「3Dマリオの新作が供給されなくてつらい……!」
新人ライターであるにも関わらず、息荒らげに担当編集との最初の打ち合わせでそう伝えたのが、数ヶ月前のことでした。
つい高ぶった感情で僕は新作を”雨乞い”するがごとく筆を進め、これまでの「3Dマリオ」の歴史を、そして、その先を夢見てこの記事を書いています。
筆者ロジーは、これまで「マリオ」と名前の付くタイトルを片っ端からプレイし、USJの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」でうっかり有り金をすべて溶かしたり、タグ・ホイヤーとのコラボ時計(25万円)にも手を出しました。
20代のサラリーマン期間を経てからは「マリオ」だけに没頭できる場所を求め、仕事を辞め、現在では「ロジー&マリオファンの集い」というYouTubeチャンネルを運営しています。
自分は重度の「マリオ」ファンではあるかもしれません。
ただ、それを抜きにしても「3Dマリオ」はいまもっとも熱く、次の展開に注目すべきだということを、シリーズの変化の軌跡とともに伝えたいのです。
『スーパーマリオ オデッセイ』(以下、『オデッセイ』)は、2017年に発売されました。過去作に新しい冒険を収録した『スーパーマリオ 3Dワールド+フューリーワールド』(以下、『フューリーワールド』)は2021年の作品で記憶に新しいですが、完全新作の「3Dマリオ」という意味では前作から5年もの時が経とうとしています。
わずか5年供給がないだけじゃないのか? なぜこれほどまでに興奮が抑えきれないのか? それはこの『フューリーワールド』が、これまでにない新たな「3Dマリオ」の方向性を示したからです。
みなさんの側でつねに「3Dマリオ」として提供されてきた26年間のシリーズは、横スクロールの「2Dマリオ」が「奥」に移動できるようになって以降、さまざまな変化を遂げてきました。じつは、単純に2Dから3Dに変化したわけではありません。
「3Dマリオ」黎明期の箱庭型から、問題点を改善するために「2Dマリオ」の要素の取り込み、そして『オデッセイ』で箱庭型への回帰。
はたして、新たに変化した『フューリーワールド』を経て、次回作はどこへ向かうのか? 「3Dマリオ」から与えられた感動を胸に、その衝撃をものすごい勢いで振り返ってみました。
横にしか移動できなかったマリオが奥に移動できるようになった『スーパーマリオ64』
3Dマリオの第1作目は1996年に発売された『スーパーマリオ64』です。当時生まれていなかったという方もタイトル名は知っているのではないでしょうか。
これはもう本当に衝撃的な作品でした。
それまでの『スーパーマリオ』シリーズがいわゆる横スクロールアクションの「2Dマリオ」であったのに対し、奥行きのある世界を縦横無尽に飛び回るまったく別のゲームに変化したのが本作です。
たとえば最初のコースである「ボムへいのせんじょう」のクリア条件は、いきなり奥にそびえ立つ山を目指すという、従来のマリオゲームではありえなかった「縦の概念」を加えたもの。
プレイヤーは3D空間をマリオで走り回るという未知の体験を最初から味わうことになります。
そして3D空間を自由に飛び回れる要素として「はねマリオ」という変身や、「幅跳び」や「ボディアタック」といった新たなアクションも用意されており、『スーパーマリオ64』は最初の3Dマリオでありながら、いかに3D空間を楽しく駆け回れるか考え抜かれた作品でもありました。
ちなみに当時小学1年生であった私は『スーパーマリオワールド』や『スーパーマリオコレクション』など2Dマリオにどっぷりハマっていたのですが、本作は大好きなマイヒーローであるマリオを自由に現実のように動かせる劇的な進化に感動が止まらない作品だったことをいまでも強く覚えています。
『スーパーマリオ64』は間違いなく私をマリオ沼に突き落としたゲームです。僕がマリオファンとして楽しく人生を謳歌できているのは君のおかげだ。
3Dマリオで初めてヨッシーに乗ることが可能になった『スーパーマリオサンシャイン』
2002年にはゲームキューブにて『スーパーマリオサンシャイン』(以下、『サンシャイン』)が登場します。
前作よりもさらに広くなった箱庭コースは、背景やキャラクターがより深く描写されるようになり、マリオワールドのさらなる広がりを感じさせてくれました。
新たに追加された「ポンプアクション」は、少し浮ける、高く跳べる、高速で泳げるなど、前作の縦横無尽に飛び回る楽しさをさらに増強させた内容となっています。
そして3Dマリオで初めて「ヨッシー」に乗ることが可能になったのも本作!
3Dだけでなく『スーパーマリオ』シリーズを通じて盟友と呼べるヨッシーがいるだけで冒険のワクワク感が一気に跳ね上がります。しかもなんと本作ではジュースを吐き出してステージ上の汚れを落とすなんてアクションもできてしまいました(そもそもジュース自体が汚れないのかとつっこんではいけない)。
総じて『スーパーマリオ64』の箱庭アクションをさらに深く楽しめる内容となっており、前作から正当な進化を遂げた作品と言えるのではないでしょうか。
もちろん「ポンプアクション」で進化したアクション性も注目の本作ですが、筆者がさらに感銘を受けたのがストーリー展開です。
ご存知でしょうか。『サンシャイン』では開幕から、謎の存在「ニセマリオ」によってマリオが無実の罪を着せられて投獄されるという、衝撃的な展開が繰り広げられることを……!
しかもまさかのムービーシーンはフルボイス! オープニングでピーチ姫が「いぎあり!」と唱えるシーンは必見です。
また本作から初登場し、いまではレギュラーキャラでありながら『大乱闘スマッシュブラザーズ』の参戦キャラにもなっている「クッパJr.」の存在も見逃せません。
現在は中ボスとしての役割がおもな彼ですが、本作ではお父さんであるクッパがついている嘘を見抜いていながらも言及しないという、ちょっと大人な一面も見られる複雑なキャラクター像が描かれています。
ほかにも世界設定に広がりを感じる要素として、各ステージからほかのステージが見えている点も挙げておくべきでしょう。
文章で説明すると単純に思えるかもしれませんが、ふと脇を見ると別のステージが遠くに見えるという多重構造な世界の見せ方は、まるでドルピック島という観光地が本当に存在しているようで、「いつかそこに行けるんだ!」という好奇心をくすぐってくれます。
ちなみに完全に余談ですが……『サンシャイン』の発売日である7月19日は筆者の誕生日でもありました。もちろん親がくれたプレゼントは『サンシャイン』!
暑い夏の中、ガリガリくんを紙コップに入れ、興奮で湯だった頭を冷却しつつ踊り狂うようにドルピック島を探索していました。
ただ、告白します。完全クリアするために必要な青コインが数枚見つからず、結局攻略本に頼ってしまいました。ごめんなさい、懺悔します。
シリーズではあまりにも珍しい「死」についての描写がある『スーパーマリオギャラクシー』
さて、これまで前2作を紹介してきましたが、じつは私がもっとも思い入れが深いタイトルは2007年にWiiで登場した『スーパーマリオギャラクシー』(以下、『ギャラクシー』)なのです。
2021年にテレビ朝日によって主催された一般ユーザー投票で人気のゲームを決める番組「テレビゲーム総選挙」では3Dマリオシリーズでもっとも票を集めた作品であり、いまなお世界中で大人気の3Dマリオ。
人気の理由としては、遊びやすくなったコース構成、重力が活かされた斬新なギミック、2人で遊べるアシストプレイ、スケールの大きい世界設定、豪華なオーケストラ演奏、「ロゼッタ」などの魅力的な新キャラなどなど、これまた当時の3Dマリオが打ち出してきたハードルを大きく飛び越えた内容であったことが挙げられます。
『ギャラクシー』の目玉でもある球体地形は、どこを歩いても同じ場所に帰れるので結果的に迷わなかったり、先が見えないのでワクワク感が増していたりなど、想像以上に斬新なアイディアでした。
普段はのんびりとした世界の『スーパーマリオ』シリーズですが、本作はオープニングでピーチ城が銀河の中心にさらわれたりと、とにかくスケールがデカい!
そのスケールのデカさに見合ったシリーズ初の雄大なオーケストラ演奏が多くのファンの胸に響き、数々の曲がマリオシリーズ屈指の人気BGMとなりました。
とくに人気の「ウィンドガーデン」は、のちのタイトルでアレンジされていたり、『マリオカート8』のとあるコースではサビのフレーズが使われたりもしました。
また、謎の新キャラとして登場したほうき星の魔女、ロゼッタも注目の存在です。彼女も『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場しており、キャラクターを知っているという方は多いでしょう。
マリオファンの間ではロゼッタ「様」と呼ばれている彼女ですが、それもそのはず。
このキャラクター、知れば知るほどとにかく“尊い”。
基本的にゲームの足枷にならないよう、マリオに登場するキャラは細かい設定や過去などが描かれることはそれほどなかったのですが……彼女は違いました。
なぜなら、シリーズではあまりにも珍しい、人の「死」についての描写があります。
作中に登場するロゼッタの絵本には、ロゼッタと思われる「女の子」が登場しており、彼女が抱える苦しみが描かれていました。自らの境遇と重ね、泣いていた星の子チコとの間に家族愛が芽生えた彼女は、チコたちのママになる決意をします。そして、最後にチコたちの願いを知ったロゼッタはとある選択を決断するのですが……。
と、読んでいるうちに「これマリオ本編でいいんだよね?」なんて思わず言いたくなってしまう、あまりにも重く切なくも暖かいストーリーが展開されます。
さらにロゼッタにはマリオとピーチだけでなくキノコ王国に関わる描写も多く存在しており、ただのポっと出の新キャラでは終わらない味付けまでなされていました。
いまでも明確な正体は明かされておらず、それがさまざまな考察を呼んで、彼女の魅力のひとつとして生き続けています。
こんな圧倒的な独自性を持つキャラがとつぜん登場したので、当時のマリオ界隈はロゼッタの話で持ちきりでした。
いまでは見た目の美しさから『マリオカート』や『マリオパーティ』などでも大人気の彼女ですが、さらに好きになりたい方はぜひ本作を遊んでみることをおすすめします。
ちなみにロゼッタの設定や本作の世界設定に関しては、『ギャラクシー』のディレクターであり最近ではニンテンドーダイレクトの司会でも有名な小泉歓晃氏の強いこだわりが表れていると思われます。
氏は1993年に発売された『ゼルダの伝説 夢をみる島』でもストーリー全般を担当されており、こちらもキャラクターや背景に切ない設定が用意されていました。
ついつい世界設定やキャラの話に熱が入ってしまいましたが、本作で注目すべき点はまだあります。
それは、遊びやすくなった「一本道寄りのコース構成」。
従来の3Dマリオは箱庭を縦横無尽に飛び回る面白さが売りのひとつでしたが、その反面でゲーム初心者は迷子になりやすく、また、せっかく到達したステージの高所から落ちてしまうと登り直しが発生するなど、「誰もが手に取るマリオゲーム」にしては優しくない面も持ち合わせていました。
それが本作では、ある程度の探索要素は残しつつも、基本的には一本道であるアスレチック性の強い内容に変化しました。
たとえば序盤に訪れることになる「エッグプラネットギャラクシー」のシナリオ2では、道中に寄り道要素が多く散りばめられていますが、ゴールまでの道筋はほぼ一本に近いため、誰でもゴールまでたどり着くことができます。
本来の『スーパーマリオ』の一本道で突き進めばゲームがクリアできるというわかりやすさをふたたび備えたゲーム内容となっているのではないでしょうか。
このコース構成はのちの3Dマリオ作品に大きな影響を与えており、本シリーズの歴史を語る上で外せない内容となっています。簡単に言えば、ここから「2Dマリオの魅力を吸収した3Dマリオ」が多く誕生することになりました。