Y色差(Cr)
・青(B)の濃さから、赤と緑の濃さの“平均”を引いた信号はB-Y色差(Cb)ちなみに、突然出てきた大文字の(C)は、単純に色の濃さを表す色度信号(Chroma)のCから取られている。
「では、緑の濃さを示す(Cg)は?」と思うかもしれないが、これは必要ない。あるにはあるのだが、じつは(Y)と(Cr)と(Cb)のデータがあれば、計算で緑の濃さはわかってしまうのだ【※】。
※テレビ放送やVHSは(Cr)と(Cg)を使い、青色の濃さは計算で導き出す。
これで情報量は(Y)、(R)、(G)、(B)の4つから(Y)、(Cr)、(Cb)の3つに減ったが、先にありそうな疑問に答えておこう。
信号が4つから3つに減らしたいのはわかったが、そもそも色(RGB)は、カラー番号(#0000FFで青などの表示)のような信号にして送るのはダメなのだろうか? これは(RGB)が輝度と全部の色がごっちゃになっている情報だから成立しない。情報がごちゃごちゃしているので分解がうまくいかず、映像が劣化することになる。RGBをまとめたデータは、手元で色合いを操作したりするときには便利だが、信号の送受信や画像の処理には都合が悪いのだ。
コンポジット端子とは何か? コンポジット(Composite)とは、混成や混合、合成など、「混ぜ合わせたもの」という意味。
ではコンポジット端子は何を混ぜ合わせているのかというと、上記カコミの輝度(Y)、色差(Cr)、(Cb)をすべて混ぜ合わせて、ひとつにしているのだ。
ここで「どうやって混ぜているのか?」 そして、「そんなことをしていいのか?」というふたつの疑問が湧き上がる。
まず前者から解決していこう。そもそも(Y)に比べると(Cr)と(Cb)は多少雑な信号になっていても気づかれにくいという特徴がある。
というのも人間は、もっというと哺乳類全般は、明るい・暗いには敏感だが、色の違いは大雑把にしかわからない生き物なのだ。犬のように色自体を認識できていない種も非常に多い。というわけで、(Cr)と(Cb)はひとつの(C)という信号として、まとめてモニターに送られている。薄緑とエメラルドグリーンの違いなんて誰もわからないからだ。
これで信号は(Y)と(C)になったが、コンポジット端子はこれも混ぜる。「(Y)と(C)は全然違う信号だから、混ぜ合わせようもないのでは?」と思うかもしれないが、まったくその通りで、このふたつの信号は合わない。
ではどうやってひとつにして送るのかというと、じつは(Y)は信号として送る際に、信号の形(=周波数)が「くし形」になるという性質がある。コンポジット端子は、この(Y)のくし形信号の空いた隙間に、(C)の信号をねじ込んでいるのだ。
この結果、モニターには(Y)と(C)が交互に届くことになる。
そして「そんなことをしていいのか?」という疑問だが……信号の送信にとっては非常に都合がいいので、していいのだと思う。実際、3つの信号がひとつにまとまったおかげで、黄色のRCA端子ひとつだけで映像が表示できるようになるのだから、あらゆるコストが削減されており、我々も接続が楽になっている。
だが当然、精密さを善とするモニターにとってはいいことではない。送られてきたコンポジット信号をモニターの側で(Y)と(C)にうまく分解して映像に変換しなければいけないのだが、これがなかなか上手くいかない。
(Y)の信号が(C)と混ざってしまい、クロスカラーという虹色のシミになったり、映像の色と色の周縁部で変な粒が大量に現れるドット妨害が起こったりしている。
かつてコンポジット端子がゲーム機の出力ケーブルの主流だったとき、「コンポジット端子だと画質がなあ……」とボヤいていた方も多いだろう。さすがに現行のHDMI端子に比べると見劣りはしてしまうが、この輪郭の粗さや色のにじみ、そして汚い虹を懐かしく感じる向きも多いのではないか? 8ビットだろうが16ビットだろうが、最新のモニターでプレイしたら綺麗に見えてしまうもの。
「やっぱりレトロゲームはイマイチな画質で見ないと雰囲気が出ないな……」なんてセンチメンタルな気持ちがあるなら、ぜひ古いテレビをもう1台買うなりして、コンポジット端子での接続にチャレンジしてほしい。 コンバータに6000円を払うよりは、安上がりかもしれないし……。
ケーブルの色が違っても動く?
余談だが、この赤・白・黄の3色ケーブル、じつは成分や構造は、色を問わず“ほぼ同じ”だ。どれも“だいたい同じ”電気抵抗を持つ同軸ケーブルが入っている。あくまでも色は、配線を判りやすくするための工夫でしかない(いちおうANSI、つまり米国国家規格協会にて規格は定まっているが、100%守られているわけでもない)。
音も映像も、モニターに送る電気的な信号という意味ではとくに区別されていないのだ。さすがに映像出力を右音声に繋いだところでどうにもならないが、映像の入出力に赤色の端子を使っても問題ない。しっかり配線できるなら、全部赤色にしてもいい。ちゃんと映るし、音も出る。
しかし、“ほぼ同じ”、“だいたい同じ”というところには注意が必要だ。もしも手元に3色のRCA端子があるなら、ぜひ確認してほしい。もしかしたら黄色のケーブルだけ“太い”ものがあるかもしれない。あまり感心はしないが、製品によってはRCA端子の規格を守っていないもの……つまり、廉価な代わりに、問題のない範囲で品質を下げているものもある。こうした製品は信号の伝送が効率的とはいえない。廉価な細い赤いRCAケーブルを映像用に使うと、画質が下がることがあるかもしれない。
とはいえ、ゲームハードが壊れるようなトラブルにはならないので、どうしても3色揃ったものが見当たらないが、何かに他の機材に使っていたらしい赤のケーブルだけは大量にある……という場合は、すべてを赤色で繋ぐチャレンジを検討してみていいかもしれない。
3色のRCAケーブルなど、探せば簡単に買えるものだし、精神的に色がそろわないと気持ち悪いかもしれないが、やってできないことはないはずだ。
【目次】
2 RF端子──ビデオデッキが必要な最高難易度の端子!
3 コンポジット端子──よく見る3色のあの端子!
4 S端子──かつての”高画質”の代名詞!
5 D端子──Digitalではない、Dの形のD端子!
6 コンポーネント端子──画質も端子の数も最大級!
7 ケーブルの保管方法