eスポーツやゲーム配信を追っていれば、もはや『VALORANT』というタイトルを日本国内で知らない人はいないだろう。
9月には世界大会「VALORANT Champions 2022」にてプロゲーミングチーム“ZETA DIVISION”(以下、ZETA)がAPAC(LCQ)代表に勝利、また女性限定のeスポーツ大会「CYNTHIA」に初めて同作が採用された。そしてきたる10月8日(土)からは、テレビ朝日らが運営する国内最大級のeスポーツエンターテインメント「RAGE」によって「RAGE VALORANT 2022 Autumn」が開催される。
#RAGE_VALORANT 2022 Autumn
— RAGE VALORANT (@VALORANT_RAGE) September 27, 2022
10/8-9 @ 東京ガーデンシアター🔥
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昨今のeスポーツシーンにおいて多大な影響力を持つにいたったFPS『VALORANT』。今ではその名前を見ない日はない、と言っていいほどの話題性を獲得している。
その爆発的な人気がありありと見て取れたイベントがある。約3カ月前──6月25日、26日、さいたまスーパーアリーナ。大熱戦を繰り広げる選手達の姿に魅せられ、1万3000人ものファンの熱気が渦巻いていた──。
『VALORANT』の日本代表決定戦だ。日本eスポーツ連合(JeSU)が発足し「eスポーツ元年」と呼ばれる2018年から4年が経ち、対戦格闘ゲームをはじめとする様々なイベントが開かれてきたが、これほどの盛り上がりは前例がないだろう。
日本において「eスポーツ」の競技シーンを楽しんでいる人はまだまだ限られている。特に『VALORANT』のようなFPSジャンルは日本メーカーによる作品が少ないからか、どこか「海外」がムーブメントの中心となっているような雰囲気も否めない。
しかし、この会場に集まった1万3000人は紛れもなく『VALORANT』や選手達のファンであり、応援のため詰め寄せている。これを熱狂と言わずしてなんと言おうか。そして、ここまで多くの人を沸き立たせる『VALORANT』とはいったい……。
今回はこの記録的な出来事を振り返りつつ、『VALORANT』がなぜここまで人気となったのかを考えてみたい。
文/かえん
戦略性の高さから世界的人気となった『VALORANT』
『VALORANT』は、2020年6月に「Riot Games」がリリースした5 vs 5 のタクティカルFPSで、高い精度が要求される銃撃戦とキャラクター固有の特殊能力を組み合わせた、競技性の高いゲームである。「スパイク」と呼ばれる爆弾を起爆する攻撃側と、爆弾から拠点を守る防衛側に分かれて戦い、13ラウンドを先取したチームの勝利となる。
「Riot Games」と言えば、大人気のチームストラテジーゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、LoL)の生みの親として有名だが、最近では『VALORANT』の人気も『LoL』に迫る勢いだ。
『VALORANT』の戦略性を高めている要素をいくつか挙げるならば、キャラクター選択、マップギミック、マネーシステム、あたりだろうか。
まずキャラクター選択について。『VALORANT』では記事執筆時点で19人のキャラクターが使用でき、それぞれが固有のスキルを持っている。このスキルの特性により、交戦を得意とする攻め重視のキャラ、防衛に力を発揮するキャラ、索敵キャラなど、役割が分かれる。チームを構成するキャラクターの選択や、試合の中でのスキルの使い方が奥深く、構成や戦略がチームによって変わってくる。
次にマップギミック。こちらも記事執筆時点では8つのマップが用意されており、それぞれ特徴が異なる。広いマップ、狭いマップ、高低差のあるマップ、入り組んだマップ、スイッチで通路を塞ぐことができるマップ、ある決まった地点をテレポートできるマップ等々、様々な地形やギミックが用意されている。マップによって活躍しやすいキャラクターも違うため、先述したキャラクター選択にも関わってくるだろう。
最後にマネーシステム。『VALORANT』では、ラウンドごとに武器やスキルを購入するマネーシステムが導入されている。相手をキルしたり、ラウンドに勝利することで得られるマネーが増えたりするため、よりグレードの高い武器を買うのか、スキルを買うのか、はたまた味方に武器を買ってあげるのか、チーム全体でのマネー管理が大事になってくる。
競技シーンでは、プロの選手達がこれらの要素を考えながら、刻一刻と変化する複雑な状況に合わせた臨機応変なチームプレイを見せてくれる。その戦略の深さ、プレイスキルには驚かされるばかりだ。
筆者もFPSゲームをプレイするが、『VALORANT』は特に、チームプレイが重視されるところが面白い。例えば、「チームの味方にフラッシュ(目くらまし)のスキルを使ってもらい、その間に相手を撃つ」というような連携プレイが非常に大事だ。コミュニケーションを取りながらプレイするのは難しいが、その分上手く戦略がハマったときの満足感も大きい。
こういった戦略性の高さが、『VALORANT』が人気となった理由のひとつではないかと思う。
日本での人気爆発のきっかけ「日本チーム“ZETA”の躍進」
そんな『VALORANT』が日本で広く知られるようになった要因のひとつが、プロゲーミングチーム“ZETA”の躍進だ。
FPSにおいて、日本はこれまで弱小国と評価されてきた。様々なFPSゲームの世界大会で、残念ながら目立った実績を残せてこなかったためだ。しかし、そんな状況がひっくり返る出来事が起こった。日本チーム“ZETA”の快進撃である。
“ZETA”はなんと、4月10日から24日にかけて開催された世界大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1 – Masters Reykjavík」において、世界第3位という偉業を成し遂げた。全くノーマークだった日本が強豪チームを次々となぎ倒し、世界に“ZETA”の名が轟いたのだ。さらに、この大会での“ZETA”の活躍にはドラマもあった。
※“ZETA” vs “DRX”の初戦は動画60分ごろから
初戦、韓国チーム“DRX”相手に2-13、3-13という大きなスコア差で惨敗し、「やっぱり日本は弱いのか」と思われた矢先、ロワーブラケット(敗者復活戦)をどんどん勝ち進んでいったのである。
途中、初戦で敗れた“DRX”と再戦となったが、大差で負けたマップである「アイスボックス」にて拮抗した戦いを繰り広げ、スコア13-11で勝利。その後、2マップ目は10-13で敗北するも、3マップ目は13-4という圧倒的な勝利を収め、リベンジマッチをものにした。
この負け組から勝ち組へのサクセスストーリーのような展開に、“ZETA”はしばしば「主人公」とも呼ばれ、世界中から注目を集めた。日本でもTwitterのトレンドが埋め尽くされるほどの盛り上がりとなり、筆者も毎試合熱くなりながら応援した。
これを機に、日本における『VALORANT』シーンがより活気づいたのではないだろうか。
※“ZETA” vs “DRX”の再戦は動画40分ごろから
「“ZETA”と“Nth”の熱戦」から見える日本の競技レベルの高さ
そして6月、記事冒頭でも触れた日本代表決定戦にて、プロチーム“ZETA”と“NORTHEPTION”(以下Nth)が激突したのである。本イベントは上述の通り1万3000人の観客を連日動員(2日間で約2万6000人)し、TwitchとYouTube配信における同時視聴者数は計22万人にものぼる大盛況を収めた。
これまでのeスポーツオフラインイベントは、ゲームのプロモーションを目的に開催され、入場無料のものが多かった。例えば、5月14日、15日にはデジタルカードゲーム『シャドウバース』の大会「RAGE Shadowverse 2022 Summer」が幕張メッセで開催されたが、入場無料、来場者数は(2日間で)約1万7000人だった。
しかし、『VALORANT』は有料チケットであるにもかかわらず、『シャドウバース』を上回る観客を集めている。S席であれば6,000円と安いとは言えない値段だが、即日完売である!
Twitterでは“ZETA”や、“Nth”の勝利を祈るハッシュダグ「#ZETAWIN」、「#NthWIN」がトレンド入り。一時はトレンド第1位にランクインするなど、大いに注目された。
この国内トーナメントでは、“ZETA”、“Nth”も含めた選ばれし日本の8チームが世界大会への切符をかけて奮闘した。結果はチーム“Nth”が優勝、日本最強の称号を手にした。優勝候補と思われていた“ZETA”は惜しくもグランドファイナル(決勝)で敗れ、悔しい思いをしたことだろう。
筆者はオンラインで観戦していたが、終始レベルの高い戦いが繰り広げられ、伝わってくる会場の熱気も相まって本当に楽しませていただいた。(と同時にチケットが取れなかったことを悔いたが…。)
そして世界3位の実力を持つ“ZETA”を打ち破った“Nth”の活躍に心が震えた。いまや日本の少なくとも2チームは、世界に通用するレベルに到達しているのだ。
両チームは大会1日目、アッパーファイナル(BO3)で一度対戦し、“ZETA”がスコア13-7、13-9と2連取して制したが、その後ロワーファイナル(BO3)を勝ち進んだ“Nth”は大会2日目にグランドファイナル(BO5)で再度“ZETA”と当たることになる。1マップ目の「アイスボックス」、“ZETA”がスコア7-5と優勢で迎えた後半ファーストラウンド、“ZETA”の要であるLaz選手が1人で大胆に攻め入り、そのまま4キルを奪ってラウンドを勝ち取る。
※“ZETA” vs “Nth”の初戦は動画70分ごろから
『VALORANT』はチームプレイではあるものの、“ZETA”は5名全員が1人で4、5人キルできるほどのポテンシャルを持っている点が強みのひとつだと感じる。チームの作戦が上手く決まらなくても、個人のエイム、瞬間的な判断で強引にキルを重ねていけるのだ。
このとき、誰もが「“ZETA”が勝つ流れ」と思っていたのではないだろうか。しかし、“Nth”のMeteor選手が強気な勝負を仕掛け続け、Derialy選手もサポートキャラクターを使用しているにもかかわらず積極的に撃ち合いに行くなど、チーム一丸となっての攻めが刺さって盛り返し、“Nth”が第一マップを勝ち取る。
2マップ目の「ヘイヴン」は“ZETA”が難なく勝利するも、両者1本ずつ取った状況での3マップ目、「フラクチャー」で風向きが完全に変わる。“Nth”採用の俊敏なキャラクター「ネオン」を活用した、チームでのラッシュ(全員で一つの場所を攻めること)が有効に働き、スコア8-2と大差を付ける。
そして迎えた11ラウンド。“Nth”のDerialy選手とMeteor選手による「ネオン」、「チェンバー」の強力なスキルを合わせた奇襲に“ZETA”は対応できず、開始20秒という早さでパーフェクトラウンド(チーム全員が生存している状態で敵チームを殲滅したラウンド)に。
“Nth”は何と言ってもこの展開の早い攻めが特徴的で、相手チームに対応する隙を与えず攻め入るのが非常に上手い。その上で攻めが丁寧で、常に味方のカバーができる位置取りをしている。流れに乗った“Nth”はそのまま3マップ目、4マップ目を連取。優勝を手にした。
“ZETA”が以前世界大会で見せてくれたような、一度敗れた相手へのリベンジを“Nth”も果たしたのだ。激闘を見せた選手達の姿に、観客はみな胸が熱くなったことだろう。勝敗が決した瞬間、盛り上がりも最高潮となり、スティックバルーンを打ち鳴らして両チームを称えた。
※“ZETA” vs “Nth”再戦は動画75分ごろから
女性ファンや非プレイヤーをも取り込む『VALORANT』
日本チームの活躍により大きな盛り上がりを見せた『VALORANT』だが、女性人気や非プレイヤーも取り込んでいる点にも注目したい。
例えば会場ではグッズを持って応援するファンも見られ、チームだけでなく選手個人のファンもたくさん駆けつけていたようだ。FPSゲームのファンは男性が多い印象であったが、近年では女性ファンも増えてきている。普段からゲームプレイの様子を配信する選手も多くいるため、プレイスキルはもちろんの事、人柄やトーク、ルックスに惹かれてファンになる人もいるだろう。
特に“ZETA”のLaz選手やDep選手は、イケメン且つお茶目でかわいい一面もあり、女性からの人気が高い。選手だけでなく、実況解説を務めるキャスターにファンが付いているのも面白い。
また2021年に結成された世界初の女性限定『VALORANT』チームである「Cloud9 White」を皮切りに、FENNEL、Focus e-Sports、Reignite、などいくつものゲーミングチームが本作における女性部門を設立。この流れは上述の“ZETA”も例外ではなく、2022年6月に「VALORANT GC」部門を設立するなど、女性プレイヤーによる競技シーン加入の勢いも強まってきている。
そして、観客の中には『VALORANT』をプレイしたことがない人も一定数いたという。スキルを活用した連続キルなどのスーパープレイや、息ピッタリのチーム連携は、見ているだけで楽しいのだ。サッカーや野球などのスポーツ観戦と似たようなものかもしれない。
さらに、今回のような大規模な大会であればキャスターが丁寧に解説してくれるので、知識がなくても形勢や状況を理解することができる。こうして『VALORANT』は戦略性の高いゲームでありながら、非プレイヤーをも魅了しているのだ。
『VALORANT』シーンの更なる盛り上がりに期待
日本における『VALORANT』シーンは、ゲームそのものの面白さに加えて、日本チームが世界と渡り合えるレベルの実力を持っており、かつ選手個人の人気も高いことからこれほどの盛り上がりを見せているのだろう。
また、最近では「SHAKA(釈迦)」氏や「関優太(StylishNoob)」氏のような人気ストリーマーが『VALORANT』をプレイしていることも、注目を集める要因かもしれない。2021年の「ゲームストリーマーアワード2021」においては『エーペックスレジェンズ』、『マインクラフト』と並んでゲームタイトル賞に選出されるなど、ゲーム実況界でも大きな影響力を持ちつつある。
そのうえで『VALORANT』は基本プレイ無料タイトルのため、配信を見て気になった人が、お手軽に遊び始めることができる点も強みのひとつと言えるはずだ。
冒頭でも述べた通り、10月8日(土)と9日(日)には「RAGE VALORANT 2022 Autumn」が開催される予定だ。“ZETA”や“Nth”をはじめとする日本のトッププレイヤーにくわえ、韓国から特別ゲストとして“DRX”が参戦。超ハイレベルな戦いを目の当たりにできる絶好の機会となっている。また人気ストリーマーも集結し、様々な形式でエキシビションを実施するそうだ。楽しく盛り上がれる戦いを繰り広げてくれるに違いない。
もちろん「RAGE」のほかにも、数々のイベントが待ち受けている。オンライン配信で応援したり、機会があればオフラインイベントに参加してみるのも素晴らしい体験となるだろう。日本のこれからのeスポーツを牽引するのは『VALORANT』かもしれない。そう思わせてくれるほどに、今の『VALORANT』は盛り上がっている。
筆者も最近はひとりのプレイヤーとして、めっきり『VALORANT』にハマってしまっている。思った通りにラウンドが取れたときの快感が忘れられないのだ…。筆者とマッチングした際には、“ZETA”や“Nth”のような華麗な連携プレイを一緒に狙おうではないか。それでは、ランクマッチでまた会おう!