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「実況」はゲームにとって有益なのか。ゲーム実況の始まりから現在、そして未来への可能性【CEDEC2021 レポート】

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 ゲームに関わるすべての人のための技術講演イベント「CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2021」。当記事では、開催1日目の8月24日(火)に行われた「この1時間でゲーム実況業界の全てがわかる!? ゲーム実況の過去・現在・未来【2021年版】~「ゲームコミュニティ」を形成せよ!」についてレポートしていく。

 本講演では、ゲーム実況イベントの企画運営や「東京ゲームショウ」へのブース出展に携わった中田朋成氏によって、ゲーム実況の歴史や「ゲームコミュニティ」形成の可能性、そしてゲームの魅力をアピールするプレゼンテーションとしてのゲーム実況のノウハウなどが語られた。

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取材・文/久田晴


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中田朋成氏

 まず冒頭で「果たしてゲーム実況は販売にとって有益なのか」との問題が提起された。中田氏の言葉によれば、すべては「やり方次第」。視聴者の購入意欲を削ってしまうような失敗事例もあれば、ゲームの寿命を大きく延ばし長期的な利益を生み出した事例もあるという。

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 では、有益なゲーム実況とはどんなものなのか。その問いに先んじて、ゲーム実況文化の歴史について簡単に触れていただいた。はじめに、古くからのゲームバラエティ番組「ゲームセンターCX」の長所として「特別なスキルをたくさん持っていなくてもゲーム実況をおもしろくできる」点が挙げられた。

 同時に、当時はゲーム実況に関するガイドライン等が存在せず、法的にはグレーゾーンであったこと。にもかかわらず、公式番組への招待などメーカーからの協力があったことで、ゲーム実況のプロが誕生していったことなど、黎明期ならではのエピソードを語っていただいた。

 また、ガイドラインの作成PS4などのハードウェアへシェア機能が取り入れられたことも大きな弾みとなり、ゲーム実況のハードルは大きく下がった。同時に、Youtuber事務所など複数人を包括した団体が営利目的でゲーム実況を展開する事例もあり、そのなかでは法的なトラブルもあったとのこと。

 ゲーム実況を行う動画配信プラットフォームの多様化にも触れられ、その中ではマイクロソフトが主導し多くの有名配信者と独占契約を結ぶも、ファン層の囲い込みへ失敗し閉鎖された「Mixer」の事例が取り上げられた。ここでは、ファンたる視聴者は必ずしも配信者に付随するわけでは無いことが示唆されていた。

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 近年、爆発的に増加し今や一大コンテンツとなった「VTuber(バーチャルユーチューバー、ブイチューバー)」の影響も大きい。事務所などの単位で「ファミリー化」を果たしたVtuberたちは、内輪で大人数を動員するゲームイベントの開催が可能となった。それにより、それぞれが個別に獲得したファンを集めることでSNS上での話題性が飛躍的に向上。プレイされたゲームがTwitterのトレンドへ乗るなど、ゲームの知名度を向上させる面で高い効果があるとされた。

 Vtuberのトピックでは「Vtuberは不老不死足り得るか」という問いについても中田氏が私見を述べており、それによれば不可能ではないが難しいとのこと。外見こそバーチャルであるものの、言動については「中の人」に依存するVtuberが代替わりする場合には高いリスクが伴うそうだ。

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 ゲーム実況の黎明期から現代にいたるまでの進歩についての説明がなされた後、いよいよゲーム実況の産み出すメリットとデメリットについて、事例を交えながらの解説が展開された。

 まずゲーム実況のメリットとして、作品を知るきっかけとなる点が挙げられた。中田氏によれば、人間は基本的に自分の守備範囲から出たがらないため、他者の好みやセンスで選ばれた作品へ触れることで「想定外」の出会いに繋がりやすいとのこと。氏自身、昔は純国産のゲームにしか触れなかったが、ゲーム実況を通じて海外製のゲームにハマったというエピソードを話された。

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 次に、ゲーム実況を見た視聴者同士から発足するコミュニティの可能性について、ふたつの事例とともに説明があった。ひとつは、番組内で積極的にVRのゲームを扱うことで、視聴者のなかでもVRゲームを遊ぶ人や機器に詳しい人が増えていき、いつしかVRゲームのコミュニティが完成していたこと。

 もうひとつは、オンラインゲーム『ファイナルファンタジーXIV』においての企画を進めるうちに、様々なスキルを持ったメンバーが自然と集まり独自のクエストを制作。更には、当作のプロデューサーであるスクウェア・エニックスの吉田直樹氏にプレイしてもらうところまで発展してしまったというエピソードだった。

 どちらの事例でも発足したコミュニティはユーザー同士の交流を深め、ゲームの寿命を延ばすことに貢献していると同時に、新規層へのサポートの面でも効果を発揮したと中田氏は語る。特別な機器を必要としこれまでのゲームプレイとは一線を画すVRと、長くサービスを続けるオンラインゲームである『ファイナルファンタジーXIV』は、どちらも新たに始めるプレイヤーからすればハードルの高さを感じずにはいられない。コミュニティで気軽に質問したり、楽しんでいるプレイヤーの声を聴くことが彼らの背中を押すことに繋がっているとのことだ。

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 反対にゲーム実況のデメリットとして、視聴者の購入意欲を削いでしまった場合の事例も挙げられた。ここではプレイする側がゲームの仕様や魅力を理解・把握していないことが原因で視聴者に対してネガティブな印象を与えてしまう可能性について説明されている。

 ゲームのイメージに悪影響を与えないためには、事前の準備が大切になる。ゲームの操作系統や世界設定の理解、さらにはそのゲーム特有の魅力的な部分を熟知しておくことで、プレゼンテーションとしてのゲーム実況を成功させられるとのことだ。

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 その後、「ファミリー化」と「コミュニティ化」というふたつの語句を軸として現在のゲーム実況界の出演者と視聴者の関係性、そしてそれがゲームに及ぼす影響についての解説に移った。

 出演者は「ファミリー化」することによってチャンネルへの入り口を増やし、他の出演者と積極的にかかわるのが良いとのこと。お互いの魅力を引き立てる作用の重要性が語られた。自分のファンではない人間の目につきやすくすることで、新たな層の開拓にもつながるという効果が生まれる。

 また、視聴者同士での交流がDiscordなどのサービスによって大きく発展した点も解説された。コミュニティが残ることによって、配信者がゲームをプレイしなくなっても視聴者のなかから新たなプレイヤーが現れる可能性に触れられ、たとえ直接ゲームをしなくてもゲームの情報は入ってきやすい環境を作り上げることができるとされた。このようなコミュニティの形成とそこでの情報交換を楽しむことを中田氏は「居場所化」と呼称し、「居場所化」がゲーム離れを抑止すると述べた。

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 話題はゲーム実況を行う「人」についてのものに移り、近年での芸能人のゲーム実況業界への参入に関して解説された。好きなものに全力で向かい合う姿は好意的に捉えられやすいことから、ゲーム実況の配信は非常に効果的なセルフブランディングとなっている。また、リアクションやツッコミが求められるゲーム実況と、それらを日常的に表現するお笑い芸人との相性のよさについても触れられた。

 同時に、プロモーションとしてゲーム実況を展開する際、知名度のみでキャスティングすることのリスクについても解説がなされた。有名なキャストを利用することは閲覧数を稼ぐのには有効であるが、ゲームの魅力を伝え損ねた場合はネガティブな印象が拡散されやすい。

 プレイに関してはメーカーから人材を提供しリアクションだけを取ってもらったり、ゲームを熟知したサポート役を用意するなどの工夫が求められる。何よりも、ゲームの面白みをちゃんと伝えられることが重要だと語られた。

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 そして、デベロッパーやパブリッシャーなど、ゲーム業界側の「中の人」にも積極的にゲーム実況のコンテンツに参加してほしいとのこと。ゲームタイトルだけでなく、クリエイターである個人にファンができることで、タイトルやメーカーの変遷を経ても注目が集まりやすいといったメリットが提示された。必ずしも、プロデューサーなど統括にあたる人物である必要は無いとして、ローカライズ担当者がファンを獲得した事例も紹介。

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 最後に、炎上や誹謗中傷などネガティブなワードが目立ちがちなインターネットでも、見せ方や使い方によってはポジティブな効用を引き出すことができると強調。ゲームとの「縁」を結ぶひとつのゲーム実況の可能性と、インターネットの発達によって産み出され、これからも続いていくコミュニティの価値を再確認するような形で締めくくられた。

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 かつてはグレーゾーンに位置していた「ゲーム実況」というコンテンツ。その進歩と発展を目の当たりにしてきた中田氏の語る「みんなが幸せになれる世界」というワードには筆者も強く感銘を受けた。この先も発展を続けるであろうインターネットの大海で、ひとりでも多くの人が良縁に恵まれることを願ってやまない。

ライター
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。

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