『Rez Infinuite』や『スペースチャンネル5』の水口哲也氏が語った「技術革新」と「体験の進化」。「CEDEC 2019」基調講演レポート

 9月4日に例年どおりパシフィコ横浜で開幕した日本最大のゲーム開発者向け技術交流会「CEDEC2019」。今年基調講演をつとめたのは、『Rez』『スペースチャンネル5』を手掛けたクリエイターであり、米国の会社エンハンスの代表である水口哲也氏だ。

 「ゲームの、そのさらに先へ-新たな体験の創造に向かって」と銘打たれた講演では、おもにビデオゲームの技術的進化の歴史を自身の経歴と重ね合わせながら、新たな技術ブレイクスルーにより得られる体験の質的変化の可能性が語られた。

水口哲也氏

 冒頭、氏は自身にとってのビデオゲームを「テクノロジーと共に進化する体験のメディア」と定義する。その時代の人の欲望や夢を欲求を取り込みながらエンターテイメントとして創り上げていく技術を、形がひとつに留まらない常に変化していくユニークなものと定義し、今も続く業界の成長にはそういった背景があるのではないかと説明した。

 実際に氏は、自身が業界に入ってからのバイオグラフィを紹介しつつ、自身が触れてきた技術を振り返っていく。まず受けた大きなインスピレーションとして、SEGAが1990年に発表した『R360』を紹介。同機は縦軸と横軸それぞれ360度回転することが可能な体感型筺体で、当時はそれを見た衝撃でSEGAの入社を希望したという。

 さらに1988年にNASAから発表された「仮想環境表示システム」を見てバーチャルリアリティの概念を知った水口氏は、当時オーグメンテッドリアリティ(現実拡張)をテーマにしたプロトタイプ機を自分で試作したエピソードを披露した。

 講演はそこから水口氏が今まで関わってきたビデオゲームと技術についての話へと続く。まずは1995年に「MODEL2基板」を使用してアーケードで展開された『セガラリーチャンピオンシップ』を取り上げ、3Dの技術が最新のものとして入ってきたときに開発に関わっていたことを説明した。

 次いでコンソールゲームとして、氏が制作を指揮した作品として名高い『スペースチャンネル5』『Rez』を紹介し、音楽をどうやってゲーム体験として融合させていくか腐心したことを明かした。とくに『Rez』を開発していた当時は、ゲームという媒体がそもそも持つ「四角い画面」がもたらす表現上の制約についてのジレンマを強く感じていたとのこと。どんなに3D化が進んでいても、画面が四角い平面の箱であることに、体験としてのビデオゲームが持つ欠損があるのではないかという持論を展開した。

 その後、PSP向けに開発されたパズルゲーム『ルミネス』へと話は変わる。氏はPSPについていたヘッドフォンジャックを利用して、いままで冷遇されていたビデオゲームにおける「音」を強く打ち出せるようになったと説明し、これがイノベーションになったと評価した。

 体感型のリズムゲームとして2011年にリリースされた『Child of Eden』で水口氏は、Microsoftの体感センサー「Kinect」の技術によって、音と操作の体感を目指した。しかしこのあと、やはり本質的に「四角い箱」から抜け出すことのできない現状に失望し、同作を完成させたあとはゲーム作りをしばらくのあいだ休止したという。

 だがその後、本格的なVR技術の台頭により、最先端の場所であるアメリカにエンハンスを設立。本格的にVRを利用したゲームの開発を再開する。そして完成したのが2016年発売のVRヘッドセット対応ゲーム『Rez infinite』である。体験した人がその体験に関して「表現するボキャブラリーを持たない」、「言語化できない新しい体験」と評したという部分に、これまでのビデオゲームが到達し得なかった領域に入りつつあることの確信を得たと語った。

 さらに水口氏は、こういった共感覚の体験の世界を体験できる「境目のない体験」を表現するものは、これから多く出てくるだろうと示唆した。また、この年アメリカのゲームアワードにおいてベストVR賞の受賞したことが素直に嬉しかったことだという。『Rez』から持ってきた問題意識が認められた瞬間であり、本質的でプリミティブな経験は劣化しないものではないかと持論を展開する。

 最新作である2018年発売の『テトリスエフェクト』では、誰もが知っており進化が頭打ちを迎えたゲームを、どう新しい「体験」として昇華させるか挑戦していたことを語った。

 『テトリス』で人を泣かせることができるのか? 音と視覚と操作が融合した体験で人にどこまでエモーショナルな体感を創り上げることができるのか? 結果としては、発売後に実際SNSなどで「泣いた」という反応も散見したそうだ。

 ゲームデザインとはキャラクターやナラティブなアプローチ、アチーブメントの配列やフィジカルな体験の融合で感情を誘発させるメカニズムだが、「解像度の向上」が可能にする「共感覚」としての方向性はより強まるだろうとし、そしてその流れの中でビデオゲームはアートの領域へ足を踏み入れるだろうと水口氏は予見する。

 氏が手掛ける「共感覚」をキーワードにした試みはビデオゲームのみならず、それ以外の分野へ広がっている。そのひとつが「シナスタジアスーツ」だ。

 これは26個の振動素子を含んだスーツであり、ゲーム上の体験を触覚にまで拡張させるデバイスである。これを利用し、ひとりのゲーム体験を100人で共有するというメディアアートや、ライブを展開しているという。さらに「シナスタジア2.44」という、ふたつのスピーカーと44個の振動素子を使った新しいデバイスも制作し、「言葉にできない経験」のその先へ向かう取り組みを紹介した。

 これを装着すれば、音楽というのは耳だけで経験するものではないということがわかると水口氏は強調する。ビデオゲーム作り中でビジュアルや音楽を切り分けてそれを統合するということを職業として行っていると、その過程の中で実は多くのものが抜け落ちてしまっており、VRの技術はそれを再統合できる可能性を持ちうるのではないかと続けた。

(画像はSynesthesia Suit Rez Infiniteより)

 「シナスタジア」(共感覚)について氏は、けっして特別な感覚ではなく、普段生活している中に自然に存在するものだと説明する。たとえば、なにかのアイディアを思いついたとき、それは「音」や「映像」のようにひとつの平面的な感覚ではなく、もっとぐちゃっとした不定形な有機的なものではないかと問いかけた。それを文字化したり、映像化したりするときに、どうしてもそのフォーマットにそぐわない部分が抜け落ちてしまうことになるのではないか、と。

 しかし、それを統合したデザインがこれから可能になっていくだろうと述べた。氏は、街を歩いてそこで見聞きして感じたことをキャンバスに絵画として落とし込んだ画家のカンディスキーの例を引き合いに出す。やっていることは基本的に同じだが、アウトプットという意味合いで現代は恵まれており、解像度が向上するにつれそのアウトプットが引き出す感情の深度はさらに深まっていくだろうと伝えた。

 事実、かつてゲームで「泣いたことがあるか」と学生に聞くと昔はほとんどいなかったものが、いまではほとんどの生徒が挙手をすると、肌感覚でありながら感じると水口氏。そういった中で、それは多方面に渡るゲーム開発者達の努力の賜物であると分析しつつ、一方でもっと深いレベルで融合するデザインや解像度の上昇に起因する部分があるのだろうと語った。

 氏が注目する、今後大きく発展していくであろう技術は「AR」だ。VRは非常に素晴らしい技術だが、「人と人との関わり」という意味で一歩抜け落ちてしまう部分があり、逆にARの技術の発展はゲームのみならず、個々人の生活に深く関わるデバイスになっていくだろうと明言する。

 また、今後「情報」から「体験」に時代がシフトしていくだろうとも述べ、10年後の「CEDEC」はみんながリアルとバーチャルが融合した体験を共有しながら進んでいくだろうとも語った。かつてビデオゲームが2Dから3Dへと移行していった際、デザイナーもプログラマーも一からまた試行錯誤しなければならないタイミングがあったが、いまもそのタイミングであり、さまざまな媒体の垣根が溶けて行く中でフレームから抜け出した発想が必要だろうと述べる。

 そしてその変化はリニアではなく、一気に起こり得るのではないかと持論を続けた。もしかしたらその変化は、「活版印刷」の発明レベルのパラダイムシフトと呼べるのかもしれない。そう語り、水口氏は講演を締めくくった。

取材・撮影・文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn

ライター
Nobuhiko Nakanishi
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
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