近年、中国発のゲームを見かける機会が増えてきた。AAAタイトルからインディータイトルまで、カンファレンスではさまざまなゲームが発表され、日本でも『原神』や『アズールレーン』など、中国メーカーの手がける作品が大きくヒットしている。これらの話題を見るたびに、中国のゲーム市場の盛り上がりを、海を越えた日本からでも感じることができる。
ちょうどそんなことを考えていたとき、電ファミ編集部からあるゲームのレビュー依頼を頂いた。なんでも、そのゲームは中国ではドラマ化されるほどの人気があるらしい。
なんとも曖昧な情報だったが、無理もない。私がこれから遊ぶことになる『古剣奇譚 ~星夜に謡い継ぐ万世の夢~』(以下、『古剣奇譚』)は、これまで日本ではローカライズされておらず、前作の情報もほとんど出回ってはいなかったからだ。
しかし今回、日本のファンの声援に応えるかたちで、遂に本作の日本語版が発売されることとなった。本国ではドラマ化もされたほどの人気RPGに、ついに日本語で触れられる機会がやってきたというわけだ。いったいどんな作品なのか、期待と不安が入り混じる中、私は『古剣奇譚』の世界へと飛び込んでいった……。
文/植田亮平
※この記事は『古剣奇譚』の壮大さをもっと広めたい、Wangyuan Shengtang、2P Gamesさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
オープニングアクトで大作であることを確信
ゲームを起動して意味深なオープニングムービーを鑑賞してから、いきなり私は広い原野の中に放り込まれた。私の周りには数人の仲間たちがいて、さらにその周りを敵に囲まれている。チュートリアルが始まったのだ。
とりあえず敵を攻撃してみる。攻撃には弱攻撃と強攻撃があり、敵を攻撃すると「元気ゲージ」が貯まっていく。そして「元気ゲージ」が一定以上貯まると、スキルである「特技」が使用できるようになる。この「特技」は敵の技をキャンセルする効果があるので、攻撃手段でありながら防御手段でもあるという奥深い要素だ。
二種類の攻撃を使い分けながら、スキルを使って敵の技をキャンセルする。非常にシンプルでありながら爽快感のあるバトルは、ほとんど説明いらずで直感的に理解できるものだった。個人的に好きなポイントは、画面右側に表示されるコンボカウンターだ。敵の反撃を特技で阻止すれば、ボタンを連打するだけでコンボが半永久的に繋がっていくので非常に気持ちの良いものだった。
付け加えておくと、これらの要素はあくまでもゲーム序盤で出来ることの全てであって、ゲームを進めていくうちにこれら以外の要素も使いこなす必要が出てくる。敵の攻撃を華麗に回避してカウンターを決めたり、タイミングよくボタンを押すQTEの要素があったりと、アクション性は次第に増していく。
また、それに伴ってやれることも増えていく。たとえばスキルツリーから新たな特技を習得すれば、味方や敵に対してバフ、デバフを付ける、敵を捕獲して召喚するなど、いろいろな要素が次第に追加されていき、プレイヤーを飽きさせないよう設計されている。
閑話休題。一通りのチュートリアルを終えて、私は「天鹿城」と呼ばれる場所にたどり着いた。チュートリアルで私が操作していたキャラクター「玄戈」は、ここ天鹿城の王であった。「この「玄戈」が今作の主人公なのか」そう思ったが、何やら「玄戈」は大きな傷を負っており苦しそうな様子。そうしているうちに、今度は「玄戈」の弟である「北洛」の回想が始まった。
「北洛」もまた天鹿城出身だが、「玄戈」と共に育ったわけではないようで、中国の小さな農村で暮らしていた。しかしそこに突然、「羽林」という天鹿城からの使者が現れる。そのまま強引に天鹿城へと連れ去られる「北洛」。天鹿城へとたどり着いた後「玄戈」に告げられたのは、「もう長くはない自身に代わって、天鹿城の王を継いでほしい」というものだった。
と、いうのがプロローグの流れだったが、ここまで世界観やキャラクターの関係に対する説明はほとんど無い。しかしそのことがむしろ、私の好奇心を大いに沸き立たせた。魅力的なキャラクター達が、ファンタジー要素あふれる世界で何やらカッコいいやりとりを繰り広げるさまは、さながら『ファイナルファンタジー7』のオープニングアクトのようだった。
キャラクター達はどれも美男美女揃いで、男性も女性も、好きなキャラクターが見つかることは請け合いだ。ちなみに筆者のお気に入りは「羽林」だ。無骨な見た目ながら忠義に溢れるこの男を、ぜひとも「推し」てみてはいかがだろうか。
どこまでも深い中国製ファンタジーの世界
改めて、『古剣奇譚』の世界観を説明しよう。この世界はふたつの世界に分かれており、天・地・人の世界を「常世」、常世の反対側にある広大な空間を「魔域」と呼んでいる。平たく言えば人間界とファンタジー世界の関係性だ。
しかし、このふたつの世界は完全に分離されているという訳ではなく、魔域の怪物たちがチャネルを通じて常世へと侵入してくる。そこで、妖族である「辟邪(ピシェ)族」は、これを防ぐためにチャネルに城を立てたのだった。これが、チュートリアルで私が訪れた天鹿城であり、その天鹿城を守る王が「玄戈」、ひいては「北洛」である。
説明が足りない?心配ご無用、このような世界観、キャラクターの説明はゲーム内の用語集で全て確認できる。もちろん日本語なので、言語の壁につまずくこともない。
さらに、プレイヤーがこの世界を味わうのはなにも文字による説明だけではない。マップ中に数多く配置されたNPCの会話を聞いたり、都度挿入される迫力あるムービーを鑑賞したりすれば、いつの間にかこの世界についての理解が知らず知らずのうちに深まっていくだろう。
さて、オープニングアクトを終えた私は、今度は「北洛」となって、普通の人々が暮らす「常世」へと降り立った。そこで私を待っていたのは、オリエンタルな建築物が立ち並び、美しい自然と調和した素晴らしい景観を誇る村であった。
私は中国の神話や歴史について詳しくは知らないが、『古剣奇譚』がそれらに多大な影響を受けているのは、マップのデザインやキャラクターの服装、ゲーム内テキストなどを見ればよく分かる。天鹿城の敷地を歩き、花舞う村々を渡れば、そこが神話的世界観の中国であることが分かるし、羽衣を纏った妖艶な女性や屈強な武将姿をした男性を見れば、そこに中国の長い文化の歴史を見出すことができる。
ゲーム内で訪れる街に配置されている手稿を読めば、水に宿る霊にまつわる民衆の言い伝えや、中国の民話を基にしたであろうコミカルな小話などを楽しむこともできる。
世界観の徹底は、プレイヤーが触れるであろうあらゆる要素から感じ取ることができる。少しでも中国の文化や歴史に興味があるのであれば、それだけでも遊んでみる価値があるだろう。
より世界に浸るために
もっとこの世界に浸りたいのであれば、少し寄り道してみることも重要だ。何も戦うだけが冒険ではない。ゲーム内には多くのサブクエストがあり、それらをこなせば、この世界に住む人々の生活や内面にさらに迫っていくことができるだろう。
操作キャラクターが「北洛」へと移り、美しい街並みをサブクエストをこなしながら散策していると、いかにも仙人といった感じの気さくな老人にカード勝負を挑まれた。
「千秋戯」と呼ばれるそのカードゲームは、日本でいう花札に近い感覚のゲームだ。大作ゲームの中にミニゲームが存在していることはもはやお馴染みとも言えるが、春・夏・秋・冬の4つの種類のカードを集めながら役をそろえていく「千秋戯」は、トランプと麻雀のハイブリッドのような感覚で新鮮な体験だった。
もちろん、『古剣奇譚』には「千秋戯」以外にもさまざまなミニゲームが存在する。魚釣りを楽しんだり、家を持ってカスタマイズしたりといった、所謂スローライフな面を楽しむこともできるし、物語を進めてモンスターを捕獲できるようになると、農園を共に開発することもできる。プレイヤーを楽しませる要素には事欠かない、どんな楽しみ方をするのかはプレイヤー次第だ。
世界を知っていく感覚
物語を進めるにつれて、私は『ウィッチャー3』を遊んだ時の感覚──「どこへ行っても、その世界を深く知ることができる」という感覚を思い出した。
私はメインストーリーを進めている内に、気づけば寄り道を繰り返し、ミニゲームに没頭し、その世界の誰かが書いたであろう手稿に目を凝らし始めた。
思えば、『古剣奇譚』と『ウィッチャー3』はゲームとして非常に似た特徴を持っている。『ウィッチャー3』の世界観はポーランドの伝承をファンタジーに落とし込むということをやってのけたが、『古剣奇譚』もまた、中国の神話や伝承のエッセンスを非常に高いレベルでファンタジーと融合させている。各キャラクターや地域、カードゲームに至るまで、細かく設定が練られているのも同様だ。
それでありながら、『古剣奇譚』におけるキャラクター同士の掛け合いやキャラクターのデザインは日本のRPG作品、それこそ「ファイナルファンタジー」などとも多くの共通点を持っているように感じる。中国が日本に地理的にも近いということも相まって、たとえば建築物や遠景に見える山々など、日本人として親しみを感じるような要素も多い。本作を例えるならば、『FF14』と『ウィッチャー3』を足して、さらに中国の神話や歴史を取り入れたゲーム、といったところだろうか。
新しいファンタジーに触れたい人へ
「ファンタジー」と聞くと、日本のゲーマーとしてはどうしても西洋のファンタジーを連想してしまうのではなかろうか。ゴブリンや魔法の登場する世界はそれはそれで魅力的だが、『古剣奇譚』は、そんなファンタジー観をガラッと変えてくれる類まれなゲームだ。
世界観から登場するキャラクター、さらにはミニゲームの設定に至るまで、『古剣奇譚』は独自のファタンジーを形成している。ここまで見てきた通り、キャラクターの名前や世界観に関する用語は基本的にはカタカナではなく漢字で表記され、ゲーム内に登場するあらゆる要素が、中国の長い歴史に裏打ちされた壮大な文化を基に形作られている。
そして、それは間違いなくプレイヤーに新鮮な体験を提供してくれるだろう。遂に日本語版の発売となった今、ドラマにもなった『古剣奇譚』の世界にどっぷりとハマってみてはいかがだろうか。