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ディズニー最新作『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』は決して子供だけに向けられた映画ではない。価値観の異なる3世代の親子関係が同時に描かれる、むしろ大人に向けた名作だった

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 1923年、ディズニー・ブラザーズ・カートゥーン・スタジオという名称で設立されたディズニー・アニメーション・スタジオは、ミッキーマウス、ドナルドダック、グーフィー、しあわせウサギのオズワルドなど、現在でも幅広い世代に親しまれるキャラクターたちを数多く生み出し、彼らを主役とする短編映画を多数製作してきました。

 そんなディズニー・アニメーション・スタジオは、長編アニメーション映画の分野においては、現在から85年前の1937年に世界初の長編アニメーションである『白雪姫』を制作・公開したことを皮切りに、時代の流れとともに手書きアニメーションからCGアニメーションに移り変わりながら、『シンデレラ』『アラジン』『アナと雪の女王』など数多くのヒット作を世に送り出しています。

 そして、スタジオ設立100周年を目前に控えた2022年11月23日に、61作目の長編映画として公開されたのが、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』。本作から100周年のロゴも見ることができます。
 これまで長編短編問わず、様々な世界を描き続けてきたディズニーが描く、新たな世界。今回はこちらの作品について、簡単なあらすじ以外のネタバレはせずにご紹介していきたいと思います。
 
 さて、レビューに入る前に、一つお断りしておきたいことがあります。
 実は私、それなりのディズニーアニメーション好きでして、好きが高じてディズニーゲームをコレクションしていたり、十数年前にはニコニコ動画に『M.C.マウスは夢の国のネズミなのか?最終鬼畜鼠男ミッキー・M』というディズニー系の音MADを投稿したりしています。

 これらに加えて、ディズニー・アニメーション作品についてゆっくりたちに喋らせ続けるだけの動画を細々と現役で投稿したりもしているため、一般的な方が持つディズニーの知識とマニアックな知識の境目が完全にバカになってしまっているのが現状です。ですので、話がマニアックになってしまっていることも大いに予想されます。お見苦しい点も多々あるかとは思いますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』

文/DuckHead


アクション・アドベンチャー映画とファミリー映画の融合

 それでは手始めに、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』のあらすじを簡単にご紹介しておきましょう。

 ……生まれながらの探検家であり、冒険をすることに強い生きがいを感じる誇り高き男、イェーガー・クレイド。天高くそびえる雪山に囲まれた国 “アヴァロニア” に住む彼は、アヴァロニアの歴史上誰一人として成し遂げたことのない大偉業である雪山越えを目指し、ティーンエイジャーである息子のサーチャーを連れて、探検家の仲間たちと共に雪山に挑みます。

 しかし、前人未到の雪山を行く道中は危険の連続。隊員たちはもちろん、サーチャーにも命の危険が幾度となく降りかかります。
 そんな旅路の中で強いエネルギーを内包した植物を発見したサーチャーは、あまりにも危険すぎる雪山越えを中断し、この植物を持ち帰って冒険の成果とすることをイェーガーに提案しました。この冒険を続けることに限界を感じていた探検隊の面々もサーチャーの提案に同意しますが、イェーガーだけは断固反対。探検隊、そしてサーチャーと仲違いをした彼は、1人猛吹雪の雪山に姿を消しました。

 ……それから25年の月日が流れ、サーチャーが雪山から持ち帰った植物 “パンド “は、高いエネルギーを持つ資源としてアヴァロニアの近代化を大きく進め、人々の生活に欠かせないものとなりました。
 そして、元々冒険が嫌いだったサーチャーはこれを機に探検家を引退。自身が発見したパンドを栽培する農家に転身し、妻のメリディアンと息子のイーサン、 愛犬のレジェンドと共に暮らしていました。

 そんな幸せで穏やかな日々を過ごす彼のもとに、ある日、サーチャーの元探検隊仲間であり、現在はアヴァロニアの大統領を務めるカリスト・マルが訪れ、アヴァロニア各地のパンドが腐り始めていること、このまま放置していては1か月でアヴァロニアで栽培されている全てのパンドが使い物にならなくなってしまうことを告げ、彼に対して、調査隊の一員として事態の究明にあたって欲しいと頼み込みます。冒険の旅に出ることに気が乗らないサーチャーでしたが、最終的にはカリスト・マルに説得され、メリディアンとイーサンを家に残して調査へと赴きます。

 カリスト・マルによると、実は地表で栽培されているパンドは、全てが1つの根っこで繋がっている植物であり、その根が外敵によって攻撃されているために、パンド全体に被害が及んでいる能性が高いとのこと。

 パンドの根を辿って巨大な穴の中へ飛行船で降下していく調査隊。そこへ突如として農薬散布機に乗ったメリディアンが上空から現れ、「飛行船にこっそり乗ってるイーサンを連れ戻しに来た」とサーチャーに告げると、彼女の発言通り、船内からイーサンとレジェンドが見つかります。そんな騒ぎが起こり飛行船内が軽いパニック状態になる中、調査隊はいきなり謎の生物に襲われ、飛行船と共に墜落。

 そして、墜落した巨大な穴の中には、地上の世界とは大きく異なる不思議な世界、もうひとつの世界が広がっていました。墜落の衝撃で調査隊とはぐれてしまったサーチャーは、まずは彼らのもとへ戻るため、この世界を探索することに。
 すると、その道中で彼は25年前に雪山に消えたはずの父イェーガーと25年ぶりの衝撃の再会を果たし、ここから更に、物語は大きく動き始めます。

 ……果たして彼らは、パンドを救い、アヴァロニアの平穏な日々を守ることが出来るのでしょうか?

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 以上が、本作のおおまかなあらすじとなります。このあらすじからお分かり頂けたかとは思いますが、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』は、「ディズニー・アニメーション映画」と言われた時に多くの方が思い浮かべるであろうミュージカル映画ではなく、アクション・アドベンチャー映画となっています

 この、アクション・アドベンチャーに振り切っているという点が『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』の大きな特徴の一つで、ディズニー・アニメーション・スタジオとしての前作であり、アメリカやイギリスでディズニーソングの記録を塗り替えるほどの大ヒットを記録した『We Don’t Talk About Bruno』などの数多くの名曲を生み出した『ミラベルと魔法だらけの家』が非常にミュージカル色の強い長編アニメーションであったのとは対照的に、本作には挿入歌がほぼ登場しません。

 ……まぁ、本作唯一と言ってもいい挿入歌も、一度聴いたら中々脳裏から引き剝がすことのできない大名曲ではあるのですが、それはまた別のお話ということで。
 あ、それと、サーチャーの日常生活を描いたシーンで流れたエレクトロ・ジャズのインストゥルメンタル曲も最高でした。サーチャーたちの日々の生活の中で流れるBGMとしてエレクトロ・ジャズを使用することで、パンドによってアヴァロニアの近代化が進んだことがより分かりやすく表現されていたように感じますね。

 さて、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』のような、アクションやアドベンチャーに振り切ったディズニー長編アニメーションの中で比較的最近の作品としては、『ベイマックス』『ラーヤと龍の王国』などが挙げられますが、実は本作の監督は、これら2作品でも監督を務めたドン・ホール。
 つまり、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』は、ディズニー・アニメーション・スタジオ屈指のアクションアドベンチャー映画の名手が手掛けた冒険活劇なのです。そして、ドン・ホール監督はその手腕を本作でも遺憾なく発揮しており、本作のストーリー展開は、思わずワクワクしてしまうような、とても心踊るものとなっています

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 しかしながら、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』はただの冒険譚ではありません。激アツなアメコミヒーロー映画である『ベイマックス』において、“兄弟愛” がストーリーの核として描かれていたように、本作では “親子愛” が中心的なテーマとして掲げられており、ディズニー・アニメーションらしいファミリー映画の要素がふんだんに盛り込まれています。

 これまでにもディズニーは、『グーフィー・ムービー ホリデーは最高!!』『リトル・マーメイド』『アナと雪の女王』『リロ&スティッチ』などの作品で、親子愛や家族愛を描いてきました。それらの作品の中でも特に『トレジャー・プラネット』は、心躍る冒険と親子愛を題材とした長編アニメーション映画として、ファンの間では隠れた名作として有名です。

 このように書いてしまうと、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』と『トレジャー・プラネット』のストーリー内容が丸被りしているかのように見えてしまいますが、本作には、『トレジャー・プラネット』とは大きく異なる点があります。

 それは、主人公のサーチャーが、イェーガーの息子であり、イーサンの父親であるということ。つまり、イェーガーの息子としてのサーチャーの親子関係と、イーサンの父親としてのサーチャーの親子関係、これら2つの親子関係が同時に描かれているのです。このような形で親子愛を取り扱った作品は、ディズニー長編アニメーションではおそらく初ではないかと思います。

 アクション・アドベンチャー映画とファミリー映画の両方の要素を楽しむことができる『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』はただのハートフル映画ではありません。可能であれば、そのストーリーについてまだまだつらつらと書き連ねていきたい所ではあるのですが、本作は絶対にネタバレを見ずに鑑賞していただきたい作品。些細なことがネタバレにつながってしまうかもしれないという薄氷の上にいるかのような状態の中で、細心の注意を払って原稿を書き進めているのが実情ですので、今回はこれ以上のストーリーに関する言及は避けたいと思います。

 そういった意味で本作は、豪快な冒険活劇でありながら、繊細な側面も持ち合わせている作品とも言えるでしょう。

デザイン以上に強烈な個性を持つキャラクターたち

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 そして、ストーリーの次に触れておきたいのが、本作に登場するキャラクターたち。予告編を見た段階で私が感じたのは、「物凄くかっこいいキャラや、物凄くかわいいキャラはいないな」というのが正直なところでした。

 しかし、実際に本編を見ていく中でその印象は一変。純朴な農夫である主人公のサーチャーこそ少しキャラクターが弱めではあるものの、どのキャラクターも個性的で、映画が進んでいく中でそれぞれに対して次第に愛着が湧いてきます。ディズニーの多くのキャラクターが、まずはそのデザインから人々の心を捉えてきたのとは違い、本作では、各々の人間性によってキャラクターとしての魅力を引き出しているように感じられました。

 その中でも特に、サーチャーの父親であるイェーガーは、ディズニーキャラクターらしく、なかなかのアクの強さを持つ人物。このたとえが的を射ているかどうかは怪しいところですが、彼は、強い相手と対峙するとワクワクが抑えられなくなってしまう『ドラゴンボール』の孫悟空のような思考回路の持ち主で、未知の冒険やロマンを目の前にすると周囲のことが全く見えなくなってしまうという、根っからの冒険家。ある程度一般的な感覚を持った、比較的常識的な人物として描かれているサーチャーとは性格が対照的で、そのことによって、親子の確執がよりハッキリと鮮明になっていたように思います。

 また、サーチャーが普通の人として描かれていることで、本作の核の1つとして取り上げられている親子愛というテーマが、より普遍的で分かりやすく観客の中に入ってくるという印象も受けました。

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スプラット

 そして、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』において是非とも紹介しておきたいキャラクターが、こちらの “スプラット”。
 中々エキセントリックな見た目をしているスプラットは、地下世界の生物である、”リーパー” の一種。彼なのか彼女なのか、そもそも性別という概念すらない可能性も高いので、便宜上彼と呼ばせていただきますが、彼は本作におけるマスコット的な存在で、とんでもなく可愛いキャラクターなんです。

 しかし、本作を鑑賞していない方に上の画像を見て頂いたとしても、「このキャラのどこがかわいいんだよ」という感想が大多数を占めるのではないかと思います。実際、私も映画鑑賞前に彼のグッズを映画館のロビーで目にした時には、「何コレ。このキャラをかわいいって言って、わざわざグッズ買う人なんているんかな?……ってか、そもそもキャラクターなのかすらちょっと怪しいんだけど」、そんな風に思っていました。しかし、映画を見終わった今、こうして改めてスプラットの画像を見てみると、そりゃあもう可愛くて仕方がないのです。

 スプラットのデザインを担当したスタッフによりますと、彼は本作の中で一番最初にデザインされたキャラクターで、『ベイマックス』のマスコットであるベイマックスのように思わず抱きしめたくなるようなデザインを目指したとのこと。
 ベイマックスの場合は、シンプルかつ可愛らしいデザインを目指した結果、口を無くした目だけのキャラクターになったという経緯があるのですが、そんなベイマックスのデザイン手法から更に進化したスプラットからは目も排除されており、ついに腕と体だけのキャラクターデザインになっています。

 こういったスプラットのようなキャラクターには、『アラジン』の魔法の絨毯や『ファンタジア』『魔法使いの弟子』のホウキ、ピクサー・スタジオのロゴマークのアニメーションでおなじみの蛍光灯のキャラクター、ルクソーJrなどがいます。彼らのような無生物キャラクターの前例があるため、ディズニーは表情のないキャラクターの感情表現や性格描写に長けており、そのノウハウはスプラットにも大いに活かされ、彼もまた、無表情ながらも表情の見えるキャラクターに仕上がっているのです。

 そして、スプラットは魔法の絨毯やルクソーJrとは違い、声のような音は発することのできるキャラクター。こういったようなちょっとした要素も、彼の可愛さを引き立たせる重要なポイントになっていますね。

 はてさて、ここまでグダグダとムダ知識のようなものを垂れ流してきましたが、私程度の文章力の人間がいくら言葉を紡いで彼の可愛さを表現しようとしたところで、音を出しながらイキイキと画面内を動き回る彼の姿を実際に見て頂かなければ、その魅力は1%も伝わりません。まさに、百聞は一見に如かず。
 裏を返せば、スプラットの動く姿を一度見ればたちまち彼の虜になってしまうということで、これもまたディズニー流の魔法、ディズニーマジックの1種であると言えるでしょう。

不思議さと神秘さが同居する、もうひとつの世界

 さて、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』というタイトルにもある通り、本作において一際目を引くのは、その世界観です。

 先ほどもお話ししましたが、本作の監督の1人は『ベイマックス』や『ラーヤと龍の王国』などの作品で知られるドン・ホール(ちなみに、共同監督であるクイ・グエンは、『ラーヤと龍の王国』で脚本を担当された方です)。

 彼はアクション映画の名手であるだけでなく、作品ごとに独自の世界観を作り上げることが多い監督で、『ベイマックス』では、サンフランシスコと東京を融合させた架空都市 “サンフランソウキョウ” を、『ラーヤと龍の王国』では、聖なる龍に守られている架空の国 “クマンドラ” をそれぞれ構築し、作品の舞台としています。特にサンフランソウキョウは、映画の制作期間の多くの時間がこの都市の構築に費やされており、そのリアリティを追及した作り込みの凄まじさは、最早狂気的と言ってもいいようなレベルにまで達していました。

 そんなドン・ホール監督が、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』で作り上げたのは、アヴァロニアという架空の国と、その地下に広がる奇妙な世界。作品の主な舞台は地下世界であるため、アヴァロニアの街並みが描写されるシーンはそこまで多くはないのですが、高いエネルギーを持つ植物 “パンド” がもたらされる前の都市と、パンドの登場によって近代化が一気に進んだ都市の違いがしっかりと表現されていて、どちらの光景も観客が違和感なく受け止められるものとなっています。

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アヴァロニアの地下に広がる、もうひとつの世界

 そして、本作のメインである地下世界はまさに圧巻。日常生活ではまず見かけないような生物たちが跳梁跋扈するこの場所は、“地下世界” という言葉を聞いたときに真っ先に想像するような薄暗くおどろおどろしい様相ではありません。不思議な光景ではありながらも、その色合いは明るく、どこか神秘的ですらあります。

 そんな地下世界は、監督の過去作の舞台のようにリアリティが追及されているように感じられ、明らかに実在はしない架空の世界であるにも関わらず、あたかもそこに存在しているかのような説得力がありました。

 この不思議な地下世界に説得力が生まれているのは、CGで表現されている生物や物質の “質感” のリアリティによるところが大きいと思います。つまり、金属は金属らしく、犬の毛並みは犬の毛並みらしくといったように、本作で使用されているCGは、実写映像に限りなく近づけるような形で作られているのです。こういった映像美についてはゲーム好きの心をくすぐるものがありました。

 これらの質感のリアリティの凄さは、地下世界だけでなく、アヴァロニアの描写でも体感することができるのですが、アヴァロニアにある物と地下世界にある物では明らかに質感が異なるというところに、本作のCG表現の凄さを垣間見ることができるような気がします。この描写の違いによって、比較的我々のいる現実世界に近いアヴァロニアから見た地下世界の異世界感がより一層強調されていて、この冒険活劇に対する没入感がより深まり、そのストーリー展開から目が離せなくなってしまうのです。

 それでいて、地下世界の生物であるスプラットがアヴァロニアの人々と行動を共にしている光景や、地下生物が調査隊に襲い掛かるシーンには違和感が全く無く、どんな場所や状況であっても、彼らが確かに同じ世界に存在しているように見えるというのも、本作の面白いポイント。大きく異なる2つの世界のものを1つの画面上で融合させることへの強いこだわりと工夫が感じられます。
 
 さて、リアリティがあるCG映像の中でも私が特に技術の凄さを感じたのが、地下世界に登場するモンスターの触手のアニメーション。その動きは、ウネウネとした物が苦手な人が見たら、思わず画面から目をそむけたくなってしまうのではないかというくらいリアルな仕上がりとなっています。

 そして、非常に個人的な話ではありますが、集合体恐怖症の気がある私にとって、そういった意味で目をつむりたくなるようなシーンも本作にはチラホラと存在します。こういった描写についても「誰がここまでリアルにしろって言った?」と思わず声に出してしまいそうになる位の出来栄えで、触手のリアルさの件も含めて、「なぜベストを尽くしたのか」と、上映中にしばし物思いにふけってしまいました。

 そんなあまりにもリアル過ぎて、気持ち悪いというレベルにまで達している触手アニメシーンを担当されたのが、本作のエンドクレジットで ”YOHEI KOIKE ヨーヘイ “と一際目を引く表記がされている、アニメーターのコイケ・ヨーヘイ氏。こちらのコイケ・ヨーヘイ氏に関しましては、電ファミにおいて既にインタビュー記事が掲載されております。非常に興味深い内容となっておりますので、是非ともそちらも合わせてご覧いただければと思います。

終わりに

 さて、ディズニー・アニメーション好きであるということを話しますと、時折「ディズニー・アニメーションって、話の終わり方全部同じじゃない?そんなに色々な作品見て飽きないの?」と言われることがあります。正直なところ、ディズニー・アニメーション映画のストーリーの大枠にあまり変化がないという点について、異論はありません。中には『きつねと猟犬』『くじらのウィリー』のような例外的な作品があることにはあるのですが、そのような作品は極々少数ですし、多くの方が「そんなん知るか」となるようなマイナー作品ばかりですから、これらを反論材料として出したところで、「うっせぇ」という言葉と共に、いとも簡単に一蹴されてしまうことでしょう。ここを突かれてしまうと、ぐうの音も出なくなってしまうというのが実情です。

 そういった中で、私がどのように様々なディズニー・アニメーションを楽しんでいるのかといいますと、それは “終着点に到着するまでの景色の違い” 。最終的に辿り着くゴールこそ大きくは変わりませんが、その道中で見る景色や選択するルート、出会う人々の違いを楽しむというわけです。これは完全に私個人の楽しみ方ですので、ディズニー・アニメーションファンが全員このように楽しんでいるわけではないということは付け加えさせて頂きますが、今回鑑賞した『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』は、ほぼ全てのディズニー長編アニメーションを見てきた私にとっても、これまでに見たことが無かったような景色が非常に多い作品で、もうひとつの世界を新たに贈り届けてくれました。

 2000年代のディズニーの長編アニメーションを想起させる本作は、40代の男性を主人公にした親子愛を描いた冒険活劇であるという点に代表されるように、いい意味でディズニーらしさが薄い作風である上に、子供達には理解が難しいであろう内容が随所に含まれているため、どちらかというと、大人向けの作品になっています。「ディズニー・アニメーションは子供っぽくてちょっと……」と思っている方にこそ見て頂きたい魅力が、本作にはあるのです。

 さて、現在はディズニーの子会社であるピクサー・スタジオが、1984年に、スタジオの前身であるルーカス・フィルムのCGチーム内で、世界初の3Dキャラクターアニメーション映画『アンドレとウォーリー.Bの冒険』を生み出してからおよそ40年。ピクサーとディズニーは、『モンスターズ・インク』では主人公サリーの毛並み、『ファインディング・ニモ』『モアナと伝説の海』では水の表現といったように、様々な作品でCG表現の限界に挑戦してきました。

 そういった技術をコツコツと積み重ねていった上で制作された『ストレンジ・ワールド /もうひとつの世界』は、CGの技術が発展した現在だからこそ表現することができた奇妙な世界での冒険を、素晴らしい完成度で描き出しています。

 映画館で体験する奇妙な世界の冒険譚は迫力十分で、さながらディズニーリゾートのアトラクションかのよう。私は家でゆったりディズニー・アニメーションを見る派なのですが、本作ばかりは劇場で見て大正解でした。是非映画館に足を運び、大きなスクリーンと大音量の中で『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』の世界に包まれてみてはいかがでしょうか。

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 ちなみに本作には、ディズニー・アニメーションの押しも押されぬ名作『アラジン』のセルフパロディがあったり、ドン・ホール監督が手掛けた2011年版の『くまのプーさん』に登場するとあるキャラクターが思いがけぬ形で登場したりするなど、ディズニー・アニメーションのファンが思わず反応してしまうような小ネタもチラホラとあります。まぁ、こういった要素については、その筋の変態、好事家たちがニヤニヤしながら愉しむものですので、これらの知識がなかったとしても、本作の面白さには何の影響もありません。ぶっちゃけてしまえば、“気がついたとて” という内容の話ですので、余談として追記させていただきます。

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ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW

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